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アトガキ 編年紀十八章・十九章
 アトガキ



 編年紀十八章、十九章更新致しました。



 ふぅ。


 さて、まずは予定通りに更新出来たことを神様に感謝しましょう。まぁ、upするだけならたいした手間ではないのは事実なのですが……。

 十七章色恋模様の方はどこが色恋模様やねん! とツッコミが入る感じの仕上がりに。まぁ書きたかったのは遠州が委員長に懲らしめられる話だったのですが、作者が書くとシャレにならない展開になりがちなので困りものです。ホントは紅玉と香蘭の賭けの描写とかも書けば良かったと思いますが。中途半端な感じでしたかね。

 そして十八章。
 ようやく朔夜と清瑞が到着して、話が動き始めました。三歳児が考えた作戦を即実行って頭悪いんじゃないのか? という感じがしなくもありませんが、まぁ天才幼児の言うことを聞いてみるのも一興か、という事で……。暗殺にしろ妨害工作にしろ、清瑞抜きで上手くいかせられる者ではないのですけれどね。
 そして最後の怪しい展開。

 ふっふっふっふ……。

 結構アレが重要なわけで、出番のない深川ちゃん様の登場に相成りました。何やったんだ? っていう疑問は次回明かされるはずですが……。




 次回予告!


「お還り、全ての素へ」







 さて、では随分日も明きましたが、web拍手のお返事コーナーへ!
 まずは3/25分からです。

9:30 興味深く拝読しております。続きを楽しみにしております。  /とどく
 と頂きました。
 おお、とどくさんお久しぶりでございます。感想ありがとうございます。興味深く読んでいるのは編年紀か盛衰記か存じませぬが、都合良く両方と言うことに解釈しておいてと(マテ これからもよりよいものが書けるように精進して参りたいと思います。
 コメントありがとうございました!

 では、続いて……というか連続で。

23:18 おばんどす
23:22 面は、打ち間違いです。半角で打っていました。
23:22 ごめんなさい。
23:23 また来ます。
23:23 これからも、楽しませてくださいね。
23:24 あぶないストーカーより
 と頂きました。
 ストーカーさんまたまた来ましたね。前回のアレは打ち間違いですか。特に謝るほどの事でもないと思います。そこの部分を削除した方が良いのであれば抹消させて頂きます。
 まだまだ未熟者ではありますが、出来る限り楽しんで頂けるように無い頭を捻りたいと思います。これからもどうぞよしなに。
 コメントありがとうございました。

 ええっと、次は結構飛びまして、昨日ですね。

17:16 幻聴記が楽しくて一気に読んでしまいました。続きが早く読みたいと思う作品でした。
 と頂きました。
 続きが読みたい……ぐほあっ(吐血 そう言えば書いてないですね、最近。だって最後の一文が邪魔でねぇ。いえ、書くことはもう決まってて、書き始めればいいようなもんなんですが、編年紀のシナリオいじくりまわしていると、幻聴記を書く余裕が……。今週末くらい久しぶりに少し書いてみようかな……。ともかく楽しんで頂けて何よりです。
 コメントありがとうございました。

 他にも叩いてくれた沢山の方々に、心より御礼申し上げ奉り候(変な日本語


 では本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ

 




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【2006/03/31 18:30】 | アトガキ | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
出雲盛衰記26
 出雲盛衰記
 二十六章



 ああ、悩ましい。
 本当に悩ましい。

 究極の選択を迫られ、九峪は今人生の岐路に立たされていた。

「こっちのみ~ずはあ~まいぞ♪」
「こっちのみ~ずはおいしいぞ♪」

 手招きしてニッコリと笑う少女二人。

 一人は着物の裾をこれでもかと言わんばかりに上げて太ももが露出している活発そうな女の子。
 もう一人はトップレスで長い髪が二房垂れて肝心な部分を隠している色っぽさが漂う女の子。

 共通しているのは二人とも褐色の肌をしていて、一見して九洲の民ではないと言うことだ。

「くっそ~、悩むなぁ~。寝太郎もどうせなら優待券何枚もくれれば沢山楽しめるのに」
 悔しそうに呟く九峪。

 九峪は寝太郎からとある遊郭の優待券を貰ってその場所に足を運んでいた。

『復興軍の裏の顔が知りたいなら言ってみる事ね。うふふ』

 寝太郎の怪しい笑顔に騙されたわけでもないが、一応足を運んでみれば出迎えてくれたのは美少女二人だった。

 ここは当麻の街の近く。
 復興軍が南と海からの抑えに構築された砦だ。

 砦……と言うのは名目上。現在では南火向は復興軍のものになっているので基本的に外敵がいない。護る意味が存在しない小さな砦だ。
 誰にも使われなくなったその場所を、復興軍が遊郭として運営しているらしいが、それにしてもいかにも不自然だった。

 娼婦というのは歴史上最も古い職業の一つと言われているが、それを管理して運営する遊郭というものの派生は意外と遅い。基本的には旅籠が兼業するというのが始めだったわけだが、宿という商売が成立しない三世紀の九洲――基本的に旅人は野宿――では、個人的に売るものはいても経営という概念がそもそも存在していない。

 そして場所も問題だ。まだ人が多い狗根国の首都である山都や、人の出入りの激しい那の津などでやるなら分かるが、ド田舎の火向で商売になるわけもない……。そう、思っていたのだが……。

「鰺南ちゃ~ん、今日もかわいいね~」
「あら~、おじさんまた来てくれたのぉ。鰺南うれしいですぅ~」
「鮃ちゃん指名入りました~!」
「うう、梶木ちゃんは先に取られてるのか~。じゃあ、今日は吾鯛ちゃんで……」
「また来てね~、待ってるよ~」
「ああ、入りたいけど……どうしよ……。かかあに怒られるし、でも」

 砦の前には結構な数の男の姿がある。
 めちゃくちゃ繁盛しているようだ。
「何故に?」
 九峪は首を捻る。
「ねぇ、おじさん。さっきから突っ立てどうしたの? うふふ、ぱぁ~っとやりましょうよぉ」
 トップレスの女の子がそう言って九峪の腕に絡みついてくる。
「えぇ~、私と遊びましょ。なんでもしてあげるよ~」

 九峪は頭痛がするのか頭を抑える。
「まぁ、いいか」

 ――虎穴にいらずんば虎児を得ずって言うしな。

 とか言いつつ顔がにやけている九峪だった。

 だが問題はまだ片づいていない。優待券は一枚だけ。相手してもらえる女の子は一人だけなのだ。

「あれ? なにか持ってるんですか?」
「あ、ああ、こんなもんもらってな」
 九峪が優待券をひらひらと二人の前にちらつかせると、一瞬で目の色が変わった。

「きゃ~っ! おじさま是非私と一緒に! もう何だってしてあげますよ! なんなら三日三晩でも一月でも!」
「蜆(しじみ)ずるい! 私だって口だろうがお尻だろうが、幾らでもいいですよ! 是非私と」
「引っ込んでてよ鱸(すずき)! このおじさまは私にめろめろなのよ、既に!」
「そんなことないですよねぇ~。露出狂のアホ女より、かわいい鱸ちゃんですよね~」
「お前の方が頭軽いだろ、変な格好しやがって。似合ってねぇんだよ!」
「何が変な格好よ! 裸見せて感じてる変態に言われたくないわ! 大体かわいいって評判なんだから!」
「頭の弱いお前に気ぃ使ってんだよ! 気づけそれくらい!」
「き~~~っ!」
「ふが~~~っ!」

 店の前で何故か泥レスが始まる。
 九峪はどうしたものかとため息を吐いて、二人の諍いを見ていた。

「おじさん……こっち」
 九峪が振り返ると、まだ幼いとも言える少女が手招きしていた。
「ん?」
 少女はしなを作ったポーズを取って、ウインクし見せる。どうやら従業員の一人のようだ。

 九峪はもう少し泥レスを見ていたい気分だったが、まぁそれもいいかと少女の後に付いていくことにした。



 少女は若布と名乗った。
 ここで身体を売っている少女達は、全員寝太郎の部下なのだという。
「ふ~ん。で、これはただの優待券じゃないのか?」
 若布は九峪の服を脱がせて、丁寧に畳む。
 通された砦の中の個室は、甘ったるい香が焚かれていていかにもな雰囲気が醸し出されている。
「その券を持っている方をもてなすと、後でご褒美がもらえるんです。だから蜆と鱸が……」
「な~る。でも、あれだけの熱の入れようだと、かなりの報償なんだろうな」

 若布は頷くと今度は自分の服に手を掛ける。
「私たちは元々は寝太郎様の部下ではなく、竜宮の乙姫に使える巫女なのですが、その券一枚もらえるごとに階位が上がるんです。三枚そろえばこんな仕事しなくても良くなるし」
「へぇ~、なるほど」
「九峪さんは……、寝太郎様とはどんな関係ですか?」
 興味深そうに九峪を見上げる若布。

 あまり出ていない胸を九峪の厚い胸板にこすりつける。
「ん、いつもは……、復興軍に支援してくれる富豪だったり、強い力を持つ豪族だったりするのに」
 九峪さんは違う感じがする、と若布。

「いや、ただ若い子紹介してやっただけだ」
 九峪は悪びれなくそう言う。
 若布は一瞬面食らったような顔をしたが、直ぐに微笑む。
「酷い人……。寝太郎様が気に入るのはまだ何も知らないような年頃の男の子なのに」
「若布もそれほど知っているようには見えないけどな」

 九峪はそう言って若布を押し倒す。
「……まだ、慣れてないから」
 若布はそう言って顔を背ける。
「俺は慣れてるから気にするな。じっくり教えてやるよ……」
 にやにや笑って九峪は若い身体に手を這わせた。


 九峪と若布が楽しんでいる個室の扉が、二人が気が付かないほどゆっくりと、僅かだけ開く。

 扉の隙間からそっと白い手が伸び、香が焚かれた器が床に置かれる。
 甘ったるい臭いが部屋をさらに満たす。

 二人は、虚ろになっていく意識の中、さらなる快楽に沈んでいった。











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【2006/03/25 17:26】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
出雲盛衰記25
 出雲盛衰記
 二十五章



 風下から濃厚な血の臭いが流れてくる。
 志都呂は狗根国兵の鎧を脱ぎ捨てて志野の手を引きながら走っていた。

「志都呂さん、大丈夫?」
 志都呂は何カ所か切られて出血していた。
 止血をする時間も惜しんで走っていたのだが、それを志野は心配そうに見つめた。

「気にするな、志野。それより早くここを離れよう。九峪が上手くやってくれているとは思うが、お前がいなくなったのがばれたら、直ぐにでも追っ手が来るだろう」
「うん」

 志都呂はそう言いつつも内心舌打ちしていた。

 ――思ったより出血が多い。どこかで一度治療した方がいいな。

 何より血の跡を残していては、直ぐに追いつかれてしまう。敵には左道士がいるのだ。魔獣を呼ばれたら直ぐだ。

「焦らなくてもいいぜ」
 背後から掛けられた言葉に、志都呂は足を止める。
「九峪……。大丈夫なのか?」
「まあな。それよりこっちだ」
 九峪はそう言って街道をそれて二人を先導し始める。

「しかし、あの状況からよく……」
「俺様は無敵なのだ……ってか。まぁ蛇蝎のクソにだけは散々恨まれるだろうけどなぁ。後で交渉用に何か用意しとかねぇと……」
「志都呂さん……。誰です?」
 志野は警戒しているのか、志都呂の後ろに隠れるようにしながら、鋭い目を九峪に向けている。これまでの生活と今回の一件で、はじめて出会った大人を信用出来なくなっているのだろう。

「九峪。志野の、いや、私たちの恩人だよ」
「……恩人」
「まぁ、そう言うこった。盛大に恩に着てくれ」
 九峪はそう言ってへらっと笑う。

「――はい」
 志野はその言葉に不満そうにしながらも返事を返した。

「ああ、そう言えば……。珠洲っていうガキが一人生きててな。俺に頼んだのはそのガキだから、感謝するならそいつにもするんだな」
「珠洲が!」
 志野は九峪に駆け寄ると、しがみついて目を見開く。
「本当なの! あの子が生きてるの!?」
「あ、ああ。じゃなきゃ俺は駆けつけられなかったよ」
「そう……良かった」

 志野は瞳一杯に涙を溜めて笑った。

「しかし、本当に良かったのか? 九峪」
 志都呂は九峪の素性を知っている。だから、こんな真似をしたことで九峪の立場がどうなるかも分かっている。
「まぁ、元々いつまでもやれるものでも無かったしな。潮時って言えばそうなんだろ。正直もう少し内部でイロイロやって置きたかったんだが」
「すまない……」
「謝るなよ。お前のせいじゃない」
 九峪は気軽にそう言って先を急いだ。



 場所を少し移してから九峪は志都呂の怪我の治療をし、それから一行は三日ほど歩きづめだった。幸い狗根国の追っ手は無かったし――蛇蝎が部下を皆殺しにしたのだから当然だが――、他に何か困るような事態にも陥らなかった。
 僅か三日で志野は九峪にも心を許し、その顔には明るい笑顔が戻っていた。それでもやはり時々悲惨な経験を思い出すのか、塞いだ顔を見せてはいた。
 九峪はそう言う顔をしているたびに、志野に声を掛けた。どんな言葉でも陰惨な出来事は志野の心から決して消えはしないだろう。だが、それでも少しづつ癒していくことは出来る。

「九峪さん……私、これからどうしたらいいんだろう」
「道は教えてやる。でも、志野がそこを歩くのか、それとも他の道を選ぶのか、それは自由だ」
「どんな、道?」
 志野は首を傾げる。
 九峪は意地の悪い笑みを浮かべて口を開く。

「血まみれで、死人ばかりが山をなし、そして最後には自分もくたばっちまう。そんな道」
「いやだよ……そんなの。私もう……誰も失いたくない」
 志野はいやいやと首を振る。
 九峪はそんな志野の頭に手をぽんと置き、続きの言葉を口にする。

「かわりに、誰かが笑う道だぞ? 笑って、泣いて、喜んで、悲しんで、そんな当たり前の感情を誰もが持てるようになる、そんな道。志野にはその力がある。自分は何も得られないかも知れない。でも、誰かを幸せにしてやることは出来る」

「……私が、みんなを?」

 それがどんな道なのか、志野には想像もつかなかった。ただ、死んでしまった子供達の顔が、唐突に浮かんできて、その笑顔が脳裏に溢れたとき、志野は反射的に頷いていた。
「やる。私、その道がいい」

「たくさん死ぬよ? きっと、珠洲もな」
「それは、嫌だけど。その代わりもっと大勢の人が、笑えるんでしょ?」
「ああ、それは確かだな」
「じゃあ、いい。やる。珠洲は分かってくれるし、悲しむのも私だけだもん。その道を、教えて――」

 九峪は頷く。
 まだ十になったばかりで、覚悟という言葉すら知らない志野が、それをきっちりと出来ている事に笑みを浮かべながら。

「この国が今酷い状態にあるのは、全部狗根国のせいだ。狗根国が好き勝手やって、耶麻台国を滅ぼしたのが原因だ。だから狗根国を追い出せばいい。そのためには色々とやらなくちゃならない。仲間を集め、兵を起こし、軍を編成して戦うんだ。出来るか?」
「出来る。あいつ等が相手なら……私は喜んでやる。喜んで殺す!」
 復讐の炎が志野の瞳に揺らめく。

「よし。でも今の志野じゃ誰も集まってこない。大きくなるまでその下準備だ」
「うん」

 志都呂はそんな光景を見ていたが、止めようとはしなかった。九峪のやっていることは幼い子供に対する洗脳であり、他の道を閉ざすことでしかなかったが、それでも志都呂は理解していた。
 志野は普通の子供ではない。

 この状勢で、他の生き方を選んでいいほど、志野は普通ではないのだ。持って生まれた才能故に、選ぶ道を限定される。不憫ではあった。だが、同時に羨ましくもある。
 少なくとも、志都呂にはその道を選べるだけの能力はない。

「残念ながら俺は長く一緒にはいられない。聞くべき事は志都呂が知っている。志都呂に全てを教わるんだ」
「はい、九峪さん」
 幼い志野は、幾ら聡明でもやはり純粋だ。一度信用した相手の言葉は絶対。

 九峪は一瞬だけ志都呂の方を見た。
 視線が交錯する。
 それでお互いの意志は分かった。

 ――俺たちロクな死に方しないだろうな。
 ――それも一興……だろう?

 九峪は笑みを浮かべて志野を抱きしめた。



「遅い! 何をしていた今まで!」
 とある山人の里に着いた九峪は、天目の説教に小一時間付き合わされた。
 元々王族と言うこともあってか、天目はこの年で妙に説教慣れしている。もっとも九峪もされることには慣れているのか、見事に聞き流しているのだが……。

「あの、天目さん。遅くなったのは私の足が遅いからで……」

「あなたは黙ってて! 足が遅いというなら九峪が担いで来れば良かっただけの話よ! どうせ私に会いたくないからってまたさぼってたんでしょ! 」
「いや~、そんなこと無いって天目。俺はお前に会いたくて、まるで矢の如き速度で飛んできたんじゃないか」
「あからさまな嘘吐いてるんじゃない!」
 天目のケリが見事な角度で決まって九峪は吹っ飛ばされる。

「相変わらずだな、お前等は」
 志都呂は呆れたように呟いた。
「志都呂! あなたも信用してるから忌瀬を預けたのに、それを放り出して一人で行動するなんてどういうつもりだ!」

 矛先が見事に変わる。
 志都呂は呻くときょろきょろと忌瀬の姿を探す。

「そう言えば忌瀬は?」
「……ここにいるわよ、志都呂♪」
 声は背後から。
 同時に志都呂の背中に大荷物が叩き付けられた。
 例の薬草が満載になった奴だ。

「うおっ! こら、忌瀬なんて事を……」
 忌瀬は涙のたまった目で志都呂を睨むと、思い切り頬に平手打ちを食らわせて抱きつき、大声を上げて泣き始めてしまった。
「ああ、ごめんよ忌瀬。お願いだから泣かないでおくれ……」
 わたふたと取り乱す志都呂。
 忌瀬が鳴き声を上げながら伏せた顔は笑っていたのはここだけの秘密。

「珠洲!」
 忌瀬と志都呂が感動の再会を果たしている横で、志野もまた同様に再会に涙していた。
「志野……よか、よかったぁ」
 二人の少女は硬く抱き合って、互いに涙する。

 そんな都合四人を横目で見ながら、天目はため息を吐いて九峪を見ていた。こちらはこの程度の別れと再会は日常茶飯事なので涙も何もない。
「……おう、少しは抱きついてもいいんだぜ、天目」
 九峪は茶化すように言う。
「誰が……。私はあなたを識っているもの。この程度のことで消えるはずがないわ」
「かわい気が無いな」
「あなたこそ、私に抱きついてみたら?」
 挑発的に天目が手を広げる。

 九峪は苦笑すると、小柄な天目に飛びかかった。
「わ~ん、寂しかったよ~天目」
 わざとらしくそう言って、無精髭を頬にこすりつける。
「ちょ、痛い、痛いから離れて九峪!」
「そう言うなって、ほ~れじょりじょり」
「離れろって言うのが分からんのか~っ!」

 激高した天目は九峪のことを思い切りぶん殴って離れる。
「ったく、もう少し大人な再会の仕方にして欲しいものだわ」
 とか、ぶつぶつ呟いていたが、九峪には聞こえなかったようだ。


「あ~、しかし、アレだな」
「ん?」
「お前に殴られると安心するわ」
 九峪がそう言いながら、青くなった目元をさする。

「なんでよ……。変態?」
「違うわ。なんつーか、俺等に家は無いだろ? あるとすれば、それは俺にとってお前だけだからな」
「え……」
 天目は思わず赤面する。

 帰るべき家。
 九峪は照れてる天目の背後に回ると、そっと耳元で囁く。

「な~んてな。こんなんで赤くなるなんて、天目もまだまだかわいい女の子だな、ケッケッケ」
 それは或いは照れ隠しだったのだろうが、天目はますます顔を赤くすると同時に、九峪のことを全力でボコリ始めた。













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【2006/03/24 00:00】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
出雲盛衰記24
 出雲盛衰記
 二十四章



 街道で大荷物を抱えて少女が倒れている。
 荷物の量は殆ど自分と変わらないような大きさだ。
「おい、起きろ。生きてるか忌瀬」
 頭上から掛けられた声に、少女は僅かに瞳を開いた。

「ん、その声は……」
 かすむ目に、見覚えのある顔が飛び込んでくる。
「九峪……。なんでこんな所に」
「こっちのセリフだ。道ばたで寝るなよ」

「好きで、寝てたわけじゃ。志都呂がいつまで経っても戻ってこなくて……っつ」
 立ち上がろうとして顔をしかめる。足に激痛が走ってそのままうずくまってしまった。

「あ~あ、豆が潰れてそこから皮が剥がれてるな。痛そ」
「う~、どうしよ。そういえば九峪一人? 天目は?」
「あ~、変なもん拾っちまってなぁ」
「変なもん?」
「ま、何でもいいだろ。で、志都呂は何処に行ったんだよ? お前置いて荷物も置いて……」

 九峪はそう言いながら荷物を持ち上げる。
「狗根国の連中を見てくるって言ったっきり帰ってこなくて。仕方なく私だけでも街へ行こうと思ってたんだけど……」
「街って、この先は廃墟だけだぞ」
「そうよ。でもそこに私より年下の子供達がたくさん――……。九峪、もしかして」

 忌瀬も狗根国の話を聞いた時点で気が付いてはいたのだろう。だが、その可能性を考えたくはなくて。
「細かいことは分からんが、生き残りは一人だけだ。その生き残りは天目が見てる。それでもう一人連れ去られたって言うからな。それを助けてくれと頼まれてな」

「できる……の?」
「日暮れまでに追いつければな。幸い今日は朔だしな……」
 九峪はそう言って空を見上げる。

「後から天目が来るからお前がここで待ってろ。まぁ、その間に足の治療でもしてるんだな。これだけ薬草があるんだからまず自分に使えよ」
「あ、そうだね」
 忌瀬はそんなことにも気が回らないほど焦っていたことに気が付く。

「で、志都呂にはもうやられちまったのか?」
「九峪と一緒にしないの! あの人が私にそんな真似するわけないじゃない」
「俺もやらねーよ。じゃ、そう言うことで大人しくしてるんだぜ」

 走り出そうとした九峪に、忌瀬は声を掛ける。
「志都呂さんのこと、お願い」
「ああ、任せろ」
 九峪は軽く請け負って街道を走り始めた。



 宵闇が落ち、狗根国軍は街道沿いの廃村で野営の準備を始めた。
 志都呂は闇に紛れて大胆に近づく。
 死角が増える闇の中は、他のものより聴覚が鋭い志都呂には有利な状況だ。だが、それでもなお志都呂の顔には緊張が張り付いている。

 ――馬鹿か、俺は。

 志都呂は内心毒吐きながらも志野の姿を探す。
 何の目的で志野を連れているかは判然としなかったが、志野がこの場にいる以上街の子供達は既に……

 だからこそ、一人でも救いたいと思った。
 何より志野の指導力は、志都呂から見ても今後の九洲に必要とされる力だと思ったから。ここで志野一人救うことは、一人の少女の命以上の価値がある。志都呂はそう信じていた。

 例えそのために自分の命を引き替えにしたとしても……。



 即席の天幕が作られ、そこに人は二人だけ。
 いや、"人"は一人だ。
 もう一人は人の道をとっくに捨て、魔道を歩む人外の怪物。

「娘。お主は不思議に思わなかったか? 親とはぐれた子供ばかりがあの場所にいたことに……」
 問いかけられた少女、志野は顔中に恐怖を浮かべながら、異形のものに対峙している。

「不思議だった。けれど、あなた達が来たことで全部分かった。あなた達はわざと私たちをあの場所に集まるようにし向けて、そしてそこで様子を探っていたのね。ずっと……」
「カカ。聡明な娘だ」
 不気味な笑いに志野は震え上がる。
 それは心の奥底から湧き上がる、本能的な畏れ。

「私のお父さんとお母さんも……」
 ぎゅっと拳を握りしめる。

 蛇蝎は涙を堪えている志野に、ゆっくりと近づくと外套の下から乾涸らびた腕を差し出す。
「望めば記憶も消してやろう。どのみちお前が生きていく術は一つしかない。ならば少しでも楽に生きたいであろう?」

 志野は決然と蛇蝎の腕を振り払う。
「嫌だ! 絶対に! 私は、忘れない! お父さんやお母さんを殺されたことも! みんなを射殺し、焼き殺したことも!」

 蛇蝎は不気味に笑って腕を引っ込める。
「カッカッカ。ならば儂を恨むがいい。恨みは生きる糧となる。いつか儂を殺せるようにな」

 踵を翻し、天幕を出る蛇蝎。
 魔物の気配が無くなると、志野は声を押し殺して泣いた。




「蛇蝎様、ネズミが紛れ込んでいるようですが……」
 天幕から出た蛇蝎に、部下が耳打ちする。
 他の鎧を着ている部下とは違い、左道士特有のゆったりとした官位に身を包んでいる。蛇蝎は一言始末しろとだけ呟く。

「それと、妙な男が蛇蝎様に会いたいと……」
「妙な、男?」
 はっきりとしない部下の報告。
「え、ええ。身なりは旅人のようなのですが、狗根国将軍の官印を持っていましたので……」
 官印とは官位を証明する印鑑で、公文書にも押されたりする。それを持っていると言うことは、見知らぬ男は狗根国の将軍職、或いはそれに相当する立場にあるものとなる。

「旅人……、将軍の官印……。あ奴か。儂の天幕まで通せ」
 蛇蝎はそう言って自分の天幕へと向かった。

 主人のこだわりなのか蛇蝎の天幕は何故か黒い。
 その前に立った蛇蝎は、護衛をしている兵を下がらせて自分は天幕の中へと進む。

「よう、ごくろーさん」
 そこには九峪が待っていた。

「……勝手に入られては困るな、雅比古」
「別にいいじゃねぇかよ。一応俺も将軍様だぜ?」
 悪戯っぽく笑う九峪。
「フン、それで何の用だ? 来るならば満月にすれば良いものを……」
「冗談じゃねぇ。てめぇにだけは喰われてたまるか、クソ骸骨」
「何の用だ?」

 九峪は蛇蝎の代わり映えしない面容を見つめながら、本題を切り出す。
「娘一人さらっただろ? あれ俺にくれよ」
「……何を言い出すかと思えば。出来ぬな」
「お前があちこちで似たような事をやってるのは知ってる。別に一人くらい構わないだろ」
 蛇蝎の窪んだ眼下の底の瞳と、九峪の双眸が空中で激突する。

「……それはできんな」
 数秒の間をおいてから蛇蝎はため息混じりに呟いた。

「珍しいな。お前にしてみればただの娘子だろ。わざわざこだわるほどのものか?」
「あれはな、ただのと言えるほど下らないものではない。育て方に気を付ければ、儂の片腕にもなろう」
 九峪はその言葉に面食らった表情になる。

「蛇蝎がそこまで評価するのか。こりゃ参ったね。だが俺もどうしても欲しいんだよなぁ」
「貴様如きの慰み者にするには惜しい。どうしてもというなら……」
 蛇蝎の鬼気が増す。
 冷たい風が暗黒の風となって天幕の中に吹きすさぶ。

 九峪は真面目だった表情を途端に崩すと、両手を上げて降参する。
「わかったよ。お前と殺り合っても益はない。ここは俺が引くとしよう」
 そう言って九峪は一瞬で天幕の入り口まで移動する。

「いい女なんだ、やりすぎて壊すなよ。勿体ない……」
「貴様の知ったことではない」
 蛇蝎が鼻で笑うと、九峪は「じゃあ、身体におきをつけて」と、いやみったらしく呟いて出て行った。




 ――あの蛇蝎がこだわりを見せるほどの少女か……。

 天幕を出た九峪。
 他の天幕の方で騒ぎが起きているのを見つめる。のんびりとそちらに足を向けると、明らかな部外者が狗根国兵と斬り結んでいる姿が目に入った。




「何をやっている! 早く討ち取れ! 相手は一人だ、囲め囲め!」
 黒い鎧が部外者を包み込むように展開していく。

「くっ、やはり無茶だったか」
 志都呂は口の中でだけ呟いた。
 今はまだ一般兵だけで、囲まれたとは言えしばらくは持ちこたえられそうだが、なにせ数が数だ。

 ――ここが死に場所か。

 覚悟は決めていたとは言え、間の抜けた自分に笑いたくなる。
 その視界、狗根国兵の人だかりの間から、見覚えのある顔が飛び込んでくる。

 ――九峪! なんでここに!

 唐突な出来事で一瞬動きが止まる。
 その隙を見て背後から狗根国兵が斬りかかるが、志都呂は右手に持っていた剣を振り上げてその攻撃を弾くと、回転しながら鎧の僅かな隙間を狙って左手の剣を突き出す。

 素早く剣を引き抜くと同時に、次の相手の攻撃を止めた。
 多対一の戦闘では動きを止めればそこに一斉に襲いかかられて負ける。

 志都呂は動きながらもう一度九峪を見つめる。

 九峪は志都呂と目が合うと、やれやれといった風に肩を竦めてみせる。

 ――まったく、あいつは本当に。

 志都呂も笑みを浮かべた。

 希望が見えてきたこともあってか、志都呂の動きが良くなる。包囲する百を超える狗根国兵が徐々に押され始める。

「そこまでだ下郎! 食らえ、禍し――」

 左道士が唐突に左道を発動させる。
 しまったと細い目を見開く志都呂。

 九峪は、ゆっくりと口を開いた。

「時は、止まり――――そして俺は加速する――!」

 世界の全てが凍り付いたように動かなくなる。
 九峪はその空間を恐ろしい速度で移動する。
 普段の九峪からは考えられない動き。

 九峪はまず志都呂の元まで行くと志都呂の服を脱がし、同じ背格好の狗根国兵の鎧を剥いで着せ替える。
 そのまま志都呂を囲いの外に放り出し、志都呂の立っていた場所に服を着せ替えた狗根国兵を置いた。

 ――その間、実に三秒!!

「時は――再び動き出す」

 九峪が呟くと同時に志都呂の格好をしている男を、左道士の方へめがけて蹴り飛ばした。

「――餓鬼!!」
 突然志都呂が自分に向かってきた事に狼狽しながらも、左道士はそのまま左道を放つ。志都呂は直撃を受けてバラバラになって死んだ。

「だ、誰だ!」
 唐突に囲いの中に現れた九峪に、狗根国兵の一人が叫ぶ。
「お前等ちっと弛んでるな。賊の一人も満足に始末出来ないのか?」
「な、誰だと聞いている!」
 九峪はため息を吐きながら答える。

「狗根国四天王の一人、幽鬼将軍雅比古って言えばお前等も知ってるだろ?」
 全員電撃が入ったように縮み上がった。

「あ、あの伝説の……」
 どんな伝説があるのか、完全に恐れおののいている兵士達。

 その兵士達を掻き分けるように、蛇蝎が出てくる。

「お主、いつから人前で名を名乗るようになったのだ……」
「勘違いするな蛇蝎。俺が人前で名乗る意味は一つしかない……」

 全員がその言葉に震え上がる。

 九峪はついぞ見せたことの無いような冷酷な声で言った。
「俺が大王から命ぜられた職務は一つ。怠惰に身をやつした狗根国兵の処分。ずっと付けられていながらここまで気が付きもせず、満足に雑魚一匹処分出来ない弱兵共。お前等に狗根国軍を名乗る資格はない」

「カカ、儂の監督不行届かの?」
 愉快に蛇蝎が笑った。
「ふん、お前はただ兵を借りてきただけだろう。とはいえ、現場の責任者であることも事実。責任問題かな?」
 九峪も愉快に応じる。
「では、どう責任を取ったものか」
 まるで楽しむような声色。
「二つに一つ。全ての責任を負ってお前が死ぬか、お前自ら兵に処罰を下すか……だな」
 九峪も声が弾んでいる。

「では、後者を選ぼうか。カッカッカ」
 時が止まったわけでもないのに、凍り付いたように動けなくなる狗根国兵達。九峪は嬉しそうに笑って踵を返す。

「じゃ、任せたぜ。俺はもう行く」
 そう言い残し、姿を消した。












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【2006/03/23 00:00】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
アトガキ 編年紀十七章
 アトガキ



 十七章更新致しました。


 はぁ~。


 え~、ま~、今回の話は本編に加える必要があるのか怪しいほどどうでもいい話のまま終わっているわけですが、敢えて言うなら藤那の陽動の可能性を示唆するのが目的ってだけ? それも朔夜の発言以上の物証は無いので実際の思惑は藤那にしか分からないままですが……。
 清瑞が幼児相手にあらぬ事を考えていますが……だめだぞ、清瑞。多分恋愛経験が少ないから慈しみと混同……ふつうしないよなぁ。変態さんですね。
 愛宕と重然はどうしよう。その内海戦があれば使うでしょうけど、あるのか? 海戦? ……いえ、あるんですけど。

 次回は遠州が委員長に急接近して衝突するような話です。委員長の防衛システムがどの程度機能してどんな結末になるのか……ご笑覧あれ。



 と、アトガキはこんなもんで。
 え~と、昨日、一昨日のweb拍手は……コメントは無いですね。叩いてくれた人には口では言い表せないほどの感謝を!

 で、ここで終わりなはずなのですが、その前にお知らせをば。来週は水曜くらいまで作者はパソコンにノータッチの予定なので、本サイトもこっちも更新出来ない感じです。後、遠出するので疲れて翌日とかその次の日も死んでる可能性が捨て切れません。更新予定日は一応31として置きましたが、四月にずれ込む可能性もあるので更新されないからと言って暴動を起こさないで下さい。31に更新出来ない場合は、少なくとも3日には更新しますので……。
 今後も週一更新くらいでへろへろと頑張っていきたいと思いますので、どうぞ宜しくお願いします。

 では、本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ












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【2006/03/22 16:43】 | アトガキ | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
出雲盛衰記23
 出雲盛衰記
 二十三章



 柔和な顔立ちの男が、少女の手を引いて歩いている。
 背中には大きな荷物を背負い、足取りも重く街道を歩く。
「志都呂~。私もう疲れたよ」

 少女はそう言ってへたり込む。男に比べれば大したことはないが、それでも少女の方も身体に対してかなり大きな荷物を背負っている。
「忌瀬……。確かにこのところ歩きづめですからね」
 男はそう言うと自分も荷物を下ろして街道脇に腰を下ろした。

 二人は旅の薬師。この地は九洲。
 狗根国による侵略が完了してから数年が経ち、搾取と反乱が続く争乱の地とあっては、薬師の需要は非常に高かった。同時に危険であることを理由に普通の薬師は九洲には入ってこないと言うこともある。
 二人が大荷物を抱えているのも、大量に必要とされる薬草を採ってきた帰りだから。

 忌瀬は豆が出来てしまった足を痛そうに見つめてため息を吐く。
 前の薬師の師匠とは別の場所ではぐれ、その後腕のいい薬師だと変な奴に紹介されて志都呂の元にいるのだが、腕はいいがあまり利口ではないと気づいていた。

 金のない人にも薬を分け与えたり、わざわざ率先して危険な場所に乗り込んだり……。
 正義感が強すぎるのだ。
 このままだといつか面倒な事に巻き込まれる。
 それは分かっていても、忌瀬は独り立ち出来るような歳ではない。

 ――はぁ、私って不幸だわ。
 知らずにため息を吐いている。

「忌瀬、すまないね。私の道楽に付き合わせてしまって」
 志都呂の口からそんな言葉が漏れ、忌瀬は慌てて首を振る、
「そ、そんなこと無いよ! 私だって苦しんでる人たち放っておけないもの」
 その言葉は半分本当だった。

 現在の九洲の状態は本当に酷い。
 狗根国が搾取し続けるから幾ら働いても報われず、そのせいで反乱を起こすものや、真面目に働く事を止めて野党に成り下がるものが増えている。
 虐げられるのは弱い人間、つまりは女子供と老人だ。

「そうだね。……ん?」
 志都呂は不意に視線を街道の先に走らせ、目を細めた。
「どうしたの?」
「何か来る。おそらく狗根国軍だな……。蹄の音が聞こえる」
 忌瀬はそう言われて自分も耳を澄ましてみるが、さっぱり聞こえない。

「相変わらず志都呂の耳は凄いね」
「そうでもないさ。とにかく隠れるぞ」
「うん」
 二人は荷物を背負い直すと、街道脇の森の方へと向かっていった。

 今まで二人が荒れた九洲で生きてこられた理由は、この志都呂の異常な聴覚にあった。大規模な行軍ならば、十里も離れていても聞き取れるとかなんとか。事前に敵が来ることを察知出来るならば、身を守ることでこれ以上有利な事はない。

 志都呂は街道から十分に離れた場所まで来ると、荷物を置いて忌瀬に告げる。
「かなり大がかりに動いているようだし、私は様子を探ってくる。忌瀬はここで待っていなさい」
「駄目だよ。わざわざ危険な真似なんて」

 志都呂は不安そうな忌瀬の頭を撫でながら、優しく笑いかけた。
「大丈夫。今までだって、私は帰ってきただろう? それに別に戦いに行くわけじゃない。離れた場所から様子を見てくるだけさ」
「本当に?」
「ああ、本当だ」

 志都呂は一度忌瀬の事を力強く抱きしめると、挨拶もそこそこに街道の方へ戻っていった。

 ――ま、大丈夫か。志都呂強いもんね。

 忌瀬は知っている。志都呂は何度か狗根国と揉めていて、一度など狗根国の正規兵二十人を一人で蹴散らしたのだ。
 未だに九洲に残されている左遷組の連中など、百人いても大丈夫だと自分に言い聞かせる。
 実際信頼もしていた。

 志都呂も正義感だけで無謀な事はしない。引き際は心得ているし、無理などしない人間だ。無茶なことをやっているように見えて、ちゃんと忌瀬がいる事も配慮に入れているのだ。無茶なことをやって死んで、忌瀬を悲しませる真似などしない。

 ――でも、不安だよ。早く戻ってきて。

 暗い森の中。
 忌瀬は身を隠すように小さくなって、志都呂の帰りを待っていた。



 森の中、普通では気配を察するのも難しい場所で志都呂は狗根国の行軍の様子を探っていた。狗根国には少数とは言えとんでもない使い手もいることを知っている志都呂は、ことさら近づいたりはしない。遠くから聴覚で出来るだけ収拾出来る限りの情報を得る。

 とは言え、基本的に狗根国の行軍でおしゃべりなんかしているわけもない。分かるのは人数と編成くらいなものだ。

 ――数は、二百かそこらか。近頃にしては物々しいな。何か大捕物でもあったか?

 志都呂は気になって少しずつ近づく。

 ――騎馬が多いというのも気になるな。それなりの大物が出張っていると言うことか。だが、この先に反乱軍はいないはずだが。

 大がかりな軍行動があったとなれば、志都呂も今後の動きに影響が出かねない。そう判断して、志都呂は視認出来る場所まで移動する。
 街道脇の木々の間。
 黒い鎧を纏った兵士達の列。

 その中央に、一際目立つ影があった。

 ――あれは、蛇蝎!

 志都呂は狼狽すると同時に頭を下げた。
 実際見たのは初めてだが、噂くらいは聞こえていた。
 狗根国で最も危険な男。

 ――まずいな。あんなのまで出てくるとは。

 もう一度志都呂は蛇蝎の方を覗く。

 そして、目を見開いた。

「し、志野……」

 何の間違かと目を疑う。
 なぜ、蛇蝎の軍に志野が――ただの孤児がいるのか。

 そもそも、今回取ってきた薬草の大部分も志野達の街の子供に渡すためだ。
 実際かかりつけでいられるほど、志都呂も暇ではない。
 最低限の治療法や、薬草の判別を教えて、それで済ませるつもりではあったのだが……。

 ――どうする?

 志都呂は迷う。
 事情は分からないが、志野が捕らわれたのは事実だ。或いは子供達だけでも組織的に動いているのが狗根国の目に付いたのかも知れない、などと予想を立てる。それにしても、なぜ志野だけ。

 脳裏を忌瀬の顔が掠めた。

「忌瀬……、すまん」

 志都呂は自分に聞こえるようにだけ詫びて、ひっそりと狗根国軍の行軍の後をつけ始めた。









 
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【2006/03/20 22:32】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
出雲盛衰記22
 出雲盛衰記
 二十二章



 ――餓えて、死にそうだった。


 七年前、狗根国による反乱軍狩りが最も激しかった頃、少女はその日の食料にありつくこともままならなくて、草の根や虫を食べて命を繋いでいた……。

 女だとわかれば幼いと言っても狗根国軍の兵や、野党と化した荒くれ者達の慰みものになる。だから、顔を汚して、髪を短くして、人には近づかないように気を付けた。

 親はいなかった。

 戦争から逃れる為に各地を転々としている間にはぐれてしまって、もう随分と長いこと一人。

 生きていく術を知らない少女。
 この時代の九洲は、そんな少女が生きて行くにはあまりに過酷で、同じような子供達が溢れ、多くが命を落としていた。


 城壁の壊れた街の中。
 少女は焼け落ちた家屋の中で、いつも眠りに落ちる。

 誰の家かは分からない。
 家主は、少女が訪れたときはいなかった。

 この街には、他にも多くの親や家を失った子供達がいる。

 不自然なほど多く。



 少女は不思議に思っていた。
 自分はただはぐれた場所から一番近くにあったから、この街にいた。
 そう思っている。

 他の子供と話はあまりしなかった。
 聞けば同じように答えただろう。

 でも、子供達はあまりに餓えていて――

 あまりに疲れすぎていて――

 群れる事もしなかった。


 始めたのは少女。
 一人で生きるより、二人で生きた方が効率がいい。二人より三人……

 誰に教わったわけでもない。
 少女はそれを知っていた。

 時に裏切られ、時に虐められ、その三倍の報復を繰り返しながら、子供達は少女の元に集まっていく。


 野党や狗根国兵に対して見張りを立て、食料を集める者を分担し、夜露の凌げる場所を作らせた。

 知っていたわけではない。
 少女は必死で考えたのだ。
 生きるために、どうあるべきか。

 共同体は少しずつ大きくなり、廃墟と化した街は、今や五十人ほどの子供達の街と化していた。



 ……だが、それも……

 ……少女の思惑を超えた、予定調和の出来事。



 破滅は唐突に訪れる。

 絶望は音を立ててやって来た。

 黒衣を纏った不気味な面相の男が、大軍を引き連れて。

「カッカッカ、まさかこうも短期間でできあがるとはな。いや、思わぬ拾いものだったの」

 子供達はすぐさま捕らえられた。

 何も悪いことはしていない。
 ただ日々を生きていくことの何が悪いのか。

 少女はそう告げた。
 骸骨のような男に、真っ向から。

「お主、名は何という」

 骸骨は奈落の底から響くような声で、少女に問うた。
 少女は涙を堪えながら、それでも目一杯睨み付けて、骸骨に告げる。

「私は志野」

「志野、か。お主のように指導力がある輩が九洲にいられると困るのでな。狗根国に忠誠を誓うというなら、いい思いをさせてやろう。儂と来い。断るなら……」

 その先は聞かなくても少女には分かっていた。
 仲間達は、全員狗根国兵に捕らえられている。

 断れば、死……

「……わかり、ました」

 選択肢など始めから無かった。

 ただ少女は、目の前の男の事を勘違いしていた。

 この骸骨に、慈悲はない。


 骸骨がすっと手を挙げた瞬間、捕らわれた子供達に、容赦なく矢が降り注いだ。

「な、なんで……」

 少女は、目の前の惨劇を見て、悲鳴を上げることすら出来なかった。
 ただ、震えて骸骨の昏い瞳を見つめていた。

「カッカッカ、始めからこういう計画だったのだよ。所詮才あるものは一握り。お主以外を生かしておいてもどのみち長くは生きられまい。言うなれば慈悲だ」

「な、なんで、なんで、いやぁあああああああっ!!」

 状況に理解が追いつき、絶叫する。

「カッカッカ。これからお主には狗根国のために、身も心も捧げて貰うぞ」
 骸骨の、不気味な哄笑が響いた。

「うえっ、うう……」

 少女は狗根国兵に引きずられるように連行される。
 嗚咽を漏らしながら。

 そんな事にはお構いなしで、骸骨は笑い、狗根国兵は子供達の周りに火を付ける。


「やあああっ!!」
「死にたくなぁああい」
「助けてぇええ!!」
「痛てぇよ~!」
「うわ~んっ!!」

 泣き叫ぶ声。
 矢を受けても死んでいなかった子供達の悲鳴。
 焼け残っていた家屋が崩れ落ち、炎が子供達に襲いかかると、その声も止んだ。

「……なんで、こんな酷いこと」
「知りたいか?」
「……」
「愉快だからだ……カッカッカッカッカ」

 骸骨は少女の耳元で不気味に笑うと、撤収の指示を出す。




 馬の蹄の音も、血なまぐさい男達も、骸骨の哄笑も遠く去った後、その場所を訪れた若い男と垢抜けた少女。
「酷ぇ臭い。どうやら焼かれて直ぐみたいだな」
「の、ようだな。どれも子供達ばかりだ、むごいことを」
 少女は辛そうにそれを見ている。

「いい加減見慣れちまったってのもあるけど、それにして妙だな。なんで子供だけ」
「確かに」

 がらがら

 かすかな物音に、二人同時に振り返った。
 薄汚れた女の子が一人、壊れた家屋の置くから這い出してくる。

 まだ三つか四つ。
 不安そうな顔で二人を見つめている。

 少女は連れの男に目配せすると、女の子に駆け寄る。
「……よく、無事だったわね。もう大丈夫だよ」
「天目……」
 男はやれやれと頭を掻いている。
 
 女の子は少女に抱きつくと、堪えきれなくなったように泣き出した。
「……う、うわあああん」
「よしよし、もう大丈夫だから」
 天目は薄汚れた女の子を気にせず抱きしめる。


「志野が……、志野が連れて……」
 嗚咽を漏らしながら、何とか助けを求める少女。
 天目は男の方に視線を送った。

「助けたいってか?」

 どうすっかな……、と男はやる気がなさそうに呟いた。











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【2006/03/19 00:00】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
第十五回 火魅子伝SS戦略会議
 第十五回 火魅子伝SS戦略会議



 やっほ~い、久しぶりの会議ですよ~♪

 危うく一月無いところでしたな。誰も期待していないのが見え見えで若干心苦しいけど気にしないぞ~。

 さて、本日のゲストは彼女にするなら一番無難だろうランキング第一位! 衣緒ちゃんデ~ス!

「あら? そうなんですか?」
 いや、適当に言ってみただけ。実際は知らんよ。
「まあ、そんなところでしょうけど」
 大和撫子と言えばあなたなわけですよ。
 手先が器用、漆黒の髪、控え目な性格……。ああ、もうパーフェクトですな!

「そんなことないです。私なんかより志野さんとか星華様とか……」
 志野は露出狂なので論外です。恥らいのない大和撫子などいりません。衣緒はあの格好で踊れる?
「無理です……」

 だよね。だからイイ!
 星華は見た目こそアレですが、決定的に誤ってる部分があるんですな。
「性格ですか?」
 まあ、それもある。
「星華様も露出の気があるとか?」
 それは巫女服という存在がカバーしてるんだけど、それも確かに。

「何なんです?」
 乳がでかい。
「へ?」
 お乳がでかい。作者の定義では巨乳は大和撫子あるまじき! 着物を脱いだら控えめな乳で無ければならない!

「何を力説してるんですか」
 呆れた顔をしないで下さい。ここは譲れません。乳が下品では話になりません。まぁ賛否両論あるでしょうけど。あ、ちなみに個人的に巨乳が嫌いなわけではなくて、あくまで取り合わせの問題です。

「でも、私ももう少し……」
 何を言うかー! 衣緒の胸がでかくなったら存在意義は消滅するぞ!
「そ、そうかしら?」
 そうだよ。
 まぁ、かく言う衣緒も実は一つだけ欠陥があるんだけどねぇ。

「え、何です? もしかして筋肉の事ですか?」
 いや、たくましい二の腕はそれはそれで魅力と言えないこともないし、大和撫子として最重要なのは心の持ちようですから、そんな特技はどうでもよろしいのだが。

「じゃあ、何です?」
 む~、言っていいものか。
「気になるじゃないですか。仰って下さいよ」
 では……

 これは原作で言及されていることではないので推測も混じるのだが、衣緒も下着付けてるよね?
「え、ええ。それは」

 じゃ、駄目ー。大和撫子はノーパン。これ基本。着物じゃなくてもノーパン。何があろうとノーパン。毎日ノーパンで臨戦態勢。

「な、何ですかその偏った思想は……」
 んー? わかっとらんな。大和撫子はリョージョクされる為だけに存在しているキャラだぞ。普段からおしとやかで清楚で可憐な女が蹂躙されるのを心待ちにしていてこそ本物! ハイエンドクラスとなれば着物の下はむしろ縛り基本! バレると一点淫乱キャラに早変わり! そうでなくてはならんのだ!

「いえ、あなたの性癖はどうでも……」
 ん~、まぁそんなのを盛衰記での衣緒の役回りにしてやろうかと……。

「……え?」

 だから、衣緒のリョージョクとか。正直新説でやった上乃よりイイと思うんだよね♪(ニコ

「――さわやかな笑顔ですね、随分」

 そう? 次回辺りで衣緒のぐっちょんぐっちょんな奴を書こっか。
 もちろん相手は何の救いもない一般兵とか? あーはっはっはっは。そいつはいい。

「ていごさん……」
 ん? なんですかな。どんなプレイがお好みとか要望が――


 ひゅっ どぶっ


 ぐほっ、太くて硬いものが作者のお腹に……。

「私の鉄槌、十貫(約37.5㎏)あるんですよ」

 ど、通りでお腹に当たったのに背骨がイっちゃってるわけ……がふっ(吐血

「次は何処がいいですか?」

 いえ、もう……

「では、私のあつかいは……」

 滅茶苦茶にしてやる、このクソ女。R指定も知ったことか。この際手が後ろに回りかねないほどのすんごいのを……(はい、分かりました。もう勘弁して下さい衣緒様)

「……本音と建て前が逆になってますよ」

 え? あ……
「では、頭でよろしいですね」

 あ、え、ちょ、まってぇえええええっ!
「問答無用!」

 べちゃ


「ふう。では次回からはわたくしが主人公の新番組【衣緒のおしゃべりクッキング】をお送りします。お見逃し無く」










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【2006/03/18 23:59】 | 会議 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
出雲盛衰記21
 出雲盛衰記
 二十一章



 夜明けと共に起き出した九峪。
 隣で寝息を立てている少女を見る。

 ――またやっちまったなぁ。

 あきらめにも似た感情。
 浮気をするのは一体何人目か。孕ませた女の数は数え切れない。

「3Pは久しぶりだったな……」
 反対側を見ると、黒髪の少女もまたすやすやと寝息を立てている。

「こればっかりはやめられんな」
 しまりの無い顔で言うと、着替えて荷物をまとめ始める。
「さて、では起きないうちにずらかるか」

 昨夜(今朝とも言う)のうちに、伊万里達が向かうべき場所は教えている。九峪としては長居は無用。
 火魅子候補一人を籠絡出来たのだからこの場にこれ以上いる意味もない。基本的に九峪はヤリ逃げ魔である。

 二人が起きないようにそっと抜け出すと、その場から走り去る。
「ふう、あの二人なかなか可愛かったし、また縁があればいいけどな」
「そうねぇ。随分激しかったものねぇ」
 九峪は耳元で囁かれた声に立ち止まる。

 振り返ると、そこにはこの季節に何を勘違いしたのか、随分と暑苦しそうな格好をした女がいた。
 その手には乾涸らびた仁清が……。

「……仁清。大丈夫か?」
「……」
 完全に沈黙している。
「で、あんた誰だ?」

 九峪はどうしたものかと女を見る。

「私? 私は寝太郎って呼ばれてるわ」
「なんだか男みたいな名前だな」
「ええ、男だもの」

 九峪は首を傾げる。寝太郎はどこからどう見ても女だ。

「本当か?」
「疑うなら試してみる」
 寝太郎はそう言ってすり寄ってくる。
「いや、いい。まぁ、誰でもいいけど、俺は行くから」
「あら、私も一緒に行くわ」
「なんでだよ……」

「あなたがいいオトコだ・か・ら」
「仁清はどうするつもりだ?」
「三人で楽しみましょう。ね?」
 九峪はなるほどと頷くと、時を止め寝太郎の死角に回り込んで姿を隠す。

 ――冗談じゃねぇ。本当に男だったらさすがの俺も管轄外だ。

 九峪は隠れたまま様子をうかがう。
 寝太郎は目の前から唐突に九峪が消えたので、おどろいて辺りを見回している。

「ん~、逃げられちゃったかしらん?」
 寝太郎は懐から人型に切り抜かれた紙を取り出すと、なにやらまじないを掛ける。

 紙は発光すると九峪が隠れた場所に、風に吹かれたように飛んでいく。

 九峪の目の前に紙人形が落ちた。

 閃光、爆発

「あら、そんな近くにいたのね」
 寝太郎は楽しそうに笑って爆発のあった場所に向かう。

「いない……」
 そこには人間がいたら挽肉になってただろう爆発痕だけが残されていた。

「おかしいわね。私の腕もなまったかしら」
 寝太郎はそんな事を言いながら歩き始めた。



 少しだけ離れた場所。
 爆発の直前に九峪は再度時を止め、離脱していた。

 ――方術士? 式神使い? 何にしても厄介な奴に目を付けられちまったもんだな。

 九峪は寝太郎が十分に離れた事を確認するとため息を吐く。

 ――仁清は連れて行かれたか。合掌……

 助けようとは考えない九峪だった。

 それから暫くして爆音を聞きつけて上乃と伊万里がやって来た。
 逃げようかと思っていたが、その前に寝太郎の事を知っているか聞き出す事にした九峪。

「九峪さん、これは一体」
「仁清もいないし……」

 二人に詰め寄られて、九峪は事情を話す。
 寝太郎の名前が出ると伊万里と上乃は顔を強ばらせた。

「寝太郎様が……。どうしよう」
「なんだ?」
「復興軍に協力してくれている仙人なんです。それに仁清が連れて行かれたなんて……」
 九峪は事情を飲み込む。

 てっきりオトコノコ好きで連れて行ったのかと思った九峪だったが、違ったらしい。
「でも、どうすれば?」
「取り戻しに行こう。見捨てるわけにはいかない」
「そうだね」

 意気込んで向かおうとする二人。
「止めとけ。仙人様は復興軍を支援してるんだろ? 多分昨日の俺たちの会話も聞かれてる。既に復興軍は敵だぜ?」
「でも、このままじゃ仁清が……」

「俺が何とかする。だからお前等は先に伊雅のおっさんのとこに言ってくれ。そっちのも遠からず手が回るだろうからな」
「……できるの?」
「お前等がやるよりは上手くやるさ。だてに歳くってないんだよ、俺も」

 九峪はそう言うことでと歩き始める。
「九峪さん……。仁清を頼みます」
 深々と頭を下げる伊万里。
「たのんだよ! 九峪」
 泣きそうな顔で頼む上乃。

 九峪は振り返らずに手を上げて答えた。



 ――意識が、朦朧とする。

「ほらほら、私が回復してあげたからまだイケるでしょう?」

 目の前にいる限りなく女に近い身体の男。
 何をされているのか、何をしているのかはっきりしない。

 ここが何処なのかも、今が朝なのか夜なのかも分からない。

「う~ん、少し刺激が強すぎたかしらね。馬鹿になっちゃってるみたい」

 快楽が、身体の一点から全身に広がる。
 頭がしびれて、何も考えられない。

「ん、身体は反応してるし、まぁいいか」

 何かを搾り取られるような感覚。
 疲労が襲いかかり、意識が遠のく。



 どさり



 仁清は倒れた。
 寝太郎は口元を拭うと、倒れた仁清に口づけて気を送り込む。

「う、うう」

 青ざめていた仁清の肌に生気が戻る。

「そんなんで楽しいか?」

 寝太郎は上から振ってきた声に、笑みを向ける。
「楽しいわよ。何遍だって楽しめるもの」

 木の上でしゃがんでいる九峪は、裸の寝太郎を見てため息を吐く。
「なんつーか、本当に男なんだな」
「あら、女なんかと一緒にしないでよ」

 不満そうに口をとがらせる寝太郎。
 九峪はどう見ても男な身体と、女の顔に妙な感覚に陥る。

 ――だまし絵でも見ているみたいだな。

「ま、いいや。仁清返してくれよ。お前さん復興軍の者なんだろ。九洲の民に酷い仕打ちはするもんじゃないぜ」
「そうかしら? 裏切り者はそれ相応の処分が当然だと思うけれどね。それに楽しませてあげているのに、まるで拷問しているみたいな言い方は酷いわ」
「拷問だろ、立派な……」
 九峪は木の上から飛び降りると仁清を抱え上げる。

「まぁ、よこさないというなら盗っていくだけだ」
「まぁ、待ちなさいよ。条件次第じゃ、あなたに付いてもいいのよ、私」
 婉然と微笑む寝太郎。
「条件ね。俺の身体っつーならお断りだぞ」
「やぁね、本当はあんたみたいなおっさん好みじゃないわ。私が好きなのは可愛いオトコノコ」
 そう言って胸を張る寝太郎。

「ああ、そうか。俺は女なら大概好きだがね。で、じゃあ他に何かあるのか?」
 寝太郎は頷く。

「私は竜宮から乙姫の――ああ、乙姫って言うのは耶麻台国の開祖姫御子の親戚ね。その乙姫から復興軍を支援するように言われてやって来たの。表向きはね」
「ほう」
「本当の目的は九洲に隠されている姫御子の宝剣なのよ。七支刀って言ってね、普通の人間じゃ持つことも出来ないもの何だけど……。このまま復興軍にいてよしんば見つかったとしても、持ち出すなんてとても出来そうにないし。どう? あなた達の方に味方する代わりに、九洲を征服したらその剣を私に譲ってくれないかしら?」

 九峪は宙を見上げて暫く考える。
「七支刀……ね。まぁ、多分そんなもんは復興しちまえばいらないだろうから、別にいいよ。でも何処にあるか分かってるのか?」
「分かってたら苦労しないわよ。そっちこそ心当たり無いの?」
 九峪は七支刀のイメージが掴めず首を捻る。

「どんなのだよ」
「ええとね、聞いた話だと七つに枝分かれした剣よ。こう、鉤型の……」
 寝太郎は地面に大雑把な絵を描く。
「ん?」
 九峪は記憶の角に引っかかるものを感じる。

「どうしたの? まさか知ってるの?!」
「いや、多分気のせいだろ。まぁ、そんな条件でいいならこっちは気にしないけど、本当にそれだけでいいのか?」
「できればそちらにいる、可愛いオトコノコをまわしてくれると嬉しいわ」
 涎を垂らしながら要求してくる寝太郎。

 九峪はコイツ本当に仙人か? と思いつつも一応了承する。
「ふふ、じゃあ仁清君は私が責任を持って送り届けるわ……。うふふふ」
「これ以上使い物にならなくなるような真似するなよ」
「大丈夫よ。壊れちゃったら遊べなくなっちゃうから、手加減は心得ているわ」

 九峪はなるほどと納得して仁清を譲渡する。

「では、契約成立ね」
「で、このまま里に向かうとあからさまに裏切りがばれるがいいのか?」
「構わないわよ。言い訳なんて幾らでもきくしね。もし、どうしようもないと分かったら寝返ればいいだけですもの」
「こちらが有益な間は味方か」
「そう言うこと。それともそれじゃ気に入らない?」

 九峪は肩をすくめる。
「わかりやすくていい。ああ、一つだけ言っておくとな……」
 付け足すように九峪は言う。

「嘗めた真似したら寸刻みにして豚の餌にするから覚悟しとけよ」

 何気なく発した一言。

 寝太郎は全身を悪寒が走るのを感じた。

「わかった……わ」
「じゃ、頼んだ」
 九峪はそう言って、次の瞬間には消えていた。




 ☆オマケ☆



「九峪だったら寝太郎様も籠絡出来そうだよね~」
「そ、そうか?」
「そうだよ。なんかすんごい熟練してるし。きっと性別なんて関係ないよ」
「……確かに、そんな気もするけど」
「伊万里、昨日はものすごい乱れてたもんね~。気持ちよかった?」
「ば、馬鹿。そもそもお前等が無理矢理私のことを!」
「え~、喜んでたくせに~。伊万里や~らし」
「おい、上乃!」
「アハハハ、『アアン、九峪さん私もう駄目ぇ、もう、もう壊れちゃう~』」
 伊万里の声真似をして、身をくねらせる上乃。

 こいつら、本当に仁清が心配なのだろうか? かなり怪しい一幕であった。

 ちなみに、この後寝太郎が合流したため、九峪が男もいけるという噂が広まることになるが、それはまた別のお話。












 
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【2006/03/17 00:00】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
アトガキ 編年紀十六章
 アトガキ



 編年紀も第二部に入ってアトガキを書くのを止めたけど、なんとなく寂しい気もするのでこっちに書いちゃうことにします。まぁ、ネタバレになる可能性もあるのでまだ読んでない人は引き返すが吉。

 さて、まあそう言うわけで十六章をupしました。
 いつも小見出しをつけるときに悩むのですが、ものによってはネタバレになるし、つけない方がいいのかなぁと悩む今日この頃。第二部からは出来るだけ内容とは直接関係ないようなものをつける予定ですので、関係ねぇじゃんとか思っても目を瞑って下さい。
 で、内容についてですが、今回は川辺の会議模様ですね。主に。羽江がガラにもなく悩んでいたり、朔夜が意外なことも出来ることを暴露してみたりと色々ありますが、後で話が破綻しなければいいなぁと切実な今日この頃です。始めっから破綻しているという可能性も捨て切れませんが……。まぁ、それは完結してから考えます。
 あと、方術って実際どういうものなのかよく分からないので、勝手に属性に相性とか付けときました。というか、原作でもう少し出してくれないと、方術の名前なんて考えつかんがな。そのせいで星華や藤那の活躍の場が……。
 次回、十七章は確か清瑞が微妙に強くなったところを見せるはずです。


 と、アトガキ紛いなものはこの辺にしておいて、恒例のweb拍手のお返事でも行きましょう。
 え~と、昨日は五件ですね。幾つか同じ人のようですが。では、始めの二件まとめて。

1:30 同じように殺すと思ったら大間違い≒異なるように殺すと思うのが正解、なのですね。なのDEATHね。
1:30 次回は二人を食う予定みたいだから…カニバリズムなのか。いちはちきんだっ
 と、頂きました。
 ……殺しませんよ。誰一人。甘ぁ~い大円団に向けて進行中(?)なんですから。まぁ、少し塩を入れた方が甘みが増すって話しもあるので、絶対とは言えませんが。その辺が異なるように殺すになるのかな~。どうしよっかなぁ~。
 それといちはちきんでもカニバリズムでも無かったですね。ええ、無かったと作者は思っております。まぁ、約一名名前不詳の何者かにぱっくりやられていましたが、それは次回のお楽しみで……。
 コメントありがとうございました(ペコリ

 では続いてのコメント。

1:33 もうすぐ3000ヒット。今月中にも日記を追い越してしまいそうですね
 と、頂きました。
 時間帯からするともしかしたら同じ人かも知れませんが、なんとなく微妙な間が気になって一応分けておきました。そう言えばそうですね。数日前何故か倍くらいにhit数が伸びてたけど、アレは何だったのか……。怪奇現象ですね、きっと。まだ寒いって言うのに……。ともかくそろそろ移転も考える時期ですかねぇ。でも時間無いし。まぁ、このままだらだらやっていきますよ。
 コメントありがとうございました(ペコリンコ

 さて、お次のコメントでゲスよ。

19:18 出雲盛衰記、更新早くて展開も早くてとても面白いです……本サイトよりもこちらを見ている頻度高いかも(w
 と頂きました。
 更新早いと……。その内遅くなりますから。きっと。こんな超人的なハイペース更新続けてられるかぁっ! と脳内の軍曹さんがお怒りなのですよ。確かに最近本サイトの更新スピードが低迷中ですので、知ってる人はこちら見るんでしょうねぇ。嬉しいことです。期待を裏切らないように出来るだけ頑張りたいと思います。
 コメントありがとうございました(ペコリンコロリン

 さて、では最後のコメントですが、もしかしたら始めの二件と同じ人かな? 違ったらごめんなさい。

21:34 じんせーがねたろーにたべられたぁーっ?!
 と、頂きました。
 寝太郎……なんでしょうかね。その方が話が面白うそうだしそうしようかな。兔華乃とどっちにしようかなぁって思ってたんですけどね。あのセリフだけなら誰だか分からないし。それは次回のお楽しみにしておこうかどうしようか……。寝太郎だったら仁清の今後のあつかいが大変そうですねぇ(笑


 と、まぁこんなにも頂きましたよ。他にも押してくれた方々、ありがとうございました(ペコリンコロリンコロリンコ

 本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
 

【2006/03/16 13:48】 | アトガキ | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
出雲盛衰記20
 出雲盛衰記
 二十章



 ――どうなってるんだ、一体!

 下草の影から離れた場所で襲われている少女達を見て、少年は慌てた。

 ――ようやく見つけたと思ったら、なんで上乃と伊万里が襲われてるんだよ。

 少年は舌打ちしながらも背負っていた弓と矢を持ち出し、背後から二人を襲っていた護衛兵を射る。
 場所を悟らせないように、動き回りながら援護を続けた。


 戦いは僅か十五分ほどで終わった。

「上乃、九峪、怪我は無いか?」
 伊万里の言葉に二人は頷く。九峪に至っては返り血すら浴びていない。
「それと……」
 三人の視線は一本の大きな栗の木に定まっている。

「……出てきたら? 仁清」
 三人とも戦闘中に当然気づいていた。
 矢のささった死体がいくつもあるし、気が付かない方がおかしいだろう。

「出てこないなら、引っ張り出してやるぞ」
 そう言って伊万里が歩き始めると、渋々少年が姿を現した。

「やっぱり仁清だ」
 上乃は呆れたように呟いた。
「何しに来たの、あんた」
 仁清はそっぽを向きながら答える。

「何しにって、二人を助けに……」
「ずっと付いてきてたの?」
「違うよ。長老が行けっていうから仕方なく」

「視線はお前のか……」
 伊万里は納得したようでため息をつくとその場に座り込む。

「でも、一体なんなの? どうして伊万里が襲われなくちゃならないんだよ。それも、味方に……」
 状況の飲み込めていない仁清。
「――きっと星華さんだ。星華さんが私の事が気に入らなくなったんだと思う」

「そんな! 伊万里は別に何もして無いじゃないか」
「……関係ないんだろう。多分私をこのままこの任につけておけば、山人連中に強いコネが出来ると危惧したんじゃないかな。復興軍は飛ぶ鳥を落とす勢いで成長しているし、今更私がいなくなっても求心力には困らないから」

 仁清は愕然とする。
「もう、伊万里は必要ないって……そう言うこと?」
「……うん」
「そんな」

 仁清もその場に座り込んでしまった。
「でも、さ。なにか手柄持っていけば、星華様も考え直してくれるんじゃない? 伊万里がいないと困るって思わせれば」
「手柄か。それじゃ火に油を注ぐようなものだと思うよ」
「じゃあ、私たち、どうしたら……」
 もり立て役の上乃すら落ち込んでしまう。

「とにかく、一度川辺に戻ってこのことを問いただそう。最悪殺されることになるかも知れないけど、このまま逃げたら父上達にまで迷惑がかかるかも知れない」
 伊万里は辛そうに笑顔を浮かべて、そう決断する。

「止めておけ」

 止めたのは九峪だ。
「九峪さんには関係ないでしょう?」
「無いけどそれがどうかしたか? 死ぬって分かってるなら、引き留めるのが人情だろ」
「放っといて下さい。これは私たちの問題です」
 伊万里は九峪を無視して行こうとする。

「まぁ、別にいいけどさ。行くなら一人で行けよ」
 三人とも九峪の方を見る。
「そんなこと。私も付いていくよ」
「俺も」
 仁清も上乃も当然の用に言う。

「伊万里、これだけ信頼してくれてる奴ら、犬死にさせていいのか?」
「……どうしろって言うんですか?」
「簡単だよ。無かったことにすればいい」
「え?」
 仁清も上乃も当惑している。

「今回のこの襲撃自体、存在しなかったことにすれば、別に川辺に戻っても大丈夫だろう? 例えば、魔獣五匹に襲われて命からがら護衛兵を置いて逃げてきました、とかな。護衛兵は職務を全うして討ち死に。この時期に川辺から往復することを考えれば、死体は腐って確認しに来たときはそれが刀傷なのか噛まれた傷なのか分からなくなってるだろうし」
「そんな。でも、それじゃ何の解決にも……」

「ならんだろうな。だが、護衛兵を餌にして逃げてきたと言えば、伊万里の評判はガタ落ちになる。仕掛けて来た奴も殺してその疑惑を自分に掛けられることよりも、あからさまに自分より劣っている火魅子候補がそばにいた方が都合もいいはずだ。違うか?」
「それは……」

「でも、それだと伊万里が虐められちゃうよ、九峪」
「そうだな。多分散々こき下ろされるだろう。そうやらせればいい。そしたらそこで伊万里は自分が火魅子候補としてふさわしくない事を自分から申し出て、里に引っ込むと言えばいい。誰も止めないだろう」
「……そう、ですね」

「選ぶのは伊万里だ。火魅子候補として見栄を維持するために、優しいお友達と一緒に死ぬか、それとも恥を被って生き続けるか」
 伊万里はうつむいてしまう。
「少し、考えさせて下さい……」
 それだけ、ぽつりと呟いて。



 満月は二日前。
 月は煌々と輝いている。
「九峪。九峪は伊万里の味方なの?」
「ん~、どうかな」
「……味方に、なってあげてよ」

 甘えるような上乃の声。
 九峪はこそばゆいなと思いながら、その腕は腰にまわしている。
 身体を抱き寄せると、上乃は自分から口づけを求めてくる。

「ん、あむ、はむ」
 激しく絡まり合う二人の舌。
 九峪はそのまま上乃の身体を横たえ、革製の服の胸元を止めていた紐をゆるめる。

 上乃はそこで身体を離すと、九峪を見上げながら言った。
「駄目。これ以上するなら、ちゃんと約束し――あん、駄目だったら」
「軽々しく約束するなんて言われたって、信じられないだろ? だから先に俺が信用に足る人間だと身体に教えてやるから」
「な、何なのその理屈は! いいから、先に……ああっ」

 九峪の手が背筋を這うと、その感触に上乃は身をよじる。
「敏感だな」
「もう、馬鹿」
 上乃はそう言いながら、九峪の股間に手を伸ばした。
「そっちだって、もうこんなにして。……窮屈そう。出してあげるね♪」

 上乃はそう言って悪戯っぽく笑う。

(中略

「はあ、はあ、はあ、九峪、凄いよ。こんなの私……」
「……これで少しは信用できるか?」
「うん、もう最高」
 上乃は話を聞いていない。

 九峪はやれやれと思いながら、自分の服の上で寝転がる上乃の肌にそっと触れる。
「あ、何……。まだするの?」
 期待するような目を向ける上乃。
「ん~、何を?」
「ナニかな?」
 淫猥な笑みを浮かべる上乃。

 九峪は少しばかり疲れたようにため息をつく。
「あれ? 九峪も歳だからもう駄目なの?」
「そんなんじゃ無くてだな……」
 言いながら上乃の敏感な所をまさぐる。
「あ、ん……。そんな事したら溢れちゃうよ」
「さっきからお友達が混ざりたそうにしてるから、どうしたものかと」
「え?」

 上乃はそう言われて辺りを見回す。
 風が吹き、長い髪が木陰からはみ出している。
「伊万里」
 上乃が呟くと伊万里は顔を赤らめて出てきた。

「いつからいたの?」
「割と始めからだな」
 伊万里の代わりに九峪が答える。
「混ざりたいなら言ってくれればいいのに」

「誰がだっ! 人の気も知らないでこんな、こんな事……」
 どうやら、伊万里の顔が赤いのは怒っているためらしい。
「……ごめん、伊万里」
 上乃はしゅんとして俯いてしまう。

「でも、九峪なら伊万里のこと、なんとか出来るんじゃないかなって思って。本当は、もっといい方法も知ってるんじゃないかなって。だからそれを聞き出そうと思って」
「上乃……」
 伊万里はそう言われてしまうと二の句が継げなくなる。
「でも、九峪あんまり上手いから、途中から目的すり替わってたけどね♪」
 テヘ♪ と笑ってごまかす上乃。
 またもやぶち壊し。

 伊万里は怒っていたのも馬鹿らしくなって、用件だけを告げる。
「九峪。私は恥を被って生きていくなんて、きっと出来ない。それに演技もあまり得意じゃない。きっと川辺に戻ればぼろが出る。そうすれば結局同じ事だ。だから、私は起こったことをありのまま言いに行くよ。それで、少しでも復興軍が変わればいいと思う」

「そうか。ふっふっふ」
「何笑ってるの?」
「いや、嬉しいこと言ってくれるなと思ってさ。少しでも変わってくれればいいと、そのために命を捨てることを厭わないか。いやいや、なかなか出来た火魅子候補様だな」
「その呼び方、もう意味がないから止めてくれ」

 九峪は首を振る。
「いや、正直味方の寝首を掻くことしか頭にない、星華とか言うのに比べたら、伊万里は立派に火魅子候補だよ。例え血筋じゃなくともな」
「え?」
「火魅子候補だなんて言ってるが、そんなもん真っ赤な嘘。神器の精が耶麻台国を復興させるためにでっち上げたもんだよ。始めから伊万里は王族なんかじゃない。もちろん、星華もな」

「なんで……、そんなこと」

 九峪は盛大にはしょって事情を話す。

「じゃあ、本当の王族を九峪は支援してるの?」
「そう言うこと。どうだ? お前等もこっちに加わらないか? どのみち、このままじゃお前等に居場所はないんだしな」
 九峪はそう言って笑みを浮かべる。

「でも、なんで始めからその話をしなかったの?」
「確かに」
 少し怒っているような二人。
「……生きていくことだけなら、伊万里の選ばなかった道もある。俺と来ると言うことは戦争するってこと。この状況で死を選べない人間なんて連れて行っても役に立ちゃしないだろ?」
 当然のように告げる九峪。

「意地悪だね……九峪」
「ああ、意地悪だ」
 少女二人は、拗ねたように呟いていた。




 ☆オマケ☆


 上乃の痴態を眺めながら、一人息を荒くしている仁清。
「上乃~、なんでそんな男と……」
 言いながらもなま暖かく見守っている。

「楽しそうね……」
 耳元で声が。
 慌てて振り返る仁清。
「フフ、可愛い。あなたの相手はこの私が……」
「ほうっ!」

 ぱっくり銜えられて、腰が引ける仁清。
 声の主は、楽しそうにその反応を見ながら微笑んだ。











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【2006/03/15 18:30】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
出雲盛衰記19
 出雲盛衰記
 十九章



 ――気のせいか?
 伊万里は視線を感じて振り返る。
 そこには腕を組んで歩く上乃と九峪の姿がある。
 楽しそうに二人は会話をしているが、伊万里の方など全く見ていない。

 ――考え過ぎか。
 伊万里は前に向き直ると頭を振る。
 
 ぞわ……

 背筋に悪寒が走る。
 やはり見られているようだ。
 そう思ってまた振り返ってみてもやはり九峪はこちらを見ていない。

 上乃とのおしゃべりに夢中なようだ。
 九峪でなければ、視線は一体どこから?

「どうしました? 伊万里様」
 護衛部隊の隊長が伊万里の様子がおかしいことに気が付いて声をかける。
「いや、さっきから誰かに見られている気がして……」
「敵ですか?」
「分からない……」
「では、いったん小休止にして、周辺を探りましょう」
 
 隊長の言葉に伊万里は頷いてみせる。
 小休止と分かって、上乃と九峪は倒れた木に腰掛けて、肩を寄せ合ったままおしゃべりを続けている。
 わざとらしく上乃が胸を九峪の腕に押しつけているのが伊万里にも見えた。

 ――まったく、あいつは。

 上乃は自分の身体を手段として用いることに躊躇がない。自分の立場のために男を籠絡するのはよくやることだ。
 伊万里には到底真似出来ない行為だった。
 

 伊万里はそんな二人から視線を外すと周囲の警戒に移った。
 誰かは知らないが確実に見ているヤツがいる。
 もしかしたらそれは護衛兵の誰かかも知れないのだが、少なくとも二月は一緒に行動していて、そう言う視線を感じることは一度もなかった。
 考えられるとすれば九峪だけだったが、どうやらそれもなさそう。

 となれば完全な部外者と言うことになるだろう。

「伊万里様」
 隊長が水筒を差し出す。
「ありがとう」
 伊万里は受け取ると口を開けて傾けた。

「!! え?!」

 一瞬だった。
 確かに水筒の水を飲もうとしていたのに、水筒が一瞬で消えた。

 狼狽しながら何処に行ったのか周りを見回す。
「ん~、こりゃあれだな。ヒ素だ……」
 九峪がいつの間にか伊万里の隣でしゃがみ込み、水筒を傾けている。
「え? え?」

 唐突な状況に慌てて上乃の方を見る。
 上乃も突然九峪が消えて狼狽していた。
 そんな二人を無視して九峪は隊長の方を見る。

「なぁ、お前。こんなもんでどうするつもりだったんだ?」
 狼狽している隊長。
「ぐ……、それはこっちのセリフだ。そんな毒で伊万里様を……」
「毒?」
 伊万里が首を傾げる。
 しまったと自分の口を塞いで慌てる隊長。

「くっくっく、語るに落ちる以下だなお前。毒ってなんで毒だって知ってんだよ。おまえヒ素なんて知らねぇだろ」
 九峪は言いながら平然とそれを飲んでいる。
「な、なぜ……」
「あ? これには入ってねぇよ。お前の持ってるそれだ」
「え?」

 隊長は自分の手にもつ水筒を取り落とす。
「九峪……どういう事だ?」
「どうもこうも、な」
 不思議そうにしている伊万里の表情が変わる。
 護衛兵達が一斉に剣を抜き、殺気を向けてくる。

「な、お前等どういうつもりだ!」
 伊万里は剣を引き抜いて構える。

 隊長は伊万里の言葉など聞かずに九峪の方を睨んでいる。
「貴様、一体いつ気が付いた」
「はじめから」
 九峪はこともなげに言う。

「九峪? これって……」
 上乃が護衛兵を牽制しながら伊万里と上乃の元まで来る。
「ん、察しが悪いな。決まってるだろ。伊万里を殺して火魅子候補を一人減らそうって、どこぞのお偉いさんが考えてたって話だ。多分、都合良く現れた怪しい俺を犯人に仕立て上げるつもりだったんだろうな」
「伊万里を! 一体誰が!」

 上乃は憤然として護衛兵達を睨み付けたが、伊万里は複雑そうな顔だった。
「そんな、それじゃこれまで色々面倒を見てくれてたのは、全部縁起だったのか!」
 隊長は泣きそうな顔で叫ぶ伊万里に鼻で笑ってみせる。
「馬鹿かお前。お前のような芋臭い山猿が、火魅子候補など勘違いも大概にしておけ!」

「!!」
 絶句する伊万里。
「なんてこと言うんだ! お前等全員死んじまえっ!」
 上乃はものすごい形相で手近な一人に斬りかかる。

 それが合図となった。包囲をしていた護衛兵達が一斉に三人に襲いかかる。
「勘違い……なのかね」
 九峪はその修羅場でつまらなそうに剣をかわしている。
「何がだ」
 独白に返事を返したのは隊長。

 九峪の隊長の視線が空中でぶつかる。
「ま、いろいろ。お前等が俺たちを殺せると思っているとすれば勘違いだし、結局火魅子候補殺しに関わったお前等を、命じた誰かさんが生かしておくと思ってるならそれも勘違いだし、なにより自分の娘くらいの女の子に平気で剣を向けてそれに大義があるなんて妄想出来るならそれこそ救いようのない勘違い」

「我らは命じられたことをこなすだけだ」
 そう言った隊長の視界から、九峪が消える。
「哀れだな。だが、容赦はしない」
 声は背後から。

 隊長は、振り返る暇など与えられなかった。

 その首に、己の剣を突き立てられ気が付いたときには血が勢いよく噴き出している。

「ば、か……な……」

 消えゆく意識の端で、悲しそうに自分を見下ろしている九峪の顔が見えていた。







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【2006/03/14 22:09】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
出雲盛衰記18
 出雲盛衰記
 十八章



 山人出身の火魅子候補、伊万里は火向の各地に散らばる山人の支援要請に山の中を行ったり来たりしていた。

 正直な話、いきなり火魅子候補だと告げられても伊万里には寝耳に水以外の何者でもなく、得意でもない人の説得や勧誘はただ疲れるだけでちっとも楽しくなかった。
 これならまだ前線で剣を振るっていた方が気楽だと思っていたのだが、今の内に王族としての仕事に慣れておく必要があるという復興軍内部からの――殆どが宗像神社系だが――意見に押し切られてしまった。

「伊万里~、人が倒れてるってさ~」
 乳姉妹の上乃は伊万里の気など知らず、火魅子候補と分かっても敬う気持ちは欠片もない。そのせいか伊万里は自分が火魅子候補だとまるで自覚していなかった。
 今までの仕事も王族としてではなく、全て伊万里個人のものとしてやって来た。

 ――大体……

 伊万里はため息混じりに自分に付いている僅かばかりの護衛を見つめる。
 復興軍は急速にその規模を拡大しているが、それでもやはり兵力は幾らあってもありすぎると言うことはない。そんな名目で護衛最小限。

 理由としては既に支配下に入った場所を回るのだから、それほど危険性はない、と言うことらしい。火魅子候補とは言えいきなり名指しされて後見人も何もない伊万里は言うとおりにするしかない。
 とんだ傀儡だった。

 伊万里は上乃の声の方に渋々足を向ける。
 不満はたくさんあったが、それでも九洲の現状を何とかしたくて復興軍に入った以上、今の仕事を何とかこなそうと頭を切り換えた。



 伊万里が上乃の元に行くと、護衛兵が倒れている人間を起こしているところだった。
 見たところ男の旅人のようだった。
「生きてるのか?」
「はい」

 衣服は所々破れ、血に濡れてカピカピになっている。
 上乃は無精髭面の男に興味津々な視線を向けている。
「怪我は?」
「目立った外傷は無いようですが」
「じゃ、返り血かな?」
「一応周囲を警戒しろ。万が一と言うこともある」

 伊万里の指示で護衛兵が数人様子見に走る。

 どうしたものかと伊万里が男の顔をのぞき込んでいると、不意に男が目を覚ました。
 急に目を見開いたので伊万里も上乃もビックリしてのけぞる。
「――ふう」

 男は周囲をぐるぐると見回して、伊万里と上乃を交互に見ると最後に護衛兵に目をやり立ち上がる。
 その行動に慌てて上乃は槍に、伊万里は剣に手をかけた。
「ああ、待て待て。見たところ復興軍の連中のようだが俺は別に怪しいもんじゃないし、敵対してるもんでもない。タダの旅の薬師だ」
 男は慌てて手を振る。

 伊万里は丸腰と言うこともあって、幾分警戒を解く。
「こんな所で倒れてどうしたんですか? それにその血……」
「まぁまぁ、尋問もいいが名前くらい名乗らせてくれ。俺は九峪。あんたらは?」

「伊万里だ」
「私は上乃。伊万里はこう見えて火魅子候補なんだよ~。偉いんだから」
 上乃が補足すると、伊万里は不機嫌そうな顔になる。

 九峪は少しだけ驚いた表情を見せたが、直ぐにへらっと笑う。
「そりゃ凄いな。へぇ~、これが火魅子候補か~」
 全然敬う気がなさそうな口調に、上乃の方がむっとする。
「なによその言い方。大体これって……」
「ああ、悪い。口が悪いのは生まれつきでね。しかし火魅子候補様がなんだってこんな山奥に?」

「あなたには関係ないでしょう。それよりそちらこそ質問に答えて下さい」
 九峪は肩をすくめる。
「昨日の晩魔獣に襲われてね。危うくクソになるところだった。大した数じゃなかったから何とかなったが……」
「魔獣!」

 慌てて周囲を警戒し始める伊万里と上乃。
「いや、倒したから大丈夫だ」
「魔獣を……一人で?」
 怪しい、とでも言いたそうな上乃。

 すると周囲を見に行っていた一人が戻ってきて魔獣の死体が見つかったと告げる。
 伊万里は警戒心の籠もった視線を九峪に向ける。
 報告されたのは一体ではない。都合五体の魔獣の死体だ。

 魔獣五体となると、一人で相手するには魔人一匹よりも難儀な相手だ。それを素手で、その上無傷で倒せる人間。
 復興軍にもそんな人は一人くらいしかいない。
「さすがに疲れて寝てたんだが……心配させちまったみたいだな」

 そう言って軽く笑ってみせる九峪。
 上乃はそんな九峪をじっと見た後、伊万里の腕を引っ張ってその場を離れる。
 声が聞こえない場所まで離れると、上乃は護衛兵と何事か話をしている九峪をちらちら見ながら話を切り出す。

「ねぇ、伊万里。あのおじさん連れて行こうよ」
 神妙にそう言われて伊万里は顔をしかめた。
「危険だ。素性も知れないのに……。敵の罠かも知れないだろ」
「え~、でもそうじゃなかったらものすごい戦力を連れて行けることになるんだよ。火魅子候補としての伊万里の株も上がるじゃない」
「星華さんに睨まれるだけだよ……」

 消極的な事しか言わない伊万里に、上乃は頬を膨らませて指を突き付ける。
「いい、伊万里! もし星華様がこのまま火魅子になったりしたら、伊万里なんてけちょんけちょんにされて殺されちゃうよきっと! 藤那様だってそのせいで……。本当に伊万里が火魅子候補かどうかなんて知らないけど、もう火魅子にならなくちゃだめになってるんだよ。じゃなきゃ、きっと……」

 伊万里は上乃がそこまで考えていたことが意外でもあったし、自分の身を案じて真剣になっている姿が嬉しくもあった。
「上乃……」
 じんとしながら、何事か言おうとすると、上乃がにんまりと笑って付け足す。
「それにあの人ちょっとかっこいいし」

 頬を染める上乃。全部ぶちこわしだった。

 伊万里はあきれ顔でため息をつくと、手をひらひらとフリながら勝手にすればと突き放す。
「じゃあ、勝手にするね~。お~い、九峪~」

 上乃は意気揚々と駆けていき、事情を九峪に説明している。
 九峪が何事か答えると、上乃は目に見えて肩を落とした。
 断られたのだなと、何処か伊万里が安堵して二人の方へ足を向けると、突然上乃が顔を上げ、あまつさえ九峪の手を取って飛び上がり始める。

 嫌な予感がしていた。
 ものすごく嫌な予感が……

「伊万里~、九峪次の里までなら一緒に付き合ってくれるって~」
 そう言いながら上乃は伊万里にだけ見えるように、右手で合図を送っていた。
 伊万里は心底げんなりする。



 その合図は、上乃が男を誘惑して落としてやるという、そんな破廉恥な意思表示なのだった。









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【2006/03/11 22:37】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
出雲盛衰記17
 出雲盛衰記
 十七章



 阿祖北部にある小さな里。
 九峪の案内で伊雅達はその里にいた。
 なんでもこの里の長老が九峪に恩があるとかで、どこからどう見ても怪しい面々を素性も聞かずに受け入れてくれた。

「……さて、どうするつもりだ、九峪」

 人心地付いたところで雲母が問いただす。
 復興軍を出し抜いて九洲を手にする。
 目的は各人各様だが、全員が最終的に目指すべきはそこになる。

「言い出しっぺはお前なんだ。まさか何も考えていないって事はないだろう?」
 九峪はそんなことを言われるのは心外だ、とでも言いたそうな目を雲母に向ける。

「俺はあくまで戦をしたり国を作ったりする上で必要そうな人材にアテがあると言っただけで、戦争の仕方も国の作り方もはっきり分かってる訳じゃないさ。そう言うことなら雲母の方が詳しいだろ」
「まぁ、そうだろうが。その私が既に復興軍に一度敗れているという事実を忘れて欲しくないな」

「なんで負けたか分かってるなら、勝つ方法も思い浮かぶんじゃないのか?」
「そんな簡単に分かるなら苦労はないだろ」
 不機嫌そうにそっぽを向く雲母。

 九峪は拗ねた雲母は放っておいて、藤那の方に向き直る。
「じゃあ藤那。お前から見て復興軍の崩せそうな部分は?」
「崩せる部分か。人間関係はかなりごちゃごちゃしてるが、それでも宗像神社の関係者が強い影響力を持ってる以上、多少端々を切り崩そうとしても大勢に影響は無いだろうな」
「まぁ、藤那の話が確かなら、俺の人脈で火魅子候補や幹部から何人か引き抜きは出来るが、それくらいじゃ多分揺るがないって事か?」
 藤那は首肯する。

「むしろ嬉々として裏切り者と処分しに来るだろう。星華の馬鹿は状況が見えていないからな。自分の権力欲だけに酔って」
「そう言うヤツが上の立場の割りには、復興軍は上手く回ってますね」
 清瑞が不思議そうに呟く。

「ああ、それは亜衣という軍師と、天目とか言う変な女のせいだな。亜衣が後方で全体を見渡して、戦場では天目が鬼神の如き活躍をしている。正直天目が加わるまでとその前とでは復興軍の勢いが全然違うからな」
 変なヤツだけど、と藤那。

「その天目というのは、戦場で裸同然の格好で歩いてる変態のことか?」
 雲母がとげのある口調で問いただす。
 藤那は何も言わずに頷いた。

「ほう、やはりアレが天目か。私の部下もあいつにやられた」
 憎々しげに言いながら、視線は九峪の方を向いている。

「正直あの女がいる限り、正面から復興軍を打倒するのは難しいと思う。九洲奪還を目的として民を籠絡すれば兵自体は集まるだろうが」
 藤那はそう言って頭を振る。

「それは心配いらんのだが……」
 九峪が呟くと、藤那は意外そうな顔をする。
「なんだ、知り合いなのか?」
「いや、俺の嫁だし……」

 一瞬の沈黙。

「なにぃ~~~っ!! そんな話は聞いてないぞ九峪! 私とずっと一緒にいるというのは嘘か!?」
 藤那は叫ぶと九峪に掴みかかる。
「いや、別にいたければいればいいと思うんだけどな」
「貴様というヤツは、見損なったぞ」
 藤那は九峪とそれほど長い間一緒にいたわけではないので、九峪が浮気性だと言うことなど微塵も知らない。
 ちなみに藤那を七年前助けたときは、天目は一緒にいなかった。

「うほん、とにかく九峪殿の妻と言うことであれば、最終的にはこちらに加わってくれると言うことですな」
 伊雅がそう言って乱れた場を立て直す。
「ああ、多分な。もっとも俺の言うこと素直に聞いてくれるヤツでもないんで、その辺は調整が必要だけど」
 俺が死にそうになるだけで大丈夫だ、と九峪。

「復興軍の主力を殺げると言うなら、大打撃は与えられるな。だが、それだけで崩れるか?」
「駄目だろうな。狗根国にも少し頑張って貰わなくちゃ」
 九峪は何気なく言ったが、それには雲母以外が難色を示す。

「九洲の民が虐げられるような事態は避けたいが……」
 呻くように呟く伊雅。
「んなこと言ってもなぁ」
 九峪はぽりぽりと頭を掻く。

「まぁ、それならそれで何か策を考えて貰うしかねぇか」
「誰に?」

 清瑞が間髪入れずに問うと、九峪は偉そうに胸を張って答える。
「自分で考えろっつーの。俺は考えるの好きでも得意でも無いんだよ」
 全員大きくため息をつく。

「狗根国を利用すれば、策はあるというのか?」
 雲母が場を取りなすように聞くと、九峪は肩をすくめる。
「さぁね。ただ、天目が抜けたからって、軍を丸ごと持ってこれるわけでもないだろう? そうなったら俺たちが幾らかき集めたところで対抗出来ないくらいの兵力の差が残るだろう。それで最後の決戦みたいになっても、勝てるかどうか微妙だと思ったからさ。出来るだけ復興軍に苦戦して貰って、むしろ敗北してくれるくらいまで追いつめられてしまえばつけ込む隙も出来るってもんだ」

 九峪はぼりぼりと頭を掻くと立ち上がる。
「まぁ、細かいことは任せる。別に兵法に詳しくもない俺がごちゃごちゃ言ったところで詮無いだろ。伊雅のおっさんにしろ雲母にしろ戦争は専門の人材がいるんだからそっちの方はそっちで考えてくれ。取り敢えずここを拠点にしている限りは復興軍の連中にも見つからないからな」

「まて、何処に行く気だ?」
 貸し与えられた部屋から出て行こうとする九峪を雲母が引き留める。
「小便。一緒に来るか?」
 九峪はへらっと笑って見せる。
「……」
 雲母は黙ってそっぽを向いた。

 九峪はそれを確認して出て行く。
 それから暫く、残された四人はうんうん唸って知恵を絞っていたのだが、いつまで経っても九峪が帰ってこない。

 代わりに少女が一人顔を出した。
 村の娘という雰囲気ではない。雲母と清瑞が剣に手をかける。

「あ~、ここに九峪って馬鹿面した親父いる?」
 少女は開口一番、口汚くそう言う。
「九峪なら厠だが……」
 伊雅の言葉に少女は大きくため息をついた。

「はぁ、あのクソ親父」
「親父?」
 雲母が首を傾げる。

「アンタは確か狗根国の。ふ~ん、なんで耶麻台国の王族と仲良くしてるんだか。ま、どうでもいいや。九峪は私の正真正銘の父親。で、それがどうかした?」
「……九峪のヤツ、子供までいたのか……しかもこんな大きい」
 藤那があからさまに落ち込んでいる。

「で、私が狗根国のもので、それが王族といると何故分かる?」
 雲母は警戒を解いていない。
「知ってるから。アンタ、お母様にけちょんけちょんにやられたの見てたし。逃げていくのもね。で、母様の所には今兔音さんもいるし、火魅子候補の一人も私は知ってるし、その火魅子候補は伊雅っておっさんを討伐しに言ったはずで、ってこれ以上言う必要ある?」

 いや、と雲母。
「それで何しにここへ? この場所を知っていたことは娘だというのであれば不思議でもないが」
 伊雅の問いに、小夜は肩をすくめる。
「お母様にクソ親父の思惑を聞いて来いと命じられてね。まぁ、上手く逃げられたみたいだけど」

「逃げられた?」
「うん。間違いなく。気配しないもん」
 小夜はその場に座り込む。

「あ~あ、あの親父が逃げに入ったら探すだけ無駄だし、お母様になんと報告したものか……」
 頭を抱えて真剣に悩み出す小夜。
 一同は困ったようにその様子を眺めていた。



 一方その頃……

「やれやれ、天目も本気で俺を捜す気か? 今小夜なんかにあったら寸刻みにされちまう。もう少しこの自由を味わっておかんとな。さて、次は何処に向かうか……」

 九峪は荷物を背負い直し、足取りも軽く山の中を駆けだした。










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【2006/03/10 19:30】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
出雲盛衰記16
 出雲盛衰記
 十六章



 ―――九峪。
 
 ――九峪。
 
 ―九峪。


 頭の中で何度も反芻する。
 会えなくなってからもう随分経つ。
 いつもは一月もいなくなることは無いのに。

 前から仇討ちには消極的だったけど、それでも最後には納得してくれると信じている。
 あの場には九峪もいたのだ。

 私の両親が、非業の死を遂げたその場所に。



「天目。考え事?」
 天目は視線を下に下ろす。
 そこには頭に大きめの頭巾を被った少女がいる。

「なんでもない。それより兔華乃。本当に九峪は生きてるんだな?」
「あら、私の占いを疑うの? それに兔音だってちゃんと会ってるんだし。あの人の限って万が一なんて無いわよ」
 コロコロと笑ったかと思うと、直ぐに視線を鋭くする。

「でも、許せないわよねぇ、九峪さんたら。私たちに黙って兔音と……」
 
 びぎっ

 兔華乃の持っていた酒瓶にヒビが入る。
 天目はその様子を鼻で笑って、自分の指揮下の部隊に視線を戻した。

 天目は復興軍に加わると同時に、当初の予定通り重用されたが、主に本人の性格上の問題から前線に送られて、今は豊後攻めの指揮官になっている。

 耶麻台国の連戦連勝。その理由の一つが天目であることは間違いがない。
 亜衣が送ってくる策を勝手にいじくりまわして、状況に応じた用兵を行っている。亜衣も成果が出ている以上文句は言えないし、川辺では自分の策で上手くいっていると思わせている。

 天目はその辺りのことは当然察しているが、今は泳がせている段階だ。
 豚は太らせて食え。それが天目の持論だ。

「こないだの四天王とか言うのも大したこと無かったし。もう少し強い人が出てきてくれないと、私つまらないわ」
 兔華乃が不満そうに口をとがらせる。
「お前が満足するような相手に早々出てこられては、復興軍など直ぐに瓦解してしまう。それにこないだのは偽者だろう」
「あら? そうなの?」

「小夜の報告だと、本物は敵わないと見て逃がされたそうだ。それにおそらくそいつは今九峪と一緒にいるだろ」
「ああ、そう言えば兔音がそんな事を言っていたわね」
「九峪が手を出していないはずはないしなぁ」
 諦めたように天目は呟く。

「あなたも大変ねぇ。でもいいじゃない。結局九峪さんはあなたを選んでくれたんだから。私たちなんておこぼれに預かってるだけで」
「一月以上も姿を眩まされては、そうも言ってられないな」
「まぁ、そうかもしれないけど」

 今までもいなくなることはよくあった。
 大抵は満月が近づくと子供を巻き込むことを嫌っていなくなる事が多かったが、それだけで直ぐに戻ってきたものだ。

 それが、今回は随分と遅い。

「何か、企んでいるのかな、あいつも」
「そう言えば、火魅子候補が一人死んだらしいわね。あれなんか怪しいわ」
「そうだな、おそらく九峪が関わっているだろう。こんな事なら桂か小夜をつけておくんだった」

「子供達も大変ねぇ。こんな母親を持つと」
「別に私の子供じゃない」
「肝心のあなたの子供は?」
「その辺で遊んでるんだろ」
「育児放棄ね」

「私と九峪の子供がそう簡単にくたばるか。おおかた魔獣でも狩ってるだろう」
「心ないあなたに代わって兎奈美を貼り付けておいてあげたけど」
「そうか」
「お礼は」
「必要ないだろ。別に頼んでない」
 まったく、と兔華乃は呟くと踵を返す。

「そんなんだから、九峪さんにも愛想を尽かされるのよ」
 それだけ言って去っていく。

 愛想を尽かされる。

 そんなワケがない。

 天目は確信している。

 天目にとって九峪は、恋人であり、夫であり、兄であり、父親でもある。
 この世界で唯一九峪だけが家族と呼べる他人だ。
 離れていても、心は一つ。

 家族、いや、すでに自分の一部。



 ――副国王とやらの所に行ったと言うことは、九峪はそちらに付いたと言うこと。そうでなければとっくに戻ってきている。


 天目は不確定な状況から、九峪がそこにいたことを露ほども疑わずに推測する。

 ――そもそも、神の遣い、実質天魔鏡がそこに火魅子候補を差し向けたのは、間違いなくそいつを消すため。それを阻んだと言うことは、九峪はそちらに正当性があると認めたということ。


 そして未だに何も話を行ってこないと言うことは……


「勝手にやるつもりか。まぁ、放っておいても問題はあるまい」

 九峪は最終的には自分の事を考えて行動している。
 天目はそのことを疑っていなかった。

「小夜。いるか」

「はいはい、ナンデショウカ?」

 何も無いところから癖毛の少女が現れる。

「お父さん、探してきてくれる? どういうつもりなのか聞いてきて」
「そんなの桂にやらせれば? なんであんなクソ親父のとこ」
「小夜……」
 天目に暗い声で名前を呼ばれ、小夜は舌打ちすると盛大にぼやきながら踵を返した。

「はいはい、行きます行きます。行けばいいんですね、お母様。なんか伝言は?」
「愛してるって」
「……ああ、そうですか。じゃ、行ってきます」
 そう言い残して小夜はいなくなった。

 天目はため息をつくと、これから攻略する長井の街へ意識を戻した。


「帰ってきたら、また釘を刺さなくちゃね、九峪」


 そう、一言だけ呟いて。













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【2006/03/09 16:25】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
会議でも小説でも無い何か




 ああっ! 死んでしまいたいっ!



 唐突に変なことを叫んでしまいました。微妙にご無沙汰だった管理人です。
 いや、もう色々なことが面倒で仕方がない季節ですね。その原因が主立って自分のダメ人間な性質によるところだというのは認識しているんですが、自覚はないようです。あほですね多分。多分というか真性のあほだとしかいいようがありまあせん。

 さて、そんな見ている人が不愉快なものをネット上にばら撒いて恥をさらすのはこの程度にしておきましょう。実は現在使っているPCが人様のもので、会議書くにも小説書くにも不便極まりないのですよ。勝手にキャラの名前辞書登録するわけにも行かないしね。それで、本日はただの日記みたいなモンに。

 まぁ、ぶっちゃけ、数日分たまったweb拍手へのお返事と、コメントへのお返事をしようと思っているしだいでございます。いつもの追記分だけ書くって感じですね。

 では、3/2のweb拍手のお返事から。この日は一件ですね。

19:19 志野こわいなぁ…珠洲がんばれっ。只深は腕と方術の条件に当てはまらないから…魅土とか寝太郎とか?
 と、頂きました。
 志野は恐ろしいですね。色々な意味で。というか、志野って作者が書くとどれでも性格があまり変わりませんね。今回の志野は若干弱虫な感じにしようと試みたんですが、最後のアレでぶち壊しです。で、珠洲は盛衰記では九峪に好意的なわけですが、出番があるのか無いのかどっちなのか。
 それで、後半部は火魅子候補を誰にするかですね。いわれるまで只深が書いた条件から除外されることに気がつかなかった作者……。誰にしよっかなぁ。まぁ、そのキャラが必要になるかもまだ分からないので、話の流れで必要そうな人を抜擢することにします。

 続いて3/3のコメントです。

20:40 ぐはっ、好きな志野が出てきたのに九峪と絡まない…これは昔の回想として出会いのお話をしてもらうしか(笑
 と、頂きました。
 志野の過去話……カハッ…。志野の話は書こうとすると長くなりそうな上に、多分どっかで見たようなやつしかかけないと思うんだなぁ、これが。う~ん、しかもこれからの作者の九峪の活躍方面から考えるに、志野の出番はあまり無いかも。どうしよう、出すほうがいいのか、悪いのか。最近編年紀でも志野成分が不足しているから、ちょっと考えて見ます。

 さて、4,5,6は拍手は押していただいたようですが、コメントは無いようですね。押してくれた方ありがとうございました。

 ではでは、続いて最近ご無沙汰だった気もする、あの方のコメントへ…


コメント
先日、やっとマブラヴオルタやり終えた逃亡者です。
調子の悪いPCを騙し騙し頑張りましたよ。特定の箇所を叩けば一時的に正常に戻るんですよね、壊れかけのTVみたいに……
まあ修理するか、買い換えろって話なんですけど。
そんな状態の上に同時進行でG.P.O.もプレイしてた為メッサ時間かかりました。
まだG.P.O.はクリアしきってないんですがね……

しかし、しばらく来ない間にかなり更新されてますね。
雲母お姉さまの出番が増えてたり、清瑞たんとか藤那様も出てきたし。
しかも藤那が逃亡者好みアレンジされてますよ?
清瑞は元々好きだったけどそこに『亡国のお姫さま』なんて記号を付加されたらその破壊力は測定不能ですw
乱破属性のない清瑞は世間知らずの純情娘っぽいですよね。そこがまたイイ!
雲母お姉さまは天目さまを差し置いてメインヒロインとしてのポジションを着々と固めている様子。
天目v.s.雲母が楽しみです。アリーナ席のチケット予約したいのですが、予約開始は何時からですか?
 
表の方も何やら急展開ですね。
ただのオリキャラだと思ってた十七夜にあんな設定盛り込むなんて……
十七夜に対するマイ評価が若干上方修正されちゃいましたよ? 
逃亡者はお姉様キャラかツンデレ属性だと思ってたのに……
ただあのオッサンを絡めるなんて、さすがに厳しい戦いになりそうですね。
 と、頂きました。
 まず、マブラヴオルタが何なのか分かっていない作者。ギャルゲーですか? ともあれお疲れ様です。PCも壊れかけのTVみたいって、電化製品の基本ですね。で、G.P.Oって言うのも分からんです。最近ゲーム自体ぜんぜんやれてないものですから。ああ、たまにはRPGを頭痛がして吐き気がするまでやり続けたい……

 と、前置きにこんなに返事を返しても仕方ないかもしれませんね。それで、多少がんばって更新しました。二月中だけがんばろうということで。三月に入ったらこれですよ、というか、まぁ、PC自体触ってなかったんでしょうがないんですが。清瑞はともかく雲母の出番はそろそろ削らないと、誰がヒロインやらって感じですね。……今更ですね。藤那は編年紀でのアレな扱いを詫びる為にああいう出方をしたわけですが、ちゃんと閑谷に会えるのかどうか。まぁ、野郎の所在なんてどうでもいいかもしれませんが。清瑞がお姫様を自覚していたらどうなるか。別キャラになるとしか作者には判断できませんでしたが、あんまり変わってない気もしますね。ていうか、豹変しすぎていたらアレだし。

 ちなみに天目v.s.雲母はきっと実現しますが、いつになるかは謎ですね。今世紀中に何とか書きたいところです。アリーナ席のチケットのほうは、日程が決まり次第告知したいと思いますw

 さて、編年紀の方ですが、十七夜の設定はまぁ、設定だけで……いい加減で申し訳ない(なんて書いてるこれ自体がミスリードなのかも……あ、嘘ですけどね。 評価が上がってくれれば何よりでございます。

 で、最後の一文なんですが、オッサンって誰のことですかねぇ。伊雅? 亡月? 十七夜の話だと伊雅だけど、なにせ設定だけですから絡みはあるかなぁ……(汗

 ともかく逃亡者さん感想ありがとうございました。



 では、本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ



【2006/03/07 00:20】 | 未分類 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
出雲盛衰記15
 出雲盛衰記
 十五章



 火向の国都である川辺城。
 その一番高い場所にある部屋で、天魔鏡の精キョウはご機嫌斜めだった。
 阿祖山中に反乱分子を始末に向けた部隊が全滅し、せっかく祭り上げた火魅子候補の一人も失ってしまった。

「ま~ったくさぁ~。使えないよね藤那もさ~」
 盛大にぼやくと、窓際で街を見下ろしていた巫女服姿の女が、鈴を鳴らしたように笑う。

「それは無いでしょう、キョウ様。仮にも元耶麻台国副国王の隠れ里ですよ? 百程度の部隊しか送らなかったのですから、こういう事態も有り得たでしょうに」
「……百くらいで十分だって言ったのは星華だよ。まったく競争相手減らしたいからって、あんな真似」

 巫女服姿の女は口元を隠しながら、目だけ笑って見せる。
「いやですわキョウ様。あんな田舎臭い女と私が競争相手だなんて。私は単純に分不相応な者に火魅子候補などという立場は似合わないと教えてあげただけですよ」

 ――女ってこれだから。
 キョウは内心でそんなことを思ったが、別に藤那が死んだ事などどうでも良かった。おかげで伊雅討伐を本格的に行う名文が出来た。

 元副国王伊雅は十五年前も狗根国に通じ、耶麻台国滅亡に加担したうえ、今もまた火魅子候補を殺害した。
 こんな所だろうか。
 現在の復興軍は十五年前の戦争に直接関わっていた者は殆どいない。

 伊雅の正当性を訴えられる人間は何処にもおらず、逆にそう言う意見が出ても火魅子候補と神の遣いに心酔している兵達により圧殺されるだろう。

「そう言えば神の遣いはどうしてる?」
 キョウの言葉に、星華は肩をすくめる。
「まだ寝ているのでは無いかしら? あの人はどうやら朝が苦手のようだから」
「まったく、のんきだね」
「そうでなくては困りますけど」

 星華は楽しげにそう言う。
「火向の地はもはや復興軍の手に落ちましたし、豊後の地ももはや時間の問題。各地ではだいぶ下火になっていた反乱の動きが活発化による民が蜂起で街が落城している。最早耶麻台国復興も掌の上ですわね」
「油断は少々早いのではありませんか? 星華様」

 固い声が響き、星華は不機嫌そうにそちらを見る。
「亜衣、何の用?」
「何の用とは随分なお言葉ですね。軍議が始まりますよ」
「あら、もうそんな時間でしたか」
「皆首を長くして待っています。お早く……」
「分かったわ」

 星華は優雅に立ち上がると、キョウを一瞥して腰を折る。
「ではキョウ様、私はこれで」
「うん、ボクもあとで顔を出すよ」

 星華が亜衣と共に出て行くと、キョウは大きくため息をついた。
 十五年前、伊雅に筑後川に捨てられたキョウは、その時初代姫御子が施していた危機回避プログラムの作動によって、遙か時空の彼方に飛ばされてしまった。
 キョウはそこで土の中に埋もれていたのだが、ある時そのキョウを掘り起こした人物がいた。

 キョウはその人物と共に、再びこの世界に戻ってきたのだ。
 右も左も分からないその人物を、キョウは神の遣いと言いくるめ、耶麻台国復興を決意した。
 その後星華に出会い、宗像神社の関係者達に呼びかけることで、復興軍を起こした。

 星華は元々孤児で、宗像神社の巫女の家系である、亜衣の両親の元に拾われた。幼少より何処か気品を持っていた星華は、どうやら勝手に王族だと勘違いされて育ったようだ。
 正確に言えば、その頃から亜衣の両親が宗像神社内での地位を高めようと、星華をそう言う立場に仕立て上げたのだ。元々王族の遠戚であったことも事実なので、星華が王族の一人から預けられたという言葉をことさら疑う者もいなかった。

 最も、その両親も既に死に、その事実を知っているのは亜衣一人。亜衣はキョウにだけはその事実を打ち明けたが、星華は自分一人だけが王族だと言うことを信じて疑っていない。
 それでも構わないとキョウは思っている。他に五人――藤那が死んだので四人――仕立て上げた火魅子候補の中で一番鼻持ちならないが、序列がはっきりしていた方が、組織は上手くいく。

 他の火魅子候補は自分がそうであるという自覚に乏しく、どこか自信が無い。その中ではっきりと立場を利用していた藤那が星華には目障りだったのだろう。

 ――何も変わらないのにね。どちらもただの人。

 キョウが火魅子候補を選ぶ上でつけた条件は、方術を使えるか、腕が立つか、ただそれだけだ。戦争で役に立ちそうな人間に地位を与えただけ。復興したらどうするべきか悩むところではあった。
 事実を伏せて、もはや血筋すら関係ない者を耶麻台国の長として据えておくべきかどうか。

「おい、キョウ」

 声をかけられて振り返ると、変な服を着た男が突っ立っていた。
「あ、ようやく起きたんだね」
「別にいいだろ。どうせ俺のやることなんてねーんだからよ」
「それはそうだけど、一応神の遣いなんだからもう少し節度ある生活した方がいいと思うよ。体面上」
「うるせぇな。別にいいんだよ俺は。それより藤那が死んだって聞いたんだが」

 ――珍しく出張ってきたのはそれが原因か。
 キョウは一人納得すると、ことさら軽く答えた。
「うん。実は藤那には伊雅って言う元耶麻台国副国王を説得してもらいに行ってたんだけどね。どうやら伊雅って狗根国と繋がってたみたいで、部隊ごと」
「確かなのか?」
「間違いないよ。逃げ帰ってきた兵士が殺されるとこ、しっかり見てるから」

 男は青い顔でうつむいてしまう。
「……大丈夫だよ」
 キョウは見透かすような口ぶりで呟く。
「君が殺される事はないから」
「本当か?」
「もちろんだよ。だから、安心していいよ」

 男は頷くとため息をついて部屋を出る。
「今は、まだね」
 キョウは自分にしか聞こえないようにそっと呟くと、静かに天魔鏡に戻った。



 軍議の席。議事の進行は亜衣。上座は空席で神の遣いの為に空けてある。
 それぞれ左右に火魅子候補が並び、その次にはその縁者や他の幹部の姿が見える。末席の方では忌瀬と音羽が肩を並べていた。

「まず、お聞き及びの所かと思いますが、藤那様が伊雅様の説得に失敗し討ち死になされました。このことを受けまして、豊後侵攻に併せて逆賊伊雅の討伐を――」
 意見を差し挟むこともなく、軍議は過ぎていく。

 始めはそうでもなかったのだが、最近では亜衣の策に口を出す者は少なくなっている。何を言ったところで上手く言いくるめられてしまう上、これまでも特に亜衣の策で破綻は無かったのだから無理もなかった。

「では、各自持ち場に着いて下さい。これからの戦いはより厳しくなり、討ち取られる者も増えるでしょうが、ここで引いては事はなりません。私たちの手で九洲を狗根国から取り戻しましょう」

「「おおっ!!」」


 一致団結した返事を見せたところで軍議は解散。
 いつも通りで特に何もなかった。
「あ~、疲れた。どうもこういうのはしょうに会わないわねぇ」
 忌瀬はそう言って腕をぐるぐると回す。

「忌瀬さん」
 背後から声をかけられて忌瀬は振り返る。
「あ、志野。どうしたの?」
「志野様って呼べ」
 志野と呼ばれた少女の傍らにいた、ボーイッシュな女の子が忌瀬を睨み付ける。

「ああ、ごめん珠洲。まだクセが抜けなくてさ」
「別にいいですよ、呼び捨てで」
「駄目」
 志野は困ったように珠洲を見下ろす。

「まぁ、立場ってものがあるしねぇ。で、話って?」
「いえ、ここでは何ですから私の部屋の方に」
「うん?」

 首を傾げながらも断る事もせずに、志野と珠洲の後を着いていく忌瀬。
 部屋にはいると志野は周りに誰もいないことを確認して戸を閉めた。
 戸の前には珠洲が残って見張りをしている。

「どうしたの? こんな警戒して」
「藤那さんの事なんですけど」
「ああ、残念だったね……。まぁ、あれだけ出しゃばってれば星華様に恨まれて当然だけど」
「やっぱり、そうなんですよね」
 志野は苦しげな表情でうつむいた。

「やだなぁ、志野。大丈夫だよ、志野は藤那様とは違うんだし」
「でも、あの人の事だからいずれ……。私、もう嫌。こんな所出て元の旅芸人一座に戻りたい」
 両手で顔を覆う志野。

 忌瀬は弱ったなぁと頭を掻く。
「でも、今逃げたらきっとそれを口実に追討されちゃうよ。とにかく出来るだけ目立たないようにしてさ」
「ええ、そうですね。すみませんこんな話し相談したりして」
「いいのいいの。私なんかでよければいつでも相談に乗るよ」
「ありがとうございます」

 忌瀬は苦笑を浮かべる。
「でもさぁ、本当に藤那様死んだのかな?」
「え?」
 志野は思っても見なかった言葉に首を傾げる。

「おかしくない? 藤那様って向こう見ずで出たとこ勝負な人だけど、案埜津も付いてたし、そうそうやられないと思うんだけどなぁ」
「それは、そうですけど。相手が相手ですし」
「それも気になる。本当に副国王が火魅子候補を手にかけるような真似するかなぁ」

「何が、言いたいんです?」
 志野は困ったように訊ねた。
「これは、あくまで推測で誰にも言って欲しくないんだけど、伊雅様がいくら偉いからって、それを言いふらしてたらとっくの昔に狗根国に掴まってさらし首になってると思うんだよね」
「ええ、それは」

「でしょ? 幾ら王族でもそれを名乗らなくちゃタダのおっさんなワケで、そんなタダのおっさんの所に手練れがいると思う?」
「そう言われれば、変ですね。でも、十五年前の戦いを生き残った手練れとかがいたのかも」
「それもおかしいでしょ? もし伊雅様が亜衣さんが言っていたように耶麻台国における逆賊ならば、有能な人間が付いているとは思えないし、本気で裏切っていたならば狗根国にいていい思いをしているか、或いは消されているのが普通でしょう? 今山の中で隠居していると言うことはどちらでもないと思わない?」

「……そう、かもしれませんね。でも、裏切っていないのならば、なぜ復興軍に来てくれないのでしょう」
「こう考えるとすっきりしない? 本当に裏切っているのは伊雅様じゃないって……」
 声をひそめて呟いた忌瀬の言葉に、志野は目を見開く。

「そ、そんな、こと」
「あ、内緒だよこれ。別にそうだと思ってるワケじゃなくて、思いついたってだけだから。でもね、もしそうなら、藤那様が殺された理由も納得いくし」
「でも、忌瀬さんは死んで無いんじゃないかって……」

 忌瀬はう~んとうなり声を上げる。
「まぁね。だからこれも推測なんだけど、阿祖にいるのよ。そういうちょこざいな偽装が得意な人がね。場所的にも先にその場を訪れていた可能性もあるし、だとすれば百人を撃退したって話しも納得出来るからさ。っていうか、そうなら確実に藤那様は生きてないとおかしいし」
「それって、もしかして……」

 忌瀬は苦笑混じりに呟いた。
「九峪」

 志野は目を見開くと忌瀬に掴みかかる。
「九峪さんに会ってたんですか?!」
「ま、まぁね。言うと天目がうるさいから黙ってたけど……」

 志野は小刻みに震えると、全くの無表情で忌瀬を見つめる。
「忌瀬さん。九峪さんに関しては抜け駆けしないって言いましたよね」
「え、うん、まぁ、だったかな……」

「言 い ま し た よ ね」

「……はい」
 内心号泣しながら忌瀬は返事を返す。
 志野は無表情のまま、口元だけ笑みを浮かべると、優しい声で呟いた。
「では、約束を破った報いを受けて下さいますよね?」
 忌瀬は力無く首を振った。






 珠洲は戸の外で見張りをしながら両耳を塞いでいた。
 時々聞くに堪えない悲鳴が入ってくるが、努めて気にしないことにして。

 やがて悲鳴すら聞こえなくなると、そっと手を離して空を見上げた。

「私も、会いたいな……九峪」

 呟いた自分に驚いたように目を見開き、そして直ぐに照れたように笑った。





 そのかすかな呟きを志野に聞かれ、忌瀬と一緒に楽しいお仕置きを受けることになったのは、また別のお話。











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【2006/03/02 18:49】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(1) | page top↑
出雲盛衰記14
 出雲盛衰記
 十四章



 九峪の案内で拠点を確保に阿祖を移動する一行。

 今は野宿の場所を決めて、それぞれ役割分担をして、あるものは薪を広いに、あるものは水を汲みに行っているところだ。

 伊雅が副国王だと知ると、藤那と案埜津も黙ってその言葉を信用した。
 元々山人の里を襲うという任務が二人とも腑に落ちていなかったらしい。藤那にしてみれば、九峪がそこにいたから、と言うのも一因だったようだが。

 九峪と藤那は飯の用意なのだが、そんなこともせずに世間話に興じている。

「何年ぶりになる? 前に会ってから」
「七年ぶりくらいだろ」
「そっか。そんなになるか。どうりで大きくなってるはずだな」
 九峪が頭を撫でようとすると、それをはねつける。

「馴れ馴れしい真似はやめろ。子供じゃないんだから頭など撫でられても嬉しくもない」
「ふうん、そうかねぇ。前ははしゃいで俺の手を強引に頭に持っていったもんだったが」
 しみじみ呟かれて、藤那は不機嫌そうに顔をしかめた。

 二人の出会いは、七年前。まだ、九洲にも耶麻台国の残党が少なからず残っており、散発的な抵抗が見られた時分だ。
 それに伴って狗根国の支配も、今以上に辛いものだった。少しでも逆らう者は死罪。法が崩壊し、略奪や人さらいなどが横行し、その日の糊口を凌ぐことだけで、誰もが必死だった時代。

 藤那も例外ではなく、妹と弟を連れ山間の集落でひもじい生活をしていた。



 ――七年前。火向某所。

「逃がすなぁっ!! 反乱軍共を捕らえろぉ!」

「いやああぁぁ!」

「助けてーっ!」

「ガキだろうが容赦するなぁ!!」

「ひいぃいっ!」

「見せしめだ!責めて殺せぇっ!!」

「ぎゃあああ!!」

「うわあああぁん!」

「はははっはぁーっ!!」

 阿鼻叫喚と狂気の笑いが混同する里の中、藤那は妹と弟と共に、森の中でじっと息を殺していた。

「……藤那ぁ、怖いよぉ」
 弟の閑谷はひしっと藤那に抱きついて涙を浮かべている。
「藤那姉さん。このままじゃ……」
 妹の綾那はまだ状況が見えているのか、悲壮感を浮かべた顔で藤那の判断を仰ぐ。

 藤那は何とかしないとと思いつつも、子供とは言え三人で動けばばれると分かっているから、どうしようもなかった。
 ただ縮こまって、誰も来ないことを念じ続けるしかない。

 ――くそ、狗根国の連中め。
 悪態を付くだけ、僅かばかりの余裕。
 藤那一人ならきっととっくに逃げ出していただろう。
 護るべき者がいることが、藤那を努めて冷静にさせている。

「とにかく、今はじっとしてるしかない。私にしっかり掴まっていろ」

 藤那は弟と妹をしっかりと抱きしめる。



 一体、どれだけの時間が過ぎただろうか。
 悲鳴も殆ど聞こえなくなり。
 何度か近くまで来た狗根国兵も、じっとしていることでやり過ごした。
 まだ、うろついているのか、鎧の音が聞こえる。

 極限とも言える状態で、まだ幼い三人は、それでもよく耐えたのだろう。だが、もうどうしようもないほど限界だった。

 がさ

 閑谷が少しだけ安堵した瞬間に、ふらついて藪がざわついた。
「――っ」
 藤那は閑谷の口を塞ぎ、息をのんで周りの様子をうかがう。

 ……

 ……

 …………

 長い沈黙。
 どうやら、ばれなかったようだ、そう安心した瞬間――

 ざっ


 空気を斬る音が頭上で鳴った。
 同時に頭上を覆っていた藪がバラバラと落ちてくる。

 藤那の判断は速かった。

 弟と妹を両脇に抱えると、振り返りもせずに一目散に駆けだした。


「ぎゃははっははっ! 逃げろ逃げろぉ~っ!」
 楽しそうに笑う男の声。
 相手は鎧を着込んでいるとはいえ、まだ七つになったばかりの閑谷と十になったばかりの綾那の足では、逃げ切れそうにもなかった。

 藤那は二人を下ろして自分の足で走らせ。手を引きながら懸命に駆ける。

 ――ああ、このままじゃ追いつかれるな。

 藤那は確信した。
 それはもう、どうしようもない。
 どだいやり過ごすことすら難しかったのだ。

 顔だけ振り返る。
 下品な顔の黒い鎧を纏った狗根国兵が、気色悪い笑みを浮かべて追いかけている。

「二人とも、いいかよく聞け……」

 走りながらも、藤那は覚悟を決めた。

「何があっても振り返るな。走り続けろ。いいな!」

 藤那はそう言って二人を先行させる。

 二人は走りながら、足を止めた藤那を何事かと見つめる。

「藤那ぁっ!」「藤那姉さん!?」

「止まるなぁっ! 止まったら殺すぞっ!」

 出来る限りの怒声。
 声は震えていなかった。
 そう、思うことにした。


 ざっ

 狗根国兵が、藤那の前で立ち止まる。

「ちょっと早いが、まぁ、食えないこともないか……ヒヒ」

 ゆっくりと、男の手が藤那に伸ばされる。


 藤那は、目の前を覆うような、その大きい手を見て、ぎゅっと目を瞑った。



 ――怖くない。あいつ等の為なら……


 突き飛ばされた瞬間、木々の合間から見えた空は、血に濡れたように赤く染まっていた。



 気が付くと辺りは真っ暗になっていた。
 まだ十三の藤那に、狗根国兵は容赦も何もなかった。
 陵辱され、放心状態の藤那の首筋に冷たい刃物が張り付く。

「ふう、なかなか具合が良かったぜ、嬢ちゃん。お礼にひと思いに殺してやるよ」

 男の声など藤那には聞こえていなかった。
 耳には入っていたが、そんなことはどうでも良くて。

 気がかりだったのは、閑谷と綾那が無事に逃げおおせたか、それだけだった。

「げっひっひ。そう言えばお前が必死に庇ったあのガキ共な。きっと生きちゃいないぜ。あっちの方にはまだ部隊が残ってたからな。今頃寸刻みにでもされて魔獣のエサだろ。ひっひっひっひ」

 藤那の瞳に、精気が戻る。
 男はそれを見て、嬉しそうに笑う。

「俺が憎いか? 殺したいか?」

 ――なんで、こんな――

「……でもなぁ、嬢ちゃん。残念だがお前もここで死ぬんだよ。ひっひっひ」

 ――こんな、酷いことを――

「まぁ、嬢ちゃんがまた俺のを銜えてくれるっつうなら、考えないでもないが」

 ――なぜ、こんな輩が、のさばっているんだ!!

「うわぁぁぁあああああっ!!」

 ワケも分からず叫び、そして男に殴りかかっていた。
 だが、まだ幼い藤那の拳が、狗根国の正規兵に通じる道理もなく、あっさりと捕らえられる。

「あああああああっ!!」

 叫んでいた。
 何かに、あらがいたくて。
 このどうしようもない、クソみたいな運命を壊したくて。

 だが、それも――

「ふっひっひ。まだ元気じゃねぇか。じゃあ、今度は後ろの方で相手して貰おうか」

 藤那の死力を尽くした抵抗も、運命を塗り替えるには、あまりにも儚い。

「うっ、ひっぐ……いやあああああああっ!!」

 組み敷かれ、男に乗りかかられて、藤那は初めて悲鳴を上げた。

「助けてぇええええっ!」
「誰も来やしねぇよっ!! せいぜい泣き叫びなぁ、ひーっひっひっひ」


 ごりっ


 異音。
 押さえつけていた重圧が突然無くなり、熱い液体が藤那に降りかかった。鉄臭い臭い。
 それは血だった。


「大丈夫か?」
 月明かりの元、差し出された手。
 それは男の手なのに、農家の仕事で荒れている藤那の手よりも綺麗だった。

「……誰?」
 それは辛い目に遭っていたから働いた警戒心ではなく、純粋な好奇心。
 目の前の存在が、藤那の目にはまるで神のように神々しく感じられた。

「九峪だ。立てるか?」
 九峪は強引に藤那の手を取ると立たせる。
「あの、他の人たちは……?」
「狗根国兵なら野営の準備に入ってる。そこの里の連中は分からんな」
「そう……」

 肩を落とす藤那。
「まぁ、何にせよ生きてて何よりだ。直ぐ動けそうか?」
「大丈夫」
 藤那は多少ふらつきながらも、しっかりと二本の足で立ち上がる。

「さて、じゃぁ行くか」
「あの、何処へ……?」

 藤那の少しだけ不安が混じり、そして同じくらい期待に満ちた問い。

「何処か、遠くへさ」

 九峪はそう言って歩き出した。






 藤那は懐かしそうに目を細める。
 ――思えばあのときから、私はこの男に惚れていたのだな。

「なんだ? 人のことじろじろと。さては欲情したか?」
「ふん。誰がだたわけ」
 藤那は鼻で笑うと、いつも携行している酒の入った土瓶を呷る。

 結局、九峪はその後直ぐに藤那を別のもっと奥まった場所にある山人の里に預け、一人行ってしまった。
 置いてけぼりをくらい、九峪への想像を膨らませるだけの七年間。

 再会した相手は普通の男だった。
 そのことに幻滅するでもなく、むしろ好ましく思っていることが藤那も意外だった。

「さて、そろそろ案埜津達も戻ってくるだろう。無駄話もこの辺にして、飯の準備でも始めたらどうだ?」
「なぜ、俺に命令する」
「九洲じゃ女の方が権力が強いんだよ」
「さすが火魅子候補様」

 九峪はため息をつきながら、枯れ枝に火をつけ始める。


「なぁ、九峪」
「なんだ、藤那」

 九峪は見向きもせずに聞き返す。

「今度は、いなくならないよな」
 照れたように呟く藤那。

 九峪は一瞬だけ手を止めると、直ぐに作業に戻った。


「好きなだけ一緒にいてやるさ」


 藤那はその答えに、満足そうに笑みを浮かべた。









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【2006/03/01 16:37】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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