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出雲盛衰記37
 出雲盛衰記
 三十七章



 川辺城の上空を、ハングライダーのようなものが旋回している。
 羽に奇妙な文字が書かれたそれは、乗り手の意志に従ってゆっくりと降下して行く。

「きもちぃ~」
 乗り手の少女は風を気持ちよさそうに受けながら、川辺城を見下ろす。
 復興軍が起こって数ヶ月。
 何もかもがトントン拍子に進んでいき、あっという間の反乱劇。
 豊後ももうじき手に入る。そうなれば豊前と本拠筑後に手が伸びる。

 少女は耶麻台国という国を知らない。
 生まれたのは耶牟原城が落城した後。
 豊かで穏和だった九洲というものは、記憶の何処を探っても出てこない。
 思い出すことと言えば、逃げまどいながら各地を転々としたこと。ただ、それだけ。

 だから、実感などと言うものはそれほど無い。
 耶麻台国がどんなところで、それが良い所なのか、悪い所なのかも知らない。
 分かっているのは、もう逃げまどう生活をしなくてもいいという事。
 そう思えば、少女も自然と笑みが浮かぶのだ。


 川辺城の一番高い屋根の上くらいまで高度を下げ、一気に下りようかと思っていた少女の視界に、妙なものが移る。

 この大空を飛ぶものは、少女のからくりの他は、鳥くらいにしか許されていない。
 その場所を、矢のように何かが飛んでくる。
 少女の中で、興味が鎌首を擡げる。
 そう感じた瞬間には、そちらへと方向転換していた。



 鳥などよりもずっと大きいそれ。
 大分離れていても何であるかは分かった。
 ただ、少女はそれを見たことが無かったので、なんと呼ぶべきか分からなかった。
 羽の生えたトカゲ。
 それが出来る精一杯の表現。
 そのトカゲの上に、赤い髪の女が乗っている。

 自分のからくり――飛空挺以外にも人が空を自由に飛び回る、こんなにも単純な手段が会ったのだと、少女は嬉しくなった。
 どうやらあちらも気が付いたようで、向こうの方から近づいてくる。
 やはり飛空挺よりは、生物であるあちらの方がずっと早いようだ。


「驚いたな。誰が作ったんだ、それ」
 女の人は並んで飛びながら目を丸くして聞いてきた。
 唐突な問いだったが、少女は自慢するように答える。
「私だよ。凄いでしょ~」
 にへへ、と笑ってくるりとその場で一回転してみせた。

「まさか……、その歳で」
 懐疑的な女に、少女は不満そうに口を尖らせる。
「本当だよ~。私じゃなくちゃ作れないよ」
「いや、疑ったわけではないんだ。少し驚いてな」
「えへへ。ねぇ、そのトカゲ、なんて言う生き物なの?」
 少女は今度は自分の番と質問をぶつける。

「こいつか? 飛竜と言ってね。もう、このまーくんしかいないんだ。きっと見たことは無いだろうな」
「飛竜、まーくん。へぇ~。お姉さんは?」
「私か? 私は魅土。龍神族の最後の生き残りだ。お嬢さんは?」
「私は羽江! 一応宗像神社の巫女で今は復興軍にいるの」
「! 宗像の?!」
 魅土の表情が、一瞬険しくなった。
 が、怯える羽江の表情を見て苦笑すると首を振った。

「なぁ、羽江。そのからくりも良いが、まーくんに乗ってみたくないか?」
「え! いいの?」
 好奇心旺盛な羽江は、その魅力的な申し出に、一も二もなく頷く。
「ああ。まーくんもいいよな?」
 魅壌がそう言って首を撫でると、まーくんは身体の大きさに似つかわしくない優しい声で一声鳴いた。

「じゃあ、遠慮無く」
 羽江はそう言うやいなやまーくんの上に位置づけると、飛空挺を折りたたんでその背中に降り立った。

 魅土はいきなりの事に驚いたが、直ぐに下りてきた羽江の身体を押さえて、自分の前に座らせてやる。
「さぁて、少し飛ばすぞ」
「うん♪」
 魅土が手綱を引くと、それまで羽江に合わせてゆっくり飛んでいたまーくんが、急に速度を上げた。顔に当たる風の量が急に増え、息苦しささえ感じる中で、羽江はとても楽しそうに笑っていた。



 夕暮れ時まで羽江はまーくんの飛行を楽しんだ。
 そろそろ帰るかと魅土は言ったが、まーくんに興味津々な羽江は嫌だと首を振る。
「だが、みんなが心配するだろう?」
「え~、大丈夫だよ。お姉ちゃん達は復興軍の方で忙しいから、私なんてどこにいるか知らないし」
 少しだけ寂しそうに呟いて俯いた。
「そうか。まぁ、私は構わないが」
「本当?」
「だが、明日にはちゃんと帰るんだぞ」
「うん!」
 羽江は大きく頷くと、まーくんの首を撫でている。


 山の中に降り立ち、野宿の準備を始める魅土。
 里に近いところでは住民を驚かせたり、無用の混乱を招く事があるので、かなり山深いところで野宿することが多い。幾つか知り合いのいる集落もあるが、狗根国に追われる身でもある魅土は、迷惑を掛けるといけないので極力人には近づかないように暮らしていた。

 今日山を下りてきたのもたまたまだ。時々は下界の様子を探りに来なければ、時代に取り残されてしまう。とは言え、聞くことと言えば本当に龍神族が滅んだかどうか気がかりで、仲間が現れていないかを確かめるのが主だった。

 十五年前、狗根国を出奔して戻った里には誰一人いなかった。近くの野生の飛竜の住処も荒らされていて、残っていたのはまーくんだけだった。結局遺体すら確認出来ない魅土には、本当に滅んだと言うことを信じることも出来ない。必ずどこかで生きてる。そう、思ってしまう。

「どうしたの?」
 不意に横から声がかかって、視線を向けると薪を抱えた羽江が、魅土の事を見上げていた。
 魅土はなんでもないと首を振る。
「なんか、寂しそうだったけど?」
「……そんなことは無い。それよりも火を焚いてご飯にしよう。まぁ、大したものも無いが」
「なんか、懐かしいなぁ~」
 羽江はそう言って集めた薪に火をつける。

「昔、って言ってもそんなに前じゃないけど、その頃は良くお姉ちゃん達と野宿したんだ。お腹一杯ご飯食べられない事が多くて、こんな生活嫌だなぁ~ってずっと思ってたけど、夜露に濡れる心配も、空腹に死にそうになることも無くなった今の暮らしがいいなって思えないよ。あの頃はお姉ちゃん達も星華様も私に構ってくれてたから」
「そうか」
「そうそう。でもね、しょうがないんだ。耶麻台国を取り戻すために、お姉ちゃん達頑張ってるもん。沢山の人たちの命を背負わなくちゃならないから、私なんかに構ってられないのは分かってる。でも、やっぱりつまんな~い」
 羽江は盛大にぼやくと、魅土を見つめた。

「魅土はずっと一人なんだよね? 寂しくないの?」
「いや。私にはまーくんがいるからな」
 魅土がそう言うと、まーくんが嬉しそうに喉を鳴らした。
「そっか」
「羽江も、きっと耶麻台国が復興すれば元に戻るさ」
「そうかなぁ……。うん、そうだね」
 ニッコリと微笑む羽江。

 魅土は何処か、その様子を喜べないでいた。
 そこに、追い打ちを掛けるように羽江が思いつきを口にする。

「ねぇ、魅土も復興軍に加わろうよ~! まーくんがいればお姉ちゃん達も助かると思うし、私ももっと魅土とお話したいよ」

 残酷な、言葉だった。
 魅土は視線を逸らすと、ごまかすように空を見上げた。

「どうしたの? 何か変なこと言っちゃった?」
 魅土の態度に、羽江は首を捻る。
「いや、何でもない」
「嘘だよ! なにか、傷つけるような事、言ったんでしょ? ごめんなさい」
「謝らなくていい。別に、羽江には関係ないことだから……」
「……どんなこと?」
 羽江は聞きたがっている。本当に自分のせいで魅土が悲しんでいるのではないと言うことを、確かめたくて。

 魅土は口にするまいと思っていた。
 口にすれば、羽江はまた悲しむだろう。
 そして、そんな事を信じないだろう。
 でも、口から言葉は自然に漏れていた。

「私が龍神族で、最後の一人だというのは教えたな」
「うん。まーくんも一人なんだよね」
「ああ。どうして私だけなのかというとな、狗根国に滅ぼされたんだ。十数年前になる」
「だったら、尚更復興軍に……」
「飛竜は、不老不死の薬になるという俗説がある」
 羽江の言葉を遮るように、魅土は呟いた。
「その俗説を信じた愚か者が、かつて龍神族の里を訪れ、そして飛竜を殺しまくった」
「……そんな、酷いっ!」
「まぁ、分からないじゃない。不老不死に憧れる気持ちも……。でも、そいつ等は私たちが追い払って、飛竜も全滅には至らなかった。でも、ある日……そいつ等はその噂を別の連中に売り払って、龍神族の里も教えて、結果里は滅んだ」

 魅土の瞳に、怒りの残滓が灯る。その瞳は、羽江に向けられた。
「滅ぼしたのは狗根国だ。だから確かに狗根国は憎い。でも、耶麻台国が侵略されることを畏れて、私たちを売った奴らはもっと許せない。同じ九洲に住むものでありながら、奴らは!」
 怒鳴ってから、怯えている羽江に気づいてはっとする。
 魅土はすまないと一言詫びて、羽江の頭を撫でる。
「耶麻台国には復興して欲しいと思っているよ。でもね、私はどうしてもそのことが吹っ切れない。そんな奴らの為に力は貸せない。だから、ごめんね」
 羽江は、首を振る。
「ううん。私だって、そんな事があったら絶対に手を貸さないもの。でも、一体誰なの? 私がとっちめておくよ」
 憤懣やるかたないと言った羽江。

 魅土は笑って首を振る。
「いいんだ。もう。今更、復讐をしたところで誰が生き返るわけでもない。新しく国が出来るなら、そんな過去は忘れた方がいい。どうせもう、当事者で生きているものは殆どいないはずだからな」
「そっか、でも気になるなぁ~」

 魅土は言わない。それが誰であるかなど。
 だが、それは戯れに少女が自分の姉に聞けば分かること。
 正直に答えるかは分からない。
 いや、答えるだろうなという予感もある。

 ――あの、怜悧な女ならば包み隠さず答えることだろう。そして、偽善に満ちた正論を吐くに違いない。

 まだ、幼かった頃の少女の顔が浮かんでくる。
 年齢に似つかわしくない、凍てつくような切れ長な目。
 同時に湧き上がる殺人衝動。


 だが、この妹には罪はない。
 何一つ。何も知らずに、全てが終わった後に生を受けたのだから。

「さぁ、もう寝よう。明日は朝一番で帰るんだぞ」
「はぁ~い。ね、まーくんと一緒に寝ていい?」
「ああ、まーくんも喜ぶよ」
「えへへ、ありがとう」
 無邪気な笑みを浮かべて、少女は笑う。
 
 
 何も知りもせず、ただ幸せそうに……。














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【2006/04/28 00:13】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
アトガキ 編年紀二十三~二十五章
 アトガキ



 また前日に出してみました。
 一挙三章連続更新!
 や~、見直すのに疲れた疲れた。まぁ、一章辺りの長さが微妙なので、実質二章分くらいの分量かなぁ、などとも思いますが。元はこれが一章に収まっていたというのだから恐ろしいもんです。

 で、まぁ、読んでの通りそんな感じの展開です。藤那が、閑谷が……。

 本当はもう少し頑張る予定だったんだけどもね。死んだ方が纏まりがよいので。レギュラーキャラとしては編年紀では初ですね。さあって戦争が終わったら何人残るのかなぁ~。言うほど死にませんけどね。



 次回予告



 「志野、欲求不満?」



 次回更新はいつになるかちょっと分かりませんが、第二部裏のスタートです。意外なキャラが出てくるかも~。





 ではでは、web拍手のお返事でも。
 一昨日はコメントゼロで、昨日の分ですね~。
 まずは一件目!

0:14 おお、九峪が格好良い。強がりの深川も良かったね。個人的にイチオシの志野も渋いし……いい御話でした
 と頂きました。
 九峪も若干演出過剰ではありますけどね。まぁだてに女を口説き落とすだけの人生を送っていないと言うことなんでしょうか。無理するな、その一言で深川の心を鷲掴みですよ。はじめに志野がもう行ってしまったと告げて、また逃げたと思わせたのがミソでしたね。志野は色々英才教育を受けたという過去話の流れだったので、若干本編より偉そうです。天目の影響かも分かりません。
 どちらにしても、これで街ごと復興軍に反旗を翻したことになります。ふっふっふ、これで一応討伐軍戦前の本編と同じような状況が……作れたのか?
 コメントありがとうございました!

 続いて二件目と三件目!

0:57 闇の子の 深川に恋する 作者かな・・・
0:57 ふふふ
 と頂きました。
 一句、詠んで頂きました。まぁ季語がないから川柳なのかな。よく知らないけど。
 深川に恋……してますねぇ。贔屓しすぎですか? 誰もしてませんよねこんなに。まぁ、時々ツボにはまるキャラというのはいるものです。最後の笑いはストーカーさんかな?
 コメントありがとうございました!

 さあって、ラスト二件!

5:17 深川よかったのぅ…(ほろり …でも、お話としては珠洲が全部持っていっちゃっt―腐れ落ちろ!―ぎゃーっ
5:20 あーあと、ちゃんサマが使ったのは…尸操虫?なんか違う気がするけどあんな字ではなかったような………。
 と頂きました。
 珠洲の腐れ落ちろ。名言ですね。はじめは志野のキスマークは九峪ではなく珠洲がつけたという設定にしようかとも目論んでいたんですが、まぁ九峪の性格を考えれば、据え膳喰いますからねぇ。
 で、ちゃんサマが使ったのはそうですね。尸操蟲でした。二章で忌瀬と話してる奴も間違っててなんでかなぁな感じです。今まで曼荼羅華編を書いたことが無かったので、尸操蟲を単語登録してなかったのが致命的でしたね。あのとき分からなかったから適当に当て字にしといたのを、今更ながらに気づきました。
 感想、ご指摘ありがとうございます!

 他にも叩いてくれた皆様、本当にアリガトネ~♪


 では本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ

【2006/04/26 15:37】 | アトガキ | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
出雲盛衰記36
 出雲盛衰記
 三十六章



 捨てられて十数年。
 片時も忘れたことのない男。
 会いたかった。
 会って伝えたかった。
 私はあなたが必要だと……
 あなたがいれば、何一ついらないのだと。

 何度も会えそうな機会はあったのに、その度にあなたは私の目の前から姿を消す。
 分かってる。
 私は普通の人間じゃない。
 まともな神経をしていれば、私とともにいることなど出来ない。
 だから捨てられたのだと言うことも。

 でも、あの日あなたに捨てられたことで、私は気づいたんだ。
 痛みの、意味を。
 知っている。
 知ることが出来た。
 だから、あなたがそれを止めろと言えば、私は止めることだって出来たのに。

 何度でも言おう。
 私は、あなたさえいてくれるなら、他のあらゆるものがいらない。
 呼吸することすら、やめてみせる。



 目覚めると当麻の街、留主の間。
 この街を任されている志野が、竹簡に埋もれて頭を抱えていた。

「なんで、私は……」
「あら、目が覚めたんですね」
 志野は深川が起きた事に気が付くと、笑みを向ける。
「……そうだ、九峪は」
「九峪さんならもう行きましたけど?」
「何をのんきな事を言っている! あいつは復興軍に仇なすぞ!」
「別に、いいんじゃないですか?」
 志野は平然と答えた。
 深川は志野の首筋にある小さな痣を目聡く見つけ、顔を歪めた。

「あの男は、またそうやって……」
「勘違いされたくはありませんね。九峪さんとはずいぶん前からの知り合いです。あなたもそうだとは初耳ですが」
「同じ事だろう」
「かも、しれませんね。しかし、今は問題ではないでしょう。九峪さんはこの当麻の街で行われていた悪事を暴いてくれたんですから。よくも私の足下であんな汚らわしい研究を」
 深川ははっとする。
 部屋の隅に、志野の部下が控えていた。

 ここは尋問の場。深川は容疑者だ。

「……深川さん。あなた狗根国の方なんですってね。星華さんや亜衣さんは、それを知っているのかしら? 知っていて、復興軍は狗根国の力を借りているの?」
 志野は射抜くように深川を見据える。
 深川は驚いた。今まで深川が見てきた志野という女は、気弱そうでとても指導力などなさそうな俗物だったからだ。
「猫を被っていたのか」
「質問に答えて頂けますか?」

「……その通りだ」
 あっさりと認める深川。志野はそのことを逆に不審に思う。
 深川はそれを察して肩を竦めて見せた。
「別に、あの状況を見られたのであれば、いや、九峪に見つかったのならシラを切る意味もない」
「懸命ですね。では、次の質問です。伊万里さんに尸操蟲というものが植え付けられた件に関してです」
「私だよ。随分前から分かっていたんじゃないか? 忌瀬は私の事を知っていたんだしな」
「潔いですね」
「別に大したことじゃないだろう? 復興軍として頼まれた事をやっていただけだ。上手くは行かなかったがな」
 志野は薄笑いを浮かべる深川に嫌悪感を顕わにしている。

「では、最後の質問です。あなたにこれらの指示を出していたのは、誰ですか」
「誰だと思う? 誰でも一緒じゃないのか? 例えば私が今、復興軍幹部の名前を挙げたとして、現在の状況からすれば、それこそが復興軍の総意であることも事実。黙って見過ごす気がないなら、復興軍を潰すか、もしくは逃げ出すしか道はない。勘違いするな、追いつめられているのはお前の方だ……。知られた以上、黙っては……」

「クス」

 志野は冷笑を浮かべる。
「クスクス。私ははじめ、九峪さんが復興軍に仇なすとあなたに言われて、別にいいんじゃないですか、と答えましたよ? あなたは私が九峪さんに籠絡されて、九峪さんを見逃したから、そんな台詞を吐いたのだと思ったようですが。勘違いなさらないで下さい。私は始めから復興軍を潰すつもりです。宗像神社の巫女達と狗根国との癒着など、当に知れていたこと。……私はもう少し待つつもりでした。けれど、九峪さんが動き出している以上、私も動かなければならないでしょうね」
「はじめから、だと……」
「復興軍創設以前から、私は一座のみんなと各地の情報を収集していました。そして反狗根国勢力として長い間活動してきた宗像神社の関係者達の動向も、それこそ狗根国と同じくらい探っていました。だって、不自然なんですもの。ある一定の所まではいつも追いつめられるけど、それ以上になると、狗根国から手を引いている感触がある。そう、何度やっても無駄だと思わせたいが為にそうしているように、執拗に、同じ事を繰り返す。反乱の敗北。その自作自演」

 深川は目の前の少女をはじめて真面目に見つめた。
 理知的な目。敵に対して、一片の容赦も与えないだろう、支配者の威圧感。

 深川は、それと同じものを持つ者を、何人も知っている。
 誰しも深川を使う立場にあり、その上頭が上がらない人間達。
 逆らうことを、考えさせない者達。

「そう言うわけですから、これから私共は復興軍に敵対するための兵力を集めます。深川さん、あなたは誰の味方ですか? 復興軍の? 狗根国の? それとも……蛇蝎の?」
「蛇蝎を知っているのか?」
 深川は意外そうだった。有名人ではあるが、九洲で志野くらいの年齢で知っている者は少ないだろう。ここ数年は本国にいる。

「……昔、少し」
「……まさか、【蛇蝎の子供達】か」
 深川のその言葉に、志野は不快に顔を歪めた。
「いえ、幸いそうなる前に九峪さんに助けて頂きましたから」
「なるほど、お前が……」
 深川は納得した。
 そのなれそめは深川も蛇蝎から聞かされた覚えがある。
「昔の話です。それで、どうしますか? 返答次第では……」
 明確な殺気。

 深川は考えなかった。
 答えなど、決まり切っていたから。
「嘗めるなよ、小娘。この深川様がお前の手下になるとでも勘違いをしたのか? 蛇蝎の一人娘にして闇の申し子とまで言われたこの深川様に」
 邪悪な笑み。

 愉快だった。
 深川を囲んでいる連中がどれだけ手練れでも、相手にならない自信がある。
 九峪捨てられ、会うためには強く、ただ強くあらねばならなかった。



「……致し方ありませんね」
 志野も、脇に置いてあった双龍剣を手に取る。
 殺気が溢れる。
 二人の間で衝突して、突風となって留主の間に逆巻く。
 ジリジリと、気の充実を待ち、飛びかかる機を伺う。


 勝負は、一瞬だった。





「無理するな、深川」

 直ぐ後ろから、放たれたそれ一言。




 深川は驚いて振り返る。
 そこには、ずっと欲しかったものがある。

 ずっと探していたものがある。


 幾分老けた顔で、
 
 それでも同じように、
 
 深川を救ってくれた時の、
 
 優しい笑顔を浮かべて。



「……く、九峪っ!」
 顔が、一瞬でくしゃくしゃに歪んで、気が付けば抱きついていた。

 長年求めていた、暖かみがそこにはあった。

 本当に求めていた、安住の地が。


 志野はため息を吐いて双龍剣を降ろし、周りで剣を抜いている一座の者達を下がらせた。
 そして困ったように嗚咽を漏らす深川を抱きしめている九峪に笑いかける。

 志野も、知っていた。
 九峪の暖かさ。
 その胸の中の心地よさ。
 だから、少しだけ羨ましい。


「くた、にぃっ!」
 溢れ出した情動は、直ぐにはおさまりそうに無かった。










 ☆おまけ☆



 部屋の隅で、珠洲は九峪に抱きついている深川に殺気の籠もった視線を向けている。
 自分も九峪にああしたいらしい。
 突然地下から床をたたき壊して出てきたと思ったら、深川を前に一芝居するように志野にお願いしたのだ。
 久しぶりに会えたというのにぶしつけで、それでも九峪のお願いを断れるはずもなくて。

 しかも、志野には必要だからと言って小一時間ほど別室でお楽しみだった。
 珠洲も混ざりたかったが、五年早いと断られた。
 志野と三つしか違わないのにだ。

 ――やっぱり、胸かなぁ。

 珠洲は自分の扁平な胸を見下ろしながらため息を吐く。
 そして深川と志野の豊かな胸を、怨嗟の籠もった目で睨み付けるのだ。


 ――腐れ落ちろ!


 あまりに真剣に祈ったために、ついつい声に出て後で志野にこってり絞られたというのは、誰も知らない二人だけのヒミツ。













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【2006/04/24 23:25】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
アトガキ 編年紀二十二章
 アトガキ



 なんとなく前日に出してみました。
 ええ~、取り敢えず一番はじめに言っておきたいことは、唐突な展開に怒らないようにと言うことと、話の流れが強引じゃないかという意見が来そうで泣きそうなことですね。
 まぁ、唐突と言えば唐突なわけで、強引と言えば強引で言い訳のしようもございません……

 とか言いつつ卑怯にもアトガキで言い訳します。

 まず、あの人が自分の正体と悪事を暴露したことで誰もキレ無かった件について。
 これは一重にキョウの後ろ盾のおかげです。天魔鏡の発言権はかなり重いです。平気でこき下ろせるのは九峪や委員長のような神の遣いか、亡月のような部外者だけです。好き嫌いは別にして、火魅子候補のうち特定の一人をキョウが擁護するという形は、耶麻台国の人にしてみれば大きな意味を持っています。

 次に唯一暴走することが可能だった亡月が、あっさりと矛を収めた件について。
 これについては一応誰かさんが推察していた事で間違いはないですが、火魅子候補から二人も謀反人が出たことに呆れてたんだと思います。まぁ、九峪に請われて宰相やってるという話なので、上層部でここまで好きかってやるなら勝手にしろという感じになったのかも分かりません。次章で少しだけ言及してくれます。

 まぁ、言い足りないけどこの辺で止めとこう。

 制作状況ですが、幻聴記を久しぶりに書こうとしていたのですが、話の流れを忘れていたのでただいま復習と今後のプロット作製作業を行っています。出来次第書きたいとは思いますが……いつになるかなぁ。
 実質書いたのは、編年紀裏の十五章あたりかな。裏は十七章くらいで終わりそうなんですが、どうなることか。そしたら第三部の話も考えなくちゃなぁといったところです。



 次回予告



「……結局、私は亜衣がいなければなにも出来ないのね」



 あんまり予告にならない次回予告。次回は三章まとめて更新デス。











 web拍手はコメントはございませんでした。
 押してくれた人には胸一杯の気持ちを捧げます!


 では本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ

 

【2006/04/19 16:14】 | アトガキ | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
出雲盛衰記35
 出雲盛衰記
 三十五章



 沫那美(あわなみ)王女懐妊の報が山都に知れ渡ったのはそれから二月後の事だった。
 九峪との一度限りの情事の後、沫那美は大王に身体を明け渡したので実際どちらの子であるかは分からない。
 ただ、沫那美が九峪の子であることを隠そうと、大王の陵辱とも言える寵愛を受けたのだと、九峪だけが知っていた。

 九峪はその報を与えられた居室の中で聞き、あれ以来顔を見ることの無い沫那美の事を思い浮かべたりした。

 ――さぁて、そろそろ潮時かな。

 山都に来てから五ヶ月間、普段のんびりしているようにしか見えない九峪も、別にただ飯を食らっていたわけではない。
 せっせとこの世界の情報を集めては、元の世界に返るための方法を探っていたのだ。

 有力な情報はそれほど多くなかった。
 そもそも異世界に来てしまうと言う時点で、常識の埒外。
 帰る方法も常軌を逸した術しかないだろうと予想される。

 幸いかどうかは分からなかったが、この世界はそもそも天界や魔界と言った、異次元との行き来が現実的に有り得、かつては行き来が可能だったという点だ。

 九峪がやって来た世界はどうやら五天(魔界、魔獣界、人界、仙界、天界の五つの世界)とは全く別の世界のようだが、異次元へ渉る術があるならば、まんざら元の世界に帰ることも不可能ではないかも知れない。
 とは言え、倭国で一番大きな国である狗根国にも、自由に他の世界に行き来する術はなく、可能性と言えば今攻め込んでいる耶麻台国という九洲の国だ。

 狗根国はどうやら魔界や魔獣界とのつながりが深いようだが、耶麻台国は逆に仙界や天界と関わりが深い国であるようだという情報もあった。

 何度か九峪も魔人というものを見たが、九峪を元の世界に連れ帰ってくれることを期待は出来ない存在だった。
 可能性としては、相応の技術力を持っていたという天界に住む天空人。
 なんでも耶麻台国にはその天界に繋がる天界の扉というものも存在するらしい。
 それを見つけ出すことが出来れば或いは……。

 ――まぁ、どのみち可能性は薄そうだけどなぁ。

 それほど期待しているわけではない。
 だが、可能性があるなら帰りたいと思ってしまう。
 元の世界に未練があるわけではなかったけれど、それでも自分がいるべき場所が何処であるかはよく分かっているから。

「九峪! 見て見てぇ!」
 少女が楽しそうに走ってくる。
「深川、走ると転ぶぞ」
「大丈夫だよ。それより見て!」
 深川と呼ばれた少女は、そう言って足下に走り寄ってきた、おかしな犬を抱えて見せた。
 その犬は、首がない。
 代わりに奇妙な文字が書かれた札が蓋でもするように貼ってある。

「こんな事も出来るようになったんだよ!」
 満面の笑顔を九峪に向ける深川。
 九峪は困ったように深川の頭を撫でた。

 深川は九峪が蛇蝎の悪質な選定の時に助けた少女だ。
 更に言うなら、天目と九峪と共に魔界の黒き泉にその身を晒した少女でもある。

 まだ十を過ぎたばかりの少女が、あれほどの惨劇と激痛に晒され、正気でいられることの方がおかしいのかも知れない。
 誰しもが強いわけではないのだ。
 ちなみにその例外とも言うべき天目の方は、部屋の隅で論語を読んでいる。
 九峪も深川も完全に無視だ。

「ねぇ、次は人間でやってみたいんだけど、駄目かなぁ?」
 深川は子犬のものと思われる頬に付いた返り血を拭いながらニッコリと笑って答える。
「駄目だ。人間だけは駄目」
「えぇ~、つまんないの。じゃ、九峪遊んでよ~」
 深川はそう言って九峪の腕を引っ張る。
「俺様は忙しい」
「ぶ~、いっつも女の人口説いてるばっかりで、何も仕事してないくせに」
 深川のもっともな発言に、九峪はわざとらしくため息を吐く。
「人間解体したいなら蛇蝎に頼むんだな。喜んで貸してくれるさ。ただその辺の奴卑なんかを使うんじゃないぞ」
「はぁ~い」
 深川は不満そうに返事をすると、首無し犬を連れだって部屋の外へ行ってしまった。


「蛇蝎に預けたりしていいの?」
 手にしていた書物から顔を上げて、天目が呟く。
「正直どうしたもんか分からん。今の深川は痛みを知らない。他人を認識する術が著しく欠落しているんだ。わかりやすい反応が苦痛や恐怖に歪んでる顔を見ることなんだろうな」
「冷静に分析してるけど、それでいいの?」
「ん?」
「このままじゃ、まともな大人にならないと思う」
 天目はもっともな意見を口にする。
「まぁな。でもどうしたら分かってくれるんだろうねぇ。あれは深川が生きていくためには必要だからああなってるんであって、それが社会的一般性からはずれるからと言って無理矢理矯正しようとするならば、多分殺すしかないんじゃないか?」
「今からなら、まだ直せるかもしれない」
「直せないかもしれないな。やるだけやっても人を殺す人間でしかないかもしれない。わからんよ、そんなことはセラピストに聞いてくれっての」
「せらぴすと?」
「わかんなくてもいい。ようするに俺の手には負えないって事。ただ、蛇蝎なら深川みたいな人材はほしがるだろう。魔界の黒き泉で左道の特に操作系の術に特化したあいつは蛇蝎にとっても有効な駒だろうしな。世の中需要と供給、適材適所だ」
 天目は不満そうに顔をしかめる。

「あなたはもう少し優しい人だと思っていた」
 九峪は苦笑を浮かべる。
「自分の身さえままならない俺が、他人に情けを掛ける暇があるとでも? 生憎俺はお前や深川みたいなガキの面倒見るには少しばかり若すぎるんだよ」
「では、なぜ助けた?」
 射抜くような天目の視線。
 九峪は真面目な顔になるとぽつりと呟く。
「五年後か十年後には美味しく頂けそうだなと……」
「――死ね!」
 顔を赤くして怒鳴った天目に追い立てられるように、九峪は窓から退散した。



 魔界の黒き泉に浸かって以来、深川から痛覚というものが消えた。
 厄介なものだ。
 何かに触れてもそれが脳に伝わらない。
 怪我をしていても痛くないし――魔界の黒き泉の影響で治癒力も常人とはかけ離れているので多少の怪我など問題にもならないが――、そもそも衝撃的な事が連続したショックで過去の記憶が消えてしまった深川には、痛みというものを想像することすら出来なかった。

 ――痛いって、なんだろう。

 良心、良識、道徳、そう言ったものが残らず壊れた深川には、単純な好奇心しかなかった。
 そして、自らが永遠に喪失したそれを、貪欲に研究しようと思った。
 そこにいっぺんたりとも悪意はない。
 罪だとも思っていない。
 否、罪だと思うことが出来ない。

 九峪が諦めるのも無理もない。
 深川に痛みを教えるのは、人間にえら呼吸の感触を教えるようなものなのだから。

「人間が、欲しいか。カッカッカ、良かろう。だが、ただではやれんな」
 蛇蝎を物怖じしない深川。
「でも、わたし何も持ってないよ?」
 蛇蝎は自室に山とある魔道書の中から、操作系の術を記した本を深川に渡す。
「それを全て覚えられたら人間の五人や十人くれてやろう」
「ホント?」
「カッカッカ、覚えられればな」
 深川は本を大事そうに抱えると、喜んで駆けていく。
 魔道書には蛇蝎ですら困難な術も記されている。
 それだけ深川の能力を高く買っていると言うことだろう。
「なかなか面白い娘だのう、雅比古」
 蛇蝎が振り返ると部屋の中にはいつの間にか九峪が入り込んで、つまらなそうに魔道書を読んでいる。
「そう思うなら貰ってくれ」
「カカ、くれるというなら貰うとも」
「助かる」
「で、用はそれだけか?」
「いや。そろそろ王宮にいるのにも飽きた」
 そう言って魔道書を放り投げる。

「出て行くが問題はあるか?」
「カカカ、好きにするがいい。元々お主の本職は餌では無いのだからな」
 大王の信任が厚い九峪は四天王の一人。
 そして、狗根国軍内の裏切り者や怠慢者を、独自に裁く権利を有している。
「お主が元来何を企んでいるのかなど儂の知ったことでは無い。あの出雲の娘子と狗根国に復讐するもいいだろう」
「あ~、そんな事露ほども考えてないぞ。天目は知らんが」
「口先では何とでも言えるわ。じゃが、そう思うておるのは儂一人ではない」
「遺憾だが、その通りだろうな」
「せいぜい気をつけることじゃの。お主の真意がどうあれ、狙われるであろうから」
「ご忠告痛み入るね。まぁ、その内会うこともあるだろうし、敢えて別れの挨拶もしないが」
「先ほどの娘はどうする気だ?」
「アレはお前にくれてやるって言ったろ」
 九峪はそう言って部屋を出る。
 多分、それが九峪が深川に出来る、唯一の事だから。



 自室で魔道書を貪るように三日続けて読み続け、深川は久しぶりに九峪の元を訪れた。
「……あれ?」
 そこには何もない。
 それまで置かれていた九峪の荷物も、家具も、天目が読みあさっていた書物の数々も。
「九峪?」
 自分の声が震えていることに気が付いた。
 胸が苦しい。
 視線はせわしなく右へ左へと動くが、目的のものはやはり何処にも無い。
「……」
 静寂の広がる、広い部屋。
 何もかもが崩れるような感触。
 瞳を、涙が一滴伝った。

「く、九峪……」
 喉の奥から何かがこみ上げてきて、深川は嗚咽を漏らしていた。

 自分が捨てられたという実感。

 その理由が分からない故に感じる理不尽。

 深川は知った。

 今、胸に感じているこの苦しさこそ、痛みというものであると。


 それは、もう取り返しの付かない、絶望的な痛みだった。














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【2006/04/18 22:49】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(1) | page top↑
第十八回 火魅子伝SS戦略会議
 第十八回 火魅子伝SS戦略会議



 盛衰記三十五章を書いていたら、突然PCが強制終了してデータが吹っ飛んじゃったよ記念会議です。


 俺のデータ返せ~~~~っ!!


 と、海に叫んでみました。
 まわり山だらけですが、心の海に叫んだのです。
 そう言うことにしておいて下さい。

「アホ」
 言わないでおいて。っていうか誰だ! 傷心の作者は今回は一人で会議というか一人語りをしようと目論んでいたのに!
「誰だろうねぇ」
 あ、あなたは……。裏の方でこれから出る予定のオリキャラじゃないですか。こんの目立ちたがり屋め! 出てきてもいないウチからこんな所で宣伝活動か!

「まぁ、どうだっていいじゃないか。それより間違って戻るボタンを押しただけで消えてしまうネット上で長文を書くって行為自体如何なものかと思うんだけどね、私は。大体何度目だよ」
 え、あ、まぁ、そうなんだけどね。フリーソフトで紙2001とか、オートセーブで今回みたいな事があっても大丈夫なものもちゃんとあるんだけど、テキストエディタを変えると、なんというか、違和感というか、何というか。

「よく分からないな。なにか変わるのか?」
 ん~、変わるよそりゃ。作者のフリーの小説落とした人は分かると思うけど、ワードで書くときはそもそも縦書きで書くことが多いし。二段組みの新書っぽい感じにして書いてるんだけどさ。
「ふ~ん、それが?」
 いつも書いてる書式でないと進みが悪かったり、校正しにくかったりとかあるし。個人的にはオリジナル書くときは実際の小説に近い形であった方が、なんとなく気分いいしね。横書きで書いてると違和感があって。

「なるほどねぇ。よく分からないな」
 わからんですか。まぁ、多分気にしない人もいるんだと思いますが、その時聞いてる音楽とか以上に、個人的には気になるんですよ。
「で、何の話だっけ?」
 アレ? なんの話でしたっけ? まぁいいや。今回はそう言うわけで極個人的な小説の書き方でも。
「まず、小説の書き方とかの本とかサイトとか見たことあるのか?」
 一度も無いです。
 何故無いかというと、そんなもの見る前にまず書き始めてて、行き詰まりを感じて何度か読もうとしたこともあったんですが、読んだら今まで自分のやって来たことが全て破綻しそうだったので。
 もちろんそんなとこ見て勉強した方がいいというのもあるんでしょう。……とか――とか二つずつ使うなんて最近知りましたし。

 まぁ、でもあくまで個人的にですが、・・・・でも構わないと思うんですけどね。気になる人は気になるんでしょうけど、……と・・・・で受ける印象が変わることも事実でしょうし、どちらがより状況に適しているかを考えればいいわけで、表現方法を限定するような決まりはいらんと思うんですが。
 そりゃ正しい書き方は知っていた方がいいには越したことが無いんでしょうけど……
「自己弁護?」
 その通りだよ。

「見苦しいわね。ところで私の出番っていつ頃になるんだ?」
 あんたが出てくるのが、確か裏の十三章くらいだったと思ったから、来月中には……無理かな?
「そうか、残念ねぇ」
 気にしなさんな。こっちはまたオリキャラか! って言われないか戦々恐々なんだから。なるたけ数減らしたいけど、敵キャラってホント人数少なくてさぁ。
「敵キャラなんだ」
 うん。まぁあつかいは上等な方だと思うよ。
「裏って言うからには十七夜が出てくるんだろうね?」
 え、死んだでしょ、あいつ。
「ホントに死んだのか?」
 ……
「おい、死なないで欲しいという要望が結構あっただろ!」
 ……惜しい人を亡くしたものだ。
「本気か?」
 ネタバレになるので言えません。
 っていうか、裏をやるっていった時点でその辺は分かって下さい。誰がやっても作者がネタバレするわけにはいかんのです。

「それって言ってるようなもんだと思うが……」
 例えばあなたが○○の孫だとか、そんな話は知りません。
「おい」
 裏書いてると戦闘シーンばっかりでいい加減飽きたとかどうでもいいです。
 なんで三章まるまる戦闘シーンなんだよ! 飽きるっつーの!

「おいおい、いいのか?」
 別に誰が誰と戦ってその勝敗がどうなるかって所まで言わなければネタバレにはなりません。あり得ない組み合わせとしては、帖佐と柚子妃が夫婦喧嘩だとか、九峪を巡って志野と伊万里が直接対決だとか、永楽と永閃が血みどろの兄妹喧嘩だとか、天目と虎桃の下克上バトルだとか……。
「それはそれでみたいかも知れないな」
 いらん事は言わんといて下さい。
「さて、それではそろそろ話も尽きてきたことだし、恒例のアレやっておくか」
 ん? 恒例って?
「よっこらせと」
 なぜ、そんな嬉しそうな顔で剣を振りかぶってるんですか?

「死ね」

 ザシュ
 ボタ
 ブシュウウウウ



「さて、次回からは私が主役の冒険譚【戦闘狂の唄】が始まる。くれぐれも見逃すな」














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【2006/04/17 20:09】 | 会議 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
出雲盛衰記34
 出雲盛衰記
 三十四章



 黒い水に、肩まで浸かって浮かべた盆に載っている熱燗を手酌で飲む。
「ふぅ~、んまいね」
 九峪は温泉に浸かっているように、のんきに魔界の黒き泉に浸かっていた。
 頭の上に載せた手ぬぐい。
 緩みきった表情。

 黒き泉の浸食の恐ろしさを知るものならば、誰もが驚愕する光景だった。本人に緊張感は見あたらない。

「カカッ、ここはお主専用の風呂というわけではないのだがな」
 不気味な骸骨が暗闇から現れる。
 九峪は視線を向けもせずに、それでも不満そうな顔をする。
「てめぇの顔を見たら興が冷めるだろう。あっち行けよ蛇蝎」
 ぞんざいに言い放つが、蛇蝎は構わず九峪の方に近づく。

「そう言うわけにはいかんな。これから魔人を召喚せねばならん。なんならお主を餌に呼び出してやっても良いが? さぞかし喜び勇んで大量の魔人が釣れる事じゃろう」
「……ちっ」
 九峪は舌打ちすると盆を手に持って池から出る。

 蛇蝎は両手に一人ずつ、布に包まれた少女を抱えていた。それが今回の贄と言うことだろう。

「もう三月も経つのだ、いい加減仕事をしてはどうだ?」
「仕事が仕事だけに、あんまりやりすぎるわけにもいかんだろ」
「カッカッカ、それも道理」
 二人はすれ違い間際にそれだけ短く会話をして、別れた。



 三ヶ月。
 それだけの時間が経っていた。
 九峪は力を得ると直ぐに四天王の位を授けられ、大王の密命を実行する大王自身の手駒として扱われることになった。大王がそこまで九峪に心を許したのには当然わけがある。

 九峪は玄武宮とそれに連なる左道士府から離れ、中央にある王宮へと入る。王宮から更に奥へ。いわゆる後宮と呼ばれる王族の血に連なるものの他は、大将軍だろうが、宰相だろうが立ち入ることの許されない場所。

 九峪はそこに顔パスで入る。
 向かった先は大王の元ではなく、その正室である女性がいる部屋だった。

 男は入ることの許されないその場所。九峪は部屋の前で見張っている侍女に軽く手を挙げる。
「本日の治療に参りましたよ。開けてくれ」
 侍女は黙って頭を下げると、扉を開いた。
 広い部屋。
 その中に置かれた、大人でも五人は優に寝そべることが出来そうな寝台の上で線の細い女性が、上半身だけを起こした状態で寝ている。

 九峪を見ると、女性はニッコリと微笑んだ。
「また、来たのだな」
「そりゃ、治療には必要ですからね」
 九峪はそう言って寝台の脇に腰掛ける。

 そっと細い腕を布団の中から取りだし脈を取る。
「体調はどうですか? どこか痛いところはありませんか?」
「大分よい。生死の境を彷徨っていたのがまるで嘘のようじゃ」
「そりゃよかった。でも、まだあまり無理はしないで下さいね」
 ニッコリと笑いかけると、女性は照れたように笑った。

 歳の頃は九峪とそれほど大きくは変わらない。
 正室とは言え、血筋はまつろわぬ狗根国王族の血。
 現大王の実の妹。
 血の純血を好んで近親相姦するのは古い時代では珍しいことではない。それが滅びへと突き進んでいるという認識は無いのだから。

 魔界の黒き泉で人外の力を得たはずの九峪だったが、得たものは時を止める力と、魔なるものに至上の美味となってしまった不死なる身体。魔窟とも言える山都の王宮において、始めの満月はまさに狂宴となった。
 蛇蝎を始めとする魔なるものが、九峪を奪い合い、食らい尽くす。

 常時でも食すれば美味には変わりなく、九峪はいつも狙われている。

 九峪にしてみれば迷惑きわまりない話だったが、一口食らえば力を増す奇跡の肉としての効果に、大王が目を付けたのは当然の成り行きだった。
 始めは自らが食しその力を確信すると、病がちで正室に入っているのに楽しむことも出来ない妹の治療に役立てるようにと計らったのだ。

 明日をも知れぬ命だった王女に、九峪は自らの血を飲ませることでその容態を回復させていた。
 満月の晩に与えることが出来れば一度で治るのだろうが、その日は生憎と予約が一杯で九峪は髪の毛一本残されない。


 手首を短刀で切って、器に血を溜める九峪。
 王女はそれをいつも顔をしかめて見ている。

 九峪は適当なところで止めると、その血を自分で口に含み王女に口移す。

 一滴、血が口から零れ、顎から首筋へ、首筋から紗の一重へと伝い、白い生地を赤く染める。
 九峪が口を離せば、王女は名残惜しそうにその唇を見つめていた。

「そなたの唇は、柔らかいな」
「なんなら食べますか?」
「ふふ、それは嫌じゃ」
「懸命です、沫那美王女(あわなみひめ)」
 沫那美。それが彼女の名前。

 九峪はもう一度自分の血を口に含んで、そして沫那美に飲ませる。

 この大王に知れたら誅殺されそうな行為は、沫那美の方から求められてやっている。
 はじめ九峪が看たとき、沫那美は瀕死の状態でとても自ら何かを口に出来るような状態ではなかった。飲ませるために口移しという手段を選んだのだが、その時の感触がどうやら気に入ってしまったらしく――瀕死だったくせにその感触だけは覚えていた――口移しでなくては飲んではくれないようになってしまっていた。
 九峪も別に悪い気はしていない。沫那美は人並み以上に美人だったから。

 暫く"治療"が続けられ、それが終わると途端に沫那美は寂しそうな表情になる。
「のう、雅比古。妾の身体、いつまでに治ると思う?」
「さて、俺も別に御典医というわけではありませんから。それは王女様自身の方が良くお分かりでは?」
「……妾は、怖いのじゃ」
 沫那美はそう言って自らの肩を掻き抱く。
「身体が治ってしまえば、あの鬼畜のような兄に身を明け渡さねばならぬ。嫌なのじゃ。そんな事は」

 縋るような視線。
 九峪は寝台に腰掛けると頭を掻く。

「俺にどうしろと?」
「妾を連れて、逃げてはくれぬか?」
 ちらりと沫那美の方を見やる九峪。
 どうやらマジっぽい。
「……残念だけど、山都の王宮には化け物が一杯いますから。俺なんかただの餌だし。ただでさえ足手まといが二人もくっついてる状態で、逃げる隙がないかと伺ってる状況で、王女様と連れだってなんてどだい無理な話です」
「そうか――」

 沫那美は見た目にも落ち込む。
 そして呟くように言葉を絞り出す。

「あの兄に身体を与えるのも耐え難いが、本当はな、雅比古。身体が治ってお前と会えなくなるのが辛い。妾は、お前の事が……」
「今日の治療はこれまでです。失礼します」
 九峪は沫那美に全て言わせずに立ち上がる。

「……九峪」
 顔を伏せって落ち込む沫那美。
 扉が開く音が聞こえ、そして閉じる音が続く。

「……妾は、お前のことが」
「勿体ないお言葉です」
「!?」
 弾かれたように顔を上げる沫那美。

「――どういう、事じゃ?」
「沫那美王女。俺はあなたの境遇から、あなたの事を救ってやることは出来ない。でも、あなたが望むなら、思い出くらいは与えてあげられます」
「……本当か?」
 顔をほころばせた沫那美に、九峪は黙って頷く。

「侍女にはこれが最後の治療になるから、少しばかり時間がかかると言ってあります」
 九峪はそう言いながら、沫那美の寝台の横に立つ。
 ゆっくりと身体を傾け、横たわる沫那美の頬を撫でた。
「よろしいのですか? 本当に……」
 最後の確認。
 沫那美はとても幸せそうな顔で答える。
「ええ、妾と、一つに……」
 治療とは違う、濃厚な口づけ。
 いつもの血液とは違う、背徳の味がした。














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【2006/04/14 20:50】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
アトガキ 編年紀二十一章
 アトガキ



 本文の後に書いてないのに、アトガキって変だろと唐突に思いました。
 まぁ、気にしたら負けか……。

 と言うわけで(どんなわけだ)二十一章upしました。

 要約すると彩花紫救出作戦でしたね。ええ、朔夜がひっそりと悪巧みをしていたというわけです。
 で、第二部に入ってから、朔夜の年齢を三歳と何カ所か書いた気がするんですが、見直したら二歳でしたね。尚更ありえねぇ。ちなみに伊万里と始めてヤッたのが、九峪が三世紀に付いてから約一月半。やって来たときが五月だから、六月の半ばから末かな。正確に数字追ってないので概算ですが。そこから十月十日だとすると、朔夜の誕生日は翌年の四月の末から五月の頭。ん~、朔夜満二歳くらいになっちゃうな。数えで三歳か。恐ろしや。
 リアルな二歳児がどんなものか良く分かりませんが、あり得ないと言うことだけは分かる。……いつの間にか何処かで一年経ってたことに……話の流れ上無理か。いいや、気にしたら負けって事で……(二回目)

 しゃべらせなきゃよかった……orz

 え、え~と、では制作状況なんかを。
 先週末は昨日も書いた気がするけど、第二部表の直しをやってましたので、新しく書いたものは得に。ですが、第二部が二章分長くなりました。読んだら二十三章から二十五章までの三章を、どうやって一章にまとめていたのかが疑問になると思いますが、そっとしておいて下さい。
 で、それに伴ってと言うわけでもありませんが、二十三、二十四章、二十五章は、まとめて出す予定です。分けてありますが一つの話ですので。
 と言うことは来週が二十二章で再来週が三章まとめてになると……、四月の内におわっちまいますね。二ヶ月で第二部半分終了と。
 そう、半分です。五月からは第二部裏になります。なりますが、五月の初めの二週くらいは更新出来ないかも分かりません。GWで遊びほうけたいからと言うわけではなく、GW明けに予定が入りそうな気配がするので……。ですから、ちょっと間が空くかも知れないです。ご了承下さい。


 次回予告。


 「落ち着いていられますか! なんですか、その格好は! それじゃまるで、まるで……」



 これだけで展開予想出来るかなぁ……

 
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【2006/04/13 00:00】 | アトガキ | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
第十七回 火魅子伝SS戦略会議
 第十七回 火魅子伝SS戦略会議



 ……盛衰記を書くのが面倒だったので今日は会議じゃ~~っ!


 引かないでよ。
 ええと、そう言うわけで戦略を語らない戦略会議の始まり始まり~。

 本日のゲストは奴隷人生に喜びを感じる男、究極の被虐主義者閑谷ちゃんです。
「……誤解してると思うんだけど」
 何がだ? あ?

「なんで僕の時だけ、そんなに強気なの!?」
 作者は先天的にいじめっ子です。弱い人間はいたぶります。
「そんなぁ……」
 いじめて欲しくなければ、話を振れ。

「え、え、じゃあ、僕ってこれからどうなるんですか? 藤那に振り回されて周りが敵だらけで……」
 ネタバレになるから言えません。

「そんな身も蓋もない」
 どのみち第二部もあと少しで終わるしねぇ。なんか直してたら当初と違った感じになったんだけどまぁ、いいかなって。
「どういう事?」

 それは言えないなぁ。まぁ、先週末に二十三章を直してたら、いつの間にか二十五章まで話が延びるとか言う謎の現象があったりしてね。直す前の二十三章が手抜き過ぎだったんだけど。
「少しは改善された?」
 どうだろう。改善はしたけど、完成はしてないって感じだと思う。

 って、別にどうでもいいだろ。
 他には話は無いのか。
「そんなこと言われても……。あ、盛衰記で僕ってどうなってるんです? なんか生き別れになったっていう設定だったけど」
 世の中は厳しいからねぇ。

「え!? まさか!」
 ……ほら、五十章で終わりって宣言したから。
「それ本当なの? 伏線回収してるだけで超えるって噂だけど」
 伏線など張った記憶は無いんだけどなぁ。

「志野さんの思わせぶりな過去編は一体……。 あと、まだ二人火魅子候補が出てきてないし。雲母さん達の方の動向とか、そもそも狗根国が書かれていないわけで」
 ……一つ言っておこう、閑谷。

「え、何?」
 詮索する男はもてんぞ。
「ええっ!? まさかそれで言い逃れ?! ちょっと、待ってよ! まだ話は……」
 なんだ、まだあるのか? 手短にしろよ。

「自分に都合の悪い話題は避けるんだね、っていうか僕の質問に一つもマトモに答えられないじゃないか」
 生言うな、クソガキ。コロスゾ。
「……そ、そう言えば徒然草って、第一部とかにタイトルが無いけどどうして?」
 そんなこと言ったら、盛衰記なんて二章までしかタイトル無いわ。

「ようするにめんどくさいの?」
 失敬な。ただあの纏まりもあったもんじゃない第一部を一言で言い表すタイトルが無いだけだ。せいぜい神の遣いとかそんな題名だろうが、んなもんあってもなくても同じだろ。

「一応聞いておくけど、第二部は?」
 第一部でつけなかったのに、第二部だけつけるのもおかしな話だとは思うが、敢えてつけるなら謀叛の華とかか?
「なんで華?」
 華々しいから。とくに○○○が……。

「な、なぜ伏せ字なの?」
 ん? 気にするな。はげるぞ。
「目をそらした! 絶対僕に関係あるんだ! 教えてよ」
 自意識過剰だ。

「じゃあ、なんで僕がゲストに呼ばれるのさ! 特に最近活躍してるわけでもないのに!」
 明日更新の二十一章では出番あるさ。
「……絶対なにか隠してる」
 伏線だらけの編年紀で隠し事なんてそりゃ腐るほどあるさ~。内心バレバレなんじゃないのかと言うものも含めて。

「じ~」
 居心地悪いな。じゃあ、ちょっと耳貸せ。
「うん……」
 ごにょごにょ

「えええええっ!!」

 そんな驚くような事か?

「だって、それって……藤那が僕にふが、もが」
 しゃべるなボケェ! 幸せいっぱいな所で次回予告でもして消え失せい!



「……う、うん。次回からは僕と藤那の任侠映画【極道の子供達~耶麻台国風雲編~】をお送りします。では、また」













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【2006/04/12 00:00】 | 会議 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
出雲盛衰記33
 出雲盛衰記
 三十三章



「カッカッカッカッカ」
 不気味な笑いと共に天井から舞い降りてくる蛇蝎。
 中空で停止すると、九峪達を見下ろす。
「魅壌。これはどういう事かな? 狗根国を裏切るというなら、お前の同族は今日にでも滅びるが……」

「黙れ外道! 仲間など、とうの昔に殺したのだろう!」
「さて、どうだったかな。歳を取ると物覚えが悪くなってしまう。はてさて、龍神族はどうしたのだったか」
 わざとらしく考える素振りを見せた後、黙って黒き泉を指さす。

「そう言えば、そこに沈めてやったかの。カッカッカ」
「貴様ぁっ!」
 魅壌は腰の鞭を引き抜くと蛇蝎に向かって振るう。
 蛇蝎は天井の闇に消え、不気味な笑い声だけが響く。
「カカ、丁度良いからそこの奴らの試練ついでに始末してくれよう」

 蛇蝎がそう言って不気味な呪文を詠唱すると、祭壇の上にある闇が蠢いた。

「な、なんだ?」
 混乱する九峪の目の前で、闇から溢れる水の量が唐突に増える。
 どんどんと増えていって池には入り切らなくなったものが、部屋の中に溢れ始めた。
「く、まずいな」
「何がだ?」
 魅壌は少女を抱き上げて自ら逃げるように後退る。
「お前等人間ならば、万に一つの確率で適応できる可能性もあるが、仙人の私には魔界の黒き泉はただの猛毒だ」
「ああ、そりゃお気の毒。だったら逃げた方がいいんじゃないか?」
「蛇蝎の監視がある中で、逃げおおせられるわけもない」
「一人なら何とかなるだろ」
 九峪は天目を抱いたまま魅壌の方に行くと、少女を受け取る。

「……いいのか?」
「いいも悪いも無い。元々あんたには何の関係もない事だ」
「いいから行って。生きて、いつか私たちの仇をとって」
 やる気の無い九峪と覚悟を決めた天目に、魅壌は一言すまないと言い残して闇に消える。

 九峪は部屋の隅まで行くと、僅かな凸部に二人を押し上げる。
「九峪も、早く!」
 天目はそう言って手を引くが、九峪はその手をふりほどく。
「俺はいいから、落ちないように気をつけろよ」
「九峪!?」
「俺の体格じゃそこには上がれない」
「でも、このままじゃ!」
「ま、ここは運試しだな」
 足下に押し寄せる黒い水。
 じんわりとスニーカーにしみこむ。

「あ、冷た――――」
 九峪の顔が強ばる。
「九峪!」
 顔中にびっしりと脂汗を掻き、壁に背中を預けると俯いたまま必死に何かを耐えている。

 ――ああ、最悪だなこれ。

 全身を引き裂くような激痛。
 足下からはい上がってくる得体の知れない感触。

【お前の身体をよこせぇええ】
【くるしぃいいいい】
【助けてぇええ】
【ぎゃあああああ】
【死ねぇえええ】
【この身体から出ていけぇええ】
【いやあああああ】
【殺してやるぅううう】
【うえええええん】
【邪魔だああああ】
【くたばれぇええええ】

 恨み辛み、妬み嫉み、怒り悲しみ、欲望と絶望。
 頭の中にあらゆる負の感情が湧き上がり、九峪の自我を責め立てる。

「ぐ、ぐあ、ああ……」

 頭を抑え、必死で耐える。

「九峪! 九峪!」
 泣きそうになりながら叫ぶ天目。
 名も知らぬ少女は九峪の様子をみておろおろしている。
「カカ、よう耐えるのう。常人であれば一瞬でとり殺される所を」
「……九峪を助けて!」
「助ける? カカ、そうだのう。お主等が代わりに泉に入るというならば、助けてやらんこともない」
 蛇蝎はそう言って天目の前まで下りてくる。
「どうする? 迷っておればその間に九峪が死ぬぞ」
「本当に、助けてくれるのね」
「誓おう」
 天目は、躊躇無く飛んだ。

「……この、馬鹿っ!!」
 九峪は気合いを振り絞ると、天目を抱き留める。
「九峪!」
「てめぇ、そこの骸骨が本当に約束守るとでも思ってるのか? テンパってんじゃねぇ!」
 再び押し上げられ、天目は涙に濡れた顔で九峪を睨む。
「だからって、このままじゃあなたが!」
 叫ぶ天目をひと睨みして騙させると、九峪は蛇蝎を見上げた。

「おい、クソ骸骨。こんなぬるま湯で俺が死ぬとでも思ってんのか?」
「カカカ、まこと面白い男じゃ。よう口がきけるのう」
「――俺は死なねぇ。だが、ここで力を得ても、このガキ二人にお前が手を出してたら、俺はてめぇらに手を貸さねぇからな……」
「ほう。いっぱしに儂と交渉しようと言うのか?」
「別に、聡明なクソ骸骨様なら、弱みは残しといたほうが人は使いやすいって事くらい分かると思うんだがな」
「カカカ、まぁ良かろう。確かに縛る鎖はあった方が良い。じゃが、お主が死したらその瞬間にこの娘達の首をはねるぞ」
「好きにしろ」
 蛇蝎は高笑いと共に闇に消える。

「――ぐっ! あぁあああああ!」
 同時に叫び声を上げる。
 蛇蝎がいなくなっても泉は引かない。
 それどころか水深がどんどん上がっていき、今ではもう膝まで浸かっている。
「くそ。大見得切ったのはいいが、めちゃ痛てぇ。っぐぅ」
「九峪! しっかり」
「天目。そっちの嬢ちゃんが落ちないようにちゃんと見てろよ。飛び込みやがったら俺が痛い思いする意味がないからな。お前が守るんだ」
 しっかりと頷く天目。

 九峪はそれを見ると、壁に寄りかかったまま身体を沈ませる。
 暗い意志が、まるで水と共に染みこむように九峪の中を満たしていく。

 激痛を通り越して体中の感覚が消え失せ、次第に意識ももうろうとしてくる。

 ――死ぬ……か。死ぬのか? 俺。

 ――しかし、なんでこんな場所に来たのかも分からずにお陀仏かよ。間抜けだなぁ、おい。

 ――しかもなにかっこつけてんだって話だよな。馬鹿か俺は。ガキ二人救ったところで何の得があるわけでも無いっつーに。

 ――あ~、眠い。寝たら死ぬな。

 ――ま、いっか。



 ――……





 ばしゃん


 九峪の上半身が傾いで、水面に叩き付けられる。
 鼻と口から水が入ってきて、思わずむせる。

「がはっ、ごほっ、げほっ!」

 魔界の黒き泉が、九峪の体内に取り込まれた。


「が、がああああああ! ぐぎいいいいいい!」
 獣のような咆吼。胸をかきむしりながら、のたうつ。

 壁際から離れ、柱の一つに取り付くと、思い切り頭を叩き付ける。
 爆発したような音が響き、一抱え以上ある太い石柱にヒビが入った。

「あがぁああああ!!」

 血を吐くように叫びを上げて今度は腕を叩き付ける。
 拳が石柱にめり込み、叩き折られた。

 ――ク ル シ イ

 意識が、明滅する。

 ――イ タ イ

 両腕が黒く変色し、五指が巨大なかぎ爪のように鋭く変形していく。

 ――タ ス ケ テ

 赤黒く血のように輝く瞳。
 必死で叫んでいる、少女を捕らえる。

 瞳があった瞬間、愕然としたように目を見開き、隣にいる少女のように震えだした。

 ――タ ス ケ テ

 人に在らざるものになった九峪は、救いを求め、狂気に溺れ、少女へと、飛んだ。

 闇の中で、髑髏が笑う。

「儂は、手を出さない。必要もないしな、カッカッカ」


 鮮血が、九峪の身体に降り注いだ。














 ぴちゃ


 ぴちゃ



 血と、黒い水が混じり合い、したたり落ちる。
 恐怖に引きつった顔を浮かべる少女。

 苦痛に、顔を歪める天目。

 九峪の鋭い爪が、天目の肩口を貫いている。

「――っ! もう、大丈夫だから……、落ち着いて、九峪」
 天目は目の前で固まる九峪の顔に、腕をまわす。
 九峪の髪に付いた黒き泉が、天目に浸食して苦痛を与える。
 天目は、気丈に笑顔を見せると、九峪の頭を撫でた。

「私が、ずっとついていてあげるから」
 天目の小さな唇が、九峪のそれと重ねられる。

「……っあああ!」
 全身を引き裂く苦痛が、今度は天目を襲う。
 小さな少女の悲鳴に、深紅にそまっていた九峪の瞳が、次第に元に戻っていく。
「……天目?」
 苦痛に顔を歪めている少女の姿が、九峪の目に映る。
 慌てて離れようとすると、か弱い力で天目はそれを止める。
「離れないで。もう、二度と……」
「……約束しよう」
 九峪はゆっくりと後方に倒れていき、天目も九峪に抱きついたままゆっくりと水面へと落ちていく。

「……」
 二人の姿が水底に消え、一人残された少女は不安そうにきょろきょろと辺りを見回した後、自らも勢いよく飛び降りた。














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【2006/04/11 00:00】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
出雲盛衰記32
 出雲盛衰記
 三十二章



 それは不気味な神殿だった。
 採光のための窓もほとんど無いため昼だというのに薄暗く、梁や柱には気味の悪い彫刻が彫られている。奥の方からはまるで人の悲鳴のような、不気味な音が鳴っていた。

「気色わりぃな」
 九峪は顔をしかめたがそれだけ。
 少女二人は九峪に左右からぴったりとくっついている。

「ここは玄武宮と言ってな、魔界への裂け目があるところだ」
「魔界……ねぇ」
 九峪も今更魔界くらいで驚きもしなかったが、あまりいい響きのしないその言葉に、顔をしかめてみせる。

「まぁ、裂け目と言っても、そこから魔人が好きに出入り出来るわけでも無し、ただそこにあるだけならばなんの事はない」
「いいねぇ、何のことも無ければ」
「カッカッカ。もちろん何事も無いのであればお主等にも用は無いわな」
 機嫌が良さそうに笑っている蛇蝎。
 その足が、一際不気味な扉の前で止まる。

 そこにあるのは石の壁。
 中央から人の裸体が飛び出している。
 蛇蝎が何事か唱えると、脳天に亀裂が入り、不気味な苦鳴とともに身体が二つに割れて石の壁が左右に開く。
 どうやら扉のようだ。

 二つに開かれた扉の前で蛇蝎は振り返ると、その窪んだ眼窩の奥にある瞳で九峪を見つめる。
「この中に魔界への裂け目がある。お主らは、そこから溢れるておる黒き水を飲むのだ」
「それだけか?」
「カカ、そう、それだけだ」

 九峪はちらりと後ろの方を見る。
 周囲を囲む左道士達。
 とても逃げ出せる状況ではなさそうだ。

 ため息を吐くと足を踏み入れる。
 真っ暗な部屋に入ると、不気味な音が響いて扉が閉じられた。
 一応戻れるか試してみるが、そこには石の壁があるだけで、継ぎ目など何処にも無くなってしまっている。

「進むしかないか」
 呟いて奥へと進む。
 足下も見えないような暗闇の中、奥の方は僅かに明かりがある。



 柱が円状に二十四本立ち、その内側に八つの燭台が置かれている。燭台に灯された炎は青白く、暗い。そのため結構な高さのある天井は見上げても分からず、柱も闇に消えていた。
 燭台は円形の池を囲むように置かれている。
 暗い部屋では水深がどれくらいあるかも分からないが、半径三メートルほどの池。
 その中心に水に濡れた祭壇が鎮座していた。
 黒曜石で出来たような黒光りする祭壇。
 その上に、闇がある。
 闇という意外に表現のしようもないもの。
 そこだけに黒い霧でも発生しているように、不自然に闇が広がっている。

 水はその闇から溢れ、祭壇を伝って下の池へと落ちている。

 蛇蝎が言っていたのはその水のようだ。


 おおおおおおおおおおおおおん


 不気味な音が響いている。
 闇の向こう側から。
 天目ともう一人の少女は、怯えて九峪にしがみついたまま目を閉じている。


「よう分からんが、この水を飲めばいいんだな」
 九峪はやれやれと思いながら、池の横に膝を着いて水を掬おうとして手を出す。

「いいのか?」
 声を掛けられ顔を上げる。
「誰だ?」
 天目でも少女でも無い声。
 柱の影から赤い髪の女が出てくる。

「魅壌。なんでこんな所に」
「お前等が蛇蝎の元に預けられたと聞いて、先回りしていただけの事だ。それより魔界の黒き泉がなんなのか知っていて飲もうとしているのか?」
「いや、知らんが?」
 魅壌は呆れたようにため息を吐く。

「その水を飲めば、十中八九死ぬ」
 九峪は慌てて池から離れる。
「そう言うことは先に言え」
「……だが、生き残れれば強大な力が手に入る」
 魅壌の言葉に九峪はじっと水面を見つめる。

「ありがちな設定だな……」
 ぽつりと呟いて頭を掻く。
「どのみち生き残って見せなければ、生きてここを出られんのだろう? 今のままノコノコ出て行って無事に脱出出来る公算もないし、それなら一か八かに賭けた方が懸命とも言える」
「正気か?」
「はぁ~」
 九峪は大げさにため息を吐く。

「魅壌ちゃんさぁ~、あんた一応俺たちの敵でしょ? それともこの状況からあの蛇蝎と戦って救い出してくれるとでも言うのか? 何が気に入らないのか知らないけど、余計なお節介でしかないと思うんだけど」
「……救ってやろうか?」
 九峪は魅壌の真意が分からず首を傾げる。
「出来るのか? というか、そんな事して何かいいことあるのか?」
「私は龍神族。仙人だ。魔人を使う狗根国も、この場所も、好きでいるわけではない。狗根国にいるのも人質を取られて仕方なくだ」
「ふ~ん。それで? 人質を救い出せる公算でもついたのか?」
「いや。人質など、おそらくもう……」
 一瞬悲しげな表情を見せた魅壌。

「きっかけが欲しかった。ただそれだけだ。お前が助けて欲しいというなら、私は全力でお前を助けよう」

 九峪は暫く見えない天井を見上げながら考えていた。
 そして随分経ってから魅壌に手招きをする。

「なんだ?」
 直ぐ横まで来た魅壌に、天目ともう一人の少女を渡す。
 二人は当惑したような表情で九峪を見ていた。

「連れてく余裕があるなら若い方から順にだな。俺連れて行くのもガキ連れてくのも、足手まといという点には変わりないだろうしな」
 魅壌はちょっと驚いた顔だった。
「血も涙も無い奴だと思っていたが……」
「生憎とどっちもある。蛇蝎がそれなりに興味があるのは俺だけみたいだし、ガキ二人が逃げても大した追っ手はかからないだろうしな。色々都合もいいだろう」
「……そうだな」

「じゃあ、さっさと行けよ」
「――死ぬなよ」
 魅壌はそう言って二人の少女の手を引き、踵を返す。

「待って!」
 叫んだのは天目。
 九峪に抱きつくと泣きそうな目で九峪を見据える。
「……離れたくない」
「天目。生きてりゃそのうち会える。死んじまったらどうにもならんだろう」
「嫌だ! 絶対に! だって、このままじゃ九峪死んじゃうんでしょ?! そしたら会えなくなるじゃない!」
 九峪は困った表情を魅壌に向ける。
 魅壌は肩を竦めてみせる。
「……嫌だよぉ。もお、誰も失いたくない」
「縁起悪いな。確実に死ぬと決まったわけでもないだろ」
「だけど……」
「お前に死なれたら、俺はお前の父ちゃんや母ちゃんに顔向け出来ないんだよ。お前を救うために犠牲になって貰ったんだし」
「そんなの知らない! 私は頼んでない!」
「駄々をこねるな」
「九峪も、一緒に逃げようよ! どうせ一か八かなら、それだっていいじゃない。ね、そうしよう」
 
 必死ですがる天目。
 始めと一緒だなと、九峪は思う。
 何と言うか決めずに、九峪は口を開く。
 期待する、天目の表情。

 その期待も裏切られる。

「カッカッカ」

 九峪でも、魅壌でもない、その笑い声で。



「踏ん切りが付かぬなら、強制的に飲ませてやるまでよ」


 骸骨が、闇の中に浮かび上がった。














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【2006/04/10 00:00】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
第十六回 火魅子伝SS戦略会議
 第十六回 火魅子伝SS戦略会議



 ……

 ……


 ……あ、どうも。

 ……

 ……

 ……

「なんか言え!」
 ドカッ!

 あうっ、痛いよ日魅子。

「痛いよ……じゃなくて。ほら、始まってるよ」

 え、あ、ホントだ。久しぶりだったからずっと盛衰記書いてたよ。はっはっは。

「あ~、馬鹿? では、第十六回めの会議を開催したいとおもいま~す。今回のゲストは火魅子伝のメインヒロイン日魅子ちゃんで~す」

 いきなり問題発言を。だれがメインですって? ていうかヒロインですら……

 どげし

「ああ? なんか文句あるの?」
 ……いえ、ございません。

「ふう、で、今回の議題は何なの?」
 その前に少しいいですか? 実は最近やってなかったものだから、今まで誰がゲストに来たのか振り返っておきたいんですが……

「ほう、私の出番を削ろうと」
 いえ、まぁなんと言われてもやるけど。
 ええと、こんな感じかな~

 第一回  上乃
 第二回  十七夜
 第三回  天目
 第四回  深川
 第五回  忌瀬
 第六回  藤那
 第七回  珠洲
 第八回  九峪
 第九回  只深
 第十回  清瑞
 第十一回 雲母
 第十二回 柚子妃
 第十三回 案埜津
 第十四回 志野
 第十五回 衣緒
 第十六回 日魅子

 と、まぁこんな感じですね。
「結構色々な人が来てるのね。で、今回はこんな復習のための会議だから私だって言うんじゃないでしょうね」
 や、やだなぁ。違いますよ全然。

「じゃ、なんの話し?」
 盛衰記の話しデスケド……

 どんがらがっしゃん(ちゃぶ台替えし

「――死ぬ?」
 え、なんで怒ってるの……
「盛衰記って、私いないじゃん」
 あれ? そうでしたっけ?

「そもそも九峪が変なところに召喚されてるし、幼なじみがいるような話し一つも出てきて無いじゃない!」
 ……あ、そうだった。じゃ、いなくてもいいか。帰ってくれる?

「フザケンナ……コロスゾ……」
 ヤバイ、目が人身売買のブローカーの目に……。わ、分かりました。分かりましたって。だからその変な形の刃物をしまって。あながち関係ないわけではないんですから。

「ふ~ん。ってことは私も出番あるのかな?」
 まぁ、取り敢えず聞いて下さい。

 実は盛衰記で一つ妙な試みをするかなぁと言う話しなワケですよ。
「妙な試み?」

 ええ。元々盛衰記はこの戦略会議を謳ったブログで適当に連載している実験的というか、ただの書き捨てというか、そう言うものだったわけですよ。
「うん。始めは連載するつもりすら無かったんだものね」
 そうなんですよ。それが何を間違ったのか……。まぁそれは長くなりそうなので置いておきましょう。

 ええと、こないだ五十章くらいで完結させるとか何とか言ったんですが、まぁ実際それ以上続いても話がだれるだけだしと言うことで、漠然とですがエンディングのシーンを既に考え始めてるわけです。
 そこでふと思ったんですが、残り二十章くらいじゃとてもじゃないけどあのえろ九峪が立てまくったヒロインとのフラグを回収しきれないと……。

「気づくの遅いよ」
 言葉も無いです。そりゃノリで書いてるからね。
 で、誰がメインなのか分かったもんじゃない状態なので、マルチエンドにしてみようかな~、なんて……

「…………本気?」
 思ってるだけです。
 そりゃ物語とすれば、結論は一つしか要求されていないわけで、今初期設定のメインヒロインの天目エンドを向かえるために過去編書いてるわけですけど、藤那の過去編にしろ、志野の過去編にしろ、それぞれ独立して九峪とラブエンドを向かえるだけの下地はあるわけですよ。まぁ、忌瀬とか雲母とかも結構絡んでますしね。
 元々そんな掘り下げた話し書いてるわけでもない、かなりライトな話しになってる(と思う)ので、マルチエンドっていう選択肢もアリかなと。
「でも、それでエンディングだけ書くってわけ? 全員分?」
 それじゃ味気ないでしょ。

 どの辺の区切りになるか分かりませんが、ラスト五章分くらいをそれぞれのヒロインに沿った話でまとめられれば面白いかなぁって。

「……めんどくさそう。大体早く終わらせたいとかほざいてる割りにそんな余裕あるの?」
 あくまでやってみたいなぁって思ってるだけです。
 まぁ、だれかのエンディング書いた時点でやる気がゼロになってそのままっていう可能性ももちろんありますけどね。

「……話は分かったわ。で、それが私とどう関係あるの?」
 え……。ほら、これから無理矢理差し込んで、日魅子の話を気まぐれで書くかも知れないじゃない?

「書く気あるの?」
 まったくございません。

「じゃあ、やっぱり死ね! ア○ゲ○○ホームラン!!」

 あああああああああ~っ!!

 キラーン☆



「次回からは本当のメインヒロイン日魅子ちゃんによる、壮大な耶麻台国復興譚【日魅子物語~女王の帰還~】をお届けします。楽しみにしててねぇ~♪」













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【2006/04/08 00:46】 | 会議 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
出雲盛衰記31
 出雲盛衰記
 三十一章



 牢屋から出されたのは五日後だった。
 九峪は始め東山の元へ通されるのかと思っていたが、東山は既に泗国への遠征に向かったとかで山都にはおらず、九峪達は狗根国で一番厄介な人物に預けられていた。

 九峪は始めそれを見たとき、ぎょっとすると同時に呆れもした。

「なんで骸骨の仮面なんか……」
 始めそう呟いたが、直ぐにそれが仮面などではなく本物の顔であることが分かった。

 ――人間じゃねぇし。

 力無く心の中で突っ込む。
 骸骨……つまり蛇蝎は九峪達に選択肢を示した。

「元王家のものと、素性の知れぬ男。とてもではないが、そのまま軍に組み込むわけにはいかぬし、かといって何時までもただ飯を食わせておくわけにはいかぬ。お主等には己が運命を試して貰う。生きておったら仲間で、死んだらそれまでだ……」

 そう言うわけで、選択するのは神であり九峪達には処刑宣告とさほどかわりがなかった。

 ただ一つ、選べるものは……

「だが、それは普通に自害した方が楽でもある。どちらを選ぶか己等で決めよ」

 蛇蝎はそう言って悠長なのか何なのか、九峪達を妙な小屋に放り込んで去っていった。

 小屋、と見える場所には多くの子供と数人の大人が犇めいていた。
 九峪はなんとなく強制収容所みたいだなぁと、不吉な想像を巡らせる。
 実際その想像は当たらずとも遠からずだった。


 天目は久しぶりに見る大勢の人の姿に、始め戸惑っているようでもあった。
 九峪の身体に密着したまま、怯えるように周りを見回している。

 九峪は天目の手を引きながら、壁際に座る場所を見つけて腰を下ろす。
 これから何が起こるのかは想像も付かなかったが、ロクな事じゃないだろう。

 それからまた暫くして、黒衣に身を包んだ怪しい集団が入ってきた。

 近くにいた男が呻くように呟く。
「左道士……」
 九峪はなんの事やらと思いつつ、その集団を見ている。

 ぐるるるるるる

 獣の呻くような声が聞こえた。

 声は建物の外から。
 黒衣の集団が二つに割れ、入り口からのそのそと巨大な獣が入ってくる。

 醜悪な獣だった。
 人や猿のような扁平な顔に、禍々しく後方に伸びた四本の角。足は馬の蹄であり、尾はトカゲのように鱗に覆われ先端が丸くなっていて、トゲのようなものが飛び出している。腕は毛で覆われ鋭い爪が飛び出していた。

「魔獣!」
 ざわめきと悲鳴。

 九峪は青い顔で「おいおいおいおい」と呟いている。

 何が起こるかは九峪にも分かった。
 瞬時に理解した。
 希望的観測は即座に捨てた。

 だからこそ、すぐさまその化け物に向かって走った。

「く、九峪!」

 天目が名を叫んでいたが、九峪に止まる気は無かった。

 人混みから飛び出すと同時に、黒衣の男の一人に肉薄する。
 男は予想もしていなかったのか狼狽して一歩後退った。

 できたのはそれだけ。

 九峪は男の腰にある剣を奪い取ると同時に、まだ動いていない魔獣の首に切りつけた。

 魔獣は左道士が召喚する。

 召喚された魔獣は左道士の命令に従う。

 命令が無ければ動かない。

 これから起こる惨劇を一瞬で理解し、その理を知っていたのかは定かではないが、とにかく九峪はそれと決めつけ、先手を打った。


 だが――


 ギィン

 魔獣は予測通りに微動だにしなかった。

 九峪の剣は魔獣の首に確実に突き立てられた。

 それでも、九峪は魔獣がどんな生き物であるか、知らない。

 常人では、武器を持っても歯が立たない生き物だということなど、知るわけがない。


「嘘だろ……」
 悪い冗談だ、と言いたそうに半笑いの表情。

 剣は弾かれた。
 傷一つ付いていない。

 魔獣と視線が交錯する。

 そして横で左道士の無慈悲な命令が響いた。

「やれっ!」

 魔獣は九峪を見つめたまま、足をたわませると跳躍した。
 先ほどの攻撃は、九峪を敵と認識させるだけの効果すら得られていなかった。

 魔獣は子供達の中に飛び込み、凶悪な爪をもった腕を振り回した。

 一撃で、数人の子供が引き裂かれ、内臓をぶちまける。


 九峪は舌打ちすると左道士達を睨みつける。
 左道士達は何処吹く風と、直ぐに引き返して行った。

 唯一の出入り口は塞がれる。

 九峪は付け焼き刃にすらならない剣を早々に捨てると、天目のいるほうに走る。

 内心で蛇蝎の思惑を考えながら。
 ただ殺すつもりならば、ここに入る前に話した言葉に意味はない。

 ならばこれは選定。

 この状況下で生き残れるかを試しているもの。
 趣味の悪い、試験ということになる。

「天目!」
 九峪は叫びつつ天目を抱き上げると、魔獣の動きを見る。

 問題は幾つか。
 この場に誰も人を残していないと言うことは、生き残った何人かを選ぶと言うわけではない。

 おそらくは時間。

 どの位かは知らないが、あちらが決めた時間を逃げ切らなければならない。
 敵は一匹だが、その行動を予測して、生き残らなくてはならない。

「……!」
 天目は阿鼻と叫喚の地獄の中で、硬く目を閉じて九峪に抱きついている。

 九峪は魔獣を見つめる。

 その動きをじっと。

 魔獣は相変わらず逃げまどう子供達を追いかけ回し、肉塊に変えては爪に引っかかった肉の切れ端をついばんでいる。

 九峪の視界の端に、他の子供の内臓や血をぶちまけられて、放心している少女が映る。


 魔人は目の前のそれを無視して、大きな群れへと向かっていく。


 それを見た瞬間、九峪の頭に天啓が舞い降りた。


「迷ってる暇はないか」

 九峪は呟くと、魔獣の死角から少女の方へと走った。




 随分と長い時間が経過して、重々しく扉は開かれた。

 広い空間の中に魔獣が人間だったものを咀嚼する音だけが不気味に響いている。

 他に、動くものはない。

「やはり、だれも生き残らんか」
 左道士の一人がため息混じりに答えた。
「そりゃそうでしょう。何も知らない子供や罪人共じゃ逃げ切れませんよ」
「そうだな。よほどの運でも無い限り」

 左道士達は魔獣を引き上げさせ、それと入れ替わりに兵士を入れて死体を片づけさせる。

「う、うわああ!」

 その兵士達の一角で悲鳴が上がった。
 何事かと左道士が駆けつけると、血やはらわたにまみれたものが動いている。
「な、生き残りがいたのか!」
 左道士が驚愕している傍らで、九峪は抱えていた二人の少女を下ろす。
 頬に張り付いた肉片を払いのけると、盛大にため息を吐いた。

「あ~、しんど。もうちっと早く来てくれても良かったんじゃないか? 動かないってのもなかなか疲れるんだぜ」

「ば、馬鹿な……。なぜ、生きてる」

 九峪は肩を竦めてみせる。
「あの魔獣、あんまり目が良くないみたいだな。そっちの女の子が血を被って放心してたら襲わないのが見えてな。だから俺も同じ事したってわけ。多分臭いもただの肉と紛れて消えるから、殺した奴との区別が付かなくなるんだろうな。そんだけ」
 軽く言ってのける九峪だったが、左道士は信じられなかった。

 確かに九峪の言っていることは当たっている。しかし、周りで殺戮が行われている中で、冷静に血を被って微動だにしないでいる事が普通の人間に出来るわけがない。

「カカ、やはり、生き残ったか」
 不気味な声が響く。
 兵士達と左道士達は、一斉に声の方を振り返り、そして叩頭する。

「……しかし、死んでおった方が楽だと教えておいたはずだがの」
「往生際が悪いんだよ」
「カカカ、愉快な男じゃ。ならば次の試練へと参ろうか」

 蛇蝎は部下に言って九峪と生き残った少女二人を拘束させると、そのまま連行する。

「せめて、身体くらい洗わせて欲しいもんだが」
「その格好で無くば、次の試練に不都合でな」
「いい予感はしないなぁ」

 無駄話を続けながら、九峪達は禍々しい空気を発する建物に連れてこられる。


 蛇蝎は笑いながら言った。

「生き残れたら、お主等も狗根国の狗じゃ……。せいぜいあがく事じゃな」

 そこは玄武宮と呼ばれる場所。



 ――魔界への、途が開く場所。













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【2006/04/07 00:38】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
アトガキ 編年紀二十章
 アトガキ



 更新日に予定が入ってしまったので、早めに二十章upしておきました。それに伴ってアトガキも早めに上げることに。最低でも次のブログの更新は金曜になっちゃいますね。来週にずれ込むかも知れませんが。

 それはともかく……

 なんじゃこりゃ~って思った人には申し訳ない。委員長でも遂にやっちまったのか、って感じですね。あ、でも別にこれからこの能力を使って委員長が暴れまくるとかそんな話はありませんから。だって魔人しか灼けないし、人間の戦いには使えませんからね。まぁ、対那の津の亡霊用のスキルだと思ってくんなまし。むしろ威力云々は置いといて、話を複雑化或いは簡略化するための一手だったりして……。
 それと朔夜がいい感じに怪しいオーラを放ってたと思うんですが、活躍はいつになるのかな~。きっと当分先です。

 制作状況ですが現在裏の十四章まで執筆完了。十五章を書いてる所です。ちょっとずつストックがたまってきましたが、もう少したまらないとねぇ。こつこつ頑張ります。盛衰記書いてる時間をまわせば一ヶ月くらいで完結するんじゃネ? みたいな所もありますが、あまり急いでもロクなもんにならない気がするので、ぼちぼちやっていきますわい。



 次回予告。



 「でも、やっぱり僕は藤那の傍にいます」














 では、ヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ

【2006/04/06 00:00】 | アトガキ | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
出雲盛衰記30
 出雲盛衰記
 三十章



 焼け落ちた出雲王宮。
 その周囲に展開した狗根国軍二万。

 囲まれるように出雲の民が集められ、その前方に作られた舞台に、出雲の王族や要人が並んでいた。

 一人ずつ、処刑されていく。

 幼い子供の手によって。

 たんたんと……


 舞台の端では東山が愉悦を浮かべてその光景を見ている。

 処刑を行うのは身内。
 大抵が子供。
 もしくは妻。

 出雲で強い力を持ち、今後反乱の芽となりそうな者達。
 無理矢理、親を殺させる。

 子供達は負い目を持つ。

 自分が殺したのだと。
 そんな自分が、何故復讐をするのだと。

 助命を懇願する親に、剣を振り下ろさせる。
 出来なければ狗根国兵が無理矢理やらせる。

 この凄惨な光景を、止めるものは一人もいない。



「くっくっく、これほどの愉悦がまだあったとはな。雅比古、誉めて使わすぞ」
「勿体ないお言葉で」
 九峪の顔に表情はない。

 自分が提言したことで起きている惨劇を、なんの感情も込めていない瞳で見つめていた。

「さて、いよいよ大取だ」
 舞台の中央に、王と王妃が引っ立てられる。

 出雲の民がどよめいた。
 その二人の前に、剣を持たされ立っている天目。


 東山は涙を浮かべている天目の方へ、歩を進める。
 九峪は舞台から少し離れた場所にいる魅壌の方を見た。
 軽蔑の眼差し。

 次に二人で会ったら即座に首を刎ねられそうだった。
 九峪はやれやれと肩を竦めると、視線を舞台へと戻した。

「娘。儂も鬼ではない。二親をその手に掛けるのは忍びないだろう。選ばせてやる。どちらかをお前が殺せたなら、もう一人は助けてやる」

 東山の外卑た囁き。
 すでに場の雰囲気に飲まれている天目は、その言葉に更に混乱する。

 いままで処刑された要人達も、処刑した子供達も、天目はよく知っている。
 泣きわめき、親を殺す光景。

 耐え難かった。
 でも、視線を逸らすことすら許されなかった。

 そして、今自分も。

 その時になって示される、儚い希望。

 だが、それは最愛の両親の、どちらかを選ぶという行為。
 どちらかを裏切るという行為。

「さぁ、どうする?」
 東山は楽しんでいた。
 幼い子供がどちらを選ぶのか。
 選べない選択の前に立たされて悩むのを。

 だが、停滞は東山の好むところではない。

 東山は王と王妃にも同じ事を言う。

 二人は視線を交わすことすらなく、死の恐怖すら見せず、毅然と言い放つ。

「天目、迷うな」
「私たちを、殺しなさい」

 二人は僅かな震えも躊躇も見せなかった。

 自分の子供に殺されると言うことを、受け入れていた。


 王族として、取るべき態度を、自覚していた。

 天目だけでも、生き残ってくれればいいと、そう願う親の姿だった。

「父上、母上……」


 そのことを理解して、天目の震えが止まる。

 東山すら呆れるほどの潔さで、天目はまず王の心臓に剣を突き入れた。
 痛みに目を見開きながらも、精一杯笑みを返す王。

 続いて王妃の首を掻ききった。
 王妃も穏やかに笑っていた。


 天目は両親の返り血をその身に浴びながら、目を閉じ、歯を食いしばった。

 最後に、止められるいとまも与えず、自分の事を貫こうと思った。

 潔く散ろうと、決心した。

 だが、声が聞こえた。

 それは、背を向けた両親の、最期の呟きだった。

 或いは、天目にだけ向けて放たれた、最期の呪か。

「「生きて……」」

 自分に突き立てようと、振り上げた剣を壇上に突き立てる。


「見事なものだ。自分の親に恨みでもあったか?」
 皮肉気な東山の声に、天目は感情のこもらない視線を返す。

「出雲を滅ぼしたのは私だ。この手柄は狗根国で高く買ってくれるんだろうな」

 子供とも思えない言葉に、東山は笑みを浮かべる。

「いいだろう。だが、お前が死ななければだがな……」
 天目は、東山のセリフを半ば無視して、壇上から降りた。


 これを持って、事実上出雲国は滅亡したことになる。



 処刑の終わった後、九峪と天目は東山の軍に連行される形で狗根国国都、山都に運ばれる。
 山都について直ぐに二人は薄暗い牢獄に投獄された。

 日の光も届かない地面の下で三日。
 天目は一度も口を開かなかった。


「いい加減飯くらい喰った方がいいぞ」
「……」
 九峪の差し出す残飯のような食料を、天目は払いのける。

「やれやれ、へそ曲げちゃって。しかしアレだな、とうちゃんかあちゃん殺したときは、なかなか勇ましかったよ。思わずほれぼれした。あれが泣きわめきながらだったら、あの場でお前も殺されてただろう。東山はそう言う奴みたいだったからな」
「……」
 九峪は軽い調子で天目の心の傷を抉る。

「お前、死ぬつもりだったろ。あそこで……」
 九峪は見透かしたように言う。
 天目は答えない。
 九峪も両親の敵の一人だと言う意識は拭えない。

「だが、止めた。なんでだ? それがどうにも分からない」
「……ら」
「ん?」
 小さな呟きに、九峪は首を傾げる。

「父上と、母上が、生きろっていったから……」
 掠れた声でそう言って、直ぐに顔を自分の膝に埋める。

「でも、それはきっと違う。私の思いこみ。自分が死にたくないから、二人が私の事を恨んでいることが怖かったから、だから聞こえたと思いこんでいただけ。死ねば良かった。死んでしまうべきだった。なんで、私、生きて……無様に……」
 嗚咽を漏らしながら、天目はため込んでいたものを吐き出す。

「……二人とも笑ってた。どうして? あの死に顔が頭から離れないの。恨んでないはずないのに、私のこと、失望しているはずなのに……。両親を殺せるような酷い娘なのに」
 親を殺した罪悪。
 消えないだろう。
 例えこの後の人生がどれだけ幸せでも、その暗い影は一生付きまとう。

 いっそ、壊れてしまえるほど、弱ければ、
 無視してしまえるほどに、鈍ければ、
 忘れてしまえるほどに、薄情であれば、
 それはどんなに楽だろう。

 でも、天目はどれでもなかった。
 強い女の子で、そして後悔出来る普通の女の子だった。

「ねぇ、私……どうしたらいい?」
 俯いたまま、呟く。

 九峪はため息まじりに答えた。

「んなもん知らん。そんな贅沢な話は、自分で人生が選択出来るほど余裕のある時に考えろ」
 九峪は現状を乗り切ることしか考えていない。
 東山に気に入られたかと思ったが、それでも投獄されていることを考えれば、機嫌が悪いという理由だけで直ぐにでも首が飛ぶ身。

 天目に至っては、いつ殺されてもおかしくない状態は変わっていない。

「三日くらい経つしな。そろそろ何かお達しがあると思うんだが」
「九峪は、自分が助かるためにあんな事を言ったの?」
 何かを期待するような、天目の瞳。

「命は惜しいからな」
 九峪は言い訳せずに認めた。

「でも、私が今生きてるのはあなたのその生き意地の悪さのおかげ……」
「勘違いすんな。お前が今のところ生きてるのは、お前の自信のおかげだ」
「でも、あのままなら一緒に処刑されてた。私は死にたくなかったし、九峪がいなければやっぱり死んでいたと思う」
「……なるほどね」
 納得したような九峪に、天目は首を傾げる。

 九峪は言うか言うまいか迷い、結局口を閉ざす。

 ――敵軍でたった一人でいたくないから、親の死に加担した人間であっても味方であると思いたがる。まだ十歳かそこらの女の子だもんな。親殺して正気保ってるだけで信じられんし。ここでそんな救いのない心理分析披露したところで、絶望死するだけか。ここは優しいお兄ちゃんでも振る舞うか。

 0.2秒ほどでそんな打算を働かせ、九峪は天目の隣に移動する。
 当惑顔の天目の頭を自分の方に引き寄せる。

「どのみちお前の両親を助けてやれなかったのも事実だ。恨んでくれてもいいぞ」
 九峪は天目が欲している言葉を選ぶ。
「ううん。ただ、九峪のせいで生き残ったのだから、責任……とって欲しい」
「少し眠れ。疲れてるだろ? ここにいてやるから。ずっと……」
「うん」
 寝息を直ぐに聞こえ始めた。

 九峪は天目の頭を撫でながら、どうやって生きて牢屋を出るかを考え続けた。














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【2006/04/05 00:00】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
出雲盛衰記29
 出雲盛衰記
 二十九章



 赤い髪の女は明らかに人間では無かった。
 その血に濡れたような深紅の髪の間から、ひょっこりと細長い耳がはみ出している。

 ――エルフ?

 九峪はその単語を始めに思い浮かべた。
 どうやら異世界に来たことは事実らしいから、亜人種がいてもいいのかも知れない。
 なんて割り切れるほど九峪は夢見がちな子供ではなかった。

 そしてそんな事を考えている暇があると思えるほど、楽観的でもなかった。

 九峪は黙って周囲を見回す。
 いつの間にか黒い鎧の兵隊に囲まれている。
 包囲の輪はジリジリと狭まってきていた。

「逃げ場はないぞ。大人しく掴まれば殺しはしない」
 女はそう言って腰に収めれた鞭に手を置いたまま、油断無く間合いを詰めてくる。

 ――まいったな。ゲームオーバーにしても少しばかり早すぎないか?

 九峪は出来るだけ慎重に天目を地面に下ろす。
 そして両手を上げる。

「なるべく丁重に扱ってくれよ。なにしろ虚弱なもんでね」
 九峪がそう言って嘯くと、いっせいに鎧の兵士達が九峪に群がった。

「いて、痛てぇ! ちょ、お前等手加減しろ! 無抵抗の人間相手に――ぬおぁ!」
 九峪はもみくちゃにされて、両腕をがっちりと拘束される。

「……ああ、痛て」
 鼻血をダラダラと流しながら、天目の方を見やる。
 天目も同じように縛られ、不安そうに九峪に視線を送っていた。

「連行しろ!」
 赤い髪の女が声を張り上げると、九峪達は引きずられるように連れて行かれた。



 狗根国の出雲遠征軍後備軍幕営。
 九峪と天目はそこに連行されると、赤髪の女の天幕に入れられ早速尋問が始まった。
 どこからどう見ても怪しい九峪と天目。特に九峪は見たこともない格好をしており、女はどうやら九峪が重要な人物であると見ているようだった。

「貴様の名前は」
「雅比古。アンタは?」
「これは尋問だ。私の名前など知る必要はない」
「いや、さっき兵士がしゃべってるの聞いたから分かってるんだけどね。魅壌ちゃん」
「……」
 女は無言で縛られて身動きの取れない九峪を蹴り飛ばす。

「質問以外に答える必要はない。今度無駄口叩いたら即刻斬り捨てるぞ」
「へいへい。で、何が聞きたい?」

「貴様は何者だ?」
「生もの」
 九峪の嘗めた返答にもう一度ケリが入る。
「真面目に答えろ」
「……ぐぅ。痛てぇ」
「答えろ!」
 殺気の籠もった一喝に九峪は不承不承答える。

「○×高等学校一年C組、出席番号十二番、今年で十六になる男の子ですが何か?」
「……なんだと?」
 九峪の言葉の意味が分からず首を傾げる魅壌。
「真面目に答えても分からないだろ? つまりアンタの知らない場所からきた知らない人。俺もアンタが何者でここが何処で、なんで捕まってるかもよく分かってないくらいに何も知らないから、自分が今この状況において何者と答えるのが適切であるのかは知らん。どうしても答えろって言うなら、部外者っていうのが一番適切なんじゃないかなと思うけど、それはそっちの解釈するべき事なので尚更俺は知らん」

 魅壌は九峪を計るように見つめる。
 今の言葉の真偽を考えているのかも知れない。
「分かった。確かに見たこともない格好をしているし、普通の人間とも違う雰囲気であることも確かだ。私の理解の及ばぬ場所から来たのだと思うことにしよう」
「ご理解頂けて幸いです」
 九峪は棒読みで礼を言う。

「が、だったらなぜその少女と一緒に逃げていた?」
 魅壌の視線は天目の方へ移る。
「俺は女全般に優しいんでね。目の前に傷ついた女の子がいたら、助けたくもなるんだよ。別にあんたらに襲われてるとか知らんかったしな。助けを請われて幼い手をふりほどくほど人間止めてないし。ただそれだけだよ。つーか、こんなガキ追いかけ回すってどういう了見だよ」
「質問は私がすると言っただろう」
「聞く権利は無いと?」
「冥土の土産になら話してやるが?」
 女はそう言って剣を引き抜く。

 九峪は不機嫌そうに口をへの字に曲げると黙り込んだ。
 魅壌は剣を鞘に収めると、天目の方をじっと見つめる。
 天目はその視線を避けるように俯いた。
「出雲王家の生き残りだな」
「……」
 魅壌の質問に天目は沈黙で答えた。
「ふん。お前等には気の毒なことをした……」

 魅壌はそう言ってため息を吐く。
「同盟を結んで油断させた隙に襲いかかられたのだ、さぞかし狗根国を恨んでいることだろうな」
「……」
 天目は答えない。
 かわりに拳が白くなるほど硬く握りしめられ、身体がかすかに震えている。

「言い訳にしかならんが、今回の攻勢は東山と鋼雷が先走ってやったことだ。狗根国の総意ではない」
 天目は顔を上げると、血が出るほどに歯を食いしばって、魅壌に怨念を叩き付けるように睨んだ。
 涙に濡れながらも血走った目を、魅壌は正視に耐えずに視線を逸らす。

「だが、事がこうなってしまえば、お前を見逃すわけにも行かない。逃せば何時の日かお前は狗根国に牙を剥くだろう。その芽はつみ取らなくてはならない」

「……なら、殺せ。だが、我ら出雲王家の呪い、努々忘れるな。狗根国の傘下に入るもの、尽くに地獄の苦しみを与えてやる」
 天目は幼子とは思えぬ、鬼のような表情で言葉を吐いた。

「……」
 魅壌はただ首を横に振った。
 呪いなど無意味だ、とでも言うように。

 九峪はそんな二人のやりとりを傍観しつつ、何に巻き込まれたのかを漠然と理解した。
 侵略戦争で亡国のお姫様を自分は拾ったのだと。

 ――異世界ものの王道ってやつか。

 そんな事を他人事のように考え、それでもこのまま目の前の少女をみすみす殺させるのも忍びないなと考える。

「魅壌。出雲王家は滅んだのか?」
 九峪の言葉に、魅壌は首を振る。
「王族の何名かは生け捕りにされた。近いうちに大々的に処刑されるだろう」
「ふ~ん。じゃあ天目も一緒に処刑するわけか」
「……だとしたら何だ?」
 九峪は天目の方をちらりと見る。

 俯いて、泣いている。
 九峪はどうしたものかと思いつつ、考えたことを口にした。

「よう知らんが、出雲をすんなり平定するなら、王家皆殺しより効果的な方法がある」
 魅壌は眉根を寄せて九峪を見る。
「なんだ? 試しに聞いてやる。言ってみろ」

「天目に処刑をやらせろ」
「「!!」」

 魅壌も天目も、驚愕に目を見開いて九峪を見ていた。
 九峪は平然と理由を口にする。

「唯一生き残った王族が、親殺しで狗根国に協力的だと知れば、出雲王家再興などと口にする輩は消える。自分たちが今まで頂いてきたものの愚かしさに気づき、新たな狗根国の支配を受け入れ易くなるだろう」
「正気か……お前」
 九峪は肩を竦めてみせる。

「もっともその後であまり締め付けすぎては効果は得られんから、統治するものの裁量次第だが」
 九峪が天目を見ると、天目は嫌々と首を振った。

 それならば一緒に死んだ方がマシだと。

「くっくっく、なかなか面白い事言うな、若造」
 低い声が響き、天幕に大柄な男が入ってくる。
 普通の兵士より装飾が多い事から見ても、どうやら地位が高い人間のようだ。

「東山。人の幕営に勝手に入られては困るな」
 魅壌の人さえ殺せそうなきつい視線を、東山と呼ばれた男は平然と受け止める。
「今回の戦の指揮官は儂だ。何処の幕営に顔を出そうと儂の自由なはずだが?」
「私はお前の指揮下に入った覚えはない」
「ふん、相変わらず硬い女よ。それよりもだ……」

 九峪は背後に立つ東山を見上げた。
 醜悪な面に筋骨隆々な身体。まるで壁のような大きさに、九峪は顔が強ばるのを感じる。

「……何か用でしょうか?」
「貴様……、何者だ? いや、それはどうでもいい。随分と面白い話をしていたな」
「そうだったかな?」
 とぼける九峪を東山は片手で持ち上げる。

「くっくっく、儂も色々と趣向を凝らすつもりではおったが、先ほどのお主の言を聞いて腹が決まったわ」
 東山は九峪の縄を解くと地面に下ろす。
「まだ幼い娘子に殺される親か……。ふっふっふ、考えただけで笑い零れるわ」
 九峪は長いこと縛られて鬱血してしびれた腕を軽く振りながら、愉悦に浸る東山を見上げる。

「戦いは出来ないが、使ってくれるというならいい知恵は今後も貸せると思うが?」
 東山はニヤリと笑う。
「いいだろう。思いついたことがあれば何でも言え。ふふ、あーっはっはっは」

 九峪は大笑いする東山をほっといて、ちらりと天目の方を見る。

 そこには先ほど魅壌に向けたものよりも、より一層怨念の籠もった視線を向けてくる、幼い少女がいた。













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【2006/04/04 17:32】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
出雲盛衰記28
 出雲盛衰記
 二十八章



 その時代、その場所には酷く似合わない格好をした男は、足に怪我をした少女を背負って道無き道を歩いていた。
 気が付けば森の中にいて、何故か分からないが物騒な連中に追われている。
 原因は背負っている少女のようだったが、始め口を開いてから、一言も発していない。

 ――何がどうなってるんだか……



 男の名は九峪。今年十六になる高校生。毎年恒例で、ゴールデンウィークには親戚の家を訪れ、その足で出雲大社へのお参りをする。なぜそんな慣習が九峪家にあるかは謎だが、とにかくそうなっている。

 高校生になったばかりで、九峪は新たに出来た友達とGW中は遊び惚けたかったのだが、朝食に睡眠薬を入れられ寝ている間に連れ去られてしまった。
 明らかな犯罪行為に憤慨もしたが、じたばたしても戻れないので、いつも通り神社へとお参りに向かったのだ。

 適当にお参りを済ませ、さっさと帰ろうと振り返ると辺りに沢山いたはずの人が一人もいなくなっていた。
 ただ一人、広い石畳の中央で、女がまっすぐに九峪の方を見つめていた。

「……あれ? ほかの連中はどこに……」
 九峪はおかしいなと思いつつも、石段を下りてまっすぐと女の方に歩く。別に女に用があったわけではなく、単純にそちらが帰り道だから。

 女はずっと九峪を見つめていた。
 九峪には見覚えのない女。
 すらりと背が高く、金髪で、かなりの美人。

 外人かと思ったが、どうやらそうではないようだ。
 九峪は関わり合いを避けるように視線を避けて脇を通り過ぎる。
 ナンパする雰囲気でもないし、どうにも周囲の様子がおかしかったから、とにかくこの場を一刻も早く離れたかった。

 ふわり、と空気が動いた。

 九峪は背後から抱き留められ、驚いて振り返ろうとする。
 目の前を金髪がさらさらと流れ、顔を上げればそこに女の顔がある。
「なっ……」
 驚愕。他に感情は湧かなかった。
 思考は停滞し、身体は竦んでただ固まったまま女を至近距離で見つめる。

「助けて……下さい……」
 女は唐突に呟いた。
「は?」
「助けて……下さい……」
 同じセリフを繰り返す。

「助けて……って言われても……」
 狼狽している九峪の身体を女は一層強く抱きしめる。
「お願いです……。あなたしか、いないの」
「いや、わけがわからん」
「早くしないと、何もかも死んでしまう」
「し、死ぬ?」
「そう。だから……助けて下さい……」

 唐突な状況に狼狽する。
 結局何から何を助けて欲しいのか全然分からない。
 それを聞くと、女は儚げに笑った。

「呪われし運命から、私の子等を……」

 今にも泣き出しそうに沈んだ声。
 九峪は美人が悲しんでいるのに動揺しながらも、内心では――

 ――うわぁ、電波だ電波……。逃げてぇ……

 なんて思っていた。

「取り敢えず離してくれないか?」
「いやです。いいと言ってくれるまで離しません」
「じゃ、無理矢理」
 九峪は幾ら自分より背が高いとは言え、女の細腕をふりほどくなどわけはないと、思い切り振り払った。

「ん? ぐぬ! むうううん!」
 顔を赤くして本気でやるが、女の腕は微動だにしない。
「あれ? んな馬鹿な」
「聞いてくれませんか?」
 女は悲しそうに言う。
 九峪は抜け出すことが先だと、取り敢えずお願いを聞くことにする。
「はいはい、わかったから離して」
「口先だけでは駄目です。あなたの心が了承しないと、契約は成立しない」
「はぁ?」
 九峪はヤバイ薬でも決まってるのか? と疑いつつ、どうしたものかと首を捻る。
 女の方も同様に、どうやって九峪に心からの肯定を引き出そうか思案する。

 そして――
「お願い聞いてくれたら、私を好きにしていいですよ……」
 九峪はなぬっと女を凝視する。
 その一瞬。ほんの刹那だが、確かに九峪の心は揺れ動き、そして肯定した。女のお願いを。

 女は身体を離す。
 とても暖かい笑みを向けて。

 九峪は今度は光の輪に身体を拘束され、どんどんと持ち上げられていく。
「な、なんじゃこりゃーっ!」
 女はとろけそうな笑みを浮かべたまま、答える。
「頑張って下さいね。応援してます」
「はぁ? おい、なんなんだよ、どうなってるんだ!?」
「お代は戻ってこれたら支払いますね、うふふ」

 次の瞬間、九峪の意識は消失し、次に見たものは背中の少女だった。



「はぁ、わけわかんね」
 体力には自信があったが、それでも人一人担いでそんなに動き回れるわけもない。今後の事も考えて無理はしないように休憩することにする。
「なぁ、お前なんて名前なんだ? 俺は九峪」
「……天目」
 少女は痛むのか足の傷を見ている。
 走っている間に何処かですりむいたのだろう。血は既に止まっていたが、傷口は土と血で汚れて汚い。

 九峪は近くに水場が無いか探すが、目の届く範囲にはなさそうだった。
「天目はなんで逃げてるんだ? つーか何が起こってるんだ?」
「出雲王家に、狗根国が侵略してきて……それで」
 九峪はそのセリフに鼻白む。

「出雲王家って……」
「知らないの?」
 九峪は肩を竦める。
 ――わからん。なんだここは。そもそも天目も変な格好してるし、追っ手もなんか鎧姿だしなぁ。

 映画のロケ現場? と思いたかったが、天目の怪我も、追っ手の殺気も本物だというのは確かなようだ。
「……あ~、どうするかなぁ」
 現実感は湧かない。
 どうするべきかも思いつかない。

「あの、あなたはどこから来たの?」
 天目の疑問に、九峪は答えられない。
「それが分かれば苦労は無いんだが。やっぱりあれなのか? ここは異世界って奴なのか……」
「異世界?」
 九峪は不思議そうに見上げている天目の頭を撫でる。
「なんでもね。どうせわかりゃしないか」
 諦めたように呟く。

 九峪は辺りを見回して、立ち上がるともう一度天目を担いだ。
「さて、じゃあもうちょい逃げるか」
 そう言って走り出そうとした、
 足が止まる。


 ザッ

 土を踏む音。
 振り返った場所にいたのは、
 悪鬼の如き赤い髪をした、大柄な女だった。



「もう、逃げられない」














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【2006/04/03 19:14】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
出雲盛衰記27
 出雲盛衰記
 二十七章



 寝苦しさに目を覚ますと、カビくさく薄暗い部屋の中だった。
 両手足を縄で拘束され、無造作に転がされている。

 ――ここは何処だ?

 始めに浮かんできた疑問はそれ。
 九峪は動かないで周囲の気配を探る。
 辺りには誰もいない。それを確認すると身体を起こした。

 そこは物置のような場所だった。
 高い位置に窓があり、光が注いでいる。

 周りには何が入っているのか大きめの木箱が並んでいた。
「ん~、どういう事なのやら」
「知りたいですか?」
 声は上から。

 九峪が寄りかかっていた木箱の上に、眼鏡をしたインテリっぽい少年が座っている。
「桂。久しぶりだな」
「父上殿も息災そうでなによりです」
「そう思うなら縄解いてくれ」
「ご冗談を。私にも立場というものがあるのですから」

 桂はそう言って鼻で笑う。

「で、状況を説明して貰おうか?」
「そのくらいならば。ここは当麻の街の地下、あなたは人体実験用の検体としてここにいます」
「人体実験?!」
「復興軍の快進撃、少しはおかしいと思っていたでしょう? 反乱の芽が元々あったとはいえ、幾らなんでも上手く事が運びすぎです」
「たしかにな。でも、それは天目のおかげだろ?」
 桂は馬鹿にしたようにため息を吐く。

「母上の用兵術は確かに卓抜してはいますが、それでも素人を寄せ集めて戦わせているのです。普通にやったら楽勝とは行きません」
「それで、それが人体実験と何か?」
「知っての通り狗根国は魔人やら魔獣やらを使用します。それに対抗するべく、人を改造しているのですよ」

 九峪は幾つか有り得そうな事を想像し、そして首を傾げる。

「じゃあ、あの寝太郎から貰った優待券は、消えても何ら不都合の無い人間に渡されるものってわけか」
「あの砦の他にも火向のあちこちで似たような目的の施設が作られています」
「ふ~ん、それが裏の顔ってわけか……」
「いえ、それも一つと言うだけです」
「ん?」

 桂は楽しげに眼鏡を指で押し上げた。

「まだ、確証はありませんが、存外面白い場所と繋がっているようですよ、宗像神社の連中は」
「ほう、お前が面白いという場所があるとはねぇ」
 桂は含み笑いをしたまま肩を竦めてみせる。
「まぁ、それについてはもう少し情報がまとまってから報告しましょう」

 そう言って懐から小刀を取り出すと九谷に向かって投擲する。
 小刀は後ろ手で縛られていた九峪の縄を切断した。

 九峪は足の方は自分ではずすと、手足をぶらぶらと振って感触を確かめる。
「母上が心配していましたよ」
「天目には悪いと思ってる。けどな、もう少し遊ばせておいてくれや」
「後でどうなっても知りませんよ」
「覚悟の上だ。それにお前等がきんちょには分からんだろうが、俺と天目は何時だってラブラブなんだよ」

 桂は心底呆れた表情になる。
「そうですか。まぁ何だって構いませんが、私は忙しいのでこれで失礼します」
「ああ」
 九峪が手を挙げて応じると桂は姿を消した。



 ――以前、ある女に聞かれたことがある。
『お前は本当の地獄を見たことがあるか?』

 ――答えは否。
『なら、見せてやろう。私が、本当の地獄って奴を……』

 ずいぶんと昔の記憶。
 それでも色褪せることもなく、九峪の裡に確かにまだある光景。

「深川様、また失敗です」
「また、か」
 深川は毒吐いて手に持っていた竹簡を放り投げた。
 その竹簡には事細かに何かのデータが書き込まれている。

「なかなか難しいな。やはり一般兵に適応するには濃度が問題か。量よりもむしろ」
「では、次は例の奴で……」
「ああ、そうだったな。と言ってもアレには特別せいの奴だ。くっくっく」

 九峪はその笑みに嫌だなぁと思いつつ、扉を開けて奥の物置に部下の男が入っていった瞬間に入れ替わる。
「くっくっく、昔年の恨みを今日ここで!」
「お前に恨まれる覚えはねぇよ。つーか復興軍の施設じゃないのかここ」
「!!」
 つまらなそうに呟いた九峪に、深川は愕然としながら振り返る。

「貴様! どうやって!」
「どうやってって、普通に歩いて」
「相変わらずでたらめな身体だな。致死量の倍は麻酔薬を打ったはずだったが」
「殺す気かお前……」

 深川は呆れたように呟いた九峪から間合いを取る。

「ふ、ふっふっふ。しかし、まぁ全く想定していなかったわけでもない。久しぶりだな、九峪。会いたかったよ」
「何やってるって聞いてるんだが?」
 九峪の視線の先には、人が数人天井からぶら下がっている。
 誰しも目が虚ろで涎をだらしなく垂らしている。

「何を? 聞くことでもあるまい」
 挑発的にそう言った深川を無視して、ぶら下がっている一人に近づく。
 じっとその状態を見つめて、九峪はため息を吐いた。

 ――桂が言っていたのはそう言うことか。

 九峪は全てを了承する。
「反乱すらも、狗根国の手の内か……」
 深川はやれやれと肩を竦める。
「相も変わらず察しがいいな。その通り。今回の反乱も全て狗根国に管理されている。勝ちも負けもない。まぁ、都督の連中はもちろん知らないことだが」

「どういうつもりだ?」
「簡単なことだ。形の上では耶麻台国に復活してくれた方が、民からより搾り取りやすくなる。管理もしやすいだろう?」

「ったく、誰の発案だ?」
「そこまで教える義理はない」
 ふふんと鼻を鳴らすと、話は終わりとばかりに深川は手を叩いた。

 大して広くもない部屋に深川の部下が押し寄せてくる。

「取り押さえろ。殺すつもりで構わん」
「「はっ!」」

 九峪は襲いかかる屈強な男達を、冷めた目で見回す。

 刹那の間に死体がゴロゴロと部屋に転がる。

 瞬きする間も与えず皆殺し。

 深川はそれでも落ち着いていた。
 落ち着いて、その結果を見届け動いた。

「貴様の能力は知れている。終わりだ九峪」
 能力というハンデが無ければ、九峪はそれほど優れた身体能力を持っている人間ではない。
 待機時間の三秒間。
 深川がその隙を突くには十分だ。

 何か液体が塗られた刃が九峪の腕を掠める。
 深川はそこで動きを止めた。
「くく、くくくく」
「ん? 毒か?」
「あっはっはっはっは、そんなちんけなものじゃない。後悔しろ、九峪。私を捨てて狗根国を去ったことを!」

 ドクン

 ドクン


「な、んだ?」

 ドクン

 ドクン

 ――からだが、熱い。

「それは魔界の黒き泉さ。フフ、復興軍の連中をそれで強化してやってるんだが、お前につけてやったのは私が開発した精製法で濃縮した奴だ。常人なら身体が負荷に耐えられずに破裂する。くく、お前が悪いんだ、九峪。天目などと共に消えた、お前が……」
 深川は、泣いていた。
 笑いながら、泣いていた。

「……無駄を悟れ、深川」
「え?」
 九峪は、全身から湯気を上げながら、それでも平静そのものの顔でそう言った。

「俺が、魔界の黒き泉で変質などするものか」
「……なぜだ?」
 その湯気すらも、徐々に収束して……九峪は何も変わらなかった。

「なぜ……お前は」
「魔界の黒き泉なら、十五年前に三ヶ月ほど浴び続けた。今更俺には効果がない。変わるべき所は既に変わっている」
「ば、かな」
 魔界の黒き泉は飲んだものに絶大な力を与えるかわり、その反動に耐えられないものに死を与える。
 そんなものに三ヶ月間。
 深川にはとても信じられなかった。

「諦めろ……」
 九峪は深川の背後を取ると、首筋に当て身を食らわせる。
 意識を失い、ぐったりと崩れ落ちる深川。

 九峪は深川を担ぐと、どうしたものかと周りを見回した。














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【2006/04/01 00:01】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(1) | page top↑
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