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出雲盛衰記44
 出雲盛衰記
 四十四章



 盆地に開けた平原。
 その真ん中にある焼け落ちた城。
 落城したのはもう随分と前。
 その廃墟に寄り添うようにかつてあった集落も、今では雑草に覆われ、人々はまるでここが忌むべき場所であるかのように近づいていないことを示していた。

「十五年か……」
 九峪はかつて処刑が行われた血塗られた石舞台に立っていた。
 処刑が行われたこの場所は、元々は祭事を執り行ういわば信仰の対象であった。出雲王家そのものよりも歴史は古く、破壊不可能な大きな一枚岩の舞台はそれでも狗根国があちこち壊そうと試みたらしく、傷が目立つ。
 だが、信仰対象から出雲の人々を離すという役割は、あの時の処刑で全て果たしていた。

 王族の子供が、両親を処刑した。
 ここは、忌むべき場所。
 呪われた場所。

 九峪は天目が自決を思いとどまり、石舞台に剣を突き刺した場所に立っていた。
 まるで怨念でも染みついているのか、その剣が突き立てられた溝とその周辺には、十五年経っても色あせない血の跡が残っていた。

 結局、天目の両親や出雲の重臣達が何処に葬られたのか九峪は知らない。
 だから、九峪が生き残るために死んで貰った者達に、一体何処で祈ればいいのか分からなかった。
 だから、九峪はこの石舞台を墓標と見立ててここまで来た。
 
 別に構わないと思っている。どうせ死人は考えないし恨まない。
 死者を弔うというのも、結局は生きている人間が気持ちを整理するためのものでしかないのだから。

「……こんなところでのんびりとしている場合ですか? 今頃復興軍と再興軍の間で戦争が始まっているかも知れませんよ」
「そうだなぁ。まぁ、そうなんだけどよ」
「何がしたいんですか? あなたは」
 閑谷の言葉に、九峪は肩をすくめる。
 そして自嘲的な笑みを浮かべて見せた。

「さて、な。一体俺に何をさせたかったのか。十五年、彷徨ってみたが結局分からずじまいだ」
「なんの話です?」
「……私の子供達を救って、か。一体どれがそうなのか先に明言しておけと言うんだ」
「……?」
 九峪はやれやれと肩をすくめる。
 自嘲的な笑みの意味は、半分はまだ元の世界に帰れることを期待している自分がいるせいだ。

 十五年。
 違う世界で過ごした時間はあまりにも長い。
 今更元の世界に戻ったところで、普通の生活は送れないだろうし、九峪がどんな扱いになっているのかも分からない。
 十五年経てば死人扱いになっているだろう。
 もう、居場所は無い。
 
 逆にこちらには九峪を受け入れてくれる人がいくらでもいる。
 九峪が自分で作ったつながりは、九峪自身にとってもかけがえのないものであり、そして捨て去ることは難しいものでもある。

 ――ここに来たのは、最後の未練を断ち切るため……なのかね。

 自問自答して、閑谷達を見る。
 十代前半の子供達。
 もしかしたら、この三人のうちの誰かがその対象なのかも知れない。
 分からない。
 全然分からない。

 ――だが、もうどうでもいい。誰がなんだろうが知ったことか。

 九峪は大きく息を吸い込むと、草原に向かって思い切り叫んだ。

「絶対に帰ってやらんからなぁーーーっ!」

 九峪の突然の奇行にいぶかしげな子供達。
「脳の具合は大丈夫ですか?」
 真姉胡の冷静なツッコミに、九峪は苦笑で答えた。
「すてきなほど正常だ」
 そう言って微笑む九峪。

 その背後で、唐突に光が溢れた。


 九峪は振り返ると、まぶしさに目を細めながら光の中に、人の影を見る。
 二人、いや三人。
 シルエットだけで、二人は分かった。

 今も九峪の脳に僅かの劣化もなく、鮮明に思い出せる姿。
 出雲王家、最後の王と王妃。
 天目の、両親。

『天目を、今まで守ってくださってありがとう』
『あなたのおかげで、私たちも恨み無く逝けます』

 ――それは、違う。俺の方こそが、あいつに救われていた。いや、今も……

『あなたにとってそうであっても、あの子にとっても同じでしょう』
『だからこそ、ありがとう』

 ――こちらこそ、と言うべきだな。ありがとう。

『ふふ、これからもよろしく頼むぞ』

 王の優しげな声色。

 ――まぁ、出来る限りは。

『浮気もほどほどにね』

 大らかなのかなんなのかそう言って微笑む王妃。

 ――確約はしかねます。

『『異界の者、そなたに感謝する』』

 二人そろって頭を下げると、光源に向かって消えていった。
 微妙に釘を刺されたような気がしないでもない九峪。

 それはさておき、まぶしくてよく見えないが、もう一つ人影がある。

 長身に長髪。逆光で姿がよく見えないなと思っていると、とたん光が消え失せ元の世界に戻った。

「い、今の一体……」
「うぅ、目が眩んじゃったよぅ」
 閑谷達は目を擦りながら真昼の怪異に狼狽している。

 九峪はそれを尻目に、自身も眩む目を細めながらも、光とともに消えなかった人影を、じっと見つめていた。

「……十五年ぶり、ですね。少年」
 腰まで伸びた金色の髪。
 180近い九峪と同じくらいの身長。
 陶磁器のように真っ白な肌。
 弧を描いている真っ赤な唇。

「……」
 九峪は無言で女を見つめる。
 後ろで突然現れた女に警戒を強める子供達など無視して。

「……何か言ってください。怒ってくれてもいいんですよ」
「……」
「あなたの運命をねじ曲げたのは私です。例えあなたが私を殺すと言っても、私はそれを受け入れましょう」
「……」
「どう、しました?」
「……」
 なおも沈黙を続ける九峪。

 女は困ったようにおろおろとし始めた。
「あ、あの、やっぱり怒ってますよね。無理矢理こんなところに放り出して……」
「……」
「で、でも、あの時はあなたにしか頼めなかったというか、次元間の移動は特定個体だけにしかその霊格が備わって無くて……私も選択肢がなかったというか……」
「……」
「……うぅ、な、何か言ってください」
 見る間にしおれて涙目になる女。
 初めに見せた超然とした姿は何処にもなくなっていた。どうやらあれはポーズだったようだ。

 九峪はガシガシと乱暴に頭を掻くと、ちょいちょいと女を手招きする。
 ようやく反応が会ったことに喜んで、笑みを浮かべて近寄ってくる女。
 九峪は至近まで迫った女の額を、手招きしていた手でこづいた。
 思わずのけぞる女。
「な、何するんですか!」
「……色々と聞きたいことはある。あるが、今は一つだけでいい。答えてくれるか?」
「はい。なんでもお答えしましょう」

 九峪は女の腰に手を回すと、ぐいっと身体を引き寄せる。
 息がかかるほどの距離に顔を近づけて、じっと女を見つめる。
「あ、あの、その……、近いんですけど……」
「お前って、ずっと俺のこと見てたのか?」
「え、あ、まぁ、四六時中というわけではないですけど……」
 九峪はふっと何かを悟ったように笑った。

 女はその顔が魅力的だったのかどうなのか、顔を赤らめる。
 九峪はその瞬間、一瞬で女の背後に回り込むと、上体を下げて腰の辺りを両腕で掴む。
「な、なに?」
 背中に顔をくっつけて見ようによっては母親に甘える子供の体勢だが、九峪にそんな思惑は皆無だ。

 九峪は、十五年分の鬱積を込めて叫んだ。

「出てくるのが遅すぎじゃ、このボケェッ!!!!」

 同時に女の視界が回転し、その身体は真っ逆さまに石舞台に突き刺さった。
 見事ジャーマンスープレックスを決めて、ブリッジの体勢から跳ね起きた九峪は、石舞台に半身を突き刺されてぴくぴくと言っている女に指さすとともに、宣言した。

「とりあえずこれだけで貴様に対する怒りは治めといてやる。心の広いオレ様に感謝しろよ。女」

 傲然と言い放った九峪に対して、状況のあまり分かっていない虎桃が一言。

「っていうか、もう死んでるんじゃない?」

 石舞台の上は、なんともいたたまれない空気に支配されていた。













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【2006/05/31 00:22】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
出雲盛衰記43
 出雲盛衰記
 四十三章



 北は豊後国都長湯、南は当麻の街から内乱の報が火向国都川辺城にもたらされた。
 長湯の方には、復興軍先方を務めていた天目が主導となり、当麻の方では火魅子候補の一人、志野が中心となって兵をまとめ上げていた。
 両者とも耶麻台国再興軍を名乗り、かつての耶麻台国敗北の咎は復興軍幹部の大部分を占める宗像神社の関係者にあるとし、完全なる復興を果たすためにはまず復興軍を討つべしと宣言していた。

 予想もしなかった足下からの火の手に、星華は完全に顔色を無くしていた。
 なぜならば、再興軍の中心となっているのは天目でも志野でもない。御旗として掲げられているのは、現存する最も正統なる耶麻台国の血統、元副国王の伊雅とその娘清瑞である。
 確かに九洲を開放し、火魅子として女王位に付くことが出来れば、伊雅も清瑞も恐るるに足りない。しかし、その血統を絶やそうとした事実は隠蔽出来ない。耶麻台国が滅亡したのが十五年前。伊雅の事を知っているものもまだ少なからず生き残っているし、伊雅を偽者と断ずることも出来ない。その伊雅がかつて謀叛を起こし、今回もまた自分の命を狙ってきたのだと言えば、大多数は伊雅側に心証が傾く。さらに、火魅子候補も伊雅側には、藤那、伊万里、志野の三名が付いている。
 火魅子候補そのものに存在意義が本来無いものだとしても、それが復興軍の求心力の中心であった以上、また自分も火魅子候補の一人である以上、星華に藤那達を偽者だと言い切ることもまた出来ないのだった。

 いや、実際には星華は口汚く藤那や伊万里のことを罵っていた。偽者だ、俗悪な血統だとこき下ろしていた。対外的にそれが漏れる事を抑えていたのは、逆効果だと分かっていた亜衣の差配によるものだ。

 ともかく乱は起こり、狗根国側にもこれを利用して漁夫の利を得られるだけの戦力が無く、静観を決め込んでいる以上、復興軍と再興軍の衝突は避けられず、そしてその勝敗も誰の目から見ても明らかなほどに開いていた。
 再興軍に戦力の八割を吸収された復興軍は、自前の戦力は残すところ川辺城に残していた千のみ。豊後方面にいくらか押さえを残しておくとはいっても、再興軍は三倍以上の兵力で攻めてくることになる。

「亜衣、どうしよう?」
 不安そうなキョウの言葉に、亜衣は眼鏡の奥の冷徹な瞳を細める。
「どうもこうもないでしょう。戦い、そして勝たねば我らに未来はありません」
「で、でも……」
「確かに旗色は悪いです。ですが、勝てない分けでもありません。三倍です。たかが三倍。キョウ様はお忘れですか? 復興軍としての初戦の相手も、三倍でしたよ」
「……それは、そうだけど。状況が。何も知らない一般兵の中には動揺するものも増えてるし、何より……」
 キョウの視線を送った先は神の遣いの間だ。

「あのお方にもいずれ役に立って頂かなくてはならないでしょうが。まぁ、ギリギリまで知らないで頂きましょう。しかし、深川まで裏切るとは――いや、裏切ったのは当然として、まさか志野に付くとは……」
「志野、か。理知的ではあったけど、控えめな志野に、一体何が……」
「さぁ。大方猫でも被っていたのでしょう。使い勝手がいいと思わせて、自然兵を預けさせるようにし向けていた、と言う事でしょうか」
「そ、そうなんだ?」
「そうでなければ、こうも鮮やかに兵をまとめられません」
 亜衣はやれやれと肩を竦める。

「しかし、それでもこうもまとまって反旗を翻した事には、他にも何か裏で動いている気がしてなりません」
「一体何が? まさか狗根国?」
「狗根国も動いてはいるでしょうが、この場合は違うでしょう」
「と、言うと?」
「分かりません。ともかく勝つための策を張り巡らせましょう。私はそのためにいるのですから」
 まるで機械のようにたんたんと語る亜衣。
 キョウはその横顔を見つめて、内心焦っていることを見て取る。

 キョウも亜衣とはそれほど長い付き合いではないが、それでも戦時中の数ヶ月である。元々王宮で権謀術数の限りを見てきたキョウは人の内面を伺う術に長けている。亜衣の焦りも手に取るように分かった。
 
 ――このままじゃ、マズイかも知れない。いざとなったら逃げ出さなくちゃ……

 伊雅と確執があるキョウとしては、再興軍に下ることも許されない。見つかったが最後、確実にたたき割られる。
 
 ――オイラ、どうすれば……

 頭を抱えるキョウ。救いの手は、意外な所から差し出される。しかし、その事はまだ誰も知らない。



 一方その頃、那の津へと向かっていた九峪ご一行様は、本州行きの船を探してぶらついていた。
「船ならばこちらで用意致しますが?」
 閑谷の親切を九峪は素っ気なく断る。
「蛇蝎の息のかかった船なんてぞっとしねぇ。例え海が凪いでてもしずむだろ」
「暗殺の危惧なら……」
「気分の問題だよ。それに、船ならもう見つけたし」

 九峪がそう言って視線を向けた先には、大陸や半島へと向かう大型の船があった。手で漕ぐガレー船と風を利用する帆船の半々と言った作りだが、その帆に特有の印がある。半島を拠点に手広く商売をやっている名のある商人の船だった。狗根国とも懇意に商売をしているので、閑谷達にも見覚えがあった。
「さすが九峪。彼の商人とも知古なのですね」
「まぁな。半島行くときはよく利用したもんだ」
「なるほど」

 九峪は船のそばで慌ただしく動いている少女に近づく。三つ編みにした髪を二房垂らし、眼鏡をかけている。
「お~い、只深ぃ」
 九峪が手を挙げて声をかけると、少女は弾かれたように振り返り満面の笑みを浮かべて九峪の懐へと飛び込んできた。
「九峪は~ん」
 九峪は危なげなく抱き留めると、しがみついてくる只深をぎゅっと抱き返してやる。
 暫く抱き合ったあと、どちらからともなく離れ、只深は九峪に付いている瘤――すなわち閑谷、虎桃、真姉胡を見る。

「なんや九峪はん、また新しい隠し子でっか? まぁ、相変わらず貞操観念が欠落してはりますなぁ」
「違うはボケ。こいつ等"は"俺の子供じゃない」
「説得力無いですなぁ。本当は何処の誰の子やねん」
「だから違うって。それより船乗せて欲しいんだけどな」
「はぁ、ええですけど、どちらまで?」
「取り敢えず本州につけてくれりゃいいや」
「えらい大雑把ですな。まぁ、山都に行く所でしたからちょうどええですわ。それより天目はん達は?」
「ただいま別行動中なんだよ。あっちはあっちで忙しいから」
「珍しいこともありますなぁ。まぁ、船はもう暫くしたら出ますよって、それまでその辺のんびりしとって下さい。準備出来たら呼びに来ますさかい」
「ん、頼む」

 只深は営業用の笑顔を振りまいて去っていった。
 閑谷はその姿を目で追いながら、思い出したように呟く。
「只深、と言えば彼の大商人只恒の一人娘では?」
「ほう、物知りだな閑谷は」
「それが仕事ですから……。しかし、一体どういうなれそめで?」
 九峪は言いにくいのか視線を逸らすと頭を掻く。
「ねぇねぇ、教えてよ~。別に減るもんじゃないんだしさぁ」
 虎桃が甘えたように九峪の腕を取りながら言うと、九峪はやれやれと肩を竦めながら口を開いた。

「まぁ、良くある話さ。悪漢に襲われてる可愛い一人娘を颯爽と登場した俺がばっさばっさと斬り捨てて……」
「嘘ですね……」
 真姉胡がにべもなく言った。
「ぐぅ。かわいげのない餓鬼共め」
「で、結局どうやって取り入ったんですか? あなたのことだから、狗根国の将軍であることは言っていないのでしょう?」
「つまらん話さ。天目と二人、行き倒れたところを拾われた。一宿一晩の恩をかえすってことで只深の病気を治してやったらことのほか恩に着てくれてな。まぁ、そう言うわけだ」

「なるほど。つまりは沫那美王女の時と同じというわけですか」
「言うと思ったよ。事情は違うが確かに似たようなものだがな」
「で、本州には何をしに? 彩花紫王女を救う手だてを考えついたんですよね?」
「墓参り」
 九峪の言葉に怪訝そうに首を傾げる三人。

 九峪は苦笑を浮かべた。

「十五年……か……」

 見上げた空はあの日と同じように青く、どこまでも澄み切っていた……。













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【2006/05/29 02:48】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
アトガキ 幻聴記三十章~三十二章
 アトガキ



 え~と、まぁ、何というか……、取り敢えず出しました。出しましたが出しただけというか……orz 見直しもロクにしてないので誤字だらけかも……。広い目で見てやって下さい。暇を見つけて直したいと思います。

 で、まぁ、本当は後二章くらい書いて出すはずだったんだけど、とても書いてる余裕がないので出しちゃいました。言ったことは守らんとね。次の更新はまた夏頃とかになるのかなぁ~(幻聴記は)。ようわからんです。


 で、十三階段のtopにも書いておきましたが、暫く更新休みたいと思います。と言うか休みます。忙しいんです。滅茶苦茶。で、いつ頃帰還するかは未知数。最低一月は更新しないと……思う。夏頃までに一回くらいは更新したいと思いますけど……、どうなるかなぁ。


 さて、ではweb拍手のお返事をば。
 え~と、13日分ですね。

2:14 のちのちに王女様って言うか娘も食べちゃうのですか?wって言うか仙人の里に言ってないから閑谷って
2:15 出てきてなかったんですね。ふつーに忘れてました(笑)
 といただきました。
 え~と、九峪もさすがに血族に手を出すほど鬼畜じゃないと思いたいですが……。つーか自分の娘はさすがに無しでしょう。まぁ、ぶっちゃけると彩花紫の方が、近親相姦萌えなので喰われる可能性はあるかも知れません。まぁ、盛衰記の設定ではということですが。
 閑谷については出てきてなかったんですよ。まぁ、正確に言うと藤那の過去編でいたんですが生き別れに。ベタに感動の再会を果たすかは作者の胸三寸ですが、めんど……。
 コメントありがとうございました。


19:18 アイカワラズ、オモシロイデスナ。
19:19 コレカラモ、モット、モット、モ~ット、ヨミタイデスナ。
19:20 ふふふ
 と頂きました。
 うぅ。心苦しいかな。でも無理なもんは無理で、当然こっちもお休みします。まぁ、時々書くかも知れないけどね。出来れば盛衰記は先に完結させときたかったんですが。どうなるかなぁ。
 コメントありがとうございました。


21:14 その三人だとは思わなかった。思わず吹きました。
 と頂きました。
 はっはっは、吹いちゃいましたか。まぁ、確かに優秀なはずなんだけどイマイチ印象のない三人ですよねぇ。でも、あれです。ある程度幼いキャラで考えるとこの三人が適役だったのです。多分。何も考えていないだけという噂もありますが……。
 コメントありがとうございました。

 他にも叩いてくれた神様達に感謝を捧げます。


 え~と、後は直接aaさんからコメントを。

恐るべきは藤と閑を離れさせたその柔軟さ・・・みたいな!!
 と頂きました。
 まぁ、柔軟というか、原作を無視しきる暴挙というか。真面目な読者に原作百編読み直せと言われそうで怖いですね。今更ですが……。まぁ、好き勝手やらんと筆が進まないのですよ。へぼへぼなもので。
 コメントありがとうございました。


 では、次が何時かは分かりませんが、しばしのお別れを……
 ヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ

【2006/05/17 22:04】 | アトガキ | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
出雲盛衰記42
 出雲盛衰記
 四十二章



 父と娘、初めての出会い。

 しかし、それは涙が共に溢れるような感動的なものではなかった。

 二人の間に横たわる十五年という年月。

 生まれてから一度も顔を合わせたこともない二人が、初見で親子という関係を見つけ出すには、あまりにも互いに情報が無さ過ぎた。

 果たして本当にお互いの血が繋がっているのか、そんなことは分からない。

 唯一、二人に共通してあった感慨と呼べるものは、会うべき人にようやく会えた、ただそれだけなのだろう。


「はじめまして、父上」
「はじめまして、彩花紫」

 他人行儀に挨拶を交わし、後はただじっと相手を見つめる。
 何処か自分に共通するものを探すように。

「母上から幾度と無くあなたのことは聞かされました」
「沫那美からか」
「母上は、死の間際まであなたに会いたいと譫言のように申しておりました」
「……そっか」
「なぜ、こちらに?」
 彩花紫の言葉に、九峪は哥羽茉莉の方に視線を泳がせる。

「このままだと、お前は死ぬ」
「そのようですね。狗根国か復興軍、いえ再興軍でしたか。まぁどちらかの手によって……」
「戦争だからな。大将首取るまでは本当の終わりじゃないことだし。天目はその点躊躇しない」
「……それが運命だというのならば、是非もありません」
「お前は俺の一番始めの子供だ」
「そうでしたか」
「だからと言うわけでもないが、出来うることなら救いたい」
「……嬉しい」
 幸せそうに笑った彩花紫に、九峪はため息を吐いてみせる。

「だが、お前を救うことは天目を裏切ることになる。お前は知らんだろうが、天目は敵に回すとかなりおっかない」
「父上の、娘であり、妻である人と伺っていますが」
「あいつは俺がこの世界で一番はじめに見つけた居場所だ。だから特別だし、裏切りたくもない」
「では?」
「……う~ん、困ってるんだよこっちも。なぁ、彩花紫。お前頭いいだろ? 何か考えろよ」
「分かっているなら苦労は無いと言うものです。父上こそ、蛇蝎すら欺くその狡い頭でなにかお考えになっては?」
「狡い言うな。つーか、蛇蝎か。ふむふむ、それはなかなか」
「?」
 急に名案でもひらめいたかのように何度も頷く九峪。

「どうかしましたか?」
「まぁ、今はいいや。それよりお前、遷都したことで本国から何か言われてないのか?」
「さて、特に」
「じゃぁ深川の言った通りか」
「暗殺、来ますか?」
「現段階で本国からお前に対して文句が来ていない以上、その可能性が一番高いな。相変わらず躊躇がないな。ただの王族の肩書きだけの小娘に追いやることも現段階で可能だろうに」
「そうなっていれば、まだ私にも救いがあったのでしょうけれど」
「今残っている将軍も鋼雷だけだろ? せめて平八郎くらいならな」
「私を連れて、逃げてはくれませんか?」
「王女様!?」
 彩花紫の暴言に哥羽茉莉が色めき立つ。

「それでも構わないといいたいが、王族として育ってきたお前が野に下って生きていけるとも思えん」
「あら、それくらいの順応性はあります」
「どうだか。同じお姫様の天目にものを教えるのにどれだけ苦労したか……」
「経験論ですか? しかし同じ人間では無いのです」
「……まぁ、いざとなったらそれも止む無しだろうが。ともかく今は暗殺に備えろ。哥羽茉莉って言ったか? 異国の人」
「言われずとも承知している。王女様には私が指一本触れさせない」
「徹底しろよ」
「また、どちらかに行かれるのですか? もう少しお話がしたいです。せっかく会えたのだから」
「ここにいても根元的な解決になりそうにない。それは分かった」
「寂しいです」
「また会える」
「はい」
 しおらしく頷く彩花紫。九峪はその背後に立つと頭をひとしきり撫で、それから部屋を辞した。

「ねぇ、哥羽茉莉」
「はい」
「想像してたのと、大分違ったわ。思ったより老けてたし、不真面目そうだし……」
「そうですか」
「でもね」
 彩花紫の小さな口元から、鈴が鳴るような笑い声が零れる。


「思っていた以上に、素敵な人」
 哥羽茉莉はその言葉を肯定も否定もしなかった。



 筑紫城を我が物顔で歩き、九峪は彩花紫の近衛隊の幹部の詰めている建物へと向かった。
 各地から集められた狗根国兵も、現在は全て近衛隊という事で一括りにされている。本来は精鋭二千で組織されているが、今はそれら新たに加わった兵で三千五百あまりの規模だ。
 それらを統括しているのは、雲母や帖佐と同じ狗根国四天王である飛燕将軍鋼雷。とは言え四天王最弱と揶揄され、別名猪突将軍とか言われたりもする。九峪はずかずかと幕営に上がり込むと、人間よりは熊に近い要望の大男の前に立った。
 突然の珍客に、幕営にいた幹部全員が一斉に剣を抜いたが、鋼雷の様子の豹変で全員行動に移れなくなる。

「久しぶりだな、鋼雷。元気にしてたか? うん?」
「ま、ま、まままままま、雅比古っ」
 盛大にどもりながらかろうじて九峪の名前をいい、青い顔で後退る。
 幹部のそれなりに歳の行っているものは、雅比古の名に驚いた表情を浮かべていた。
「く、狗根国を出奔したと聞いていたが、こ、こんな所になんの……」
「蛇蝎との確執で国を出ちゃいるが、未だに俺は狗根国の人間なんだが? 大王もまだ俺に下された勅令を取り下げちゃいないんだろ?」
「……」
 歯の根が合わない鋼雷。

 九峪は気軽に鋼雷の肩を叩く。
「まぁ、そう怯えるな。別に取って喰いやしない。ただ俺はお前に自分の仕事が何なのか分かっているのかそれを聞きたかっただけだ。なぁ、鋼雷。お前は何のためにここにいるのか聞かせちゃくねえかな」
「そ、それは、当然、王女様を……」
「そうだ。聞いたぞ、鋼雷。その言違えることがあったらどうなるか、分かってるよな? 反乱軍の虫共になど譲らんぞ? 俺直々に手を下してやる。いいな?」
「は、はっ!」
 九峪は満足げに頷くと、早々に部屋を出て行った。
 
 あまりの事にあっけにとられている幹部達。
 若い幹部が、それでもいくらか事情を知っていそうな古参の幹部に訊ねる。
「今の、誰です?」
「お前等若いもんは知らんだろうな。あれはかつて狗根国軍で最も畏れられた男。幽鬼将軍雅比古じゃ。噂くらいならお主等も聞いておろう」
「……あれが」
 ごくりと生唾を飲み込む若い幹部。視線を鋼雷に向けると、虚脱したように座り込んでいる姿があった。



 筑紫城をでて北へ向かって歩く九峪の後ろを、三人の少年少女が付いてくる。
 つけているというのにはあまりにもあからさまに。
 九峪ははじめ無視していたが、いい加減うざったくなって振り返ると声をかけた。

「お前等何のつもりだ? 俺に何か用か?」
 リーダー格の少年は九峪の直ぐ目の前まで行くと、短く告げる。
「蛇蝎様からの伝言で、雅比古を見つけたらその動向を逐一監視せよとの事でしたので」
「暗殺しろの間違いじゃないのか?」
「残念ながら蛇蝎様ですら殺すことの出来ないという人間を、私どもではとても殺すことが出来ません。そもそも、今もってあなたが狗根国軍に置いてすら畏怖されているのは、一重にその不死性にあるのです。大王もその異端じみた能力を畏れて、あなたに与えた特権を剥奪することも出来ないと聞いてますが」
 九峪はやれやれと肩を竦める。

「何処で吹き込まれたんだか。大王が俺に甘いのは、俺をもう一度喰いたいと思ってるからだろうよ。まぁあの豚に喰われてやるつもりは無いが」
「随伴する許可を頂けませんか?」
「随伴ね。彩花紫の守りはいいのか?」
「あそこに二名もいればおつりが来ます。そもそも哥羽茉莉だけで十二分です」
「かもしれんがな」
「なにより、あなたは王女様を救い出す術を、既に思いついていらっしゃるのでしょう?」
「なぜ、そう思う?」
「勘です」
「はぁ、ガキのお守りはもう沢山何だけどなぁ。ったく」
「まぁまぁ、いいから一緒に行こうよ、おじさん」
 気楽そうに眠そうな顔をした少女が言う。

「ガキじゃ抱くわけにもいかんしなぁ」
 ぽつりと呟いて、少女二人をじろじろと見つめる。
 下した結論は論外。
「志野と珠洲は救っても、私たちは救えないんですか?」
 男女の少女がそう言って九峪を見つめる。
 その瞳には期待が込められているようにも見える。蛇蝎の子供らしくもなく。

「そんな話も知ってるのか。でもま、あれも巡り合わせだからな。まぁいいや。最近あんまりやってなかったし、ガキのお守りもいいか。で、お前等名前は?」
「閑谷です」
 少年が言う。
「虎桃で~っす」
 眠そうな表情の少女がそう言って手を挙げる。
「真姉胡です」
 中性的な少女はぽつりと呟いた。

 九峪は閑谷と名乗った少年を見つめ、何処かで聞いた名前だなぁと思いつつも、黙って歩き始めた。


 向かう先は九洲の玄関口、那の津。













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【2006/05/13 01:40】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(1) | page top↑
出雲盛衰記41
 出雲盛衰記
 四十一章



「お母様。当麻の方も準備は万端とのことです」
 当麻の街から戻った小夜は、天目に短く報告を上げる。
「そうか。深川はどうした?」
 天目は事前に協力に応じないようであれば、小夜に暗殺するように命じていた。そしてそうなる可能性はかなり高いとも考えていたのだが……。
「無傷で帰ってきたところを見ると、九峪がいたのか」
 呆れたような声色。
 小夜はその通り、と応じる。

「よく分かるもんだね。ま、確かにあの深川って女、普通じゃなびきそうになかったけど」
「深川は九峪と蛇蝎の命以外は聞かないだろうな。さて、あの骸骨が出張ってきたら、どちらに付くのか。まぁ結果は考えるまでもないか」
「でも、蛇蝎は九洲にはいないようですよ」
 桂が横から進言する。
「伊雅様の方もおおむね準備は整ったそうです。後は報せを待つと」
「お母様こそ、こっちの部隊の抱え込みは終わってるの?」
「とうの昔に。私の旗下三千五百は反旗を翻すのに躊躇はない」
「さすがですね。で、どのタイミングで仕掛けますか?」
「小夜。九峪には伝言を伝えたんだろうな」
「ええ、『結構です』と返事してたけどね」
 天目は苦笑する。奇妙な反応に小夜は眉根を寄せた。

「やはり、九峪はそう動くか……、ふふふふ」
「何かの暗号ですか?」
「暗号か。まぁ、そう言うことにしておこうか」
 意味深に呟いて、笑みを引っ込めると、二人の子供に指示を出す。
「今日中に長湯を陥落させる。同時に部隊を反転させ、川辺に向かう。二人は先行して川辺の状況を報告しろ」
「あ、お母様。もう一つ報告が」
「なんだ?」
「羽江ちゃんが志野のとこにいます。事情を知って混乱しているようでしたが……消しますか?」
「放っておけ。禍根が残るようなら私自身が手を下す」
「分かりました」
「伊雅様達は?」
「川辺が落ちた後ゆっくり来て貰うさ」
「わかりました。では、行こうか小夜」
「あんたが指示出すなよ。私の方が年上なんだからね!」
「はいはい、二分だけね」

 天目は桂と小夜を見送って、傍らで寝息を立てている自分の息子を見つめた。
 分かっているだけで、九峪の子供としては二十七番目。そして一番幼い子供。

「お前達の姉は、今頃……」
 そう言って天目が視線を向けたのは、遙か西方。

 ――九峪。その子だけは、死んで貰わないと……

 それを許容出来る九峪ではないと知っている。
 だからこそ、どんな真似をするのか、天目にはそれが少しだけ楽しみだった。



 征西都督府。
 九洲侵略後、狗根国の政府が統治するための中心として、かつての王都耶牟原城を水に沈めた上に建設した水上宮殿。
 壮麗さはこの時代、倭国では比肩しうるものがない作りではあるが、それは同時に要塞としての無骨さは一つたりとも持ち合わせていないことを意味した。
 都督へと続くのは僅か二本の橋のみで、一般的な堀と言うにも広すぎる湖のど真ん中にあるため、城壁と呼べるものが皆無。確かにその湖の中心というのは城壁としての機能も十分に併せ持ってはいたが、それでも逆に孤立してしまえば退路が無いと言うことにもなる。
 ようするに、橋さえ落とせば。いや、そこまでしなくとも橋の前を固めてしまえば、容易に兵糧責めが出来てしまうのだ。加えて都督内で大規模な部隊を配置することが出来ないという点もある。そもそもが施政のための建造物であって、戦争のためではない。
 復興軍が一月としないうちに攻め込んでくる現状にあって、都督長官はわざわざそんな無謀な場所で迎え撃とうと考えるほど馬鹿ではなかった。直ぐに手勢を筑後城にまわし、都督府という名目そのものを筑紫城へと置き換えた。

「ふぅ。なんとか、間に合ったわね」
 都督長官としてはまだ押さなすぎるとも言える少女は、ため息一つ吐いて最後の竹簡を放り投げた。
 部屋には副官が一人。他には誰もいない。
「ねぇ、哥羽茉莉。本当にこれで良かったのかしら」
「……と、いいますと?」
 浅黒い肌をした、どうみても倭国人ではない副官は自分の上官を見据える。
「かってに都督を移したりして、本国では何か言ってないかしら?」
「王女様。私に言えることは一つだけでございます」
「何かしら?」
「何があっても私は王女様のお味方です」
 言い切った女に、少女は笑い返す。
「ありがとう。そう言ってくれると心強いわ」
「いえ。当然の事です」
「そう言いきれるのもあなただけね」
 忌々しげに漏らした言葉に、哥羽茉莉は否定する出もなく頷く。

「確かに。軍の方は鋼雷に任せてはおりますが、雲母すら下した復興軍の連中に、あのうつけで刃が立つとも思えませんし」
「雲母には悪いことをしたわ。もう少し情報がしっかりと入っていれば、あと二千はつけて送り出せたのに。いえ、それ以上に私自身が……」
「おやめください王女様。ただでさえ御身は危険にさらされているのですから」
「ごめんなさい。でも、煩わしいものだわ。生まれたときから決まり切っていることとはいえ」
 少女は長い黒髪を指で梳くと、自嘲的に微笑む。
「ねぇ、哥羽茉莉。私が九洲の長官の任を引き受けた理由、話したかしら?」
「聞き飽きるほどに聞いた気が致します」
「そう、本当の父が、いるはずなのよ」

 それは少女が最愛の母から幾度と無く聞かされた言葉。
 母は少女が五つの時に死んでしまったが、生まれてから五年間、母は嬉しそうに少女の本当の父親の事を話していた。
「ねぇ、会えるかしら?」
「どうでしょう。何分、噂が確かであればあの左道士官の蛇蝎ですら尻尾を捕まえられない、逃げの達人だそうですから」
「そうね。やはり難しいのかしら」
「ただ、帖佐から聞いたことがあります」
「帖佐から?」
「彼の者は、会おうとしても絶対に会えない。が、あちらが会いたいと思えば必ず現れる。何処にいても、何をしていてもと」
「でも、私の事など知らないでしょうし、例え知っていても……」
「いっそ九洲中に触れでも出しますか?」
 真面目な顔で冗談を言った哥羽茉莉に、少女は一端目を丸くする。そして笑った。

「叶わぬ願いとは知っているわ。それより哥羽茉莉。頼みがあるのだけど」
「なんでしょうか?」
「蛇蝎から借り受けている、例の部隊。動かせる?」
 哥羽茉莉は一瞬視線を険しくしたが、直ぐに頷く。
「ご下命とあれば、いつでも」
「では、復興軍に探りを入れに。いえ、正しくは違うわね。復興軍の内部分裂を後押ししに向かわせて」
「内部分裂?」
「親切な人が教えてくれたわ。今回の九洲都督長官への私の抜擢、暗殺が目的だと」
「……それで?」
「宗像、という一派があるらしいわね。復興軍の中心ともいえる巫女衆のようだけど。随分前から狗根国と繋がっていると教えてくれたわ」
「なれば此度の反乱も……」
「ええ。でもあちらにはあの天目がいる。出雲王家の最後の一人。必ず動くわ」
「分かりました。ちなみに親切な人とは?」
「ふふ、私が権力を握ってくれた方が、何かと都合のいい色男の事よ」
 哥羽茉莉はその一言で了承したようだ。頷くと席を立つ。

「では、しばし失礼を。動かないで下さいね」
「わかっています」
 哥羽茉莉がいなくなり、少女は盛大にため息を吐くと目の前の書簡に視線を落とした。

 ――帖佐。ありがとう。



 通称『蛇蝎の子供達』。正式には『執行者』と呼ばれる。
 狗根国の侵略戦争後の混乱期、大量に溢れた孤児。それらの中から特に才能在るものをあらゆる手段で選定し、蛇蝎が養成したトップエリート達。その任は主だってかつて九峪が行っていたような、狗根国内での裏切り者の削除。
 もっとも蛇蝎自身の手による全く私的な部隊のため、他にある狩人部隊と混同されその存在自体知るものは少ない。
 
 ――あの骸骨。一体なんのつもりでこんな部隊を作ったのか……

 一室で九洲の地図を睨んでいる五名。執行者の中でも更に抜きんでて、他のものを使う立場にある者達だ。
 哥羽茉莉が入ってくると、一斉に視線を向ける。
 まるで感情の無い死んだ魚のような目。哥羽茉莉は都合十個のそんな瞳に射抜かれて顔をしかめる。内心盛大にため息を吐きながら、手短に用件を済ませることにした。

「王女様からのご命令だ。復興軍の内部分裂を煽れとの事だ」
「その必要性はそれほど無いと思われますが?」
 五名の中でも更に中心的立場である少年が答える。
「何故だ?」
「分裂しているのも一瞬でしょう。現在実権を握っている連中は程なく失墜します。勝敗は考えるまでもありません」
「ほう」
「まず、今回の復興軍躍進の背景にある狗根国からの援助ですが、その根幹となる魔界の黒き泉の適応者選定がありますが、実質それらをうまく扱えるのは深川様あっての事です」
「で?」
「残念ながら、深川様は現在分裂した方の復興軍、再興軍と名乗るつもりのようですが、そちらに加担しているとの情報が入っています」
「どこからそんな情報……」
「執行者は何処にでも耳を持っています。容易いことです。それよりもそのせいで復興軍は現在川辺城の守りに使っている適応者を使うことが出来ません」
 哥羽茉莉は首を傾げる。

「何故だ? 魔界の黒き泉で力を得たとは言え、意志は個々人にある」
「いずれ狗根国が討伐しなければならない復興軍に、そんなものをただでくれてやるほど深川様は甘くない。いわばそれ自体が獅子身中の虫って事だよ」
 眠そうな表情の少女がそう言って川辺城を指さす。
「あなただって深川様の得意技くらいは知っているでしょ~?」
 哥羽茉莉は頷く。守りに入っている強力な戦力が全て寝返る。確かに勝敗など考えるまでもない。仮にそれを危惧して使わなかったところで、結局は守りが薄くなると言う点にも変わりがない。

「むしろ王女様にとって問題なのはその後……だと思いますけど」
 男の子なのか女の子なのかよく分からない少女がそう言って、地図の外、本州のある辺りを差す。
「既に反乱を一揉みにできるような軍が集結し始めています。おそらくは再興軍がこちらを攻め落とすと同時に入ってくる算段でしょう」
「攻め落とすと……。その前にではなくか」
「最もぬか喜びさせられるのはその瞬間ですから」
 さも当然と中性的な少女は言う。

「お前等はどうするのだ? いっそのこと王女様の首でも持っていくのか?」
「今、狗根国内に王女様の味方といえるのは僅かに二人だけです。そしてそれで十分だと思いますが?」
「一人は帖佐だとして……、もう一人はまさか」
「我々をなんの目的で貸し出したと? そういう事ですので我々の裏切りを心配する意味はありません」
 少年はそう言って地図から顔を上げる。

「蛇蝎様が消したいと思っている人間は一人です。そして王女様に消えられてはとても困る」
「東山……か」
「ですが、正直に申し上げてどういった策を取ればいいものか……」
「お前等にも策はないと」
「今必至で考えています」
 哥羽茉莉はそう言われてようやく気が付いた。不気味だと思っていた死んだ魚のような目は、単に寝不足で焦点が定まっていないだけだと。

「少し休んだらどうだ? ゆだった頭では……」
「用が済んだのであれば、お引き取り下さい。あまり長居をするとつながりが露見します。先の件に関しましては王女様にいいように対処致しますとお伝え下さい」
「……分かった。くれぐれも」
「心得ています」
 後ろ手に、戸を開けた哥羽茉莉。振り返った瞬間、見知らぬ男が立っていた。

「誰だ? こんな所で何をしている」
「誰だろうね。まぁ誰でもいいだろ。ちょっと会いたい奴がいてな。あんた偉そうだから知ってるだろ? 彩花紫って女の子に会わせてくれ」
 哥羽茉莉は目を見開き、同時に間合いを取ると構えた。

「貴様! 王女様を呼び捨てにするとは! さてはどこぞの痴れ者の送り込んだ刺客か!」
「そういきり立つな、異国の人。俺が彩花紫を呼び捨てにして悪い理由は何処にも無いはずだが?」
「何を言うか! 二度までも……」
 男は笑った。

「親父が会いに来た、そう言えば話は通じるだろ?」
 驚愕に動きが止まる哥羽茉莉。

 その後ろで、蛇蝎の子供達が胡乱気な眼差しを男に向けていた。













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【2006/05/11 23:46】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(1) | page top↑
出雲盛衰記40
 出雲盛衰記
 四十章



 当麻の街に戻った後、九峪は無断で立ち去ったことを理由に志野に別室でこってり絞られていた。とばっちりが怖かった珠洲は、羽江と共に別の部屋でそれが終わるのを待っている。
 珠洲と羽江はそれほど仲のいい間柄というわけでもない。二人とも趣味が合わないし、性格的にもそんなにあう方でもない。復興軍として別の任務や部隊になることばかりだったので、そもそも接点も無かった。
 だが、同じ年頃の少女同士。戦争に加わるには幼すぎるという点では、二人とも浮いていて、同時に意識をしていたのも確かだ。

「ねぇ、珠洲ちゃん」
「何?」
「珠洲ちゃん達は、お姉ちゃん達と戦うの?」
「……多分ね」
「そっか……」
 珠洲も別に戦いたいと思っているわけではない。戦わなければならない状況になってしまっているというだけで。

「亜衣お姉ちゃんも星華様も、九洲のために戦ってるんだよ。それは、間違いないのに」
「でも、このままじゃ九洲のためにならない。それは間違っているという事だと思う」
「どうにか、ならないかなぁ」
「なるかも知れない」
「え?」
「わからないけど。何とかしてくれそうな人なら知ってる」
「誰?」
「九峪」
「あのおじさん?」
 羽江は不思議そうな顔で珠洲を見つめた。羽江にはただのおっさんにしか見えなかった。だが、珠洲は自分の発言に何の疑いも持っていないように思える。

「頼んでみたら? 頼まれたからって動いてくれるような人でもないけど」
「何とか、出来るの?」
「だからわからない。ただ、他の人じゃ出来なくても、九峪だけならなんとかしそうだから」
 根拠の無い言葉。羽江にはやはりピンと来ない。
「九峪ってどんな人なの?」
「よく分からない人。でも、一番いて欲しいときは必ずそばにいてくれる人」
 珠洲はそう言って頬を緩める。
「志野が連れ去られたときも、取り戻してくれたし、志都呂が死んだときもそばにいてくれた。今だって、こんな重要なときだからちゃんとそばにいてくれる」
「好きなの?」
 羽江のあけすけな言葉に、珠洲は普通に頷いた。
「志野の次くらいに好き」
「へぇ~」
 羽江はなんとなく九峪に撫でられた頭に手をやった。
 大きい手の感触が、まだ残っている。無条件で安心させてくれる、力強く暖かい手の平だった。

「おかげで割り喰ってる人間もいるんだけどねぇ」
 部屋の隅から深川の不機嫌そうな声が聞こえてくる。
「何? 深川」
 珠洲は途端に険しい目つきになる。狗根国の左道士で九峪を狙う女の一人である深川は、珠洲にしてみれば敵でしかない。
「別に。そんなに睨まなくてもいいじゃないか。わざわざ連れ戻してやったんだから」
「羽江ちゃんがいなければ、そのまま一緒に行ってたんじゃないの?」
「まぁね」
 深川は悪びれもなく肯定する。
「だが、逃げるあの男を捕まえるのは容易じゃない。九峪はいつだって必要なときにしかそばにいないんだからね。いつも一緒にはいてくれない」
「……寂しいの?」
 鼻で笑うような珠洲の言葉に、深川は怒るでもなく頷く。
「珠洲は、寂しくないのかい?」
 逆に問い返されて珠洲は黙り込んでしまった。

「……志野様もあのおじさんが好きなの?」
 羽江の問いに珠洲は黙って頷いた。そこに深川が揶揄するように畳みかける。
「しかも独占欲が強いから、周りにいる人間はとばっちりを受けると。どうせあの男は一人の女だけ選んだりしないのにね」
「敢えて言えば天目のだけど」
 天目……、と深川は呟く。視線に一抹の憎悪。
「いろんな女の元を渡り歩いている九峪だけど、天目だけは特別みたいだし。私と志野にとっては九峪は父親で、天目は母親みたいなものでもあるけど」
「そういえば天目は今どこに?」
「あ、確か豊後の長湯を攻めてるところだったはずだよ~」
 羽江の言葉に深川はため息を吐く。
「では、そろそろだな」
「何が?」
 首を傾げる羽江。

「嬢ちゃんも火向での攻防で狗根国の討伐軍とどの位戦闘を繰り返したかは記憶しているだろ?」
「え、うん。大きな戦いは四回くらいかな?」
「そう。それで復興軍も兵力は損耗しているにも関わらず、豊後進行が早すぎだとは思わないか? 川辺を落とすまでにかかった時間に比べて」
「そういえばそうだね」
「理由は討伐軍が送り込まれてこないから。天目はただ道すがらの街に残存する兵力のみを相手にすればいい。なぜ討伐軍がこれ以上編成されないか?」
「しようにももう兵力が残ってないから、でしょ」
 珠洲がぶっきらぼうに答えた。

「それが?」
 羽江が首を傾げる。
「現状狗根国は都督を守るための兵力以外は実質無い。本国に応援を要請しているが、一日二日で来るものでもない。一月は見なければならない。となれば、生き残るための策は一つ」
「一つ?」
「逃げることだ」
 羽江は目を丸くする。
「逃げ、ちゃうの?」
「今の都督長官はそう言う奴だと言うことだ。勝てない戦はしない。そしてそれこそが狗根国側が復興軍に肩入れしていた理由でもある」
「?」
「今の都督長官はそこそこに切れ者だが、敵も多くてな。本国でもどうやって首を切ろうかかねてより画策していた。そして実際に今回動いたわけだ」
「ふ~ん。じゃあ、もう勝利は目前なんだ」
「……いや」
 深川は寄りかかっている窓から、海の方に視線を向ける。

「当然復興軍にくれてやる気も無い。実際問題起こそうと思って起こした反乱だ。既に狗根国側では相当な戦力を準備し、いつでも九洲にこれるようにしてある」
「そ、そんな」
「おそらくは万単位。今の復興軍など一蹴してしまえる」
「そんなこと話しちゃっていいの?」
 珠洲の冷めた言葉に、深川はため息を吐く。
「私は九峪の側だ。狗根国にいたのも元々あいつが私に与えた場所だったからだ」
「九峪が?」
「知らないのか? あいつは元狗根国四天王だぞ」
「……そうなんだ」
「驚かないんだな」
「本気でやってたとも思えないし」
「確かにそうだが」
 それで納得出来るのか? と言いたげな深川。
「今の九峪は九洲の為に動いている。それでいい」

「九洲の為、ねぇ」
 呆れの混じった声は天井から。
 深川は身構えたが、珠洲は黙って上を見上げただけだった。
「小夜。天目から報告?」
「まぁね。親父いるんでしょ?」
「志野とお楽しみ中」
「あのクソ親父は……」
「誰だ?」
「あのクソ親父の娘よ」
 小夜はそう言って天井の梁から落ちてくる。

「母親は?」
 不機嫌そうな深川。小夜は肩を竦めてみせる。
「残念ながら天目では無いわよ。一応現在の母親ではあるけど。本当のお袋は当の昔にご臨終。でもなければ、親父もお母様も付いていくのを許したりはしないから。ってどうでもいいか。珠洲、志野さんと親父呼んで来てくれる?」
「はぁ~、やだなぁ~」
「四の五言わないでさ。私の指示はお母様の指示なんだから」
「だからいやなんだけど」
 トボトボと部屋を出て行く珠洲。
 小夜は深川の方に向き直る。

「初めまして、でも無いんだけれど。初めまして深川さん」
「はじめまして」
「私は小夜です。あなたの事はお母様と九峪から何度と無く聞かされていました」
「ほう」
「申し訳ないことをした、と」
「……笑えない作り話だな」
「本当ですよ。まぁ、二人とも面と向かっては話さないでしょうけれどね」
「……」
 何か思うところのありそうな深川。
 小夜は続いて羽江の方を見つめる。

「羽江。本当に大事なものがあるならば、迷うことはないと思うよ」
「そうなのかな?」
「悩まないで、一番やりたいことをやればいいんだよ。どうせ人間一人で出来る事なんてタカが知れてるしさ。取り敢えず自分で決めたことなら後悔しても納得は出来るでしょ?」
「でも、何が一番やりたいことなのか、分からないよ」
「姉を止めたいならここに残ればいい。姉を殺させたくないなら帰るといい。どちらにしても、今の復興軍は私たちが間違いなく潰す。羽江がいてもいなくても変わらないし、もう止めることも出来ない。このままだとあんたの姉は死ぬ。星華も死ぬ。一緒に死ぬか、それとも……」

「意地の悪いことしてるんじゃねぇよ、小夜」
「クソ親父」
「誰がクソだ。まったく、反抗期かなぁ深川」
「私に聞くな」
 九峪はやれやれと肩を竦める。

「羽江ちゃんには悪いですけれど、例え戻りたいと思っていても今帰すわけにはいきません。情報が露営します。些細なことでもそれは許容しかねますので、当分はここにいて下さい」
 志野ははっきりとそう言い放つと、小夜に向き直る。

「では、聞きましょうか。天目さんはなんと?」

 志野の問いに、小夜はよどみなく答える。

「機は熟せり。裏切り者に、制裁の鎚を打ち下ろせ」
「……了解しました」
 小夜は志野が頷いたのを見ると、九峪を睨み付ける。


「それからクソ親父。お母様が『愛してる』だって」
 九峪はその言葉に、嫌そうに顔をしかめた。


「結構です、って言っておいてくれ」
 呆れたように呟いて、次の瞬間には姿を眩ましていた。













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【2006/05/09 22:55】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
アトガキ 編年紀【裏】十一章
 アトガキ



 編年紀【裏】十一章上げときました。
 まぁ、話はたいして進んでおりませんが、ついにあの方の生存情報が……。同じように死んだ藤那はまず生き返りませんが、こっちは死なれてもねぇ。何しに出てきたんだか、ってなるし。
 で、前回謎の引き(割とバレバレ?)だった哥羽茉莉ですが、このまま志野の一座に組み込まれるのか? その前にどたばたと話は展開していきます。きっと。



 次回予告



 「は? 私ですか? 真津羅と申します」



 なんの関係もない台詞だねぇ。そんな名前の新キャラが登場しますが、脇役なのでどうでもいいです。ちなみにオリキャラじゃなくて炎戦記に出てます。台詞があったかは定かではありませんが、多禰駒古とかと一緒にね。少なくとも六巻には出てました。ちなみに他にオリキャラが四人も出ます。四人も……。



 ではではweb拍手のお返事でも。
 まずは3日のコメントで一件出した後に来たのが……

23:31 おおっ、深川さまが、長台詞を!!こんな日がこようとは・・・・
 と頂きました。
 そういえば長台詞言わせましたね。まぁ説明台詞なので長くてもなんだかなぁな感じですが、九峪が是非深川に言って欲しいと台詞の長さに嫌気が差したためにこうなりました。嘘です。誰でも良かったんですが、誰でもいいので深川というわけです。
 コメントありがとうございました!

 続いて4日分。

1:42 ~幻聴記~面白いです更新待ってます
 と頂きました。
 次のコメントと同じ人かなとも思いましたが一応これは分けて。
 え~、bbsにも書き込まれて連休中に書き上げると勇ましく誓った作者でしたが、生憎と連休中は某日記に書いたとおり他の事をやっていたので書いてません。三十章は書いたんだけど、色々と怖い書き方しているので、ある程度まとまらないと出せません。各話毎の調整が必要になるので、先に出すとまた修正する嵌めに陥るので……。どんな書き方だとか詳しい話は言いませんが、来週まで待って頂ければ幸いです。


1:45 編年紀ようやく志野が出てきて嬉しい限り。でも志野にも子供ができていると予想してたのが外れてちょと残念
 と頂きました。
 志野にも子供ですかぁ。別にいても良かったんですが、割と危ない事をやっているので、子連れだったら志野は別行動で、珠洲が座長の話になってたかなぁと思います。でも珠洲が座長をやったらすんごい事になりそうなのでそれは後に取っておきます(ぇ まぁ、子供なんてこれから作ればいいんですよ……とか適当な事を言っておきましょう。戦争終わったら幾らでも暇は……あるのか?
 コメントありがとうございました!


9:08 >今に渡るまでずっと 「わたる」じゃなくて、「いたる」ですね、たぶん。
9:09 あと主要キャラ死なないって、ド真中のひと死にまくってるような…ああ、しゃべってないからサブキャラ扱い
 と頂きました。
 ご指摘ありがとうございます。早速直さないと……。確かに今に渡るって意味が分かりませんねぇ。
 うむ。そういえば主人公が約一名何度と無く死んでますね、あっはっは。まぁ基本的に盛衰記の九峪はどうでも言いキャラですからねぇ。ていうか死ぬのが活躍みたいな所もあるし……。まぁ、たぶんこれからは一回くらいしか死にませんが……。本当に多分。
 コメントありがとうございました!

 コメントは以上ですね。他にも叩いてくれた皆様、本当にありがとうございます。




 では本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ

【2006/05/08 22:07】 | アトガキ | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
出雲盛衰記39
 出雲盛衰記
 三十九章



 空を見上げた九峪。
 見たこともない鳥が空を飛んでいた。
「っていうか、鳥じゃねぇな」
 それは羽江が乗る飛空挺。
 九峪は何処に行くのだろうと見上げていると、なにやらきりもみ状態になりながら落ちてくる。
「おいおいおい」
 荷物を放り投げると慌てて走り出す。
 ギリギリ落下点に入り込み、時を止める。
 身体の向きを反対にしてから、上に覆い被さる。

 三秒後。
 九峪の身体ごと上空に向かって浮き上がるが、九峪の重さの分だけ浮力は減って中途半端な高さまで上がって落ちる。九峪は地面に転がるように着地すると、腕の中の少女を見つめた。
「子供か。あーあ、せっかくのからくり壊れちまったな」
 気絶している羽江をどうしたものかと見つめる。
「当麻の街に戻るのも面倒だしなぁ。ま、いっか」
 独り言ちた後で少女を地面に横たえると、荷物を取りに一端戻る。
 ――あのからくり。誰の作かは知らないがこの辺でそんなもの持ってるのは、復興軍の連中なんだろうな。

 そんな事をぼんやり考えながら戻ると、少女の横に深川が立っていた。
 深川が。
 なにやら怒った顔つきで。

「どうした?」
「どうしたじゃない。貴様はまた私に無断で姿を眩ます気か!」
「お前だって知ってるだろ? 一月ごとにやばいことになる俺は人と一緒にいられないんだっつの。そろそろ次の満月だしさぁ」
「なにを寝言をほざいている! 昨日新月だったろうが!」
「え、あ、そうだっけ?」
 とぼける九峪。深川はため息を吐くと羽江を見下ろす。

「なんだ、宗像のおちびちゃんじゃないか」
「知ってるのか? つーか宗像って事は……」
「ああ、復興軍だな。天才だよ、この娘は……」
 深川の言に九峪は神妙な顔で羽江を見下ろした。
「天才か。お前だって、そう呼ばれてただろ」
「ふん。それも四天王の座にあの女が就くまでだ」
「あの女? で、四天王?」
「お前の後釜だよ。まぁ、天目にやられたらしいが」
「って、雲母か。そう言えばあいつも操作系の能力を持ってたな。しかもかなり強制力の強い」
「会ったのか? というか……」
 じと目で九峪を睨み付ける深川。

 九峪は心外だなと肩を竦めてみせる。
「ちょっと孕ませただけだ」
「死ね!」
 深川の投擲したナイフが見事に九峪の額に突き立った。
 仰向けにそのまま倒れる九峪。
「まったくこんな奴に十何年も会おうとしていたのか……」
 疲れたような深川のため息。
「……ん」
 かすかなうめき声が聞こえて、羽江がうっすらと目を開ける。
「あれ、私……」
「大丈夫か」
「誰?」
「誰でもいいだろう。起きれるか?」
「うん」

 羽江は深川に支えられながら起きあがると、そこら中に散乱している飛空挺の残骸を見つめてため息を吐く。
「はぁ、落っこちたのか。でも、なんで怪我してないんだろう。で、おばちゃん誰?」
「誰がおばちゃんだ! 貴様の姉と歳は変わらん」
「え~、そうかなぁ。っていうか、亜衣お姉ちゃんの事知ってるの?」
「まぁな」
「じゃぁ復興軍の人?」
「まぁそうとも言うが。だがこんな所で何をしていたんだ? 偵察にしてもお前を一人で行かせたりはしないだろう」
「あ、うん、当麻の街の志野様の所に」
「志野の?」
 頭からナイフを引っこ抜きながら、九峪が起きあがる。
 面白いように、額から血が飛び出しているが、気にした様子もなく持っていた手ぬぐいで抑える。

「だ、大丈夫おじさん」
 狼狽える羽江。
「うむ、致命傷だが大丈夫だ」
「ほっといても死なないよ。それより志野に用って伝令かい?」
 羽江ははっとして九峪から深川に視線を向けると首を振る。
「違うよ。ちょっと確かめたいことがあって……」
「確かめたいこと?」
「うん。だから私急がないと」
 そう言って勢いよく立ち上がった羽江だったが、直ぐによろめいて腰を付く。
「あれ?」
「無茶するなよ。とっさだったからかなり無茶な助け方したからな。それに、川辺からお嬢ちゃん一人で飛んできたならかなり疲れてるだろ」
「うん、でも……」
「深川、おぶってやれ」
「こういうときは男がやるものじゃないか?」
「お前の方が肉体的に優れている」
「何時までも親として色眼鏡で見ていると思うなよ、九峪!」
 深川は禍々しい笑みを浮かべながら、懐から札を取り出す。

「げ、お前親として俺を見てたのか。せめてお兄ちゃんにしてくれ」
「黙れ、この人間のくずが!」
 唐突に始まる親子喧嘩――或いは兄妹喧嘩――を羽江は呆然と見つめていた。



 周囲の地形と九峪の外見を著しく変わるほどの喧嘩が小一時間ほどで終結すると、九峪は羽江の事を背負って当麻の街に引き返しはじめた。
「しかし、志野に聞きたい事ねぇ。踊りでも習うのか?」
「……ちがうよ。聞きたいことがあるんだ」
「なんだよ。意外と俺たちも知ってることかも知れないぜ」
「おじさんは誰なの?」
 九峪は暫く考え込んだ後、深川に訊ねる。
「俺って誰だっけ?」
「九峪っていうすけべえ親父だよ。ものすごく質の悪い人間」
「お前に質が悪いとか言われたくねぇよ」
 眼付けあう二人。
 羽江はそれを無視して話をはじめる。
「あのね、昨日竜神族の魅土って人に会ったんだけど……」

 深川と九峪。二人の顔色が変わる。
「魅壌……だと。随分懐かしい名前だな」
「え、知ってるの?」
「まぁ、一応な。なんだ、生きてたんだあいつ」
「うん、でね……」
 それから羽江が宗像と竜神族の話、それから藤那に聞いた狗根国との関わりの話をする。
 話を聞き終わると同時に、深川が楽しそうに笑い出す。

「あっはっはっは、そりゃ藤那の言ってることが正しいよ。ねぇ嬢ちゃん、その宗像と繋がってる狗根国の者ってのが、この私だよ」
「え!」
 邪悪な笑みを浮かべる深川に、羽江は真っ青になる。
 深川はそんな羽江の様子を楽しげに眺める。
「さぁて、その話を聞かれたんじゃ黙って帰すわけにはいかないなぁ。他にも何か知ってないか、拷問でもして確かめないとねぇ」
「ご、拷問」
 泣きそうになる羽江。
「そうだね、始めはまずツメを一枚一枚剥がして、それから……」
 訥々と楽しそうに拷問方法を語る深川。羽江は九峪の背中で凍ってしまったかのように硬直する。
「おい、深川」
「なんだい、九峪。人の楽しい時間を邪魔しないで欲しいね」
「妄想するのは勝手だが、あまり子供をからかうな。背負ってるときに漏らされたらどうしてくれる」
「それはそれで楽しそうだけど、まぁ止めておこうか」

 深川は邪悪な笑みを引っ込めると羽江の頭にぽんと手を載せる。
「私が狗根国の人間だというのは本当だけどね、拷問なんかしないから大丈夫だよ」
「……本当?」
「ああ、本当だとも。でも、さっきの話も本当だよ。幼い嬢ちゃんには知らされていなかったみたいだけどね。というか、知ってるのはあの亜衣って女と他数名だけだからね」
「でも、亜衣お姉ちゃんは一体何で狗根国と……」
「少し、面倒な話なんだけどね。いや、単純なのか……」
 深川はどこから話したものかと中空を見つめる。

「順を追って話して行こうか。まず、十五年以上前の話から。まぁ、その辺の話は私も聞いて知ってるだけだが。当時狗根国はあちこちに征服戦争を仕掛けて領土の拡大を図っていた。その中で、最終的に目標としていたのがここ九洲。お嬢ちゃんも宗像の巫女の端くれなら、天界の扉の話くらいは聞いたことがあるだろう?」
「うん。願いを叶えてくれる便利な扉だよね」
「ああそうさ。当時から魔界の黒き泉の力を利用することで莫大な力を得ていた狗根国だったが、それでもさらなる力があると聞けば、やはりそれを求めようと思うのが人間の性だ。加えてそれが他の者の統治下にあると聞けば、自分たちを脅かすかも知れないと考えるのもまた当然の成り行きだろうね。そんなわけで狗根国は軍を西進させ、どんどんと耶麻台国に進行していた。まず手始めに耶麻台国の属国であった出雲が落とされ、それに続いて泗国にも兵が向けられた。その頃には、既に九洲進行の軍も半ばできあがっていたのだが、やはり戦争というのは何とも分が悪い。金は喰うし、兵も無限にいるわけじゃない。出来るだけすんなり落としたい。しかも相手は九洲全土を統治する巨大で歴史もある耶麻台国。当然狗根国も始めは搦め手で来たのさ。その更に数年前から九洲進行は内々に進んでいて、九洲の状況もある程度分かっていた。その中で厄介になりそうなものを上手く排除出来ないかと画策した。その一つが竜神族狩りだよ」

「……不老不死のお薬になるんじゃないの?」
「そう言う俗説をそもそも捏造したのも狗根国だよ。適当な理由つけてね。ともかく耶麻台国にしてみれば、それが理由だと言うのならば、それだけを狗根国に渡してしまえば気は済むと言うことになる。傍目に見ても勝機の薄い戦い。同じ九洲に住むものだとは言え、特に関わりが深くもなく、いざ戦争になって共に戦ってくれるかも分からない仙人が幾ら襲われようとも知ったことではなかったのかも知れない。その辺の詳しい理由は当事者じゃない私には分からないが、とにかく当時も耶麻台国内で強い派閥を形成していた宗像神社関係者が、その策を実行した。始めは少数とは言え、やはり狗根国軍を引き込むのは得策ではないと、自分たちで狩ることにした。だが、人間と仙人では器が違いすぎる。結局は敵わず、狗根国に場所だけ教えることとなった。結果的にはこれが致命的だったのだな。正直飛竜による上空からの攻撃というのが、狗根国が最も危惧していた事だった。それを早々に叩けたことで、後はただの人間を相手にすればいいことになった。飛竜狩りの部隊と同時にかなりの数の乱破が九洲に潜入し、要人を暗殺しまくったために、耶麻台国はなすすべもなく滅亡した……と聞いている」
「……じゃあ、やっぱりお姉ちゃんのせいなんだ」

「その通りだが、お前の姉の話はこれからだ。どのみち耶麻台国軍では狗根国軍には勝てない。そのことを悟った亜衣は滅亡は避けられないならば、後に再興出来るようにと少しでも多くの人材を残すことを考えた。耶麻台国があっけなく滅んだのもそのためだ。つまり、自分の知る優秀な人材を見逃して貰う代わりに、狗根国に対して有利になるような手引きを幾つも行ったんだ」
「え?」
「わからんか? 当時は亜衣が実際に動いていたわけではないだろう。他の宗像連中が仕切っていたのは間違いがない。だが、狗根国と宗像神社関係者が通じていたのは当時から、今に至るまでずっとだ」
「そ、そんな!」
「にわかには信じがたいだろうな。始めはさっき言ったみたいに、一度滅んででももう一度国を興すために人材を逃がすという名目だったんだろう。だが、実際に滅んでみればとても復興も再興も夢のまた夢のような状況。裏で裏切りを画策しながらの服従のはずが、何時の間にかただの犬に成り下がっていたと言うことだ。どうせ復興も不可能ならばと、狗根国の征服下で少しでも宗像の勢力を維持することだけに尽力してきた。そしてそのために、狗根国の意図したとおりの反乱を何度も演じ、敗北を繰り返すことで九洲の民に敗北感を与え続けてきた」
「……」
 絶句する羽江。そこまで深刻なつながりとは考えていなかったのだろうか。
 だが、深川は更に容赦なく続ける。

「今回の事に関しても同じだ。反乱の規模が大きくなっているのも始めから狗根国の計算の内。ここから潰す算段も既に付いている。まぁ、反乱の規模を大きくしていることに関しては、狗根国内部でのゴタゴタに寄るところが大きいのだが、それは関係ない」
「じゃ、このままじゃ」
「あの女の本心は知らない。もしかしたらこのまま本当に復興させる事が出来るつもりでいるのかも知れない。だが、お笑いぐさだろう? これまで何度と無く九洲の民も、耶麻台国も裏切り続けてきたあの女が、今回だけなんとか頑張って復興を実現させるなど」
「お姉ちゃん……」
 泣きそうな羽江。九峪の首に捕まる腕を、ぎゅっとしめる。

 九峪は若干息苦しさを感じつつも、楽しそうになおも続けようとする深川の頭を殴りつけた。
「? なんだ?」
 自分が殴られた理由が分からず目を丸くする深川。
「お前な、現実知らずのおこちゃまに現実突き付けるのは楽しいかもしらんが、もう少し他人の気持ちを考えろ」
「……よりによってお前がそれを言うのか?」
「俺は物事を根本まで洞察した上でやってるからいいんだよ。お前のはただの趣味だろ」
「ほほう。誰彼構わず女を孕ませまくる男が、物事を洞察とは恐れ入るな」
「……それはそれだ」
 深川は九峪をじと目で見た後、すっかりしょげかえっている羽江の頭を撫でた。

「まぁ、お前は何も知らなかったんだろうし、責任を感じることはない。だが、そんな姉を止めたいと思うか?」
「うん」
 深川の問いに、羽江は迷い無く頷いた。
「だが、口で言って止まるような輩ではない。止めるならば術は一つしかないな」
「……殺……す?」
 おそるおそる口にした羽江の言葉に、深川は肩を竦めてみせる。
「本当に償いたいのであれば、他に術はない。さぁ、お前はどうするお嬢ちゃん。身内を取るか、それとも大義を取るか。別にどちらでもいいが、これだけは心しておくんだな。もし、お前の姉がこのまま耶麻台国を復興させたとしても、その後また同じように狗根国の手によって滅ぼされるだけだ。耶麻台国と狗根国。この力関係がまるで変わっていない以上、また攻め込まれたとき、お前の姉は同じ選択肢しか取れないだろうからな」
 深川はつまらなそうに言い捨てて、話は終わりと口を噤んだ。
 返事は聞こうとも思っていない。
 羽江が見た横顔がそう言っていた。

 ――このままじゃ、お姉ちゃんは繰り返す。

 ――同じ事を。

 羽江の脳裏に、九洲各地の惨状が目に浮かぶ。

 同時に、自分の姉たちや、宗像の巫女達、そして星華の顔が過ぎる。



 ――私は、どうしたらいいんだろう……


 心の内の呟きに、答える者は何処にもいない……














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【2006/05/03 20:43】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
出雲盛衰記38
 出雲盛衰記
 三十八章



 川辺城の上空に飛竜が現れ、それに羽江が連れ去られたことで、特に宗像神社の関係者達は大きく動揺した。
 直ぐに追走すべく、巫女が数名飛空挺を背負って飛び立とうとしたが、亜衣がそれを許さなかった。

「なぜです、お姉様! このままでは羽江が! あの娘は何も知らないんですよ。宗像の巫女だとばれた何をされるか」
「落ち着け衣緒。それに無駄だ。所詮飛空挺では飛竜はどうあっても捕らえられん。空中であの化け物によもや勝てるつもりか? それに、龍神族とてお前の手には余る」
「わかってます! だからと言って妹を見殺しにしろと言うのですか!」
 取り乱す衣緒。亜衣はやれやれと肩を竦める。

「羽江の身を案じるなら尚更止めておけ。助かるとすれば、あの天然娘が何も知らないと言うことで、あちらが手を出さなかった場合だけだ。逆に追っ手がかかれば人質として扱われる可能性もある。放っておくのが一番あいつの為なんだよ」
「……実の妹の事だというのに、あなたという人は……」
 衣緒は鼻息も荒く下がっていく。

 亜衣はやれやれとため息を吐き、仕事に戻る。
「本当にいいの?」
 気のない声は後ろから。窓際に腰掛けて外を眺めている星華だ。
 亜衣は仕事の手を休めることなく答える。
「龍神族がまだ残っているとは計算外でしたが、残っていてもそれ一匹でしょう。何が出来るわけではありません」
「……私が聞いてるのは羽江の事なのだけれど」
「心配ですか? 星華様」
 星華は当然でしょうと、眉をそばだてて答えた。

 亜衣、衣緒、羽江の宗像三姉妹の母親と、星華の乳母は同じ女性。いわば乳姉妹。自分の地位を脅かす人間に対しては冷酷非情な星華も、妹のこととなれば平静ではいられない。
「私も衣緒も、事の顛末をそれほど詳しく知っているわけではないけれどね、それでも龍神族がどれほど宗像連中を恨んでいるかくらいは想像に難くないわよ」
「厄介なことですね。ちゃんと皆殺しにしておけば良かったもを」
 冷めた声でそう言いきる亜衣。星華は背中に嫌な汗を掻きつつ、その場を辞する。
「本当に、使えないな」
 亜衣は、もう一度ため息混じりに呟いた。



 翌朝、何事も無い顔で羽江は帰ってくると、誰彼構わず魅土とまーくんの事を話して回った。
「でね、龍神族と飛竜を狗根国に売った人がいるんだって。復興軍で懲らしめようよ、衣緒お姉ちゃん」
 妹が無事に帰ってきたことに喜んでいた衣緒だったが、さすがに羽江のこの言葉には返答に窮した。本当のことを告げれば、羽江は傷つくだろう。
「そ、そうね」
「でしょ~? 亜衣お姉ちゃんなら何か知ってるかなぁ」
「……羽江」
 無邪気な妹を抱きしめる衣緒。
「ん? どうしたの?」
 衣緒は、迷いつつ、やはり告げなければならないのだと覚悟を決めた。
 だが、その時計ったかのように亜衣が現れた。

「お姉様」
「え、亜衣お姉ちゃん?」
 衣緒の拘束から解かれると、羽江は亜衣を見つめる。
「羽江、そこに座れ」
「ん? うん」
 素直に座ると、亜衣はその前に腰を下ろした。
「お前にも言っておかなければならないことがある」
「何~?」
「龍神族の事だがな……」
「あ、それそれ。ねぇいま衣緒お姉ちゃんにも話してたんだけど……」
「狗根国に売ったのは私だ」
「へ?」
 羽江は言葉の意味が飲み込めず、首を傾げる。

「当時、耶麻台国には狗根国と戦争するだけの力は無かった。少しでも時を稼ぐため、かの国の王が所望していた飛竜の居所を教えてやる事を進言したのだ」
「……嘘」
 思い出す、寂しそうな魅土の横顔。
 亜衣は、真摯に羽江にその事の必要性を教えたが、羽江の頭には一つも入ってこない。
 どんなお題目や大義名分も、魅土と先に知り合ってしまった羽江には、届かない。

「……だから、しかたがなかったのだ」
「何が仕方ないだよっ! 魅土一人ですっごく寂しそうだった! なんで、なんでそんな酷いことしたのさっ!」
「羽江。耶麻台国の為だったんだよ」
「知らないよっ! 結局滅んだんじゃない! そんな、そんな事するような国だから、滅ぶんだよっ! そんな国、私いらないっ」
 叫んだ羽江の頬を、亜衣が思い切り叩いた。
「羽江、興奮しているのは分かるが、言葉は選べ」
 殺気すら籠もった亜衣の言葉に、羽江はまなじりを釣り上げてにらみ返す。
「……私、お姉ちゃん達が死んだら、悲しい。復興軍のみんなが、宗像神社のみんなが死んだら悲しいよ。考えただけで、胸が締め付けられる。亜衣お姉ちゃんは、違うの?」
「違わないさ。だが、国そのものが滅びれば、それ以上の悲しみが増える。事実、お前だって見てきただろう?」
「……そうだね」
 羽江は頬を撫でながら、その場を後にした。
 やるせない気持ちで、一杯で……。



 羽江は泣きながら飛空挺に乗って、魅土を探した。
 何も知らずに酷いことを言ってしまった。
 そのことを謝りたくて。出来るなら、自分の姉を許して欲しくて。
 羽江は知っている。亜衣がどれだけ耶麻台国復興の為に力を尽くしてきたか。
 そのことで、行きすぎてしまった事がかつてあっても、不思議ではないと思えるほど。
 許してくれるわけはない。それもわかる。
 だけれど、どうしても、申し開きがしたくて……

 魅土と一緒に野宿をした場所。
 しかし、魅土の姿はもう何処にも見えなかった。
 手がかりはない。
 まーくんに乗って移動している魅土を探すなど、羽江一人では到底不可能だ。
 絶望が心にしみ出し、羽江はまた泣いた。

 その泣き声を聞きつけたのか、近くをたまたま通りかかった者がいた。
「あの声は、羽江?」
 声を上げて泣いていた羽江。背後に立たれてもその気配には気づかない。
「おい、羽江。どうしたんだ? こんな所で」
「え?」
 驚いて振り返る。
 そこに立っていたのは、死んだはずの……
「ふ、藤那様? あれ? どうして」
「死んだとでも思っていたのか?」
「え、うん」
「生憎だったな。だが、弱ったな。まだ星華達に生きていることを知られるわけにはいかないし」
「どういう事?」
「どういう事も何もない。星華は私を殺すつもりだったんだ」
「嘘。星華様がそんなこと……」
「私だけじゃない。伊万里なんかもっとあからさまにな。護衛に付いていた奴らに殺そうとされたらしい」
「……」
 伊万里については羽江も聞いていた。

 でも、亜衣が言うには魔獣に襲われて部隊が全滅したと言うことだった。
 そのことを話すと、藤那は首を横に振る。
「そういう風に思わせるようにしただけで、まだ生きているよ」
 分からなくなる。何もかも。
 自分が信じていた姉は、一体何なんだと。
 敵であるならばともかく、なぜ、味方である藤那や伊万里を殺そうとするのか。

「それだけじゃない。宗像の連中、と言ってもお前は知らないだろうが、狗根国とも通じているという話だ」
「それは無いよ!」
 疑心暗鬼になっていた羽江は、それだけは無いと叫んだ。
 藤那は、ゆっくりと首を横に振る。
「事実なんだよ」
「嘘だ、嘘だよ……。亜衣お姉ちゃん、狗根国を追い出したくて復興軍作ったんだもん。その狗根国と仲が良いはず無いよ、何かの間違いだよ、それ、だけは……」
「そう思うならそれでもいい。真実が知りたければ当麻の街に行ってみればいい。行って志野に話を聞くんだ」
「志野様に?」
「ああ」
「うん、わかった」
 羽江は首肯すると飛空挺を背負う。

「あれ? そう言えば藤那様はこんな所で何をしてるの?」
「飛竜がこの辺りに現れたというのを聞いてな。復興軍を討つなら協力してくれるかと思って探していたんだ。何か知らないか?」
「魅土とまーくんなら、昨日までは確かにここにいたけど、今は分からない」
「会ったのか?」
「うん。昨日、一緒にいた」
「……そうか。まぁ、こっちはこっちで探してみるさ」
「ねぇ、藤那様……」
「何だ?」
「もし、その話が本当だったら、お姉ちゃん達はどうなるの?」
 心配するような羽江の瞳。

 藤那は、作ったような笑みを浮かべて答えた。
「むかついてるのは確かだからな、一発ぶん殴らせて貰うさ」
「それだけ?」
「ああ、それだけだ」
 羽江は、よかったと一言呟いて、空へと飛んでいく。


「まぁ、私だけならな……」
 付け足すように言った藤那の一言が、森の中に冷たく響いた。













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【2006/05/02 18:22】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
アトガキ 編年紀【裏】十章
 アトガキ



 十章更新!
 いやいやいや、遂に裏に突入しました。まぁ今回は話は全然進んでなくて現状確認って、いつものことですが。作者の作品は状況説明と推移が同時に起こってあまり停滞しない(そうか?)事が多いので、どんどん進んでいきます、どんどん。

 で、今回特筆すべきキャラはやはり斗善拍! 徒然草で彩花紫に出番を奪われ、唯一出ても良かった場所は多李敷に横取りされ、今作で出番無しかと思われていたあのやられキャラですよ! ええ、まぁ、名前だけのどうでもいい敵キャラだったんですけどね。狗根国側の人を出したかったけど良い感じの人がいなかったので、微妙な役得が出来たという……。

 でも、まぁ、今回一番の問題点はやはり狗根国軍八万という数ですね。三世紀にどれだけ日本に人がいたというのか……。八万の軍を支えるために必要な底辺の人間の数って一体……。まぁ、そのための九洲などで圧制しいてるのカモ知れないけどさぁ。多すぎたか? と不安に。始めは三万くらいでいいかなぁ、と思ってたんだけど、なんか八万になりました。根拠無し。強いて言えば沢山の人間が戦った方が面白そうだから? それを文章に起こせるわけでもないのにねぇ。

 ええと、最後に出てきた人に関しては誰だか言うまでもないよね? 分かってくれると作者は信じています。生きている可能性としては上乃に比べればかなり高い方なので問題はないと思うけどねぇ。

 次回予告!



 「そんな、私と珠洲ちゃんは同志じゃないですか! 胸のない」



 うむ、誰が出てくるかわかりやすい次回予告。もう一人、変な人が変な役割で現れます。




 ではweb拍手のお返事でも。
 まずは28日分ですね、ってかこれだけか。

4:28 魅土とまーくんホントに出た…ありがとーごぜーますだぁ。でもみづちんはあいあいが嫌いなご様子ですねー
4:30 これはつまりみーくんとかむーくんとかめーk(以下略)の死因にムナカタ先輩が関わっt(以下自主規制
4:31 では恒例の、以降展開予想コーナー。羽江がまーくん食べる→魅土が羽江を食べる→魅土飛空艇乗りになる。
4:32 …主人公は食べられる。それが盛衰記クオリティ、という噂。
 と頂きました。
 みづちんはあいあいが大嫌いです。大嫌いな理由は自主規制して頂きましたが、おおむねその通りかと存じます。難しい展開は特に無いかなぁ~。ベタが心情ですからべたべたに。
 以後の展開予想。一億歩、否、一京歩くらい譲って羽江がまーくんを食べることはあるかも知れませんが、さすがに魅土は羽江を食べないかなぁ。しかも魅土なら羽江食べなくても飛空挺乗れるんじゃ? 仙人だから方術使えるはずですよね? いえ、よく知らないんだけどさ。
 主人公が食べられるのが盛衰記クオリティって、そんな噂が何処に!? え、自覚がないのは作者だけですって! そんな、馬鹿な。何処の世界に主人公を登場人物が美味しく頂くなんてまるでアン○ン○ンのような話が……。ああ、そう言えば九峪が美味しいのはその辺が元だったりします。バ○コさんとかは出てきませんけどね。
 と、相変わらずしょうもない話に脱線してますね。コメントありがとうございました!


 では、本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイキ~ン


【2006/05/01 17:25】 | アトガキ | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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