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深川09
 深川
 九話



「日魅子……、なんでお前が此処に」
 わけが分からない。なんでだ? あいつは俺と同じでただの高校生で、今頃は学校にでも行ってるはずだけど……。
「く、九峪こそなんでこんな所にいるのよ……」

「いや、それは……」
「……」

 お互い見つめ合って沈黙。

 気まずい雰囲気にお互い口をきけないでいると、衣緒が折良く戻ってきた。その背後には眼鏡をかけた理知的な女性がいる。

「これは火魅子様。ああ、こちらは兎奈美さんが連れてきた……」
「兎奈美が、九峪を? 何それ、どういう事なの?」
「おい、衣緒。なんで日魅子がここにいるんだよ!」

 俺と日魅子は同時に衣緒に問いかける。

「え? あの、お知り合い……ですか?」
 今度は衣緒が困惑する。
「知り合いも何も幼なじみよ! この世界にいるはずがないのに……なんで」
「ふむ。とにかく落ち着いて下さい火魅子様」
 眼鏡の女が日魅子の肩に手を置いて宥める。

「九峪殿、と仰っいましたか。こんな場所では何ですし、客間を用意致しましたのでそちらの方へ」
「はぁ」
 ワケが分からない。なんで、日魅子が……。
 この時、俺の思考はそのことばかりに囚われて、眼鏡の女が企みの眼差しを向けていることに、全く気づいていなかった。






 場所を移して、俺は今までの成り行きを全て日魅子に話した。その場にはあの眼鏡の女――亜衣と言う名前で、衣緒の姉で耶麻台国の宰相のような立場らしい――もいたが、俺たちの会話に口は挟まず黙って聞いていた。
 俺の話は元より深川に連れ回されていただけの話だから直ぐに終わり、俺は日魅子がなぜ此処にいるかを問いただした。
 答えは俺と同じく至極明瞭で簡潔なもの……とは行かなかった。

 なんと日魅子はこの耶麻台国という国の女王様なのだそうだ。まぁ、確かに耶麻台国と言えばヒミコだけれども、それが本当にそうだとは。十数年前に滅亡した折、まだ赤ん坊だった日魅子は俺たちが元いた世界に送られ、それで成長するのを待って耶麻台国を復興するために戻ってきたのだとか。
 ……なんてファンタジーなと俺はがっくりと膝を付いてしまった。幼なじみにそんな面白いフラグが隠されていたとは微塵も気づかなんだ。九峪雅比古一生の不覚!

「で、耶麻台国は復興したんだろ?」
「ううん。まだ完全じゃないの」
 日魅子はどこか困ったようにそう言った。

「完全じゃない?」
「うん。実は「火魅子様」……」
 説明しようとした日魅子を亜衣が遮った。なんだよぅ、と俺と日魅子は不満そうな顔になるが、同時に戸が開いて新キャラが顔を出した。
「お時間です。お話でしたらまた機会もありますし、今は国の大事な時期ですので」
 亜衣はそう言って頭を下げる。

 日魅子は一瞬だけ俺の方に寂しげな目を向けた後、ごめんねと呟いて立ち上がる。

「じゃあ、九峪の事お願い。九峪、大人しくしててね。お願いだから」
 そんな事を言って出て行った。一国のお姫様ともなれば確かに忙しいんだろうけど、日魅子に務まるのかそこはかとなく不安だ。つーか無理じゃね?

「では、私もこれで。後の世話はこの者に任せますので」
 亜衣もそう言って立ち去る。

 ふむ、なんか場違いな感じ。亜衣って人はあからさまに俺のことを疎ましく思ってるみたいだし。無理もないか。日魅子と一緒に国を復興させたんだろうから、後から余計なのが来たー、って感じなんだろうし。よく分からんけど。

 そんなことを考えていると、新キャラ(女)が俺の前に膝をついてペコリと頭を下げた。
「お初にお目にかかります。蘇羽哉と申します。これから九峪様の身の回りのお世話をさせて頂きますので、どうかお見知りおきを」
「あ、これは丁寧に……、って別にわざわざ世話をして頂かなくとも……」
「火魅子様のご友人を無碍に扱うわけには参りません。どうぞ何なりとお申し付け下さい」
 なんなりと……。グヘヘヘ、ってちょい待て。なんか釈然としないな~。日魅子の知り合いだからって俺は別に偉くも何とも無いんだぞ?

「え~と蘇羽哉さん?」
「呼び捨てで結構です。何でしょう九峪様」
「あ~、まず様って言うの止めてくんない? 背中が痒くなる」
「いえ、しかし……」
「じゃあ、俺も蘇羽哉様って言うけどいいか?」
「こ、困りますそんな……」
「ならば呼び捨てで言うこと! いいな!」
 何故か強気の俺様だった。なぜならば今まで散々深川とか深川とか深川とかに虐められてきたので、下手に出る人間に強気に出ることが快感だったからだ。ああ、気持ちいい。

「いえ、ですが。う~、仕方ありませんね。では九峪さんと」
「強情な奴だのぅ。仕方ないその辺で手を打つか。して蘇羽哉さんや。兔音とか兎奈美は帰ってきたのか?」
 一番聞きたかった疑問はそれ。
「いえ、まだ見えられてませんが」
「そうかぁ」
 深川、大丈夫かな~。あんな腐れ外道でもある意味では命の恩人だから、知らないところで酷い目に遭ってないといいけど。まぁ、馬鹿みたいに強い兔音と一緒だし、万が一は無いか。でも、兎奈美みたいに兔音が発情してたら、あの二人どうなってたんだろう。うわ~、想像したら下腹部に血が……。

「九峪さん。あの、よろしければ簡単に城内をご案内致しますけれど」
「ああ、うん。じゃあ頼もうかな……と、その前にもう少し話をば」
「はい、何の話がいいでしょうか」
「そうだなぁ~」
 などとお茶を濁したが、実は単に今立ち上がると変態扱いされかねないと言うだけの話だったりする。座っていても若干前屈み。理由は人体の神秘だけどねっ。






 蘇羽哉と川辺城の中を一通り見て回り、ついでに何人か幹部を紹介して貰ったりした。驚いたことに耶麻台国を仕切ってる連中はとても若い。衣緒も十代半ばくらいだろうが亜衣にしてもまだ二十代前半。その上女性が多くて俺様としては大変嬉しい。日魅子の知り合いだと聞かされると途端に恐縮されるのが妙な感じだが。
 当の日魅子は耶麻台国の女王なのだから仕方がない。まぁ、正式な即位には色々とやらなくてはならないことがあるらしく、今のところは暫定的なものだとは聞かされていたが。

 ――それにしても日魅子がねぇ。

 笑えてくる。俺が知っている日魅子はとても国なんて統べる柄じゃない。と言うか、一介の女子高生に過ぎない。曲がりなりにもこうやって国を復興させてしまったというのは、未だに事実として理解できないでいた。恐らくは補佐する人間が優秀なのだろうとは思うが、それにしても……。

「に、しても兔華乃達はまだ戻らないのか……」
 ぽつりと呟く。外は夕暮れてきて、もうすぐ日が沈むだろう。今日はもう会えないかもしれない。

「……大丈夫、だよな」
 脳裏を過ぎるのは深川のこと。
 出来れば二度と会わない方が自分の為だろうとは思うのだが、それでももう一度会いたいと思う。出来れば脅されていない状況で、ちゃんと深川と話がしたかった。とは言え深川は確か復興軍とも反目しているらしいから、もしかしたら捕まっちゃったりするかもしれない。あいつの事だから多分ものすごいことをやらかしちゃってるんだろうけど、どうにか日魅子に頼んで許して貰おう。
 確かに、あいつは悪い事してきたし、実際悪人だと思う。

 でも、俺は決めたんだから。
 あいつにきれい事を押しつけると。

「九峪さん。なにニヤニヤとしてるんですか?」
 蘇羽哉が怪訝そうに聞いてきた。
「いや、別に。それより蘇羽哉はいつまで俺の所にいるんだ? 仕事とかは?」
「私の仕事は九峪さんのお世話ですから」
「ああ、そうなんだ。でも、俺ってこれからどうすればいいんだろうねぇ」
 正直日魅子がいるからなんとなくいるけど、実際場違いな感じだし。
 賓客扱いは楽でいいけど、何もしないというのもどうも……。

「――失礼します」
 凛とした声が聞こえて戸が開く。顔を覗かせたのは亜衣という女だった。
「こちらにおられましたか。九峪殿、折り入ってお話が……」
「俺に? はぁ」
 入れ替わるように蘇羽哉が部屋を後にし、亜衣さんが俺の前に座る。

 お茶でも用意したいところだが、生憎と部屋には何もなかった。

「……で、話って?」
「端的に申し上げて、火魅子様とどういったご関係で?」
 射抜くような視線。なんだか咎められている気分だ。

「どうって言われてもなぁ。幼なじみとしか……」
「男女の仲、と言う事では無いのですか?」
 明け透けな問いに、思わず閉口した。

 俺と日魅子の関係。確かに主の人間関係は宰相としては気になるだろうけど。

 でも、なんて言うべき何だろう。あいつは、恋人と呼べるのか?

「え~っと、特にそう言う関係じゃ、無いと思うけど」
「では、ただのご友人だと?」
「……亜衣さん。俺があいつの恋人だと、その、国としてはやっぱりマズイか?」
 俺がそうではないと言うのは簡単だが、それはそれであいつの気持ちを裏切る事になるし、かといって、立場が変わってしまった以上それもわがままになりかねないし。

「気を使われているのですね。ご配慮痛み入りますが、私は単に事実関係を確認しておきたいだけです」
 亜衣さんはそう言って幾分優しげな笑みを浮かべた。
「う~ん、じゃあ正直に言うけど、俺にとってあいつは妹みたいなモンで、別に女として見てるワケじゃない」
「……なるほど。しかし、火魅子様はどうでしょうね?」
「んなもんあいつに聞けよ」
「正直にお答えしてくれるとは思えません」
「かといって俺が思ってるのと同じだとは思えねーけど。ま、多分あいつは…………好きなんだろうな」
 他に仲のいい男がいるわけでもないし。何かと世話を焼きたがるし。時々怪しい視線を向けてくるし。

「やはり、そうですか」
「困るか?」
「……本音を言えば。いえ、貴方が本気であるならば、私もお手伝いは致します。ですが仮に火魅子様の婿になるというならば、それなりにやって頂くこともありますし」
「やって頂く事って何です?」
「幸い貴方は火魅子様と同じ世界からいらっしゃいましたから、神格化して火魅子様の守護者のような立場で耶麻台国に喧伝すれば、特に問題は無いかと思います」
 ……まぁ、日魅子偉いんだから、俺も偉くならなくちゃ色々問題だって事だろうけど。

「むぅ~、でもそれ多分無理だわ。俺偉そうに出来ないし」
「……時間はあります。どうぞゆっくりとお考え下さい。まだこちらの事も良くお分かりにならないでしょうし」
「ああ、すんません」
「いえ。では私はこれで」
 すっと立ち上がると静かに亜衣さんは出て行った。


 日魅子と恋人に。
 なるならば生活保障もあるし、別にあいつが嫌いなわけでもないし。

 悪い事じゃないだろう。と言うか、自活する能力のない俺にとって選択肢は他に無いような気もする。
 何より、どちらにしろ日魅子を此処に放り出して何処かに行ってしまえるかという話もある。

「無理だなぁ~」
 この世界の厳しさを身をもって体験し、誰かの庇護下でなければ生きていけない、脆弱な存在だと思い知った。
 再び明日もしれぬ所に自らを置いておく事など出来るだろうか?
 野に下り、また人を殺して生きるのか?
 そう考えると頭が痛い。

「まぁ、ここにいるからって必ず日魅子と恋人関係やってなければならないって話でも無いと思うけど」
 いや、そうでないならば俺が此処にいる意味も無いのか?
 あいつを支えようと思ったら、俺もそれなりの立場にならなくてはならない……ような気がする。

「……面倒だなぁ」
 大きくため息を吐いて、床にごろりと横になった。
 出来れば、目覚めたときに何もかもが夢でありますように。













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【2006/08/30 20:50】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(1) | page top↑
深川08
 深川
 八話



 無邪気な顔で殺気をまき散らす兎奈美は、不意に俺の唇を奪う。
 背後から、覆い被さるように。
 ヌラヌラとした舌が押し入ってきて、無意識に自分のそれを絡ませ、何処か冷静な部分がこれが魔人の味かと分析していた。

 ――なぜ、突然?

 その疑問を差し挟む余裕を兎奈美は与えてくれなかった。
 興奮しているのか何なのか、時々隠しきれない殺気が放たれ、その度に身体が硬直させられる。
 口内を舌で陵辱される感触と、明滅するような殺気に次第に思考がままならなくなり、呆然としてしまう。

 月明かりに、僅かばかりに浮かんでいる兎奈美の顔。
 その瞳が、赤く爛々と輝いている。
 美しいなと思った。
 金縛りにあったように動かない身体から、兎奈美は服をはぎ取っていく。
 引き裂いてしまう事も簡単だろうに、鼻歌を歌いながら楽しそうに。

 上着を脱がされ、呆然としている俺の胸板に頬擦りして「にゅ~」とか訳の分からない声を上げている。
 こいつは何がしたいんだ? と思っていると下の方まで脱がされる。

 この世界に来てから陵辱される運命にあるのだろうか。深川の次は魔人かよ……と嘆く。
 と言うか、なんなんだろう? 俺の何が気に入ってこいつはこんな真似をしているのか?
 殺気をちらつかせて黙らせて、これが魔人流なのだろうか?

「ふふ~。九峪、結構おっきいね~」
 マイサンを見ながら笑みを浮かべている兎奈美。

「なんで、こんな事……」
 半ば諦めつつも、掠れた声で呟いてみる。

「昼間久しぶりにいい戦いが出来たからね~。ちょっと興奮しちゃってて、こうでもしないと九峪のこと殺しちゃいそうだから~。殺しちゃったら姉様に怒られるし、死にたくないでしょ?」
 コクコクと頷く。

「今夜は寝かせないから♪」
 なんて兎奈美は無邪気に笑って、俺様はあやうく腹上死するところでしたとさ。






 翌日、足腰立たない俺は兎奈美に担がれてまた山の中を風のように駆け抜け――俺様またも気絶――、昼過ぎに目的地である川辺城とやらに付いた。
 何とか目覚めて遠目にその城を見たとき、何故か無性に泣きたい気分だった。

 都督での一件やその後深川と何度か襲撃した集落を見たり、その上兎奈美達魔人を見て、ここが異世界であると言うことは把握しているつもりだった。
 でも、それでも何処かドッキリなんじゃないのかなと思っていた。

 川辺城。その現代ではあり得ない城郭都市を見て、俺の中にあるその儚い希望は完全に崩れ去った。

「姉様達先に着いてるかな~」
 などと呟きながら、楽しげに歩いている兎奈美。
 ちなみに街に入る前に、隠しておいたらしい農民衣装に着替えている。バニースーツではさすがに目立って仕方がないし、耶麻台国に魔人がいるとおおっぴらにばれるわけにはいかないのだとか。そんな面倒なこと兎奈美は無視しそうだが、兔華乃の命令は絶対らしい。かなり怖れているようだが、あの小さい身体に何か秘密を隠してるのだろうか。むぅ、そうは見えなかったけどなぁ。

「っと、兎奈美。そろそろ自分で歩くから下ろしてくれ」
 頼んでみると、兎奈美は不満そうに頬を膨らました。
「駄目~。九峪は抱き心地いいからこのまま」
 兔華乃みたいに小さければいいかもしれないが、一応体格的には成人男子。抱き心地もなにもあるまいに。
「いや、だが周囲の目が……」
 農道のような場所を歩いているのだが、お百姓さん達が奇異の目をこちらに向けている。まぁ、無理もない。農民の衣装を着ようがそのスタイルを隠しようもない兎奈美が、大の男を担いで歩いているのだ。違和感がありすぎる。

「私は気にしないも~ん」
 駄目だコイツ。頭のお医者さんに看て貰った方がいい……。

 ため息を吐きながらも逆らうとどうなるか分からないので黙ってうなだれるに留める。
 昨夜も口答えするたびにあちこちに歯形を付けられた。すっかり調教済みなのである。

 それから街に入り――門番は兎奈美を一瞥してスルーした。顔パスらしい――、奇異の目にさらされながら宮城の方へ。そして宮城と街とを隔てる門も顔パスで通過して、兎奈美に運ばれながら俺はそのまま中へと入っていく。
 耶麻台国の要職の人たちだろうか。街中で見るよりいくらか身なりのいい人達は半ば呆れてような視線をこちらによこしている。多分兎奈美が奇異な行動を取ることに慣れているのだろう。物珍しさはあまり感じられない。

「あ、衣緒」
 呟いて兎奈美が立ち止まる。俺は顔を上げると兎奈美の視線を追った。

「兎奈美さん。誰です?」
 訝しげな顔をしているのは、なんとなく清楚な感じが漂う少女だった。歳は同じくらいだろうか。まっすぐな黒髪が綺麗に切りそろえられ、落ち着いた物腰が好印象。渾名はお母さんがベストだ。
 そんなワケノワカラン事を考えていると、兎奈美がようやく俺のことを下ろしてくれた。

「エヘヘ、姉様達帰ってる?」
「兔華乃さんですか? いえ、見えてませんけど」
「そっかぁ~。う~ん面倒だなぁ」
 確かに兔華乃や兔音無しで兎奈美が話を通すのは難しいような気がする。と言うか不可能だろう。だってコイツ俺から見てもおつむが足りない。

「え~とね、まぁご飯でも食べさせておいてよ」
「は? え~と、誰なんです?」
 衣緒と呼ばれた少女は困惑した顔でこちらを見る。うむ、同情しよう。だが俺も迂闊な事は言えんのだよ。
「私は姉様達を探してくるから。じゃあ、お願いね」
「は、え、ちょっと兎奈美さん」
 呼び止めた衣緒だったが、それも虚しく兎奈美は行ってしまった。

「ふぅ」
 頭を抑えながらため息を吐く衣緒。俺も同じくため息を吐いた。

「それで、どちら様でしょう?」
「ああ、九峪って言うケチなもんです」
「九峪さん……、なぜ兎奈美さんに?」
「さぁ? 俺もそれを聞きたい」
 虚しいことに、俺自身、なぜ自分が此処にいるか、一つも分からないのだった。






 衣緒は兎奈美に言われたとおり俺にご飯を出してくれた。お腹も減っていたし、こちらの世界に来てからはじめてまともな――それでも貧相ではあったが――食べ物に、俺はがつがつと一心不乱に掻き込む。何というか、生きててよかったと心の底から思えた。
 兎奈美が連れてきたからなのか、衣緒は俺のことを賓客扱いと言うことにしてくれて、特に警戒されている様子もない。

「衣緒は、耶麻台国の偉い人なのか?」
 まだ若そうなのに、廊下ですれ違う人が頭を下げていたりする。結構な地位にあるものと思われた。それがとても意外で聞いてみたのだが、衣緒は困ったように首を傾げる。

「まぁ、そうですね。それなりに。九峪さんは一体どちらから?」
「う~ん、その辺の事は自分でもよく分かってないんだよね」
 そう答えると衣緒はまた困ってしまうようだ。

 それにしても会話で相手に殺される心配をしなくていいって、なんて開放感だろう。うぅ、こんな当たり前のことで涙が出そうだ。

「兔華乃さんが来てくれるまで何も分かりませんか。兎奈美さんも少しは説明してくれてもいいでしょうに」
「まぁ、あいつにその辺の事を期待するだけ無駄というか」
「? 兎奈美さんとは親しいんですか?」
「え? まさか。まだ一晩くらいしか一緒にいないし。ただ魔人に襲われてるところを助けて貰っただけで……」
「ま、魔人! 魔人が出たんですか?!」
 衣緒がいきなり叫んで詰め寄ってくる。うむ、凄い剣幕だ。やはりこ奴も裡に牙を隠し持っていたか。深川や兎奈美に比べれば可愛いものだが。

「まぁな。俺の連れが狗根国に追われていて。そいつは兔音と逃げてるはずなんだけど、まだ着いてないみたいだなぁ」
「狗根国に……」
 衣緒はそう呟くと急に黙り込んで、そうかと思えば席を立ち部屋を出て行ってしまった。

 食堂に一人取り残されてロンリーな俺様。
 見知らぬ場所で放置されるって凄い不安なんだけど……。何せ根が臆病者ですから。


 それから何分経っただろう。お茶碗に残ったご飯を手持ちぶさたに一粒ずつ口に運んでいると、トコトコと軽い感じの足音が。誰か来たのか? と若干不安に思っていると、あり得ないものが俺の目に飛び込んできた。

「――嘘」
 そいつは愕然として一言呟き、俺の事を凝視している。


 そして、それは俺も同じだった。


「日魅子――……。なんでお前が……」


 あり得ないはずの再会。



 意地の悪い神様が、ニヤリと笑った――そんな気がした。













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【2006/08/28 19:08】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
深川07
 深川
 七話



 俺たちを襲っていた魔人はわりとあっさりぶち殺されて、その後バニーガールズに連行されることに。深川は終始表情が硬いし、何か話しかけても黙殺されてしまう。
 仕方ないので、沈黙が大嫌いな俺は話が分かりそうで、あまり怖くない兔華乃というちびっ子と話をしていた。

「ふ~ん。それで魔人なのに耶麻台国に協力してたのか……」
 一番の疑問はそもそも魔人とは狗根国の左道士が呼び出すものと深川に聞かせられていたから、魔人が魔人を殺すと言う状況だった。
 だが、この兎さん達は現在は狗根国と協力関係になく、独立して自由に動ける環境にあるらしい。本来ならば魔人は呼び出した術者の言うことを聞かなければならないし、その術者が死んでしまえば生きていけないらしいのだが、このウサギさん達はその術者が死んだ後、別の人間に助けてもらって生きながらえ、その人への恩を返すために今は耶麻台国にいるのだとか。

 やはりいいことをすればそれだけ見返りがあるものなのだ。その辺深川には心の底から学んで欲しいと思う。
「九峪さんは何処の出身なの? 狗根国?」
 兔華乃は興味津々と言った表情で聞いてくる。う~む、なんて答えたものか。正直に言っても信じてもらえないだろうし、なんとなく素性を秘匿したがっている風な深川に刺されそうだし。

「それが全く分からなくてさぁ~。はっはっは。深川に拾われる前の事全然覚えてないんだよね」
 なんてさらりと嘘を付いてみた。
 まぁ、どうせ真偽のほどなど確かめようもないし。

「あら、記憶が無いんですか。お気の毒に。――それにしても狗根国の左道士は貴方の何に興味を持って、捕らえるなんて事をしていたんでしょうね」
「さ~て、そう言うことは俺にはさっぱり」
 実際俺に興味を持ってるのは深川だけだしな。まぁ、何を企んでるのか知らないけど、おかげでこうして生きているとも言えるかもしれない。

 兔華乃はふ~ん、とか意味ありげに頷いて深川に視線を送る。

「どうなんでしょうね?」
「答える必要はないだろう」
 深川はつっけんどんに答えた。
 その態度に表情を曇らせる兔華乃。なんだか一瞬で空気が重くなる。

「そりはそうと……」
 俺はその空気を振り払うために話を逸らす意味で、兎奈美という頭が弱そうな兎の方を見た。
 はじめに俺を助けてくれた奴なのだが、その肉体の成熟さと反比例するように脳の方は未熟ならしく、見ていてちょっぴり痛い感じだ。
「ん? どしたの?」
 ニッコリと笑って近づいてくる。

「え、いや、怪我大丈夫かなと思って……」
 そうなのだ。あの人知の及ばない領域での戦闘で、まったくの無傷とは言わず、あちこち血がにじんでいる。ちゃんと治療しないと破傷風になりそうだなぁと気になっていたのだ。

「あ、これ? 直ぐ治るから気にしなくていいよ~。別に腕や足がもげたワケじゃないし~」
「まぁ、例え手足を切り落とされようがまた生えるがな」
 さらりと魔人の異常性を告白してくれる。

「それにしても奇特な奴だな。魔人の心配など」
 珍獣でも見るような目つきで俺を見る兔音も、やはりあちこち傷ついている。本人は全く気にした様子もないが。
「で、でもよぅ。俺を助けるために女の子が傷つけられたって言うのは、こう、なんて言うか……」
 こう見えてもフェミニストなのだよ、諸君。って誰に言ってるんだ?

「……変わった奴だな、お前は」
 微妙な表情の兔音。
「でもそう言ってくれるのは嬉しいかも~」
 テヘヘヘと笑いながら兎奈美が抱きついてきた。
 規格外の乳二つが背中にむにゅっと押しつけられて、自然と鼻の下が伸びる。

 そんな俺の表情を、兔華乃が興味深げに観察していた。



 状況が一変したのはそれから直ぐの事だった。
 急に俺以外の全員の気配が変わり、立ち止まると厳しい表情で周囲を睨み出す。

「な、なんだ?」
 困惑する俺の手を深川が握る。
「お前は黙ってろ」
「へ?」

「兔音、兎奈美、あなた達は二人を連れて先に行きなさい」
「え~」
「姉様、それは……」
「私じゃ二人を抱えられないしね。それに、少しは私も身体を動かしたいの」
 にこやかに兔華乃が言うと、兔音と兎奈美は押し黙ってしまう。

 だから、一体何の話だ?
 状況の飲み込めない俺の事を、兎奈美が抱きかかえる。
「な、なに?」
「ちょっと揺れるから舌噛まないように口閉じててね~」
 兎奈美はにこやかにそう言うと、走り出した。

 視界がかすみ、とんでもないGが身体にかかる。

 木々の間を縫うように飛んでいるのか、人間には耐え難い動きに俺の意識は一瞬でブラックアウトすることになった。






 気が付けば辺りは真っ暗で、俺は兎奈美の膝の上で寝ていた。
 目を開いたと同時に兎奈美と目が合う。

「……おはよう」
「おはよ~」
 ニコニコと笑って何が楽しいのかコイツは。そう思いつつ身体を起こして辺りを見回す。どうやらまだ山の中ではあるようだ。

「あれ? 他の連中は?」
「さぁ?」
「さぁって……」
 どうも頭がクラクラする。血の巡りがおかしいようだ。

「はぐれちゃったみたい」
「はぐれた? 大丈夫なのか?」
「ん、何が~?」
 どうやら俺の心配は理解されなかったようだ。こういう頭が悪そうな奴と話してると疲れるんだよな、正直。

「そう言えばどうして突然走り出したんだ?」
「ん~、魔人が一杯来たから」
「一杯って、兔華乃大丈夫なのか?」
 あんな小さい身体で、化け物の相手を。それも沢山なんて……。

「姉様なら心配ないよ~。あ~あ、私も遊びたかったなぁ~」
「遊ぶって……」
「ぶち殺すと楽しいんだよ。アハハハ」
「……」
 ぬぅ。やはりコイツも魔人と言うことか。あどけない顔してぶち殺すとか言うし。

「でも姉様じゃ一匹も残らないだろうしなぁ。つまんな~い」
「……戦うの、楽しいのか?」
 おそるおそる聞いてみる。
「うん、楽しいよ」
「その、殺すのも?」
「? うん?」
 兎奈美はなんでそんな事を聞いてくるのか不思議そうだった。俺にはその態度の方が不思議なわけだが。

 察するに魔人というのはそれが自然なのだろうけど、こんな可愛い顔して殺しが好きだと言われると、なんだかこう、イライラする。それは俺の勝手な美意識なんだろうけど。
「九峪は人殺しとか嫌いなんだ」
「え、ああ。嫌いだな。深川にも止めろって言ってるんだけど」
 聞いてくれるような奴じゃないし。むしろどうにかして俺に殺させようと躍起になってるし。

「ふ~ん。やっぱり似てるかも」
「誰にだよ」
「え~とね、日魅子って女の子」
「ヒミコ? って、やっぱり耶麻台国の女王か?」
 まさか日魅子の事じゃないだろうしなぁ。ああ、あいつ心配してるかな。あまり泣かせたくなかったんだけど、帰れそうにないな。

「そうだね。一番偉い人」
「む~、でも女に似てるって言われてもなぁ~。そんなに女々しいかな」
「どちらかというと、優しいってことじゃないかな~。魔人だけど、私たちのこと人間相手みたいに扱うし~」
「だって基本的に魔人も人間だろ?」
「アハハハ、そんな事誰も思わないよ~。九峪へ~ん」
 楽しそうに笑って何故か俺のことを抱き寄せる兎奈美。

 む~、でもこの抱きしめられた感触は、確かに人間にしては規格外だけど、やっぱり女の子のものだしなぁ。
「で、何故に抱きしめる?」
「ねぇ、私がその気になればこのまま九峪のこと絞め殺しちゃえるんだよ~。口から内臓はみ出させるくらい、きつ~く抱きしめてあげようか?」
 偉く物騒な提案。
「や、それは勘弁して欲しいな」
「腕引きちぎっていい~?」
 そう言って腕を少し強めに握られる。
「駄目」
「え~、つまんな~い」
「死んじゃうだろ。俺か弱いんだからさ」
「そうだよね~。弱いよね~。だったらさぁ~、もう少し脅えてくれないとつまらないよ~」

 笑って、兎奈美は殺気を放った。

 深川など比較にならない上級魔人の純粋な殺気。
 呼吸が停止し、全身の筋肉が硬直した。目が見開かれて無邪気な顔で微笑む兎奈美に釘付けになる。

 兎奈美は固まる俺をしっかりと抱き直すと、不意に殺気を消した。

「はっ、はっ、はっ、はっ」
 呼吸が上手くできない。全身に嫌な汗をじっとりと掻いて、意識は背後にある兎奈美に向けられている。
 不意に兎奈美の顔が俺の肩口に置かれ、耳元で幼い声が囁かれる。

「人間なんかと一緒にしないで欲しいな~。こんなよわっちぃ生き物とさ~。間違って殺したくなっちゃうよ。あ、でも簡単には殺さないから大丈夫だよ~。フフフフ、もっともっと遊んでからじゃないとね~」

 長くざらざらと舌が首筋を這った。

 俺は上級魔人の物騒さを改めて思い知り、今晩コイツと一緒に寝なければならない自分の哀れさに、思わず涙を流すのだった。


 というか、遊ぶって何するんですか?













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【2006/08/26 00:28】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
深川06
 深川
 六話



 この世に神も仏もいないなんてことは、もう随分昔から分かっていたことだけど、そのくせ鬼とか悪魔とか厄介なものはきっちり存在しているとまでは考えていなかった。

 ある~日、森の中、魔人に、であ~った♪

 ……
 ……

 ……泣くぞこの野郎。

 恥も外聞も無く泣きわめきたい状況。と言いたいところだがそんな余裕すらない。
 深川の顔も見た瞬間に凍り付く絶対的にヤバイ存在。
 元々左道士が魔界から呼び寄せるものと聞いていたから、深川を追っているのが左道士である以上、確かに追っ手として放たれる可能性はあったワケだ。

「ちっ、せめて魔獣ならば」
 なんて余裕ぶっこいてられる深川が羨ましい。こっちは逃げるだけで限界。
 そもそもここ数日歩きづめで体力の限界千代の富士なボクちゃんは、今現在死んでいないこと事態が神の奇跡かといった有様。

 ああ、誰でもいい。何でもするからこの状況から救ってくれ。

 無駄と知りつつ願った瞬間、自分の足に自分の足を絡めて転ぶという、器用な真似をかます。

「……」
 気まずい気配がヒシヒシと背中に。顔だけ振り返ると、色男とも言えそうな鎧を着込んだヤバイ目つきのお兄さんが、変な剣を突き出す所だった。
「いやぁあああ~~っ!」
 女のように悲鳴を上げて地面を転がる。

 耳元でざくっと地面に剣が突き刺さる音。
「九峪!」
 舌打ちと共に叫ぶ深川。ああ、おいどんはもう駄目ですけん。骨は海へ……。なんて人生を諦めてみたが、いつまで経っても追撃が来ない。
「?」
 不思議に思って振り返ってみると、魔人の兄さんは楽しそうな表情を浮かべて明後日の方向をみていた。

 ――これは、潜在一隅のチャンス!

 俺はジリジリと匍匐前進で距離を取る。少し離れたら立ち上がって死ぬ気でダッシュだ。

 ざり

 土を踏む音。目の前に山肌の腐葉土に少しだけめり込んだ白い足が生えた。
 いや、それは目の前に現れただけで、別にそこからニョキっとタケノコの如く生えたワケじゃないだろうけど。
 おそるおそるそのむっちりとした足のラインを上へとたどると、何かが視界を遮った。

 ――まさか、これって、乳?

 その巨大なくせに張りがあって上向きかげんなスイカップの物体を、呆然としながら見上げる。乳がでかすぎて顔が見えない。しかし、なんだ、なぜこんな場所に爆乳でバニーな女が……。
 そう、格好がバニーなのだ。
 お尻の所に丸く尻尾が付いてるし、乳の端から長く白いウサ耳が出ている。

「???」
 混乱の極みにいる俺に、乳が徐々に下降してくる。同時に華奢に見える腕が伸びてきて胸ぐらを掴まれた。
 身体がふわりと浮かぶ。次の瞬間には目の前に女の顔があった。
 好奇心を隠そうともしない無邪気で大きな瞳。
 楽しそうに笑みを浮かべた口元からちらちらと見える、肉食獣っぽい八重歯。
 ほぼ成人男子の俺を片手で釣り上げる異様な膂力。
 頭の上でぴょこぴょことせわしなく動いているウサ耳。

「? あの、どちら様?」
 訊ねた俺の視界が線になり、背中に衝撃を受けたと思ったら深川の横にいた。

「げほ、ぐ、な、なにが……」
 ぶん投げられたのだと言うのが数瞬遅れて分かる。クラクラする視界に先ほどの魔人とウサ耳爆乳少女の姿がかすんで見えた。
 いや、脳しんとう気味で視界がかすんでいるわけではない。
 視覚で捕らえきれない速度で動いているのだ。二人とも。

 金属と金属がぶつかる音。

 良くは分からないが、どうやら戦っているようだが。魔人と戦うって、何者なんだあの少女。

「ふ、深川?」
 どうやら背中をぶつけた先は深川だったようだ。かなり思い切りぶつかったので、深川も呻いていたが、何とか無事ではあるようだ。
「……くそ、なんなんだ一体」
 毒付きながら立ち上がると、俺の手を引く。

「とにかく、今の隙に逃げ……」
 深川の台詞は途中で止まった。

 もう一人のウサ耳な爆乳女の、唐突な出現によって。






 魔人の襲撃。
 それ自体は考慮に入れていたし、いずれ来るだろうとは考えていた。しかし、来たのはいきなり上級魔人。実力差がありすぎて逃げまどうことすら無意味に思えた。
 それでも向こうがいくらか遊ぶ気だったのは幸いだった。
 油断しているなら、例え上級魔人でも嵌められるかもしれない。

 だが、事態は予想外の展開に向かう。
 九峪が殺されそうになったところで、別の上級魔人が現れた。その容姿から魔兎族であると直ぐに分かった。
 どういうつもりか九峪を庇って戦闘を始め、その隙に逃げようと思えばもう一匹。

 正直、魔兎族相手に人間ではどう足掻いても勝てない。
 しかも今目の前にいる奴に、一部の隙もありはしない。
 逃げるのは難しいだろう。

 しかし、やりようによっては切り抜けられるかもしれない。この魔兎族達、もしかしたら……。

「そこで大人しくしていろ。何、殺しはしないさ」
 金髪の魔兎族はそう言って静かに殺気を放つ。
 はじめ襲ってきていた上級魔人は、もう一人の魔兎族が押さえ込んでいた。実力伯仲のようだ。

「……た、助けてくれるのか?」
 脅えた九峪は、それでも私を庇うように前に立っている。腰抜けのくせに頑張るじゃないか。
 足下を見れば膝が笑っているのがみっともないが。

「さぁな。見るからに怪しい事だしな……」
 そう言って目を細める。

「うぅ、そんなこと無いですぅ。善良なタダの一般市民ですぅ」
 泣きそうな九峪の態度に、毒気が抜かれた表情になる魔兎族。
「男がみっともなく泣くな。別に殺しはしないと言っただろ」
「かたじけない。ぐす」
 九峪を小汚いものでも見るような目つきで見た後、視線がこちらに移る。

「お前等、何の目的でこんな山奥にいるんだ?」
 解答を誤るわけには行かない。こいつ等は先の復興戦争で耶麻台国に協力していた奴らだ。私は耶麻台国にとってもお尋ね者。出来るだけ穏便に此処は乗り切らなくては……。

 だと、言うのに……
「狗根国の左道士に狙われてるんですぅ」
 九峪はあっさりとばらしやがった。
 すかさず背後から脇腹に拳を叩き込む。
 九峪は僅かに呻いて、涙目でこちらを睨んできた。にらみ返すと視線を逸らしてぶつぶつと何事か呟く。

「狗根国に……? なぜだ?」
 あからさまに訝しんでいる魔兎族。
「それはこいつが『ゴッ』――っ、な、なんでもないです」
 九峪を黙らせると、代わりに私が口を開いた。

「理由はコイツのせいだ。変わった体質をしていて狗根国の左道士に研究材料として追われていたんだ」
「変わった体質なぁ」
 魔兎族はそんな事を呟きながら、九峪をためつすがめつしている。

「確かに、変な感じだな」
 無造作に手を伸ばすと、九峪の頭を掴んでクンクンと臭いを嗅ぐ。そんなことで何か分かるのか?

「あうぅ、別に美味しくないよぅ」
「確かに不味そうだな。さて、どうする姉様」
 金髪の魔兎族がそう言って私の背後を見る。

「――そうね、一応一緒に来て貰いましょうか。殺してしまうのが一番面倒が無いんだけれど、この人……」
 いつの間に背後を取られたのか全く気づかなかった。
 視線を向ければ、どう見ても"姉様"と呼ばれるには不釣り合いな、兎の耳をはやした幼女が九峪を見ている。
「似てると思わない、あの人と」

 "姉様"の言葉に、金髪の方が確かにと頷く。
 似ている――。そう、コイツは似ている。外見ではなく雰囲気が。
 だからこそ、耶麻台国に渡すわけにはいかないんだが……。

「それに、あなた左道士でしょう? と言うことは狗根国の。興味あるわ」
 少女はそう言って底の見えない笑みを浮かべて見せた。どうやらバレバレのようだ。
「……今は追われている身だ」
「なぜ?」
「そいつの為だよ」
 じろりと九峪を睨むと、少女は「あら?」なんて言って嬉しそうに笑う。

「駆け落ちでもしたの? ふぅん、いいわねぇ」
「……いや、そういう『ゴス』、その通りですぅ」
 余計な事を口走るなこのアホが。今は生きるか死ぬかの瀬戸際だと言うのに。

「まぁ、そう言うことなら耶麻台国に匿って貰った方が色々と都合もいいでしょうし、情報を提供して頂けるならば悪いような扱いにはならないと思いますけれど」
 そうする、と少女の目が問うてくる。

 選択肢は――無い。

 私は黙って頷いた。






 話がまとまったようだが、俺は未だに金髪の姉ちゃんに鷲掴みにされたままだったりする。
「あの~、できれば離して頂きたいのですが」
「ん?」
 ギロリと睨み付けられて「ひうっ」と小さく悲鳴が上がる。
 この世界には目つきの悪い女しかいないんだろうか。そんな感想を抱いていると、金髪の姉ちゃんはぺたぺたと無遠慮に俺の身体を触っている。な、何がしたいんだ?

「ふむ、貧弱だな」
「ぐほぁっ!」
 一応俺も男だから、女から貧弱とか言われると傷つくわけで。まぁ、ここ数日も深川の足を引っ張ってばかりで、痛いほど自分の貧弱っぷりを味わっていたわけだが。
 少しばかり悔しかったので、俺は女の胸を凝視しながら言ってやった。

「そう言う貴方の乳は立派ですね」
 ついでにぐわしと掴んでみる。むぅ。凄い弾力だ。埋もれてみたい……。

「……何を、している」
 非常に冷たい声。
 何って、こんなものを目の前にぶら下げられて揉むななどと言うつもりじゃあるまいな!

「本物かどうか確認しておかないと後で困るだろ」
 何が困るのか意味不明だったが、そう言うことにして手を離す。
「姉様、やっぱり殺していいか?」
 青筋を立てながらこちらを睨み付ける姉ちゃん。うぅ、しまった。お茶目が過ぎたか。
「止めておきなさい、兔音。そんなことより兎奈美の方を手伝ってきたら? あの子一人じゃ大変でしょう」

 言われて振り返ればまだ魔人が戦いを繰り広げている。
 むぅ。やっぱり見えん。
 だが、二人の戦いに巻き込まれて周囲の木々が吹っ飛んでるのが何ともまぁ……。

「ちっ」
 兔音と呼ばれた女は小さく舌打ちして姿を消す。早い。うむ、からかうのも命がけだが、いつの間に俺はこんなに大胆になったんだろう。

 いや、違うか。敵意に対して敏感になっただけだ。
 あの兔音とか言う奴が、俺に対してあの程度で敵意を向けないと、見抜けていたからだろう。
 魔人と言っても理性的のようだ。まぁ、魔人のなんたるかを俺は知ってるわけではないけど。というか、魔人なんだよな?

「それで、貴方達の名前を教えてくれるかしら? 私は兔華乃。はじめに戦っていたのが兎奈美。さっきまでここにいたのが兔音よ」
 小さな少女の兎、兔華乃はそう言ってニッコリと笑う。

「俺は九峪。で、こっちが深川だ……」
 そう自己紹介した瞬間、背後でものすごい舌打ちが聞こえた。


 ――あれ? なんか拙かったか?

「そう、九峪さんに、深川さん――ね」
 少女はその名を聞いて意味ありげに笑う。

 その笑みが、俺を心の底から不安にさせた。













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【2006/08/24 19:51】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
深川05
 深川
 五話



 血に濡れて笑う深川を見たとき一瞬感じた胸の高鳴り。

 ……絶対に違う。そんなわけがない。多分そうだとしてもあれだ、身を守るための手段として俺の中にある本能が選択した結果だ。
 疲れてると身体の一部がおっきくなるのも生存本能が子孫を残せと命令出すからだし、更に差し迫ったあの状況だと目の前に置いてあるのが例え男でもドキドキしたかもしれない。ああ、それはないか。それはないな、神に誓って。

 さて、それで辺りは真っ暗になってしまったが、血まみれだと狼の餌や魔獣(!)の餌になると言うことで、近くの沢に下りて身体を洗った。服を全部脱いで冷たい清水で徹底的に。深川には恥じらいがないのかそれともどうせ真っ暗で見えないから気にしていないだけなのか、直ぐ横ですっぽんぽんになって身体を洗っている。

 ――なんだ。
 そこに女の裸があると分かればドキドキするのが健全な高校生ですよ。
 深川に下心がばれたら殺される予感がするので、それを抑えるために更にドキドキしているのがこの場合違うところだけど。

 ああ、でもどうなのかな。この女のことだから割と平気なのかもしれないが。すでに本日一度見ているわけでもあるし。

 特にやましい気持ちがあったわけではなかったが、なんとなく視線を深川に向けると丁度雲が切れて月光が注いできた。

 ナイス! と内心思ったと同時に、血の気が引いた。


 別に深川と目があって、殺されそうになったとか言う事じゃない。

 綺麗な絹のような深川の肌。
 その、背中におぞましい入れ墨が彫られていた。

「――っ」

 うめき声は殺したが、それでも気配に聡い深川は視線を感じ取ってこちらを向き直る。
 その顔には笑みが浮かんでいる。

「どうした?」

 堂々と背中を晒しながら見据える瞳。
「その刺青……」
 こちらの戦き、その意味を悟って笑みを深める。楽しそうだね、随分。

「左道士ならば皆入れている。所詮左道士も方術師も役割と言えば神官や巫女だからな」
 神事に必要な文様、と言うことか。それにしてはとてつもなく禍々しい。どちらかと言えば呪いじゃないか。

「……そっか」
 色々言いたいことはあった。親から貰った身体に何してるんだとか、痛くなかったのかとか、趣味悪いですねお姉さん、似合ってませんよそれ、もしかして気に入ってたりします、うっわ~だっさ、だとか。
 命が惜しかったので止めておいた。我ながら懸命な判断だ。

「……この刺青がある限り、私は奴の手から逃れられない」
 あきらめにも似た言葉に、俺は首を傾げた。
 逃れられないとは、どういう意味だろう。発信器にでもなってるのだろうか。

「が、お前の存在がそれをどうにかしてくれるかもしれない。まぁ、儚い望みだろうが」
「意味が分からん」
「知らなくていい。それよりさっさとしろ」
「へいへい」
 言われるまでもなく身体は大半洗い終わっていたし、頭を振り回して水気をふりほどいて途方に暮れた。
 血に濡れた服はカピカピになるので水洗いしたが、当然の如く代わりのものなど無いので素っ裸。濡れていてもいいから着るべきか……。

「何をしている。服を持ってこっちに来い」
 深川はそう言いながら自分は何処も隠さずに河原で薪の準備をしていた。
 どうやらそのまま乾かすという事らしい。確かに季節柄夜は冷える。このままだと風邪を引いてしまうだろう。

 徐々に大きくなっていく薪の火をぼんやり見つめながら、これからの事について考える。
 色々人生観が変わるような事が連続したせいで忘れそうになるが、俺は今異世界に来ているらしい。

 異世界。

 帰る方法なんてあるかどうかも分からないし、それ以前に明日ともしれない命。
 目の前の女の気まぐれで次の瞬間には殺されているかもしれない。

 何が悪かったんだろうね。
 分かってる。
 運が悪かっただろうなんて事は言われなくても始めから。

「おい」
 声をかけられて顔を上げると、深川がいきなり乾し飯を投げつけてきた。
 顔面に張り付いた硬いそれを取ると、不満そうな深川を見つめる。

「食え。食わないと殺す」
 そう言って自分の分に食いつく。
「……俺は」
「四の五言うな。あの山人共を殺したことと、お前がそれを食うことには何の関係もない。ここで食わずに飢えて死んだところで申し訳が立つとでも思ってるのか?」
 そりゃそうだけどさ。
 簡単に納得できるかよ。

 紛れもなく人を殺して奪ったものなんだ。
 食べてしまえば、俺も同罪になる。
 自分に言い訳が立たなくなる。

 自分に――


「……分かってる。結局俺は深川があいつ等を殺した事なんてどうでもいいんだ。理解できるし、仕方のないことだって思う。きれい事を言ってるんだって事も。結局俺は自分に言い訳がしたいだけだ。殺したのは俺じゃないから、それを証明するために喰わないぞって。喰わない限り、俺は罪を意識しなくて済む」
「それが望みならそのまま飢え死ね」
 深川は容赦がない。そして、その上で俺が取る行動を疑っていない。
 それは深川にとって当たり前だからだろう。

 ここで、かっこよく深川に乾し飯を投げ返してやりたい。
 きっと清々するだろう。

 しかし、俺は乾し飯に食らいついた。
 腹が減っていたから。
 喰わなければ死ぬから。
 死にたくないから。

 綺麗事を押しやって、俺は生きることを選んだ。
 全く呆れた意志の弱さだ。だが、俺が意地を張るべき場所はこんな所じゃない。

 たった今決めたから。
 この最悪な状況を俺の力で脱して、この女を綺麗事の世界に引きずり込んでやると。
 そのためには今は敢えて汚泥を啜ろう。

 ……本末転倒な気がするが、多分これでいい。
 そう言うことにしておこう。


 具体的にどうすればいいのか、ちっとも思い浮かばなかったけど……。






 不機嫌そうな顔をしながらも、まずそうに乾し飯を食べ始めた九峪を満足げに見る。
 生存本能に従えばいいだけのことだ。別にこの結果は当然のこと。
 自分では気づいていないかもしれないが、九峪は今生きるために他者を殺すことを黙認したのだ。
 そんなことはないと、コイツは言い張るだろうが同じ事。
 確実に、九峪は道を踏み外した。
 後はどんどん沈んでいくだけ。

 その様を想像するだけで愉快だ。

「楽しそうだな、深川」
「そうか?」
 私は笑いをかみ殺しながら膝を抱えて座っている九峪を見据えた。
 九峪は女に慣れていないのか、視線に気が付くと顔を赤くして視線を逸らす。その姿が更に笑いを誘った。

「昼間散々見ただろうに……」
「純情なんだよ」
 自分で言っていれば世話はない。
「それより、これからどうなるんだ? いつまでも山の中逃げ回るなんて、身が持たないぞ、俺の」
「のようだな。恐ろしく体力が無いようだ」
 色々あって大した距離を歩いたわけでもないのに、九峪は疲れ切っている。追っ手に追われながら山の中をコイツと一緒に逃げ回るのは不可能だろう。
 ならば見捨てればいいようなものだが、ただ逃げまどうのもどのみちもう限界だ。

 昼間の刺客。
 今までの連中と質が違った。九峪という偶然が転がり込まなければ、私の方が死んでいたかもしれない。
 あのクソじじいがいよいよ本腰を入れて私を討伐に来たと言うことだ。ならば、ただ逃げることにもう意味はない。

「おい、深川……」
「ふん。取り敢えずこのまま西へ山を越え、火向に向かうとしよう。警戒線はおそらく那の津の方面に張り巡らせているだろうから、多少は時間が稼げるはずだ」
「そ、そうか。よく分からんが」
「明日からは一日中歩く。分かったらさっさと寝るんだな」
「げ、一日中!」
 げんなりした九峪の表情。
「嫌なら別に構わんが。ここでのたれ死ね」
「あうぅ。寝ます」
 九峪は半乾きの服を身体に捲くと、ごろりと横になり、すぐさま寝息が聞こえはじめた。


 小さくため息を吐くと荷物の中から半分に割れた銅鏡を取り出す。
 普通の丸い銅鏡とは違い、楕円形で複雑な文様に縁取られている。
 これがある限り、あのクソじじいは私を追い続ける。
 だが、渡すわけにはいかない。

 私は、これを使ってやらなければならない事があるのだから……














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【2006/08/21 16:14】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
深川04
 深川
 四話



 ……ぐす。
 汚されちゃったボク……。

「なかなかいいもの持ってるじゃないか。ククク」
 深川は散々俺の事を陵辱してご満悦だ。半裸に剥かれた俺は今色々と死にたい気分だ。

「九峪。そろそろ場所を移すぞ」
「……」
「おい、九峪」
 渋々と立ち上がると深川を軽く睨む。にらみ返される。

 ――速攻で視線を逸らした。
 く、くそぅ。いつか俺が優位に立って顎でコイツを使ってやる。

 心の奥底にその誓いを押し込めて旅立つ準備に移る。

「……ほら」
 深川はそう言って乾し飯を差し出してきた。まずそうだったし、食べたくもなかったので俺は首を振る。
「人を殺して奪ったものなんか食えるか」
 少し強気に言ってみた。
「そうか。まぁ、別に無理に食えとは言わないが」
 そう言う深川の物腰はいくらか柔らかくなっている。

 肌を合わせたせいだろうか。だとしたら結構お手軽な奴だ。何か企んでるだけかもしれないけど。

 それから俺達はまた山の中に入る。
 道無き道を暫く歩くと、日が暮れてきたので今夜は野宿という事になりそうだ。
 そこまで来て、あの集落にほったらかしにしていた死体の事を思い出す。
 埋めてやれば良かった。

「九峪。どうした?」
「え、ああ。別に」
「じゃあ、薪を拾ってこい。私は水を汲んでくる」
「ああ、分かった」



 思えば野宿なんて初めてだ。雨、降らないよな。
 そんな事を考えながら、燃えそうな木の枝を拾っていると、背後で物音がした。

「? 深川?」
 振り返ると、弓矢をつがえた男が……って、おい!

「ぬおおっ!」
 全力で飛び退いた。脇を矢が風切り音と共に通り過ぎていき、それを確認した男は弓を捨てると代わりに鉈を引き抜いてこちらに駆けてきた。

 ヤバイ。殺る気満々だ。
 だが、深川の人ならぬ殺気を致死量ギリギリで味わっていたおかげか、心はそれほど動揺していなかった。

 とは言え俺って喧嘩弱いんだよなぁ。
「やってられるか!」
 叫ぶと同時に転身アンド逃亡。だがしかし、一日歩きづめでぱんぱんになってる俺の足は言うことをきかない。ガクガクいって踏ん張りが利かず山の斜面を転がるように落ちる。

「のぉおおおおおお!」
 タスケテ~っ! と思ったら木に激突して止まった。
 天地が逆になってる視界に、男は油断無く近づいてくる。

「……や、やぁ」
 フレンドリーに話駆けた瞬間鉈が飛んできた。死ぬ、と思った瞬間頭すれすれで地面に突き刺さる。当たったら脳漿が飛び出しているところだった。

「なぜ、殺した」
 言葉の意味を始めは計りかねたが、男の格好を見てそう言うことかと納得した。

「あの集落の……、か」
 やるせなくなった。そう、だから殺しなんてしちゃダメなんだ。殺せば、これが永遠に続く。殺し殺され恨み憎しみまた殺し。

 何より、このどうしようもない気持ちを、味わいたくなんか無いから、だから殺しはしちゃダメなんだ。そんなの、ただ辛いだけ。素直に死んだ方が楽だ。

「……なぜ、殺したんだ!」
 血を吐くように吐き捨てて、鉈を拾う。
 俺は、なんて答えればいいんだ。
 殺したのは俺じゃないと、そう言えばいいのか?

「……」
 何も言えない。
 言葉が見つからない。
 俺は悪くないなど口が裂けても言えないし、実際過失はある。
 止められたのかは分からない。ただ、何も言わなかった、言えなかった俺も同罪だろう。


 ――だから、殺されてやるのか?


 深川の嘲笑混じりの声が聞こえた気がした。


 振り下ろされる鉈。

 俺は――






 少しのんびりしすぎたようだ。山人達に追いつかれた。
 私の所に二人来た。一人は九峪の方へ行ったようだ。丁度いい、ここでどうするか見てやるか。

 山人などものの数ではない私は、左道で二人まとめて屠り去ると九峪とそれに対峙する山人を遠巻きに眺めていた。

 ここで殺されるならそれもいい。
 その程度ならばどのみち足手まといになる。

 無様にひっくり返って、呆然と男を眺めていた九峪は、その鉈が振り下ろされた瞬間、転がるようにかわした。
 ニヤリと笑う。
 口先で何を言っても、死にたいわけがない。死んでいいと思えるワケがない。
 さぁ、そのまま殺してしまえ。そう念じた。

「止めてくれ。俺は、殺したくないし、殺させたくない」
 その言葉に、男は激昂した。

「あれだけ殺しておいて、今更そんな事を言うのか! 貴様が何を言おうと、私はお前を殺さねば気が済まん!」

 男の言うことは正しい。あれだけの事をやられたんだ。放っておけるワケがない。だからこそ、返り討ってやるのがこの場合優しさだ。失ったものは苦しい。それはいっそ死んだ方が楽なほどに。ならば、優しく返り討ちにしてやればいい。苦しまずに済む。

「俺を殺せば、気が済むのか? 俺を殺して、それで、本当に楽になれるのか?」
 迷いに満ちた言葉。歯がゆい。何を迷う。
 自分を殺そうとしている奴が目の前にいる。相手を殺すのに、他の理由など持ち出す必要はない。


「いいから、死んでくれ!」
 男はそう言ってまた鉈を振り回した。
 九峪はその鉈を無様に転びながらかわして、追撃に出された足に飛びつくと思い切り押し倒した。

 慌てた男は鉈をぶんぶんと九峪に向かって打ち下ろすが、焦ったせいか刃が当たっていない。九峪は顔をしかめながらその腕を押さえ込み、鉈を無理矢理奪い取った。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
 荒い息で、馬乗りになって男を見下ろす九峪。
 無様ではあったが、今は九峪に生殺与奪の権利がある。

 男は、力無い目で九峪を見ていた。

「あいつは、あいつとは餓鬼の頃から一緒で、これからも、一緒に生きていくはずだった……」
 唐突に語り出した男。

 私は笑みを浮かべて二人へと近づく。

「あいつと、娘は宝だった。俺の、人生そのものだった。だから、もうどうでもいい。俺のことも、殺せ。あいつ等の所に、逝かせてくれ」

 九峪は衝撃を受けた顔で、男の事を見ている。辛そうな顔をして、泣きそうな顔をして。


「殺してやれ九峪。それが慈悲だ。それが救いだ。そいつは既に死人だ。殺してやるべきなんだ」
 九峪は、鉈を振り上げると、それを思い切り放り投げた。

「うるせぇよ、深川。命令すんな」
「何?」
 睨み付ければ脅えるくせに、それでもこちらを見返す。

「あんたも、つまらない事を言うな。辛いから、失ったから、だから生きるの止めるなんて許されてたまるか。そこで諦めるような奴だから、死ぬとか殺すとか簡単に口にするんだ。冗談じゃねぇ。命だぞ? 大切なんだぞ? なんで分からない。何があったからって、何があるからって、まだ失ってもいないものを自分から投げ出したり、奪ったりするなよ。先の事なんて分かるほど利口じゃないくせに、知った風なことを言ってそれを言い訳にして。頼むから、もう少し考えてくれよ。駄目でも、見限らないでくれ。頼む」
 うなだれて、男を見下ろす九峪の顔はクシャクシャだ。

 ――こいつは何なんだろう。

 ふと、そんな考えが思考を掠める。ぬるい世界で生きていたというのは聞いたが、そんな環境で生きていると現実というものに対する認識が変わるのだろうか。
 見限るなと九峪は言った。
 だが、見限らずに生きていけると思っているのか? 口減らしに我が子を殺す親も多いし、自ら食す奴だっていないワケじゃない。そんな場所にいるという自覚が無いのか?

 なるほど。
 ならばこれも教育だ。
 分からないのならば教えてやればいい。
 純白の心に染みを作ってやればいい。


『俺がお前を喰わせてやるから、だからもう殺しはするな』


 現実を見つめたくないからと言って、そんな子供じみた言葉を吐いた九峪。
 私もお前が多少気に入っている。少なくとも、話していて不快になるほど馬鹿じゃない。
 だから、私がお前の事を喰わせてやろう。

 そう、こうやって――






 斬っ、と短く目の前で音が響いた。
 身体を上から押さえつけていた俺の身体に、びくりと不気味な痙攣が伝わってきて、次の瞬間には血が噴水のように目の前に広がった。
 男の首に深川の短刀が深々と突き刺さっている。
 深川は刺して、それを抉り抜いた。
 致命傷だった。
 血が一杯出た。
 降りかかる。
 頭の上から、髪を伝って血が滴る。
 何もかもが朱に染まった。

 数分、だろうか。
 それとも数秒?
 麻痺した頭には時間の感覚など分からなくて、気づいたら同じように血に濡れた深川の顔があった。
 楽しそうに、嬉しそうに笑っている。
 放心する俺の顔が愉快だとでも言いたそうで。

 ――こいつは、なんだ?

 はじめ見たときからぬぐい去れないとてつもない違和感。
 自分とは明らかに別種の生き物に対する畏怖。

 怖い、と思った。

 殺して欲しくないと、死んで欲しくないと懇願したその場で、一切の躊躇いも見せずに人を一人殺し仰せたこの女が。


 日が暮れて、血に濡れて、黒くしか見えない深川の顔がゆっくりと俺に近づき、そして唇が触れた。

 ――怖い。



 闇よりなお暗いこの女の存在が。

 そして、その存在に惹かれているかもしれないと気づいた、俺自身が――













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【2006/08/18 13:53】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
第二十九回 火魅子伝SS戦略会議
 第二十九回 火魅子伝SS戦略会議



 盆休みも終わって本日から出勤じゃ~~~っ!!
「はい、休み明けでハイテンションで何よりです」
 いや、むしろローテンション。家の手伝いで死にそうです!
「いえ、十分以上にテンション高いですから」
 せっかくの連休だっつーのになんの因果で作者は大工仕事してるんでしょうね?
「私に聞かれてもちょっと……」
 まぁ、そんなわけと家に邪魔者が大挙して押し寄せてきたために、SS書いてる暇が無かったとか何とか。今週末も結婚式とかでダメっぽいなぁ。ああ、誰か俺に休みをくれ。
「十分休んでいたような予感もしますがまぁいいでしょう。たまりにたまったweb拍手のお返事です。私の出番も久しぶり!」

 11日分、残り物一件目。

21:59 蛇足が読めるぅ~~!感謝感激雨あられです。本当に有難うございます(低頭)
 と頂きました。
 いえ、大層なものでもありませんので。ついでに言うと本日完全撤廃しました。もう二度と日の目は見ないでしょう(合掌
「あれ? 下げちゃったんですか?」
 恥はいつまでもぶら下げておけないしね。ここから先読みたい人は脳内補完してください。
「コメントありがとうございました」

 二件目三件目四件目。

22:03 ふむ、深川の更生は難しそうですが、人誑しの九峪なら何とかしそうですなぁ。後、蛇蝎を更生な
22:06 んて出来たら、弁舌だけで世界征服も楽勝な誑しの神でしょうねぇ。・・・蛇蝎を誑し込む九峪、
22:08 見たいような絶対見たくないような、まあ、そんな世界あったら地獄ですけでねぇ。
 と頂きました。
 深川更生しなければバッドエンド一直線。とか適当な事を言ってみる。
「え、そうなんですか? というかあの人に更生とか有り得るんですか? 盛衰記みたいに押さない頃から教育していれば話は別でしょうけど」
 まぁ、それをどうにかこうにかやってみて無理でしたという話……。
「ネタバレは止めましょう」
 気まぐれですからどうなるかなんて知らないって。まぁ普通の人のバッドエンドも深川にとってはグッドエンドだとかそんな話になればいいですねぇ。
「うわぁ~、ダークに落とす気満々ですね」

 そして蛇蝎を更生……。
「無理です。ありえません」
 ああ、盛衰記の蛇蝎はいい人じゃないか。アレと本来の蛇蝎はまたひと味二味違うし。
「そうなんですか? でもあれはあれでそもそも良心というものを持ち合わせていない人ですから」
 コミック版の蛇蝎なら攻めようはあると思うんだけどなぁ。
「コメントありがとうございました」

 12日……、はこっち用じゃ無いな。
「は? こっち用」
 いや、まぁ、色々あるんだ。色々。

 13日一件。

15:33 そんなに多李敷読みたいんですか、あなたは・・・。
 と頂きました。
 読みたいんですよ。と言うか書いて置いてくれると作者に都合がいいとか悪いとか。
「何の話ですか?」
 何かの話です。まぁ、K野サンがweb拍手を設置したので試しに催促してみたというワケですが。はっはっは、まぁあまり気にしないで下さい。
「コメントありがとうございました」

 14日分。一件目。

11:11 ols9月号いただきました。もしかして碧さんって本人より赤ちゃんが狙われてるんでしょうか(w
 と頂きました。
 THE 脇役なキャラの名前が出てきましたね。まぁ、四月号はそれなりに重要なポジションでしたけど。
「そういえば早々と九月号出してしまったんでしたね」
 ええ、忘れそうだったので。まぁ、早めに直しておこうと思って読み返したのでそのついででしたけど。
「で、赤ちゃんが狙われているんでしょうかと言うことですが? なんの事ですか?」
 何のことでしょう? 主人公である青くんは碧さんに憧れていますが、お腹の子供の事などどうでもいいと思いますよ。結構冷たい人ですから。まぁ、色々と趣味は複雑な青くんですが赤ん坊に劣情を催す人では無いと思います。そう言う人が作中に数名存在していることは否定しませんが。

「な、なんか怖そうなお話ですね」
 いえ、楽しいですよきっと。まぁ、あの中に入ればさしもの姫御子チンも個性に埋没してしまうでしょう。
「嫌だなぁ~それ。コメントありがとうございました」

 続いて二件目。

20:26 新作 いろいろで たのしいです
 と頂きました。
 ありがとうございます。
「ありがとうございます。でも、新作って言うと深川とか、あとオリジナルの方でしょうかね」
 多分そうですね。色々書いてますから。ええ色々。
「何かさっきから意味深なんですが……」
 気にしないで下さい。コメントありがとうございました。

 15日分。一件。

23:33 拍手ボタン押した時の音を腹の音と勘違いしてしまいました。てへっ。
 と頂きました。
 てへっ、じゃないですよ。どんな腹の音ですか……。
「ぱちぱちって言う音だよね。私はきゅ~とか鳴るなぁ」
 人によって音違うんでしょうけどね。作者はものすごいでかい音なるから恥ずかしいです。
「恥ずかしいと感じる感受性があったんですね」
 日本人は恥を知る文化を持ってるんです。純正日本人の作者も恥を知ってますよ。多分……。
「コメントありがとうございました」

 16日、一件。

0:55 九峪、言うねぇ。深川の反応が楽しみです。あと、姫ちゃんは?w
 と頂きました。
「私はここにいますよ~」
 連載が多くなると出番が消滅するという神の法則です。
「追記を全部会議にすればいいじゃないですか。それは名案です」
 やってられるかボケ。
「しゅん」
 口で言うな。
 それで九峪の強気の発言で引きでしたが、深川様はどうなさるおつもりか。まぁ、目に浮かぶようですが。虐められてくれ、九峪。
「コメントありがとうございました」

 他にも叩いてくれた皆様、ありがとうございました。



 さて、では本日はこの辺で。
「会議は?」
 休み中さぼり……、じゃなかった忙しかったので何も書いていないというのは冒頭で報告したし、別にいいだろ?
「書けよ!」
 べぶら! い、痛ひ。
「まったく少し休みがあるとさぼるんだから。四の五言わずに書きなさい。いい?」
 はい。しくしく。


「それでは今日はこの辺で。ヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ」

【2006/08/17 16:50】 | 会議 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
深川03
 深川
 三話



 殺されそうな予感をヒシヒシ感じつつも、何とかかんとか深川を宥め賺して命がけで情報を入手することに成功した!

 疑う余地無く命がけだった。未だに足がガクガク震えてるし。ああ、これは単に歩き疲れただけかもしれないけど。

 まず、この世界、この場所が九洲と言うこと。これは確認だったが間違いないようだった。しかも字が違うことが発覚! 昔はこんな字で書いてたのかなぁとも思ったが、その後の情報を加味するとどうもまったくの別世界のような……。

 この九洲と言う地は、十数年前まで耶麻台国(これも字が違うし……)という国が納めていて、俺の知識にもあるとおりヒミコが治めている土地だ。しかし、ここでも相違点が合って、この世界でのヒミコと言うのは火魅子と書いて、女王に付けられる号であると言う点だ。耶麻台国は女系継承の国家で代々女王の御世が続いていたが、ある時からめっきり女の子が生まれてこなくなってしまって、それで代わりに男が統べていたらしい。しかし、どうも野郎だと上手くいかないようで、十数年前に狗根国と言う侵略国家に攻め滅ぼされた。
 そして数ヶ月前に大規模な反乱が起きたりして、一応今は耶麻台国のものになってるらしいが、それもなんだか複雑な事情なようで。

 まぁ、わかりやすく戦争状態であると覚えておこう。……問題だなぁ。

 そして、状勢もさることながら他にも問題点はあるわけで、え~とアレだ。そうだ。左道とか言う奴。
 俺の世界に無い理が存在しているらしい。これはどう考えてもここが別世界だという証明だし……。
 それについては深川もあまり多くを語らなかったが、単純な世界の構成は教えてくれた。

 すなわち五天。天界、仙界、人間界、魔獣界、魔界の五つの世界。よく分からないが行き来が可能ならしい。簡単ではないが、狗根国は魔獣界や魔界から、魔獣や魔人を呼び出して使役しているとか。なんて物騒な話も教えてくれた。
 それを呼び出すのが左道士。他にも色々術があるらしいけど、企業秘密という事らしい。

 深川は話疲れたのか、今は黙り込んでいる。
 俺の方は歩き疲れてしゃべる余裕が無い。
 結果的に黙々と歩き続けているわけだ。……って、そろそろ休憩したいんだが。

 言い出したら殺されるかなぁ。なんで俺一挙一動に命かけなくちゃならないんだろう。その内ストレスでハゲそう。

「見えた」
 深川はそう呟いて立ち止まった。
 俺は深川の横に並んで視線の先を追う。

「む~、何が?」
 何も見えなかった。あるのは森だけ。一応今は高台で崖になってる当たりにいるわけで、見晴らしはいいがそれだけ。
「村だ。これでメシのアテが付いたな」
 そんな事を言ってニヤリと笑う。
「ああ、そう言えばお腹空いたな。でも恵んでくれるのか?」
 その村というのが何処なのか未だに分からなくてきょろきょろと視線を巡らせる俺が、単純な疑問を口にすると深川は鼻で笑った。あ、ムカツクそれ。

「生憎と九洲は何処も先の反乱とこの後にあるだろう大戦に向けて、余裕のある民などいない。何処の誰とも知らない輩に分け与えてくれるような物好きはいないさ」
 楽しくもなんともない情報を嬉しそうに口にする。
「って、それじゃアテが付いてないんじゃ?」
 単純な疑問。あ、見つけた。ってちっちゃいし。村っていうか竪穴式住居が三つだけじゃん。あ~、でも本物見るとヒシヒシとホームシックな感情が湧き上がってくるなぁ。帰りてぇ。

「別に奪うんだから関係ないだろ」
 クスクスと笑う深川。
 ああ、そうですか。そうですね。確かに譲ってくれないなら奪うしか……って、ちょっと待て。
「奪うって……。そんな真似」
「出来ないなら別に構わんぞ。お前は餓えて死ね。このご時世、生きていたければ奪うしかないんだよ」
 えらく断定的だ。

「さぁ、どうする?」
 深川は試すように、俺を見る。

「まぁ、好きなだけ考えろ。私は先に行っている。見える場所だから迷うこともあるまいし。答えが出たなら追ってこい」

 そう言って考え込む俺を一人置いて去っていった。

 深川は、奪うために殺すだろう。
 そこに迷いのある奴にも見えなかったし。既に人一人殺している所を見ているわけだし。

 でも、さっきの殺しとはワケが違う。アレは殺し合いだった。相手の方にも殺されていいだけの覚悟とか、理由とかはあったと思う。

 これは、どうなんだ? 生きていくために殺すという点については同じでも、本当にそれは同じなのか?
 殺してまで、生きて行かなくちゃならないのか?

 分からない。全然分からない。






 九峪という男。言動や自ら語った生い立ちからも人殺しなんて出来る輩では無いことは明白だった。いや、そんな真似をする必要がない場所で育ってきたらしい。
 羨ましい話だ。
 殺される前に殺し、裏切られる前に裏切る。そんな世界を知らないんだから。

 さて、どう判断するだろう。少し楽しみだ。
 平和ボケしたあの男が、自ら血みどろの世界に足を踏み込めるかどうか。
 
 狗根国から追われ、邪馬台国にも面が割れている私はこうする事でしか生きていけない。
 そこに迷いはない。
 迷うべき理由が無い。


 殺戮はあっけなく終わった。これだけ山中にある以上、山人の集落だろうが男手は出かけているのか女子供だけだった。左道を使うまでもない。短刀でなで切りに出来た。
 とは言え思った以上に食料がない。食料があれば男達も猟に出るワケはないから当然だろうが。ともかく四、五日分は何とか確保できた。

 ふと、自分が九峪を頭の数に入れて換算していたことにおかしくなる。
 普通に考えればあいつはもう付いてこないだろう。
 何かに利用できるかとも思ったが、足手まといになる可能性の方が高い。
 ならば日が暮れる前にもう少し場所を移したい。後四半刻して来なければ――

「ふん」
 血に濡れた集落に立ち入って来た九峪。呆然と子供の死体を見下ろしている。

「答えは出たか?」
 私の言葉に、誘われるように顔を上げる。
 顔色が悪い。また吐くかなと思ったが、九峪はただ黙って私の方に歩み寄ってきた。

「お前、お前!」
 掴みかかって来た所を蹴り飛ばす。
 その対応は不愉快だった。

「なんのつもりだ九峪。まさか子供を殺したくらいで激昂しているのか?」
 分からない奴だ。さっきまではあれだけ私に脅えていたくせに。殺すと言えばそれだけで泣きそうな顔をしていたくせに。

「……ふざけんな! ふざけんなよ畜生! 何なんだよお前。なんで殺す! こんな子供殺さなくたって別にお前なら食い物奪えるだろう! 盗るなとは言えないけど、なんで殺すんだよ」
 確かに、気絶させる位で止めてやることも出来る。脅せば直ぐに逃げ出しただろう。

 だが、そんな事をしてどうなるというのか。

「勘違いするな九峪。これは慈悲だ。どのみち食い物を奪われたらこいつ等は飢え死にするしかないんだ。ひもじい思いをしてジワジワ死んでいくより、ひと思いに殺してやった方が楽だろう」
 特に餓えれば弱い奴から死んでいく。子供なんかは真っ先に。

「勝手に決めるなよ! 生きていくかもしれないだろ! なんとかなるかもしれないだろ!」
「ならないね。九峪、お前は飢えた事なんて無いだろ? だからそんな錯覚を起こす。いっそ殺してくれと懇願するほど飢えた経験が無い奴が偉そうに謳うな。この状況をより正確に理解しているのはどちらだ?」

「知るかよ! ああ、知らねぇよ! でも殺していいわけがねぇだろ!」
 その瞳に含まれた怒りのなんと純粋な事か。

 私は笑った。そんなきれい事を何の迷いも無く信じている目の前の男に。
 初々しいとさえ思った。
 そしてなにより、この純粋な存在を汚してみたいと思った。

 綺麗な女に悲鳴を上げさせ許しを請わせる事も楽しいが、こういう世間知らずを汚していって壊してしまうのもそれはそれで楽しそうだ。
 そんな余裕のある身では無いというのも自覚していたが、それでも楽しみを優先しよう。

 どのみち、私もそう長生きできる身の上では無いのだから。






 頭の中が真っ白になって、気が付けば叫んでいた。
 深川は俺が道徳じみたことを言えば言うほど笑みを深める。
 楽しそうに、笑う。
 虚仮にされている。そう感じて、俺の中のなけなしのプライドが爆発し、再び実力行使に出ていた。

 深川はあっけなく倒れた。

 ――あれ?
 手応えの無さに驚いていると、下から頭を引き寄せられ、気づいたらマウストゥーマウスでキッスを……。

「って、ちょっと待てぃっ!」
 強引に離れるとクスクスと笑う深川を睨む。
「な、なななななにするんだよぅ~っ!」
 動揺が丸見えの震えた声。ヤバイ、かっこ悪いぞ俺!

「いや、あまり可愛いことばかり言うものだからな」
「か、可愛いって……」
「今時乙女でもそんな台詞は吐かないものだ。なぁ、九峪。お前は難しく考えすぎだよ。生きるために私は出来るだけの事をして、それで生きているだけだ。この世界では、それが普通だ」
 ……絶対違うと思うんだけどなぁ。

 いや、そう言う輩がいることは分かる。そして深川がそうしなければ生きて行けない側だと言うのもなんとなく分かる。
 堅気の人間じゃないんだ。一度踏み外したら戻れないものなのかもしれない。

 でも、納得いかないだろ。
 よく分からないけど、理不尽だ。深川だって始めから――多分……――こうじゃなかったんだから。そして、そうしなくても生きていけるなら、それは絶対その方がいいに決まってる。

 出来うるならこんなガイキチとはすっぱり別れた方が利口だろうけど、だからって俺には他に選択肢も無いわけで、だったら、自分に降りかかるリスクを出来るだけ軽減する方向に持っていこうと、努力するのが務めってものだろう。

 ……なんとか、しないと。

「九峪。ついでにあんまり世間知らずな事ばかり言われると、いらついて殺したくなる。次口を開く時は細心の注意を払えよ。死にたくなければ」

 そう言って、迫力に腰が抜け気味な俺に覆い被さってくる。

 ヤバイ。犯される。くそぅ! 俺だって選ぶ権利はあるんだ! こんな所で俺のチェリーを強奪されてたまるかぁ!



「深川! 提案がある」
 もう、後には引けない。
 ここで殺されるかもしれないが、犯されたくもないし、深川の考えに染まるのもごめんだ。


「俺がお前を喰わせてやるから、だからもう殺しはするな」




 言ってから、これってプロポーズと何が違うんだ? と自分の言い回しの下手くそさを心の底から後悔した。













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【2006/08/11 15:42】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
深川02
 深川
 二話



 目の前に飛び込んできたのは湖。よく見てみると建物全体が湖の上に浮かんでいる。いや、浮いてるわけじゃないか。揺れてる感じはしないから、一応支柱が湖の底までのびてるんだろう。もしくは島なのか。まぁ、どっちでもいい。

 ここ、何処だよ……。

 どこかのテーマパークか観光施設だろうか? でもそんなものあったかなぁ。
 首を捻るが答えは出てきそうにない。ともかくここを出なくてはならない。

「しっかし参ったなぁ。あんまり遠くだと金がないんだよなぁ」
 困り果ててため息を吐く。ポケットを漁るが何もない。財布は落としたのだろうか。懐が寒いと心まで寒くなるから不思議だ。
 足取りも重く、俺はとぼとぼと出口を探して歩き始め――

「九峪!」
 叫び声と同時に襟首を強引に捕まれ身体を振り回された。
 状況はよく分からない。
 それは相変わらずだが、ともかく目の前に何か怨念が籠もってそうな黒い靄が、とんでもないスピードで迫ってきていた。






 ――――――


 静寂。そして息を飲む気配。
 それは私のものか、それとも私を殺そうとしている刺客のものか。
 今目の前で起きた現象を理解出来ず、思考が停止している。

 追っ手の左道士が放った術を回避するため、私はたまたまその場にいた九峪を盾にした。左道士にしろ方術士にしろ、術が発動してしまえばかわすか何かを盾にするしかない。そして並の人間には一度発動した術をかわすのは不可能だ。

 人間一人を盾に。それでも完全に防げるかは甚だ怪しい。だから、私は身構えていた。

「――び、ビックリしたぁ」
 なのに、なぜこいつは生きている。
 私の目は確かに捕らえていた。九峪に術が直撃するのを。だが、その術は九峪に接触すると同時に、まるで見えない壁にでもぶつかったかのように四散したのだ。
 九峪は傷一つ無い。

 あり得ない。そう、絶対に――

「ちっ」
 ともかくここで留まっているのは如何にも不合理だ。
 刺客より一瞬早く我に返った私は、素早く言霊を紡ぐ。

「――死の澱に満たされし混沌の坩堝、屍の檻に満ちし奈落の回廊、虚空で交わり伽藍に溢れよ」
 慌てて刺客も術を紡ごうとするが、出遅れは致命的だ。

「死屍辺獄」

 空間に亀裂が入り、溢れ出した魔界の瘴気が刺客の左道士達を一瞬で包み、見えざる手に全身の肉を貪られ、喰い捨てられる。
 油断無く周囲の気配を探るが、他にはいないようだ。

 しかし――、と九峪を見る。
 九峪は青い顔で戦慄いていたかと思えば、乱雑に食い散らかされた刺客の死体を見て、盛大に吐き始めた。






 ――おえっぷ。気持ち悪っ。
 胃の中のもの全て吐き出して、それでもなおまだ気持ち悪い。頭がくらくらする。
 これは現実か? なんだよさっきの。魔法? 嘘だろもう。しかも人殺してるし。ついていけねぇよ。

「おい」
 人殺しの姉さんに声をかけられて、嫌々ながらも顔を上げる。うわ、睨んでる。
 
「貴様は何者だ?」
「……アンタこそ、何者だよ」
 人を殺して眉一つ動かさない。良心の呵責を感じている様子もない。
 さっき刺客とか言ってた気もするから、正当防衛なのかも知れないが、あれだけの惨劇を作り出しておいて、無反応は怖すぎる。

「左道が途中で霧散するなどあり得ない。それともお前は私などお呼びも付かない術の使い手だとでも言うのか?」
「わかんねーよ。俺だって何がなんだか……」
 盛大に混乱する頭をどうにかこうにか整理しようと思うが、目の前にあんなもの――死体――があったんじゃ無理そうだ。そう言うわけでここは一時待避。

 立ち上がるとふらふらと出口を求めて――

「待て」
 嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……。俺の事など気にしないでくれ。関わりたくないんだよこっちは。
「……お前は目的があってここにいるわけではないんだな」
 深川は言うと同時に俺の腕を掴んだ。
「……なんか用スか?」
「私と一緒に来い。何、悪いようにはしない」
 殺人鬼の笑みを浮かべて、そんなすてきな提案をされたら……

「断ってもいいんですか?」
 一応聞いてみる。
「死にたいならな」
「……」
 選択肢無いじゃん。神様、俺何か悪いことしましたか?



 それから俺たちは征西都督府と言う水上宮殿を出て、なぜか道無き山の中を歩いています。何かがおかしいと言うことには直ぐに気が付いた。
 と言うかさっきからずっとおかしいんだから別に今更気にすることでも無いかもしれないのだが。
 なんて言うか、そうだなぁ。周りがとても原始的なのだ。征西都督府なんて豪勢な建物ではあるが、細かいところを見れば作りは荒いし、あれだけの施設に繋がっている道にしても、舗装すらされていないし。というか砕石くらい巻いてても良さそうなものだがそれもない。あれじゃ雨の日はぬかるんで歩けたものじゃないだろう。

 そして周りは山山山。そこに躊躇無く踏み込む深川。ああ、わけが分からない。追われているらしいと言うのは分かった。分かりましたから。だからこそ俺を巻き込まないで。
「ふ、深川さん?」
 恐る恐る声をかけてみる。ともかく少しでも心を落ち着けるためには現状の確認と、相互理解が急務だ。機嫌が悪いとかでこの人俺の事殺しそうだし。

「なんだ?」
「あの? 追われてるんですか?」
 まずはそこを確認しよう。この際ここが三世紀でもいいや。ともかく死にたくないし、生き残ることに全力を尽くそう。後の事はそれからだ。
「ああ」
「な、なぜ?」
 まぁ、聞かなくても分かるけど。俺だって理屈抜きでこんな危ない人は死んでいて貰いたいし。

「……仕事でヘマをした。それだけだ」
 ……どんな危険な仕事だったんだ? 失敗したら殺されるって。あ、聞きたくないなぁ。どうせ腹の中が真っ黒な人が考えつく邪悪なお仕事だろうし。
「それは、お気の毒というか」
「口先だけの同情など止めろ。殺されたいのか?」
 怒気が含まれた言葉は失禁したくなるほど怖い。うぅ、勘弁してくれよ~。

「九峪。お前の方こそなぜあそこにいた?」
「なぜと申されましても……」
「お前の存在はもしかしたら現状を打開するきっかけになるかも知れない。なんでもいいから自分の事を話せ」
「はぁ。別にいいですけど――」
 はっ! ここで大したこと無い奴だと思わせたらその瞬間もしかして殺されるのか? く、くそぅ。胃がキリキリと痛む。

 それから俺はピチピチの平成生まれだとか、住んでる場所だとか、通ってる高校だとか、ともかく思いついた端から自分の事を口にした。

 深川は時々一般常識的な事柄についてそれはなんだと合いの手を入れてきたが、基本的には黙って俺の言葉を聞いていた。

 話し終えると深川は立ち止まって神妙な顔で俺の事を見つめる。

「やはり、そうか」
「何か分かったんですか?」
「お前がこの世界の人間ではないと言うことは分かった」
 深川の言葉は残酷に頭に響いた。むぅ、と言うことはやはりここは三世紀の九州なのか。というか、さっき深川変な魔法みたいなの使ってたしなぁ。左道だっけ? ということは、ましゃか……

「……異世界に迷い込んだなんてファンタジーな話では……」
 ぼそりと呟いてぶんぶんと頭を振る。きっとこれはドッキリなんだ。そうに違いない。そうでないと困る。もしそうだったら取り敢えずこの企画考えたプロデューサーは殺そう。世の中の為に。
 でも、本当だったら?

「おそらく左道を無効化したのもこの世界とは別の理で生きているからだろうな」
 などと得心顔で仰っていますが意味が分かりません。分かりたくもありません。

 それから俺は、俯いてぶつぶつと恨み辛みを呟きながら、深川の尻を見て歩いていた。別に触りたいとかそう言う話じゃなくて、落ち込んでて視界が下がってるだけ。いや、本当に。

 ――はぁ、止め止め。落ち込むなんて無意味だし。
 ほら、深川も沈黙で息がつまってるじゃない。どうにもなりそうにない現状だけど、だからこそ俺は落ち込んでる暇など与えられないのだ!

 と、無理矢理ポジけた思考に持って行って深川の後ろ姿に声をかけた。
「深川さん。よければこの世界の事を教えてくれないか」
 別にまだ完全にここが異世界だとか阿呆な話を信じたわけではないけれど、それでもただならぬ事態であることだし、嘘でも真実でも情報は多い方がいいだろう。

 ――知らなければ良かったって後で思うとしても。

 深川はわかりやすいため息を吐いて、こちらに振り返った。

「気安く話しかけるなこの変質者が。殺すぞ」



 ――父さん、母さん。俺、多分この女に殺されます。どうか、お幸せに。


 思わずそんなフレーズが脳裏に浮かんできて、俺は軽く泣きました。













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【2006/08/10 16:19】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
深川01
 深川
 一話



 ――そもそも、だ。そもそも俺は高校生だ。
 そう、疑う余地もなくただの高校生で、今日は幼なじみの日魅子と一緒に日魅子のじいさん(考古学者で教授)の発掘現場に見学に行ったはずだった。

 ――それがなぜ、こんな事になっているんだ?



「……」
 完全に沈黙している女。俺の頭部でうずく痛み。



 結論から言えば、どうやら俺の頭が女に当たって気絶させたらしい。って、結局此処どこだ?

 辺りを見回しても見慣れたものは一つもない。何処かの館、だろうか? 人気はなく辺りは静寂に包まれている。


「……変な格好だな、この女」
 取り敢えず他に見るものも無いので、気持ちよさそうに気絶している女を見る。歳は多分二十代半ばか後半かな? 髪は割と短めで七三。かなりの美人だ。うぅむ。悪戯しちゃおっかなぁ。

 むっふっふと笑いを零しながら青少年(?)らしく己の欲望に従って、女の胸をつついてみる。

 ぷに

 柔らかい感触が伝わってきて、俺は危うく感動に涙するところだった。

「く、くそぅ。こんな凶器が標準装備なんて、女は卑怯だ! かくなる上はお仕置きを……」
 既に思考がイッちゃってるがそれはこの際置いておこう。これはこの良くわからん状況に置かれた俺に対する、神が与えた唯一の慈悲なのかも知れないのだから。と言うかそう言うことにしておこう。うん。

「では、頂きます」
 そんなワケで俺、九峪雅比古は女体に現実逃避する事にしました。






 痛みと不快感。
 それが私に覚醒を促した。
 かすむ目を開けると、誰かが上にのしかかっているのが分かる。ボウッとした目でそれを見つめて、それから頭部に疼痛があることに気づく。どうやら寝ていた原因はこれのようだ。
 身体の各部が動作するかを確認。大丈夫、感覚はある。
 それはともかく、さっきから人の胸を夢中で揉みしだいてあまつさえ口に含んでる輩は何者だろうか。まぁ何だっていいさ。

 この深川様の身体を辱めるなど、万死に値する。
 取り敢えず殺すか。どうやら追っ手というわけでもないらしいし。


「おい」
 声をかけると男は弾かれたように視線を私に向けた。呆然とした顔が徐々に青ざめ、引きつった笑みが浮かぶ。
 顔だけ見ればなかなか可愛い少年と言った所だが、如何にも助平そうでその事しか頭にない男に見える。

「……あ、あの~、え~と、そのこれは……」
 私の上から飛び退くと、同時に言い訳を考えようと必至で頭を巡らせる男。
 私は胸をしまいながら立ち上がると、すぐさま殺そうとしていた気持ちを抑えた。

「……お前、何者だ?」
 男は見慣れぬ格好をしていた。見たこともない形。見たこともない染め色。芸人か何かかとも思ったが、それにしても場所が場所だ。こんな所、そもそも私以外がいることがおかしい。
 男は質問にわたわたと手を振る。

「えっと、別に特にやらしいことをしようと思ったとかそんなことは無くて、ただ倒れてるからどこか怪我してるのかなぁって調べてただけで、胸がぷにぽょ~んっだったとかそんなことは」
「何者だと聞いている」
 らちが明かないので腰に差していた短刀を引き抜き突き付けた。

「のおおおっ! お、落ち着け話せば分かる! 頼むから話を」
 話が分かっていないのはどちらだと思ったが、少なくともその態度から刺客である可能性は消えた。こんな腰抜けではそもそも人を殺すことなど出来ないだろう。
「いいから名を名乗れ。私の質問だけに答えろ」
 殺気を籠めて言ってやると男はカクカクとぎこちなく頷いた。

「く、九峪……」
 掠れる声で呟く男。
「九峪か。で、貴様はこんな所で何をしている」
「な、何……って。いや、それは俺が聞きたい。なんで俺はここにいるんだ?」
 それが本気で言っている言葉だと言うことは、人の嘘を見抜くことに長けている私にはよく分かった。

「……理由は無いと」
「っていうか、ここ何処ですか?」
 九峪は泣きそうになっていた。これが女であれば嗜虐心に火がつくところだが、男が相手ではどうにも気が乗らない。
「ふん。ここは征西都督府だ。最も今は誰も寄りつかないただの廃墟だがな」
「……せいせい、何?」
 聞き覚えのない単語だったのか、九峪はますます不安そうな顔になる。

「見たところ九洲の者でも無いようだし、都督の事など知らんか」
「一応九州ではあるんだ……。でも、聞き覚えないなぁ。あの、福岡って近いですか?」
「……何処だと?」
 聞き覚えのない単語に聞き返すと、九峪は小さく福岡と繰り返した。

「……聞いたこともない。私の知る限り九洲にそんな地名の場所は無かったはずだが」
「え、無いってそんな馬鹿な! お姉さん俺のこと担いでるんでしょ?!」
「まぁ、十五年前にはもしかしたらあったのかもな。耶麻台国滅亡の折りに消えた地名かもしれんが」
「……え」

 九峪は呆然と私の事を見つめていた。

「やま……たいこくって……」
「何をぼけたことを。耶麻台国と言えば十五年前狗根国に滅ぼされた九洲の大国だろう。倭国語がそれだけ堪能ならば、半島人や大陸人でも知らぬ事でもあるまい」
「……まさか、そんな、馬鹿な事が……」
 戦慄いて床にツメを立てている九峪。

「そんな馬鹿な事があってたまるかよっ!!」
 そして怒鳴った。






 もう信じられねぇ。どういう事だ? 何が起こったんだ? 邪馬台国? ばかばかしいなぁもう。それっていつの時代だよ。何? タイムスリップ? 冗談じゃないよ。時を駆けるのは少女だけにしてくれ……、マジで。

 ともかく俺の事をきっちり無視して家捜ししている女の事は置いておこう。もしかしたら本当に担がれてるだけかもしれないし。あ、そうか。寝てる間に悪戯されたからその腹いせか。そうか、それなら仕方がない。って、俺マジで信じて叫んだりしたのか? うっわ、滅茶苦茶恥ずかしい。誰か俺が入る為の穴を用意してくれ。至急。

「……あのぅ」
 おずおずと声をかける。何というか、この女もの凄く怖い。いきなり刃物出すし。絶対キ印の人だ。なんで俺はこんなのを神の恵みと勘違いしたんだろう。
「なんだ? 戯言なら殺すぞ」
「はぅ! いえ、その、よろしければお名前をと思ったんですが……」
 いきなり殺すとか……。しかもマジでやられそうでチビリそうです。

「深川だ」
 女は割とあっけなく答えてくれた。深川か。そうか。でも名字しか教えてくれないと言うことはやっぱり怒ってるんだなぁ。まぁ、当然か。そう言えば俺も名字しか名乗ってないしな。本名割れると面倒そうだし、このままにしておこうっと。

「あの、怒ってらっしゃいますか?」
 黙って逃げればよさそうなものだけど、一応ここでさっきのことについてきちんと釈明――事実だけど――しておかなければ後でお巡りさんが家に押しかけることになりかねない。未遂で終わったんだから、どうにか温情をいただかなくては。

「怒る? ああ、さっきのことか……」
 深川はとても凶悪で残忍な笑みを浮かべて俺を睨んできた。こ、怖ぇ~っ!

「そう言えば礼をするのを忘れていたな……」
「れ、礼って……」
 お礼参りとかの礼だろうか。そりゃそうだろうなぁ。
「この深川様に手を出したんだ。覚悟はあるんだろうな」
 ククククと怪しく笑う深川様は手加減抜きで悪い人。ああ、誰か助けて……

「あの、出来ればお手柔らかに……」
「……ちっ。もうここも嗅ぎ付けられたか」
 脅える俺から突然顔を背けると、苦り切った表情で深川は呟いた。

「あの……?」
「運が良かったな小僧。お前も死にたくなければ逃げることだ」
 そう言って走り去った。

「な、なんなんだよぅ。う~」
 半泣きになりながらトボトボと深川の後を追う。この場所がどこだか知らないが、確かにいつまでもいたくはない。さっさと帰らないと。っていうか、俺どうやってここ来たのか結局分からないし。



 ――え?


 ほこりっぽい部屋から出た俺は愕然とした。

 そこには、夏の日差しを照り返す、凪いだ湖面が一面に広がっていた。













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【2006/08/09 17:19】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
第二十八回 火魅子伝SS戦略会議
 第二十八回 火魅子伝SS戦略会議



 うぷ。調子に乗って飲み過ぎた。
「大丈夫ですか? お酒弱いのに無理するから」
 大丈夫だ。のど元まで来たが飲み下した。
「いっそ出した方が楽になりますよ」
 ダメだ。胃袋に楽をさせるわけにはいかん! これも試練だ!
「意味が分かりません。酔ってますね?」
 はい。そんなわけで若干見当がおかしくなったままで、酔いどれ会議を行いたいと思います。

「それでは、web拍手のお返事から」

 一昨日の一件目。

22:22 なんてレスw 朔夜の正体の次は**の中の人かな。***だとおもぅけどいかに?
 といただきました。
 ……やっぱり来た。
「想定の範囲内ですね。まぁ、前回若干挑発がましかったかも知れませんが。**はネタバレの危険性があるので伏せておきました」
 うむご苦労。
「で、正解ですか間違いですか?」
 ……別にクイズじゃ無いんだけどなぁ。あの人は一応分かっていてくれないと話が読めない部分もあって、できればそれを感づいた上でなんでこんな事してるんだろう、とか考えてくれれば嬉しいです。
 ま、正直出した時点でバレバレだろうと思ってたのですが。

「負け惜しみ?」
 ……もう少しわかりにくくしようかなぁ、と思ったときも合ったけどさぁ。まぁ、いいんです。所詮奴は迷彩ですから(笑 あからさまな怪しさを持たせつつ、他の嘘とかを見にくくする為の。
「……って事はまだ何か仕掛けが?」
 ケケケケケ、教えてはやらん!(当然だが)
「さて、誰の事を話してるか読者の九割にはバレバレですね、きっと」
 コメントありがとうございました。


「では昨日の分を。始めの二件です」

1:40 25万ヒットおめでとうございます
1:41 今後もちょくちょく見にきますのでがんばって下さい
 と頂きました。
 ありがと~~~っ!!!
「ありがとうございます」
 日記にも書きましたがめでたく二十五万hit。いいねいいね。このペースで行けばミリオンも……
「当分先の話ですね。後最近ペースが落ちてるし」
 ……適当に充電したら頑張るから。
「あやしぃ」
 何とかある奴は終わらせたいと思います(泣
「あまり極端に株価が暴落しない程度の頑張らせますので、顔出してやって下さい」
 コメントありがとうございました!

「三件目」

23:20 なぜか**さんは**に似てると思いますた
 といただきました。
 ……まぁ、似てるよね。そうだね。正直描写書いた時点で失敗だと思ったもん。ああ、これバレるよ確実にって。
「上と同じ話ですね。これも」
 いいんです。ばれてくれないと逆に寂しいというこの作者心もあるわけですから。え、全然分からなかった。何それ……、とか言われた日には泣きますよ。ガチで。
「他に何人くらいこういう人っているんでしょう?」
 まぁ、十七夜と朔夜が今のところ暴露された奴で、まぁ、十七夜は本当についでで正体なんてあってなきがごとしだけど。朔夜もまぁ、そうですね。薄々かはっきりかは分かりませんが、結構気づいてくれていたと信じます。
 で、上の人の他には……、え~と、って言うとそれもヒントになるので言わない。まぁ、数人です。
「す、数人ってまだ複数いるんだ」
 まぁ、これも嘘かもね。この件に関しては作者はウソを付く権利を有していると信じます。本当は一人もいないかも。と言うか結局はじめ合った設定も無かったことに出来るわけで。もちろん上の人も。

「作者さん的にもどうしようか迷ってる部分があると言うことですか?」
 まぁ、正直どっちでもいいんじぇね? みたいな所はありますし。同しよっかなぁ。まあ、気まぐれ次第と言うことで。
「ですか。コメントありがとうございました」

 他にも叩いてくれた皆様ありがとうございました。


 さて、では本日は「会議」
 ……。
「会議しましょう」
 いや、いらないとと言うか、いい感じにアルコールが回ってるので非常に寝むい。永眠しそうなほどに。

「どうせ死にはしませんから。まぁ、体調がそんな風ではまともな話も聞けそうにないので、一つだけ確認しておきたい事があります」

 盛衰記外伝なら、今週末何かの気まぐれで書くことを祈っておけ。多分無いけど。他に書くこといっぱいあるし~。

「この外道!」
 ぶべらっ!


 で、では、本日は……
「ヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバ~イ」
 ぐふ。 ばたり

【2006/08/05 02:34】 | 会議 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
アトガキ 編年紀二十六章
 アトガキ



 と、言うわけで編年紀もいよいよ第三部に突入です。正直部で分ける意味があるのかは謎ですが、まぁいいか。幻聴記よりはいくらか意味があると信じます。

 で、まぁ、最後の話で全てが吹っ飛ぶ今回でしたが、反省すべき点があるとすれば十七夜が復活するの早っ! あーんど結局どうやって蘇ったか分からない! という話でしょうか。分かってるなら書けばいいような感じですが、ギャグにしかならない気がしたし、そうすると先に九峪のこと書かなくちゃならないし~、と言うことで無くなりました。

 あ、前回出した裏の十七章で九峪が十七夜を重そうに持ったという表現は九峪がちっこくなっているという伏線だったと見苦しくもここに書いておきましょう。はて、重そうに? 九峪はごっつい力持ちになっていたのでは? という話とか、なんでそれがそうなってるねんと言う話は次回で~す。

 恒例の一行次回予告。

「……気づいて、おられましたか」

 今回もだけど次回も次回で説明臭くなると思うので、あんまり肝心な台詞でも無いです。



 ではweb拍手のお返事でも。

 8/1分。一件目二件目三件目。

8:11 サイトに遭遇。読みまくる。一押しは…・・・幻聴記!
8:12 しかし止まり気味、残念無念。
8:12 ……ふと思いついて余裕があったらばよろしく。
 といただきました。

「そう言えば幻聴記も書いていませんね~」
 出たな。
「出ますよそりゃ。で、どうなんですか? こっそり書いてたりするんですか?」
 それがそうでも無いのだよ。最近どうも筆が止まり気味で……。まぁ、ぶっちゃけオリジナル書いてるも~ん。
「また期待している人が少ない所を。と言うか、私の活躍するという噂の盛衰記外伝は?」
 あ~、一週間くらい放置。多分これから永遠に……
「え~。じゃあ深川は?」
 う~ん、そう言えば先週末は書いてないなぁ。今週末に書くかなぁ。編年紀と一緒に。

「新説は?」
 ……。
「はいはい、聞いた私が馬鹿でした。でも、ちゃんと連載はやって下さいよ?」
 何かしら一週間に一つはせめてだそうと思います。あ、今月の第三週は休みなので休みますけど。
「盆休みですね」
 ええ、そうですよ。まぁ、書きだめておこうかなと思いますです。
「そうして下さい」
 コメントありがとうございました。

 え~と、後は昨日一件。これは連絡事項ですか。
 メールは送りましたがもし届いていなかったら連絡下さいませ。ちなみに断頭台の注意書きにも一応連絡用のメアドは載せておきましたので~。
「って、何の話です?」
 まぁ、あれだ。オリジナルのOLSシリーズの八月号で、蛇足版はメールで連絡してくれた人に送るという形にしたんだけど、断頭台の方にはメールアドレス何処にも書いてなかったんだよ(爆 一応十三階段の方にはあるんで、そっちから見つけて送ってくれた人もいるけど……。
「始めから読んで貰おうと言う気が見えませんね」
 だってえろえろなんだも~ん。恥ずかしいだろ。

「じゃあ書くなって話ですね」
 そう簡単にいくか~っての。
「そうですか。ともかく他にも叩いてくれた人ありがとう~!」
 唐突に閉めるな。


「さて、それでは本日も会議に」
 だから今日はアトガキだと。
「いいじゃないですか。別にアトガキになってないし。作者さんの反省文しか載ってませんよここ」
 言われてみれば……。じゃ、じゃあ少しだけアトガキっぽくどうでもいいことを暴露してみるか。

「どんなです? あ、ネタバレはいけませんよ?」
 しないっつーの。今回タイトル通り暴露した辺りに関係しますが、編年紀第一部表の一章から十章までのアトガキの一音め(漢字もあるけどあくまで一音)をつなげると……。

「さ、く、や、は、じ、つ、は……ってものすごい暇な事してたんですね。呆れた……」
 まぁね。これがやりたいが為だけに第一部はアトガキを書いてました(爆 途中で辞めると不自然だから裏とかにも書いたりしてさぁ。
「これはさすがに誰も気づきませんねぇ」
 だろうね。でも今回の事に関してだけ言えば読んでれば普通に気が付くと……というのは作者の思い違いかなぁ。九峪がいるのに顔出さないとか割と露骨だと思ってたんだけど。

「そういえばゲストブックにこの件に関しての指摘が来ていましたね」
 そうだね。まぁ、あっちは返事しなくていいから助かったけど。web拍手とかでその手の質問をされると正直困るというか……。まぁ、嘘答えてやりますが。ケケケケケ。

「この外道。でも、こうなると九峪君とは知らずにみんな色々と……」
 特に彩花紫辺りは調子に乗って九峪がどんな人間か朔夜にしゃべっちゃってますからねぇ。新たな視点で読み返すと面白いかも?

「どうでしょうね。そもそも読み返すほどの……」
 だまれそこ! 心ある人はきっと読み返してくれるさ! どうせ最近更新遅いんだから……。
「そこは作者さんが真面目に……」
 うるさいわ~~~っ! 今日はもうカエル!

「あ~あ、拗ねちゃいましたね。じゃあ、そう言うことで本日はこの辺で。ヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ」

【2006/08/03 22:19】 | アトガキ | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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