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深川10
 深川
 十話



 全ての望みを叶える扉を開けるために必要な、鏡と剣。
 伝承は遙か悠久の昔より伝えられていた。
 人々はそれを欲し、追い求め、争いを絶やしたことがない。
 しかし、ただの一度たりとも扉は開くことは無かった。
 なぜならば、鏡はいつも人々の手を渡り歩いていたが、剣が何処にあるか、誰にも見つけることが出来なかったから。

 伝承には斯くある。

『別れし鏡が一つに戻りしとき、剣は自ずからその姿を顕わさん』

 だからこそ鏡を求め、人々は争いあう。

 天魔鏡という名の、神器を求めて。






「……に、…たに。九峪」
 身体を揺すられて目を覚ませばそこには日魅子がいた。
「む~。眠い。後五分」
 そう言って俺はまた眠りにつく。

「もう、仕方ないなぁ」
 そんな声が聞こえたかと思うと、耳元にふっと息を吹きかけられた。
 ぞくっと背筋が泡立ち、途端に意識が覚醒する。

「……日魅子? あれ? ここは?」
 身体を起こしてきょろきょろと見回す。川辺城の自分にあてがわれた部屋だった。どうやら眠ってしまっていたらしい。
「もう、寝るならちゃんとお布団敷かないと。風邪引いちゃうよ?」
 相変わらずのお節介焼きだなと思いつつ、妙に煌びやかな日魅子の着物を見て顔をしかめる。

 周りの状況といいどうも夢オチという素敵な話は無いらしい。誠に遺憾だ。

 部屋には日魅子が点けたのか、燭台に炎が灯っていてぼんやりと照らされている。外はもうすっかり暗くなってしまっていた。寝ている間に日が暮れたらしい。
「今何時だ?」
「え~と、多分七時過ぎくらいかな」
「そっか。で、なんでお前が?」
「……少し、話がしたくて」
 日魅子はそう言ってじっと俺を見つめてくる。気のせいか瞳が潤んでいる。

「なんだよ。夜ばいかと思った」
 軽口を叩くと日魅子は顔を赤くして見事な右ストレートをプレゼントしてくれた。うむ、世界を狙える。
「ぐぅ。このハンサムな俺様の鼻が潰れたらどうしてくれる! 責任取らせるぞ!」
「九峪が変な事言うのが悪いんでしょ!」
 そう言って睨み付けられ、俺は苦笑する。
 なんだかいつも通りだった。

「ふぅ、どうやら偽者じゃ無いみたいだな」
「そっちこそ。でも、なんでこの世界に」
「お前は? どうやってきたんだ?」
「その前に、九峪どこまで覚えてる? この世界に来る前何してた?」
 言われて首を傾げる。

 さて、俺は一体何をしていたか……。

「日魅子と一緒に日魅子のじいさんの発掘現場に見学に行って……、え~と、後は良く覚えてないな」
「プレハブに一緒に行ったことは?」
「? プレハブ? ああ、発掘品を置いてあったところだよな。日魅子がいきなり『行かなきゃ』とか言い出して……」
「その後の事は?」
「む~」
 記憶を探るがさっぱり出てこない。

「駄目だな」
「そっか。まぁ普通の人間が時を遡るなんてあり得ないものね。記憶に少し障害が出たんだ」
「そうなのか?」
「うん。きっとね。たぶんだけど、九峪は私がこの世界に来る時に巻き込まれちゃったんだと思うの」
「……ふーん」
 言われてもよく分からないな。そもそもどうやって日魅子はこの世界に来たんだ? いや、来たと言うよりは戻ってきたのか。

「ごめん。私のせいで、九峪まで巻き込んじゃって」
 泣きそうになりながら頭を下げる日魅子。思わず胸がキュンとなる。気づいたときには抱き寄せていた。

「……九峪」
「謝るなよ。別に怒ってないし、お前のせいだとも思ってないから」
「うん。ありがと」
 日魅子はそのまま俺の胸に頭を押しつけて、ぐずぐずと泣き始める。仕方ないのでそっと頭を撫でてやる。

 昔から、日魅子は良く虐められていた。
 孤児で本当の両親がいないから、それをネタにいつもいつも。
 俺はそんないじめっ子を更に虐めていた。
 日魅子が机に落書きされたら、俺はそれをやったやつの机をピンク色に塗り替え、日魅子が上履きを隠されたら、それをやった奴の上履きにネズミの死骸を入れておき、日魅子が殴られたら、殴った奴の親がノイローゼになるまでイタ電かけまくり、不幸の手紙を送りつけ、ファックス無限地獄にたたき落としてやった。
 俺は日魅子専属の正義の味方だった。やり方は陰湿だったが。

「それにしても、お前一人で良く国を興せたな」
 幾分落ち着いた日魅子に率直な感想を言うと、日魅子は首を振った。

「ううん、私だけの力じゃないよ。亜衣さんとか周りの人が優秀だから。と言うか、私何もしてないで、オロオロしていただけだから」
「ふーん。ま、そうだと思ったけど」
「なによぅ。少しは私だって……」
 拗ねる日魅子。その仕草が何ともいじましい。

「分かってるさ。頑張ったな、日魅子」
「うん」
 実感はないが、日魅子にすれば数ヶ月ぶりの再会らしい。それでも特に変わった様子もない。
 俺はそのことに安心した。

 酷い目に遭ってなかったか、心配だったから。

「……九峪、あの、九峪も一緒にいてくれるよね? これから」
 日魅子の一生懸命な言葉に、俺は少しだけ迷って、そして頷く。
「ああ。お前の事放っておくワケにはいかないしな」
「そう。ありがとう」
「いや、お礼言われる事じゃねーし。むしろ出て行けと言われたらその方が困る」
「うん、九峪一人じゃ生きていくのは難しいもんね」
 日魅子は何処か遠い目でそう呟き、それから俺の事を見上げた。

「ね、ねぇ、九峪……。あの、その……」
「ん?」
 俺から離れると手を怪しく動かして、わたわたし始める日魅子。謎な生物だ。
「なんだよ」
「えっと、別に、あの、私が言ったんじゃないんだから、勘違いしないでね? ね?」
「いや、意味が分からん」
「その、うん。亜衣さんがね、九峪を守りたいなら、け、けけけ、結婚…………した方が………………って……へへ……」
 茹で蛸になりながら笑ってごまかそうとする日魅子。

 人のことは言えない。こっちも多分耳まで真っ赤だ。いきなりプロポーズ。しかも向こうから……。

「あの、私はまだ早いとか、っていうか、そもそも九峪が私のこと……その、好き……とか、そう言うことも分からないし…………、あの、だから……あうぅ」

 そういきなり言われても、心の準備が……。取り敢えず何か言おうと口を開きかけると、日魅子が慌ててそれを遮った。

「いきなり、こんな事言われても困るよね。うん、ごめん。でも、その、考えておいて」
 日魅子は顔を真っ赤にしたまま恥ずかしいのか背を向けると勢いよく立ち上がって部屋を出る。

 戸越しに、

「私は……、九峪とならいつでもいいから」
 そんな殺人級の台詞を残して。






 九峪の部屋から飛び出して、私は少し歩いてため息を吐いた。
 呼吸を落ち着けると、醒めた目で九峪のいる部屋の方を見据える。

「火魅子様。首尾は……」
 亜衣の冷たい声にかすかに笑みを向ける。
「上々ね。あの分であればあっさり落ちるでしょう。まぁ、九峪も私の事は悪からず思ってるでしょうし」
 鼻で笑って亜衣の方に視線を向けた。
「しかし、目的の為とはいえ怖いお方ですね」
「……何が?」
「いえ。それよりも深川の方ですが」
「捕らえた?」
「はい。今地下に吊しております」
「そう。で、例のものは」
 亜衣は渋面を作って首を振った。

「何処かに隠したものと思われますが、それについてもこれから吐かせます」
「わかったわ。九峪にはくれぐれもばれないようにね」
「もちろんです。では、私はこれで」
 楽しそうに背中が笑っているのを見て、私はやれやれとため息を吐く。女としては私の方が怖いかもしれないが、人として怖いのは亜衣の方だろう。

 私はそのまま自室に戻ると、誰も近づけないように衛兵に言い渡して暗い部屋で腰を下ろした。

「遅いのよ……、馬鹿」
 呟きに含まれた後悔。

 九峪に再会できたことは単純に嬉しかった。
 何を持ってしても守ろうと決めた。

 けれども、本当は自分なんかはもう九峪と一緒にいてはいけないとも思う。

 あの日、この世界に来てから、耶麻台国を復興させるために何人もの人を殺してきた。
 自分の夢のために、その手を血に染めてしまったのだ。

 弱い日魅子は、もういない。
 火魅子としての知識と能力を呼び覚まされた今の私は、以前の泣き虫ではない。
 その気になれば万の軍に匹敵する、殺戮兵器だ。

 せめて、九峪が始めから傍にいてくれたら変わったかもしれない。
 元のままの、自分でいられたかもしれない。

 それも、もう遅い。

「力づくでものにしてしまえばいいじゃない」
 幼い声が聞こえて、顔を上げる。

「貴方なら簡単でしょう?」

 窓際で佇む、兎の耳を持った少女の姿。
 この世界で、唯一私と対等な力を持った魔人。

「……九峪に手を出したら、殺すわよ」
 声は凍てつくような冷たさで、そのことに心が痛む。
 人でなしになってしまった自分を自覚すると、まだ辛い。
 その内、それすらも感じなくなるだろう。

「あらあら、怖いわね」
 クスクスと笑って兔華乃は外へと逃げていった。

「……九峪」
 愛しい想いと、汚れてしまった自分の惨めさ。
 未だ純なままで汚れを知らず、裏表のない笑みを私に向ける九峪。

 今からでも、間に合うだろうか。
 少し前まで当たり前だった、平穏で何の意味もないようなただの日常に帰ることが。

 九峪となら、もう一度……


 そんなありもしない未来を考え、私は自嘲的な笑みを浮かべた。













追記:
 なにやらバタバタしている今日この頃。今月はこの調子でバタバタしている感じなのでいつ更新できるか分からんです。明日辺り更新したら後は月末になるかも~。
 さて、今回はなんか意味深な冒頭でしたがまぁ、あれが今作品の全てですねぇ。ええ、全てと言っていいのかどうかは知りませんけど。まぁ、そんな感じです(どんな感じだ?



 ではweb拍手のお返事を。
 31日分。

1:49 フフフ 流石だな 旦那
 と頂きました。
 どの辺がさすがなのかアレですが、日魅子登場がと言うことでしょうか? まぁ、他にないか。今回は大活躍してくれる……かもしれませんねぇ。
 コメントありがとうございました。

 二件目。

10:33 作者に「幸せなど無い!」と断言される九峪って・・・ひ、日魅子にも手込めにされるなんて事ないですよね?
 と頂きました。
 ご覧のように甘酸っぱい感じで推移しております。ゆくゆくは夜ばいくらいあるかもしれませんが、無理矢理はどうだろう。まぁ、その方が九峪が不幸になるならありかもしれません(爆
 コメントありがとうございました。

 2日分。

18:27 頑張ってください
18:27 次きたいしてます~
18:28 次楽しみに待ってます。
 と頂きました。
 一体どれに対するコメントなのか分からないのでアレですが、ともかく作者からは一言だけ。

 頑張ります!

 コメントありがとうございました。


 他にも叩いて頂いた方々に感謝を!

 ええと、後はアレクサエルさんからのコメント。

深川09おもしろいですね。
ひょっとしたら、九峪はもし耶麻台国首脳陣の想像以上の有能さを見せたら危険かも?

九峪は、その気になれば、NO,2に成る事も不可能じゃない・・・・。 と、思う人もいるかも・・・・・・・・・・・。

もっとも日魅子にしても、亜衣達に取り、御輿として存在すれば、いいと思われている?
 と頂きました。
 九峪が有能さを見せる機会があるか分かりませんが、その前に色々と……。実際見せたら消されるかもしれませんねぇ。亜衣とか亜衣とか亜衣とかに(笑
 このまま日魅子と結婚して分を弁えれば名目上のNO.2にはなれるかもしれません。そしてそれを予期して動く人もいるやも……。
 今回の日魅子は色々とアレなので、後ろ盾無しで亜衣に補佐をすんなりやらせている程度には実力があります。と言うかヤバイ人という設定です。あくまで設定は。
 コメントありがとうございました。

 では本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2006/09/04 17:42】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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