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深川11
 深川
 十一話



 黴臭さと血の臭いに満ちた暗い部屋。
 炎の揺らめきにいけ好かない女の笑みが浮かんでいる。
 見覚えはある。
 耶麻台国復興を掲げた反乱軍が起こる少し前、私はコイツの事を一度嵌め、そして散々罵ってやったんだ。
 だが、その後現れた正体不明の輩に奪還され、私は任務を失敗。

 結局は今までその失敗を取り返せなかったことが、狗根国からも追われる要因となっている。
 まぁ、それだけではないが……

「強情だな。確か深川と言ったか? さっさと天魔鏡の場所を吐け」
 そう言って手に持つムチを振るう。
 皮膚が裂けて血が飛び散り、神経を灼くような痛みが頭へと駆け上がる。
 私は僅かに呻き、そして挑発的に女に向けて笑ってやった。

「ククク、ぬるいなぁ。この程度で拷問のつもりか?」
 この女、確か亜衣と言ったか。コイツへの恨みが痛みなど消し去る。
 今はまだ時ではないが、既に毒は巡らしてある。直にここも出られる。

「ふん。強がりを言えるのも今の内だ」
 そう言いながら喜色を浮かべて傷口に塩を塗り込んだ。
 激痛に視界が揺らぐ。
 奥歯を噛み締めてそれに耐え、呼吸が止まりそうな痛みの波をやり過ごす。

 一方亜衣の方はその顔を上気させて、まるで色事でも楽しんでいるかのような表情だ。その感覚は私も知っている。だから、私もこの女をそうする時の事を考え、この痛みすらも愉悦にすり替える。

 どうやって復讐してやろうか。
 考えるだけで濡れてくる。

「深川。しゃべりたくないならまだしゃべらなくても構わんぞ。夜は長い。たっぷりと付き合ってやる」
 言いながら、灼けたキリを太股に突き刺した。

「ぐっ、あ――」
 刺される痛みと、灼かれる痛み。

 覚えておけ、このクソ女。必ず、同じ事を、貴様にも――






 一人悶々と眠れぬ夜を過ごし、気づけば空が白んでいた。

『私は……、九峪とならいつでもいいから』

 日魅子の言葉が頭の中をぐるぐると回って、人知れずニヤニヤと笑っていたりする。
 我ながら危ない奴だと思いつつも、思考はそこから離れようとはしなかった。

「九峪さん、起きていらっしゃるでしょうか?」
 廊下の方から蘇羽哉の声が聞こえて、九峪ははっと我に返る。
「ああ、起きてるけど」
 答えるとすっと戸が開いて蘇羽哉が入ってきた。その手にはご飯が載った盆がある。

「朝食をお持ちしました」
「おう、ありがとさん」
 気さくに言って、結局一度も入らなかった布団を寄せる。

「あの、お休みになられませんでしたか?」
 俺の様子を目聡く見つけて聞いてくる蘇羽哉。
「枕が変わるとどうもね。まぁ気にすんな」
 軽く嘘を言って食事に取りかかる。相変わらず簡素だが、まともな食事と言うのも嬉しいものだ。

「ん~、あ、そうだ。結局深川達ってまだ来てないのか?」
 気になっていたので聞いてみる。

「ああ、それでしたら……」
 蘇羽哉が振り返ると、戸の隙間からひょこっと兎の耳が覗いた。

「兔華乃」
 耳の位置から間違いなくそうだと思って呟くと、その通り兔華乃が顔を出した。
「九峪さん。私もご一緒していいかしら?」
 などと言って目の前にちょこんと座る。
 蘇羽哉に何やら指示を出して、茶飲みに入った何やら怪しい液体を受け取った。どうやらそれがご飯らしい。朝はキャロットジュースのみだとかそんな話なのだろうか?

「兔華乃が帰ってきてるって事は、深川も?」
「あら、会えなくて寂しかった?」
 茶化すように言う兔華乃。
「いや、寂しいって事は無いけど。つーか、出来れば二度と会わなくても困らないというか……」
 実際あいつとずっと一緒にいるのは気が重い。

「深川さんならもう行ってしまいましたよ」
「へ?」
「元々彼女は耶麻台国に縁のある人でも無いし、いえむしろその対極。ノコノコと本拠地に乗り込むことは出来ないでしょう?」
「いや、でも、それならなんで兔華乃は見逃したんだ?」
 最悪捕まったらその時は俺から日魅子に口をきけば何とかなったかもしれないのに。まぁ、それも昨日分かった事でしかないけど。

「私は別に耶麻台国が好きでここにいるワケじゃないの。頼まれて仕方なくね。だから罪人を捕まえるだなんて細々とした仕事を一々やったりしないのよ」
「ふぅん。だから見逃したって事? 耶麻台国としてはそれでいいのか?」
「今更、と言ったところでしょうか。警戒している内はそれほど問題ないと判断されているようです」
 蘇羽哉が少し困ったように答える。兔華乃に対して強く出られないと言うこともあるのかもしれない。

「ふぅん。まぁ、事情は悲喜交々か。でも、そうか……。いっちまったのか、あいつ」
 寂しくないといった手前なんだが、やはり何処か寂しかった。
 ちゃんとした別れも告げられなかったし、お礼も言いそびれた。やり方はともかく、俺が生きてここにいるのは、紛れもなく深川のおかげなんだし。

「生きていれば、また会えるわ。きっとね」
 兔華乃はそう言ってニッコリと笑う。
「生きていれば、か。あいつにとっちゃ、それが何より難しそうだけど」
 そう、深川は狗根国に追われている。
 明日をもしれぬ命なんだから。

「気になるようなら探させますが?」
 蘇羽哉が何とはなしにそう言ったが、俺は首を振った。
 見つけられるとも思えないし、俺のわがままで迷惑をかけるわけにはいかないだろう。
 ともかく、もし会うことがあったらなんとかなるように、今度日魅子に話をしておくくらいが俺に出来る精一杯の所だ。多分。

「そうですか。それで、今日の予定なのですが……」
「ん?」
 予定と言われても何もすることが無い。というか何も分かっていないから必然何もやりようがない俺に、一体どんな予定が入っているというのだろう。

「よろしければ街の方を見物に参りませんか?」
 蘇羽哉はそう言ってニッコリと笑う。
「ああ、いいのか? うん、出来れば見てみたいな。来るときは兎奈美に担がれてたからゆっくりと見ることも出来なかったし」
「わかりました。では、食事が終わりましたら暫くした後お呼びに参りますので」
「ああ、あんがと」
 蘇羽哉は何処か嬉しそうに戻っていった。

「もてるのね。九峪さん」
 ニヤニヤと笑う兔華乃。
「そんなんじゃないと思うけどな~」
「あら? でもあの娘嬉しそうだったじゃない。日魅子がいるって言うのに罪な人ねぇ」
「だから、別に蘇羽哉とはそんなんじゃないし……。そもそもあいつの事何も知らないぞ」
 まぁ、昨日多少聞いたけど。

「そう? まぁ、どちらでもいいけど。それはさておき九峪さん。兎奈美と寝たそうね」
「ぶっ!」
 思い切り噴き出す。
「ね、寝たって言うか、強姦されたというか……」
「私の身内に手を出した覚悟はいいかしら?」
 にこやかに殺気を漲らせる兔華乃。食欲が一瞬で消え失せた。

「え、あの、兔華乃……さん」
「高貴なる魔兎族が人間如きとまぐわるなんて、そんな事実を吹聴されるわけにはいきませんし。私怨はありませんがここで死んで下さい」
「って、それって思いっきり私怨じゃん!」
 俺の全力でのツッコミは地獄の微笑みで無視され、兔華乃の腕が思い切り振り上げられた。

 非常にゆっくりに感じられる視界の中で、ああこれが死に際の集中力って奴かと一人納得してみたり、魔人の一撃だと首から上が消え去るかなぁとか、これまでの十数年の月日とか、色々なものが走馬燈のように――。所で走馬燈ってなんだろう?

 ペチン

 軽やかな音が鳴って、頬にじんわり痛みが走る。

 じんわり、見た目通りの少女に叩かれた程度の。

「え?」
 兔華乃は当惑していた。
 だが、そんな事をつぶさに観察する余裕もなく、俺は思い切り安堵の吐息を吐き出す。

「なんだよ、冗談かよ兔華乃。全く死んだと思った」
 危うく出ては行けないものが出てしまうところだった。

 自分の手の平を不思議そうに見ている兔華乃。

「……なぜ?」
 真剣な表情で俺を見つめる兔華乃に、俺は何のことか分からず大仰に肩をすくめてみせるのだった。






 自分の手を見つめながら先ほどの事を不思議に思いつつ廊下を歩く。
 殺すつもりは無かったが、それでも血反吐を吐かせるくらいのつもりで振り抜いた。
 なのに、九峪さんには怪我一つ無い。
 私には『空』という、相手の戦闘力に応じて自分の戦闘力が上がる能力がある。
 だから、敵意が無い相手には力が発揮されない、などという欠陥があると思われがちだが、実際は違う。
 どうあれ自分が敵と見定めた相手ならば力は発動するし、それは必ず相手より大きい。
 つまり無敵。
 その私が、これまで体験したこと無い事態。
 一体何が起こったのか……。

「姉様~。九峪いた~?」
 人間と軽々しく交配するなと昨夜折檻してやった兎奈美は、一晩経ったらケロッとそのことを忘れている。まったくお気楽なんだから。

「姉様?」
 ふと、気になって兎奈美の頬を不意打ちで思い切り張った。
「ぷぎゃっ!」
 兎奈美の身体は高速で壁に張り付き、さらにそこを突き破ってゴロゴロと庭へ転がっていった。
「変ね。確かに力は使えるのに」
 首を傾げると、前から日魅子が歩いてきた。
 壁に空いた穴を見てため息を吐く。

「あまり人間離れした事をして欲しくないものね。こんな所一般兵に見られたら大変じゃない」
「そのくらい気を使っているわ。それよりまさか貴方も九峪さんの所に?」
「ええ。って兔華乃。九峪に何かしてないでしょうね」
「そんなに睨まないで。しようと思ったけれど、出来なかったわ。不思議ねぇ」
 首を傾げる兔華乃。

 日魅子は暫く考えて納得したのか頷く。

「兔華乃。貴方じゃ九峪は殺せないわ。まぁ、兔音か兎奈美なら簡単でしょうけど」
「どういう事かしら?」
「それは秘密。少し考えれば分かるかもね」
 試すようにそう言って横を通り過ぎる日魅子。

 私じゃ、殺せない?

 その意味を考え、私はまた自分の手の平を見つめた。













追記:
 久しぶりに深川が登場。拷問シーンだけどライトにしておきました。まだまだこれからよ……ふっ(意味不明 で、九峪はそんなことは露知らず兎華乃とイチャイチャと。全くいいご身分ですなぁ~。その生活も土台がかなりぐらついてるので、ぼちぼち傾くでしょう(笑 果たしてその時九峪は生き残れるのか。
 ……多分無理(ボソ



 さて、それではweb拍手のお返事でも。

 一件目。

20:39 怖い女しかいないのか…
 と頂きました。
 はっはっは。笑ってごまかしましょうか。でも、日魅子は健気な女の子なはずですよ。ちょい自虐ってますが……。この作品が日魅子ヒロインの作品なら救われるんですけどねぇ。まぁ、メインのお方がその内デレて、怖くなくなればきっと…………ってそんな話はあるような無いような。
 コメントありがとうございました。

 二件目。

21:56 うう、日魅子まで黒いぃ、もう九峪も黒く成らないと生き残れない?精神的に。
 と頂きました。
 まぁ、日魅子が九峪が黒くならなくて言いように庇護してくれれば、自分の黒さに反比例して九峪は白いままでしょうけど……。ああ、ここでもやはりメインヒロインがあのお方であるという事が、そんな素敵な(九峪にとって)未来をぶち壊しそうですね。
 でも、九峪が黒くなるかはどうだろう? それはそれで面白いかもしれませんねぇ。
 コメントありがとうございました。

 後は当分更新出来ないかもしれないので、本日分も来てる奴だけ。

 三件まとめて。

14:58 九峪が日魅子に敵対したら楽しそうだなぁ・・・
14:59 でもって深川と逃げると
14:59 次回も期待してますw    by宮
 と頂きました。
 九峪vs日魅子! 仁義なき戦い、時間無制限一本勝負! って事にはならないでしょうが、敵対ですかぁ。まぁ、そう言うことも無きにしもあらず。深川と愛の逃避行。そしてその先に待ち受けていたのは!
 っていう感じが今後の王道的展開になりそうですが、邪道な作者は脇道が好きなので(爆 まぁ、面倒だとそこも通るかもしれませんが、はてさてどうなるか。
 宮さんも執筆頑張って下さいね。コメントありがとうございました。


 他にも叩いてくれた方々にありったけの感謝を!

 では本日はこの辺で。ヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2006/09/05 19:31】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(1) | page top↑
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コメント
10,11話、おもしろい!!!!!
いつもながら、意表を衝かれました。 
日魅子は、善人と言う先入観がありましたから・・・・・・・。 考えてみれば、平和な世界で暮らした少女が、戦争の総大将で、個人的に憎悪も無い相手を、自身でも数え切れない程、殺したら、以前と全く変わらない善人? でいられる訳ないですよね。
 しかし、何で日魅子は、演技してでも、九峪を取り込もうとするのかな?  個人的に欲しいからかな?
 冷酷に成りながら、優しさと言うか悩み続ける、日魅子は、何となく深川に似てる?

 亜衣の拷問好き(笑)。 この時代に悠長に取り調べる尋問官なんて、いるわけないですよね。 拷問なんて、今でも、米英軍でさえも行っていますからね。 日本も、戦前、憲兵や特高警察が拷問やっていましたからね。
 原作でも、深川が、運が良ければ?星華や亜衣、衣緒と伊万里に拷問出来たかも
・・・・・・・。 逆に、深川が捕まれば、やはり亜衣にされたような。
 しかし、亜衣のこの趣味? 妹達(特に羽江)にばれなければよいですね 笑。

 亜衣VS深川 立場の逆転があるか!!!!!!!!!!!!!????
 楽しみです。

【2006/09/05 22:46】 URL | アレクサエル #xfGWKbWo[ 編集] | page top↑
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