スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【--/--/-- --:--】 | スポンサー広告 | page top↑
深川12
 深川
 十二話



 爪を剥がされた指を、まるで慈しむかのように丁寧に赤い舌がねぶる。
 僅かににじむ血に舌の赤みが更に増し、その味に恍惚としたように瞳が潤む。
 痛みが全身を硬直させ、思考が上手く定まらない。

 舌が放れ、女が口元を拭っている間も痛みは引かない。

 そしてまた次の苦痛が私を襲う。

 足の裏に押しつけられた灼けた石。狂ってしまいそうになる痛みに、口からは獣の様な咆吼が漏れた。

「始めの威勢はどうした? まだまだこれからだぞ」

 女の台詞に閉じかけた意識が再び蘇る。

 ああ、そうだ。しっかりこの苦痛を覚えておかなくては。

 後で殺すんだ。

 この苦痛を何倍にもして。

 この屈辱を、万倍にして――






 川辺の街を見物するのは単純に楽しかった。
 見慣れない場所を観光しているような気分で。
 我ながら現実逃避しているなとは思う。それでもお気楽なのは産まれもっての性分だから仕方ないだろう。悲観的になっていいことなんて一つも無いんだから。

「九峪さん、何か欲しいものがあれば言って下さいね。多少は融通しますから」
「え、いや、そんなの悪いだろ」
「遠慮ならなさなくてもいいんですよ。まぁ、あまり無理を言われても困りますが、市井で買えるようなものであれば何なりと」
 蘇羽哉はそう言ってにこやかに笑う。

 彼女は俺と一緒にいて楽しそうだった。何故かは分からないが、そう言う態度でいる。日魅子の知り合いだからって気を使っているのだろうけど。
「つーてもなぁ。別に欲しいものなんて……」
 そう言ってきょろきょろと道ばたに並んでいる露店を見てみるが、大抵は野菜だったり魚だったり獣だったりして、とてもわざわざ買いたくなるようなものではない。他にも商人らしきものが反物などを扱っていたりするが、生憎と裁縫も出来ないから布だけ買っても……。

 何かあるかなときょろきょろしながら二人で歩いていると、通りが交差している広場で人だかりが出来ているのが見えた。
「あれ、なんだろうな」
「え? ああ、きっと芸人一座でしょう。見に行きますか?」
「そうだな」
 芸人という言葉に引かれて頷く。果たしてこの時代の芸人とやらは一体どんな事をやっているのだろうかと。

 人だかりを掻き分けて前の方へと行ってみると、そこでは身体に刺青を入れた薄着の女が相撲を取っていた。
「あら、志野さん達の一座でしたか」
 蘇羽哉はそう言って口元を手で押さえた。
「ん? 知り合い?」
「ええ。復興戦争でお手伝いをして頂いたことがあって」
「ふぅん」
 よく分からなかったのでそのことは頭の隅に追いやって、目の前の相撲を見ることにする。

 刺青女と筋骨隆々な男の対決。
 見た目通り男の方が勝った。と、思ったら男が威勢良く女の来ているものをはぎ取り雄叫びを上げる。
 丸裸にされた女は顔を手で覆って走っていってしまった。いや、顔じゃなくて身体隠せよと内心突っ込みつつ、目の前の事態に呆然となる。

「蘇羽哉?」
「え、ああ。織部さんは裸を賭けて勝負していますから。まぁ、時々わざと負けているんですけどね。今のもそうです。本気を出せばあの程度の男にやられたりしないでしょう」
「ふぅん。まぁ、いいもん見さして貰いました」
 ごちそうさまと内心手を合わせていると、耳ざとく蘇羽哉の言葉を聞いた男がズカズカと大股で近づいてきた。

「おい、おめぇ。今なんて言った?」
「あら? 聞こえませんでしたか? 貴方程度、本気でやれば織部さんが負けるはずはないと」
「あぁん? 嘗めてんのか、コラッ!」
「誰が貴方など嘗めますか。汚らわしい」
 本当に汚らわしいと言うように、胸ぐらを掴もうとした男の手を振り払う。

 ……なぜわざわざ喧嘩を売るかなぁ。
 なんだか泣きたくなってきた。それはともかくこういう事態になったらやれることは一つだ。

 人垣も今度は俺と蘇羽哉と男を囲むように移動していき、喧嘩をはやし立てる声も飛び始める。

「ク、この女。ぶちのめしてやろうか!」
「できるものならやってみなさい! でかいだけの木偶の坊が!」
 やる気満々のお二人。うむ、火がついてしまったようだが、端から見て蘇羽哉、少し無謀。いやかなりか。蘇羽哉も俺も丸腰だし、体格的には圧倒的。とても勝てる相手じゃない。

「まぁ、落ち着け二人とも。喧嘩なんかしても益はないぞ」
 やんわり聡そうと試みるが……

「黙ってろ小僧!」
「九峪さんは下がってて下さい!」

 とりつく島もありゃしない。だが拙いなぁ。蘇羽哉は耶麻台国の中枢に関わる人間だし、それが街中で喧嘩なんてすると評判が下がりそうだ。これから関係者となる俺としては、これは止めないとまずい気がするんだけど。

 仕方ないなぁ。

「わかった。だが女相手に手を挙げるのはお前も気が引けるだろう。変わりに俺が相手になる」
「く、九峪さん!?」
 目を見開く蘇羽哉。

「だ、駄目です。貴方にそんなことさせられません」
「まぁ、蘇羽哉は下がってろ」
「しかし!」
「いいから引っ込んでろ」
 少しきつく言うと、蘇羽哉は渋々と言った感じで下がる。ふむ、そしてお相手の男の方は……

 めっちゃ睨んでる。睨んでますよおい。

 だが、その睨みも深川や兎奈美の視線に比べれば子猫の如きかわいさだ。
 とは言えどうしますかね。素手で勝てる相手じゃなさそうだし。勢いだけで後先考えないからこういう事になるんだよなぁ。まぁいいか。

 俺はついっと一歩間合いを詰めると、男は思い切り殴りかかってくる。

 初撃だけならばかわせる。そして、打たせればそれでいい。俺は思いきり後ろに飛ぶと、同時に反転蘇羽哉の事を抱きかかえるとそのまま人垣を縫うように走り去った。

「ちょ、九峪さん?!」
「なんだ? 蘇羽哉」
「あの、なんで逃げてるんです?」
「あんな大男に勝てるほど俺強くないしなぁ。わざわざ殴られたくもないし。三十六計逃げるにしかずってね」
「……おろして下さい。このままでは私が嘗められます。九峪さんだって」
 不機嫌そうに顔を歪める蘇羽哉。俺は後方を振り返って追ってきていないことを確かめると、そっと蘇羽哉を下ろした。

「蘇羽哉。そんなに喧嘩がしたいのか? お前があそこで挑発的な事を言わなければ起きない諍いだろう。必要も無い挑発で相手の神経逆撫でて、それで力を振るって悦に入りたいというなら、その方がみっともないと思うがなぁ。侮るぞ、お前のこと」
 根っからの平和主義者の俺は、喧嘩は嫌いなのだ。見るのも軽々しくその原因を作ろうとする奴も嫌いだ。
「……もうしわけありませんでした」
 恥じ入ったのかそれとも悔しいのか、俯いて頭を下げる蘇羽哉。

「まぁ、別に偉そうに言う立場でも無いんだけどさ」
 女の子に頭を下げさせてどうもバツが悪かったのでそう言ってごまかす俺。ぐぅ、駄目だなぁ。
「そ、それより今日はもう戻ろうぜ。またばったりさっきの奴に出くわしたらまたもめ事になっちまう」
「はい。わかりました」
 肩を落とす蘇羽哉にどうしたものかと思いつつ、俺はその場を後にした。






 と、思った直後にさっきの男がまだ追ってきていてばったりと出くわす。
「あら~、拙いなぁこれ」
 虚仮にされたと思ったのか怒り心頭になっている男。今度は逃げられそうにも無い。
「九峪さん。ここは私が……」
「いや、いい。お前は手を出すなよ」
「しかし……」
「何があってもお前は手を出すな。いいな」
「……」
 返事をしない蘇羽哉に舌打ちしつつ、今度は俺の方から男へと向かって走った。

 そのことが意外だったのか、男の方は足を止めて俺の事を迎え撃つ体制に。

「でぇい!」
 渾身の力を込めた必殺の一撃。
 それはペチンと軽やかで冗談じみた音を男の腹の上で鳴らし、俺の拳を粉砕した。

「ノォーッ! 鉄の拳が!」
 手を押さえて蹲る俺に、男の容赦ないアッパー。俺は高々と打ち上げられ、見事に昏倒した。

 薄れ行く意識の中で、誰かが俺に声を掛けた。そんな気がした……。













追記:
 お久しぶりです。皆さん元気にしてましたでしょうか。作者は死にそうです。
 暇を見て、暇じゃないのに暇なことにして更新してみたり。まぁ、言うほど忙しいワケではないのかもしれませんが。
 先日まで一週間ほどつくばの方に行っておりまして、割と徹夜が多かったりもして、なんだか体調が悪いです。ああ、来週もまたどっか行くんでその準備とかもあるんですけどね。ハハハ。
 そんなわけでつくばエクスプレスに乗ってみたりしたんですが、シートが硬いですね。ケツが痛かったです。まぁ、あんなものかもしれませんが。

 さて、関係ない近況は置いといて、深川十二話。話が脱線しているような今日この頃。九峪と深川はいつになったら再会するんだ? 出さなきゃ冒頭のシーンも削ってもいいし、本当にヒロインなのか? 盛衰記の天目の二の舞になりそうな予感がヒシヒシとする今日この頃です。


 アトガキはこの辺でweb拍手のお返事でも。
 まずは5日分。三件。

23:09 気が付いたら十話突破、おめでとうございます。
23:10 姫御子ちんがどうなってるのかも気にしつつ
23:10 また遊びに来ますね
 といただきました。
 そう言えば十話とっぱですね。まぁ、この辺までは割合順調なんですけど、この後がねぇ。姫御子ちんは……、会議が無いと出番が無いですよねぇ。アハハハ。
 コメントありがとうございました。

 7日分。
 一件目。

18:42 もしかして九峪って絶大な力と権力を持つ日魅子のアキレス腱?亜衣が何かしそう、そして無惨に死にそう。
 と頂きました。
 的確な読みですね。まさに九峪がアキレス腱。主人公だけに+αの利用価値もあるわけですが、亜衣が何かするというのは……(ニヤリ どうでもいいですが亜衣は九峪にデレてない方が個人的に好きです。
 無惨に死ぬのは誰になるでしょうね(誰かは死ぬという意味
 コメントありがとうございました。

 二件目三件目。

18:45 ふと、今気づいたんですが、OLSシリーズの「ふらっど」ずっと「ぶらっど」読んで何処が血なんだろうと
18:51 悩んでました。見当違いの結論に達っする前に気づいて良かった良かった。・・・・戯言終了。
 と頂きました。
 ひらがな表記のせいで見間違いやすいですよねぇ。まぁ、当然ながら洪水の意味でのふらっどですけどね。確か去年新潟が水没しているニュースを見たりしていた時期に書いてたような気がします。どうでもいいですね。
 ともかく誰かに話す前に気づかれて幸いでした。いや、むしろ質問して欲し(ry
 コメントありがとうございました。

 四件目。多分上と同じ人?

18:56 九峪のへたれっぷりに笑いました。まさか兎華乃があんなに弱くなるほど弱いとは・・・
 と頂きました。
 ええと、これに関しましては九峪が弱いから、と言うのとは別の理由があるような無いような。まぁ、その認識で間違っていない程度に弱いのも事実ですけど、九峪も自分の腕力で自分を叩きのめせないほどキャシャリン(?)ではありません。なのでそれより強くなるはずの兎華乃が弱いままというのは別に理由が必要かなぁと思った次第で。まぁ、その内空かされるような、実際どうでもいいような。
 コメントありがとうございました。

 他にも叩いてくれた方々に感謝を!

 後は直接コメントが。
 アレクサエルさんからです。結構長いので分割しながら。

10,11話、おもしろい!!!!!
いつもながら、意表を衝かれました。 
日魅子は、善人と言う先入観がありましたから・・・・・・・。 考えてみれば、平和な世界で暮らした少女が、戦争の総大将で、個人的に憎悪も無い相手を、自身でも数え切れない程、殺したら、以前と全く変わらない善人? でいられる訳ないですよね。
 以前のままではいられないというのは、間違いでは無いだろうと。まぁ、最近の女子高生の精神構造など全く理解はしておりませんが、殺人を目的のためとは言え強要される立場に立たされれば、マトモではいられないであろうと思います。善悪に関する認識も改めなくては適応できずに壊れるのがオチではないかなと。そう言う意味では原作の九峪は……。いいのかなぁ、あれ。

 しかし、何で日魅子は、演技してでも、九峪を取り込もうとするのかな?  個人的に欲しいからかな?
 冷酷に成りながら、優しさと言うか悩み続ける、日魅子は、何となく深川に似てる?
 日魅子が九峪を求める理由は二つありまして、一つは心の支えになって貰いたいと言うことでしょうし、もう一つは既にバレバレな感じではありますが、まぁ、九峪自身の利用価値と言うものですね。描写は無いですが、理解者という点で日魅子にはキョウという後ろ盾すら不在です。喉から手が出るほど九峪が欲しくてたまらないのではないでしょうか。
 それと深川と似てるか、ですが。う~ん、ベクトルが真逆な感じもありますが。深川は特に優しく無いですし(今のところ)。九峪に対しても利用価値以外はそれほど見いだしてはいないでしょうし。まぁ、互いに九峪が良心を肩代わりする存在としては似てるかもしれません(爆


 亜衣の拷問好き(笑)。 この時代に悠長に取り調べる尋問官なんて、いるわけないですよね。 拷問なんて、今でも、米英軍でさえも行っていますからね。 日本も、戦前、憲兵や特高警察が拷問やっていましたからね。
 原作でも、深川が、運が良ければ?星華や亜衣、衣緒と伊万里に拷問出来たかも
・・・・・・・。 逆に、深川が捕まれば、やはり亜衣にされたような。
 亜衣の拷問は一度きっちり原作でやって欲しかったなぁと思いつつ、無理だろうなぁとも思っていましたが。拷問は取り調べに関してむしろ一般的な手法で、悠長に証拠そろえたりしてやるには民主制がなさすぎますね。原作でも影でやってるはずですし。誰がやってるかは知りませんが、基本的に誰でもやるんじゃないですかねぇ。まぁ、好きこのんでやる人は限られているでしょうけども(笑
 それにしても深川には是非もっと拷問して欲しかったですね。その後殺されても構いませんから、特に亜衣との絡みは欲しかった。最近は出番すらないので深川信者としては是非出番をと言いたいところですねぇ。藤那反乱にあわせて出てこないかなぁ。個人的には逃げる琉度羅丹を勘違いして捕獲して欲しいと思わなくもないんですが……。


 しかし、亜衣のこの趣味? 妹達(特に羽江)にばれなければよいですね 笑。

 亜衣VS深川 立場の逆転があるか!!!!!!!!!!!!!????
 楽しみです。
 羽江にばれたら絶対引きますね(苦笑 衣緒辺りは知ってそうですけど。まぁ、そんなことで離反されてはたまりませんし、亜衣自身楽しみを減らされる危険性がある真似はしないでしょうからそこは安心です(ナニ?
 立場の逆転は個人的に書きたいのであるかなぁ~(爆 いつになるかは謎ですけどね。。
 コメントありがとうございました。


 では本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
 
【2006/09/15 16:32】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(1) | page top↑
<<深川13 | ホーム | 深川11>>
コメント
 相変わらず、GOODな!!!!
 志野達は、どういう立場なのでしょう?  
推測すると元火魅子候補と言う感じでなく、耶麻台国協力者、かなり中枢に近い?  考えてみれば、キョウがいないのだから、火魅子候補を確定出来る存在が無いのですよね。 精々、星華や藤那が王族と証明出来る程度かな?
 香蘭も書付があるから王族と認められるかな?(もっとも、偽造や前作「出雲盛衰記」であるように、証拠なんて盗む事が出来ると、言いがかり?をつけられるかな?)
 当然、志野、伊万里(里長が素性を知っている?)、只深(養父が知っている?)が王族なんて判る訳ないか?
 もっとも、日魅子と言う直系の女王がいる以上、王族なんて星華を除けば、危険極まりませんよね、いや、星華にしても、亜衣は、ともかく、日魅子の方が、将来、消そうとしようとするかも・・・・・・・・・。
 
【2006/09/16 02:22】 URL | アレクサエル #xfGWKbWo[ 編集] | page top↑
コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する

トラックバック
トラックバックURL
http://sophist00.blog48.fc2.com/tb.php/126-acfe5555
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
| ホーム |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。