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深川18
 深川
 十八話



 天魔鏡の在処を指し示す割れた鏡。
 私は再び自らの手にそれを取り戻していた。


 魔兎族三姉妹と共に川辺城を出て、鏡の隠し場所へとまっすぐに向かった。
 魔兎族は私が出し抜けるほどバカではないし、余計な真似をすれば殺される可能性すらあった。

 いや、この鏡を手にした時点でいつ殺されてもおかしくないとも言える。
 それさえ手に入れば私は用済みなのだろうから。

「随分とあっけなく渡してくれるのね、深川」
 差し出された鏡を受け取りながら、兎華乃は不審そうな表情を浮かべている。
 解せないのだろう。

 こうも簡単に命綱を手放してしまう私の行動が。

 その考えは正しい。

「ああ。そんなもの私にはもう必要ないからな」
「どういうこと?」

「天魔鏡の場所ならば既に分かっている。そして、その割れた鏡では最早見つけ出すことなど不可能だ」

 明らかな格上を相手に、出来る限りの皮肉な笑みを浮かべて見せた。

「それを手にして意味があるとすれば、恐らくは火魅子くらいなものだろう。まぁ、修復できるとすればという話だが。他のものにはただのゴミだ」

 生きるために、生き抜くために私には他に手段がない。
 少なくとも、こうしてしまえば私以外の手がかりは消えるのだから、利用価値がある間は殺されない。

 とは言え、事態が好転しているわけでも無い。

「なるほど……。では、再び聞き出すために拷問されたいと言うことなのかしら?」
 少女のような最強の魔人は、血に濡れた笑みを浮かべて見せる。
 その表情に背筋が泡立ち、耐え難い震えが湧き上がってきたが、それも懸命に堪えた。

「賭けてもいいが、例え殺されようが私は場所など吐かんぞ」
 それは確信している。
 手足を切り落とされようが、全身の皮を剥がれようが、目を潰されようが、釜ゆでにされようが言わないだけの覚悟と自信がある。

「……の、ようね。ではどうしたものかしら?」
「改めて、取引をしよう」
 これまでもこれからも、私には間違いなど何一つ許されない。

 この魔界に置いて尚、最強の名を冠すると言う怪物相手に交渉。

 何が最後の言葉になるか分からない状況で、それでも私は迷いはしなかった。

「応じてくれるならば、望むものは全てくれてやる」

 私は、この嘘を突き通さなければならない。






 まぁ、聞いてくれたまえ諸君(誰?)
 地獄絵巻のような、欲の皮の突っ張った連中の闘争に巻き込まれるのも利用されるのも、ごめん被りたいと心の底から思った俺は、監視が幸いにも女の子一人と言うことで、一目散に逃走したわけだ。

 正直殺し合いも裏切り合いも何処か余所でやって欲しい。
 そんなドロドロしたものに俺を巻き込むなと叫びたい。

 事態は孤独で無力な異世界人一人にどうにか出来る領域ではなかったし、頼れるものが絶望的に皆無な俺にとって、本当に嫌だがこうなったら深川と合流するのがいいような気がした。

 日魅子を頼るのが筋なのだろうけど、珠洲の話を聞いた限り、あまりおおっぴらに姿を現すと逆に危険だという気がしたし、日魅子にも迷惑になるかもしれない。
 少なくとも俺一人で生きて川辺のあいつの所までたどり着ける気がしなかった。そもそも俺は川辺の街中で志野に拉致されたんだから、あの中が安全という話でも無いだろうし。

 そうなると頼れるのは、限りなく嫌だけど深川一人。
 だって他に外部に知り合いがいないから……

 まぁ、それでも危険なことは危険だし、あまり気は進まない。
 深川は本人がまず危険だし、その上珠洲の話が本当ならば、あいつ自身が厄種みたいなもの。天魔鏡とやらを探すための鏡とやらを所持している限り、深川自身に追っ手が掛けられているのだろうし、思えば狗根国から追われていたのもそういう事なんだと思う。

 火中の栗を拾う真似だと訴える理性的な部分と、それでも深川以外にいないと訴える本能的な部分の葛藤の結果、理性は本能に駆逐されたというわけ。

 大概無茶な話ではあると思う。
 深川が何処に行ったかなど知らない俺に、探せるかという問題もあることだし。

「……つーか、なんで俺は深川に会えば全て解決するなんて思ってるんだろう?」
 自分でもそのことが分からない。

 短絡的に考えれば、今現在信用に足る人物が他にいないと言うことと、どんなに変態な奴でも、この世界ではじめてあった奴だからと言うことだろうか。いや、あの人殺しに信用出来る部分があったかも謎だが。

 ひな鳥がはじめて見たものを親だと認識するようなもの。
 多分、そう言うことなんだろうと思う。

「……つーても、日魅子にも俺が生きてることを伝えなくちゃまずいよなぁ。まぁ、どうせ深川と合流できてからじゃないと、上手い方策も俺一人じゃ考えつかないが」
 ぶつぶつと一人ごちながら街道を歩く。
 珠洲は逃げる俺を追いかける素振りが無かった。
 逃がしてもいい状況じゃなかったと思うのだが、あまりに鮮やかな逃げっぷりに追うという判断が出来なかったのだろうか。志野に頼まれてるのだろうから、逃がしていいような状況でも無かった気がするのだが。

「ま、確かに逃げ足だけは速いしなぁ」
 言ってて虚しい事ではあるが、この世界で生きていくためには逃げ足と言い訳が最も役に立つ、ような気がする。


 ――さて。
 俺はこれからどうするべきだろうか。
 深川を探すという最優先事項は前提として、少しは身の振り方を考えておくべきなのだと思う。

 後は、覚悟とか。

 これから戦争が起こる。
 どんな願いでも叶えられる夢のようなものを欲しがる人間。
 幾らでもいるだろうし、俺とてその範疇からはずれるものではない。
 そして、そのために争うことを厭わない人間だって、それこそ幾らでもいるだろう。

 或る者は大義を掲げ、或る者は私欲をむき出しにして。

 名目はともかく叶えたい願いのない人間など、そもそも生きてはいないのだろうから。

「それが争いの根本なら、俺はそれを排除したい」

 軽くそのために必要な事を考えて頭を振る。
 どう考えても無理だ。
 それはつまり、他のあらゆる人間と戦うと言うことだ。
 欲望を持つ人間全てを相手にすると言うこと。

 ――そんなもん、世界を敵に回すことと同義じゃないか。

「現実感湧かないなぁ~」
 何とかしたいが、どうにも出来ない物事など放っておくべきなのだろう。

 でも、それでも何とかしたいと思えてしまう……


「そう思ったら最後、やらなくちゃ気が済まない性格だしなぁ」

 自分で自分の頭の悪さが恨めしい。
 無理とか無謀とか、分かっていてもそれが理由にならないんだから。

「まぁ、出来るだけ頭捻るか」



 無いものは出てこない。


 その現実に気づくまで、それから一時間以上俺はうなり続けた。






 九峪が死んだ。
 その報告は清瑞の配下の乱破からもたらされた。当の清瑞も深手を負って拘束され、既に耶麻台国の土地から出て行ったという。
「――そう」
 一言呟くことが精一杯で、真っ白になった頭には何も浮かばない。

 じわりと胸の奥からしみ出す感情は、怒りよりも悲しみよりも、どうしようもない後悔だった。

 大事なら、片時も離さなければ良かったのに。

 本当の自分が知られる怖れなど無視して、自分だけで守れば良かったのに。

 九峪では生きていけない世界だと、確かに知っていたはずだ。

 あっけなく死ぬだろうと、私は確かに自覚していたはず。

 なのに、なのに冷徹で残忍で、まるきり汚れてしまった自分を見られたくないから、知らず最良の手段を避けていた。

「……ふふ、あはははは」
 零れる笑い声。
 気が触れたみたい。

「あはははははははははははははははははは!」

 ひきつった笑い声にあの亜衣ですら脅えている。

 ああ、本当に――
 このまま狂ってしまえるならそれはどんなに楽なことだろう。


「出立の用意を」
 笑いを止めて命令を出す。
 惚けた顔の面々を睨み付けると一斉に顔が青くなった。

「ひ、火魅子様。出立というのは?」
 絞り出すように声を出した伊雅にため息を吐いてみせる。

「何を寝ぼけたことを言ってるの? 耶麻臺国に清瑞が取られたんでしょう? どういうつもりかは知らないけど、嘗めた真似をしてくれたんだからお礼をしなくちゃならないでしょう」
「は……、いや、しかしそれは」
「駄目です火魅子様! 今耶麻臺国を討てば狗根国と戦う体力が無くなります」
 必死の形相の亜衣。
 こいつも寝ぼけたことを言う。今の貴方にそんな発言権があるとでも思っているのか。

「――あなたには、深川が逃げ出したこと、及び九峪を志野に殺された責任を取って貰わないとね」

 凍り付いた亜衣。
 今までは目障りではあったがよく働くから見逃していたが、それでも今度はやりすぎた。

「ひ、火魅子様、それは!」
 言い縋ろうとした衣緒をひと睨みで黙らせる。

「深川か志野、どちらかの首を取るまで戻って来るな。それまでに川辺城の敷居を跨いだら極刑に処す」
 誰にも文句は言わせなかった。
 そもそもそんなものの責任を、宰相に取らせる方がどうかしている。
 九峪が剣の男であることを知らない面々には、ただの友人を失っただけの事で、亜衣を事実上罷免するのは、正気の沙汰とは思えなかったのだろう。

 だが、嫌になるほど私は正気だ。
 正気で狂気を口にしているだけ。

 だから、口答えも許さなかったし、決定を覆すつもりも毛頭無かった。



 これで少しは風通しが良くなる。

 そう思うと、自然と笑みがこぼれていた。













追記:
 ひ、日魅子がこ~わ~れ~た~っ!
 って、わけでも無いですが暴走気味です。まぁ、彼女とってもお強いから耶麻臺国くらいなら蹴散らすかもね~。その後は知らんが(爆
 まんまと志野の策に嵌る女子高生……。安易な展開に読者絶句! って感じでしょうか? まぁ、あまり深く考えてませんから(ぉぃ
 日魅子はともかく九峪は本当に珠洲を振り切れたのでしょうかねぇ。まぁ、そんなうまい話があってたまるかって感じですとか、ネタバレ風味な話もしてみたり。でも次回は新キャラが出てくるから、え~とまた今度と言うことで。


 ではweb拍手のお返事を。
 6日分。

17:31 おお、姫御子ちんが出てる、お久しゅう。全国一万人…
17:33 だと多いかもしれないから一千…念のため百人くらいは
17:34 いてもおかしくない姫御子ファンとしてはうれしいです
17:36 ね…さて、次の深川がでるまで幻聴紀も読んでおこうか
 と頂きました。
 姫御子チンのファンは何人いるんでしょうねぇ。五十人もいればいいような(苦笑 まぁ、オリキャラにファンが付いてくれてるだけで大変嬉しいですが。次回の出番は……、今月中に後一回くらいアトガキで出られればいいですねぇ。
 しかし読むのは幻聴記ですか……。続きそろそろ書かないとなぁ……。
 コメントありがとうございました。

 他にも叩いてくれた皆様、ありがとうございました。


 では本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2006/10/09 20:28】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(2) | page top↑
<<深川19 | ホーム | アトガキ 編年紀二十七章>>
コメント
どうも、北野です。

いやいや、安易な展開ドンと来いですよ。
ストレートなのも好きですから。

原作よりもこの九峪の方が好きだなぁ。
日魅子はともかく(ぇ)
なにやらヒロイン日魅子な様子?
まあ自分は火魅子伝はヒロイン日魅子が基本だと思ってるのでいいんですけどね。
【2006/10/10 21:34】 URL | 北野 #-[ 編集] | page top↑
18、おおお。
九峪は、エサかな?
確かに、九峪が、「直接」何も知らないなら、志野にとって、連れ回すのは、足手纏いで、常に監視が必要だし、足腰は弱いし、デメリットの方が多いのかな?

 深川の交渉も、おもしろい。

 しかし、天目こそ、いい面の皮ですね。 このまま、天目、日魅子とも、志野のいいようにされるか? しかし、全てを計算通りに事を進めるなんて、ユリウス・カエサルでも不可能でしたからね(笑)
 天目だけではなく、この日魅子も、マヌケとは、程遠いみたいですから・・・・。
 
 日魅子も、亜衣を半分追放に出来たから、「災い転じて福と為す」かな。
 しかし、亜衣も首都追放になっても、宰相だから、手の者が、政権にたくさん残っているでしょうから、影響力を完全に無くす事はないかな? 知らない人から見れば、亜衣に同情が集まるでしょうから・・・・・・。 
それとも、これを機に日魅子は、亜衣派?を首都から叩きだすのかな?
 
 やはり、日魅子は、志野と亜衣の同盟に気付いたのかな?
 ん? 衣緒は、亜衣の計画を知っていたのかな?
【2006/10/10 22:38】 URL | アレクサエル #xfGWKbWo[ 編集] | page top↑
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