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深川21
 深川
 二十一話



「火魅子様。あの、姉様の事は……」
 出兵の準備をしている最中に、衣緒が申し開きにやって来た。
 姉思いの妹は、今回の処分についてもどうにかして欲しいのだろう。

「決定は変えないわよ」
「はい。それは承知しています」
「なら、早く貴方も仕事に戻りなさい」
「あの、ありがとうございました」
 衣緒はそう言って頭を下げる。

 思っても見なかった行為に私は当惑した。

「なにがありがとうなの?」
「……姉様が何か謀をしていたのは私も承知していました。今回の件もおそらくそれが原因なのではないですか? だとすれば、放逐くらいで済んで良かったと。九峪様を失うという失態、本来なら命を取られていてもおかしくはなかったと思います。だって、あの方は……」
 縮こまる衣緒。

「そうね。確かに私、九峪のこと好きだから」
 自分で口にして、こみ上げてくる感情を抑えるのに神経を使う。

「でも、それは私の落ち度でもある。それに一度失ってしまったものはもう戻らない。それに気を取られて、他のものまで失ってしまうわけにはいかないわ。私は耶麻台国を完全に取り戻さなければならないんだから。衣緒も思うところはあるでしょうけれど、それまで宜しくお願いね」
「はい。姉様の分まで力を尽くさせて頂きます」
 衣緒は深々と頭を下げると去っていった。

 失えば、二度とは戻らない――

 自分で口にした言葉を反芻すれば涙が勝手に溢れてくる。

 この世界に来たときに、本当は失っていたはずのもの。
 何の偶然か取り戻せたそれを、私は再び失ってしまった。

 二度と会えないだけならば、それはどれだけ良かったのだろう。
 今何をしているのかと、思いをはせる事も出来ただろうに。

 死んでしまえば、何も無くなる。


 こんな時だと言うのに、それでもこの国のために動かなければならない。

 その宿命を、心の底から私は呪った。






 何でもするから食べるものを恵んでくれと、行き倒れの少年に縋り付かれて仕方なく乾し肉を分け与えた。
 自分でも甘いと思う。
 そんなに余裕のある旅をしているわけでもないから、一々行き倒れに恵んだり出来ないんだけど。
 でも、乾し肉を涙を流しながら食べる少年の姿は、何というか単純に可愛いと思った。

「九峪はこんなところで何してたの?」
 当然とも言える質問だったが、九峪はピタリと食事の手を止めると渋い顔で考え込む。

「何? 言いづらいことでもあるの?」
「いや、まぁ、色々と事情があって」
「だからその事情が知りたいんだけど」
 堅気の人間には見えなかったし絶対に違うだろう。風袋から考えると割と高貴な人間のような気がする。この辺りでその身なりであれば、豪族の息子か何かなのだろうけど。

「人を……、探してるんだ。まぁ、やりたいことっつーか、やらなきゃいけない事はあるんだけど、その前にそれを相談する相手を探しているというか……」
「人捜しか。私旅してるから何か分かるかもね。どんな人?」
 こんな変な奴が探してるんだから、それはさぞかし変な奴なんだろう。

「……う~ん、でもなぁ」
 何を悩んでいるのか、九峪は歯切れが悪い。

「誰にも言わない?」
「人に聞かれたくないような事なの?」
「まぁな。俺もそうなんだけど、本当はこんな人の目に付くところウロウロしているのは拙いんだが……」
「誰かに追われてるって事?」
 こくりと頷く九峪。

 確かにあからさまな不審者だから、そう言うこともあるんだろうけど。

「で、結局誰なのよ」
「……深川って言う、狗根国の左道士」
「……ふ、深川!?」

 思わず声を上げてしまった。

「なんだ、知ってるのか?」
「し、知ってるって言うか。ちょ、九峪どこであんな女と関わったの?」
「いや、それも立て込んでるんだけど」
「まさか、九峪も狗根国の?」
 だとしたら、一緒にいるのは危ない。

「まさか。俺自身は何処の誰でも無いよ。ああ、でもどちらかと言えば耶麻台国なのかなぁ」
「……そ、そう。で、何があったの?」
 九峪は訥々と事情を語りはじめた。

 深川に命を助けて貰ったと言うこと。
 右も左も分からない九峪と一緒に数日動き回ったこと。
 結果的に、九峪を耶麻台国まで連れてきてくれたと言うこと。

「あいつが俺とその耶麻台国の知り合いって奴との関係を知ってたとは思えないから、多分半分くらいは善意だったと思うんだけど」
 なんて語る九峪の頭の中身が大丈夫か気になった。

「それ、冗談?」
「いや、深川があくどい奴で、血も涙も無いって事は知ってるけどさ。でも、俺にとって命の恩人だって言うのも確かだし」
「……ふぅん」
 本気で言っている九峪の話を聞いて、少しだけ冷静になる。

 九峪が言うように、深川が善意で人助けをしたなどとは微塵も思わない。
 あの女は――と言っても直接的な面識は無いけど――、利害関係抜きで人助けなど間違ってもやらない女だ。
 赤子だろうが笑って殺せる狂人に、そんな意識があるとは微塵も思わない。

 だとすれば――

「忌瀬? それであいつの居場所は……」
「ごめん、分からないわ。そもそもとっくに死んだものだと思っていたから」
「そっか。多分最近この辺にはいたと思うんだけど。あいつもわざわざ都督からこっちに向かっていた位だから、何かあったんだろうし」
「そうなんだ」
 気のない返事を返しながら、ふと視線を感じて顔を上げる。

 そこには疲れたような表情をしている少女が一人。
 こちらに視線を向けると顔をしかめて見せた。

「……ちょっと状況が見えないわね」
 私はそう呟いて見る。
「へ? 何がだ?」
「九峪が深川と知り合いだというのも驚きだけど、それを利用しようとしていた人間がいるというのが、ね。暫く放れている間に、一体何があったのやら」
「忌瀬?」
 当惑している九峪を無視して、私は九峪の背後に立つ少女に声を掛けた。

「こっちに来て座ったら、珠洲? 今夜は冷えるわ」
「……」
 少女は無言で歩み寄ると、九峪の隣に腰を下ろした。

「――す、珠洲! なぜここに!」
 本気で驚いている九峪。特に気配を消すでもなく、背後に近づいてきた珠洲に気づかないなんて鈍い奴だ。

 珠洲は狼狽する九峪の事など無視して、疲れたようにため息を吐く。

「本当に知らないとは思わなかった」
 呟きの意味を九峪は理解していないだろう。

「深川がどうかしたの?」
「……鏡の在処を知っている。それだけ」
 言葉少なに言われても、それだけで状況は理解できた。
 つまりは深川と知り合っていた九峪に、その鏡の在処か深川の居場所を聞き出そうと思ったと言うことか。

「深川が川辺から逃げたって言うし、てっきり合流するかと思えば頭悪いことばっかりやってるし」
「いや、だから何なんだよ。っていうか何故俺が此処にいることが――」
「バカ? ずっとつけてたに決まってる」
「え? ずっと? って事は、もしかして全部見てたのか?」
「行き倒れのフリして女口説いてたこと?」
「――っ!」
 九峪は言葉につまって顔を真っ赤にする。

 ああ、じゃあ私に会うまでも同じ事をしていたんだ。
 そう思うと若干不愉快になってきた。

「珠洲ちゃん、それ本当?」
「本当。まぁ、引っかかったのはアンタだけだけど」
 そう言って心底バカに仕切った笑みを浮かべて見せる。あ、相変わらずこの子はムカツク……。
 私が本気でぶん殴ろうか迷っていると、先に耐えきれなくなったのか九峪が切れた。

「き、き、き、記憶を失えぇっ!!」
 そう言って振り上げた拳。
 珠洲はひょいっと軽々と座ったまま身をかわし、突き出された腕と胸ぐらを掴んで九峪のことをたき火の中へと放り投げた。

「あ゛、あ゛づぅぅぅっっ!」
 九峪は悲鳴を上げながら地面をゴロゴロと転がり、痛めていたのだろう左手を下敷きにしたことで更にもがいている。

「――ぷ、あはははは」
 私はそのあまりの堂に入った間ぬけっぷりに、珠洲への憤りも忘れて大声で笑う。
 珠洲も思った以上の反応に笑みを浮かべていた。

「てめっ、珠洲そこに直れ! 今から俺様が妹属性をその身に叩き込んでくれるわッ! 忌瀬も笑うなこのボケっ!」
 本人は至って真面目に、訳の分からない事をいいながら反撃してきたが、小柄な珠洲にその後もいいようにあしらわれていた。

 私はその即興の寸劇を見ながら、事の深刻さを忘れただいつまでも笑っていた。













追記:
 珠洲がようやく出てきましたなぁ。はふぅ~。
 かなり暇な今日この頃ですが、暇すぎて気分が悪い感じ。何か致命的な事を忘れているような……。

 まぁ、忘れるようなことなら大したことではないのでしょう。


 web拍手のお返事を。
 14日分。一件目。

11:16 忌瀬の「 え、嫌よ 」 に爆笑w  がんばれヒモ九峪~
 と頂きました。
 九峪も誤算だったでしょうねぇ。まぁ、なんとか泣き落としでごはんはゲット出来たようなのである意味作戦は成功だったのかもしれません。忌瀬フラグが立ってますが、どうなるかは神のみぞ知る。ちなみに私は知りません(ぇ
 コメントありがとうございました。


16:22 断られたのは虎桃、清瑞、夢弧かな?上乃、伊万里、遠洲
16:22 という可能性もあるかなー?
 と頂きました。
 話の流れ的に虎桃と清瑞はこの場にいませんし、遠洲は出すかどうか迷っている所なので他の三名ですねぇ。上乃と伊万里は本当にあれで出番が終わりになる可能性も結構……。まぁ、紅玉香蘭に至っては出てこないかもしれませんが……。
 コメントありがとうございました。


23:02 この後外道九峪はいったい何人の女性とタダレた関係を持つおつもりで?
 と頂きました。
 いえ、そんなに多くは無いと思います。あくまで九峪が身の程を知るためのお話だったので。話の流れ上また深川や兎奈美みたいに九峪受けでそういう事になるかもしれませんが、九峪責めはあるのかなぁ? 無いような気がする今日この頃です。
 コメントありがとうございました。

 昨日分。

0:13 九峪つて実は凄いかも?との思いが「……え、嫌よ」の一言で爆笑とともに消えました。凄い徒労っぷりだ。
 と頂きました。
 基本的に周りに振り回されるだけの駄目主人公ですから、能動的に行動を起こしてみても何一つ上手くいきません。それって主人公か? と言う話もあるんですが……。
 コメントありがとうございました。

 他にも叩いて頂いた皆様に感謝を!


 北野さんからのコメントを。

どうも、北野です。

うゎ~お。
九峪の好感度急転直下(何か違う?)
流石天然ジゴロだけど天然じゃなく意図的だとねぇ・・・。
なんかこう・・・ねぇ?(ナニ)

最近リアルが忙しい北野でした。
 と頂きました。
 九峪がジゴロは頂けないですかねぇ。盛衰記は思いっきり(笑 まぁ、多分今回珠洲に笑われたことでトラウマになって二度とそんな真似しなくなるような……。いや、ほら、ヘタレですから。
 お忙しいようですがお体に気を付けて下さいね。そして多李しk(ry

 コメントありがとうございました。


 では本日はこの辺で。ヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2006/10/17 17:07】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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