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深川22
 深川
 二十二話



 怖いモノが来る。
 とてもとても怖いモノ。
 それは少しずつ私に近づいてくる。

 少しずつ、近づいて、私を犯しにやってくる――






 ……痛てぇ。

 もうボロボロです。
 年下の三階級は軽く下の女子供にボコられました。あれ? 俺って喧嘩こんなに弱かったか?
 いや、弱いのは知ってたよ。知ってたともさ!
 でも、ちょっとこれは無いんじゃないのかなぁと思うわけですよ。

 相手が武器持ちならともかく、素手喧嘩で手も足も出ないなんてショックすぎて三日三晩寝込みたい気分。
 ああ、それは全身痛いせいかもしれない。

「身の程は分かった? これからは私の言うことを聞いて。逃げられっこないし、ここ三日くらいで一人じゃどうあっても生きていけないって分かったでしょ?」
 年下の少女の嘘のない言葉が胸に刺さる。

 確かにこのままじゃどう足掻いたって俺は生きていけない。
 癪な事この上ないが、俺には生きていく力も、俺を生かしてくれる誰かを自分で選ぶ権利も無いって事は嫌ってほど分かった。

 忌瀬に会って、それでどうにかこうにかやっていけるかなと思ったけど、結局忌瀬も一般人では無いみたいで……

 あぁ、自分が情け無い。
 本気で泣ける。

 なんで、こんなに弱いんだよ。
 弱すぎるぞ少し。

 地球のみんな、オラに元気をわけてくれぇ~、って気分だ。


 まぁ、そんな悲しい話は置いといてと。

「結局何処に向かってるんだ?」
 珠洲の後を付いて街道を南下している。方向感覚がない俺にはイマイチ実感が湧かなかったが、話を聞く分にはどんどん川辺からは放れているようだ。

 志野が耶麻臺国側に抜けたのは川辺にも伝わってるはずだから、北の街道は行けない。俺の生存はあくまで志野以外に知られてはならないと言うことなんだろう。あれだけ街道で不審人物宜しく声を掛けまくったんだから既に破綻しているような気もしたが、本当にそうであるならとっくに珠洲が止めていただろうし、許容範囲と言うことなのだろう。

 と言っても、話を聞く分には忌瀬はどうやら耶麻臺国側とつながりが或る様子。そうなると色々やっぱり破綻してくる……、と思ったのだが。

「私も付いていくからね」
 口止めを条件に忌瀬は珠洲とそんな交渉をしていた。本人曰く、面白そうだからと言うことらしい。なんでも元々耶麻臺国とのつながりはその盟主である天目という女との個人的なつながりで、その関係は復興戦争が起こった時点で解消したとか何とか……。プライベートな話なようなので、それ以上は語らなかった。珠洲はあからさまに疑っているようだったが、ともかく同行を承諾したりしていた。

「多分藤那様の所じゃない?」
 推測を口にした忌瀬に、珠洲は相変わらず愛想無く頷く。

「誰だ?」
「藤那。耶麻台国の王族でちゃんと王位継承権だってある尊い血筋のお方よ。まぁ、直系の日魅子がいる間はあくまでも王族の一人と言うことだけど」
「ふぅん」
 つまりは日魅子の親戚と言うことか……。

「でも、なんで王族なんかの所に? 女王候補って事は日魅子とつながり深かったりして、俺がノコノコと行ったらまずいんじゃないのか? 少なくとも志野の思惑的には」
 ちょっと小馬鹿にしたように珠洲の後ろ姿に言ってみるが、逆にバカにしたように鼻で笑われた。
 やっぱりコイツには一度みっちり教育してやらねば。
 まぁ、現状じゃとても無理だが……

「藤那様の性格は目立ちたがり屋で豪放磊落で不遜で不敵で自尊心が高いのよ。だから、当然日魅子がいる限り自分が実権を握れないという現状を快く思ってない人間の内の一人。名目上の官位はそれなりだけど、実効的な権力は何一つ与えられてないしね。まずいどころか最も妥当よ」
「……ふぅん」
 嬉々として教えてくれる忌瀬には悪いが、その手の話は食傷気味なんだけど。なんでこうまだ三世紀だろうにそんなに陰謀が渦巻いてるのか。人間が人間である限り、そこで行われることに変化など微塵も無いと言うことなのか? みんなで仲良く国造りってワケにはいかないんだろうか。

 そこまでしてそいつ等は何が欲しいんだろう。
 権力なんて邪魔でしかないのに。
 そんなもので、幸せになどなれないし、得られるモノだって本当は何一つ無いって分からないのか。

 ……見解の相違と言われればそれまでだけど。

「で、珠洲ちゃんとしてはその藤那ってのにどうして欲しいわけよ? 俺人質に日魅子脅迫しろって事か?」
「……アンタは切り札。生きてるってしれたら日魅子が冷静になるかもしれない。愛するモノが死んで混乱している今だったら、そんなモノはいらない。バカ正直にアンタの仇と清瑞を取り戻すために耶麻臺国に向かってるから、留守になった川辺を占拠すればいい」
 こともなげに言い放つ少女。

「そんな所か。でも、日魅子が戻ってきたら?」
「いくら日魅子でも天目を討つには時間がかかる。もし無視して戻ってきたとしても、その時は天目が背後を衝く」
「天目ならそのまま川辺も落とすわよ?」
「それならそれでいい。そうなっていればどのみち耶麻臺国も疲弊してる。後は狗根国が全て蹂躙するから」
 もう志野の策は成功したも同然。

 珠洲は冷めた声で呟いた。
 それはとても不愉快だった――

「確かに、九洲内でこの時期に戦争を起こしてしまえば、それだけ狗根国に有利にはなるわね。でも、それで本当にいいの? 結局元の鞘に収まって、狗根国が統治しておしまいだけど」
「――それはそれ。でも、日魅子だけなら最後まで残るから」

 日魅子さえ残っていれば、狗根国もただでは済まない――

 そんな言葉が幼い口から漏れて……


「――」

 のど元までせり上がった言葉を飲み込み、湧き上がる怒りにじっと耐えた。


 文句を言うのは簡単だが、それでは何も解決しない。

 考えろ。

 お前はこの世界で最弱。

 ならば最弱に見合った行動で、強者を出し抜く小賢しい論理を。

 振りかざすべきは拳ではなく、言語という名の最も発達した武器。



 知らしめろ。

 この未文明人共に情報化社会で育った人間の恐ろしさを!




 ……なんてモノローグを考えつつ、自分に出来る事が現状目の前の子供に遅れないで着いていくだけという惨めさ。

 それでもとにかく考えなければ。

 このままじゃ、俺自身はともかく日魅子がまずい。あいつにこれ以上人殺しをさせるなんて事、許せるはずが無いんだから。






 阿祖山中の庵。
 魔兎族三姉妹の住処へと私は連行されていた。

「取り敢えずこれは邪魔ね」
 兎華乃はそう言って私の背中にある刺青を指した。

 左道士がその本来の役割である祭事を執り行うものに施される呪印であり、生涯狗根国にその身を捧げることを誓う証でもある。
 刻まれたのはもう何年も前。
 まだ幼かった時分の事だ。

 左道。
 狗根国の他にもその使い手は存在するが、狗根国はその"学問"の探求に自覚的であり、如何にすればより効率よく左道士を生み出し、また強力で有用な術を使いこなせるかという点を病的なほど追求している。
 狗根国がそれを求めるのは一重に戦の道具としてだ。

 左道士十人ほどの部隊でも、その術が戦場で直撃すれば数倍の兵力を一撃で葬り去れる。煩わしい計略などを用いずとも、効率的に敵を殺す手段としてこれ以上ないほど有用な手段であり、それを量産することで狗根国は倭国の大半を支配下に治めることに成功している。

 玄武宮と呼ばれる魔界への穴が空いた場所。その行きすぎた思想の果て。
 魔人や魔獣と呼ばれる異界の化け物を召喚する為の祭壇。

 左道士に適性のある子供は、そこでこの呪印を刻まれる。
 まだ幼い肌に、魔界の穴から漏れ出す瘴気と共に刻まれる禍々しい文様。
 それは地獄の如き苦しみを伴い、半数はその場で命を落とす。
 生き残った者は選ばれた者。
 優秀な左道士としてその後の生活を送る。或いは優秀な兵器として。

 本来ならばそれは狗根国の祠祭でも正統な血筋のモノにしか許されないモノ。
 特別になるための儀式だ。
 そう言うものは秘匿されるのが常。

 だが、戦に勝つため大王は少しでも芽のある子供に片っ端から儀式を強要した。

 そして力ある者をただ作り出し、それを放置することをよしとしないのが、あの品性下劣な豚の思考。
 駒に自由意志など必要ないと言うことだろう。
 この呪印は、同時にある化け物に私の居場所を教え続ける。

「皮を剥ぐなどごめんだぞ。そもそもその程度で剥がれるものでもないしな」
 別に私も痛いのが好きだと言うわけではない。

 そもそも背中の皮をすべて剥がれたらその時点で死にかねない。

「分かってるわよ。かといってあの骸骨面をまた見たくもないし、貴方を泳がせているというなら、このまま天魔鏡の場所まで案内して貰うわけにも行かないでしょうからね」

「どうするつもりだ?」
「はずせる人に頼んでみましょうか。そう言うわけで私は交渉に行くから、兎奈美はこの人の護衛をお願いね。間違っても殺したら駄目よ?」
 にこりと笑うと、兎奈美は脳天気に返事を返した。

「姉様、私は?」
「貴方も私に着いてきて。多分、必要になるでしょうから」
「?」
 首を傾げる兔音だったが、兎華乃は微笑むだけで答えは返ってこなかった。


「じゃあ、留守を宜しく。狙われているのだから迂闊に動かないでちょうだいね」
 そう言い置いて兎華乃と兔音が去った後、残された兎奈美へと視線を送る。

 置いてけぼりを食らって何処か不満そうな顔。



 私は心の中だけでひっそりと笑った。




「なぁ、兎奈美。私と少し遊ばないか――?」

 無邪気な兎は疑うことすらしない。

 遊びという単語に一も二もなく頷いてみせる。


 私はそっと手を伸ばす。


「では――」



 ――まずは一匹。

 気づいたときには、後の祭りだ。













追記:
 始めのモノローグに意味はあまりありません……。
 特に何も考えずに書くのはいい加減止めたらどうだと思いつつ、深川がヤバげな二十二話をお届けです。

 え~、九峪の相変わらずのヘボ具合とか遂に藤那が出てくるのかとか、亜衣は何処に行ったのかとか、深川は何企んでるんだとか、兎華乃は誰に会いに行くつもりなんだゴルァッ! とか色々ありますけど、そんな話は全部うっちゃって次回からは過去編予定。

 メインは日魅子なので主人公の存在意義とヒロイン深川の地位が音を立てて陥落していきそうですが、まぁ、元から無いからいいか(笑 ちゃんと書けたら主人公もヒロインも日魅子総取りになりそうです(爆



 ではweb拍手のお返事を。
 一昨日一件目。

18:26 腹黒さん達が跋扈する中、九峪のお馬鹿っぷりに癒されますな。後、日魅子に生存を知られたら拉致監禁決定?
 と頂きました。
 主人公なんだからそろそろ活躍してもいいかなぁと思い始めていますが、どう活躍させたもんか。初期設定のスペックのあまりの低さに何も出来ない駄目主人公。
 日魅子にばれたらまぁ、確実に首輪付けられて連れ回されるでしょうなぁ。哀れな……。
 コメントありがとうございました。
 

22:31 九峪の毒が忌瀬にじわじわと浸透しているような…
 と頂きました。
 忌瀬の頭の柔らかさは多分火魅子伝でトップクラスだと思うので、感化されて欲しいところですねぇ。まぁ、九峪のジゴロテクニックが今後も炸裂すれば手駒に出来るかも……って限りなくそれは無いような(汗
 どうなるかは未だ未知数と言ったところでしょうか。
 コメントありがとうございました。


 さて、いつもなら此処で閉めるところですが、明日辺り炎戦記七巻の発売日らしいのでその話でも。まず表紙は只深だったような気がしましたが、出番あるのかなぁ? 出来ればあのキャラの使い方の指標を知りたいのですが……。六巻では香蘭表紙でそれなりに出てましたからねぇ。帯に清瑞がどうこう書いてたのも気になりますが……。

 まぁ、一番気になるのは挿絵で誰が餌食になっているかですが……。
 言っても詮無いことですが、他にいないのかなぁ。


 では本日は此処までヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2006/10/19 13:23】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(1) | page top↑
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コメント
21,22 おもしろい!!!!
衣緒、おおやっと、まともな?人が出てきた(笑)
日魅子も、衣緒に、ある程度の地位を与えるか? 衣緒も日魅子の味方になるのかな?

兎奈美も深川の手に落ちちゃうかな?(笑)

 しかし、志野の方法は、多くの人が死にますが、いくら志野の座員でも、疑問一つ無く、志野に付いていけるのでしょうか?
 もっとも日魅子がやっても多くの死が、以前も、そして、未来も発生するでしょうが・・・・。

 九峪もやっと、最弱の肉体を使う愚を悟って、これからに期待?
【2006/10/20 12:34】 URL | アレクサエル #xfGWKbWo[ 編集] | page top↑
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