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深川27
 深川
 二十七話



 復興軍が攻め寄せるその前夜。

 日魅子はそのとき初めて志都呂という男に会った。芸人一座の座長であり志野が慕う男。敵陣の真っ只中にその身を置くことを厭いもせず、見事狗根国の連中を騙しきった胆力と智謀の持ち主。さぞかし豪胆な人なのだろうという先入観は、見事に砕け散った。

 体こそ無駄なく鍛え上げられているものの、顔立ちは柔和で温かみがあり、志野や珠洲と話している様子を見ても、とても戦いに向くような人であるとは思えなかった。無論、視線には知が宿り、立ち振る舞いに隙は無く、並みの人物ではないことははっきりとわかったが、それでも日魅子にはこの時代の人間に共通して感じ取ることができた、あの血なまぐささを志都呂から感じ取ることができなかった。

「火魅子様。お初にお目にかかります。座長の志都呂と申します」
「…………」
 だから話しかけられても直ぐに反応ができなかったのは、単に戸惑っていたからだ。

「火魅子様?」
「え、ああ。よろしく」
 気安い言葉に今度は志都呂の方が当惑する。それでもさすがに火魅子を前にして緊張していたのか、その仕草もすぐに隠した。
 日魅子も気まずそうにひとつ咳払いすると、仕切りなおす。

「……話の方は志野に大体聞いたかしら? 明日復興軍がこの街を攻めるから、私たちも内応する。改めてあなたに聞いておきたいのだけど、この街の総兵力は?」
「現在百二十ほどです」
「いけるわね。復興軍は部隊を五百ずつ南と東からこの街を攻める。突撃する部隊にあわせて城門をこじ開けるのが仕事よ」

「兵力に圧倒的な差がありますからね。穴が開いてしまえば勝敗はそこで決するでしょう」
「ごり押しで落とすのも簡単ではあるけど、何せ初戦だしね」
「問題ないかと思います」
「……あったら言ってもいいわよ?」
 半ば挑発をこめて日魅子はつぶやく。志都呂は一瞬だけ驚いたが、すぐに首を振る。

「私なれば違うやり方をとるということはあるかもしれませんが、それでもそれは趣味の範囲で、結果としては何も変わらないかと存じます」
「言ってみて」
「では僭越ながら。無駄な犠牲を払わないことを最善に考えるのであれば、決戦の時間を早めて早朝に襲撃をかけるべきです。そのほうが内応での危険性も減りますし、何より先に城門を空けておいたほうが効率がいいでしょう。私どもなればそれも可能かと思います。しかし……」

「私が重視しているのは兵の調練もかねた戦闘であり、この場合は楽勝することにあまり意味は無い……」
 いたずらっぽく笑って先を言うと、志都呂はまいったとでも言うように苦笑して見せた。
「さすが火魅子様。私などの考え程度お見通しですか」

「あまり民に犠牲を強いたくないのは私も同じだけど、これは民のための戦でもあるのだから。犠牲を最小にしようと思えば私が戦うのが一番手っ取り早いのだけど」
 憂える表情を見せる日魅子。志都呂はそれをきっちりと誤解して受け取った。

「確かに、それでは民は何も得られませんし、実感もわかないでしょうね」
 日魅子は無論、政治的、軍事的な意味でその手段を使えないといったわけではない。そう言い訳して、自分が手をこれ以上汚したくない、人を殺したくないと思っていただけだ。その場にあれば体は勝手に動くであろう。しかし、平時において人を殺すことを考えるのは今の日魅子には到底無理なことだった。数日前の深川との一件以来、日魅子の中に拭い去れない人殺しへの忌避が生まれてしまっていた。できるならば、もうそんなものは見たくないと、心の底から願うように。

 それでも、復興軍の脆弱なことを思えば、またいつか近いうちに自ら手を下さなくてはならなくなるとわかっている。わかりきっている。だから、それが怖かった。今は、そうしなくていいように周りの人間を鍛え、自分だけはできるだけ綺麗でいようと必死になっている。

 そして、それら浅ましい自分の心根が、さらなる自己嫌悪を生んで心は際限なく蝕まれる。
 一人も十人も同じこと。百人も千人も同じこと。人殺しには変わりないのに、と即物的に判断する火魅子の価値観と、そう思ってしまったらもう終わりだという日魅子の良心の葛藤。火魅子として、人から王へ、王から神へとその能力とともに心まで変質してしまうことが恐ろしくて、日魅子はその壁を乗り越えることを拒んでいる。

 そんなことを今ことさら想起させられるのも、目の前の男のせいなのだと日魅子はふと気づいた。

「志都呂。志野には話したけど、戦いが終わったら耶麻台国の復興を手伝ってもらいたいのだけど?」
「是非もありません。火魅子様直々にお誘いいただいて、この上ない誉です」
 人懐っこい顔に満面の笑みを浮かべて笑う男に、日魅子は懐かしい幼馴染の面影を見ていた。






 始まった戦は何もかもうまく行った。
 何一つ、破綻が無かった。

 伊雅と星華に率いられた二つの部隊は、亜衣の策によって時間差をつけて刈田の街、南面と東面に襲い掛かった。はじめ五百一部隊を陽動に使ったおかげで南面に戦力が集中し、東面での防備が減少。芸人一座ともぐりこんだ復興軍の乱破数名はそこをついて撹乱した上で東門を確保。そこに埋伏していたもう一軍が突撃することで、あっさりと刈田の街は陥落した。

 犠牲者は復興軍側においてはわずか数名。負傷者を含めても五十名にも満たない数だった。その大半は南面に向かった部隊であり、陽動のため派手に動きはしたが、その分無理な攻めをしなかったことが犠牲者が少なくなった理由だと言える。その点、自分の役割を自覚し上手く部隊を動かした伊雅の実力はかなりのものであることがはっきりとした。派手な活躍をしたのは王族の星華のほうではあったが、日魅子の中での評価では歴然としていた。

 戦は万事上手くいき、しかしその後のことまで何もかも上手くいくほど世の中は甘くは無かった。刈田を掌握してその維持は適当な武将に任せ、一旦美禰へと戻り軍議を開くこととなった。

 その席で日魅子は志都呂達一座を復興軍に迎え入れ、中でも志都呂と志野に重要なポストを与えることを伝えると、その場は騒然となった。どこの馬の骨ともわからない輩を要職につけるのは危険すぎるというのだ。

 今現在復興軍で要職に就いているものの多くは、かつての耶麻台国において、ある程度地位のあったもや狗根国との戦いをずっと行ってきた者たちで構成されている。それぞれ顔は知らなくとも名は知っていて、どこぞこのだれそれと言えば身元を照会する必要も無い程度に信頼が置けるのだ。

 そこにきて志野も志都呂もまったくのよそ者。いや、正確に言うならば若いということの方が問題なのだろう。血筋が尊いわけでもなく、戦の経験があるでもないのに唐突に重用されることに、不満を覚えないことの方がおかしいのかもしれない。これまでも人事は日魅子がほとんど一人で行ってきたが、今回ばかりは納得がいかないと思ったものも多いようだった。

 しかし、あからさまに日魅子を非難することもまたできない。御旗であり全能者という認識が主だから、深謀遠慮あってのことだろうと思うしかなかった。だからこそ、不満は志野と志都呂本人達に向かう。あまり心地いいとは言いがたい視線にさらされ、志都呂も志野もいづらそうにしていた。一方日魅子の方は、自分の目に狂いはないと知っているし、これ以上の人材がそうあるわけでもないとわかっているだけに特にそのことで迷いは無かった。二人ならば確実に実力でこの場にいる者たちを黙らせることができると信じていたから。

「不満に思うものも多いと思う。しかし省みて欲しい。なぜ耶麻台国が滅んだのかを。火魅子の不在は元より、長年の安寧がもたらした官吏の腐敗、軍の惰弱化が何よりの原因だ。一度滅びた国を取り戻すのは私の使命だ。しかし、同時にもう二度と滅びない国をもたらすためには、火魅子不在であろうとも国を支えていける人材を育てることが必要だ。この二人はそのさきがけ。優秀と判断したもの私は類別無く重用する。これからも似たようなことはあるだろうから、皆にはそれが私のやり方なのだと、今のうちに覚えていて欲しい。以上だ」

 言いたいことだけ言い終えて、その後は亜衣主導で今後の復興軍としての活動について話し合われた。






「火魅子様。お時間をよろしいですか?」
 軍議が終わった直後、声をかけたのは亜衣。
「別にかまわないけど。内密な話?」
「はい」
 首肯した亜衣を日魅子は自室まで招いた。

「で、何?」
「あのお二人の件ですが……」
「言いたいことがあるなら聞きましょう」
 亜衣はこほんとひとつ咳払いをする。

「先ほど賜りました言葉は少々危険です」
「どのあたりかしら?」
「古い体制を批判することは、今集まった故山の武将達にとっては無能と言われたも等しいのです。火魅子様からそのような言葉を下されたとあっては、心中穏やかとは行かないでしょう。最悪復興軍から抜けられてしまいます。ただでさえ戦をまともに経験した歴戦の武将が少ない中、故山の武将達はやはり貴重。ここで抜けてもらっては復興軍の戦力が大幅に減少します」

「……確かにそうね。でも、ああでも言わないと志野や志都呂を重用することに誰も納得しないでしょう?」
「ありていに言えば、私も納得していないものの一人です」
 はっきりと意見を口にした亜衣に、日魅子は目を丸くする。火魅子になって以来、それを自覚しながらここまではっきりと意見を言える人間は初めてだった。

「なぜ? やはり怪しい? 人間性は私が保証しますが」
「火魅子様が選ばれた人材に不備があるとは到底思えませんが、やはり戦果といっても目に見える形で何か貢献したわけでもありません。確かに刈田攻略に関しては彼らのおかげで損害を著しく小さくすることができましたが、言ってしまえば刈田くらいならば今の復興軍で真っ向から落とせるのです。行ったことは確かに非凡ではありますが、結局あの街を落としたのは復興軍ですし」

「目に見えての功績も無いのに、素性の知れないものを重用はできないと?」
「ええ」
「そうですね。できればいきなり私の補佐くらいして欲しいものだけど、さすがにそれは無茶か」
「ずいぶんと高く買っておいでですね」

「正当な評価をしているだけのつもりだけれど」
 一瞬だけ二人の視線が交錯したが、次の瞬間に亜衣は頭を下げていた。
「出すぎた発言でした。申し訳ありません」
 形だけ下げられた頭に、日魅子はそれを慇懃無礼ととったが、それでも何も言わなかった。亜衣の発言にも利はあり、正論を述べているに過ぎなかったのだから。

「話はわかりました。一応亜衣の発言も考慮には入れておきましょう。下がっていいわよ」
「では、失礼します」
 亜衣が出て行った部屋の中で、日魅子は組織の長として勘案しなければならないことの多さに、うんざりしながらどうしようか考え始めた。













追記:
 お久しぶりですねぇ~。……すみません、更新がずるずると伸びてしまって。
 別に遊んでいたワケではないのですよ。ええ、多分(汗 ほら、年の瀬で私も類に漏れず忙しいのです、きっと。
 えぇと、今回も過去編をダラダラと繰り広げていますが、三十話くらいまでには終わるかなぁと思いますので九峪の出番はもうしばし待って頂ければなぁと思います。


 ではweb拍手のお返事を。
 11/19日分。

22:20 時間を忘れて読み耽りました。悔しくなるくらいどっぷり感情移入してしまいました。ありがとう。
 11/20日分。

20:45 昨日の拍手で書き忘れたけど全部読んだのは火魅子伝。オリジナルの方はまだ千人殺しとOLSの1・2作だけ
20:46 ですが、これから挑戦したいと思います。天目最高。
 と頂きました。
 同じ人の用なので一括りに。時間を忘れるほどだなんて書き手としてはこれ以上ない誉れでございます。こちらこそありがとうございます。オリジナルの方は、まぁ、アレです。二つ星以下は正直読まんでも……。読んで頂けるならば嬉しいですけどもね!
 コメントありがとうございました。

 他にも叩いてくれた皆様に感謝を!

 続いてアレクサエルさんからのコメント。

26話おもしろいです。
最初は、日魅子と志野の関係も良好だったですね。
志野も黒化していませんし。
しかし、志野の座に鏡があると言う事は、この話でも志野は、火魅子候補?
 志野の所に鏡があったのは不幸なる偶然ですね。火魅子候補という設定は特にありませんし、そのこともあまり重要ではないと言う火魅子伝としてどうよ? というのがこの話なので。まぁ、所持していたことだけが不幸かどうかはよく分かりませんけどもね。


>「志野は、望みを叶えるのに自分以外の力を頼る事はしない。自分の力で出来ない望 みなど持たない現実的な人よ。清瑞とそう言うところは似てるかもしれないわ」

 その通りだと思います。 しかし、後に鏡等の力を利用しようとしているのは、それだけ、怒りと憎悪が激しかったのでしょうか?
 その辺の志野が黒化するお話へ向けて着々と過去編は進行中。誰がどうなるかはまぁ、言うまでもなく分かり切ってはいると思いますが、だからこそ書き手として大変ですねぇ(溜息


 清瑞の処理。 まあ、当たり前ですね。 反乱軍に、いや、この時代に捕虜収容所なんてないでしょうし、こんな重要機密を知っている敵方を生かして置ける訳ないですよね・・・・・・・・・・・。
 当然と言うのは理解できてもそれを嫌悪せずにはいられない日魅子。ああ、不幸な少女に幸あれって感じです。まぁ、不幸のどん底に突き落とすんですが(笑 捕虜の扱いは特に協定も無いですし殺さなければむしろ正気を疑われかねない行為でしょう。大した価値がないのであれば挑発のためにやる事もあるかも知れませんが、殺した方が不確定要素が減る分、後が楽ですからね。

 コメントありがとうございました。

 明日からもう師走で、結局十一月は四回しか更新していないなぁと言う駄目駄目っぷりでしたが、来月も多分変わらず忙しいような気がするので、あまり更新速度には期待して貰わない方が懸命かと思います。出来るだけ週一ペースには戻したいと思いますが、はてさてどうなるやら。

 では本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2006/11/30 17:47】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(1) | page top↑
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コメント
 27話よし
>火魅子の不在は元より、長年の安寧がもたらした官吏の腐敗、軍の惰弱化が何より の原因だ。一度滅びた国を取り戻すのは私の使命だ。しかし、同時にもう二度と滅びない国をもたらすためには、火魅子不在であろうとも国を支えていける人材を育てることが必要だ。

 その通りだと思います。 原作では、その事が言われてませんからね。

>古い体制を批判することは、今集まった故山の武将達にとっては無能と言われたも等しいのです。

 と言うか無能でしょう。 無能だから、滅ぼされた。
グインサーガで、イシュトバーン(未来のゴーラ王)が、復興への兵を挙げようとする、亡国の公女アムネリス(未来のモンゴール女王)に、確か
 
 「民は、普段、兵役やら税やら払っている代わりに、支配者に生命やら財産を守ってもらうんだ。 支配者が、国民を守れないんだら、それは、国民への裏切りなんだよ。 無条件に亡国の民が従うと思うな!!!」
 の類を言っていました。

 少なくとも、旧耶麻台国支配層は、一度、手痛く国民を裏切っていますからね。
例え、九洲を取り戻せたとしても、それまで死んだ人は、戻ってきませんからね。
【2006/12/04 23:29】 URL | アレクサエル #xfGWKbWo[ 編集] | page top↑
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