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深川28
 深川
 二十八話



 刈田の街攻略のごたごたで先送りにされていた鏡の件。
 晴れて一座も復興軍に加わったので、改めて日魅子から話が来た。志都呂も志野もそれがそうであることなど知らない様子でただ驚いていた。

「……間違いない。これ、天魔鏡じゃない」
 受け取った後でつぶやいた言葉に、その場にいた志都呂は首をかしげた。
「違うのですか? あいにくと銅鏡はほかに持ってはおりませんが」

「まるきり関係が無いわけでもないみたいだけどね」
 日魅子はその鏡から感じられる不思議な波動に、その用途を知る。
「これは天魔鏡のありかを示す鏡ね。こしらえは凝っていないけど、それでも特殊な力を感じる。方術師か左道師ならばこれを使って場所を探ることもできるでしょう」
「なるほど」

 日魅子はそれが天魔鏡そのものではなかったことに少しだけ落胆もしたが、同時にどこか安心もした。今、もし手元に天魔鏡があったならば、衝動的に願いをかなえたくなってしまうかもしれない。火魅子としてそれはやってはいけないことだった。

「それにしても鏡ですか。これを狙った輩がいたと聞いておりましたが、だとすれば危険ではありませんか?」
 志都呂の言葉に日魅子は苦笑する。

「私が持っていれば何も問題ないわ」
「確かにそうですが、そもそも狗根国は扉を探すためにこの国へと侵攻してきたのだと聞いています。それがここにあるとすれば、いきなり大部隊を送り込まれても不思議ではない」

「可能性は大きいわね。でも、気づかずに奪われるよりはよほどましな展開とも言えるわ」
 狗根国が大挙して押し寄せる。そうなれば日魅子も人殺しがいやなどとは言えなくなる。そのときは、火魅子としての力を存分に振るって、虐殺を繰り広げねばならなくなるだろうう。
 そのことを想像して一瞬だけ震える。

「…………」
 志都呂はその様子を見て取り、その胸にそっと決意を抱いた。






 生来志都呂と言う男は他人の心の機微に聡く、穏和な気性とあいまって特に子供に好かれる性質であった。やさしくおおらかで、争いごとが嫌いな反面、物事の善悪には殊の外厳格で、それゆえに狗根国の非道に対して心を痛めることが多く、火魅子が降臨したと聞いていてもたってもいられず行動を起こしたというのが、刈田の街での謀略の顛末であった。

 志都呂は自分のために生きる人間ではなかったし、どちらかといえば自分など無視して他人に尽くす性格であり、今の芸人一座も九洲で身寄りをなくした子供を食わせるためにはじめたようなところがある。

 それは周りから見ればあまりに奇異なことで、いったい志都呂が何がしたくてそんな真似をしているのか、わかるものはいない。本人すらもそのことには無自覚で、それが当然だと思ってしまっている。

 おかしいのは周りで自分は正しい。
 紛れも無くその時代において、志都呂は狂人であった。

「……志都呂さん?」
 同衾していた志野にかけられた声に、志都呂は苦笑しながらそちらを見た。
「起こしてしまったか。いや、すまない」

「何か、考え事ですか?」
 実際志野も今の状況は頭が痛かった。復興に尽力するのに異論は無いが、それでもいきなり一軍を任され、周りからねたみや恨みつらみのこもった視線を向けられるのは勘弁して欲しい。これから打倒狗根国という大事業をやらなくてはならないのに、復興軍は内部でいくつもの派閥がすでに出来上がりつつあり、その立ち位置を考えるだけでめまいがしそうだった。

「例の鏡を渡しにね、昼間火魅子様のところに行ったんだが」
「それが? また何か無茶なことを言われたとか」
「何かいままで無茶なことを言われたことがあるのかい?」
 言われて苦笑する。

「今こうしてこの立場にいるのは無茶なことです」
 志都呂もそういわれて納得したように微笑んだ。
「火魅子様なんだが、見ていて少し気になってね。私などが心配することではないと思うのだが」
「……それは、私も少しわかります」

 志野自身、日魅子に対して特に悪感情は抱いていなかったし、ある種の憧れすら抱いていたが、それでもどこか強大すぎる力を持つ日魅子を恐れてもいた。何がとははっきり言えないが、それでもどこか日魅子を見ていると不安になる。
 そのことを話すと、志都呂はうなずく。

「不安になるのは確かにそのとおりだね。それは、多分火魅子様が不安定だからだ」
「不安定?」
「普段は超然とした姿をわれわれの前に見せているが、不意に年相応の顔をのぞかせることがある。あれだけの力を持ちながら、それはとても危険なことだとは思わないかい?」

「危険、でしょうか?」
「細かいことはわからないけど、多分彼女はそんなに強くないんだと思う。だから、一人でこの国を背負わなければと思い込んで、その重圧につぶれそうになっているのかも知れない。そして、気がかりもある……」
 不意に曇った志都呂の顔に、志野はそれがとても悪いことなのだとわかった。

「……志野。私に何かあったときは一座の皆を頼むよ」
「なんです、縁起でもない。私は、死ぬときも志都呂さんと一緒です」
 不安に震えそうになるのを懸命にこらえて、志野は志都呂にしがみついた。そして厚い胸板から伝わる鼓動とぬくもりは、そんな不安を一時的にやわらげてくれる。
 この人が死ぬなど許さない。二人で、必ず生きる。

 志野は人知れずそのことを誓った――






 次の標的は全会一致で川辺城。その攻略のために乱破を数名川辺城内にもぐりこませるという話になった。戦では情報が命。特に攻城戦となれば城の概略だけでも知っていたほうが攻める上で効率がいい。街の状況、内郭の位置。塀の高さ、etc..。必勝を期すためにはできるだけ確度が高い情報が要求される。

 乱破の仕事となれば、まず筆頭に清瑞の名が挙がる。伊雅に幼少より鍛えられてきた上、母親も腕利きの乱破であった清瑞は、日魅子のお墨付きもある上、ただの情報収集に問題があるとも思えなかった。火向の国都だけにそれなりの警戒は予想されるが、ただ進入するだけであれば問題ないと判断された。

 その夜。日魅子の元を伊雅が訪れ、清瑞を川辺城へ向かわせることをやめて欲しいと懇願してきた。聞けば清瑞は実のところ伊雅の本当の娘であり、日魅子に次ぐ血統の持ち主であるという。今代の火魅子は日魅子であるが、耶麻台国がこれからも続いていくためには、その血統が絶えることがあってはならない。火魅子を生み出すために王族が滅んで困るのは日魅子とて同じ。清瑞ならば問題はないとはわかっていても、そのことを聞かされればあまり危険な任務に向かわせるのもためらわれた。

 乱破として清瑞以外に頼める者となると、そう多くはない。その気になれば日魅子直々に行ってもいいのだが、刈田を落としたことで狗根国がどう動くかわからない情勢で最高司令官が本拠を抜けるわけにも行かない。

「となると……、難しいわね」
「そういえば、火魅子様が連れてきた、あの志都呂という男などどうでしょう? 聞けばすでに何度か川辺城に侵入しているという話。適任ではありませんかな?」
 伊雅の発言に日魅子はあきれ返る。

「伊雅さん。志都呂は刈田の遣いとして川辺を訪れていたんですよ? すでに刈田が落ちたと話が広まってから、のこのこ出向いたらつかまるのがオチです。もっとも近づいてはいけない人選ですよ」
「むぅ、そうか」

「仕方ないから清瑞以外で適任がいないか亜衣あたりに……、誰?」
 部屋の外に沸いた気配に、胡乱気な視線を向ける日魅子。伊雅は剣を手にし身構えたが、外から聞こえてきた声は今話しに上っていた当人だった。
「……申し訳ありません。立ち聞きするつもりはありませんでしたが」
「志都呂……、一人?」

「はい」
「入ってもらえる? ついでだからあなたにも聞きたい」
 日魅子の言葉に居住まいを正す伊雅。しかし警戒はまだ解いていない。伊雅も日魅子が連れてきた志都呂をまだ信用はしていなかった。

 志都呂が部屋に入ると、まずは何の用でここを訪れたのか問いただす。
「たまたま報告を受けたのが志野だったのですが、南にある当麻の街で復興軍とは別の反乱が起きていたと報告が入っておりましたので、お耳に入れようかと」
「別の反乱?」

「はい。詳しいことは追って報告が入ると思われますが、旗色もあまり良くないようなので、復興軍に援軍を求めているようです」
「伊雅さん。当麻の街の規模は?」
「ここ美禰とそれほど変わらないですな。狗根国兵もおそらくは同程度かと」

「亜衣に言って訓練中の兵士から五百の部隊を編成させて志野に預けて。それを明日の朝一番に出立できるように用意を」
「志野に……、ですか?」
「私は志野にがんばって欲しいと思っている。そしてこの程度ならば何とかこなしてくれると信じてるわ」

「わかりました。では私は……」
「待って」
 立ち去ろうとした志都呂を日魅子は呼び止める。
「何か?」

「話がまだ終わってないわ。志都呂、あなたどこまで聞いた?」
 射すくめるような日魅子の視線。志都呂は明け透けに笑って答えた。
「私を川辺へ向かわせるかどうか……の話をされていたようでしたが」
 探るような伊雅の視線を受け流し、清瑞の話には触れない。

「そう。はじめはどうしようかと思っていたけど、やってくれる?」
 唐突に意見を百八十度変える日魅子。
「できれば志野について行きたいのですが……」

「軍の指揮ならば志野の方が向いているでしょう。あなたには、あなたにしかできないこともある」
「……わかりました。ご命令とあればやらせていただきます」
「無理はしなくていいわ。多分、城内の情報はそれほど必要ではなくなるだろうから。それと、ひとつ流して欲しい噂があるの」

「噂ですか。構いませんが……」
「それはね……」

 もたらされた新たな反乱と、それを利用した奇策。成功するかどうかはわからなかったが、してくれれば少しは楽ができそう。日魅子は単純にそう考え、志都呂に任務を依頼した。適任ではあったし、日魅子の話を聞いた後であれば、状況に応じた判断もできると踏んでいたから。

 それは実際そのとおりだったし、清瑞をはずすとすればそれは最適の人選ではあった。
 だが、たとえ火魅子とはいえ、すべての事象を見透かすことはできない。歯車は、徐々に狂い始めていた。






 暗黒を纏い、髑髏の面容を持った男は長年待ち望んだ反応を得て、九洲を訪れていた。本国から再三再四に渡って催促を受けていた探し物。個人的にも因縁深きその具物を決して他のものの手に渡らぬよう、網の目のように糸を張り巡らしていたかいがあったというものだ。

「カカカ、よもやまだ彼の地にあったとはな。すでにどこか遠く手の届かぬところに消えたものと思っておったが」
 骸骨の歯がカチカチと音を立てて鳴る。万人が嫌悪するその笑いを当然のように無視して、狐面の男が異形の上司に伺いを立てる。

「深川との事ですが、報告はあがっておりませぬ。やはり裏切りの心算かと」
「カカカ、まぁそうであろうて。あらゆる願いがかなうと知って、それを自らの手の内に納めたくないものなど居はしない」

「さりとて身の程を弁えぬ願望はその身を滅ぼすのみ。愚劣なる者どもにはそれもわからぬと見えますな」
 また、骸骨の歯が鳴る。
「カカカ、しかし報告からするとすでに鏡は彼の女王の手の内か。これはちと厄介だの」

「正面からではさすがに蛇蝎様と言えど」
「出し抜く手はあるだろうよ。何、他のものにも手出し出来ぬのは一緒。せいぜい絡め手で攻めてみようか」

「では、取り急ぎ。深川の方は……」
「自分の意思で動く駒はいらぬ。何ができるわけでもあるまいが、のこのこと現れるようならば始末するがいい」
「御意」

 蛇蝎と呼ばれた骸骨は、部下の狐面の男が去ると同時にカカと笑う。
 楽しそうに。
 本当に楽しそうに。













追記:
 骸骨参戦。ただでさえ暗いお話に加速を付けるように最悪のキャラが……。状況は悪化の一途をたどりそうですねぇ。


 web拍手はコメントは来て下りませんでしたが、叩いて下さった皆様に心よりの御礼を申し上げます。

 アレクサエルさんからのコメント。

 27話よし
>火魅子の不在は元より、長年の安寧がもたらした官吏の腐敗、軍の惰弱化が何より の原因だ。一度滅びた国を取り戻すのは私の使命だ。しかし、同時にもう二度と滅びない国をもたらすためには、火魅子不在であろうとも国を支えていける人材を育てることが必要だ。

 その通りだと思います。 原作では、その事が言われてませんからね。
 独裁国家の弱点ですよねぇ。リーダーによって国が左右されてしまうので、それに足る人がいないとボロボロになってしまうという。某北の国のように。かといって、周囲に権力を分散させると反乱が起きやすくなるし、国家運営は難しいものです。


>古い体制を批判することは、今集まった故山の武将達にとっては無能と言われたも等しいのです。

 と言うか無能でしょう。 無能だから、滅ぼされた。
グインサーガで、イシュトバーン(未来のゴーラ王)が、復興への兵を挙げようとする、亡国の公女アムネリス(未来のモンゴール女王)に、確か
 
 「民は、普段、兵役やら税やら払っている代わりに、支配者に生命やら財産を守ってもらうんだ。 支配者が、国民を守れないんだら、それは、国民への裏切りなんだよ。 無条件に亡国の民が従うと思うな!!!」
 の類を言っていました。

 少なくとも、旧耶麻台国支配層は、一度、手痛く国民を裏切っていますからね。
例え、九洲を取り戻せたとしても、それまで死んだ人は、戻ってきませんからね。
 無能だから~、と言うのはある意味正しいのですが、かといって人材がいない以上気休め程度にも起用しないわけにはいかないし、そう言う故山の連中がある程度兵の信奉を集めていたりすると更に大変に。戦争に負けたのは支配者側の責任ではありますが、一介の武将レベルでも無能揃いだったかどうかはよく分かりませんし。亜衣の言うことも利がないわけでも無いですが、古い体制にしがみついていると日魅子に取られても仕方がないですかねぇ。今集まっている民の考えが、あのときは火魅子がいなかったから滅んだのだと言う認識だとすれば、日魅子の苦労は絶えることが無いでしょう。
 コメントありがとうございました。


 では本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2006/12/05 18:33】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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