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深川29
 深川
 二十九話



 宵闇をかがり火で僅かばかり退け、暗い闇の中にぼんやりと浮かぶ城郭。

 志都呂は冷や汗を掻きながら、必至で走っていた。月明かりすらほとんど無い闇の中を、恐怖に引きつった顔で。

 任務は無事果たし、後は美禰へと戻るだけ。戻って、情報を伝えなければならない。 外気は動いていた志都呂には暑いくらいの気温なはずなのに、凍えるような寒気を感じていた。それは言いしれぬ恐怖。川辺城から出ると同時に襲いかかってきた、正体不明の殺意。

「……どこへ行こうというのだ」
 急ぐ志都呂の前に立ちはだかる男が一人。ぼんやりと闇に浮かぶその人影を見て、志都呂は足を止めた。

「――何者だ」
 精一杯の虚勢を籠めて発した呟きを、男は妖艶ささえ漂う笑みで向かえる。
「知る必要はない。これから屍に変わるのだ」
 優しくそう言うと、同時に闇に薄ぼんやりと浮かんでいた男の姿が消える。まるで溶けるように。
 志都呂は懐から短刀を取り出すと、街道脇の木を背にして周囲に木を配る。

 ――あの服装。おそらく左道士。

 呪文の詠唱があるはずだと、特に聴覚を研ぎ澄ますが、衣擦れの音すら聞こえない。僅かに吹いた風に、木々がざわつく程度の事だ。
 音と言えば他にはうるさいくらいに響く自分の心臓の音。変わらず身を包み、精神を削る殺気とそれから来る寒気は、ジリジリと志都呂を追いつめていた。普段は冷静な志都呂も、得体の知れない感覚に落ち着きを失い、いつ襲いかかるとも知れない死を探して、視線が闇の中を泳ぐ。

「どうしました? そのように脅えて」
 あざけりの含まれた冷たい言葉は、志都呂の背後から。白く血色のない顔と腕が闇から飛び出し、志都呂へと無情にも襲いかかった。






 志都呂を書いた一座は、志野を頭として一軍を率いて当麻へと向かった。名目上は彼の地での反乱を支援するためとなっているが、日魅子はこれを利用して、出来るならば川辺城の攻略まですましてしまおうと考えていた。

 火向の国都である川辺城。ここを抑えてしまえばある程度余裕も出来るし、復興戦争に勝ちうると言う思いを、民に知らしめるための象徴的な意味もある。

 だが、川辺城の推定防御力から考えるに、今の復興軍では攻略は難しい。攻城戦はとにかく兵が損耗する。勝ちきるためには川辺城以外の東火向の主立った街を陥落させる必要があると見られていた。

 おそらく川辺城の留主も同じような事を考えているはず。それまでに都督から増援を引き入れられれば、陥落させるのはより一層難しくなる。だから、何もなければ亀のように閉じこもって出てこないだろう。何もなければ。

 川辺城の推定兵力は約一千。兵の練度の違いから野戦では単純に倍の兵力と見てもいい。現状二千を少し上回る復興軍に手出ししてこないのは、野戦に応じなければ攻城戦では攻略出来ない可能性が高いからである。

 そんな折り入った当麻からの救援要請。川辺からは援軍の派遣は高確率で見送られるだろう。何せ間には復興軍が抑えている刈田と美禰がある。送ろうにもその前に復興軍本体とかち合う嵌めになってしまう。これでは何が何やらわからない。

 一方復興軍はこれを放置しておくわけにはいかない。これからも増えるであろう散発的な反乱。そこで復興軍が助けてくれると思われるのと、起こしても無視されると思われるのでは話が百八十度違う。格好だけでもいいから救援には向かったという事実を作らなくてはならない。

 順当に考えるのであれば、当麻の争いをギリギリまで待って戦力を削って貰った後で抑えるのが正しい。既に戦況は膠着状態に陥っているという報告が上がっている以上、劇的な戦況の変化は期待できず、後はジリジリと互いに消耗していくだけ。ならば、戦力の投入は限界まで待った方が効率はいいだろう。

 だが、それを無視するだけの圧倒的戦力を送り込むというのならばどうか? 当麻の戦力はせいぜい三百程度。復興軍の半数を送り込めば、例え籠城されようが勝ちはまず揺るがない。様子見などする必要もないし、何より時間を惜しむべき復興軍としてはその選択肢もありとは言える――と、敵に思いこんで貰うことが日魅子の策だ。

 刈田と美禰に二百と三百だけ戦力を残し、残り千五百を惜しげもなく当麻へと派兵する。復興軍はいつ来るとも知れない都督からの増援を怖れ、焦っていると思えばしめたものだ。この機を逃すまいと、川辺から兵が送られてくるだろう。殻に閉じこもってはどうにもならない戦力でも、外へ出してしまえば何ほどの事もない。特に、いもしないはずの兵に襲われるとすれば士気もがた落ちになり、あっさりと陥落するだろう。

 当麻へ向かった戦力の内、千二百は極秘裏に海上から船を使って狗根国軍の背後に回り込み、強襲を掛ける。それでどうにかなるはずだった。

 仮に狗根国軍が出てこなければそれでも構わない。川辺と当麻の距離から考えて、川辺城から狗根国軍が出てきたと報が入った時点で、当麻に向かっている軍に報せれば事は足りる。何より美禰の守護には日魅子が付いている。万が一などあるはずもないのだった。






 勝利に疑いはなく、誰も負けることなど想像していなかった。
 そしてそれは間違いではない。日魅子の一手がある限り、復興軍に負けなど存在しないのだ。
 だが、どんな勝利でも犠牲は出る。

「――志都呂」
 いつまで経っても帰ってこない理由は考えるまでも無かった。日魅子は唇を噛み、想定外の事態に苛立ちを覚える。それほど危険な任務では無かったはずだ。志都呂ほどの手練れがしくじるような要素は殆ど皆無。実際他にも数名いた乱破は無事に帰還し、必要な情報はもたらされている。ただ、志都呂だけが帰らない。

「……なぜ、なの?」
 分かってはいる。絶対はない。火魅子といえど未来は見えないのだから、判断を誤る事もある。突発的な不幸というのは避けようもなく、それは誰の責任でもない。運が悪いとしか言えないものだ。

「火魅子様? 報告が上がっていますが」
 知らせに来たのは音羽という女の武将だ。伊雅も亜衣も、星華も志野も、全て美禰にはいない。刈田ないしは当麻への援軍の方へとついている。音羽は火魅子の近衛として美禰の守りを指揮することになっていた。
「動いたの?」
 音羽は小さく頷く。川辺で動きがあった。ならば程なくこちらにもやってくるだろう。
「恐らくは刈田は無視すると思うけど、伊雅さんは大丈夫?」

「はい。問題ないかと思いますが」
 嘗て侵略戦争で籠城戦の経験を幾度と無く積み、副国王として復興軍でも重要な立場にある伊雅以上に、適任などいるはずもなかった。籠城側で特に大軍を相手にする場合、士気の意地が何より重要になる。火魅子や伊雅が指揮をとるならば、このまま見捨てられるはずがないと兵が思える。それは単純な指揮能力以上に重要なことでもある。

「……音羽。美禰の指揮は全て貴方に任せるわよ」
「は?」 
 唐突に訳の分からない事を言った日魅子に、音羽は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。
「私は少し出かけるから。すぐ戻るつもりだけど」
「えぇっ!! そんな困ります」
「なんとか踏ん張って。必ず戻るから」
「いえ、しかし!」

 言い縋る音羽を振り切り、日魅子は街着に着替えると美禰を出た。自分勝手だとは思ったし、火魅子としての自分が激しく責め立てるのを感じながらも、それでもいても立ってもいられなかった。自分の命令で人が死ぬ。それは享受したつもりだった。知っていたはずだった。責任も自分が背負わなくてはならないのだと分かっていた。
 それでも、志都呂が死んだのだとすれば、それは――

 割り切らなくてはならないのだと思う。
 知った人間だからきちんと確かめたいだなんて、唾棄すべき行為だと分かっている。

 でも、志都呂の事を愛しげに語る志野の顔が瞼の裏にちらついて、その度に胸が締め付けられた。


 志野に、なんて言えばいい?
 志都呂は私の出した命令で死んだ。
 任務を遂行する実力はあったはずだが、どういうわけか帰ってこなかった。
 まぁ、運が悪かったね――、そんな事を言えとでも?

 せめて、理由が知りたかった。
 きちんと申し開きするために。

 許してくれるはずが無いと知り、ただの自己満足であると自嘲しながら、日魅子は今にも泣きそうな顔で、川辺城へと走っていた。













追記:
 日記の方にも書きましたが、PC(主に小説書いてた奴)のデータが吹っ飛びました。おかげさまで枕を濡らす日々です(涎で)。ふて寝しっぱなしですよ実際。まぁ、いつまでゴロゴロしても失ったものは戻ってこないので深川の続き書いてみました。blogの小説の方は別のPCで書いてるから無事だったんですけどねぇ。今年はサンタさんに消えたデータをプレゼントしてくれるようにお願いしようかなぁ~(泣


 と言うわけでweb拍手のお返事です。
 5日分。

22:55 そろそろ新説の方も…イエ、全然深川出てこないからつまらないとか思ってませんよ?
 といただきました。
 ああ、つまらんですかねぇ~。作者もそう思ってました(爆 新説はまぁどうなんだろう。どうにかなるかも知れないしならないかも知れないし。少なくとも今は別の話とか考えられる状態じゃないかもわかりませんね。
 コメントありがとうございました。

 8日分。

0:30 新説の久峪は黒くてかっこいいなぁ
 と頂きました。
 新説の九峪って黒かったっけ? と既に内容を忘れている駄目作者です。深川の方は展開を加速させてさっさと終わらせようかなぁと思ってますが、他のはどうしましょうかねぇ。取り敢えずこれ以上新作はいらないだろうし……。
 コメントありがとうございました。

 他にも叩いて頂いた皆様に感謝を! アリガトネ!


 では本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2006/12/12 17:07】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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