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深川31
 深川
 三十一話



 追いついてみれば、全ては終わるところだった。
 あの人は、最期に私に笑いかけていた。
 不思議と、その意味は全て伝わったと思う。

 ――だから、私は決して許さないことを誓った。






 川辺城の外には兵士が列を成し、ただ一人の少女に対峙してた。
 周囲は夜のとばりを追い払うようにそこかしこにかがり火が焚かれ、昼間のように辺りを照らしている。

 その特殊な状況もあってか、その場には微妙な空気が流れていた。
 少女と対峙する兵士達など、少女がその気になれば紙で出来た壁と変わらない。一瞬で無かったことにすら出来る。それでも、あの夜のトラウマは少女を躊躇させ、それが微妙な間を産んでいるのだ。

 元より少女は人質を取り戻しにきたわけで、交渉があるとすれば選択権は向こうにある。アプローチがあるまで沈黙で答えようと、自分の行為を正当化した。有無を言わさず制圧するだけの力を持ちながらそれはしなかった。

 使者は程なく現れた。色白の狐目の男だった。その脇に枷に嵌められた志都呂を連れている。憔悴しきっているようだし、顔色も悪かったが確かに生きているようだ。

「お初にお目にかかります、火魅子様。ご要望の品はこちらで間違いございませんか?」
 小馬鹿にするような物言いを無視し、日魅子は黙って頷く。

「お渡しするのはやぶさかではありませんが、幾つか条件があります。最も今この場で力づくで来られれば、私はあっさりと殺されるでしょうが」

 日魅子の器量を試すような口調。無論、日魅子も悪戯に自体を悪化させたいと思っているわけではないし、出来るならこの場での戦闘は避けたいと思っている。血を見るのは、怖いから。
 再び無言で頷いた日魅子に、色白の男、鳴壬は大仰に手を広げて日魅子を讃えた。

「いやさすが火魅子様。一国の女王だけはある。話が通じて何よりです。こちらも無謀な戦いなどしたくはありませんからな」
「早く要求を言いなさい。私の気が変わる前に」
 表面的な殺気を籠めて科白を口にすれど、鳴壬は楽しそうに笑みを深めるだけだった。

「これは失礼を。では、僭越ながら二つばかりお願いを。一つはこのまま直ちに帰って頂くこと。生憎と歓迎をするだけの準備も整っておりませんので。もう一つはあなた様が所持しているという鏡。それを譲って頂きたい」
「そう」

 想定の範囲内だった。そも鏡の情報については狗根国の方が先に掴んでいたわけだから、こういう状況は想定できた。それでも、乱破一人と鏡。比較すればバカバカしいほどの条件だ。通常の判断力が備わっているならば、間違っても要求には応えられない無理難題。口ではどう言っていても、わざわざこの場まで日魅子を誘導したのは罠が存在し、ここで帰られては困るからだろう。

 見誤っていると言っていい。或いは先ほどの遭遇で、日魅子の判断すら織り込み済みなのかも知れない。どちらにしろ、日魅子にしてみれば敵の思惑など考える気がなかった。

「持って行きなさい」
 そう言って鏡を懐から取り出すと、草むらに向かって放り投げた。
「人質は連れて帰ります。貴方は鏡を広いにそこを離れなさい」
「……はは、あはははははは!」

 唐突に、鳴壬が笑い出した。端正な顔を歪めて、腸がねじ切れそうだと言わんばかりに。

「ははははっは、はっ、いや、失礼。無礼をお許しいただきたい。まさか、応じてくるとは……。蛇蝎様に言われたときはまさかとは思いましたが、貴方は本当にそれで火魅子なのですか?」
「試してみたいの?」

 ちらりと炎を見せると、鳴壬は笑みを浮かべたままで首を振り、ふわりと志都呂の傍から離れた。

「疑うわけではありませんが、多分に意外だったもので。さて、鏡は確かにちょうだい致しましたし、後はどうぞお帰り下さい。見送りは必要ないと思いますが」
「ええ、結構」
 志都呂の傍に近づく日魅子。身体を支えるように手を伸ばすと、掠れた声で志都呂は呟いた。

「火魅子様……、もうし、わけ……」
「気にしないで。それより歩ける?」
「は……い……」

 半ば日魅子に引きずられるように足を動かす志都呂。日魅子はとにかく生きていたことに感謝し、一刻も早く戻ろうと足を速めようと――した。


「ぐぅっ!!」


 突如腹部に走った激痛。喉を鉄臭い熱いものがこみ上げてきて、堪えきれずに吐き出す。鮮血が口と腹部から地面へと落ちた。

 今まで味わったこともない強烈な痛み。意識が明滅して何が起こったのか正確に把握できない。かろうじて刺されたのだと思ったとき、一体誰がそれを成したのか分からず困惑する。

 周囲に注意は配っていた。敵意を持つものがいればすぐに分かる。不意打ちなど、本来食らうはずは無いというのに。

「ぐ、何よ……これ……くらい」
 歯を食いしばって意識をつなぎ止め、自分の状況をしっかりと把握してから、周囲の状況を理解した。
 日魅子を刺したのは、志都呂だった。

「え?」
 困惑。想定外の事態。想定することが出来なかった事態。想定したくもなかった事態。

 火魅子としての知識は、確かにその可能性を訴えていたはずだ。
 左道に人を操る術があることも、当然のように知っていたはずだ。
 考え得る最も初歩的な罠であり、それを考慮に入れないはずは無いのに。

 日魅子の理性が、その選択肢を拒んだ。理性と言うよりは、願望か。

 傀儡に仕立てられる人間は生きている場合と死んでいる場合がある。
 前者の方はいわば洗脳であり、行動に多様性を持たせられる分だけ選択肢も広がり有用である。

 だが、仮に火魅子を暗殺しようと思えば、それは不要。殺意を気取られれば阻まれる。
 この罠を想定すると言うことは、志都呂が死んでいることを認めると言うこと。

 死して傀儡に仕立て上げられたことを認めなければならない。

 ここに来て、日魅子は自分がそんな有り得るわけもない甘い理想を追いかけていた事を知る。
 生きているように見えた志都呂を、生きているのだと信じた。

「無様ですね、火魅子ともあろうものが! まぁ、こちらには都合がいい」
 鳴壬の高笑いとともに地面からわき出す魔人や魔獣。その数数十。醜悪な生物たちを、日魅子は放心したまま見つめた。

 いや、視線はそちらを向いていない。ただ、無表情で血に濡れた小刀を手にする、志都呂を見ている。

「……志都呂」
 冷静に、今度は正確に分析する。
 志都呂に意識はない。それでも、やはり生きているのも確かだ。確かだが、もう助からない。

 身体を動かすために術で無理矢理心臓を拍動させ、血を巡らせているようだが、脳はもう死んでいる。
 志都呂と言う人格は、もう戻っては来ない。
 これは人形と同じ。その意味で、死んでいると言ってもおかしくはない。

 魔人が一体日魅子の眼前に飛び出し、大人の胴回りよりも太い腕で日魅子を殴り飛ばした。なすすべもなく、はじき飛ばされる日魅子の身体。二十メートルは優に宙を舞い、地面に落ちてバウンドする。
 日魅子は空を見上げ、覚悟を決め立ち上がった。

「火魅子様!」
 叫び声は背後から。一度だけ身を竦めた日魅子だったが、それでも振り返らずに歩みを進めた。魔人の群れと、その中で立っている志都呂に向かって。

「志都呂……さん?」
 困惑した志野の呟きを聞きながら、全てを滅っせんと召喚した天の炎を束ねる。
「火魅子様!? それでは志都呂さんまで!」
「引っ込んでなさい、志野。これで、全て終わるから」

 冷徹を装って、火魅子の宿業に乗っ取って、今この時の最善を行う。
 それが、例え志野に恨まれる行為であろうとも。


「消えろ」


 呟きと同時に放たれた炎は、志都呂もろとも魔人や魔獣を消し飛ばし、川辺城の前で待機していた兵士達さえ、余波で黒こげにした。志野は呆然と日魅子の後ろでそれを見ていた。見ている以上、何も出来はしなかった。




 日魅子は残った熱波を風で上空に飛ばし、目聡く生き残った鳴壬を見つけるとそちらに足を向ける。

「これは逆恨みの類でしょうけど、貴方を許しておくわけにはいかないわね」
「ふ、ふあははははは、すさまじい力。いや恐れ入った。それだけの力があれば九洲の地を取り戻すのも容易いか。いや、全く」
 引きつった笑みを浮かべつつ、それでも何処か余裕のある鳴壬。
 その余裕の由縁。

 日魅子は唐突にめまいを感じて膝を付く。自己治癒能力も常人とは比べものにならない日魅子は、先ほどの傷などほぼ塞がっているというのに、また血を吐き出した。

「これは……、毒か……」
「ええ、常人であれば致死量の。それで平気な顔をしてあれだけの事をやってのけるとは、正直見くびっておりました。その毒もいつまでも効いているわけではないでしょうし、正面からでは確かに勝つことは不可能でしょうから、私はこれにてお暇させて頂きます。必要なものは手に入りましたしね」
 そう言って笑みを浮かべながら鏡を見せる鳴壬。

 その余裕の笑みが、金属の打ち合う音と同時にかき消された。
「……女ぁ。邪魔だてするなら殺すぞ」

 短剣で志野の双竜剣を受けた鳴壬は、白い面を怒りに歪めて恫喝する。志野は無表情のまま、何も反応せずに機械的に鳴壬を追いつめる。双竜剣の二刀流。ただの二刀流でさえ常人には不可能と呼ばれるだけ扱いが難しいと言うのに、志野のそれはいわば四刀である。素人が使えばまず間違いなく自らを傷つけるその剣を、一切の無駄なくふるって反撃の隙を与えない。蛇蝎の片腕であり、狗根国でも屈指の左道の使い手とは言え、近接戦闘で志野を相手にするには分が悪かった。

 志野の一撃が鏡を持つ手を切りつけ、鏡が地面へと投げ出される。志野はそれには一切の興味を示さず、鏡を落として焦る鳴壬を更に攻めて立てた。
 志野と鳴壬の一進一退の攻防を余所に、ゆったりとした足取りで落ちた鏡に近づくものがあった。

「遠目で監視をしていれば思わぬ拾いものが飛び込んできたものだ。ふふ、私の運も存外捨てたものではないかもしれんな」
「深……川……」
 毒でぐったりしている日魅子を、深川は満面の笑みを浮かべて見下ろす。
「助かったよ火魅子。おかげで労せず目的のものは手に入れられた。コレさえ手に入れば後は何もいらないしな」
「……ぐ」
「まぁ、そう睨むな。私が望みを叶えれば、存外悪くない世の中になるかもしれんぞ」
 深川は邪悪な笑みを浮かべて嘯くと、またゆったりとした足取りで去っていった。






 うっすらと空が白みはじめ、志野と鳴壬の剣戟も聞こえなくなってきた頃、日魅子は完全に回復した自分の身体を確かめながら、焦土と化した川辺城前の草原を見つめていた。志野は先ほどから志都呂が最期に立っていた場所で座り込み、痕跡でも探すように地面をさすっている。鳴壬の死体が無い以上、逃げられたのだとぼんやりと思ったが、あまりそのことに意味は見いだせなかった。

 日が昇るに連れて動き出した大気の流れを感じながら、志野へと近づく。

「そんなところを探しても、志都呂はいないわよ」
 痛々しい志野の姿を見ていたくなくて、声を掛ける。
「知っています。貴方が消してしまった」
 まっすぐと見つめ、傷口を抉るように断言された言葉に、日魅子は思わずたじろぐ。

「不敬とは思いますが言っておきます。私は一生火魅子様を許しません。許せません」
「そう」
「復興軍も出ます。火魅子様を殺してしまうかもしれないから」
「そう。私は止めないわ」
 止められない。止めようもない。

「でも、その前に一つだけお聞きしたい。なぜ、志都呂さんを殺さなければならなかったんです?」
 貴方ほどの力があれば、他にも方法はあったはずだろうに。
「その方が確実だったからよ」
 志野は目を瞑ってその言葉を噛み締めると、ようやく立ち上がり正面から日魅子を見つめた。

「もう一度言います。私は貴方を殺したいほど恨みます」
「勝手にしなさい」
 その会話に、果たして意味はあったのかどうか。

 ただ、日魅子は自らの言葉で傷つき、志野の言葉で傷ついた。

「最後の仕事として私は事の顛末を亜衣さんの方へお知らせに向かいますので、火魅子様は川辺城の制圧をお願いします」
「火魅子を顎で使うとはいい度胸ね」
「これ以上、同じ空気を吸いたくはありませんから」

 志野は何事もなかったかのように言い捨てて歩き去る。
 日魅子はそれを見送った後、川辺城を見つめてただ黙って歩き出した。













追記:
 過去編ここで終わりにしようかもう一話書こうか。どうしよっかなぁ。志野と日魅子の因縁を書きたかったわけで、それはもう果たしたと思うのでいいのかなぁ。いいと言うことにしようかなぁ。そろそろ九峪書きたいし……。それにしても長かったなぁ過去編。と言うか書くの滞りすぎでしたねぇ。まぁ、割れば週一くらいはギリギリ更新していたようないないような気もしますけど。どんどん遅くなってるし……。

 ところで皆さん知ってますか? この話って深川ヒロインの話らしいですよ。どう見ても日魅子が主人公です本当n(ry

 ええ、そんなわけで過去編など無かったかのように深川様マンセーな本編に立ち戻るかもしれません。過去編前の本編から既に影が薄くなっていたような気もしないでもないですが……。

 後、蛇蝎はどこに行ってたんだとか、なんで鏡を持って逃げた深川を放置しておくんだとか、色々と突っ込みどころを残したまま、本編へ戻るかも知れないし後一話書くかも知れないし。さぁて、どうしましょう。どうしてくれましょうかコンチクショウ。

 どのみち次回更新は神の気まぐれが起きない限り来年になってからですし、その上第一週は寝正月を決め込んでいると思われるので、まぁ、ぼちぼち待っていてくれればなぁと思ったりします。去年も休み中に書くとか行って何も書かなかった前例があったりしましたので(確かDQ8にやられた)、ヴァルキリープロファイル2-シルメリア-が家にある現状、多くを期待されてももしかして困るかも。

 あまりに暇だったら大量に書いて大量にupするかも分かりませんね。こんないい加減な奴に一年付き合ってくれてありがとうございました。


 では本年はこれにてヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ

 皆さん良いお年を~。
【2006/12/28 08:42】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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