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深川33
 深川
 三十三話



「――っあぁ」
 体を揺すられている感覚に瞼を開けると、そこには珠洲の顔があった。九峪は重い体を起こすと、じっと自分を見つめてくる珠洲に首を傾げてみせる。

「何かあったのか?」
「うなされてた。病気でぽっくり逝かれても私が困る」
「……魘されてた、か」

 ――そりゃ無理もないだろ。この世界に来てからこっち、ロクな事が無い上に今は一刻も早く日魅子を止めないと大変なことになるかもしれないってんだから。その上手の打ちようが無いし。

 朝イチから自分の無力さを痛感してため息を一つ。明確な回答を求める珠洲に大丈夫だと軽く手を振って、それから立ち上がると部屋の戸を開けた。いつもそこに立っている兵士に朝飯を催促するために。

「って、ありゃ? 見張りはどうしたんだ?」
 いるはずと思っていた人間が見あたらずどうしたものかと珠洲の方に訊ねるような視線を向ける。
「外で魔獣が暴れてるって」
「魔獣……。はぁ、そりゃ大変だな」
 一度見た怪物を思い出し辟易する九峪。悪夢から覚めれば何事もない現実だった場所ではない。ここは九峪にしてみれば悪夢にも等しい世界だ。

 ――にしも、頭が重いなぁ。本気で風邪でも引いたか?
 冴えない頭を振りながら、扉をぴしゃりと閉めると、まじめな顔で床に腰を下ろし、それから珠洲を手招きする。
「何?」
 珠洲はその場から動きもせず九峪の話を促した。
「……珠洲。俺は日魅子を守りたい。だからこんな街からおさらばして、さっさとあいつのとこに戻りたいんだ」
「…………」

 色々と策を練ろうかとも考えた。だが、現実的に九峪に実行できるものなど何もない。高校生程度の表面的で断片的な知識など、現実の前には何ほどの役にも立たない。何か九峪が専門的なものを持っていれば、それを利用するすべもあったかもしれないが、あいにくと九峪には何もない。その上、この世界では子供にも負ける体力しかない。文字通り最弱。ならば、事態を打開するために取れる方策は、やはり一つしかない。

 ――つまり、誰かを懐柔し、味方につけること。
 だが、これも難しいのだ。何せ、無償で動く人間など何処にもいない。何も差し出さずに何かを得ることなど出来ない。

「そんな事は許さない。まだわかってなかったの?」
 珠洲は志野という絶対的に信頼し、信服している人間の意志を尊重する。そこはどうあっても揺るがない。ただでさえ何もない九峪に、その珠洲を動かすことなど、出来るだろうか?
「珠洲は、志野が一番大切なんだよな。誰より、何より」
「昨日も言った」
「じゃあ、今のままじゃ駄目だ」
「どういう事?」

 九峪に出せる何かで、珠洲の行動を制御できるものなど無い。実力も、地位も、人望も、名声も、何もない。
 ――だから、なければ生み出す。

「このままじゃ、志野が死ぬ。ああもう、絶対に、確実に」
 つまり、嘘を吐く。いや、あながち嘘でもない。ただ、珠洲が志野に起因した何かでしか動けないというなら、志野に関わる何かを理由にしてやればいい。出来るだけ真実みのある話を補強してやって。
「何言ってるの? 志野が死ぬわけ無い。だって志野は――」

「本当にそうか? 相手はあの日魅子だぞ。街一つ一人で潰してしまえるようなおっかない奴だぞ? それがわざわざ志野を殺すためだけに出張るって言うのに、殺せない根拠があるのか?」
 九峪には無いこともない。まだ、信じていると言ってもいいかもしれない。九峪が知っている日魅子という幼なじみが、人殺しなど本当は出来るわけがないんだと。だが、ここはそれでは駄目だ。志野に依存しきっている珠洲を動かすためには、徹底的にその身の危険性を主張しなければならない。

「俺は日魅子に、これ以上人殺しはさせないし、死なせたくもないんだ。今なら、俺なら止められる。つーか、俺にしか止められないだろ? なぁ、珠洲。お前はいいのか? そりゃ志野は頼れそうだけどさ、相手がいくら何でも悪すぎるって、本当はお前だってわかってるんだろ?」
 ――わかっててくれ。頼むから。
 祈るような気持ちで、珠洲の表情を見つめる。

「……今更、遅い。志野はもう決めたんだから。例え命を落とすことになろうとも、やり遂げるって決めたから。だから、私はそれを手伝う」
 珠洲の小さな手が、真っ白になるほど握りしめられている。
「お前、わかってて止めなかったのか?」
 九峪は意外だった。口説き落とそうとしていたのが、予定と変わって志野の真意が知りたくなる。死んでもいいから仇を討つ。それが目的なのかと。そんなもので動いているのかと。

「あんたは、わからない。大切な人が死んでも誰も恨まないなんて言う奴に、私の気持ちも志野の気持ちもわからない。他にどうしようもないから、志野はそうしてるだけ」
「……アホか」
 九峪は思いっきりバカにしてため息を吐いた。
「アホだ。アホだ。大アホだ。死んでもいいから仇をうつだ。はん、なんじゃそりゃ。笑えねえし意味無いし。それ以上に、そんなことお前の大切な人がやるってのに、それを止めねぇお前は大馬鹿だ、珠洲!」
「……何も知らないくせに」

「しらねぇよ。聞きたくもない。だけど失いたくないって本気で思ってるならお前が止めろよ! そこまで思ってる奴がいるって事教えてやれよ! じゃなきゃ気がつかないだろうが。だからんな馬鹿な真似しようとするんだろうが。復讐なんてのは所詮自己満足なんだよ。やっても虚しいだけ。無くなったもんは取り戻せないし、何したって帰ってきやしない。だから、その穴を残った奴らで埋めなくちゃならないんだろうが」

「……そんなの無理」
「無理って、お前なぁ……」
「九峪わかってない。何かで代わりになるようなものなんて無いから、だから志野は火魅子様の事を」
「わかってねぇのは珠洲の方だろ。だからそれを止めろと言ってるんだよ」

「……もういい。九峪と話しても不毛なだけ。どうせわかりっこないんだから」
「奇遇だな。俺もそう思い始めてたとこだ」
 鼻息も荒く九峪はそっぽを向く。結局自分とこの世界の人間との価値観の違いは埋めようもないのか、それとも単に珠洲の頭が固いだけなのか。わかった事は珠洲は間違っても志野の命に背いたりしないし、九峪が説得することは不可能だという結論だけだった。






 騒々しい足音とともに部屋に飛び込んできた何か。珠洲は身構え九峪は驚いて目を丸くしている。戸を突き破って床に転がったのは一人の少年だった。怪我でもしているのか服を血で汚し、荒い息で立ち上がると珠洲と九峪を見つめ口を開いた。

「珠洲ちゃん、九峪さん。ここから逃げますから、僕に付いてきてください」
「唐突だな、おい。つーか坊主何者?」
「閑谷といいます。綾那の弟です。詳しいことは説明している暇がありません。とにかく急いでください」

 九峪は珠洲をちらりと見て様子を伺う。みっともない話だが何かあったとき九峪は自分で判断を下す事が出来ない。正確に言えば自分勝手に判断を下すと大抵ろくな目に遭わないという事を覚えたのだ。
「わかった」
「ではこちらに……」

 先に立って走り始めた閑谷に続いて九峪と珠洲も部屋を出る。飛ぶように階段を下りて一階に下りると、そこには忌瀬が待機していた。緊張した面持ちなのは、何か逼迫した事態が差し迫っているからに違いない。九峪はろくに落ち着くことも出来ずまた移動かとため息を吐きながら、こうも頻繁に我が身に襲いかかるイベントの数々に本気で憤っていた。平穏に暮らしたいと言わないまでも、せめて息をつく間くらいは与えて欲しい。

「閑谷君、傷は大丈夫?」
 さすが薬師、と言うべきか。忌瀬は閑谷の誘導で逃げながらも、その身を案じて声をかける。閑谷はかすり傷ですと応じたが、押さえた脇腹から滴る血は止まる気配が全くない。真っ赤に染まった白い着物が九峪の目にも生々しく映っていた。このまま放っておけば、死ぬだろうと。

「何処まで行くのか知らないが、先に治療しておかないとまずいんじゃないのか? 簡単に止血だけでも」
 余計なお世話かと思いながらも放っておけずに九峪も進言するが、閑谷はただ首を振る。今は一時たりとも止まることは許されないと言うことなのか。街の中を逃げまどう内に、それがそうなのだとはっきりした。こだます悲鳴、怒号、断末魔の叫び、そしてこの世のものとは思えぬ叫び声。

 魔獣が街を襲っている。その事は聞いていた。だが城壁がある街の中まで魔獣が進入してくることなど普通ない。そもそもこのあたりで出没する魔獣といえば、十五年前の狗根国による侵略戦争の折、召還した左道師に死なれ、路頭に迷ったものが環境に適応したもの。個体数も少ないし基本的には普通の獣と同じであまり大きな人間の集落はさける。城壁つきの街など、そもそも向かってくること自体ありえない。

 もしあり得るとすれば、それは左道師が手を引いていると言うこと。つまり、これは狗根国の工作。

「閑谷、って言ったか? 魔獣は何匹いたんだ?」
「三匹だけです」
「たった? なんで防げなかったんだ? いくら普通の獣よりは強いからって、三匹くらいならしとめることは」
「昨夜、藤那は川辺に向かって出立しました。ちょうど兵がいないところを狙われて……」
「なるほど」
 状況を理解してため息を吐く九峪。昨日準備しておく、と言っていたくせに既に準備は整っていたと言うことかもしれない。そして、それを狙っていた輩がいた。

「なら、逃げるのは違うな」
 立ち止まった九峪につられ、他の三人も立ち止まる。
「九峪さん? 今はとにかく逃げないと……」
「この街の住民が食われている間に、それをおとりにしてか? 笑えないな」

「九峪。わがまま言わないで」
 たしなめるように珠洲に言われ、九峪はそれを真っ向から否定するように踵を返した。
「逃げるならお前等だけで逃げろよ。俺は誰かを犠牲にしてまで生き延びるなんて気持ちの悪い真似出来ない」

「馬鹿な! 死んでしまうんですよ?」
 閑谷は九峪を止めようと歩み寄る。九峪はそれを睨むことで止めた。
「近寄るなガキ。てめえの意見なんて聞いてねーんだよ。俺は、俺のやりたいようにやる」

 例え死ぬことになっても、今はそれでいい。そんな風にでも言うように九峪は悲鳴の方に走り出した。理解不能な行動に、その場にいた三人は呆然と、ただ九峪の背中を見送ることしかできなかった。













追記:
 ぐだぐだうだうだと続きを更新。深川はこんな感じで最後まで書いていこうかなぁとか思ってます。どうなるかは知らんけど。

 一週間程度しか時間が空いていないので近況も何も無いのですが、とりあえず朝早いんでこれ上げたらもう寝ます。次回更新は来週できると思いますが、多分週末かなぁ。


 web拍手のお返事。
 4/14。

19:19 お久しぶりです^^;
19:20 とりあえず条件付でお元気そうなのでちょっと安心しました
19:21 お互いにのんび~り頑張っていきましょい^^    by宮
 と頂きました。
 おお、宮さんご無沙汰しております。腰の方はだいたい直ったのでご心配なく。まぁ、あまり重いものは持てませんが。更新の方は自分のペースでゆっくりやっていきたいと思っております。
 コメントありがとうございました。

 他にも叩いて頂いた皆様に感謝を!


 では本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2007/04/19 21:33】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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