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深川34
 深川
 三十四話



 血も臓物も見慣れた。嫌気がさすほどに。
 理不尽が日常であることを受け入れた。むしろそれが条理であると知った。
 自分が無力であることを認めた。俺は何一つ出来やしない。

 それでも、譲れないものは譲れないのだと言い切ることはまだ出来る。九峪雅比古として不変である部分は、今もって変質などしていない。

 俺は俺だ。

 だから、目の前で起こる無情な行いに、真っ向から反抗しなくてはならない。結果として待つものが死であろうが、これ以上そんなものを目の前で見せつけられるのは勘弁ならないから。



「あああああああっ!!」
 恐怖を振り切るために自らが上げている声は、聞いたこともないような獣の咆吼だった。
 今まさに一人の子供に向けて鋭い爪を振り下ろそうとしていた馬鹿でかい犬のような魔獣に飛びかかる。ただでさえ弱い上に、右手の骨折も完全に直っていないような状態で、無謀にも武器もなしに。

 それは客観的見てどう見ても自殺だった。


 血が目の前に広がる。振り下ろされた獣の爪は、九峪の目の前で子供をズタズタにした。ただの一撃で腹がえぐられ、はらわたが飛び出し、胸を大きく引き裂かれ、飛び出た肋骨が白く見える。
 ゆっくりと九峪の目の前で持ち上がり、顔の中央あたりからえぐり取られ、何がなんだかわからなくなっている頭部ががくりと落ちた。ピンク色の脳症がこぼれ、地面に向かって緩慢に垂れていく。
 これ以上ない衝撃映像を見て、それでも九峪は止まらなかった。既に行為自体に意味が無くなってしまったというのに、特攻した。

【■■■■■■■――】

 魔獣の大きな顎が開かれ、九峪をかみ砕くその刹那。時間が止まったように感じられ、九峪の頭に謎の声が響く。声と言うよりは想念か。何を言っているかは全くわからなかったが、何であるかは理解した。それは酷く呆れたつぶやきのようなもので、簡単に言えば落胆だったのだろう。

 その真相はわからずとも、起こった変化は劇的だった。

 九峪の目の前が開ける。あったはずの魔獣の顎はどこかに消え、その向こうの景色が見えていた。足下が濡れた感覚が後からやってきて、振り返ると縦に二つに裂かれた獣が転がっている。言うまでもなく、魔獣は死んでいた。

「――あれ?」
 状況を理解できずに困惑する九峪。兎も角命拾いをしたようだと思うと同時に、いつの間にか残った魔獣が二匹、九峪に向かってにじり寄っていた。

 仲間が死んだことを察してか、幾分慎重に様子を伺っている。一匹でさえ手に余る魔獣が二匹。だが九峪は絶望感などはじめから無かったし、今は混乱の方が大きくてそれどころではなかった。

 ――俺は、何をした? つーか、俺がこれをやったのか?

 あり得ない。そう思うと同時になぜか自分がやったことを確信もしていた。出来るはずが無く手段もわからないというのに、その結果は九峪自身がやったのだと頭は理解してしまっているのだ。

「うー、意味がわからん」
 本気で悩み、隙だらけ。それを好機と飛びかかる魔獣二匹。

 防衛本能から中途半端ながらも後ろに飛び退く。魔獣の速度とリーチからすれば完全に間合いの中で、先ほどの少年のようなボロ雑巾と化すのは当然の成り行き。

 だが、奇跡は再び起こった。

 二度目であるせいか、意識がそちらの方にはっきりと向いたからなのか、今度は九峪にも何とか見えた。九峪の目の前に魔獣の爪が迫った瞬間、黒くぼんやりとした剣のようなものが閃き、魔獣の足を切り落とす。そしてその足が地面に落ちるよりも速く暴風のような剣閃が無数に走り、二体の魔獣を細切れにしていた。

 血と臓物の詰まった水風船でも落としたように、九峪の目の前にぶちまけられる赤いもの。大量にそれらを浴びながら、九峪は唐突に我が身に舞い降りた力について考えていた。
 それが何なのか、どうするべきなのか。






 無謀と思いつつ、なんとか九峪を連れ戻そうと後を追った珠洲は、目の前で起きた出来事に息をのんでいた。もう駄目だと半ばあきらめた瞬間、魔獣は真っ二つにされていた。その後来た二匹の魔獣は細切れに。珠洲にも何が起きたかなどわからなかったし、九峪がそんな事を出来るなど悪い夢だと信じ込もうとした。

 魔獣を三匹相手に無傷で勝つなど、余程の手練れでも難しい。少なくとも前準備無しにやってのけるのは九洲中探しても五人いるかどうかだ。珠洲が知る九峪は虚弱で間抜けで根性無しで、頭がおかしいとしか思えない妄言を平気で口にするだけの体のいい人質。そうでなければならないのに……。

「……よぅ、珠洲。お前も来たのか」
 珠洲に気づいて手を挙げる九峪。その表情は困惑に彩られている。本人もよくわかっていないのだとわかると、珠洲は少しだけ安心した。訳のわからない力は危険だが、自覚が無いのならば力関係は基本的に変わらないから。

「今の、何?」
「……見てたのか。ああ、実は俺にもよくわからん」
「わからんって。九峪がやったの?」
「それはそうらしいが、俺普通の人間なはずだったんだけどなぁ」
 おかしいなと首を傾げる九峪。その表情は返り血を浴びているとはいえいつも通りだ。

「とにかく体を洗いたい。全身血まみれで気持ち悪いしなぁ」
「そう。でも、どちらにしてもここは離れた方がいい。魔獣がいると言うことは左道師が近くにいるってことだから」
 ここにいれば狙われる。珠洲はそう言って九峪を促す。

「……だったら尚更離れるわけにも行かないだろ」
「九峪は人死にが見たくないんでしょ? だったら魔獣をこんな風に殺した九峪がいると、そのことで逆に巻き込まれる人が増える。逃げればその左道師も追ってきてこの街は安全だと思う」
「一理あるか。確かに俺が原因になる可能性もあるだろうし」
 九峪はため息混じりに頷くと、珠洲に従って走り出した。






 惨劇が去った当麻の街から離れる九峪達を、狐目の男がじっと見つめている。その口元に浮かぶ笑みはどこまでも陰惨で、見るものを否応なくぞっとさせる。

「さて、覚醒は緩やかに、さりとてあまりうかうかしていては……」
 浮かれて独り言を呟いて、それから唐突に現れた気配に男は振り返った。よく知った気配。だが、自分の前には絶対に現れないはずのもの。

「久しぶりだねぇ、鳴壬」
 女の声に振り返れば、そこにはやはり間違いようもない見知った女がいた。
「深川。のこのこと私の前に現れるとは、そんなに死にたかったのですか?」
 声はぞっとするほど冷たい。半年ほど前、自分の目の前から鏡を掠め取って逃げ出した、裏切り者の女左道師。
 部下の中ではそれなりに優秀だったとはいえ、それでも鳴壬の敵ではない。あのときも予想外の乱入がなければ、深川などに鏡を奪われることは無かったのだから。

「聞きたいことある。素直に言えばこの場は見逃してやろう」
 だと言うのに、今目の前にいる深川は実力差など忘れたかのように何処までも強気で傲慢だった。人の顔色を伺うこともせず、まるで格下のゴミでも見るような視線を鳴壬に向けている。

 その全てが鳴壬の癇に障った。

「何様のつもりだ、深川。相手が誰だか分かっていないようだな」
 殺気を隠しもせず鳴壬は懐に手を入れて札を何枚か掴む。一応は威嚇だ。深川の自信、その根拠が分からない。

「蛇渇はどこだい? 鏡を奪ってからあいつ本人の追撃が無い。くだらない刺客ばかりが幾度も来たが、それをあしらうのももう飽きた。決着をつけたいから場所を教えろ」
「――気が触れたか? お前ごときがあのお方の敵になれるつもりか?」
「いいから言いな。確実に知っているとすればお前くらいなものだからな」
「フッ。笑止な」

 鳴壬は懐の札を引き抜くと見せかけ、呪文の詠唱を全くせずに自分の影から巨大な鎌を引きずり出した。同時に飛び出した無数の鎖が深川へと巻き付く。手の動きを警戒していた深川は唐突な出来事に全く対応できず、為す術もなく捕らえられた。

「私は蛇渇様の忠臣。あのお方のためだけに生きる人形。例え天地が逆さになろうとも、私があの方の居場所など教えるものか。くく、そう、例えそれが害にすらなり得ない小物相手であろうともな」
 大きな鎌を掴むと振りかぶる。身動きの取れない深川にそれは避けようもない。

「あのお方を裏切った罪、その苦さを知れ!」
 弧を描いて深川を両断しようと振るわれる鎌。深川はそれを瞬きもせずに目で追いながら、ぽつりと一言だけ呟いた。

「殺せ、兎奈美」

 それはまるで風のように吹き抜け、鳴壬の鎌を切り裂き、その延長にある腕を縦に引き裂いた。半分だけそぎ落とされ、だらりと奇妙に腕が垂れ下がり、一瞬遅れてあふれ出した血とともに、鳴壬の顔に脂汗が吹き出した。

「……魔兔族、だとぉ」
 苦しげに絞り出し、痛みと悔しさを堪えるように歯を食いしばる鳴壬。
「ふん、私が何の勝算もなくお前の前に姿を現すとでも思ったのか? おめでたいなぁ、鳴壬」
 陰惨な笑みが深川の口元に浮かぶ。

「それにしても兎奈美。私は殺せと言ったんだが?」
「え~、すぐ殺しちゃつまらないよぉ。この人それなりにやるみたいだしぃ。ちょっと楽しみたいなぁって」
「悪い癖だな。まぁ、好きにするといい。だがくれぐれも逃がすなよ」
「うん♪」
 深川は蜻蛉の羽を毟るように、鳴壬を残酷に追いつめる兎奈美から視線をはずすと、当麻の街と九峪が去っていった方を交互に見ていた。どのみち鳴壬から蛇渇の居場所を聞き出せるはずもない。だから、鳴壬がここで九峪達にちょっかいを出した理由を考える。

 鳴壬の頭が胴と泣き別れ、絶命するまでの小一時間、深川は黙ってそのことだけを思考し続けた。













追記:
 週末を待たずして更新してみました。理由は特にないのですけどね。
 今回で少し九峪が強くなりました……。ですがまぁ、別にこの力を使ってどうこうという話には流れない模様。いや、使いどころはあるんですけども。
 そして深川と兎奈美も登場して鳴壬があっさり退場。一応最後を見据えて話は折り返し地点を越えたはずなんですが、いつまで続くのかなぁ~。盛衰記も三十話くらいから終わらせるとか言ってたしねぇ(笑


 ではweb拍手のお返事。
 4/20。

4:55 パチパチパチ、と
4:56 いつもいつもご苦労様です。何だか急展開ですが
4:57 深川での閑谷の自己紹介「閑谷といいます。綾那の"姉"
4:59 です」 女性化してもおいしい気がするからどっち
4:59 でもいいですよ?

23:38 直っててにやり
 と頂きました。
 展開が急な気がするのは前までの話がうろ覚えで書いたためと、さっさと終わらせようとか考えてる人がいるせいじゃないかなぁと思います。終わらせようと思って書かないと実際いつまで経っても終わらないですしね。
 閑谷の件は速攻でなおさせて頂きました。綾那が姉だよなぁと思って書いていたために綾那の姉になったようで。いや、我ながらよく分からん惚けを。ちなみに閑谷の出番はあんまり無い予定なんですよねぇ。脇役が本当に脇役でしかない話になってますし。香蘭と紅玉に至っては出番無い予定だし(爆 星華はまぁ、そのうち……。
 ご指摘ありがとうございました。

 4/23。

3:20 深川の九峪はfateの主人公っぽぃですね
 と頂きました。
 えーと、まぁ、作者としても九峪の思考、というか主張はシロウって感じでイメージはしていますので、当たってます。違いと言えば実現するだけの実力が無いことと、シロウほど徹底していない辺りですかねぇ。fateをやったのは去年の春だったか夏だったか忘れましたがその辺だったので、その後の文章には多少影響が出てるかも知れません。過度に取り込まれたつもりは無いですけど、所々におうところがあるかも?
 コメントありがとうございました。


21:12 深川だ!深川が来てくれたんだ! 実は深川大好きなんでこれ超楽しみですよ~♪頑張って下さい
 といただきました。
 おお、同志よ! でも好きって言ってくれる人がいるとそれだけのものに仕上げられるか自分の実力のほどが不安になりますが、愛ある深川ヒロインものを書き上げたいと思います。今のところ出番が非常に少ないですが(汗
 コメントありがとうございました。

 4/24。

15:43 九峪くん言っている事は正しいかもしれないが解決策考える?解決できたらへたれから一歩脱却ですな。
 と頂きました。
 九峪の主張が正しいかどうかもよく分かりませんが、解決策などあるのか疑問なところですねぇ。まぁ、無理を現実にするのが主人公なんでしょうけども、何せこの九峪はヘタレですからねぇ。解決できれば確かに脱却できるのでしょうが、今まで通り九峪にそれだけの自由が与えられるかは……。ちなみに今回発揮された力はくその役にも立ちません。
 コメントありがとうございました。

 他にも叩いてくれた皆様、ありがとうございました。


 次回更新はまた来週辺りに。GWの予定がどうなるか分かりませんけど、多分どっかで更新すると思います。
 では本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2007/04/25 19:27】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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