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深川35
 深川
 三十五話



 当麻の街が魔獣に襲われた。その報は真っ先に藤那の元に届けられた。当麻の街とその近隣、去飛、児湯、美禰の三つの街に支配力を持っている藤那だったが、川辺城へ進軍するつもりで主立った兵はかき集めてしまっていた。四つの街は危険に晒されることになる。意外にも、と言うか藤那は冷静に判断すると、軍をすぐに引き返しはじめた。

「いいの? 千載一遇の機会だって言うのに」
 乳姉妹である綾那に聞かれたが、藤那は迷いもしなかった。
「後顧に憂いを残したまま川辺を取っても益はない。全て都合良く運んで川辺の臣共を籠絡できたとして、その間に狗根国に入り込まれては国が立ちゆかん。あの火魅子であればまた機会もあるだろうし、今無理をする必要は何もない」
「それもそうね。今回の耶麻臺国への遠征だって、失敗すれば糾弾する格好の材料になるものねぇ。その間に地盤を固めておいた方が堅実かもしれないけど、でも藤那にしては慎重ね」
「ふん、私はいつだって慎重で大胆なんだよ」
 意味不明な事を言ってため息を吐いてみせると、綾那はクスクスと楽しげに笑った。



 一方その頃、去飛の街まで離れて情勢を探っていた九峪達――正確に言うと指揮を執っていたのは閑谷――は、その後の追撃が無いことを知って当麻の街に戻るかどうかの議論をしているところだった。
「よくわからんが、閑谷達の代わりに魔獣を退治してやったんだから代わりに好きにさせろ」
 とは九峪の言。借りを一つ作ったのだから、いつになく強気に出ているところだった。
「僕の一存では決めかねます。それに、それだと珠洲ちゃんも困るんじゃ……」
「困る。九峪我が儘を言わないで」
「今回は我が儘じゃないだろ。正当な要求だ!」
「自分一人じゃすぐに野垂れ死ぬしかないくせに偉そうに」
「ぐっ! 珠洲、キサマなんて事を」
「事実は事実。誰かに囲われなくちゃ生きていけないくせに、まぐれで恩を着せることが出来たからって増長しないで。見苦しいにもほどがある」
「……くそ、返す言葉がないのが情けないな」
 いや、そこは言い返せよと心の中の誰かが盛大に突っ込んでいたが、九峪にはやはり否定できなかった。

「んー、だったらさぁ」
 一連のやりとりを端で聞いていて、ここまでずっと傍観者を決め込んでいた忌瀬が唐突に口を開いた。
「私が九峪に付いていってあげようか?」
 意外なところからの救援。珠洲は明らかに不審気に顔を顰め、九峪は神様でも見つけたかのように表情を明るくした。
「本当か、忌瀬」
「別にかまわないよ。元々私には珠洲や閑谷の思惑なんか関係ないし、どうせ売り込むなら最も有力なところだよねぇ」
 忌瀬はそう言って挑発でもするように珠洲に笑いかける。
「……やる気?」
 すぐに戦闘態勢に移る珠洲。珠洲にしてみれば九峪を火魅子の元になど行かせるわけにはいかない。忌瀬が九峪を連れ出すというなら、力づくでも止める心算だった。

「私がなんであなた達に付いてきたか分かる?」
 関係なさそうな質問で、珠洲の気をそらす忌瀬。珠洲はぶっきらぼうに答えた。
「天目に報告する気なんでしょ」
「私は別に天目に何か頼まれてるワケじゃないし、普段は好きに動いてるんだよ。そりゃ天目には恩があるから、やばそうだと思ったら助けようとは思うけどさ」
「じゃあ……」
「でも、今回は違う。少し考えれば分かるでしょ? 珠洲の思惑なんてとっくに分かっていたんだから、知らせるつもりなら私はとうにここを離れていたはず」
「…………」
「では、なぜ離れなかったのか。理由は二つ。一つは教えるまでもなく天目は志野の考えなどお見通しだから」

 その言葉に、珠洲の表情がこわばる。

「あの天目がこんなこざかしい事に気が付かないわけ無いでしょう。そもそも、九峪が生きているはずだという情報は、火魅子のところだけでなく天目の耳にだって確実に入るんだから。誰がはかりごとをしたかなんて、すぐにでも分かる事」
「じゃあ、志野は……」
「天目は有能で若い女が好きだし、器も大きいから利用してるんでしょう。志野は破格の人材だし。手に入れるために国の命運をかけるくらいの価値はあると、もしかしたら考えたかも知れないよ」
 まぁ、わかんないけど、と忌瀬は言って心中穏やかならざる珠洲を見る。

「もう一つの理由はもっと単純。私、九峪の事が気に入ったから」
「は?」「へ?」
 九峪と珠洲、二人揃って間抜けな顔になる。

 思い返せばそもそも九峪と忌瀬の出会いは九峪の頭脳的な(?)ナンパ作戦からである。それにものの見事に引っかかった忌瀬は、そのときから九峪を悪からず思っていたのは確かだ。
 だが、実際それは九峪が飯を食べるための詐欺行為だと珠洲にばらされて、それで九峪も終わったものだと思っていた。

 しかし、それは九峪の勝手な思いこみだったようで……。

「き、忌瀬。からかってるのか?」
「そんなわけ無いでしょ。九峪が嫌なら別にいいけど。私はここでお別れね」
「……信じて、いいのか?」
 この世界に来てから九峪は幾度と無く裏切りを経験した。それはひとえに九峪と世界のずれだった。だから、軽々に信じる事は出来ない。忌瀬の言葉を疑ってしまう。

「決めるのは九峪でしょ。でも、私と来てくれるなら嬉しいかな」
「……わかった」
 頷いた九峪。だが、そんな真似を珠洲が許せるはずもない。
「行かせない。どうしてもって言うなら、二人とも死んでもらう」
 珠洲の細い指の間で糸がきりりと音を立てる。会話の間に部屋の中は糸の結界に包まれていた。動けばそこで二人を瞬時に拘束できるように。

「――――」
「…………」

 互いが互いを牽制しあい、一触即発の膠着状態に陥る。絶対的に優位なのは珠洲ではあるが、九峪には得体の知れない部分がある。本気で抵抗されて、魔獣を葬ったアレと同じものを向けられれば、その瞬間に死ぬのは珠洲だ。

 微妙な均衡。いつまでも続くかと思われたそれは、外部からの干渉によって解けた。

 ――否、粉砕されたと言うべきか。

「九峪~っ!!」

 鼓膜が破けそうな叫びとともに、一体どこから沸いたのかウサギの耳をはやした爆乳魔人が九峪を背後から羽交い締めにした。

「え、うわっ、ってなんだぁ?!」

 慌てる九峪をがっちりと押さえつけた兎奈美は、そのまま嬉しそうに消えてしまった。来るときも唐突ならば去るときも唐突に。状況に周りが対処する間など微塵も与えず、ただ楽しそうな笑い声だけを残して……。

「――今の、何?」
 呆気にとられたように呟く珠洲。それに答えるものはなく、出来ることと言えば、その場に残された三人で顔を見合わせるくらいなものだった。






 兎奈美により拉致された九峪は山の中に引きずり込まれ、当初会おうとしていた女の前に差し出された。兎奈美に"乗る"のは二回目とはいえ、人間離れした機動に今回もついて行けず乗り物酔いの九峪は、真っ青な顔で深川を見ていた。気絶しなかっただけもしかしたら成長したのかも知れないが。
「……よ、よぅ」
 とりあえず無言で睨まれてしまったので、手を挙げて挨拶してみる。深川はそれを無視してさらに睨み続ける。

「な、なんだよ。何か用があるんじゃ……」
「九峪。お前は私のものだ」
「は?」
 日に二度も告白めいたことを言われ、九峪はこれが夢か何かではないかと不審がる。もっとも深川がその台詞を口にすると、告白と言うような雰囲気は皆無だったが。

「唐突になんだよ。っていうか無事だったんだな。いや良かった」
「お前は私のものだ。そうだな?」
 じっと見つめられ、九峪は顔を顰める。

「俺は俺だ。誰かのものになった覚えはないな」
「ふん。私がお前の命を何度救ってやったと思ってる」
「同じかそれ以上殺されそうにもなってると思うんだがなぁ。都合のいいことしか覚えてないんじゃないのか? 大体俺はお前みたいな奴が嫌いだと……」
「私を養ってくれるんじゃなかったのか?」
 口元に浮かぶのは嘲笑。九峪はすっかり忘れていたそんな台詞を思い出して一瞬で顔が真っ赤になる。

「……あ、う」
「なぁ、九峪は私のものだ。そうだったな?」
「それは、違う。あのときのあれは、お前なんかでも幸せになれるようにこの世界を変えてやるって思ってただけで、別にその……」
「そうか」
「そうだよ。人殺しなんかしなくても、誰か裏切ったりしなくてもただ生きて死ねるような、そんな当たり前の世界に……」
 九峪は自分で話して、それがどれだけ不可能なのかを噛みしめる。まだ右も左も分からないときは良かった。分からないから何でも言えた。子供と同じで。だが、今は知ってしまっている。それがどれだけ困難なことであるか。

「…………」
「わかってるさ。夢見がちな奴だって思ってるだろ。でも、俺はもう決めたから。色々難しいかも知れないけど、俺は俺の理想をこの世界に押しつけてやるんだってな」
 だから、そのためにはまず日魅子を止めなくてはならない。幸か不幸か一番力を持った奴が、知り合いにいる。利用すると言えば聞こえは悪いが、手伝ってもらえるならそれにこしたことはないし、何より今は九峪のために、とんでも無いことをしでかしかねない。

「深川も俺に何か用があるのかも知れないけど、お前との約束は必ず守るから、だから今は行かせてくれ。あいつが待ってるんだ。この国のためにも、あいつ自身のためにも、俺は今行かなくちゃならない……気がする」
 九峪にじっと見つめられ、深川は小さくため息を吐く。それからそっと九峪の頬に手を差しのばすと、思い切りつねりながら凶悪な顔で言った。

「いいから、お前は私のものだと納得しろ。貴様の腐った戯言など私は聞いてないんだよ」
「いで、いだだだだ、わかった、わかったから。ちぎれる、ちぎれちゃうヨー」
 九峪が涙目で懇願すると深川はにやりと笑って手を離した。
「お前がどんなつもりかは知らないが、自分勝手に動き回らせてやるほど私は優しくなんか無いよ。ふふふふ」
「……あぅ。でも行かないと色々まずいんだよぉ」
「火魅子が暴れるなら好きにさせておけばいいじゃないか。その隙に私は私の目的を遂げられるんだから」
「……鏡と剣って奴か」
 深川は九峪がそれを知っていたことに少しだけ意外そうな顔をしたが、すぐに鼻で笑うと頷いた。

「そうとも。そして、私は世界を手にする。光栄に思えよ九峪。お前はそのために必要とされているんだから」
「…………はぁ?」

 困惑した九峪の表情。それを見て深川はいっそう楽しげに笑みを深めた。














追記:
 GW中皆様は如何お過ごしでしょうか。私の方はまぁ、なんか、ねぇ? って感じです。来週から夜勤もあるらしいので更新が滞ることもあるかも知れないですけど、そのときは、ああ働いているんだなぁと思って頂ければ幸いです。


 web拍手のお返事。
 4/26。

0:31 TOP変更しました?
0:32 いやまぁ、いつもいつもありがとうございます。
 と頂きました。
 本サイトTOPは変更させて頂きました。って言っても大して変わっておりませんが。このblogへのリンクを付け加えたのが一番大きな変更点で、他は多少レイアウトが変わっただけです。本格的に弄る暇も気力もないので。
 で、下の方のコメントの意味がよく分からないのですが……、まぁ、どういたしまして?
 コメントありがとうございました。


11:38 おお、何か九峪が強く!これで大活躍が・・・(拍手のお返事見て)くその役にも立ちませんって、ひど!?
 と頂きました。
 活躍はするんですけど、まぁ、なんていうか、本人にとっていい活躍であるかどうかはまた別問題というか……。作者的には大活躍する予定なんですけど、厳密に言うと……ってこれ以上はネタバレですね。続きをお待ちください。
 コメントありがとうございました。

 4/27。

22:41 ガンバッス!!
23:16 幻聴記面白いです。続き頑張ってください。
 と頂きました。
 短いのでまとめてお返事を。まずは声援ありがとうございます。こういう一言が書く上での支えになっていることは疑いようもありません。幻聴記は最近見向きもしていないのですが、機会があれば手をつけたいなと思います。
 コメントありがとうございました。

 4/29。

1:27 社会人頑張れ、火魅子小説作家は貴重なので無理しないでくださいね
 と頂きました。
 火魅子伝はあまり二次小説を書く人がいないですよね。まぁ、知名度とか比較すれば実際どうなのか調べたわけでもないので感覚的な話ですけども。私もどこまで出来るかは分かりませんが、つぶれないように頑張っていきたいなと思います。
 コメントありがとうございました。

 他にも叩いてくれた皆様に心より感謝を!


 では本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2007/05/01 21:41】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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