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深川36
 深川
 三十六話



 怖いのは夢を見たから。
 黒くて暗くて何も映さない闇が目の前にあった。
 これは夢で目を瞑っているのだから、暗いのは当たり前で見えるとすればそれは自分の想像でしかない。
 そんなことをぼんやり思いながら、だからこそ怖いのだとまでは思いつけない。

 これは闇の夢。
 本来見るべき情景は闇に飲まれ、全てが消え失せてしまった世界を見ている。
 原初の混沌。時の最果て。始まりと終わりが混在する根元たる闇。
 そしてそこから発せられる禍々しい気配。

 何があるわけでもない。しかし、それは確かに何より恐ろしい悪夢だった。



「――――」
 目が覚めた瞬間目を開いていた。寝ていたはずなのに、瞬きしただけのように倦怠感が無い。ただ心臓だけが早鐘のように鳴っていて、今し方まで全力疾走でもしていたかのように体は汗に濡れていた。

「……また、か」
 悪夢は一体何度目になるか。この世界に来てから悪夢のような現実ばかり起こるから、そのせいで精神的に参っているのだと思っていた。だが、何かが違う気がする。確かに普通の悪夢も見る。だが、あの闇だけの悪夢は九峪に謂われのない不安感を与えるのだ。

「まぁ、こんな状態で夢見がいいわけもないか」
 あきらめたような呟き。体は柔らかい感触に包まれている。少し身じろぎすれば体を押さえる力が増して息苦しい。視線を少しだけ上に向けると白いウサ耳が見えた。

「兎奈美、いい加減に離してくれ」
「んぅ? ふああ、おはよう九峪~」
 ウサ耳魔人はまだ寝ていたようで、挨拶をしながら大きく伸びをした。両手を離してもらったので抜け出そうと立ち上がると、視界の中に深川がいないことに気づく。昨夜は結局九峪の意見など微塵も聞いてもらえず、いいから黙って付いてこいと何処へともなく連れ去られたのだ。その時から今にいたるまでほぼずっと、九峪は兎奈美に運ばれている。

 ――まぁ、楽でいいんだけど。
 九峪も歩くのが嫌いなワケではないが、歩きすぎるのはごめんだった。散歩程度ならば楽しめようが、何十キロも山道を歩くのは極端すぎる。実際この世界に来てから何度血豆がつぶれたか分かったものではなかった。

「そもそも俺はさっさと日魅子のところに行きたいってのに……。そう言えば兎奈美。お前はなんで深川といるんだ? 兎音と兔華乃は一緒じゃないのか?」
 ウサ耳魔人残り二人の名前を出すと、兎奈美はめずらしく少し堅い表情をして頷いた。

「姉様達は知らないよ。そもそも深川を川辺城から連れ出したのは姉様達だけど、その後どこか行っちゃったし。ただ待ってるのは暇だから、深川と九峪探しに来たんだ」
「……ちょっと待て。深川は川辺城にいたのか?」
 そんな話は聞いていない。兔華乃は確か逃げられたと。

「亜衣って女に拷問されていたのさ」
 楽しげな声に振り返ると、背筋が寒くなるような暗い笑みをたたえた深川が立っていた。水浴びでもしてきたのか髪が濡れていて、いっそう不気味な雰囲気を醸し出している。

「亜衣さんが? なんで――って、そう言うことか」
 九峪はため息を吐くと頭を振った。少し考えれば九峪にも分かる。深川は鏡を持っていたと知っている今なら、川辺城に連行された後そのまま逃がすはずなど無いことは。

「でも、拷問だなんて」
 そんな真似、日魅子が許すとも思えず首を傾げた九峪に、深川はそっと左手を掲げて見せた。指先は爪が剥がされ赤くなっている。昨日は布が巻かれていて気づかなかったその場所に、生々しい傷痕が隠されていたことに息を飲んだ。

「他にも体中色々な。なんなら見せようか?」
「――結構です」
 げんなりして肩を落とす九峪。
「でも、日魅子は知ってたのか? 拷問なんてあいつが」
「知らないわけがないだろう。川辺城の中はあいつの腹の中と同じだ。まして自分の片腕がやったことだ。積極的に命令したかどうかは知らないが、少なくとも黙認はしていただろうな」
「そっか。あいつ……」
 九峪は苦り切った顔で黙り込むと、それから一人で歩き出す。

「何処に行く気だ?」
「……なぁ、深川」
「川辺城になど行かないぞ。向かう先は一つだ」
「……何処だよ。どうせわかんないだろうけど一応聞いておく」
 深川はにやりと笑みを浮かべて答える。

「征西都督府。お前と一番はじめに会った場所だ」






 九峪が殺されたとの報が入ってより二日ほどで、日魅子は軍を整え、豊後の拠点として建造していた砦に入った。現在で言う湯布院の辺りであり、東には別府湾、西からは耶麻臺国からの主要街道があるなど、今後の事を考えた上での重要拠点である。
 そこに火魅子が直々に兵力を動かした。
 狗根国が未だ本格的な動きを見せていない今、その意味はあまりにも明白だった。わざわざ軍行動を起こす意味があるとすれば、それはもう一つの敵対国家へ重圧をかけること以外にない。

 日魅子は湯布院の砦で一時駐留させ、同時に耶麻臺国に向けて使者を出した。捕られたものを返して欲しい、と。
 このときには既に日魅子の元には、九峪の死体が消え、生存していた可能性があるという情報が入っていた。そのせいか幾分日魅子も冷静だったのだろう――、と周りは思っていた。しかし、いっその事九峪には死んでいてもらった方が良かったのだと、今は誰も理解していなかった。

「火魅子様。耶麻臺国より返答の使者が参りました」
「……そう」
「お通ししてもよろしいでしょうか?」
「ええ」
 執務用に設えた簡素な部屋で、日魅子は不気味なほど冷めた視線で虚空を見つめていた。そこにはあらゆる感情が見られない。

 ――九峪。生きてるの? 死んでいるの?

 生きているという保証は無い。死んでいるという確証も無い。入ってくる情報は多岐に渡り、どれが本物であるのかも分からない。組織の頂点に立つ日魅子には、今九洲で最も強く神々しい立場にある火魅子には、それに取り入ろうとするものが数え切れないほどいる。だから、機会あれば偽装してでも耳寄りな情報を入れようと、画策する痴れ者が多いのだ。
 あまりの多くの情報に迷彩され、本物は見つけることも出来ない。

 だから、探すなら確実に知っている人間に聞くしかない。知っていなければおかしい人間に。

「失礼します。耶麻臺国からの使者をお連れしました」
 部下の断りに続いて入ってきたのはまだ若い女だ。
「お初にお目にかかります、火魅子様。此度はお目通り叶いまして祝着至極に存じます」
「挨拶は結構よ。お互い忙しいのだから、手間は省きましょう」
「わかりました。では、こちらが天目様よりの書状になります。どうぞお受け取りください」
 恭しく差し出された紙の書状。この時代紙は超が付くほどの高級品であり、一般には殆ど流通していない。主な保存媒体は竹簡であり、余程のことでなければ用いない紙の書状が来た時点で、内容はいくらか推測できた。
 日魅子はつづら折りにされた紙を開くと、その内容を一読して軽くため息を吐いた。

「いかがでしょうか?」
「……清瑞は無条件で返し、詫びに豊前まで寄越すと書いてあるわね。天目は正気なのかしら」
「天目様も火魅子様とは事を荒立てるおつもりが無いご様子でした。同盟関係を崩さないためならばそれだけの譲歩も止む無しと……」
 火魅子の前だと言うのに物怖じしないのか、特に緊張した様子もなく遣いの女は説明をする。
 日魅子はその言葉の途中でもう一度ため息を吐いた。

「言葉の意味をはき違えないで。この程度で私が納得するとでも思っているのかと言いたかったの」
「……ご不満ですか?」
 客観的に見れば吹っ掛けているのは日魅子の方だろうに、遣いの女は動じなかった。

「ですが、このまま同盟に決定的な亀裂を入れ、緊張状態が戦争状態になってしまえば喜ぶのは狗根国だけです。それは火魅子様とて喜ばしい事態ではないはずですが」
「そうね。忌むべき状況だわ」
「重ねて申し上げるに、此度の行動はこちら側に一応の非があるわけですから、身柄をお預かりしている清瑞を無事に返し、なおかつ豊前までお譲りすると申し上げているのですが、それでもまだ何か足りないと? たかが乱破の身一つでここまで。本来なら譲歩しすぎと言ってもいいと思うのですが」
「清瑞の件に関しては構わないわ。でも、もう一つ忘れているでしょう?」
 そう言った瞬間、日魅子の威圧感が増す。僅かににじみ出た怒りの一端。女も表情こそ変えなかったものの、額にはうっすら汗を浮かべた。

「……それは志野が殺したという、何処の誰とも知れぬ男の事ですか?」
「いいえ。此度の混乱を招いた元凶である、志野とその一座の首よ」
 身も凍るような冷たい声で放たれた言葉。使者の女は言葉を失い黙り込むしかなかった。













追記:
 あーうー、お疲れ気味です。休み明けはだるいですね本当。まぁ、明日もがんばろう。そうしよう。


 web拍手のお返事。
 5/3。

0:54 GWは社会人5年目でも嬉しいがその後が怖い・・・・・・最終日はしっかり英気を養いましょう。
 と頂きました。
 本当に後が怖いですね。昨日は早く寝ようと思ってたんですが、気が付いたら日付が変わってました。五時半に起きなきゃいけないのにorz 今日は早く寝ます。
 コメントありがとうございました。

 5/6。

3:00 一気に全小説読ませていただきました。面白いです。これからもがんばってください!
 と頂きました。
 新規のお客様のようで。一気にとは……、お疲れ様でした。よろしければこれからも見に来てくれると嬉しいです。
 コメントありがとうございました。


23:17 こんなところで貴方のSSが拝めるとは……一三階段で待ち続けた私の時間をかえせ~!
 と頂きました。
 あはは(笑ってごまかす)。そんな人もいるかなぁ、とか思ってTOPにリンク張ったんですけどね。元々はこのblog自体が隠しページ的扱いだったので。まぁ、前の方を見ればそんな経緯が書いてあったかも。私も覚えてませんが。本サイトはいつ更新するか分からない状態になってますので、よろしければこれからはこのblogの方を見てやってくれればと思います。
 コメントありがとうございました。


 他にも叩いてくれた皆様、ありがとうございました。

 では本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2007/05/07 21:10】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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