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深川37
 深川
 三十七話



 耶麻臺国からの使者が帰り、それと入れ替わるように日魅子の元を兔華乃が訪れていた。深川を連れ去るような真似をしておいて、ノコノコと舞い戻った事に日魅子は憤るより寧ろ呆れ果て、その上で"お願い"などされてしまった事には言葉も無かった。

「深川の入れ墨を消して欲しい、ねぇ」
 人払いを済ませた執務室。兎音と兔華乃を正面に見据えて、日魅子は目の前の魔人が何を考えて生きているのか心底疑問になった。

「あなたなら簡単でしょう? ささっとやってくれないかしら?」
「……兔華乃も叶えたい望みがあるの?」
「そうね。魔界に帰りたい、その程度の望みだけれど」
 日魅子はなるほど、とうなずきそれからため息を吐く。

「それにしても、本来なら深川を連れ出したことであなたとは敵対しなければならないんだけどね」
「あら、別に私は構わないけど?」
 にっこりと笑ってみせる兔華乃。

「ふん、私とあなたが本気で戦ったら国が一つ消えかねないわね。いいわ、私もそれほど深川には固執しているわけではないから、条件付きでその要求はのみましょう」
「あっさりと引き受けてくれるのね。意外だわ」
「あくまで条件をのんでくれればだけど。こちらから出す条件は二つ。それで深川を勝手に連れ出したことと、今回のお願いもチャラにしてあげる」
「……いいわ。条件を言って」
 兔華乃が首肯したのを見て、日魅子は指を一本立ててみせる。

「まず一つ目。深川から天魔鏡の所在を確認し、手に入れることが出来たならば先に私に渡すこと」
「信用していいのかしら?」
「あなたの願いが真実魔界に帰ることだけだと言うのならば、あなたが扉を開くのを邪魔したりしないわ。むしろ私とすればあなたには出来るだけ早く目の前から消えてもらいたいのだし。そのために一番危険が少ない方法でしょ?」
「たしかに理は通っているわね。分かったわ、天魔鏡を手に入れたのならば、あなたのところに持って行く。もう一つは?」
 日魅子はしばらく考え、それから何か決心したように二本目の指を立てた。

「二つ目は、九峪を私の元に連れてきて欲しい。生きているか死んでいるか分からないけど、必ず」
「別に構わないけど、彼が剣の男なんでしょう?」
「――知っていたの?」
「ええ、深川から聞いたわ。でも、あの人の何処が剣なのかよく分からないのだけど。ともかくあなたがそう言うのであればそうなのでしょうね。とにかく条件はわかりました。鏡と剣、両方そろえてあなたに渡せばいいのね」
「…………」
 日魅子は黙って頷く。

 兔華乃は話は終わりと立ち上がると、退室する前にもう一度日魅子を振り返った。

「あまり心配はしていないけど、裏切るような事があればどうなるかは分かってるわね?」
「その台詞はそのまま返すわ」

 九洲最強の二人。その視線が数秒交錯し、それから何事も無かったように兔華乃は退室した。






 深川、兎奈美に強制連行される九峪は、ともに動くようになって二日ほどして、ようやく妙だと言うことに気が付いた。
「なぁ、深川。なんで誰も襲ってこないんだ? お前狗根国から狙われてるって……」
「なんだ、そのことか。この間九洲の首魁を殺したからな。下っ端共が独断で動けるわけもないし、親玉が出張ってくるまでの間は静かになる」
「ふぅん。じゃあまた魔人に襲われるような目には遭わなくてすむのか。それだけでも気分は多少楽だな」
 何より今回は兎奈美が同伴と言うことで、山間の集落をわざわざ襲わなくても食料を捕ってきてくれる。九峪の心も痛まなくてすむというものだ。

「そう言えば聞き忘れていたな。当麻で魔獣を三匹始末しただろう。あれは誰がやったんだ?」
「……言っても信じないだろうなぁ」
「いいから言え」
「俺だけど」
 おそるおそる九峪が口にすると、深川は目を丸くする。

「それは何の冗談だ?」
「ほら信じない。だから言いたくなかったんだよ……」
「いや、あり得ない話では無いのか。何せお前は」
 ぶつぶつと一人で呟きながら考え込む深川。九峪はその様子に邪魔をしない方がいいと判断すると、少し距離を取って空を見上げる。

 今自分がいるのどの辺りなのか、いつも通りさっぱり分かっていなかったが、それでも北に向かって歩いているらしいことは分かった。深川は征西都督府に行くと言った。一度見せられた地図からすれば、それは志野が向かったはずの耶麻臺国の首都近く。日魅子が志野を恨んで耶麻臺国に攻め入るとすれば、運が良ければ会えるかも知れない。

 漠然とした予想でしかなかったが、今はそれが九峪を大人しく深川について行かせている理由だ。地理に疎い九峪一人が離れて動いても遭難しかしない。ならばいくらかでも確実な方に向かうべきである。

「……とはいえ、間に合うのかなぁ」
 戦争が一日二日で起こるとは思えないが、兵は拙速を尊ぶとも言う。現状が分からない九峪にしてみればやはり不安が一杯だった。
「おい九峪。今日はまだ歩くぞ」
「……ん? ああ、とにかく急ごう」
「珍しいな、お前がやる気など」

「さっさと行って深川の用を済ませちまえば、後は勝手にしていいんだろ? 俺は日魅子に会わなくちゃ駄目なんだから」
「ああ、終わったらな。だがお前も火魅子の事となると必死だな。クク、惚れてるのか?」
「そんなんじゃないっつーの」
 そう言いながらも、九峪は結局自分の気持ちという奴がさっぱり分からないのだった。

「それにしても、遅いな兎奈美」
 話をそらすために選んだ言葉。深川は今更そんな事に気づいたのか、まじめな顔で遠くを見つめる。
「……ちっ。もう少し時間はあるかと思っていたが、甘かったか」
「は?」
「走るぞ九峪。死にたくなければつていこい」
「て、おい、引っ張るな」
 深川に手を引かれ、走り始める九峪。二人を捕らえようとやってくる魔の手は、まさに直ぐそこまで迫っていた。






「おかしなところで会うわね、兎奈美。私は深川と一緒に留守番していろと行ったはずだけど」
 湯布院からの帰り際の兔華乃と兎音。策的範囲が異様に広い二人が、たまたま近くを通る同族を見つけてしまったと言う状況。自分の言いつけを守らなかった妹に、兔華乃はいたくご立腹のようで、にこやかな口元と対照的に目は全く笑っていない。魔界においてすら最強に類する長女の眼光はそれだけで兎奈美を射すくめさせた。

「だって、深川がついてくれば強い奴と戦えるって言うから~」
「黙りなさい。まったく本当に馬鹿なんだから。それで深川も近くにいるのでしょう? まぁ却って都合が良かったと考えた方がいいのかしら、この場合」
「兎奈美、強い奴って……」
「狗根国の左道士~。確かにこっちに来てからだと大分マシな方だったよ」
「くそ、うらやま――」
 兔華乃の視線に気づいて黙る兎音。今ひとつ理性に欠ける妹二人に嘆息しつつ、今は深川を確保するのが先だと頭を切り換える。

「兎奈美、深川を連れてきて。殺さないように気をつけてね」
「やだ」
 兎奈美は即答した。その予期せぬ回答に、兔華乃と兎音は目を丸くする。

「……今、なんて言ったのかしら? おかしいわね、私が聞き間違えだなんて。もう一度言うわよ。深川をこの場に連れてきなさい」
「いやだ」
 ニコニコとほほえみながら、絶対的命令権を持つ姉の言葉に耳を貸さない兎奈美。

「兎奈美、何をふざけて」
 兎音が恐々としながら諫めようとすると、兎奈美は武器を構えた。その動きに、二人がようやく兎奈美の様子がおかしいことに気が付く。

「……兎奈美」
「どうしてもって言うなら、私を倒してからにしてね~」
 いつものように悪ふざけするような声で、満面の笑みを浮かべながら、それでも何故か、涙を流して。

「兎音、予定変更よ」
「どんな風に?」
「深川は殺すわ」
 その声に隠しようもない怒りがにじんでいる。
 魔人、それも魔兔族は特に横の繋がりが非常に強い。どんな理由があろうとも、同族を裏切る事などあり得ないし、まず生理的に寄せ付けない行為だ。いくら兎奈美が奔放で好奇心旺盛だとしても、同族の、それも血のつながりのある兔華乃や兎音に刃を向けるなど、天地が逆さになろうがあり得ない事だ。

「させないよっ!」
 与えられた条件に対し、逆らえず動いてしまっている体。そうとでも言うように、兎奈美の目は涙に濡れている。いつもの戦闘の時に見せる楽しそうな天真爛漫な笑顔をそのままに、涙だけがあふれている。

「よくも、よくも私の妹にこんなっ!!」

 怒声とともに膨れあがる兔華乃の力。兔華乃の特殊能力「空」。相手の戦闘力に応じて、自らの戦闘力が上昇し、その上必ず相手より強くなると言う絶対無敵の能力。事実、兔華乃は負けを知らない。

「はぁあああっ!」
「きゃぁ」
 兎奈美の二つ鎌をくっつけたような奇妙な武器の攻撃を、素手で押し返すと間合いを詰めて動きを拘束する。

「ぐ、この、離してよお姉ちゃん」
「離すわけないでしょ。いいから大人しくしてなさい」
 兔華乃は兎奈美を地面に押しつぶして、その上で兎音に視線を飛ばす。会話は必要ない。兎奈美の状態を考えれば、深川に何らかの術を受けている事は明白だ。操作系の術の大半は、術者が死ねば効力を無くす。

「駄目だよ、殺させないんだから殺させないんだから殺させないんだから殺させないんだから!」
 兎音が深川の方に向かったのを察してじたばたともがく兎奈美。
 その光景は姉の目から見てあまりにも痛々しかった。

「もう少しの辛抱よ、兎奈美。今、助けてあげるから」
 その声は、慈愛に満ちた暖かみと同時に深川へ向けた憎悪と絶対の殺意に満ちていた。













追記:
 あー、深川の話は何処へいくやら。本日は休みと言うことで多少まじめに深川を書いてました。まぁ、ストック三話くらいですから今月中は安泰かなぁとか思います。
 一定ペースで更新を初めて一ヶ月ちょい立ちましたが、今年はせめてこのままいきたいものです。


 ではweb拍手のお返事を。
 5/8。

0:13 最近更新が多くて嬉しく思います。これからもよしなに(ディアナ様風に)
 と頂きました。
 何事もなければこのまま行けると思いますけども、人生色々あるもんですからねぇ。平穏にすめばいいなと私も願っています。こちらこそ宜しくおねがいします。
 コメントありがとうございました。

 5/9。短いのでまとめて。

9:28 おもしろかったです
21:35 good job!!
 と頂きました。
 何はともあれ私などの書いたものでも面白いと言って頂ければ幸いです。これから深川は話が暴走し始めるかと思いますが、よろしければおつきあい下さい。
 コメントありがとうございました。

 5/10。

20:00 時間を忘れて読んでしまい、寝不足に。 これからも期待してます。
 と頂きました。
 あぅ……。また寝不足になった人が一人。ふっ、罪な男よなぁ(爆 一度読んでしまえば最近微妙な更新速度ですから寝不足にはさせられそうにもありませんが、多少でも期待に応えられるように頑張りたいと思います。
 コメントありがとうございました。

 5/12。

16:41 はっけ~ん(byみやび)
 と頂きました。
 おおっ!? みやびさんとはあのみやびさんでしょうか? いやはやお久しぶりです。なんだか一年ぶりくらいな気がしますが。まだしょうもないものを書いておりますが、よろしければ見てやってください。
 コメントありがとうございました。


 他にも沢山叩いて頂いて、もう感動で前が見えません(過剰反応
 ありがとうございました。


 では本日はこの辺で。ヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2007/05/13 20:06】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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