スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【--/--/-- --:--】 | スポンサー広告 | page top↑
深川38
 深川
 三十八話



 山の中を駆け抜ける男と女。
 木立を右の手と左の手で振り払い、少しでも遠くに行こうと必死で駆ける。
 それでも繋いだ左手と右手は離さない。
 狭く入り組んだ森の中は、バラバラに動いた方が早いはずなのに、それでも二人は離れない。

 気が動転して気づいてない?
 不安を少しでも紛らわせたい?
 どちらかがバランスを崩したときに直ぐ支えられるから?

 理由は多分全部。
 出会ってからこの方、二人は意外と上手くやってきた。その関係性や立場の強弱は兎も角として、妙に呼吸が合ってしまう。
 違和感が無いから気づかない。無いことがおかしいというのに。

 一方は理想論と偽善に満ちた綺麗事ばかり並べるのが趣味の、真性役立たず。現実に適応することを頑なに拒み、世界のあり方を受け入れる根性が無いことの言い訳に、歯が浮くようなお題目を素面でさらす痴れ者。時にそれが行き過ぎて命をドブに捨てるような真似までさらす自殺志願者。

 もう一方は世界のあらゆる悪徳を肯定し、己がためならそれら全てを実行してみせる生き汚い害虫。目的のために手段を選ばない、それをどこまでも徹底してみせる合理主義と、矜持のカケラもない発言を平然と言ってのける人生の敗北者。

 二人は全く違う。それどころか自分の最も嫌うタイプのはずの人間が、まさにお互いだという有様。主張は全て真っ向から対立するし、意見が合うことの方が少なく、相手の考えていることなど何一つ想像も出来ない。

 なのに、なぜ二人は一緒にいられるのか。その疑問は、"まだ"わからない。






 足を止めた深川につられるように九峪も足を止めた。深川の全力疾走に合わせたために、体力で劣る九峪は呼吸がおかしい。音が聞こえるほど荒く息をつき、手近な木に体を預けてうめいている。深川はその様子にこれ以上は無理だと判断すると、九峪を切り捨てるかどうするか思考する。

 ――上手く行けばいいが、駄目ならば確実に死が待っている。どのみち、これは賭だからな。

 深川自身も荒い息を整え、おそらくは直ぐに姿を見せるであろう追跡者に備える。ミスをするわけにはいかない。九峪はおそらく当分動けもしないだろうから、この場合は寧ろ都合がいい。余計な口出しで状況を混乱させたくもなかった。

「ふぅ、やれるか?」
 自分に言い聞かせるように呟き、それから右手に力を込めて気づいた。自分が九峪と手を繋いでいることに。

「…………」
 いつから繋いでいたのか全然気が付かなかった。九峪も気づいていないのか、気にする素振りも見られない。深川は不思議そうにその繋いだ手を見つめ、伝わってくる暖かさと、意外に大きい九峪の手のひらの感触を確かめる。

 ――それが、なんだというんだ。

 そんな事を考えながら、感じてしまう不可思議な感情に戸惑う。およそ深川の人生に存在しなかったその優しい感情は、なごみと安らぎと言うものだった。

「はぁはぁはぁ、っく、ふか、わ」
 まだ苦しいのか、肩で息をしている九峪が不意にその手に力を込め深川を見つめる。
「なんだ?」
 平然と応じつつ、そう言えばこの手は一体どちらから握ったものだったか考える。そんな事で、あり得ない感情から思考を逸らそうとする。

「よく、わかん、ねぇけど――っはぁ、はぁ、逃げるなら、お前一人で行け」
「ふん、気を遣ってるつもりか? どのみち逃げ切れる相手でもない」
「ぜぇぜぇ、そうかよ。まぁ、俺の知ったこっちゃないが。どのみち俺は、これ以上一歩も動けん」
 そう言ってへたり込む九峪。深川は軽く頷くと、振り払うように手を解いた。それで九峪も自分がずっと深川と手を繋いでいたことに気づき、その手を妙なものでも見るように見つめた。

「……で、結局何から逃げて」
 九峪の質問は、その対象の出現によって無意味と化した。

「深川……と、九峪? ふん、渡りに船というかなんというか」
「兎音?」
 九峪は目を丸くし、それから一秒ほどで思考を完結させる。すなわち、敵が兎音→兎音は魔人=ものすごく強い→深川が殺される、といった感じに。九峪から見てもはっきり分かるくらいに、兎音は深川を殺す気満々だった。

「まぁいい。深川、よくも兎奈美にあんな真似を」
「? 兎奈美にあんな?」
「しらを切る気か? だが別に構わん、お前が死ねば兎奈美も」
 そう言って体をたわませる兎音。

「待て。話が見えない。兎奈美をそそのかして連れ出したのは事実だが、私は他に何もしていないぞ?」
「いくら兎奈美が馬鹿だろうがな、姉様の命令を無視するなんてあり得ない。お前に操られていたと考える意外に無いだろう」
「私が? はっ、買い被ってくれるね。確かに私は操作系の左道を得意としているが、それでも生きてる人間を操る術は限定されるし、時間もかかる。とても上級魔人を相手に一日や二日でやってのけられるような腕じゃないさ」
「言い訳はそれだけか?」
 兎音はもう何も聞く気はない。ただ、深川を殺せばいいのだと、そう信じ切って疑っていない。だから、深川に向かって、人間には知覚出来ない速度で襲いかかった。






 急に、頭の中に声が響いた。それは前に魔獣を三匹殺したときと同じ声。言語と言うより思念。言葉に変換するのが酷く難しい、曖昧模糊としたイメージ。
【■■■■■■】
 だが、それは言葉よりもはっきりと九峪に内容を理解させる。理解した上でそれから九峪はゆっくりとそれを言葉に変換し、再確認した。

 ――深川は殺させない。

 それは半ば九峪自身の感情でもあったし、声に従うままに体は動いた。直ぐ隣にいる深川。その前に立ちふさがると同時に、目の前に飛び込んできた兎音の突進を、堅くて鋭い刃を突き付けることで無理矢理阻んだ。

「――っく!」
 唐突な邪魔に兎音は驚きながらも間合いを取る。急激な進路変更で地面は抉れ、九峪はもろに土埃をかぶってむせた。その様子から、明らかにただの人間以下にしか見えないのに、今の動きが理解できない。
「邪魔をするな九峪。貴様に用は無い」
「――いや、そう言われても深川を殺させたくないし」
「退けと言うのが分からないのか?」
「退かねーよ。んな事より、事の正否も確かめずに一方的に殺すなんて許せるか!」

「うるさい。このままでは兎奈美が……」
「それって深川じゃないんだろ?」
「助かりたいからそんな事を言ってるだけだろ。いいから退け。殺してみれば分かることだ」
「だから、死んでしまったら元に戻せないだろ! 手前勝手な理屈で人の命を奪うとか――」
「兎奈美の術が解けないというなら、あいつを殺すしかないんだぞ」

 兎音は可能性が低いからと言ってそれを諦める選択肢を持たないだけ。深川の命を奪うことで、兎奈美を止めることが出来る可能性があるというなら、そんなもの考えるまでもない。

「……深川、実際どうよ?」
「知らんな。魔兔族を手なずける術か。知ってるなら是非使いたいところではあるが」
 それが出来るならとっくの昔に蛇渇を殺している、と呟いて、それから顔を顰める。

「そうか、そうだな」
「どうした?」
「魔兔族を操作出来るなど、そんな馬鹿げた術を使えるとすれば倭国広といえどもあの骸骨だけだろうよ」
「蛇渇が?」
「重ねて言うが、私は上級魔人を自由に操れるような人外ではない」
「蛇渇が術を掛けたのだとして、だとすればなぜお前を守るような呪がかかっている? そんな事をしてあいつに何の益がある」
「あるだろうさ。それは当然。何せ、今天魔鏡の在処を知っているのは私だけなんだから、まだ自由に泳いでいてもらいたいだろうし、途中で死なれても困るんだろう」

「そう言う、事か」
 兎音はそう言って警戒を一応解いた。

「姉様がどう判断するかは知らないが、お前等が一緒に来れば兎奈美も一端は元に戻るだろう。戻らないときは覚悟しておけ」
「……やれやれ。信用がないな」
 深川は嘯くようにそう言って、兎音の後に続いた。一度だけ、一緒に着いてきた九峪を振り向き、

「助かった。お前もたまには役に立つな」
 そんならしくもない事を言って。













追記:
 予定より一日早く更新。明日はちょい用事があって更新できなさそうなので、という理由なんですが、まぁ、たいした違いではないですね。

 本編の方は……、なんか妙な展開ですが、次回ターニングポイントな感じ。すんごい事になるけどものを投げないで下さいと今のウチに言っておこう。さて、五十までに終わるかなぁ。無理かなぁ。


 web拍手のお返事。
 5/16。

15:01 深川さん、何というか戦力が必要だったにしても九洲最強の一人を既に敵ににしてるのに、もう一人も敵にする
15:04 ような事をしてどうする気なんだろ?視野狭窄に為ってる?それとも秘策あり?・・・後先考えて無いに一票!
 と頂きました。
 深川様は剛毅なお方なので強きを挫く道を選んだのです! ……いや、まぁ、それは戯言ですが。深川が墓穴を掘る最大の要因は自分の目的に固執しすぎて判断を誤ってしまうところにあるんじゃないかなぁと思うんですが、今回もそんな感じで、生き残ることを本当に最優先にするなら大人しくしているか、火魅子に頭でも下げた方がいいんだけど、結局自分も願い事叶えたいよー、とか思ってしまってるワケで。まぁ、状況が状況ですのでどのみち扉を自分で使いでもしないと、最終的には生き残れなかったりするってのもあるんですが。
 何より兎奈美を操っているのはあの骸骨じじい……、と本人は言ってるけどどうなんだ? まぁ、その辺も含めて次回が急展開なのでこうご期待とでもしておきます。
 コメントありがとうございました。

 他にも叩いてくれた皆様に心より感謝を!

 では本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2007/05/18 19:11】 | 会議 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
<<深川39 | ホーム | 深川37>>
コメント
コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する

トラックバック
トラックバックURL
http://sophist00.blog48.fc2.com/tb.php/155-dad80bed
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
| ホーム |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。