スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【--/--/-- --:--】 | スポンサー広告 | page top↑
深川39
 深川
 三十九話



 兎音が深川と九峪を連れ、兔華乃の元に戻ると兎奈美は一応落ち着いて、しかしやはり深川の側に立った。

「……どういう事なのか、説明してもらいましょうか?」
 兔華乃の声と視線は冷徹そのもの。気に入らない答えや、納得がいかない返事であれば即殺すつもりだと、誰から見てもはっきりわかるほど。今それをしないのは曲がりなりにも深川が元凶ではないという理由そのものには、納得できる部分があるからだろう。

「どうもこうも、おそらくはどこかで蛇渇に接触したんだろう? 上級魔人に拘束力のある呪をかけるなど、倭国中探そうがあのくそじじい以外に出来るものか」
「間違い無いと言い切れる?」
「決めるのはそっちの判断だろう。私程度の左道士に操られるほど、落ちぶれた魔人だと思ってるなら殺してくれても構わないが?」
 挑発的な深川の物言い。その言動は気に入らなくとも、確かにこんな地方でこそこそと活動している左道士に、自分の妹が操られたなど考えられない兔華乃。

「……まぁ、いいでしょう。しかしなぜあなたを守るように動くのかしら?」
「そんなものは鏡以外に無いと思うが」
「あなたも操られている可能性は?」
「それを払拭するために、背中の入れ墨を取り去る術を探しに行ったのではなかったか?」
 深川の言葉はいちいちもっともだった。兔華乃は大きくため息を吐いて頷いた。

「いいわ。当面はその話を信じましょう。今のところあなたを攻撃しようとしない限り、兎奈美も変わりないようだから。但し、いつ気まぐれで殺されても文句の言えない立場だというのも覚えておいてね」
「ああ、わかっているさ」
「……じゃあ行きましょうか。九峪さんを探しておいてくれたのは、むしろ都合が良かったわ。あなたの入れ墨を取る条件として、九峪さんを連れてきて欲しいと頼まれていたから」
 深川はそう言われて顔を顰める。

「一体、どこの誰にやらせる気だ?」
「あら、今この九洲で最も術に長けている人と言ったら決まってるじゃない」
「――正気か?」
 苦り切った深川の表情に、兔華乃はすました顔で頷いた。

「少なくとも、あなたよりは信用に足る人間よ、彼女は」
「ふん、まぁいいさ」
 どのみち選択肢はない。ぶっきらぼうに深川は言って、それなら早く行こうと足を動かそうとして――

「それは困るな」

 誰をおいてもそんなことを言うはずのない人間が、その台詞を口にしていた。






 山の一角が荒れ地と化していた。木々は吹き飛ばされ、地面は抉れ、元の形をとどめていない。チリチリと熱気が大気中に拡散していく、その破壊の中心に一人血濡れた姿で立つものがいる。
「……俺、何を」

 呆然と変わり果てた光景を見つめ、それを自分が成したのだという事を、どうしても理解できないでいた。

「……ぶはっ!」
 土の中から起きあがって大きく息を吐いたのは連れの女。体中についた土を払うことも忘れ、見開いた目は周囲を眺めている。

「深川」
 呆然とした呟きにそちらを向けば、間違えるはずもない男がいる。

「九峪」
 それは疑問にも似た呟き。目に映るこの男が、本当にその名を持つ、自分の知る男であるのかどうか。
 少なくとも、こんな真似が出来る奴ではなかった。こんな破天荒な破壊は、深川の知る限り火魅子以外にはできない。

「……お前」
「聞かれても、答えられねーよ」
 機先を制するようにそう言って、九峪は自分の手のひらを見つめる。

「はは、なんだっつーんだよ。何で、俺がこんな」
 その手は、真っ赤に塗れている。今さっきまでそこにいた、少女のような魔人の血。






「そいつは困るな」
 自分が何を言っているのか分からない。ただ、頭の中に響く例の思念が、さっきより断然大きく、自分の思考を塗り込めるほどに響いていた。

「何を言ってるの? 九峪さん。あなただって日魅子には会いたいのでしょう?」
「俺が? 日魅子に? ははっ、はははははっ、あはははははははは!」
「九峪さん?」

 腹がよじ切れそうと言うように、哄笑を上げる九峪。その場の誰もが不審に思った。だが、疑念が疑念でしかないうちに、九峪は既に行動を起こしていた。

「あいつは最後の仕上げだよ。まずは邪魔なお前等から死ね」
 言葉と共に放たれたそれを、誰も止めることなど出来なかった。

 黒光りする一振りの剣が兔華乃の目の前に現れ、かわす間もいなす間も受ける間も与えられず、次の瞬間にはその矮躯を貫いていた。

「はっ、え?」
 感じたこともない強烈な熱さが体の中心から駆け抜け、状況を理解できない最強の魔人が戸惑う。最強の能力を持つが故に今まで感じることもなかった、死に至る激痛。

「姉様!? 九峪、貴様ぁっ!」
 兎音が激昂して動いたが、九峪をかばうように兎奈美が飛びだす。実力に差がない兎奈美が相手では、放っておいて九峪に斬りかかることも出来ない。

「姉様が、姉様がぁっ!」
 叫びながら、泣きながら、それでも九峪を守り、兔華乃の元に駆け寄れない兎奈美。
「退けっ、兎奈美!」
「出来ないんだよっ! いいから姉様を!」

 腹に剣を生やしたまま、膝をつき、うなだれる兔華乃。どくどくと血が剣と肉の隙間から溢れ出し、そのたびに肌から精気が抜けていく。意識はないのかピクリとも動かないその姿が、二人の妹を駆り立てる。だが、兎奈美は自分を止められない。兎音も一端戦闘状態に入ってしまっては、今更無警戒に兔華乃の元に戻ることも出来ない。

 伯仲する実力の二人が拮抗する中、九峪は悠然と兔華乃へと足を向ける。

「九峪、貴様これ以上何を!」
「駄目ッ! それだけは駄目だよ九峪!」

 戦いながら叫ぶ二人。九峪は二人の事など見向きもせず、ただ黙って兔華乃の体を見下ろす。

「どいつもこいつも、自分が自分が、自分のためなら人が死のうが、誰を裏切ろうが知ったこっちゃないって。いい加減こいつは腹が立ってたんだよ。だから、世界を自分色に塗り替えてやろうって本気で願望した。誰もが他人を思いやり、争いも諍いもなく、過度の幸せも不幸せもない世界。一人の悲しみを皆で分かち合い、一人の幸福を皆が喜ぶそんな世界。そんな、気持ち悪い世界があればいいと。お笑いだろうがそれでも器。その障害になるものは皆殺しだ」
 兔華乃の腹に刺さった剣を九峪が握る。

「――ぐ、あなた、一体」
 何故か空の力が発動せず、そのせいで上手く傷の再生も出来ない兔華乃。死に体になりながらも、何とか九峪の腕を掴んだ。

「我は炎の御剣の御霊にして、願いの受諾人。嘗ては――と呼ばれていた事もあったか」

 兔華乃の目が見開かれ、同時に苦痛を憎悪が凌駕する。空の力が無くとも上級魔人。ただの人間相手に負ける事もないと、飛びかかろうとした小さな体は九峪に蹴り飛ばされ、同時に剣が引き抜かれた。

「うああああっ!」
 冗談みたいな量の血が噴き出し、九峪の体を朱に染める。荒い息で、仰向けに転がった兔華乃に、九峪は感情のない目を向けて剣を突き付けた。

「ではな、最強なるもの。我が剣の一撃で、天へと帰るがいい」

 発光する黒い剣。
 周囲を光が覆う中、兎音と兎奈美の悲痛な叫び声が響いていた。






 気が付けば荒野。生きているものは深川と九峪だけ。九峪の目の前には大仰な剣が一振り地面に突き刺さっていて、それを手に取りながら呟いた。

「……深川。俺はなんなんだ?」

「…………」
 深川はその回答を持たなかった。いや、一体誰であればその問いに答えられたと言うのだろうか。

 自らが禁忌としてきた殺人を犯してしまった九峪は、自分を見失ったまま呆然と何処へともなく歩き始めた。













追記:
 六日に一度の連載が五日に一度になりましたとかなんとか。いや、来週がどうなるかなんて知らないけどねぇ。
 え~、ウサギさんになんて事するんだとか、またお前はそんな事をとか、そんな感想を持たれた方はいつものことなので許して下さいませ(汗 いや、だってほら、まだ、ね? 真打ちは別ですから(爆

 制作状況ですがついさっき四十二話の執筆が完了した次第であります。ストック三話で四話めを書いたら容赦なくupしていくことにしようかなとふと思いついたので、ノリノリだと連載スピードが若干速まるかも分かりません。まぁ、あまり期待しない方が賢明だとは思いますけどね~。


 ではweb拍手のお返事~。
 5/18。

20:37 デレか、デレの前兆なのか? まあデレないんだろうけどよ…
 と頂きました。
 深川があまり簡単にデレに入ると私がつまらな……って、いい加減四十話なのでそろそろデレった展開を見せたいのも山々なので、前回の話だったりするわけで、でも四十二話現在それどころじゃ、って感じです。まぁ、デレてくれないとエンディングに持ってけないんでなんとかそろそろだと思いますです。
 コメントありがとうございました。

 5/20。

9:49 せっかくだから
 と頂きました。
 あーっと、これはweb拍手のお礼コメントのあれですね。運がいいと(悪いと?)何度も連続で出てきたりなんかしてねぇ。どうでもいいですかね。わざわざありがとうございました。

 5/22。

0:33 これが世に言うツンデレと言うものデスカ?
 と頂きました。
 深川はツンデレでは無いと思うんです、多分。そもそもツンデレは好きだけど素直になれずにツンツンしちゃう某清瑞@無印火魅子伝なわけで、深川は単純にまだ気づいてないだけだと思うんですがどうなんでしょう? 書いてる本人がこんな感じですから読者様にはさっぱり伝わってないんだろうなぁと、他人事のように言ってみたり。……精進いたします(泣
 コメントありがとうございました。

 叩いて頂いた他の皆様にも心より感謝申し上げます。ありがとうございました。


 では今回はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2007/05/23 21:22】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
<<深川40 | ホーム | 深川38>>
コメント
コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する

トラックバック
トラックバックURL
http://sophist00.blog48.fc2.com/tb.php/156-5c259064
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
| ホーム |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。