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深川41
 深川
 四十一話



 人の欲には果てがない。
 欲しいものは全て手に入れたいと願うのは人の業。まして全てが叶うというなら、それを求めるは必然。

 気高き理想を叶えるため。
 浅ましき欲望を満たすため。
 健気な願いを実現するため。
 過酷な運命をねじ曲げるため。

 求めるものは皆違う。だが、結局それらは私欲だ。誰かのためだと高尚ぶろうが、そうしたいと思わなければ人はそもそも動きはしない。
 誰にでもある。
 だから、誰もがそこに向かった。

 情報が一体どこから漏れたのか。それを追求することは無意味だろう。あまりに目立つ狼煙が、目立つ場所から立ち上がってしまっていたのだから。

「酷い混乱」
 そう呟いた少女は、征西都督府がある湖周辺に群がる人々を上空から眺めていた。人が沢山いる。耶麻臺国や耶麻台国の兵士に、どこから紛れ込んだのか狗根国の兵の姿も見える。人々は征西都督府へと続く橋に群がり、醜く争っている。

「浅ましい人が一杯だね。こんなの無ければいいのに」
 少女は自らが作った空飛ぶカラクリを操りながら光の柱の周りを周回する。神々しい天に昇る柱。それは確かに神秘的で、願いを叶えてくれそうにも見える。

「けど、星華様の言ったことが本当なら……」
 少女はただ様子を見に来ただけ。他力本願で願いを叶えようなどとは全く思わないし、そんな事に興味もない。創作が趣味の少女にしてみれば、全てを与えられたりなんかしたら、その後やることが無くなってしまって却って困る事になる。新しくて凄いものを作りたいし、その作り方を知りたいとも思う。けれども、ただ与えられたものでは、満足できないのだ。あくまで自分の力でたどり着けなければ。

 そう言う意味で、少女は願いを叶える扉など全く必要としなかったし、それだけにこの偵察任務が適任だったと言える。

「……あれは」
 下で異変があった。人の群れの中に異形のものが突っ込んでいく。
「魔人……」
 おかしな事ではない。九洲に潜り込んでいる狗根国の連中には左道士が多い。魔人を連れていてもおかしくはないだろう。それにしても……。

 上空からでもはっきりと舞う血しぶき。人がボロ雑巾のように蹴散らされ、波が引くように魔人の周囲から人が離れる。しかし引く速度より魔人が突っ込む速度の方が圧倒的に早い。魔人が進む方向に逃げてしまった者は死ぬしかない。

 それでも数が数。千は軽く越える人間を魔人が一人で殺し切るには時間がかかるだろう。ここで諦め、逃げることに全力を注げば九割方の人間は逃げ切れるはずだ。まだ、魔人は一匹でしかないのだから。

「なんで、そんなに……」
 少女の呟きは嘆きにも似て。
 少なくない人数が、常ならば迷わず逃げる魔人を目の前にして、それでも橋を渡ろうと動いていた。
 殺されると分かっていながら、欲望に執着して。自ら、死を選ぶ。

「……あ、ようやく来た」
 少女は偵察と同時に授かったもう一つの任務のために、飛空艇を下降させていく。その先には、一軍を率いて現れた日魅子の姿があった。






 屍山血河に阿鼻叫喚。地獄と呼ぶにふさわしい光景を眺めて日魅子はため息を一つだけ吐いた。
 この争いは本人達が考えている以上に意味がない。あの光の柱の下には天魔鏡があるのみで、それだけでは扉は現れないし、願いも叶わない。我先に争って手にしたとして、魔人程度に殺される輩が剣をそろえるまでそれを所持し続けることなど……。そもそもそれを手に出来るものすら限られているというのに。

 知らないのだから、仕方がないと言えるかも知れない。だが、知らないというのに、願いが叶うことは微塵も疑わないのはやはり愚かしい。一体なんの裏付けがあって、それを信じ込んでしまっているのか。ただの言い伝えでしかないそんなものに皆踊らされて。

「衣緒。あなた達はここで待機してなさい」
「お一人で向かわれるおつもりですか?」
「こんなところで貴重な兵力を使いたくはないわ。魔人一匹だけというなら、私が倒した方が手っ取り早いし。何より天魔鏡の本来の所有者が誰であるか、皆に改めて見せる必要はあるでしょう?」
 言外に余計な気を起こさせないためにも、と含ませる。

 衣緒はこくりと頷くと同時に、日魅子に気遣うような視線を向けた。

「……差し出がましいようですが、大丈夫ですか?」
 湯布院を出たのが昨日のこと。軍は準備が終わっていたので、知らせが届いて直ぐにでも出られたのだが、日魅子自身はその直前まで泣き崩れていたのだ。

 そのとき語った言葉。

 "九峪は私が殺さなくちゃならない"

 衣緒にその言葉の真意は分からない。だが、それがどれだけ残酷なことかは理解できた。

「ありがとう。でも、大丈夫よ」
 笑ってそう言った日魅子だったが、やはり衣緒には納得しているように見えなかった。だから何事かまた声を掛けようとして、そこに甲高い少女の声が響いた。

「火魅子様~っ! 衣緒おねえちゃ~ん!」
 飛空艇で直角に落ちてきた少女は、日魅子達の頭の上で急停止すると、ふわりと地面に落ちた。

「羽江? なぜこんなところに」
「星華様のご命令で。久しぶり、衣緒お姉ちゃん」
「ええ、本当に。それより星華様のって……」
 羽江は頷くと日魅子の方に向き直り一礼する。

「星華様から伝言があります。天魔鏡と炎の御剣をそろえて扉を開いたとしても、願いは叶わないから無駄だって。火魅子様なら知っているかも知れないけど、とも言ってましたけど一応」
「……星華が。ふぅん、さすが宗像の巫女筆頭にして王族。知っていたのね。まぁ、おそらくは口伝で一子相伝の類でしょうけど。亜衣も知らなかったでしょうから」
「あー、亜衣お姉ちゃんの事はすみませんでしたって、星華様も」
「そう。ご忠告ありがとうと、星華に伝えておいて。それと、私に万一のことがあったときはあなたに任せるとも」
 さらりと、日魅子はそんな事を口にした。きょとんとなる羽江。戦慄く衣緒。

「火魅子様?」
「万に一つ、よ。羽江は火後に戻って星華によろしく。衣緒は、もし九峪が現れたら私を無視して川辺まで引き返して」
「九峪さんが? あの、どういう……」
「必ず言われたとおりにすること。できるわね?」
「……わかりました」
「うん」

 日魅子は二人が頷いたのを見届け、地獄へと向かい、歩き始めた。






「あまり同情する気にはなれないけど、せめて迷わずに」
 死体の中に立ち、日魅子は目を閉じ死した民の冥福を祈る。
 その口が、言葉を一つ紡いだ。

「天の御柱」

 屍者一人一人の上に炎が巻き起こり、消滅と同時に天へと光の柱が上っていく。
 天の御柱。それは屍者が心よりの安らぎを得たとき、天界へ旅立つ道が示されたものだと伝えられている。仏教で言うならば成仏の証。天国へと行けたと言うことだ。

 本当のところは日魅子にも分からない。少なくとも人間界で死んだ者が天空人の住まう天界には行かない事は確かだ。

「……迷い子よ。お前も逝きなさい」
 全ての屍者を弔い、日魅子は殺戮の元凶へと視線を飛ばす。

「が――」

 呻く暇すら魔人には与えられなかった。足下からまるで喰らうように炎が魔人を包み込み、絞り尽くすように渦巻いて、最後には消し炭も残さず天にのぼっていった。

 日魅子の視線は、自分を見つめる生き残りの方に向いている。欲に目がくらみ、死の恐怖に駆り立てられ、自分を見失っていた者達はようやく我に返った。
 そして、今までやっていた行為が、日魅子に対してどんな意味を持つのかを理解した。

「水に沈められたとはいえ、ここは私の城。そこで、お前達は一体何をしている!」
 一喝は、まるで石化の術だったかのように、誰もが動くことを禁じられた。呼吸をするのも忘れて、思考することも出来ずに日魅子をただ見つめる。

「疾く去れ! これ以上我が領分を侵すというなら、もろとも灰燼と化す!」
 はじかれたように、人々は今までとは逆方向に走り始めた。

 日魅子はまっすぐとその先にある橋を見つめ、歩き出した。

 ――歩き、出そうとした。

「ここは見せしめに殺しておくところだろう。日和ったか、火魅子」

 聞き間違えるわけがない声。
 もう一度聞きたいと思った声。

 振り返る瞬間、日魅子は日魅子で、火魅子では無かった。

 だから、信じられなかった。


 見えたのは血しぶき。
 同じ光景の焼き直し。

 ただ、それを成したのは日魅子が大好きな男だった。

 そんな事を出来るはずもない、誰より優しい、汚れを知らないはずの――。


「――九峪」

 最悪の想定を覆せなかった事への落胆。
 これからの顛末を考えた末の苦悩。

 日魅子は選ばなくてはならない。殺してでも生きるのか、生かすために殺すのか。
 その究極にして、最悪の選択肢を。













追記:
 更新速度が早いねぇ。早すぎるねぇ。まぁ、早すぎるのにも事情が会ったり無かったり。えーと、来月から仕事の勤務時間が非常に変則的になって朝だったり夜だったり夜中だったりと、向こう三ヶ月くらいはそんな感じなので余裕が無くなってかけなくなるかもわからんので、今の内に皆様に夢を見させ……ゲフンゲフン、そんな感じです(?)

 内容についてはスルーです。フラグとか色々会った気もするけど回収しないで終わってもああいつも通りだなぁとか思ってくれれば助かります。なんか話の方向がねぇ。


 ではweb拍手のお返事。
 5/26。

21:47 BADEND?上等じゃないか!!未完で終わる作品多いので・・・・・・
 と頂きました。
 え、いいんですか? そうか、終わればそれでいいんだ(ぉぃ 深川はどうあれもう先も長くなさそうなので終わることは終わると思います。完結は期待して頂いても構わないのではないかなと思いますが、終わり方に関しては、まぁ、いろいろ頑張りたいと思います。
 コメントありがとうございました。

 5/27。とりあえず一件目。

2:37 [>いや、バッドなグッドエンドもあると思うんですが(?)]全部書いてしまえばいいのですよ?
 と頂きました。
 全部……。全部? マルチエンドご希望ですか? あっはっは、そんなもん今書いてます(爆 いや、半分嘘ですけどね。四十五話まで書いて四十三話から書き直しているので、没原稿の方をそのまま書いてしまえばルートが別れるとかそんな話なんですけども、面d(ry
 一応見当してみます。コメントありがとうございました。
 二件目。

3:09 OLSシリーズ全読破!職場で! 面白かったです。これからも頑張ってください。
 と頂きました。
 ……仕事して下さい(笑 OLS全部読もうと思ったら丸一日は確実、下手すると二日目まで食い込みかねないというのに、いいんですかねぇ。また罪深いことをしてしまった(マテ 兎も角お褒め頂き光栄の至りでございます。
 コメントありがとうございました。

 三件目。

13:19 『深川』物語は面白いし、今後が非常に気になる展開ですが主人公やヒロインには魅力を感じないのも事実。
13:22 そんな訳で、今回は恋愛要素抜きで、予想外の展開と混沌の結末を期待しつつ応援させていただきます。
13:24 編年紀の更新も待ってます。それでは
 と頂きました。
 ああそうか。書いててつまらないのはキャラがグダグダだからでしたか。まぁ、元々キャラ立てるのはそんなに得意ではないのですが、それでも読んで頂ける人がいる程度の話にはなっているようでもありますので、せめてラストくらいは盛り上げてみようかなと思ったり思わなかったり。盛り上がるかは正直心許ないのですが、頑張りたいと思います。編年紀は……、深川が終わってから考えますね。
 コメントありがとうございました。

 他にも叩いて頂いた皆様に感謝を!
 というか未だにのべ人数で二人くらいしかweb拍手のアレに気づいていないようなのだが、どのくらいまでやったら気づくのかなぁ。それとも気づいてもスルーしてるんでしょうかねぇ

……あ、そう言えば久しぶりに直接コメントもいただいて下りましたね。(忘れて先に一度upしたのはヒミツ)


んん、Good
一気に読んでしまいましたよ

腹黒最高!
しかし腹黒に弄ばれると思われていた自分の腹の中に真っ黒な剣があるのね・・・
 と頂きました。
 腹黒が腹黒を呼ぶ「深川」。まだ中途半端にしか出てきていない腹黒さんも下りますから、その辺の活躍(?)にも期待して頂けたらなと思いますです。最終的に九峪はどうなるかー、とかその辺りもまぁ、まだ考えてないんですがね(爆
 コメントありがとうございました。

 では本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2007/05/29 19:56】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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