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深川42
 深川
 四十二話



 この国に居場所を失った。同じ境遇を持つからだろうか、その者達が出会ったのは。
 そこにそれが降ってきたのは多分大いなる偶然。
 必然があったとすれば向かう先が一緒だったと言うことだけか。

「亜衣さん」
「志野」

 火後へ向かう街道で偶然にも出会った二人。亜衣は川辺を追放された後、仕事の引き継ぎはしなければならないと、律儀に美禰で残務整理すること数日。ようやく一段落したので、星華のいる火後へと戻ろうとしていたところだった。

 一方志野は情勢を予見し、自分の身の危険を感じて耶麻臺国から火後に落ちてきた。一座の者達はやってもらうことがあったので今この場にはいない。志野自身、火後でやるべき事があった。

 目的地が同じならば出会ったのは必然。志野を利用し日魅子に揺さぶりを掛けた亜衣からすれば、九峪殺人未遂の容疑者である志野を捕まえる事も考えられないし、国政に戻るためとはいえ今は時期が悪かった。何より一騎打ちをすれば亜衣より志野が強いのは明白で、逆に命を狙われる危険すらある。

 志野はこんなところにいるはずもない意外な人物に会ったことに目を丸くし、やはり自分を捕まえるべき立場にある亜衣に警戒心を抱く。

 しばらくじりじりとにらみ合いを続けていた二人だったが、それを遮るようにそれは降ってきた。

 隕石のように二人の間に降ってきたそれは、鈍い音と土埃を舞上げ、二人の緊張状態をぶちこわした。
 同時に、興味を完全に逸らしてしまった。

「これは……」
「魔兔族?」
 二人で顔を見合わせる。見間違えようもない魔兔族三姉妹。全員そろってぼろぼろで、とても生きているようには見えない。

「……亜衣さん。手伝ってもらますか?」
「ああ」
 とにかく見なかったことにして放っておくことが出来るほど、二人とも太平楽でも無頓着でも無かった。
 同時に二人とも目的のために自分を抑え論理的に行動できる頭の回転の速い人間でもある。やるべき事は二人の中で決まり切っていた。

 まず、三人を仰向けに寝かせて状態を確かめる。傍目に見て死んでいるかと思った三人だったが、全員しぶとく生きていた。呼吸はか細く脈も弱かったが、生きてはいる。

「誰がやったんでしょう? この三人をこんな目に遭わせるなんて」
 志野が難しい顔で言うと、亜衣は肩をすくめる。

「さて。出来るとすれば火魅子様くらいだろうが、火魅子様は兔華乃だけには叶わないとご自分でも言っておられた。だとすれば、それ以上の力をもった輩がこの九洲に現れたと言うことか……」
「……」
「どうした? 志野にとっては朗報じゃないのか? 志都呂の仇を討てる奴が、ようやく現れてくれたって事だろう?」
 見透かしたように言った亜衣だったが、志野は辛そうな顔で首を振る。

「困りました。こんな事態は想定していない」
「?」
 志野の悩みが、その真意を知らない亜衣には分からない。

「とにかく、こいつらをどうするかだな。兔華乃一人くらいなら兎も角、さすがに三人を私たちだけで運べないだろうし」
「そうですね。せめて後二人くらいいれば、近くの村くらいまでは運べると思いますけど」

 何が起こったのか。こんな真似をしたのがどこの勢力で、味方になるのかならないのか。二人にとってそれが最大の関心事だけに、この魔人達を放置する気にもなれない。

「まぁ、この状態なら薬師もいなければどのみち直ぐに野垂れ死にかもしれないが。ふむ、とにかく人を呼ぶか。このままでは埒があかない」
「そうですね、人を――」

 そう言って振り返った志野の視界に、体のいい人手が映った。
 志野のよく知った少女と、あつらえ向きに薬師の女。

「こいつらもよくよく悪運が強いと見える」
 半ば呆れながら、出来すぎた状況に亜衣は苦笑して見せた。






 腕が飛び、足が折れ、胴がちぎれ、頭が微塵と化す。
 数百の肉塊は僅か数秒でできあがった。五体満足な者など皆無。再び戻った地獄に立つのは時の彼方で親しかった男と女。

 一度は死別と嘆いた思いは遠く彼方に霞んでしまった。
 目の前にいる殺戮者が一体誰なのか、それが分からなくなりそうで、霞む幻影を見定めようとするように、日魅子は目を細めて九峪を凝視していた。

「温いぞ火魅子。天魔鏡は神器。卑しき民など触れようと考えることすら烏滸がましい。まして斯様にお前を出し抜こうなど、死して償うより他に道などあろうか」
 そう言って、楽しげに顔に張り付いた臓物を振り払った男は、やはり九峪には見えなかった。少なくとも、日魅子の知っている少年ではあり得ない。

「九峪……、いえ、炎の御剣」
「カカ、そんな名で呼んではこの男が嘆くぞ」
「……でも、あなたは九峪なんかじゃない。だたの願望の代理人。剣を持つものの願いを聞き届けるだけの、ただの受動器」

 神器と呼ばれる鏡と剣は、それぞれに精神を宿している。或いはそれ故に"神"の名を冠しているのかもしれない。

「剣の御霊は所持者として資格ある者に宿り、その者の最たる願いを聞き届け、それを叶える。でも、九峪に宿ったのは一体いつ? 私の前に現れたときは既にあなたは九峪に宿っていた。はじめは深川がそうしたのかとも思ったけれど、元来剣の御霊は所持者以外を媒介しない。深川の手から九峪に宿るわけがない。あるとすれば、九峪が偶然剣をその手にしたとしか」

 しかしそれもまたあり得ない。九峪はずっと深川や兎奈美と一緒にいた。一人で行動した事など無い。

 九峪は剣を地面に突き立てると、わざとらしくため息など吐いてみせる。

「やれやれ、千年に渡り知識と力をため込んだ姫御子の御霊を宿すお主にも分からぬか。それとも分かりたくないだけか? 我は所持者以外には触れられぬ。ならば、一体いつどうやってこの世から姿を消したというのだ?」
 嘲笑を浮かべ、顔色を変えない日魅子を満足げに見つめ、続きを口にする。

「我が精神は天魔鏡のそれより強固にして堅牢。精霊として人の姿を借りることすら容易い。幾星霜待とうとも現れぬ宿主を求めて、耶麻台国の宝物庫から抜け出したのはそう、確か三百年ほど前だったか」

 日魅子は頷く。全てを納得したというように。

「そして宿主を捜していたのね」
「そうとも。出来るだけ積極的に、自ら率先して資格を持ちうるものを捜し出すためにな」
「……肝心の、九峪にはいつ?」
「何、ふと思い出したのよ。我を持つ資格を持つものは、すなわち天界の扉の前に立つ資格を有する者。ならば、我の前ではなく、天魔鏡の方に現れるのではないかとな。この世が必然に満たされているならば、それが道理というものだ」
「つまり、はじめから」
「そうとも。全て我が千年の宿業を果たすため」

 炎の御剣にとっての存在意義。千年の間にそれは既に呪いと化したのか。日魅子に感じ取れるのは陰惨とした怨念だけ。

「火魅子よ。邪魔だてするのであれば我を造りし者の末裔と言えど、容赦はせぬぞ」
「……最後に答えてもらうわ。炎の御剣がその資格を持つものにしか持てぬように、天魔鏡の神器も資格あるものにしか持つことは出来ない。それを知っていてここを通るつもり?」

 九峪は笑った。乾いた声で、勝ち誇るように高らかと。

「カカカ、火魅子よ! お主は耳が聞こえぬのか? それともこの男のように惚けた頭でもしているのか? 我は確かに言ったぞ。この三百年、宿業を果たすためだけに生きてきたのだと!」
 その質問は愚問だと、九峪の声で笑った剣の御霊。

 その背後から深川が歩いてくる。
 今や全てを知り、逆らうことも逃げ出すことも諦めた、敗者の顔を貼り付けて。
 忌々しげに、火魅子と九峪を見つめながら。

 日魅子は問答を終え、剣を引き抜き近づいてくる九峪を見つめ、その姿を見たくないと目を瞑り、昔日の九峪の顔を瞼の裏に思い浮かべた。
 優しく笑いかけ、虐められた自分を慰めてくれた九峪の顔。

 涙が勝手にあふれてきて、のどの奥からせり上がってきた何かを無理矢理押さえ込んで、ただ、ただ九峪に謝った。

「ごめんなさい」
 呟くと同時にスイッチが入る。
 日魅子は火魅子の思考に塗り込められ、目の前の脅威に全能力を解放させた。

「カカ、やはり立ちはだかるか、姫御子よ!」
 楽しげに笑い、突っ込む九峪。

「痴れ者め! 造物主に牙を剥く愚かしさ、その身に刻み込むがいい!」
 日魅子の眦から宙に舞った涙がひとしずく、自らが放つ熱波に一瞬で蒸発した。
 目の前に現れた灼熱の火球。余熱だけで大地が沸騰し、都督への橋が燃え上がる。

 人など瞬時に蒸発させる炎の固まりと、突進する九峪の姿が交差する――


 ――その刹那、火球が嘘のようにかき消える。

 剣を突き出したまま、突っ込んでいた九峪の瞳に、泣きながら笑っている日魅子の顔が映った。


「やっぱり私に九峪は殺せないや」


 剣の御霊に抑圧されながらも、一部始終を見せられていた九峪は、日魅子がそう言っているのがはっきりと分かった。

 一年二年のつきあいじゃない。毎日毎日顔をつきあわせて、何百時間も話をして、笑いあって泣き合った幼なじみの表情を、間違えられるワケがない。

「ひ――」
 名を呼ぶ暇はない。

 神速と言って差し支えない速度で九峪は突っ込んでいたのだ。目の前に障害がなければ、刺し貫くのに一秒もいらない。

 無骨で趣味の悪い黒塗りの剣は、日魅子の中心を容赦なく貫いて、体をくの字に折り曲げる。

「――み、こ」
 最後の最後で、戻った体の制御。でなければ炎の御剣の一撃は日魅子の体を切り裂いただけでは済まずに消滅させていただろう。

 だが、そんな結果がなんの慰めになると言うのか。


 のしかかってくる、日魅子の体。
 
 握った剣を伝って、手から腕に腕から体に、血濡れになる。
 
 なま暖かい感触。
 
 こわばった手が血に滑って、剣から離れ、同時に日魅子の体は地面に転がった。


 横になった日魅子の体には、なんの悪い冗談か黒光りする剣が刺さっていて、溢れた血が灼けた地面で蒸発して嫌な臭いを運んできて。

「日魅子……」
 そっと手を伸ばして、華奢な体を持ち上げる。剣が邪魔だったけど、抜くのは怖くて出来なくて。
 
 あまり熱くない湖岸の地面にもう一度横たえて、表情を無くした顔を見つめる。

「う、あぁ……」
 こみ上げてくる、名状しがたい感情の本流。

「あぁ、ああぁぁあ……」
 無様な嗚咽。

「うわぁあああああああああっ!!」

 叫びは、虚しく周囲に響いた。













追記:
 本日は出勤日。明後日休みだけども、明々後日からは夜勤です。まぁ、給料増えるからいいか、といった感じの今日この頃です。

 ……本編の内容に関しては、まぁ、想定の範囲内だよね?(ぇ 風雲急を告げる深川。マトモに終わるのかがちょっと怖いですねぇ。次回更新はどうなるか分からんけど一週間以内にはなんとか更新しようと思います。


 ではweb拍手のお返事を。
 6/2。

14:27 何回も小説を読ませてもらってますが、本当に楽しい
14:28 頑張ってください。
 と頂きました。
 あう。何回も読まれると荒が一杯見えてしまっているんだろうなぁと思ったりして気恥ずかしいですねぇ。毎度のことですが話の整合性が微妙だし。やっぱりちゃんとプロット作らないと駄目かなぁとか。ああ、関係ない話ですね。今後とも少しでも楽しめるように頑張って参ります。
 コメントありがとうございました。

 他にも叩いてくれた皆様に心より感謝を!
 むむ、少しばかり増えたみたいだけどweb拍手叩いてくれる人ってやっぱり少ないだろうし、オリジナル読む人はそもそも深川なんぞ読んでないかも分からんしねぇ。まぁ、所詮おまけだけどもさ。
 では本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2007/06/03 20:07】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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