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深川44
 深川
 四十四話



 都督の中に入った九峪を待っていたのは、血まみれで倒れる深川と天魔鏡を手に剣を構える少女の姿だった。
 一体何が起こったのか。そんなことを考える前に九峪は深川に駆け寄り、生きている事を確認する。見たところそこまで酷い怪我ではない。

「あなたが炎の御剣の所有者か」
 放たれた言葉に顔を上げると、剣の切っ先が目の前にある。視線は九峪の顔ではなく、その手に握られた炎の御剣。

「渡してもらおうか? まだ死にたくはないだろ」
 殺意は本物。既に鏡をその手にしているその少女。九峪は苦笑を浮かべてその目を見つめた。どこかであったことがあるような気がするその少女は、その顔に怪訝そうな顔になる。

「持って行ってくれるなら、持って行ってくれていいが、生憎とコイツは俺から離れる気が無いみたいなんだ」
「何を巫山戯たことを」
「それに、こんなどうしようもないもので、アンタは何をどうするつもりなんだ?」
「狗根国を討つ。それ以外にない」
 まるで九洲の人間全ての意志を代弁するように、少女は九峪に告げた。

「知らないみたいだから教えるけど、この剣は自ら所有者を選ぶらしい。そして叶えられるのは選ばれた奴の最も強い願望。それを邪魔するものを、コイツは全く容赦しない」
「……聞いたとおりと言うわけだ」

 少女は驚きも見せずにそれだけ言うと、一歩間合いを置いて再び構えた。

「取り憑いてるのは蛇渇だな。だとすればお前の願いをそのまま叶える気も更々無いだろう」
「……知ってるのか?」
「親切な奴が教えてくれた。半信半疑だったが出所が違う情報が一致したなら信憑性がある。だとすれば、やはりお前に鏡をやるわけにもいかないな」

「俺も欲しくはない。だから、逃げてくれないか?」
「……なに?」
「アンタが襲いかかってきたら、俺も自分の身を守りたくなる。そうなると、今は辛うじて押さえ込んでる蛇渇とか言う奴が、俺の体を勝手に動かす。そうなればもうどうにもならない。俺は、日魅子すら殺しちまったんだから」
「…………」

 最悪は回避しなくてはならない。
 今ここで戦うのは愚行中の愚行。九峪はそれを真実望んでいない。少女もそれが分かったのか剣を引き、間合いを取る。

「聞くが、お前どのくらい自分を保てる?」
「……さぁ、な。あと数秒か、それともひと月か」
「半月でいい、なんとか耐えてくれ」

 ――そうしたら、必ずお前を殺してやる。

 慈悲を込めて呟いた少女の言葉に、九峪はありったけの虚勢を含めて笑って見せた。

「わかった。だが、半月以上は絶対に待たないからな。その間だけは死ぬ気で抑える」

「お前、名は?」
「九峪。アンタは?」
「伊万里だ。蛇渇を押さえ込めるだけの男、出来れば違う形で会いたかったな」

 そんな冗談のような台詞を真顔で口にして、伊万里は九峪の前から姿を消した。
 後を追えと、頭の中で蛇渇が狂おしい叫びを上げる。
 何を惚けているのかと、悲願を前にしてのたうつような声を響かせた。

「けっ、誰が、お前の言うこと、なんか……」
 割れるような頭を抑え、九峪は深川を抱き上げる。
 貧弱だった体は炎の御剣の恩恵か、人一人担いでも何の負荷も感じない。

「……さて、本当に半月保たせられるかな」
 その先に待つのが死だけだと言うのに、九峪は希望を口にするように呟いた。

 既に九峪は自分では背負いきれない罪を犯してしまった。
 自分を許す気など皆無であり、求めるものはただ贖罪のみ。
 更なる罪を重ねる前に殺してくれるというならば、それはやはり九峪にとってこれ以上ない希望だったのだ。






 火魅子が戦死。その悲報は瞬く間に九洲中を駆け巡った。
 九洲の民にとっては希望の光を奪われたに等しい。そしてその間隙を衝かないほど狗根国もお人好しではなかった。直ぐさま混乱する耶麻台国に兵を差し向け、電光石火で川辺城を制圧する。同時にその動きに呼応するように天目も動いた。狗根国の侵攻を挫くためと本来耶麻台国領である豊後に侵攻、完全に制圧した。

 結果としては天目のそれは英断であった。豊後の現在で言う別府湾を抑えられたことで、狗根国の大規模な揚陸は不可能となり、拠点としては今ひとつな火向に狗根国軍を押さえ込み、それ以上の侵攻を防いだのだから。

 とはいえそれは他のものから見れば結果論にも映る。結局のところ耶麻臺国と火後にその主権が移った耶麻台国、そして狗根国と三国間で睨み合いの構図が展開されることとなった。

 だが、それも後にそうだと生き残った国の史家が分析したことで、事の当事者達はやはりあり得ないはずの事態に混乱しており、消えた剣と鏡の行方を求め右往左往していた。

 そんな中、志野とその一座は宙ぶらりんになってしまった立場にどう動いていいかも分からず、火後のとある街で興行を行っていた。

「……はぁ」
 日魅子の訃報が入ってからと言うもの、志野はため息ばかり吐いている。小さな座長用の天幕の中で、帳簿を見ながらまたため息。

「志野、入るよ~」
 一方そんな世情などどうでもいいと言わんばかりなのは、一座に居候している忌瀬だった。魔兔族三姉妹が空から降ってくると同時に現れた珠洲と忌瀬。近隣の街まで運んで応急手当をし、座員達が帰ってきてからは一緒に付いてきている。
 それというのもこの一座に兔華乃達がまだいるからなのだが……。

「忌瀬さん。どうかしましたか?」
「少し話でもしようかと思ってね。聞きたいことがあったんだよ」
「……なんでしょう」
 志野は腰を下ろした忌瀬を油断無く見つめる。忌瀬は元来耶麻臺国の人間。天目をいいように出汁にしようとした志野をよく思っていないはずだ。今は一緒にいるとはいえ、立場的には敵に近い。

「いや、興味本位なんだけど、結局志野は火魅子様をどうしたかったのかと思ってさ。復讐を口にしてはいたみたいだけど、このところの様子を見てるとそうも思えなくて」
「……そうですね。もう、終わってしまったのだから誰かに聞いてもらった方が、まだすっきりするかも知れません。聞いてもらえますか?」
「私でよければ」

 忌瀬は笑顔で頷く。それを確認してから志野は話し始めた。本当の思惑。志野の望み。志都呂の最後の願いを。

「座長の、志都呂さんの話は聞いていますか?」
「それとなくね。火魅子様に殺されたって話だったかな」
「ええ。理由はどうあれ、私にとって火魅子様は志都呂さんを、一番いとおしい人を奪った憎い人です。その気持ちを偽る気はありません。でも、仕方がなかったのだと理解できないほど、馬鹿でもないんです」
「…………」
「私も志都呂さんも九洲のために戦うと決めたんです。その途中で命を落としたからと言って、火魅子様を恨むのは筋違い。本当に恨むべきは狗根国ですから」

「そこまで分かっていて、火魅子様に牙を剥くような真似をしたのは?」

「志都呂さんが言ったんです。火魅子様は強大な力を持つ割に、その心はとても不安定で、とても戦争など出来ない優しい方だと。けれど、私たち九洲の民は火魅子様に頼る以外に道は無かったし、それ抜きで耶麻台国復興など考えられなかった。どのみち利用しなくてはならない力ならば、少しでも確実に、少しでも心にかかる負担を小さくしてもらいたい。わかりやすく恨まれる相手がそこにいるなら、力を振るうことに、人を殺すことに何の迷いも抱かなくていい敵がいてくれるなら、火魅子様の力ならば早期に争いを治めることが出来るはず。できるだけ効率よく火魅子様を利用することで、この戦争をいくらかでも早く終わらせたかった。それがあの人の望みであり、私が成したかった事」

 けれど結果はこうなってしまった。戦死した情報は色々な噂が飛び交い、どれが真実かは分からない。が、九峪が関わっていることはどうやら確かなようで、だとすれば二人を志野が引き離さなければもしかしたらこの結末に至らなかったのではないかと。

「このまま耶麻台国が滅びるような事があれば、それは私のせいなのでしょう。結果として、私は志都呂さんの願いを叶えることも出来ず、ただ人々を一層の苦しみにたたき落としたのかも知れません」
「……そっか。そんな事が」
 忌瀬は神妙な顔で頷くと、それから志野の肩に手を置く。

「志野。アンタの駄目なところは全部一人で抱え込むところだよ。結果的にこの一座がいたから、耶麻台国は最悪の状況を免れたとも言えるんだし」
「……それで償いになるとは思えません」
 志野は首を振った。

 忌瀬が言ったのは、火向に向かっていた座員達が、狗根国の急襲から藤那や伊雅といった、火向にいた要人を逃がしたことだ。火向から火後へ抜ける阿祖の間道。芸人一座として九洲中を巡ってきた一座のものだから出来た事。火魅子の死に続いて他の王族まで死なれることがあったならば耶麻台国はもうどうにもならなくなるところだった。

 その功績のために、今なお火後で悠長に一座をやっていられるとも言える。

「私は結局火魅子様が憎かった。九峪さんに会ったとき、私が失っているものをあの人が得るのかと思って、本気で憎くなってしまった。だから、冷静でいられず判断を誤った。私が九峪さんが殺されたように偽装しなければ、あの人は亜衣さんを罷免することもなかっただろうし、そうすれば必ず一人で戦うような真似、あの人が止めていたはず。狗根国はまだ侵攻してこなかったはずだし、それで人が死ぬこともなかった」

 それらの混乱は、全て火魅子の手で、火魅子の力で治められるはずだったのに。その多大な混乱が、逆に早期解決へと続くはずだったのに。

「――私は自分の予測を過信しすぎていた。火魅子様が絶対なのだと、信じてしまっていた。心が弱い、優しい人だと知っていたはずなのに」

 志野がそうしようとしていたように、付け入って利用したり、嵌める事など容易いほどに。

「……しっかりして、志野。そんなのは、きっと皆一緒。誰もあの火魅子様が死ぬなんて考えていなかったし、殺せるなんて思ってもみなかった。そこまで予想していた人なんて、この九洲に一人だっていないわ」
「言い訳にはならないでしょう」
「そうね。でも、終わってしまったことに囚われて、先を見なくなってしまったらおしまいだよ? 志野がその志都呂さんの遺志で火魅子様を利用しようと思ったというなら、それが一番やりたいことだったというなら、他の方法で望みを叶えるのがあなたが今するべき事、なんじゃない?」
「……でも」

 志野は何か言いつのろうとして、唐突に天幕が開いて珠洲が顔を出した。

「珠洲?」
「志野。癪に障るけど、コイツの言うことが正しい。やってたことは火魅子様が死ぬ可能性だってあったし、それでも別に構わないって皆思ってた。志野がどうあれ、私たちにとっても火魅子様は座長の仇だったから。死んだら次の何かを利用すればいいだけ。少なくとも私は、最終的に火魅子様が女王になればいいなんて一度だって思ったことはない」
 きっぱりと言い切った珠洲。耶麻台国関係者に聞かれれば不敬罪で誅殺ものだ。

「そうね。確かに私もそれはそう」
 火魅子は手段に過ぎなかったはずだ。志都呂は確かに火魅子の事を恨むなと、あのとき最後にその瞳で語ってはいたけれど、恨み辛みを別にして、それ以前に志野は志都呂とこの国を元に戻そうと願い、動いていたはずだ。

「ありがとう珠洲。おかげでやるべき事がわかった気がする」
「あ、お礼なら私にも言ってよ」
 忌瀬が笑いながら言うと、珠洲が背後からかかとを落とす。

「痛たぁっ! 何するのよ珠洲」
「うるさい。私の台詞軒並み奪ったアンタが悪い。志野を慰めるのは私の役目」
「別に私だって構わないでしょうに」
「駄目。大体アンタは九峪がいいんでしょ。さっさと探しに行ったら?」
「今行ったら危ないかもしれないでしょうが」
「ふん、本当に好きならそんなこと関係ない」

 言って珠洲は忌瀬の尻にけりを入れて追い払う。

「……志野」
「本当に、ありがとう珠洲」
 目の前に来た珠洲の事を抱き寄せる。

「大丈夫。私はずっと志野と一緒にいるから」
 珠洲は自分からも志野に抱きつき、お互いを確かめ合う。

 しばらくして離れた志野は、まっすぐと見つめる珠洲に言った。

「星華さんのところに行きます。付いてきてくれるわね」
「聞く必要はない」
 ぶっきらぼうに、志野にだけわかる親愛を込めて頷いた珠洲。志野はその顔を見返し、柔らかなほほえみを返した。













追記:
 週末は予定が立て込んでいるのでその前に更新してみました。さて、エンディングはどうしようかなとそろそろ考えつつ、六十話前には少なくとも終わりそうだなぁとか思ってみたり。まぁ、どうなるかは分かりませんけどもね、まだ。


 web拍手のお返事。
 6/11。うわぃ、大量だなぁ。

1:32 全く拍手をたたいていませんが毎日直でチェックしてるヤツが1人いることを覚えていていただければぉ光栄
1:32 ハッピーエンドだろうとバッドエンドだろうと楽しみにしてますよ
1:33 某SSの終了後の高校性活希望
1:37 こんなところに隠しているなんて卑怯じゃないカナ?卑怯じゃないカナ?
 と頂きました。
 いやいや、毎日来て頂いているとはこちらこそ光栄であります。エンディングはまぁ、そのときに気分で(ぉぃ 高校性活は誤字じゃないですかそうですか。でもどうしようかなぁ。うん、まぁ、考えておきます。
 で、最後のコメントは別に隠してないも~ん、とか白々しく言ってみたり。でも前々回とその前二つくらいに(ry
 コメントありがとうございました。

 次。

9:28 自分の琴線に触れるキャラとして「後悔し傷付きながらも前に進む男」というのがあります。
9:30 この九谷はとても良い感じなので、今後どう動くのか注目してます。
 と頂きました。
 九峪は前に進めるでしょうか? はてさて、何せヘタレですからねぇ。でもまぁ、意志だけは強いですからまぁ、なんとか頑張るかも? どう頑張るかは分かりませんけども。
 コメントありがとうございました。

 次。

19:32 久しぶりに来てみたら深川が超展開してた~ 蛇渇を押さえ込んで自分と真っ正面から向かい合うことになる
19:34 九峪のあしたがどっちになるかwktkします。 また更新が楽しみになってきました><
 と頂きました。
 超展開は私の小説だとデフォなんですが、今回もご多分に漏れなかったというか何というか。いつにもまして酷いきもしますが。楽しんで頂ければ何よりでございます。
 コメントありがとうございました。

 次。

22:18 七人の奇人続きが気になる~。奇人がどんな人なのか、パラドックスがどーなってるのかも気になります。
22:23 でもOLSの続きも待ってみたい私というものなのよ
 と頂きました。
 ああ、お読みになられたようで。何の事か分からない人はまぁ、気にせんといて下さい。たいしたこっちゃありません(多分)。件のものに関してはまぁ、十二話くらいまでは書いてるのでぼちぼち乗せていこうかなぁとは思ってますです。ただミョーに長くなりそうなので困っておる次第です。
 OLSはどうしましょうかねぇ。全然書いてないや(ぇ これもせいぜいあと二回くらいで終わるんだから頑張ってみようかなぁ。頑張れるかなぁ? 考えて見ます。
 コメントありがとうございました。

 まだまだあるのぅ。6/12。

14:20 わっふる!わっふる!
 と頂きました。
 わっふるして頂いて何よりでございますが、次の山場まで何話かだらっとした話が挟まりますのでその点はご了承下さいませ。
 コメントありがとうございました。

 6/13。

2:04 お前はっ、今っ!!誇っていい。 現時点で一番の火魅子伝作家だ!!
2:05 廃れてきているこの時代を更新という名の剣を振りかざし駆け抜けろ!決して立ち止まらない事を祈って…
 と頂きました。
 ……また過分な評価を。いやまぁ、更新速度だけなら早いんでしょうけども。と言うか他の作家さん達はあまり書きませんねぇ。私が書きすぎナンデショウカねぇ。同盟あたりは最近頑張っている方々が何名かいらっしゃるようですが、火魅子伝のSS全体が落ち目なのは確かなようで。私はしばらく頑張りたいとは思っております。
 コメントありがとうございました。

 6/14。取りあえず来てるのだけ。

14:10 おお、九峪格好いい・・・・・って、遅せぇよ!日魅子殺した(生きてる気もしないでも有りませんが)後じゃ
14:15 深川さん少し前まで頑張ってたのに負け犬状態ですねぇ・・・でこれから起死回生の大墓穴を掘るんですよね!
14:16 ・・・あれ?
 と頂きました。
 いや、九峪はあのタイミングでないとマズイんです。あそこで日魅子にぶすっと行かないとそのまま日魅子エンディングになりかねないというか(汗 日魅子生存に関してはまぁ、無いと言っておきましょうかねぇ。合掌。
 深川が負け犬じゃないと深川じゃないとか(笑 邪魔者はいなくなったので最初で最後のラブラブでデレデレな話がちょこっと入るかも知れないけどどうしようかなぁ。まぁ、今書いてるとかそう言うことは言わない方がいいですねそうですね。
 コメントありがとうございました。

 ふぅ。やはり適度に山場を入れた方がコメント沢山付きますねぇ。とはいえ考えるの大変なんですけども。

 他にも叩いてくれた皆様に心より御礼申し上げますです。


 では本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2007/06/14 19:56】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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