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深川46
 深川
 四十六話



 山間部。ぼっかりと開けた場所にある焼け落ちた集落。滅びてもう随分経つのだろう、残っているのは白骨化した死体と炭化した住居の跡だけだった。
 辛うじて半分だけ焼け残った竪穴式住居に、九峪と深川はいた。

 会話は無い。二人ともそれぞれに考え事があるようで、隣に人がいることも忘れているかのよう。幼なじみを殺してしまった九峪。望みを叶えることもできず、九峪から離れることも出来ない深川。それぞれに思うところはある。

 都督からこの場所まで二人は殆ど口をきかなかった。深川の事は途中まで九峪が運んでいたのだが、その事への礼も無い。深川にすれば九峪が蛇渇でもあることは、忌々しいことこの上ないことに違いない。深川にとって、この世でもっともに憎い人物と言えば、それは蛇渇をおいて他にいないのだから。

 かといって、九峪の事を嫌ってはいないのも事実。深川の願いは叶わないと分かった今、蛇渇に利用されるだけというならすんなり死を選んでもおかしくない。にもかかわらず、未だに九峪に付いてきてるのはなぜなのか。分かってはいたが認めたくもない。

「深川。今なら俺から離れたって大丈夫だぞ。蛇渇はまだ抑えられるから」

 沈黙を破ったのは九峪。深川は顔を上げると、空中を見て何でもないような顔をしている九峪にちらりと視線を向けた。

 蛇渇と言う存在。
 深川は嫌と言うほどよく知っている。慈悲も情けもカケラも持ち合わせず、寧ろ非情や冷血を突き詰めたような暗黒の精神。深川も別に有情なわけではないが、それでも蛇渇に比べれば聖人君子にも見えると疑わない。

 そんなものが体の中にいる。

 考えただけでも吐き気がこみ上げ、怖気が襲う。自分では対抗どころか瞬く間に飲み込まれるだろう。そう分かってしまうからこそ、九峪の精神が異常に思えて仕方がない。

「――抑えるか。ふん、何処にいようが私の勝手だろう」

 疑っているのだ、深川は。九峪が本当に九峪のままでいられるのだろうかと。今自分に話しかけている相手は、本当に九峪なのだろうかと。

「物好きだなぁ、お前も。俺と一緒にいたら、伊万里が殺しに来たとき一蓮托生だぞ」
「殺されてやるつもりか? 殊勝なことだな」
 九峪は乾いた笑いをこぼすと、力無く首を振った。

「死にたくなんかないさ。本来ならさっさとくたばるのが世のためだとは分かってるし、殺して欲しいくらいだとも思ってるけど、やっぱり死ぬのは怖いしな。だから、誰かが俺を殺しに来るなら、蛇渇は抑えられなくなるかも知れない」
 防衛本能は九峪にもある。余程特殊な状況でない限り、殺しに誰かが来れば蛇渇と九峪の意志は一致してしまう。そうなれば抑えきることは難しい。

「だったら、私が逃げようとすればそれでも蛇渇は出てくるだろう。澄ましてるつもりか知らないが、まだお前は泣いているからな。私に行って欲しくないんだろう」
 深川の見透かした言葉に、九峪は頭を掻きながら頷く。

「さすがに人の顔色見るのは得意だなぁ、深川」
「立場が逆転したら強気だな、九峪。今の私は怖くないか」
「ん、正直に言うと、お前の事ははじめからあまり怖くない」
 言って深川の反応を伺う。深川は肩眉をつり上げ、面白くなさそうな顔をしたが、何も言わずに九峪の頭をひっぱたいた。

「痛てぇな。叩かなくてもいいだろ」
「私ははじめからお前が怖かったよ」
「は?」
 意外な深川の言葉に、九峪の目が点になる。

「私は蛇渇にだけは絶対に逆らえない。背中の入れ墨は、蛇渇の人形となる事を定められたものだ。私が鏡を捜していたのもお前を殺さなかったのもそのせいだ。本来ならばお前など目があった瞬間に殺す類の人間だ。それなのに殺そうと思えなかった。だから、お前という人間の正体が分からず怖かった」
「そうなのか?」
「ああ」
「俺はまたてっきりお前が俺に惚れているからだとばかり」
 茶化すように九峪が冗談を口にすると、高速で深川の平手が飛んでくる。

「調子に乗るな。殺すぞ」
「痛いって。ただの冗談だろうが」
 九峪はそう言いながら、憤懣やるかたないと言った表情の深川をじっと見つめる。

「なぁ、深川」
「なんだ?」
「俺が泣いてるって言ったよな?」
「ああ」
「実際泣きたいんだが、胸貸して貰っていいか?」
「……好きにしろ」

 そっぽを向いた深川に、九峪は正面から抱きつくとその胸に顔を埋めた。深川は小さく震える九峪の頭に手を置きながら、妙に切なくなってしまう自分に戸惑っていた。






 まるで九峪が泣くのに呼応したように、暫くすると空が泣くように雨が降り始めた。細い絹糸を垂らしたような霧雨は、抱き合った二人を包み込むように濡らしていく。

 近くに雨を避けられるようなものはない。今いるこの場所も辛うじて屋根のようなものはあるが、それでも軽い雨粒は僅かな風に飛ばされ、あまり効果はない。

 避けることも叶わぬならと、二人はそのまま抱き合い動こうともしなかった。

 しっとりと服が濡れはじめ、それがかえって互いの体温を身近に感じさせる。夏場とは言え雨が降ればやはり山の気温は低くて、知らず二人は近づいていった。どちらからともなく、気付は横になっていた。

「……」
 少しだけ体を離し、泣いて赤くなった瞳で深川を見下ろす九峪。情けない顔。それがどうしてこんなにも胸を締め付ける。

 本来それは無かった感情。芽生えるはずなどあり得ない感情。けれど、蛇渇のせいでは決してない。

 ――私は、いつから?

 はじめから嫌いではなかった。蛇渇がかけている呪のせいで、抵抗が薄かったせいだろうか。本来なら否定的にしか思えない綺麗事好きの人間を多分生まれて初めてまっすぐ見つめることが出来た。

 食わず嫌いが食べてみたらおいしかったような、そんな感覚。意外にも九峪は心地よかった。一緒にいて、心安らげた。

 そっと目を瞑ると九峪が近づいてきた気配がして、次の瞬間には唇に柔らかい感触が。直ぐに口を開いて舌を出す。貪るようにではなく、丁寧になぞるように絡ませる。

 あまり経験が無いのだろう、九峪の舌使いはどこか辿々しい。それでも伝わってくるのは慈しむような感覚。

 ――こんな私ですら、コイツは救おうとする。

 汚れているなどという生やさしいものではない。深川は汚れそのもの。だから九峪とは対局で、共通点など無いはずだ。そう思っていた。

 けれど二人はたった一つだけ同じところがある。何もかもが違うようで、媒介するのは蛇渇だけのはずの二人は、しかしその根底にある揺らぐことがない信念。ただそれだけは同じだったのだ。

 目指すものは違えど、方法も思考も全く逆だとしても、譲れぬものを確かに持っている。

 それは余人にはとても難しいことで、真実それを持てるものなど殆どいない。持てるものは別のもの。別の生き物。

 だからどこかで思ってしまっていたのだろう。お互いがお互いに、ようやく同じものを見つけたのだと、出会った瞬間に心のどこかで。

 唇を離す。開いた口から唾液の糸が互いの口を結んでいた。寒かったはずの体は口づけだけで少し熱が上がり、湯気でも出てきそうなほどほてってしまっている。

 深川はまだ泣いているような九峪の頬に手を伸ばしながら、心のどこかで、何かが壊れる音を聞いていた。

 長年積み上げてきた、心の壁。
 過酷な人生を生き抜くための防壁。
 意地とか、強がりとか、見栄とか、矜持とか。
 情けない九峪の顔が楔となって、まるで卵の殻が割れるように。

「……泣くな九峪」

 この男が愛おしい。
 狂おしいほどに、愛おしい。

「私だけは、最後までお前と一緒にいてやるから」

 体を少し持ち上げて、今度は深川から口付ける。
 唇を掠めるように、そっと一つだけ。

「私だけは、お前の味方だ」

 零れた九峪の涙。深川はそれを嘗め取って、それから思い切り九峪の事を抱きしめた。
 もう二度と離さぬ事を誓って。
 何者にも、この男を譲らぬ事を誓って。













追記:
 梅雨時期なのに雨が降らない今日この頃。皆様如何お過ごしでしょうか。私は夏ばて対策にゴーヤチャンプルーなぞを作って食べている次第でございます。

 さて、どうでもいい話は置いておきまして、炎戦記の九巻出たとか出ないとか言う話を小耳に挟んだんですけど、八巻も買ってないしなぁ。ってか本屋にまず最近言ってないし。だがしかし、二十代も半ばになってラノベをレジに持っていくのは恥ずかしいんだよ、普通に。とはいえ買おうかなぁ、どうしようかなぁ。って普通悩むところじゃないとは思うんですけどもねぇ。


 ではweb拍手のお返事。
 6/19。

23:31 凄い!星華が おぱーい以外に自発的に動いてる~(激マテ
23:32 てか伊万里も死亡フラグが立ってる様にみえてたまりませんw
 と頂きました。
 星華だって本来ならこうであるはずだ、という私の独断と偏見でまともなことを言う星華にしてみたんですが、おぱーいの話をしない星華はアイデンティティを喪失している気がしないでもないですねぇ(爆
 まぁ、今回の星華はいつもとはひと味もふた味も違いますから(多分)こうご期待と言うことで。伊万里の方はベツニシボウフラグナンテタッテナイヨ~。ダイジョブ、ダイジョブ。
 コメントありがとうございました。

 6/21。

15:40 何と言うか星華様の不敵な笑みが、策を食い破られて絶望に染まる姿がありありと浮かぶのは何故だろう?
15:41 ・・・何か雑魚臭がしますな星華様。
 と頂きました。
 酷っ。星華だってタマには活躍したっていいじゃない(マテ いやまぁ、どうなるかなんて分かりませんけどもね。あまり的確な予言は……ゲフンゲフン。そんなことを言われると期待に応えたくなっちゃいますよ~。
 コメントありがとうございました。

 もう一件。

22:24 いつの間にやら火魅子が死んでる(汗)、ここはやはり・・・がんばれ遠州!○コン王国のためにっ(違う
 と頂きました。
 遠州なんて出番ないっすよ~。そう言えばそんなキャラもいたねぇとか懐かしくなっちゃったくらいに私の頭の中から存在が消えてました(爆 しかし最後のコメントはあれでしょうか。幻聴記を書けと言う進言でしょうか。むぅ~、今は無理ですけどもそのうちですねぇ(何時になるやら
 コメントありがとうございました。

 6/22。

0:18 何かこの世界の火魅子候補達を見てると、耶麻台国は滅びるべくして滅びたんだなぁと思ってしまいます。がん
0:23 ばれ蛇渇さん!多分あんたに殺された方が、復興した!直ぐに滅んだ!より天災っぽい分マシな気がする。
 と頂きました。
 うわぃ。蛇渇に応援のお便りって。いやまぁ、今作品は皆様腹黒ですからねぇ。私も滅びるべくして~、とは考えながら書いてたりなかったり。最終的にこの物語がどんな結末になるかはアレですけども、やっぱ耶麻台国自体の事も書かないと駄目かなぁとか色々考えてます。まぁ、滅ぶのもありだとは思っているんでがねぇ。
 コメントありがとうございました。


 他にも叩いてくれた皆様、誠にありがとうございました。


 後は直接コメントが一件。

おお、いつのまにか復活しているですね。
相変わらず、凄くいいですね。
日魅子は、九峪?に殺され、志野が後悔する。
確かに、志野の言うとおり、日魅子を嵌めるのは難しくないのでしょう。
しかし、珠洲と忌瀬が前向きのですね。
特に、珠洲は火魅子に強さは認めていても、敬意はほとんどなかった。
いいですね。
 お久しぶりですアレクサエルさん。ぼちぼちと連載をしている次第でございます。
 普通の九洲の民にならばあるはずの火魅子に対する信仰心。そう言うものが生まれたとき既に国が滅んでしまっていた珠洲には希薄だと言うことになるんでしょうか。まぁ、原作ならば違うんでしょうけどもそんな感じの解釈で書いてみました。少なくとも身近な人間を殺されれば憎める程度に火魅子を等身大で捕らえていたのではないのかなぁとか。後基本的に皆さん腹黒で自己中だから(爆


星華の伊万里への態度。 正直ですね。 まあ、星華の日魅子への感情、もっともですね。 もし、日魅子が九洲を解放し、狗根国を滅ぼしたら、一生日陰と言うかお飾りで、
下手したら、殺されかねなかったような気がしますす。
しかし、この星華、原作の星華より、余程、女王候補らしいですね。
アニメ版の星華が腹黒さを覚えたような感じです(笑)
 星華とやりあい、鏡の所有権を認めさせた?伊万里も凄い。
原作のような気の弱い所がなく、凛々しい女戦士ですね。
 星華がアニメ版みたいっていうのは、鋭い指摘ですね。ゲーム版は知らないんですが、アニメ版はものすごいまじめでギャップに驚きましたよ。あれ? 乳談義がないって(笑 そんなわけでアニメ版に傾いた感じです。腹黒なのは「深川」ではデフォなので。
 伊万里が凛々しいというか、星華に対しても強気に出られてしまうのは理由があるような無いような、と言ったところなんですが書けるかどうか分からないなぁ(ぉぃ まぁ、暇があったら書きますので。


 しかし、これが本当に女王候補同士のあるべき姿かもしれませんね。
原作は仲良し過ぎます。

 伊万里への情報提供者も気になります。
 うーん。 志野と伊万里が組む事になるのかな?
 これからも、おもしろい作品お願いします。
 原作は確かにちょっと馴れ合いが過ぎる面もあるかなぁとは思いますが、そこはやはり対象年齢とかそんな話になるんでしょうかねぇ。
 情報提供者に関しては直ぐに出てくるので次回辺りをお楽しみに。まぁ、既に出ていると言えば出てるんですが。

 コメントありがとうございました。


 次回更新は、なんとか日曜日までに更新したいなぁと思います。ストックがぎりぎりなので仕事が忙しいかどうかによって変わると思いますけども、多少遅れてもそこはご了承下さい。


 では本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2007/06/24 21:19】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(1) | page top↑
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コメント
46話
おお、ついに、九峪と深川のある意味純愛!!! 美しい!!!
しかし、考えて見れば、深川がヒロイン!!! 発想が凄い!!!

九峪も理由はどうあれ、日魅子を殺したから、耶麻台国勢力には合流出来ないし、
いや、もし、伊万里に殺されなくとも、うまく蛇骨の呪縛が解け、耶麻台国が盛り返したら、待っているのは、
処刑しかない。 魔兎姉妹には恨まれているし。

 確かに深川しか、味方はいないような。
【2007/06/24 22:18】 URL | アレクサエル #-[ 編集] | page top↑
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