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深川49
 深川
 四十九話



 周囲を包み込む霧。
 ただの朝靄にしてはあまりに濃すぎる。隣にいるものの姿さえはっきりと視認できない白い闇。

 二人は互いに背中を預けた状態で周囲を警戒していた。

 これは自然な霧ではない。誰かの手によるものだと直感して。

「――分かるか深川」
「いや。皆目見当もつかないが、既に火後の領内。用があるのはお互い様なんだから出くわしただけだろう」

 ヒソヒソとした声で会話を交わしながら、都合四つの眼は白い闇を睨み付けている。しかし見えるのは遠近感もつかめない純白。何の気配も感じられない。

「これも左道かなんかか?」
「耶麻台国の連中が使うのは方術だが、まぁ似たようなものだろう」
「闇討ち目的?」
「おそらくは」

 九峪相手に正面から戦えないのは分かり切っていること。ならば正攻法では絶対に攻めてはこないだろうと、深川は事前に九峪に忠告していた。

 闇討ち、だまし討ち、人質、罠、籠絡、恭順。
 勝つための手段はいくらでもあり、九峪はあくまで正面からの戦いでなら最強に過ぎないと。

 何より、敵には高確率で九峪そのものの戦力を無効化出来る策がある。
 殺すつもりでこられれば、九峪も深川も、あまりに無力だ。

「ふふん。そうおびえなくてもいいわよ、お二人さん」

 白い闇、そのどこからか響く女の声。楽しくて楽しくてたまらないと、愉悦を隠しきれていない、勝利者の声。

「――星華か」
 深川の呟きに、高らかな笑いが重なる。

「おーっほっほっほ。卑しき左道士にも高貴なる私の声は分かるようですわね。如何にも私は耶麻台国の次代火魅子にして宗像の宗主、星華です。頭が高いからその場で平伏したら心証良くなるかもしれないわよ」
 それは巫山戯てはいるが、自信に満ちた声だった。支配者として、微塵も揺らぐことがない絶対的な自身に。

「わざわざ来てくれたなら話が早い。アンタなら俺の中から蛇渇って奴を取り除けるかも知れないって聞いた。出来るんならやってくれないか」
「あらあら、本当にどうなっているやら」

 九峪の問いに答えず、星華は愉悦を引っ込め興味深そうな声を響かせる。それに呼応して、白い闇が僅かばかりざわついた。

「本来それは人の身で御せるような類のものではないはず。宿主を傀儡として、私に都合のいいように動かせるはずなんですけれど。さすが火魅子様が見初めた男、と言うことかしら?」

 ぶつぶつと一人呟き、まぁそんな事はどうでもいいけど、と投げやりに話を戻す。

「もちろんそのつもりで、この私が、わざわざ、こんな田舎の山の中まで足を運んだのですから、今すぐ取り去って差し上げる、そう言いたいところですけれど……」
「なんだ?」

「ふふ――」

 星華の薄笑い。

 九峪は言いしれぬ悪寒を感じて、その瞬間背後の深川を抱えて白い闇の中、足場も見えない脇へと跳躍した。

 その瞬間、――白い闇に風穴が開いた。

「な――」
 言葉もない。二人が立っていた直上から炎の柱が降ってきたのだ。

 それは炎でありながら、まるで固体のように高密度で、杭のように地面に突き立った。

「……さすがにこれくらい避けるわよね」
 星華の声色に変化はない。

「何のつもりだ!」
「何のつもりも何も、こっちを殺す気だろうが」

 叫んだ九峪に冷静に突っ込む深川。

「いや、でも、理由はなんだよ!?」
「お前の顔が気にくわなかった」
「うわ、身も蓋もねぇ」

 地面に突き立った巨大な炎の柱が周囲の霧を払いのける中、意外と冷静に漫才をする九峪と深川。

「そんな理由だけではありませんわよ」
「だけではってことはそれもあるって事か?!」
「……こほん。私はただあなたを実験台に、今の私がどれだけ強いのかを試してみたいだけです」

 ぴしり、と殻が割れるように炎の柱に罅が入る。

「こんな事をご存じかしら? 火魅子の業は、初代姫御子の託宣を受け、その御霊を裡に受け入れることで、その偉大な英知と力を授かるが故に出来る。本来それは耶牟原城の神殿で行われる神聖な儀式。でも、もし火魅子の御霊を持っている火魅子本人がその場にいるとするなら、そんな神殿など無くとも御霊の継承は可能になる。だってそうでしょう? それは火魅子から火魅子へと継がれるものなのだから」

 星華は楽しそうだ。本当に、心の底から。

「九峪、とか言ったかしら? あなたと戦う前、火魅子様は私に後を任せると、口に出してはっきりとそう言った。それがどういう事かわかるかしら? 火魅子の言葉はただの言葉ではない。それ自体が呪となり効力をもつ真言。ふふ、分かるわよねぇ。私が一人で、意気揚々と、この場に来た意味も」

 炎の柱が割れ、無数の火球が周囲へと飛び散った。
 九峪は炎の御剣で目の前に飛んできた火球全てを切り払う。

 目の前を灼熱が通り過ぎ、完全に霧が吹き飛ばされた後に広がる焼け野原、その中心に巫女服姿の女が笑って立っている。

 その目に、ありあまる狂喜を宿して。

「火魅子様との事の顛末は聞き及んでいます。あなたは火魅子様より強かったわけではない。火魅子様が自分から負けただけ。貴方は勝ちを譲って貰っただけ。そんな貴方が今や九洲最強などと言われてしまう始末。認識を改めなくては、今後に差し障るでしょう? 火魅子より強いものなど存在してはならないんです。何より、私が火魅子になる以上、そんな事実は根絶しなくては。貴方が勝ったのは火魅子様が出来損ないであったからで、本当の火魅子は私なのだと、九洲の民には分かって貰わなくてはね」

 炎を身に纏った巫女は、優しげに安心してと続ける。

「死んで貰うとまでは言いません。ただ、誰の目にもはっきりと分かるように、ボロ雑巾の用になって貰うだけだから」

 星華はそう言って自分の目の前に、まるで冗談のような巨大な火球を作り出す。
 それは、日魅子が最後に九峪に向けて放とうとして出来なかった、必殺の一撃。全てのものを焼き潰す、殺すための技。

「――殺る気満々だな」
 冷や汗を流しながら、深川が自嘲気味に呟いた。
 実際のところ、自分はともかく九峪には利用価値がある。だから殺されない可能性が高いと思っていたのだが、今の星華にその判別が出来るようにも見えない。

 ただ、力の溺れているようにしか、深川には見えなかった。

「ぐ、ったく。本当になぁ。あんなの前にしたら、蛇渇を抑えるのも難しいってのに」
「今この状況なら、解放するのが唯一の生き残る道のような気がするがな」
 不本意ながら、と深川。

「それは最悪だ。駄目駄目だ。蛇渇はこれ幸いと、星華を殺して自分を封じる術、そのものを消し去ろうとするだろう。そうなったらそれこそ本当に終局。今俺がやんなきゃないのは、あいつに生きたまま、生かしたまま勝って、蛇渇をどうにかして、俺から力奪わなくちゃ勝てないと思わせることだろ。他に手段がないと、そう思わせる」
「もっともな話だが、出来るのか?」
「安心しろ。当たるも八卦、当たらぬも八卦だが、実はずっと考えていた事がある。どうすればお前に虐められなくて済むか、どうすれば立場逆転できるか考えていた頃にな」

「初耳だな。ふん、それが役に立つのか?」
「前の俺じゃ無理だったが、今なら多分大丈夫だろ。その一手はいつでも打てたが、前はその後の詰めが出来なかっただけって話だからな」
「意味が分からん」
「見れば分かる」

 九峪はそう言って、無防備に星華に歩み寄る。
 深川をその背にかばうように、ただまっすぐと最短距離を。

「お話は終わった? 間違って死んでしまっても安心して。今の私は、別に剣と鏡などで願いを叶えなくても、叶えたい願いは自分の力でどうとでも出来てしまいますから」
「それが本音か」
「さぁ、ね」

 星華は笑って火球を放った。
 九峪の目の前を灼熱の火球が覆う。
 が、九峪は棒立ちのまま一歩も動かなかった。

 ――馬鹿な! 死ぬつもりか、貴様!

 体の裡で蛇渇がのたうった。その激痛に顔を顰めながらも、九峪は苦笑するように蛇渇に向けて呟いて見せる。

「お前だって知ってるはずだろ。見てたんだろう? こんなもの、どうとでもなる」

 断言すると同時に、炎に九峪は飲まれ――



 静寂。
 それは息をするものがいなくなったからでは無く、息をするのを忘れたから。
 焼け残った木々も、星華も、深川も、大気や地面ですら、その状況に困惑するように、沈黙した。

「何、よ、それ」

 弱々しい星華の呟き。
 それは驚愕と混乱。

「さて、これで俺を倒す術は一つしか無くなったはずだよな? どうする? 星華」

 傷一つ無く突っ立ったままの九峪は、柄にもなく得意げに言って見せた。













追記:
 やぁやぁ、遅くなったようななってないような。先週に引き続き書いたの今日だよ、はっはっは。はぁ……、やれやれ、少し余裕が欲しいですなぁ。

 えーと本編については、今更そのネタで行くのかとか、色々突っ込みたい人もいらっしゃるかとは思うのですが、一度ちゃんと戦闘で九峪の公式(?)特性を利用した話を書きたかったのですよ。前の火魅子戦でやろうかとも思ってたんだけども、それだと日魅子のせっかくの山場が台無しになっちゃうので……、って言うと星華が哀れですなぁ。

 まぁ、何はともあれ、この戦闘に行く前にもう少し話を挟みたかったんだけれども、思いつかなかったのが、なんだかちと後悔してるところと言えばそうなんだけども。


 web拍手のお返事。
 7/12……、のは私信みたいなもんですから省略。まぁ、実際泣けるほど嬉しかったですよ~とか何とか。

 後は、本日分。

18:31 成る程、蛇渇さんを創ったのは宗像の連中ですか、星華様の自信の源ですな。ですが思った事は一つ。蛇渇さん
18:33 が、何百年も自分の弱点をそのままにしていると何故思う? 宗像さん家の星華様って感じです。
 と頂きました。
 はっはっは、星華様の自信はそんなに間違ってなかったんだけども、別の誤算があったとかなんとか。まぁ、しょせん宗像さん家の星華様ですねぇ(爆
 コメントありがとうございました。

 他にも叩いて頂いた皆様に感謝申し上げまするぅ~。


 ふぅ。しかしアレですねぇ。仕事が忙しいとか言い訳しないでそろそろまじめに書くかなぁ(ナニ? いやまぁ、気分転換も必要だよねぇとかなんとか。次回更新は一応来週の日曜にしておくけども、その前に会えればいいですな、とか希望的観測をぶちまけておきましょう。

 では本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2007/07/15 22:46】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(1) | page top↑
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コメント
いつもながら、何ておもしろい!!!

しかし、星華みたいな相手で良かったですね。
もし、相手が伊万里みたいな相手なら、心情的に強引にしにくいし、
ひょとして、星華も、潜在的に深く恐怖を感じてたから、
なおさら、ああいう態度を取ったのかな?

あれ? 亜衣はどこに?
【2007/07/17 01:09】 URL | アレクサエル #xfGWKbWo[ 編集] | page top↑
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