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深川50
 深川
 五十話



 勝敗は既に結したかに見えた。
 全力では無いとは言え、人を一人殺すのには過剰に過ぎる一撃。いなせるものも耐えきれるものも、存在し得ない、絶対なる破壊の一撃。

 それを、避けもしなかった。

 何か特別な事をしたわけではない。何も、何一つしなかった。

 ただそこに立っていただけ。

 なのに無傷。かすり傷一つ負わず、涼しい顔で完全に"無効化してしまった"。

「何、よ。何なのよ、それ! 聞いてないわよそんなの!」
 星華は狼狽した。火魅子の力を継承し、絶大な力を得ることが出来た陶酔感が、一瞬でかき消された。

 認めない。認められない。認めてしまえば、自分が負けたことが確定するから。

「はぁああああああ!」
 もう一度、今度は念入りに、消し炭すら残さぬつもりで力を解放する。九峪の体を文字通り消滅させようと。

「無駄だって」

 優しい声だった。親が子を諭すような慈愛に満ちた。
 目の前で収束させていた力が、九峪がその領域に侵入したことで霧散する。

「……いや、こな、いで」
 星華は目の前に立った九峪を恐れ、後退る。術を完全に無効化できてしまうというなら、もう何も出来ない。炎の御剣を手にした相手に、いくら火魅子の力を得たと言っても、肉弾戦では勝機が無い。
 そして、何より――

「そんなに怯えるなよ。別に取って食おうって言ってるわけじゃなし。ただ、蛇渇を取り除く方法ってのを知ってるなら教えてくれって言うだけなんだからよ。知ってるんだろ?」
「……知って、ますけど」

 星華はじりじりと間合いを開ける。もう少し、あと少し。

「なら教えてくれ。いらなくなったら剣は返すし、その上で放っといてくれれば俺たちは何もしない。出て行けと言うならこの九洲から出て行ったっていい。悪い話ではないはずだが」
「……ふふ、おめでたい」
 星華は自嘲的に笑いながら、ようやく安全圏まで間合いを外した。

「めでたいって、何がだよ」
 困惑する九峪。

 星華はその顔に、ありったけの嘲笑を浮かべ、そして負け惜しみのように口を開く。

「どういう事かしらないけれど、貴方には私の術が効かない。その意味を少しは考えてみた? 方術も左道も効かないというなら、すなわち炎の御剣を解放する術だって効かないって事ではないの? ああ、これはさすがに私も考えていなかったけれど、そんな人が宿主になる事なんてご先祖様も多分全く考えていなかったんでしょうね。生憎だけど、貴方を救うなんて不可能よ。忌々しいけど」

「な! そんな!」
 今度は九峪が驚く番だった。絶望の中、一条差した希望の光は、しかしただの幻に過ぎなかった。

「こうなっては仕方がない。次は殺しに来ます。確実に、貴方のことを縊り殺す。火魅子の名に誓って、必ず」

 言って星華は後ろに飛んだ。そこをすくい取るように大きな鳥のようなものが浚っていく。
 よく見ればそれは羽江の乗った飛空艇で、直ぐさま遙か上空に消えていった。

 やはり負け惜しみのような、高らかな笑いを残して。






 ――いったい何だというのよ!
 一端九峪から離れ、自分用の飛空艇に乗り換えて空を飛びながら、星華は歯がみしていた。
 略式とは言え火魅子の力、その大半を受け継いだ自分が倒せない敵が存在する。そんなことはあってはならないというのに。

「……絶対に、許しませんわ」

 コケにされた。気位の高い星華にとってそれは耐え難い屈辱だった。絶対的優位だと思っていた立場をそっくりひっくり返され、逆に見下されてしまった。

「許せない。許さない」

 星華の中では既に九峪への復讐が最優先事項として決定され、一度片野城に帰った後は、全軍でもって九峪を縊り殺してやろうと、冷静な判断などまるで出来ずに考えていた。そんなものはただ返り討ちにあうだけだと、既に分かり切っている事なのに。

 星華は王族としては傍系。継いでいる火魅子の血も薄い。そのせいだろうか。日魅子であれば受け継いでいたはずの、火魅子としての理性が薄く、ただ力だけがその身に宿ってしまっている。強大な力を制御するには、とてつもない自制心が必要になる。それがないというならば、正しくそれは既知外に刃物と表現するにふさわしい。

 ぶつぶつと、九峪への憎悪を口にする星華を背後から眺めながら、羽江はできればこのまま逃げ出したいなと思っていた。とてもとてつもなく剣呑になってしまった使えるべき人。幼少から身近にいて、姉のような存在で、時に優しく時に厳しく、時々奇矯な行動を取る星華を、仕えるべき人はこの人なのだと、そのくらいの使命感は持っていたはずなのに。

 ――今の星華様。私じゃ手に負えないよ~

 内心を正直に吐露すればそう言うことだった。暴走した星華を律せるのは、耶麻台国では伊雅か、もしくは教育係でもあった亜衣くらいなもの。

 ――こんな時に、亜衣お姉ちゃんは何処に行っちゃったんだろ。

 片野城へ一度は顔を出しておいて、それから直ぐに出て行ってしまった。まるで全てを諦めたような顔をして。まるで全てを見限ったような顔をして。あの執着心が人一倍強い姉が、責任感も人一倍どころではなく強い姉が、危急存亡の大事な時期にある耶麻台国より、優先すべき事柄など無いはずなのに。

「……あれは、何?」
 不意に前方の星華から呟きが聞こえてきて、下ばかり見ていた顔をそちらに向けると、羽江の目に一度だけみた神々しい光の柱が飛び込んできた。

「あれって、天魔鏡?」
 少し前、征西都督府に突き立っていた光の柱。それが、今は片野城から立ち上っていた。
「天魔鏡? あの山猿が、なにかしたっていうの?」
 その言葉には、はっきりとした怒りが含まれていた。殺気すら含まれた、はらわたが煮えくりかえるような憎悪。

「ふふ、うふふふふ、あははははは」
 何一つ、上手く行かない。何一つ、自分の思い通りにならない。
 力は、あるというのに。
 自分には、もう誰も逆らえないはずなのに。

 この力で、耶麻台国を完全に復興して、天目も狗根国も駆逐して、九洲を平定して、民に希望と安寧を与え、千年先の世まで語り継がれる、稀代の火魅子となるはずの、その自分が。

 その自分が、ないがしろにされてしまっている。

「ふざけるんじゃ、ない」
 怒りが身を焦がす。それは現実的な意味で。

 星華の体から炎が吹き出し、飛空艇が弾丸のように加速した。

「え、星華様! 待ってよ~」
 羽江が叫んだが、そのときには既に姿は点。光の柱に向かって星華はまっしぐらに飛んでいった。






 星華が九峪達の虚を突いて逃げ出した直後、九峪は深川を担ぐとそれを追って走り出した。
「おい、九峪! 相手は空を飛んでるんだぞ。走って追いかけるなど正気か? 大体あいつを追っていったところで事態が解決するわけでも」
「何言ってんだ。今はとにかく追わなくちゃ駄目だ」
「理由を説明しろ」

「あいつは俺には無理だけど、方法はあるって言っただろ。本当に駄目かどうかなんて試してもいないのに、だ。深川は俺が異世界人だからって、そんな話してたけどさ、だったら蛇渇がそもそも俺の中に入ってるのはなんなんだよ。入れたんなら、取り出す術だって使えなきゃ反則だ」

「それはそうかもしれんが」
「どのみち、藁にでも縋らなくちゃならない状況なんだ。手がかりを逃す手はないだろ」

「……ふふ」

「なんだ、気持ち悪いな」
「らしくなってきたじゃないか。それでこそ九峪だ」
「何を訳の分からんことを。俺は何時だって俺だ」

 九峪は些か自嘲を込めてそう言った。
 こんな事を言えるのも、間違いなく深川のおかげ。深川が檄を飛ばして、九峪らしさを教えてくれたからこそ、九峪はこうやって迷い無く動くことが出来る。

 自分が助かるために、誰も殺さないために、全力で、まっすぐに、最高の結末を疑わずに。

 最高など、もう手に入れることは出来ないのだと知りながら。
 それでも、今手に入る最高を求めて。

「なぁ、深川」
「ん?」
「面倒なことが全部片づいたら、その後お前は俺と一緒にいてくれるか?」
「ふん」
 深川は鼻で笑う。
 つまらなそうに、どうでもよさそうに、そのくせどこか楽しげに。

「言ったのは私だぞ、九峪。私はお前の味方だ。どこにも行けるものか」
 離れられない。離れるつもりもない。
 二人の思いは同じだった。













追記:
 今日は出勤日で明日はゆっくり休みたいから仕事終わってから書いてみました。まぁ、半分くらいは既に書いてたのでそんなに時間はかからなかったけどもね。
 さぁて、そんな事を言いつつ深川は明日くらいにもう完結までかいちまおうかとか思ってたりするんですけども、頑張れるか? 寝て起きたらテンションがリセットされるので無理かも分かりませんねぇ。まぁ、なるようになるでしょう。

 で、記念すべき(?)深川五十話お届けしました。
 内容についてはまぁ、いつも通り閉口。一言だけ言うならばやはり深川にでれっとなる展開は無理があるなぁと(今更!) まぁ、こんだけ書いてそこに結論する辺り救いようがないというか何というか。


 web拍手のお返事……は、コメントはないですな。
 拍手してくれた皆様に心より感謝を! ありがとうっ!

 後、直接コメントが来ておりましたが、非公開になってるから返事だけ。
 姫島さんちの日魅子ちゃんは生き返りません。残念! 今回も誰かさんとか誰かさんとかに死亡フラグびんびんな感じで、一件さわやかに締めてみたものの、一体何人生き残るんだとかまぁ、私自身心配な感じでして(ぉぃ
 九峪の特殊能力についてはどうなんですかねぇ。せっかくの特殊能力なんだから原作内で使って欲しかったですけれどもねぇ。設定があったらそれを使うかと言われると困るところでもあるわけですが(ぉぃ

 コメントありがとうございました。


 では本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2007/08/04 22:50】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(1) | page top↑
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コメント
あきらめない、九峪いいですね。 深川ラブラブですね。
確かに入ったと言う事は、出る事ができるはずですよね。

 あきらめた亜衣? 何に? 興味深い。
 星華にひいてしまったう羽江。 まあ、星華に愛情を抱いても盲信はしていない事でしょうか。
 次は、伊万里と星華の対立があるかな?
楽しみです。
【2007/08/05 02:33】 URL | アレクサエル #-[ 編集] | page top↑
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