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深川51
 深川
 五十一話



 鏡から溢れ出した光と、その中をまるで泳ぐように飛び出してきた不思議な形をしたもの。
 一言で言えばマスコットのような小さな可愛らしい生き物、のように見えた。二頭身以下の造形といい、服を着ているようにも見えるけど、それはもしかして体の一部なんだろうかとか、疑問に思える格好も。

 伊万里と志野――それから今まで何も言わなかったが腰巾着のように志野に付いてきていた珠洲――は、一様にその奇妙な現象に驚いていた。

 先に事態に思い至ったのは、当然というか伊万里の方。声だけは聞いていたが、はじめてその実体を見せた天魔鏡の精霊。戸惑いはあったものの、それがそうだと直ぐに理解した。

 だが、やはり分からない。

 鏡から空へと向かって一条伸びた光のワケも、なぜ、今このとき、このタイミングでそんな事が起こったのかも。

「ついに、揃ったね」

 精霊が口を開いた。それは女の子のような声で、三人はまた目を丸くする。言っては何だが、見た目からはその精霊が口をきく生物――実際に生物ではないけど――には全く見えなかったから。しかも何故か妙に気易い。

「伊万里、やっぱり君は運がいいね。うん、オイラの目に狂いはなかったよ。こうも早く、きちんと見つけてくれたんだから」
 精霊の言葉は、伊万里にはよく分からない。そもそも精霊に何か頼まれた事もない。ただ、伊万里はこの鏡を手に入れて、鏡自身に自分を誰にも渡さないように頼まれただけ。

 片野城を訪れたのも、星華に助力を請うたのも、全て伊万里の独断で決めたことだ。

「……よく分からないな。お前、一体何をする気だ?」
「うん、まぁそれはきちんと説明しなくちゃならないんだけれど、その前にそっちの子と話をさせてよ。なんだか呆然としちゃってるし」
 精霊はそう言って志野の方を向くと、ひれのような小さな手を挙げて気さくに挨拶をし始めた。

「やぁ、はじめまして。オイラは天魔鏡の精霊でキョウ。よろしく。君の名前を教えてくれるかな?」
「……あ、志野と申します」
 志野も対応に困る。曲がりなりにも、例え見た目がちんちくりんであろうとも、目の前にいるのは天魔鏡、すなわち耶麻台国の神器の精霊。格で言うなら圧倒的に上で、へりくだらなければならないのだけれども、そんな気には到底なれそうもない。
 キョウには威厳というものも、神聖と思える何かも感じられなかったから。

 ――っていうか俗っぽい。

 内心で毒を吐いたのは珠洲。キョウはそんな珠洲にも挨拶していたりする。珠洲も申し訳程度に名乗り、それで自己紹介は済んだと言うことなのか、キョウは早速説明をし始めた。

「志野。君もこの伊万里と同じく、耶麻台国王族の血を引くものだ」
「へ?」
 また間の抜けた顔になる志野。

「そ、そんな、何かの間違いです。私はただの旅芸人で……」
「うん、オイラも君の生い立ちは知らないんだけれどね。一体君の先祖が、どの時点で王家から凋落したのかは分からないけど、確かに王族の血を引いている。僕は本来王族を見分けるための神器だからね。それくらい分かるさ」
「志野が、王族……」
 ショックを受けたのは珠洲だ。姉のように慕い、家族以上に愛している志野がそんな尊い血筋のものだと聞かされてしまって、さすがに動揺している。

 だが、そんな今この状況に置ける脇役の心身状態などキョウはまるで気にせず話を続ける。

「心して聞いて欲しいんだけど、伊万里と君、王族としての血を受け継いだ君たちに、天魔鏡の精霊として、オイラから聞き届けて貰わなければならないお願いがある」
「お願い?」
「と、いいますと?」

 半信半疑。未だ実感の湧かない志野、そして伊万里も当然同じではあったが、それでも相手は神器の精霊。お願いは血筋がどうあれ命令に近い。

「君たちには酷な願いかも知れないけど、耶麻台国を滅ぼして欲しい」
 端的に、直截的に、何の衒いも迷いも躊躇も無く、神器の精霊はその言葉を口にした。

「馬鹿な! 国を滅ぼせだと! お前は神器の精霊だろう。なぜそんな大それた事を!」
 掴みかからんばかりの伊万里に、キョウは悲しげな目を向ける。

「もう、どうにもならないんだ。どうしようもない。耶麻台国という国の寿命なんだよ」
「国の、寿命?」
「不思議に思ったことは無かったかな? それとも、そんな事考えたこともなかった? 耶麻台国の初代女王、開祖姫御子は天空人だったという話は知っているよね? でも、考えても見てよ。確かに開祖姫御子は天空人だった。けれど、たった一人の天空人が、たった一人で九洲を統治できたと思う? 確かに天空人は長寿で、人間なんか比べものにならない力と知恵を持ってはいたけれど、魔天戦争で疲弊した人間界は確かにそれを許すだけの基盤は持っていたけれど、それでもそもそも人間を絶滅寸前まで追い込んでしまったのは魔天戦争で、人間にしてみれば、天空人だろうが魔人だろうが等しく敵でしかなくて、そんな敵でしかない天空人を、まるで神のように崇めるような、そんな国を作り出せたと思う?」

「だが、事実存在しています。人に優しい天空人だったと言う事ではないのですか?」
「そうだったのかも知れないと、確かに思ってしまうんだろうね。でも、事実は違う。姫御子は異端だった。そりゃそうだろう? ほかの天空人などただの一人として残っていない事実からも分かるとおり、人間界に残ろうと考えるだけで、天界の意向には逆らってるんだから。人間以上に統制が取れ、しっかりとした規律と戒律がある天空人が、その足並みを乱すようなことをすればそれは罪なんだよ。姫御子が死に損ないの人間の為に、わざわざそんな真似をした? 本当にそうなら良かったんだけど、実際はまるで逆なんだよ。……つまり、姫御子は天界からの追放者。二度と還ることの出来なくなった、罪人なんだよ」

「……」
「……」
 志野も伊万里も、聞かされる歴史の事実に閉口するしかない。しかし同時に思う。だからそれがどうしたのだと。

「家族も身内もいただろう天界へ戻れず、猿に毛の生えたような人間達のいる世界で生涯を終えなければならなくなった姫御子の心情は、正直ただの精霊でしかないオイラなんかには想像に余りある。けど、帰りたいって思っていただろう事は誰にだって考えつくよね。姫御子もきっとそうで、だから、天界の扉を開くための試行錯誤をした。結果的に姫御子は帰ることは出来なかったけれど、代わりにとんでも無いものを生み出してしまった」

 キョウは、そう言ってひれのような手を、自分の胸に置いて見せる。

「そう、天魔鏡と、炎の御剣という一対の神器だよ。全ての願いが叶えられる神器。結局それは天界に帰るための扉を中途半端に開けるだけの、姫御子にとってみれば自分の一番の願いだけは叶えられない、失敗作以外の何者でもなかったけれど、どうにか成功作を作り出すために、他のことにかかずらっていられなかった姫御子は、そのとき自分を世話する手を欲した。もっと簡単に言えば、奴隷が欲しかった。そう、それがこの国の、耶麻台国の始まりだよ」

 本当はもっと酷い話なんだけど、なんてキョウは嘯く。
 身も蓋もない。信仰心をカケラでも持っている相手には喧嘩を売る以外、何者でもない歴史的事実。そして、全ての根幹を揺らすような、国そのものを破壊しかねない、それは告白だった。

「耶麻台国は火魅子への信仰で成り立っている宗教国家だ。それは姫御子がオイラと炎の剣を使って植え付けた、千年に及ぶ呪い。絶対的な信仰心は、けれどもう破綻しかかっている。火魅子への信仰が強い余り、女系継承が途絶えてしまった五十年ほど前から始まって。だから、もうこの国は、耶麻台国という国はどう頑張っても取り戻せない。みんな頑張って火魅子火魅子と言っているようだけど、それも惰性に過ぎないよ。だから、いっそこの国は滅ぼして、新しい国を生み出した方がいい。いや、生み出さなければならないんだ。九洲の民のためを思うなら、それ以外にない」
 キョウはそう言って、二人の王族を見た。どちらも王族としての意識はないが、王族であるという事実は消えない。

「君たちが、それを成さなければならない。星華はそんな事、絶対に承伏できないだろうから仕方ないけどね」

 戸惑う、二人。
 知らなかった、知りたいとも思わない事実を聞かされ、その上で、次の支配者に指名されてしまった。
 混乱していた。どうしようもなく。

「今から剣がここに来る。そしたら、二人のどちらかが願いを叶えるんだ。九洲の民を思うなら、それが最善だよ」
 そして、どちらかが新たな信仰の対象となり、新生耶麻台国は、新たなる千年を謳歌するのだろう。

 まるで誘うようにほほえむ神器の精。言葉は正しく聞こえる。二人は九洲の民を救いたい。その厳然たる意志に揺らぎはない。だが、あまりにも突然のことで、頭が回らない。

「……胡散臭い」
 ぽつりと漏らしたのは珠洲。
 信仰の破綻。その末端。火魅子に対して一切の尊敬を持たなかった少女。だから、額縁通りにキョウの言葉が頭に入ってこない。
 現実的に、その言葉の裏が見える。

「そうよねぇ。少し、話が妙だわ」
 そう言って、いつの間にかそこにいた忌瀬も加わる。

「忌瀬さん。それに珠洲も……」
 困ったような志野。志野の意志は、すでに半ば決まりかけていたというのに。半ば以上、流されてしまっているというのに。

「そもそも、願いは剣の持ち主が叶えると聞いたけど」
 言ったのは伊万里。単純な疑問。聞いていた話とは違うという。

「それなら大丈夫だよ。叶えるのはオイラだからね。炎の御剣と宗像連中は、そう思いこんでるだけだから」
「思いこんでいる……」

「そう。だから心配しなくてもいいよ。願いは叶えるから。オイラが、みんなの願いを――」

 そう言ったキョウが怪しく光り、それを見つめた志野と伊万里が、虚ろな視線になる。

「ねぇ、君たちならわかるよね?」

 キョウはあくまで優しげに言う。誘うように、惑わすように。

 あくまで優しげに、決定的な欺瞞を。













追記:
 あー、眠い。今日から会社的には盆休みの五連休だったはずだったんですが、個人的には仕事だったりするんですねコンチクショー。まぁ、別にいいけどさ。でも明日も仕事とか……。はぁ。

 まぁ、愚痴はこの辺にしておいてと。深川本編はようやく……、ようやく私が考えるところの火魅子伝最腹黒キャラが出てきました。いやめでたいめでたい。……ってめでたいのか?(笑

 あとお知らせですが、断頭台の方のオリジナル、OLSシリーズを更新しましたので読みたい方はどうぞ。はぁ、ようやく次でこれも最後か。書き始めたのはっていうか、九月分くらいまでは二年前にはもう出来てたのにその後が非常にゆっくりだなぁ。やはり勢いがある内に書かないと色々大変ですなぁ。


 ではweb拍手のお返事。
 8/5。

1:40 最近コードギアスにはまってるせいか、深川が妙にC.C.と被ってしょうがないですw
1:40 あとふと思いました。あれ、狗根国との戦争はどうなったんだっけ?
1:41 ゆっくりと最初から読み直してみようと思います^^;     by宮
 と頂きました。
 宮さんお久しぶりです。いわれてみればC.C.と共通するところもありますかねぇ。最終的に死にそうなところとか(笑 コードギアスは結局続編に続くようで、やっぱりラスト二話じゃ収集付かなかったか、と思うと同時に続編でグダグダにならなければいいなぁと願ってますが、難しいですかねぇ。
 狗根国との戦争は一応継続中ですけども、電撃作戦によって火向を奪還するも豊後を耶麻臺国に抑えられてそれ以上の侵攻が滞っている、という状態です。まぁ、メインが戦争じゃないので、どうでもいいんですが(ぉぃ
 宮さんもなにやらまた新作に手を出したようで、私にはなま暖かく見守る事しかできませんが、贔屓される人がされる人なので楽しみにしております。頑張って下さい。
 コメントありがとうございました。

 もう一件。

13:52 何か星華さまはこのまま無様を曝す以外に道は無いしいっそ華々しく散ってほしいと思う今日この頃です。
 星華様ですか? ああ、次回フルボッ(ry……ゲフンゲフン。いい意味か悪い意味かはわかりませんが、まぁ出番が多い事はきっといい事ですよね(ぇ
 コメントありがとうございました。

 他にも叩いてくれた皆様に心より感謝を!

 後はアレクサエルさんからコメント。

あきらめない、九峪いいですね。 深川ラブラブですね。
確かに入ったと言う事は、出る事ができるはずですよね。

 あきらめた亜衣? 何に? 興味深い。
 星華にひいてしまったう羽江。 まあ、星華に愛情を抱いても盲信はしていない事でしょうか。
 次は、伊万里と星華の対立があるかな?
楽しみです。
 と頂きました。
 直前に軽いノリの小説を読んでいたせいで前回はあまり深刻感が無い感じになってしまいましたがまぁそれも良しですかね。ラブラブ成分が足りないので。
 亜衣に関しての言及と星華との対立は次回以降の話になります。亜衣の出番そのものはやっぱりエンディングになる可能性も否めませんが(笑 詳しくはこうご期待という事で。
 コメント有り難うございました。


 さて、今月はなんとか週一ペースを崩さず更新できそうです。なぜなら既に書いてあるから! このまま行くと六十手前では蹴りが付きそうなので、順調にいけば来月には完結していると思います。まぁ、そんなわけで宜しければもうしばしおつきあい下さい。

 では本日はこのへんでヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2007/08/11 22:06】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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