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深川52
 深川
 五十二話



 一人、誰も知るものもいない、荒廃しきった世界に取り残されて。もう元の生活に戻ることも出来なくて、愛しい人にも大切な家族にも親しい友達にも、もう会うことは出来ない。唐突にそんな状況に追い込まれて、少女はそれを認められるだけ強くなかった。それを受け入れて、新たなる世界を開拓できるような、そんな強さなんてどこにも持ち合わせがなかった。

 だから、帰ろうと思った。どうにかして、自分の持てる知識と技術と力を使って、なんとか帰れるはずだと思いこんで、それでなんとか自分を保つ事が出来ていた。そう思いこみでもしなければ、正気を失いかねなかったから。

 けれども現実は残酷で、そんな都合は結局希望的観測でしかなくて。
 少女は持てる以上の力を発揮して、血のにじむような努力をして、奇跡のようなその扉に、ようや手を掛けるところまで至る事が出来た。

 でも、それで終わりだった。そのときに分かってしまった。いっそ届かなければ、いつまでも少女は追いかける事が出来たのかも知れない。けれども、現実はどうにも残忍で。

 どうあっても、扉は開かない。少なくとも、隙間は開いても、とても自分が通れる穴は開かない。そんなのは開かないのと違いはなくて、ただ到達できないという事実だけが残ってしまっただけで。

 失意は一体どれほどのものか。それを知るものは少女以外にいない。ただ、それで終わればそれでも良かった。不幸な少女が、一人いて、失意の内に死んでしまったと、ただそれだけの物語として、ただの悲劇として幕を閉じたはず。

 けれども、現実の連続である運命というのも、やっぱり残酷で残忍で。

 放っておけば良かったのに、失意の少女に構ってしまった人がいた。それは少女にしてみれば、人、と言うのもおぞましき、猿から少しばかり進化しただけの類人猿で、話しかけるのが論外なら、近寄った事すら、視界に入った事すら罪で。

 失意が自暴自棄に変わって、下等動物に同情などされたことで、少女の中の大切なものは、全て壊れ果ててしまった。
 だから、八つ当たりだ。ただの八つ当たり。八つ当たりで、少女はその類人猿共を奴隷にした。帰るために生み出した神器を使って、この地に千年の呪いを掛けた。

 その八つ当たりで、究極なまでの自虐の結果生まれたのが耶麻台国。もう誰も知らない、創世の神話。

 千年経ってしまった今となっては、もうどうでもいい、ただそれだけの話。






 轟音と共に、光の柱、その根本に炎が巻き上がった。
 その中心に立つのは星華。
 燃え尽きた飛空艇も、吹き飛ばされた忌瀬も珠洲も一顧だにせず、ただ目の前の二人の王族、志野と伊万里、そして神器の精を見つめている。

「……私を無視して、随分面白そうな事をしているじゃない」
 誰に言った言葉か、誰にも分からない。引きつった笑みを浮かべた星華に、志野も伊万里もひるんでいた。

「やぁ星華。初めまして。オイラは神器の精、キョウだよ」
 キョウだけは、それを全く気にした様子もなく気安く挨拶する。

「そう。はじめまして。で、これはなんのつもり?」
「見て分からないかな? おかしいな、君は火魅子の力を継いでいるはずだろう。ああ、そうか。そっちの方も、いい加減もう限界なのかな?」
「限界? いったい何の」
「もう一度説明するのは面倒だから簡単に言うね」

 キョウは笑顔のまま、残酷に告げる。

「耶麻台国はもう終わり。火魅子の力もおそらく君で最後。継承される事もないし、九洲の民にかかった信仰の暗示も、おそらく十年内に完全に消滅する。だから宗像神社ももういらないし、君にも用はない」

 邪魔だよ、とキョウは告げる。まるで挑発するように。星華の今の状態が、見えていないかのように。

「……な、何ですって? もう一度いってご覧なさい」
「やだなぁ、耳が悪いの? 火魅子はいらないし、もう、火魅子じゃ国を治める事も出来ない。君は火魅子になれて満足だろう? よかったじゃない。最後の火魅子になれて。歴史に名は残ると思うよ。次の支配国が残してくれればね」
「あ、な、何を、馬鹿な。私が統治するんです。支配が出来ないなどそんな馬鹿な」
「君ならば統治できると? うん、まぁ、確かにそうだね。曲がりなりにも火魅子の知識と力をもった君ならば、確かにこの地を統治する事は出来る。けれど、それ以上の信仰の対象が生まれてしまえば、それ以上の力をもった支配者が生まれてしまえば、君など過去の産物だ。そして、一新した方がきっと上手く行く。千年と言う時は長すぎる。何もかもが淀んで濁り、この国はもう随分と前から腐っていた。君は知っているでしょう? 腐敗の中心にいたようなものだもの」
「……私が、腐っている?」

 周りが引くくらいに、星華は静かにそう言った。火魅子としての知識が、星華として、宗像の巫女衆の長としての知識が、キョウの言葉の意味を理解させた。

 同時に、ならば自分は何なのかという自問自答。

 回答は即座に導き出される。

「まるで君は道化だね」

 笑顔の精霊は、笑顔のままに、冷静に星華にとどめを刺す。


「――――――――っあああああああ!!」


 喉から血が出そうな絶叫。先ほどから起こる奇怪な事態に、遠巻きに様子を見ていた住民の何人かが耳から血を流して倒れたほどの、まるで音波兵器。

「認めない認めない認めない認めてやるもんですか、ええ、知らないわよそんなこと、私が火魅子で私が支配者で私が私が私が、この私がこの国を救って私がこの国を、民を導くんですから――――」

「せめて百年、いや五十年でいいから、早く生まれていれば良かったのにね。残念だよ、星華」
 まるで残念な素振りも見せず、キョウはそう言った。

「勝手に終わらせないで貰いましょうか! 私は天魔鏡の力など不要。主に、所有者に向かって不遜な口をきいた罪、たたき割られて後悔なさい」
 言い終わるのを待たず、星華は天魔鏡に九峪に向けた一撃も斯くやと言う、街そのものを破壊しかねない方術を放った。

 後も先も、前後も左右も上下も、何もかも見えてない。
 立て続けに自分を全否定される事の連続で、星華は正気など完全に失っていた。

 守るべき民の事など、完全に忘れていた。

「本当に残念だ」
 笑顔で、まるで全て思い通りだとでも、まるで思った以上だとでも言うように、キョウは笑っている。

 星華の方術は、天魔鏡には当たらなかった。どころか、目の前にいる、二人の剣によって、微塵に粉砕されてしまった。

「嘘よ」

 クルクルと回る志野の双龍剣と、一閃したまま微動だにしない伊万里の長剣。

 九峪のように、異世界からきたワケじゃない。なのに、なぜ火魅子の一撃が防がれたのか、それが理解できない。

「無駄だよ、星華。オイラは彼女たちを選んだんだ。古く滅ぶべき王族ではなく、血統だけ受け継ぎ、耶麻台国から乖離した新たなる支配者として」
「本当に、王族だとでもいうの!」
「本当さ。君とは違って、オイラに選ばれるだけの器がある、ちゃんとした王族だ」
「まるで私じゃ不足みたいに!」

 星華が再び方術を放つ。だが、それも二人の手でかき消される。天魔鏡の加護の為か、それとも火魅子の力がいよいよ弱っているからなのか、或いはその両方か。炎は届かない。星華が壊したくて、のろわしくてたまらない、その神器の元までは。

「引いてくれ、星華様。今、九洲の民を救うためには、アンタじゃ駄目なんだ」
「伊万里! 山猿の分際で……!」
「伊万里さんの言うとおりです。失礼ですが、今の星華様の力だけでは、もうどうにもなりません。それは事実です」
「裏切り者が! 何を偉そうに」
 志野と伊万里の諭す声も、聞こえはしない。

 けれど、志野は続けた。少しだけ、言いにくそうにしながら、それでも最終手段だと思って。

「本当は、今日は星華様にお会いするために片野城にやってきました」
「殺されたくなければ二度と目の前に現れるなと言ったはずだけれど」
「知らなければ後悔すると思い、命を奪われるならそれも構わないと」
「なら死になさいよ、今ここで」
「聞いて下さい。聞かなければならない事なんです」
「……何かしら?」

 志野は一度言葉を切って、それから黙った星華を見て続けた。

「亜衣さんは、天目の元に下りました」
「……!!」

 星華の目が、これ以上ないほど見開かれる。

「何を、馬鹿な……。あの亜衣が私を裏切るはずなど」
「無論、裏切るつもりではないと思います。あくまであの人の忠誠は貴方に捧げられたもの。けれど、そのあの人が、星華様の力だけでは、いえ、今の耶麻台国の力だけでは国家の維持が不可能と結論づけたのです」
「だからあの天目の力を借りに行ったと言う事? そんな話を信じるとでも」
「それはご自由に。しかし、実際問題耶麻台国単体では、狗根国を九洲から追い出す事は難しい」
「そんなものは私がいれば」
「あなたは火魅子様とは違う」
 志野ははっきりとその言葉を口にした。

「わかりませんか? あなたには、火魅子様ほどの絶対性が無い。ご理解下さい。九洲の事を思うなら、民を思うなら、引く事もまた為政者としての判断です」
 懇願にも近い志野の言動。

 しかし、それはやはり……

「ふ、ふふ。寝言は寝て言いなさい、小娘」

 星華を逆上させることでしかなくて――

「みんなまとめて、消し炭になってしまえばいいわ!!」

 圧倒的な力の本流。それを見て取って、瞬時に志野と伊万里は動いていた。
 気は進まずとも、星華を止めるためには、もう他に手段がないと腹を据えて。

 火魅子殺しの汚名を、かぶる事を恐れずに。その後にある希望のために。












追記:
 ……暑い。
 もう今週はたまらん暑さでした。盆を過ぎて多少は涼しくなったんですが、盆中は死ぬかと思いましたよ。実家はエアコン無かったしねぇ。そんなわけでぐーたらしておりました。
 しかし暑いのは気温だけじゃなくてですねぇ、ついに、ついにゲーム版火魅子伝をゲットしました(遅っ
 いやー、中古ショップを探し歩いて幾星霜、ついについに! そんなわけで今プレイ中です。おかげで小説書いてないです(ぉぃ まぁ、すでにゲームをまともにやる気力が無いので、シナリオだけ把握するためにガスガス進めて明日にはクリアしている予定ですが(爆 終わったら小説も書こうかと思いますです。


 web拍手のお返事。
 8/12。

4:54 インソムニアありがとうございます。 これから読ませていただきます。
 と頂きました。
 期待はずれでなければいいなぁとおもいつつ、まぁ、それも難しいなと思ったりもしますが、多少でも楽しんで頂ければ幸いです。
 コメントありがとうございました。

 もう一件。

9:13 今回の感想。良し、バカ鏡を叩き割ってめでたしめでたしって事にしよう! 何となくそう思いました。
 と頂きました。
 馬鹿鏡をたたき割るのは鉄版として、めでたしになるかどうかは……、なるのか? いや、むしろキョウが一人勝ちエンドもそれはそれで……無理だ(笑
 コメントありがとうございました。

 8/14。

10:07 いんそむにあ読了・・・賭け事一つで片腕消滅て、何と言うかGJ!
 と頂きました。
 腕はねぇ。次の最終話への伏線というか、つなぎのための戦力ダウンなワケですが、ちゃんと書く気があるか分からないから単にいじめかも知れませんねぇ(ぉぃ 本人は気にしてないから構わないかも知れませんが(笑
 コメントありがとうございました。

 8/19。

15:23 ここの作品は全部読ませていただきました。とてもおもしろかったです。これからもがんばってください。
 と頂きました。
 全部……。うわぁ、ものすごい時間がかかったと思いますが、その時間分楽しんでいただけたなら幸いでした。これからも懲りずに量産していきたいと思いますので、暇があったら見て頂けると嬉しいです。
 コメントありがとうございました。

 他にも叩いてくれた皆様に心より感謝を!


 では本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2007/08/18 22:05】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(1) | page top↑
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コメント
相変わらず、おもしろい。
姫御子の行動、うん、納得です。

しかし、伊万里・志野(非主流派)VS星華(最大派閥)か、なんか象徴的です。
元々、山人、漂白人として育ってきた、二人は、仮にまともに勝負したら、火魅子になるのは、難しい。 しかし、火魅子になれたら、文字通り、旧耶麻台国とは違う、新耶麻台国を作れるかもしれない。
星華の場合、新耶麻台国は難しいが、比較的安定した政権を作れたかも。

私は、伊万里と志野は、火魅子伝で、1,2を争う程、好きですが、今度は、二人で争いが起こりませんか?
【2007/08/21 12:04】 URL | アレクサエル #-[ 編集] | page top↑
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