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深川53
 深川
 五十三話



 目まぐるしく事態が目の前で展開する。
 はじめは星華を訪ねるために片野城を訪れたはずだった。
 それが途中で伊万里という、少し変わった女に会って。
 そして、突然その伊万里の持つ天魔鏡が光って、ちんちくりんな変なものが飛び出して。

 そのちんちくりんと話をして、話を聞かされて、胡散臭いと少女は言った。
 星華が飛んできて、何故か殺し合いになってしまったけど、それを誘発したのは誰だろうか?

 考えるまでもない、そのちんちくりん。

 わざわざ敵対する事は無いはずだ。少なくとも目的は同じ。手と手を取り合う事は出来ずとも、反目する理由なんて何処にもない。

 星華が正気に見えなかったのも確かだけど、それでも言葉を尽くせばまだ、どうにか分かってくれたのではなかったか?

 それを許さず、一方的に星華をなじり、貶め、馬鹿にして、怒りに我を忘れさせたのは、やはり明らかだ。

 ――なぜそんな事をする。

 少女は考える。愛しき人が巻き込まれてしまっているから、いいように弄ばれているようにしか、端からは見えないから、だから考える。

 ――考えるまでもない。

 あのちんちくりんは悪いものだ。もしかしたらこの九洲にとっていいものなのかも知れないけど、少女の愛する人に取っては悪いもの。

 だから、この馬鹿な争いは止めなくちゃならない。
 止めなければ、何か悪い事が起きる。
 とてもとても、悪い事が起きる。






「……す、珠洲?」
 志野の表情が凍り付いた。一瞬で顔から血の気が引いた。
 星華と志野の間に入り込んだ珠洲。
 これ以上ないタイミングで、星華しか見えていなかった志野には、剣をそらす事も出来なかった。

「……いや、珠洲。なぜ」
 戦慄きながら剣を捨て、自らが刺し貫いてしまった、小さな少女の体を抱える。
「――志野、流されちゃ、駄目。志野は、あんなのに頼らなくたって、自分でちゃんと出来るから。だから、人の言葉で動かないで。……そんなの嫌だ」
 こふっ、と小さく咳をして、はき出された血が志野の頬にかかる。

「珠洲、しっかり。もうしゃべらないで。忌瀬さん」
「志野! 前を!」
 忌瀬が叫んで、視線を上げると、あまりにも無防備な志野に向かって、伊万里の剣に貫かれた星華が、今まさに方術を放とうとしていた。

「志野っ!」
 再び凍り付いた志野を、その腕の中にある小さな少女が突き飛ばした。瀕死のくせに、これ以上ないほど力強く突き飛ばされ、志野は方術をかわした。

 かわしたが、かわさせてくれた小さな少女は、跡形もない。

「あ、あ、あああ」
 両手で顔を押さえ、受け入れがたい現実に、発狂しそうになる志野。

 その前に、腹に剣を生やしたままの星華が立つ。
 伊万里は刺し貫いたはいいが、次の瞬間にははじき飛ばされていた。弱っているとは言え、それでも火魅子。ただの王族になど、負けるわけもない。

 あえて解説するなら、先ほどは精神が滅茶苦茶な状態で放った術だったからこそ、天魔鏡の加護を受けた志野と伊万里に相殺する事も出来た。だが、敵から攻撃を受け、それに対する防衛となれば、話は別。精神状態がどうであろうが、火魅子としての自己防衛は、殆ど自動的に行われる。そこに隙など微塵も存在し得ない。

「火魅子に剣を向ける、その意味が分からないわけでも無いでしょう? ふふふ、今すぐ珠洲と同じところに送ってあげるわ。せめてもの慈悲で、苦しまずに」
 志野は珠洲に突き飛ばされたまま、へたり込んだままで、かわすなど、受けるなど出来る状態ではない。

 そもそも、今目の前の状況が見えていない。

「死ね」
 星華の宣告。同時に放たれた不可避の炎。一瞬後には、影も形も無くなる。完全な消滅。

 炎が消えた後の恐ろしいまでの静寂。

「ふふ、あははは、あはははははは、何よ、やっぱり私が火魅子じゃないの。私以外、誰がこの国を統べられるというのかしら」
 失い掛けていた自信、それを少しばかり取り戻して――

「弱いもの虐めするような奴に、国なんか治めて欲しくないもんだな」
 ――取り戻せるはずが、聞きたくもない声でかき消される。

 ぎぎぎぎ、と音が鳴りそうなぎこちなさで振り返る星華。
 そこには、珠洲と志野を抱えた、会いたくもない男が立っていた。






「よっこらしょっと」
 気を失っている志野と珠洲を地面におろすと、巻き込まないように立ち位置を変えながら、ゆっくりと星華に近づく。

「まったく、肝心なところで逃げるんじゃねぇっつの。危うく見失うところだったし」
「どうやって」
「走って」
「はし……」
 絶句する星華。障害物も何もかも無視して飛べる飛空艇に、どうやれば走ってついて行けるというのか。一里や二里の話ではない。普通に歩けば丸一日は軽くかかる距離を、だ。

「と、言うわけでだ。さぁ、教えて貰おうか。どうやれば蛇渇の糞を俺の中から取りだせんだよ。さぁ教えろ、今すぐ教えろ、さっさと教えろ、余すとこなく全部まるっと教えやがれ」

「それは無理だって、言ったでしょうに」
 じりりと、星華が下がる。まだ何も対抗策を用意していない。星華だって出来るならそうしてやりたいところだ。敢えて言えば、それこそがおそらく唯一の九峪に対する対抗策なのだから。

「いいからやってみろって。どうせ他にアテもないんだし、ダメ元で上手く行ったらお慰みって奴でいいからさ。別に減るもんでもあるまいに」
「……」
 逡巡する星華。確かに黙ってやらせてくれるなら、ダメ元でも何でもやっておいた方がいいのかも知れない。結果的にどうなるにしても、少なくとも損にはならない。

 そう、思ったとき。

「ようやく、戻ってきたんだね。炎の御剣」
 キョウが、口を開いた。

「……なんだこのちんちくりん」
「ちんちくりんってオイラが! ちょ、初対面で酷いよ君」
「いや、ちんちくりんはちんちくりんだろ。あー、ってもしかして天魔鏡の精霊か? なんだか随分とイメージが違うなぁ」
「どんな想像してたんだよ、もう。それよりそんな口の利き方してると、君の事助けて上げられないよ」
「助ける?」
「蛇渇、取り除いて欲しいんでしょう?」

 キョウは見透かすようにそんな事を口にする。

「出来るのか? なら、是非やってくれ」
「その前に謝ってよ」
「……器ちっちゃいなぁ。まぁいいけど。ちんちくりんって言って済みませんでしたもうしません、ごめんなさい」
「誠意がこもってないなぁ。まぁいいや」

「横柄な。で、本当に出来るのか? そこのねーちゃんも出来ないって言ってたのに。火魅子のくせに」
「出来るよ。そんな出来損ないの火魅子と違うし。そもそも、宗像連中にその方法を教えたのはオイラだしね」
「……元凶かよ」
「心外だなぁ。全てこの国のためさ」
 キョウは当然のようにその言葉を口にする。

「さすがに三度も説明したくないから言わないけど、この国は天界の扉の力で千年持ってきた。滅ぶとすればそれは力が尽きたときで、復活するとすれば、それもまたやはり天界の扉の力を使う以外無い」
「それには一言あるが、そんなご託はどうでもいい。聞きたくもない。飽き飽きしてるんだこっちは」
「そう。じゃあ、さっそく始めようか。直ぐ、済むよ」

 そう言ってキョウはふわふわと九峪に近づく。

「……ん」
 九峪は顔を顰めると後ろに飛んだ。キョウから離れるように。キョウを避けるように。それを不思議そうに見つめるキョウ。
「どうしたの? 逃げたら駄目じゃないか。オイラも近づかないと蛇渇を取り出せないんだから」
「……それは、そうかもしれながな」

 九峪は神妙な顔でキョウを見据える。何かがおかしいと気づいて。それだけは嫌と言うほど鍛え上げられた、最悪への直感が、最大級の警戒音を鳴らしている。

「……今の俺の気持ちをたとえて言うなら、『こいつはくせえッー!ゲロ以下のにおいがプンプンするぜッーーーーッ!!こんな悪には出会ったことがねえほどになァーーーーッ、環境で悪人になっただと?ちがうね!!こいつは生まれついての悪だッ!』……ってな感じだな」

「同感だな。酷く臭う。こんな腐臭を堂々とさらして正気とは思えんな」
 後からやってきた深川も賛同する。

 キョウの顔から、表情が消えた。

「そう。ふーん、分かっちゃうか。蛇の道は蛇、か。でも、いいのかな? オイラの思惑がどうあれ、君らはオイラに頼る以外に先がない。それとも一生蛇渇を飼い慣らす自信でもあるの? 無理だよ、人はそういう風には出来ていない。遠からず精神が押しつぶされて、君の肉体は蛇渇に完全に乗っ取られる。遅いか早いかの違いでしかないさ。別にそれならそれでも構わないけどね。どのみち蛇渇はオイラを目指して勝手にやってくるんだから、そのときでもオイラは別に困らない」
「見透かしたような事をいいやがって。嫌な奴だな、お前」
「ただの事実。それが嫌な言葉に聞こえるって事は、君の人間性の問題だと思うよ」
「……本当に蛇渇を取り出せるんだな?」
「オイラは神器の精霊だよ。誓って嘘は言わない」
 嘘は言わない。それがどんな嘘より嘘くさいと知っていながら、それでもやはり九峪には他に選択肢がない。

「妙な真似したら、分かってるんだろうな?」
「心配しなくてもいいよ。痛くしないから」
 キョウは冗談めかしにそんな事を言って、九峪へとゆっくりと近づいて行った。






 ――頭の中に、声が響いた。
『星華、君にも一度だけ機会を与えよう』
 それは今代の火魅子相手にあまりに不遜な言葉。けれど、これ以上ない魅力のある言葉。
『オイラが今から九峪の中から蛇渇を取り去る。でも、蛇渇そのものがそれで消えて無くなるワケじゃない。君は蛇渇が出てきたら同時に倒して貰いたい。それが出来たなら、オイラは君を選びなおして上げるよ。本当の火魅子として、初代の火魅子と同じだけの、比類無い力を持った絶対者に』

 その願いは、火魅子になる以前の星華の願いで、火魅子になって消えたはずの願い。けれど、九峪という存在が、それを容赦なく否定した。火魅子は絶対ではなく、火魅子を倒せる人間が存在してしまう。

 だから、その時点で星華は確かに考えた。天界の扉で、確かな力を手に入れたいと。
 キョウの申し出を断る理由はない。

 九峪という盾が無くなれば、蛇渇など火魅子の前ではゴミ同然。

『わかってくれたみたいだね。でも、それだけじゃ駄目なんだ』

 キョウは続ける。

『あいつが邪魔なんだ。あいつだけは殺さなくちゃならない。同時に殺しちゃってよ。君なら、簡単だろう?』

 そうすれば、君が火魅子だ。

「火魅子……」
 誰にも聞こえない、自分にすら聞こえないような声で呟いて、星華は視線を九峪とキョウから、その後ろで心配そうにそれを見つめる女に向ける。

 星華は笑った。
 そんなものでいいのなら、その程度でいいというのなら、今すぐにでも殺ってやると。事実、体は勝手に動いていた。













追記:
 話の展開がかなり急でその上大混乱になってきましたが、さて何人生き残るのやら。意外とハッピーエンドかも分かりませんよと、ありもしない事を言ってみたり。

 えーと、更新の方ですが今月中に深川は最後まで書き上げておかないと、十月の頭の試験に向けて勉強しなくちゃならないので、来月しんどくなりそうだなぁとか他人事のように考えていたりしますデス。でも今週仕事がとても忙しくて今日休みだったんだけれども、何というかまだ起きてる時間三時間くらいしかないというくらい爆睡だったりして、大丈夫かなぁとか。
 無理せずやっていくつもりなので、更新しなかったら疲れていると解釈して頂ければ幸いです。


 ではweb拍手のお返事。
 8/19。

1:30 ゲーム版火魅子伝ゲットおめでとうございます!
1:30 しかし羨ましい・・・私もあちこち探して回っているのですがなかなか見つからんのですよ^^;
1:31 まあなぜか攻略本だけはあるのですが・・・(資料としてゲットw)
1:31 またそちらの感想も聞かせてくださいね    by宮
 と頂きました。
 ゲーム版ですがやっぱり古いゲームだけに見た目は少々みずぼらしいですね(苦笑 実のところまだクリアしてないんですが、清瑞はゲーム版もいいなぁとか、小説版は殆ど空気のような音羽がツボにはまったりとか、色々と新鮮でした。ゲーム版をやると今度は音羽か魅土ヒロインのSSを書きたく(ry
 コメントありがとうございました。

 もう一件。

14:14 ぶっちゃけ志野と伊万里「気は進まずとも、星華を止めるためには」とか言ってるけど、欠片も説得しようとし
14:16 てるとは思えないっすねぇ。有る意味星華並の道化の道を進んでるみたいだぞ二人さん。
 と頂きました。
 これに関しては今回の冒頭の通りで、キョウのせいと言う事で。九峪がさっさと到着してしまったので、これから二人が空気のようになりますが……、頑張ってこの混乱を収拾したいと思います。
 コメントありがとうございました。

 他にも叩いてくれた皆様ありがとうございました。


 次にアレクサエルさんからのコメント。

相変わらず、おもしろい。
姫御子の行動、うん、納得です。

しかし、伊万里・志野(非主流派)VS星華(最大派閥)か、なんか象徴的です。
元々、山人、漂白人として育ってきた、二人は、仮にまともに勝負したら、火魅子になるのは、難しい。 しかし、火魅子になれたら、文字通り、旧耶麻台国とは違う、新耶麻台国を作れるかもしれない。
星華の場合、新耶麻台国は難しいが、比較的安定した政権を作れたかも。

私は、伊万里と志野は、火魅子伝で、1,2を争う程、好きですが、今度は、二人で争いが起こりませんか?
 と頂きました。
 実際問題、国家の長となるための教育を一切受けていない、伊万里や志野がその立場に付くのは本来民にとっても国にとっても不幸でしかないのだと思いますが、それを覆す為の火魅子の継承なんてものがあるんだから、星華にとって現在のシステムはたまったものではないのかなぁなんてふと思いました。まぁ、今回はそれら全ての能力を扉で得られるとキョウが言っているので、誰であろうとそれほど構わないのでしょうが。
 伊万里と志野の間で争いですが、そもそもキョウがわざわざ星華以外のもう一人の王族に会うだろうと予想して、伊万里の元にいたと言う事を考えれば、王族が二人必要だったからということになるような、ならないような。まぁ、何のためであるかはこの後のお話で。
 コメントありがとうございました。

 次回更新は九月ですね。なんだかんだで更新再会してからもう五ヶ月経つのかと思うと、時間が経つのも早いなぁとしみじみ。


 では本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2007/08/25 21:13】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(1) | page top↑
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コメント
53話、急展開ですね。 いやー、おもしろい。
九峪の登場で、伊万里と志野の暗示は解けたのな?
珠洲は助かるのかな?

 九峪にとり、胡散臭いキョウの力を借りざるえないのはわかるのですが、
それをなぜ、星華の前でするのか? 星華が、九峪と言うか、九峪達を皆殺しにしようとしましたよね。
仮に、九峪が蛇渇の影響を取り除けたら、力がなくなる可能性もある。 そんな無防備の姿で星華の前に立つのか? 公的にも、前火魅子暗殺?犯ですよね。
 どうせ、星華は九峪の役にはたたないし、九峪達を殺そうとした。 それを考えると、九峪は星華を殺した方が良いのでは? 城は、星華の兵ばかりで、伊万里や志野の手の者はほとんどいないから、監禁もできないでしょうし。
【2007/08/26 03:38】 URL | アレクサエル #xfGWKbWo[ 編集] | page top↑
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