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深川偽伝01

 細かい説明は省く。
 どうあれその時そいつはそこにいて、否応なく戦いに巻き込まれてしまっていた。それが全てだ。

 そこに次元境界の崩壊だの、超臨界点におけるパラダイムシフトだの、そんなくだらない捏造用語を持ち出しても結論が変わるわけでもないし、そいつにとってそれは何の救いにもならない。

 事実は事実として、目覚めたときには戦場で、戦わないという都合のいい選択肢すら、その場には無かった。死にたくなければ殺す。他に何が出来たというのだろう。

 一つだけ幸運があったとすれば、それはそいつがいきなり戦場に放り込まれても生きていける、それだけの強さを持っていた事。状況に即応できるだけの、柔軟性があった事。気休めにもならない幸運だが、それが無ければこの物語も紡がれることなく終わっていた。

 だから、その一点だけ私は神に感謝したい。

 殺したいほど憎くてたまらない神だけど、ぎりぎりそこだけは無理を押しつけないでいてくれたのだから。



 深川偽伝
 一節 お前等何者ですか?



 時系列を簡単にまとめよう。
 その日そいつと私は学校にいつも通りに登校して、いつも通りに授業を受けて、いつも通りに帰宅した。取り立てて変わる事のない日常。いつもの様にご飯を食べて、いつものように就寝した。

 目が覚めたのは確か草木も眠る丑三つ時。
 ぼんやりと窓の外が光っている事に気が付いた私は、カーテンをめくって……

 後の事はまるで知らない。記憶の欠落が何を意味するのかは分からない。

 ただ、いつの間にか真っ昼間になっていて、黒い鎧と赤い鎧の兵隊が、原始的な殺し合いを繰り広げている戦場のただ中にいたのだった。なぜか傍らにはそいつもいて、二人してパジャマ姿のまま現実が分からず放心していた。

 それも、流れ矢が飛んでくるまでのほんの数秒だったのだろう。日頃から異常な危機警戒能力を発揮するそいつは、当然のようにその矢をつかみ取ると、バキリと片手でへし折って、それから眠そうに目をこすった。

「……ちょっと、何――」
 現実に対する抗議は、しかしこの状況では聞いてくれる人も、言ってる暇さえない。戦場の狂気に浸食されて、敵も味方も分からなくなった狂戦士共が、見境い無く動くものを攻撃している。

 それはどちらかと言うと赤い鎧の方に多い。察するに――察してやるほど余裕がある自分にびっくりだが――こういう戦場に慣れていないのだろう。敵味方入り乱れて、仲間が次々に死んでいく状況に、多分狂ってしまっているんだと思う。

 そんな冷静な分析を他人事の様に、それこそ一瞬で済ませて振り下ろされた剣を避ける。

 同時にあいつが狂った兵士を一人ぶち殺した。

 倒した、ではない。躊躇のカケラもない無慈悲な一撃で、根こそぎ生命を根絶した。赤い塗料をぶちまけただけの、粗末な軽甲が大きくひしゃげ、胸に拳がめり込んだ。肋骨が粉砕し、心臓が破裂した音が耳障りに響く。

 口から大量の血反吐を吐いて崩れ去った兵士にコンマ五秒ほど黙祷を捧げ、それから次の獲物に向かったあいつの事を視線で追う。

 多分、あいつの中にある認識としては、単純に危険を排除するための機械的な行為なんだろう。私が襲われた事で吹っ切れた――、という考えはあまりにあり得ないので置いておくとして、少しは気にしてくれているとすれば、それはそれで嬉しい事ではあるが。

 まぁ、どうでもいい。問題はあいつ一人で私を守りきれるほど、この状況は簡単ではない。誰が敵で誰が味方かも分からない状況。否、はっきりと全てが敵に回っているこの状況。四面楚歌と言うほか無い。

「逃げたいところだが、逃げ場が無いな。やれやれ、困ったものだよ」
 はぁ、と一つ溜息。あいつに絶命させられた、赤い兵士の剣を拝借すると、降りかかる火の粉をあしらいながら、それでも何とか逃げる事にした。






 適度な返り血にパジャマが真っ赤に染まった頃、戦いは唐突に終わりを告げた。黒い方の軍勢が唐突に撤退を始めたのだ。撤退、と言うよりは散開、もしくは敗走と言うのが正しいだろうか。

 戦端で二つの勢力を相手にしていた私とあいつ。ようやく終わったと溜息をついて顔を見合わせる。状況は不明だが、ようやく少しだけ落ち着ける。

 そう思ったのは少しばかり浅はかだっただろうか。仕方のない事とはいえ、私たちは赤いのも黒いのも遠慮無くぶち殺している。敵だか味方だか分からないなら放っておけばいいと言うのに、どちらも律儀に襲いかかってくるのだから仕方がない。それを自衛と言って理解してくれるほど、温厚そうな軍勢にも見えなかった。

「そこの二人、大人しく投降なさい。命の保証はしますから」

 赤い軍勢が二つに割れ、馬に乗った巫女服姿の女が現れた。威風堂々とした立ち振る舞い。こいつがどうやらこの軍勢の指揮官らしいなと察しは付いた。

 どうしよう、と伺うような目を向けてきたあいつに、軽く頷いて剣を捨てる。いい加減疲れたし、ここでこれだけの人数は相手に出来ない。とてもじゃないが体力が持ちそうにないし、私はそもそもただの女子高生だ。人殺しなんてごめん被る。

「できるだけいい待遇にしてほしいものだな。あまり期待はしていないが」

 嘯くようなその言葉に、巫女服姿の女は僅かに顔を顰めていた。






 連行された先はつい最近出来たばかりといった感じの、粗末な砦だった。堀や塀を巡らせて、背後に絶壁を置く事で一応砦の体裁は保っているが、急ごしらえの突貫工事であった事は隠しようもない。砦の中は負傷兵やら炊き出しやらで雑然としていたが、少なくともこんなしょうもない砦の防備に尽かされているという悲嘆は感じられない。

 先ほどの戦で勝った事ばかりが原因ではないだろう。おそらく、ずっと負けていないのだ。それは単純な予想でしかなかったが、当たっていようがはずれていようが私にとって問題ではないので別にいいだろう。

「お二人は狗根国兵では無いようですが、一体どこから戦場に迷い込んだのですか?」

 事情は説明せずとも、肝心な部分は察してくれているようで。とはいえ現実問題、自分のところの兵士を殺されたのだから、あまり面白くはないだろうと思う。

「…………」
 私は答えなかった。あいつはそもそも話をする気がないようで、尋問用にとおされた部屋に入って直ぐ、すやすやと寝息を立てている。図太いというか、馬鹿というか。

「お答え頂かないと、こちらとしても対処に困るのですけれど」

 答えがある質問であれば答えられようが、今の私は解答を持たない。何を答えても、それは多分真実にはほど遠いだろう。私は敢えて間違いを口にするなど、死んでもしたくない。

「困りましたね。では、質問を変えて。お二人の名前は?」
「人に名を聞くときは自分からまず名乗れ」
「……星華といいます。それであなたは」

「初対面の何処の馬の骨とも分からない女に名を名乗りたくは無いな」
「――うふふ、随分と、嘗めてくれているようですね」
 星華と言う女の額に青筋が立っている。随分と沸点が低い。この程度で指揮官とは笑わせる。

「一体あなた達は何者で、なぜあんな場所にいたんです! 答えないなら相応の目に遭って貰う事になりますよ!」
 そう言って勢いよく机を叩いた星華。だんだん地が出てきたようだ。

「やかましいな。私たちが何者か、だと? おそらく私たちは何者かであったことなどない。意味も目的もなく、おそらくは原因すら不在でこの場にいるのだ」
「何を言っているの? 意味がわからないわ」
「分かるまいよ。分かってたまるか。見るからに頭の悪そうな乳デカ女に、この私ですら計り知れないこの事象を、例え一端であれ分かるはずがない」
「乳デカ――ってちょっと貴方さっきから失礼ですよ!」
「失礼? 礼を尽くさねばならぬ相手に見えないな」
「こちらが下手に出てれば調子に乗って。いいわ、そっちがそう言うつもりならこっちだって。亜衣! 来てちょうだい」

 星華はそう言って誰かを呼んだ。私は一層嘲笑を深める。自分ではどうにもならないからと他人を呼ぶ。とんだ道化だ。それが更に星華の自尊心を傷つけるのか、はじめのすまし顔は何処へやら。今は般若顔でこちらを睨み付けている。

「お呼びですか、星華様」
 現れたのはレオタードの様な衣装に身を包んだ、頭の良さそうな女だった。切れ長の相貌。落ち着いた物腰。何よりどこか同じ臭いがする。

「この二人の尋問を任せます。手段は問いませんから、何処の何者かきっちり聞き出しておいて」
「はい。お任せ下さい」
 苛立たしげにそう言って出て行った星華。堪え性がない奴だ。

「――さて、そう言う事のようだが、私もあまり女子供に手荒な真似はしたくない。できればさっさと話してほしいのだが」
「嘘だな」
 私は確信を持って断言する。
「何が嘘だと?」
「女子供に手荒な真似をしたくない? 笑わせるなこの嗜虐主義者。お前はそう言う事が好きで好きでたまらない、真性の変態だろうに」
「……だとして、それが何か? 私はそれを貴方にすると言っている。嫌なら話せばいい。ただそれだけの話だ。私がその行為を好きであろうが無かろうが、貴方には何の関係も無い事だろう。私は選べと言っているだけだ。痛い目に遭いたいか、それともあいたくないのか」

 星華に比べれば、相当大人という事か。挑発には乗ってこない。

「はっ。その問いには間違いが一つある。前提条件として、そんな目にお前が私をあわせられるのかどうか、それが決定的に抜けているじゃないか」
「……ふぅ。時間もない。清瑞」

 亜衣と言う女がその名を呼んだ瞬間、背後に唐突に気配が現れた。まるで瞬間移動でもしてきたかのような、唐突な出現。それはおそらくただ天井から降ってきた、程度の事だったのだろうが、それでもその行動が恐るべき技術で成された事の証左だった。

「動くな」
 左腕をひねり上げられる。間接がぎちりと嫌な音を立て、激痛が肩に走る。苦鳴を堪えて視線を亜衣に向ければ、いいざまだと言わんばかりの視線を寄越していた。
 見下しやがって。何様のつもりだ。

「こちらの質問に正直に答えろ。まじめに答えなかったら、そのつど指を一本ずつ折る」
「…………」
 清瑞の指が、そっと私の指にからみつく。何かあれば、こいつは躊躇無く折るだろう。

「ふふ、あはははは、耳が無いのかお前等は。私の言葉が聞こえていないのか? だったらもう一度言おう。私をそんな目に遭わせる事ができるかどうか、その判断が決定的に欠落している。その意味をよく考えろ」
 二人はおそらく考えようとしたのだろう。だが、それも無意味になった。

 私の危機を悟ったあいつが、起き抜けに清瑞とかいう女をはじき飛ばし、私を抱いたまま飛び出したから。

「――あははは、いい様だなお前等! 最高に間が抜けている! そのまま自分の間抜けさに悶死でもしていればいい。じゃあな」
 風景が横に流れる。こいつの足は速い。私を抱えたまま砦の城壁を飛び越え、軽快な足取りで走り去った。






 ノリと勢いと趣味で人を馬鹿にして逃げてきたのはいいが、そいつはそのことが少し不満だったようだ。右も左も分からないこの世界で、初めて会話をした人間を無碍にするのはどうかと思ったらしい。ばかばかしい。出会い方はおよそ最悪で、その上どこかと戦争している危険人物と積極的に関わろうなど正気の沙汰ではない。ここがどこでなぜ私たちがここにいるか、その本当のところは分からないが、分かっている奴がいるわけでもないだろうし、帰る方法など考えるだけばからしい。
 だから、人は選ぶべきなのだ。徹底的に慎重に。生きていたいというなら、それが利口なやり方だ。

 まぁ、こいつは利口な生き方などはじめから知らないし、悲しくなるほどの馬鹿だから言うだけ無駄なのだが。だからこそ、私が舵取りをしなければならないだろう。

「……さて、しかしこれはどうしたものか」
 砦から離れ、街道らしきところを歩いていたのだが、人の気配がして急いで隠れた。それは先ほど撤退したはずの黒い軍勢で、向かう先は先ほどの砦のようだ。敗北したと思っていたが、あくまで戦略的撤退だったのか、それとも一時の負けを良しとせず、単に仕切り直しをしたかっただけなのか。考えうる可能性は無数にあったが、別にどれだっていいだろう。

「…………」

 無言で見つめられる。ああ、馬鹿だ。真性の馬鹿。本当に悲しくなる。別に義理も責任も無ければ関係性すら殆どゼロ。それでもこいつは首を突っ込みたがっている。

 理屈ではないのだろうと思う。人が傷つくのが嫌いな性分。言えばそれまで。ただ、人が傷つけられるのが嫌いな割に、人を傷つける奴には容赦のカケラもない悪魔。本人は正義の味方のつもりらしいが、私から見れば感情の統制が取れないただの子供。理屈をこねる事が出来ない愚図。

 ただ、どうしようもない馬鹿で阿呆で子供なこいつも、腕っ節だけは無敵に近い。そんなものが無ければ勘違いもほどほどで済んだのだろうけども、今や確固たる信念になってしまっている。いつか、その勘違いが身を滅ぼす事になると思うが、それをさせないために私がいる、様な気もする。

「砦の軍勢は見たところせいぜいが二百かそこら。対してこちらは三百ほど。簡素とは言え防備を持った赤い方が優勢なのは揺るがないだろうな。しかしそれを承知でそこへ向かうというなら、何か策があるのかもしれないな。それを見極められれば、まぁなんとか。それがなにかだって? そんなの私が知るわけがないだろう。気になるならこのまま付いていくとしよう。端から動きを見ていれば、狙いも少しは分かるかも知れないしな。いくらお前が一騎当千でも、さすがに三百人全員を殺すのは無理だ」

 やりかねないかな、と言うのが正直なところだが、間違って命を落とされても困る。不満そうなそいつを宥め賺して、私は黒い軍勢の後に続く事にした。






 行軍に付いていく途中で敵の策は知れた。それまであまり気にしてもいなかったが、このままだと砦に着くのは間違いなく日入りの後。黒い軍勢が、それを目的に黒ずくめなのだとは思わないが、確かにその格好は夜襲に最適だ。昼間の戦いからすれば、兵士一人あたりの練度は黒い方が上。それも圧倒的といっていいレベル。戦自体も押していたし、あの時撤退したのは赤い方が何か策を弄したせいだとは思うのだが、そうでもしなければならないほど、はっきりと実力差がわかる。
 夜襲が成功すれば、砦の防備など無意味と化すだろう。乱戦に持ち込めば黒い方の勝利は確定する。単純な策ではあったが、その分効果的でもある。

「……まぁ、それも成功すればだけどね」
 私の背後をとったあの清瑞という女を思い出す。多分、乱破、忍者の類だとおもうのだが、気配遮断が異常に上手かった。同じ空間にいて、全く気配を悟らせないほどだ。こんな遮蔽物が多い森の中での斥候など簡単すぎるだろう。こういう事には素人の私たちの存在にすら気づかない、脇の甘い軍隊が相手では特に。

 おそらく夜襲は成功しない。しかし、失敗したからと言って確実に赤い方が勝つかと言えば、それも疑問なのだ。兵の練度の違い。いったいそれがどれくらい戦況に影響するのか、それは私には分からない事だ。

「そうねぇ、でも戦争やっている以上、どちらが良くてどちらが悪いという事でもない。だいたいこの世の正義は多数決で決まっていて、戦争はその多数決が嫌いな奴がはじめるものだ。戦争がはじまったら勝った方が正義。それは歴史が証明している」

 少数派で喧嘩の弱い奴の意見から排除されていくのは何時の時代も一緒だ。だから、正義なんて言う価値観で戦争の、どちらかの勢力に荷担するのはあまりにも滑稽。

「何? 直感が黒い方が敵だと言っている? 電波か? 電波なのか? それとも見た目黒い方が悪そうだとか色で判断したのか? おい、視線を逸らすな、図星かコラ!」
 やれやれ、こいつは本当に馬鹿だ。救いようもない。

「まぁ、それも面白いからいいか。しかし、状況が見えないから推測に過ぎないが、黒い方が多分勢力的に有力だぞ。兵士個々の練度から見ればそれは明らかだ。この戦争が何に起因しているか知らないが、首を突っ込むなら強い方についたほうが利口だと思うがね」

 ああ、コイツに利口な選択肢とか説く私が馬鹿だ。敢えて困難を良しとする生粋の馬鹿に、敢えて無理無謀無茶の3Mを推奨する生まれながらのマゾヒストに、私は一体何を説こうとしていたのか。徒労以外の何者でもない。止め止めそんなのは。

「はぁ、付き合わされるこっちの身にもなれ」

 無理に付き合わなくていいと、コイツは言う。でも、そんなのは無理な話だ。私は随分昔に決めている。コイツは救いようの無い馬鹿だから、だから、せめてもの救いに自分がなろうと。コイツにとっての救いが、常に一つだけでも残されているようにと。

「何を笑っている気色悪い。いいから行くぞ、九峪」

 私の名は深川。この馬鹿と終生共にいる事を誓った、世界で一番馬鹿な女だ。













追記;
 特に意味はないです。リハビリですリハビリ。適当に第一話を書いてみたと言うだけです。暫くこんな感じで適当なものを上げる事になるかも知れません。
【2007/10/08 21:08】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(2) | page top↑
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コメント
なんか、前作「深川」と印象ががらりと変わりましたが、こういうちょっとコミカル入った雰囲気のほうが私は好きです。
【2007/10/09 00:28】 URL | 感想 #sSHoJftA[ 編集] | page top↑
深川視点の1人称ってやつですかね?出だしが最高な感じなんで後は作者様の高度な文章構成力に期待してます~。
【2007/10/14 12:18】 URL | #qbIq4rIg[ 編集] | page top↑
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