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深川偽伝02
 いつかこんな日が来る。
 そんな事を本気で思っていたわけではないけど、あいつはきっといつか決定的なものと対立して、どうにもならなくなるだろうと思っていた。

 その信念故に世界を敵に回して、行き詰まって身動きが取れなくなって、最後に消されてしまうのだろうと。

 もう少し、楽に生きる方法を覚えればいいのに、あいつは何時だって最も過酷な道を行く。最も困難な道を望む。

 その先にあるのは、絶対に自身の救いではないと言うのに。

 それは見ていて見苦しい。

 それは見ていて痛々しい。

 それは見ていて、もの悲しくなる自虐行為。

 止めろといって、止められる類のものじゃない。根底に流れる感情が贖罪で、許すべき相手がもう存在しないとすれば、それはもう、紛れもない致命傷。

 消えないトラウマ。

 だから、私はあいつを止める事など絶対にしない。やりたいようにやらせるだけ。その行為が例え何の意味もないのだと分かっていても、あいつは自分を止める事など出来ないのだから。

 せめて支えてやろうと思う。

 いつか力尽き、消されてしまうその時まで。



 深川偽伝
 二節 単純は成功の元



 日が暮れてからややあって、黒い軍勢が赤い軍勢の立てこもる砦へと、粛々と侵攻を始めた。

 砦には篝火が焚かれてはいるが、月も出ていない真っ暗闇ではその明かりは大して届かない。気づかれないぎりぎりの地点で一度停止し陣を組むと、そこから攻勢がはじまった。

 湧き上がる喚声。離れた場所で高見の見物を決め込んでいた私にも、望楼で慌てる赤い軍勢の様子が見て取れた。

「さて、はじまったみたいだが、どうやら昼間の勝ちで気が緩んでいたみたいだな。夜襲が成功してる」

 少しだけ意外ではあったが、指揮官があの星華という女ならばさもありなんと思い直す。いかに有能な手足を持とうとも、統率する頭が馬鹿では宝の持ち腐れだ。印象としてだけだが勝利に勝利を重ねていたようでもあったから、本当に油断していたのだろうと思う。

「――で、助太刀する気なんだろう?」

 視線だけ向けるが、暗闇でよく見えない。実際高みの見物と木に登ったのはいいのだが、真っ暗で降りるのが怖いという間抜けな有様だ。まったくどうしてくれようか。

「聞くまでもなかったか。しかし、私たちが向かったところでたかが知れているしな。最も効果的なところを突くというなら」

 さて、どこになるか。二、三十人程度でいいから兵がいるなら、後方から強襲をかけ、一時的に黒い軍勢を混乱させる事は可能ではあるが、しかしそれにしても相手を瓦解させるだけの効果は薄いだろう。まして今は二人だけ。ただ突っ込んでいったところで、あまり効果的であるとは……。

「いや、まぁ、それもやり方によるか」

 一つだけ、たった二人でもあの軍勢に対して致命的な打撃を与える方法がある。それは私と九峪であればおそらく可能で、しかし条件としては命をかけなければならず、見込みが少し違えば三百人相手にしなければならなくなる。

 確率は、どの程度か。

「どうしようかな。九峪、お前も少しは考え――」

 九峪がいる方を見る。暗くてよく見えない。よく見えないというか、実際問題自分の手のひらすら見る事も出来ない、本当の真っ暗闇で、動いた気配が無いからそこにいるはずだと思っていたが……。

「おい、まさかあの馬鹿! 九峪、いるのか!」

 ――――……

 返ってきたのは冷たい静寂。ギリリと奥歯を噛みしめる。

「本当に、あの馬鹿は!」

 憤りは後だ。殺されるなんて可能性は考えたくもないが、一人ではあまりに相手が多すぎる。

 こんなところで終わらせるわけにはいかない。あいつとは、まだまだ一緒にやりたい事が残っているんだから。






 手探りでなんとか木から下りると、何度も躓きながら砦の方向に走る。次第にはっきりと見えてくる軍勢。こちらには気づいていない。そんな余裕は無いようだった。

 背後から、たった一人とは言え鬼神の如き強さの敵が現れ、強襲したのだ。

 いや、あの馬鹿の事だからきっと名乗りを上げてから襲いかかったに違いない。ポリシーらしいが殺し合いにそう言う美学は不要だと思うのだが。まぁ、それも言って治るようなら苦労しない悪癖の一つではある。

 ともかく黒い軍勢――ああ、そう言えば狗根国とか言うんだったか――は、前面で砦の城壁を乗り越えようと降り注ぐ矢の中で悪戦苦闘しつつ、後方では好き勝手暴れる九峪のせいで混乱している。

 悟られない距離で立ち止まり、身を低くして冷静に様子を探る。助けに入るにしても、一緒になって突っ込んだら意味がない。一緒に袋叩きにあって、弱い私はあっさり殺されて終わりだ。あいつみたいな化け物とは違うのだ。本当に助けたいならここは冷静に。

 ――取りあえず、九峪にはこのまま暴れて貰い、陽動役になって貰おう。混乱しているのは丁度いい。混乱すれば、それを統制しようと、指揮官が大きく動く。

 それを見極めれば――

「……いた」

 口元に浮かぶ笑み。

 指揮官は何名かの護衛の取り巻きと共に、自陣から爪弾きにされ、そこから必死に檄を飛ばしている。あまり勇敢な指揮官ではない。矢が飛んでこない距離から指示だけ飛ばす、典型的な役人タイプ。

 別にそれ自体は間違いではない。実力もないのに矢面に立って戦場を駆けるのはただの自殺志願だ。実力が伴ってこその勇猛果敢。腕に覚えがないならば、下がって指示していた方が利口ではある。

「まぁ、暗殺してくださいと言っているようなものだが」

 最後方で孤立している。無謀と言うほか無い。背後からたった一人とは言え敵が来た。ならば、更なる増援がないと、思慮が回らないのか?

 愚かであってくれたほうが私は助かる。全く九峪が暴走したときは冷や冷やしたが、まぁ、あれなら私一人でも何とかなるだろう。


「では行くか。この戦は、私が貰う」

 屈んでいた体制から、私は風となって指揮官へと走った。






 足の速さには自信がある。あの化け物ほどではないにしろ、それなりに鍛えてはいるし。しかしだからといって、指揮官含め、十人の軍人を敵に回して倒してのけられるほど、私は屈強ではない。

 屈強ではない、ただの女子高生。

 ――本当にそうだったら、私は九峪と関わり合いになる事はなく、普通の生活が出来ていただろう。

 彼我の距離、十メートル。暗闇に紛れ、まだ標的はこちらに気づいていない。

 別にどっちでもいい。この距離は必殺の距離。人を殺すだけなら、この距離でいい。


 目を瞑り、両手に意識を集中させる。

 心の中にある昏い穴。

 そこから闇より尚昏い、禍々しい黒い霧のようなものが溢れる。

 それは胸の内より溢れ出て、血管や神経を伝って両腕に満ち、体の外に出ると同時に力へと変換される。

 これが何なのか、私は知らない。

 だが、使い方は知っていた。誰に教えられるでもなく、はじめから。

 それは生まれたての子鹿が、教えられなくても立ち方を知っているように、はじめから私に備わった機能。

「――禍し、餓鬼!」

 変換された黒い霧は、私の中に眠る黒い感情に増幅され、生きている人間を喰らう。
 ただ呼吸をしているだけで、それだけで妬ましいと、亡霊の如き逆恨みで対象を食らいつくす。

 避ける術など人にはない。一度発動すれば私ですら止められない。

「ぎゃああああああああああ!!」

 戦場に木霊した悲痛な叫び声。

 まるで時が止まったように、誰もがこちらを向いて立ち止まった。怪しい術に喰らい尽くされ、無惨な死骸を晒した指揮官とその護衛。耳に残る、断末魔。

 放心したのも一瞬。次の瞬間にはそこかしこで悲鳴が上がっていた。

 同時に蜘蛛の子を散らすように逃げまどう狗根国軍。

 私は自分の方に逃げてくる狗根国兵をあざけりを浮かべ見送り、尻に火を付けるために何人かに、もう一度禍し餓鬼を喰らわせてやった。






「この馬鹿! 勝手に飛び出したあげく思う存分暴れて、それで満足か? ああ? おい、この頭の中はどうなってるんだよ、この大馬鹿!」

 頭をこづきながら説教。意味はないとは分かっているが、言ってやらなければこちらの気が済まない。

「少しは考えろ! なんでもかんでも力押しのごり押しで、それでお前の正義が通せるとでも思ってるのか? ああ、まぁお前ならやりかねないが、見ているこっちの身にもなれ! お前が死んだら私はどうすればいいって言うんだ」

 胸ぐらを掴んで怒鳴っていると、なんだか泣きたくなってきた。困ったような表情を見せていはいるが、困ってるのはこちらの方だ。出来ないとは分かっていても、それでもどうにかしてやりたくて。

「なぁ、九峪。少しは私にも気を遣ってくれ。私がお前に対して気を遣っている十分の一でいいから。……なんだその目は。私が気を遣っていないとでも、まさかそんな心外な事を考えて――、おい、目を逸らすな。いちいち都合が悪くなると視線そらしてるんじゃねぇ!」

 グーで殴った。痛かったのはこちらの方だった。全く、化け物め。なんて体してるんだ。

「うるさい! 見せかけだけの気なんて遣うな。お前は別に私がどうなろうと関係ないんだろう。ああ知ってるさそんなことは。別にお前に世話を焼いているのは全部私の自己満足だって事くらいな。お前は私の事などゾウリムシ以下の存在だとしか見ていない事なんて別に今更――」

 不意に体を抱き寄せられて、華奢そうに見えて意外に厚い胸に顔を押しつけられる。

「……馬鹿が。それで誤魔化したつもりか?」

 私は体を離すと、更に困ってしまった九峪の頬をつねる。

「私をその辺の尻が軽い女と一緒にするな。貴様の抱擁が欲しくて貴様に付き合っているわけではないんだ。そんなものは生ゴミの日に捨ててしまえ汚らわしい。形だけの慰めなどいるか。私が懇願しているのは、切望しているのはそんな事で誤魔化されるような、そんなちんけなものじゃない」

 きちんと伝えたいのに、九峪はそれを聞き入れはしない。いや、多分言っても理解する事が出来ない。私に特別な力が生まれつき使えるように、きっと九峪にはその辺を理解すると言う機能が欠落している。

 或いは後天的なのかもしれないが――、まぁ、それは今はいい。

「ともかく、さっきの事はさすがに許容しかねるな。いくら私が寛容で、お前に対して甘い女だと言っても、限度はちゃんとあるんだ。九峪が自分の思うところを行うのは構わないが、頼むから自殺だけは止めてくれ。どうにか出来る場面なら、いや、どうにも出来なさそうな場面でも、どうにかなるように必ず私が道を造るから。だから、一人で勝手に死にに行くのだけは止めてくれ。でないと、本当に私は……」

 もう一度、九峪は私を抱きしめた。優しく、それでもしっかりと。

「分かったのか、この馬鹿」

 鼻声で、顔を胸に押しつけたまま聞くと、頷いたような気配はあった。

 次の機会に覚えていてくれるだろうか。次は良くても、その次は多分忘れているだろう。

 釘は、何本も刺しておかなくちゃ行けない。

 縛り付けるつもりは毛頭無いけれど、それでも少しでも長く一緒にいるために。

 少しでも長く、この幸せを感じているために。













追記;
 リハビリ第二弾? まぁ、なんですか。思ったよりコメント来たから続き書いてみたとか、そんな感じです。続きはわかりませんが、まぁ、そこはノリで行きたいなぁと思います。このまま連載になると適当に付けていた前回の題名だとあれなので、また適当な名前に変えておきました。まぁ、何が偽伝なのかは私もさっぱり分かりませんが(笑


 ではweb拍手のお返事。
 10/10分。

8:00 この深川は九峪と同棲でギシギシの仲デツカ?…最高です。
 と頂きました。
 ギシアンな仲なのかは推測の域を出ませんが、いくら九峪がチキンでも深川が深川である限り、まぁ、そう言う仲になっちゃうのかなぁとか思いつつ、今回の話だと微妙に乙女チックな部分もあるような無いような。
 ……多分ヤりまく(ry
 コメントありがとうございました。

 10/12分。

2:27 慎重に選ぶのが利口といいながらノリでおちょくる利口じゃないとこが馬鹿男によく似合ってる。さすが深川w
2:30 というか、一人称な段階で日魅子じゃないんだろうなあと思ったけど、深川だったとはww GJ!
 と頂きました。
 まぁ、深川ですから頭はいいんだか悪いんだか(笑 今回の九峪といると、相対的に頭がよく見えるかも分かりません(爆
 本当は名も無きキャラのまま最後まで話を進めようかとも思ったのだけども、あいつとかこいつとか三人称で九峪を表現するのとか面倒なので深川と九峪になりましたと言う秘話を早々に語ってしまおう(ぉぃ
 コメントありがとうございました。

 もう一件。

11:56 出雲盛衰記が面白かった。
 と頂きました。
 出雲ですかぁ。懐かしいなぁと思いつつ、今回もあれに近いノリの話になればいいなとは思ってるんですが、どうなんだろうねぇ。深川のキャラが壊れれば多分なります。まぁ、既に半ば壊れ(ry
 コメントありがとうございました。


 他にも叩いて頂いた皆様に心より感謝を!

 後は直接コメント。
 一件目。

なんか、前作「深川」と印象ががらりと変わりましたが、こういうちょっとコミカル入った雰囲気のほうが私は好きです。
 と頂きました。
 コミカルな話は正直苦手なんですが、そういう要素がないと読みづらいというのはよく分かるので頑張りたいところです。ようはメリハリなんですけどもそれが一番難しいんですよねぇ。
 コメントありがとうございました。

 二件目。

深川視点の1人称ってやつですかね?出だしが最高な感じなんで後は作者様の高度な文章構成力に期待してます~。
 と頂きました。
 文章構成力って私に一番必要なスキルのような気がしますが(汗 取りあえず今回は続けるにしても、短くまとまるように、且つあまりストーリーがだらけないように頑張りたいなぁと思います。……できるだけ。
 コメントありがとうございました。


 さて、ではこの連載は続けた方がいいのかそれともさっさと未完の奴を完結させた方がいいのかその辺もご意見賜りたいな、などと言い残して撤退したいと思います。
 来週は何もなければ続きを上げるかも知れないです。

 では本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2007/10/14 21:50】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(1) | page top↑
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コメント
どうも、火魅子伝SSの作家の中でも数少ない深川が好きな人の宮ですw
いやはや、ていごさんは深川を愛し過ぎですね!(褒め言葉ですよ?
今回は深川一人称形式のようですが、これはこれでまた深川の内面にどっぷり浸かって書くような形式っぽいですねぇ・・・
うん、私には無理だw
今後九峪との関係がどう深まっていくのか楽しみです(←深まる事は確実ですよね?^^;
それでは、頑張ってくださいね~
【2007/10/16 14:03】 URL | 宮 #4A6q7cVk[ 編集] | page top↑
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