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深川偽伝07



 私は無知だった。
 そのくせ全てを知ったような目で周りを見下して、上手く行かない何もかもを自分以外の責任と決めつけていた。

 尊大で自信家で自意識過剰で誇大妄想癖があっただけなのだと、それすら気づかないほどの愚かさ。

 あいつは逆に、上手く行かない何もかもを自分のせいにして、他人から見れば成功の部類に入る様な事まで失敗と断じ、ありもしない最善を求めていた。

 自分の愚かしさに気づいたのは、別にあいつのそんな姿を見た事ばかりが理由ではないけれど、出会わなければ気づきもしなかったのは事実だろう。
 あいつのおかげで私は少しだけ変わって、しかし私はあいつになんの影響も及ぼせなかった。

 それまでの私は喜劇を演じるただの道化でしかなかく、あいつはこれからもたどり着けない理想だけを追い求める、悲劇の主人公であり続ける。

 私があいつに執着し始めた理由は、きっとそのことが気に入らなかったから。ただ、それだけなのかも知れない。



 深川偽伝
 七節 決意



 また、二人きりになった。

 意識の戻らない九峪と、確実にあるであろうもう一人の私の再来襲。出来る事なら一刻も早くこの場を離れ、星華探しに戻りたかった亜衣と、九峪を見捨てていく事などそもそも選択肢の中にない私。愛宕は最後まで迷っていたようだったが、愛宕の目的自体は亜衣と同じだった。

 別れは必然で、そのことに特に感慨はない。

 ただ、早く九峪が目を覚まさないかと、その顔をじっと見つめながら思うだけ。元々、私自身はコイツさえいれば他には何もいらないのだから。

「全くいつまで寝ているつもりなんだろうな、コイツは」

 驚いた事に、九峪に目立った外傷は無かった。見たところ骨にも内臓にも異常はなさそう。あれだけの一撃を食らって、文字通りかすり傷しか負っていない。まるで何かに守られていたかの様に。

 それなのに、意識が戻らないのは寝坊なのか、それとも頭でも打ってしまったのか。確率は後者が圧倒的に高いのだが、私はただ寝坊しているだけと疑ってもいない。

 疑いたくないだけ、かも知れないけれど。

 寝顔が安らかだから、悪い想像が出来ないせいでもある。

 それでも叩き起こす事をしないのは、色々と考え事をしていたかったから。
 私の事。
 九峪の事。
 これからの、事。

 もの思いに耽るのは現実逃避でしかないだろうが、ずっと現実ばかり見続けるのは、それはそれで疲れるのだ。

「ああ、そうだ。こんなロクデナシに付き合っているから、疲れるんだ。気苦労は絶えないし、報われないし、落ち着く暇なんてありゃしない。少しは気遣って欲しいものだよ。私はこんなにも――」
 こんなにもお前の為に尽くしているというのに。

 それでもお前は私の事を、きちんと見る事が出来ないのだろうか。

「なぁ、九峪。全ては私が好きでやってる事だから、別にお前が何も思わなくともそれはそれで自由だけど。それでも、私はお前と違うから。悔しいけれど別の生き物だから。だから、疲れるんだぞ」

 頭を抱えるように抱きながら、嫌みを言ってみても変化はない。

「少しくらい褒美を貰ったって、別に構わないよな」

 覆い被さるように頭を下げて、九峪の唇に唇を重ねる。触れた瞬間しびれるような感触が体中を駆けめぐり、脳がとろける。

 ただ、この程度の触れ合いだけで、こんなにも刺激が強い。少しだけ離して、もう一度、今度は少し強く口付ける。柔らかい感触。それはまるで毒のように全身に巡った。

「ほぅ」

 吐息を吐きながら顔を上げる。分けもなく涙ぐんでしまった、私のぼやけた視界に、こちらを凝視する九峪の瞳が映っていた。

「――っ」

 言葉にならない。九峪は目を丸くして私の事を見上げていて、その表情が一層恥ずかしさを助長する。

「お、起きたのか。い、今のは違うぞ。別になんでもない。ただお前がいつまで経っても起きないから、気付けにだな」
 どんな言い訳だと自分で感じながら、そんな訳の分からない弁明をしていると、九峪はぽつりと呟いた。

 ――なら、もう一度してくれ、と。

「ば、起きたならもう必要ないだろ! ええい、いつまで寝転がっている。さっさとどけ馬鹿!」

 膝枕していた九峪の事を放り投げ、あわただしく立ち上がる。ほてった頬をさまそうとぺちぺちと両手で叩き、それから向き直ると既にしっかりと立ち上がった九峪がいた。

「……体は大丈夫か?」
 九峪は一つ頷く。

「ならいいな。行くぞ。ここにいつまでもいるとまた敵が来る」
 九峪はもう一つ頷いて、それから辺りをきょろきょろと見回した。

「愛宕と亜衣なら先に行った。お前がいつまでも寝てたからな。後を追いたいところだが今からではもう無理だろう。とにかく今はこの場にいる事が一番拙い。行くぞ」
 アテはないが、もうこの場にはいたくない。いたたまれない空気を振り払うように、私は九峪に先立って歩き始めた。






 驚きは前ほど無くなっていたが、嫌悪感は前より酷くなった。

 山間部に集落を見つけるたび、そんな事を繰り返していた。

 虐殺の跡。反乱への粛正にしても酷すぎる。民を根絶してしまえば統治する事も出来なくなり、戦争の意味自体が消失すると言うのに。

 狗根国は狂っているらしい。

 それとも、これが本来の戦争の姿で、たまたま酷いところだけを見せられているのだろうか。

 分からない。分からないが、九峪でなくともこれでは狗根国に反目したくなる。看過されるのは性分じゃないが、どうにかしなくてはならないのだという事は、私にすら感じられた。

 右も左も分からない山中で、死体を埋めるのが仕事のような数日を過ごし、ようやく開けた場所に出たとき、少しだけ私は自分の認識が間違っていた事を知る。

 たまたま見つけた狗根国軍。その目的は護送。連れられているのは数十人はいる枷を嵌められた人々。

 奴隷。

 つまり、あれは虐殺ではなく資材調達だったのだろう。抵抗するもの、奴隷として使えないものは殺し、生活の基盤を目の前で焼き払い、生きる希望を消し去った、その結果。

 生産性という点に置いて、国に直接利益をもたらさない山人を選出した点などを考えても、一応考えてはいるようだ。

 それが正常であるかどうかは知らないが、論理的な行為である事は確かだ。

 私の嫌悪感は半分になったが、九峪は論理的なだけに倍増したようでもあった。

 奴隷として連れて行かれる人々を、今にも助けに駆け出しそう。私はそれをさせないために、後ろから羽交い締めにするように抱きついている。
 狗根国兵は五十人ほど。魔人はいないようだし、私と九峪であれば駆逐する事は可能かも知れないが、正面からと言うのは少々頭が悪い。

「落ち着け馬鹿。暴れるのは簡単だし、奴等を倒すのもまぁいい。だが、お前は責任を取る気がないだろう」

 私の言葉に九峪は首をひねる。

「……ふぅ。まぁ、別にお前の行為が変わるとは思っていないし、言うだけ無意味だというのも知っているが、あらかじめ教えておこうと思ってな。奴隷として連れて行かれているあの山人共は、残らず家もなく、備蓄していたであろう食料品もない。これはわかるな。なら、ここで私とお前で救い出したとして、その後はどうする? 今のところは不遇ではあろうが、狗根国も人材として必要だから命の心配だけはない。死なない程度に――或いは死んでも構わない程度かは分からないが、とにかく飯もくれるだろう。だが、私たちは助けても放り出す以外にない。アフターケアも出来ないのに助けたところで、ありがた迷惑にしかならんぞ」

 実際はどうだろう。山人なのだから、取りあえず獲物を捕る術は知っているだろうし、何とか糊口を凌ぐ事くらいは出来るのかも知れない。しかし、それでも狩猟での生活は農業に比して不安定なのは確かだ。たまたま獲物が捕れなければ、それだけで餓死する。どの辺りまで面倒を見るのか、その線引きを考えずにただ助けるのは、見ようによっては殺すのと大差がない。

「線を引くのはお前だ九峪。どうでもいいから助けたい。いいだろう。別に私は止めないさ。個人的には狗根国にはイライラさせられてるからな。連中に嫌がらせが出来るなら私は喜んで手伝う。だが、お前はそれで納得するのか? あいつ等を救いたいというなら、ここは戦場じゃないだろう」

 九峪は私を後ろから抱きつけたまま、黙ってその言葉を聞いていた。馬鹿だ馬鹿だと言っても、私の言っている事が理解出来ないわけじゃないだろう。

「さぁどうする? ん、なんだその目は。捨てられそうな子犬の目で私を見るな、鬱陶しい」

 九峪を解放して、溜息を一つ。要するに、だったらどうすればいいと、コイツは聞いているのか。少しは自分で考えろと言いたいところだが、考えるのは私がやると宣言した事もあった事だし。

「極論すれば、絶対的な救いなどお前が何をやったところで訪れない。不幸は何処にでもあるし、一時の幸福がそのまま更なる不幸に繋がる事だって珍しい事じゃない。だがまぁ、今この状況で考えるなら、要するにあいつ等を奴隷という哀れな運命から解放したいんだろう? なら、なぜあいつ等が奴隷にならなければならないか、その根底を考えろ。そう狗根国がこの九洲の地を統治しているから。例えばここで、私たちが何らかの方法で衣食住の保証をしてやった上で助けたところで、狗根国はもう一度兵を差し向けるだけだろう。ならばどうするか。単純な事だ。狗根国に支配されない、狗根国の勢力が及ばない場所を用意してやればいい。二度と人狩りなど出来ないように、あいつ等が踏み込めない場所になればいい。無論今の九洲にそんな場所はないから、やるというなら狗根国を追い出す事から始めるべきだ」

 説明が長いと、九峪が不満を漏らす。どうやら馬鹿すぎて話について行けないらしい。かみ砕いて説明しているつもりだったが、要点を言わなければ駄目か。

「やるべき事は、星華や亜衣がやっていたのと同じ事だ。狗根国に喧嘩を売り、代わりにこの地を統治する。兵を募り、軍を編成し、官を育て、法を制定し、王を頂き、国を建立する。そこまでやらなければ、救えないだろうさ」

 九峪が妥協しないというなら、あくまで自分を貫くというなら、そこまでしなくてはならない。いや、そこまでしても、本当はどうにもならないのだが。

 それでも九峪は、それをやるだけだと、迷いもなく言い切ってしまう馬鹿だ。ただの高校生二人が、国を一つ興してみせるなど、それには奇跡は幾つ必要だと言うのだろう。十か、百か、それとも千を超えるのか。

「……わかった。やるというならまぁ、付き合うさ。だが、一つだけ聞いておく。やる事は人殺しだ。戦争だ。ロクな事じゃない。誰かの幸せのために、誰かを殺すという点に置いて、それは狗根国のやっている事と何も変わらない。それでもお前は出来るのか?」

 九峪は黙って私の事を見つめる。

 その瞳に映るのは絶対なる意思。ああ、やっぱり無駄だった。自分の判断の矛盾に、気づいていないわけでもないだろうに、それでもそうするより他にないのだから、私の質問はただの嫌がらせにしかならない。良心の呵責を煽って、苦しめるだけの行為。

 九峪は知っているんだ。馬鹿なりに分かってる。

 分かっていて、どうにもならないのだ。

「すまない。失言だった」

 いや、と九峪は一言だけ口にして、切なそうな横顔を見せた。

 こいつにこんな顔をさせたくなくて、私は一緒にいるというのに、なんて事を言ってしまったのか。

 悔恨で自分を殺したくなる。ギリリと歯がみして、奴隷達を見下ろす。

 ふと、視界の端を何かが横切って、護衛の狗根国兵へ突っ込んで行った。

 喚声が上がる。

「全く、馬鹿は九峪だけじゃなかったか」

 忌々しいと舌打ちして、九峪に目配せする。


 否応なく、戦いは始まっていた。













追記;
 本日は曾曾爺さんの33回忌という事で実家に帰ってきました。昨日は仕事だったし、深川偽伝書いたら他に何も出来ないっていう有様で、なんだかなーな感じです。まぁ、いつもの事ですけども。

 深川偽伝本編は「よろしいならば戦争だ」って感じの雰囲気になってきましたが、戦争するんでしょうか? 戦争描写は嫌いなので書きたくもないんだけどなー。


 ではweb拍手のお返事。
 11/26。短いので二件まとめて。

3:07 深川(大)キター!
3:16 無敵超人が負けた… これじゃ、兎さんとってくるどころかお持ち帰りされそう。
 と頂きました。
 深川(大)はどういう扱いになるのかなぁ。まぁ、当初の予定では深川丼な感じだったんですが、実際どうなるかは未知数です。
 無敵超人はまだ本領を発揮してません。今のところ深川が強く見えてしまってるのがアレですが、まぁ直ぐに挽回するんじゃないかなぁと思います。
 コメントありがとうございました。

 他にも叩いて頂いた皆様に感謝を!


 続いて直接頂いたコメント。

 アレクサエルさんから。

6話いいですね。
今の九峪は、中級以下の魔人に勝てる力は無いんですね。
しかし、深川VS深川いいですね。
いやー本当に驚きました。
しかし、ある意味、両方とも本当では?
確かに、肉弾戦では、大人?深川の方が強いですよね。

せめて、亜衣・深川(九峪)の連合がなければ、まともな反乱軍にもならないような。
いつもGOODな話です。
 と頂きました。
 前回は話の都合上気絶して貰った九峪ですが、ぼちぼち本領発揮の予感です。どの程度の強さになるかはまだはっきりとは言えませんが。
 深川が二人いるのは綺麗な深川と汚い深川で、お腹一杯になって頂こうという、私なりの配慮……では残念ながら無いのですが、まぁ、似たようなものかも知れません。
 亜衣とは今回別れてしまいましたが、遠からず出てくると思います。仲良くなるかは、お楽しみという事で。
 コメントありがとうございました。

 シヴァやんさんから。

6話読みました

うわ。
九峪は魔人に勝てないのか。こいつぁ予想外。
てっきり深川伝の生まれ変わりかなんかでガイコツクラスだと思ってたのに

そして深川強!
魔人を一撃って過去最強ではあるまいか?

なんにせよ続きが楽しみです
 と頂きました。
 九峪vs魔人の勝敗の言い訳として、九峪が無手だったこととか入れようかなと思いましたが、まぁ蛇足だし、どうせ直ぐ(ry
 前作深川と偽伝に直接的な関わりはございません。まぁ、個人的にリベンジだと思っているので、作者的には(気持ちの上で)無関係ではありませんが。
 深川の強さにも言い訳は適当に考えているんですが、使うかどうかは分かりませんねぇ。因みに私のSSで最強の深川は編年紀の奴ですが、続きが無(ry
 コメントありがとうございました。


 次回更新ですが、来週は諸事情により更新出来るかどうか正直微妙です。後年末年始は何事も無ければ大丈夫ですが、50%程度の確率で仕事になる事も考えられるので、休んでも勘弁してくださいませ。


 では本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2007/12/02 22:37】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(1) | page top↑
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コメント

うむ、あの奴隷達はトラップではないのでしょうか?
深川が、これからやる事は、絶対的な「正義の味方」では、無い事を
九峪に教えました。
そして、戦いが終わった後、いや最中から始まる国造りの事も考える。
凄いです。 女王と言わず、王という意味があるのかな?

【2007/12/13 00:26】 URL | アレクサエル #xfGWKbWo[ 編集] | page top↑
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