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深川偽伝14


 才能の発露、その瞬間を垣間見た者は一様に言葉を失う。
 幾億人に一人いるかどうか。本来人が到達する事の出来ない神域に立ち入る事を赦されし、選ばれた人間。

 彼女はそんな場所にいる。一人孤独にその頂に立ち、遙か彼方にいる凡人達との差を思う。

 誰も私を理解できないだろう。

 そして、私も永劫彼らを理解できないだろうと。



 深川偽伝
 十四節 手加減



「さぁ、両者調理を初めて既に半刻近くが経過しておりますが、そろそろ料理が出来るのではないでしょうか。随分待たされましたが、ここでもう一度予想をお聞きしたいと思います。どうでしょう星華様」
「どうもこうも、いい加減さっさと終わって欲しいんですけれど。亜衣、こんなことしてて大丈夫なの?」
「うっわぁー。お祭りの最中にそう言う事言うと引いちゃいますよ。支持率落ちちゃいますよ?」
「降着など誰も望んでいないのよ! 祭りだって言うなら少しは私を楽しませなさい」

「うへぇ、そんな事言われても。あ、では次に審査員のお三方にお話をお聞きしたいと思います」
「こら蘇羽哉話をあqwせdrftgyふじこ――」
「えー、聞こえないきこえなーい。衣緒さんどうでしょう?」
「はい。遠目ですが見ている限り上乃さんの方は基本に忠実な丸焼きの様ですね。火加減の調整も上手くやっているように見えますし、期待してもいいのではないでしょうか。深川さんの方は地面に掘った穴の中で焼いているようですけど、正直何がどうなっているのか私にも分かりかねますね。大変楽しみです」

「食べられるものが出てくるかも分からないのに楽しみとか大人の発言をしてくれる辺り、実況としては大変嬉しいです。ありがとう、衣緒さんっ。さて、それでは続いて音羽さんに……って」
「うぅ……、お腹空いたぁ」
「泣きが入ってますね。上乃さんの焼き牡丹の香りがまたいいですからねぇ。正直私もご相伴にあずかりたいのですが……」

「蘇羽哉さん、私が残すとでも思っていますか?」
「はい、愚問でしたね。希望的観測でした。ごめんなさい取らないのでそう殺気だって睨まないで下さい。なんで料理の解説してるだけで四面楚歌なんでしょう? 私何か悪いことしたでしょうか?」
「口が悪いのよあなた」

「星華様、そんなご無体な」
「もうすこし歯に衣着せないと、そのうち消されちゃいますわよ?」
「いえ、反乱軍にそんな陰湿な人はいないと私は確信していますので! ですよね、星華様」
「そうですわね。ただ陰湿にではなく直接的に後悔処刑されるだけの話かもわかりませんけれど」

「えぇー。冗談にしても笑えませんよぉ。やだなぁ、星華様は暗い冗談が好きで」
「九割方まじめな話なんですが、まぁ信じない方が幸せなこともあるかも知れませんわね」

「いやーな事を聞いてしまって若干鬱ですが、そんな些末な問題は置いといて最後に今回の騒動の原因である色男の九峪さんにお言葉を貰いたいと思います。特に深川さんの料理については謎が多いので、本当に料理なのかどうかも含めて解説してただけると助かるんですが…………、え、なんですって? あいつの料理だけは二度と食いたくなかった? これはやはり深川さんの料理はクソまずいんでしょうか。審査員がなんだか気の毒になって参りましたが、お仕事ですので頑張って頂きましょう」

 蘇羽哉が言い終えると同時に、上乃が声を上げた。

「出来たー! 出来た出来た出来たよ!」
 そう言ってイノシシの丸焼きを皿に移すと切り分け始めた。刃物を入れた瞬間表面がぱりっと割れ、柔らかい中の肉から嘘のように肉汁があふれてくる。香草のおかげでほのかに香り付けされた肉は、まるで完成された芸術品のようである。

「おおっと、これは凄い! 本当に美味しそうだぞ上乃選手! 星華様、お言葉を一つ!」
「……ふぅん。まぁ高貴な私が食べても問題なさそうね」
「食べたいならはっきり仰らないと音羽さんに食い尽くされますよ?」
「お黙りなさい蘇羽哉。取りあえず衣緒が毒味をしてからよ」

 衣緒は毒味役と言われて引きつった笑みを浮かべながら、自信満々に皿を差し出した上乃と、皿の中身を交互に見る。
 それから意を決したように、切り分けられた肉を口に運んだ。

「こ、これは……」
 口に一口入れて、それからすぐにもう一切れに箸がのびる。
「美味しい。すごいです、これはただのイノシシの香草焼きじゃない。焼き加減の微妙さや、塩加減の調整もそうですけど、ただのイノシシではこの味は出ない。まさか、これは伝え聞く伝説の……」

「ふふふ、さすが衣緒さん。気付きましたか」
 上乃が得意げに胸を張る。
「私が料理勝負なんて言い出したのも、最高の食材が運良く手に入ったからなのよ。これは山人の中で言い伝えられている伝説のイノシシ。その名も黄金牡丹よ!」
「お、黄金牡丹! なんか凄い名前ですけど、解説よろしいですか衣緒さん」

「私も小耳に挟んだことがあるだけですが、極希に生まれるらしいんです。輝く毛並みを持つイノシシ。その足は通常のイノシシの三倍速く、捕らえることは非常に困難と聞きますが、しかしその肉はこの世のものとは思えぬ美味とされてます」
「なんと、上乃選手! まさか食材までもこだわり抜いた厳選素材。しかも伝説級のものを持ってくるとは! これは勝負あったか! どうでしょうか星華様?」

「ふぉうへ。ほれほほのひょうひははかはか」
「って何ちゃっかり食べてるんですか! しかもお口いっぱい頬張っちゃって、王族のくせに意地汚すぎですよ! 品格はどうしたんですか品格は!」
「ふん。ん、ごっくん。ふぅ。……蘇羽哉、あなただって知ってるでしょう? この十五年、品格など気にしては生きてこれなかったこと」

「はい、それは勿論。ですが、いま言う台詞じゃないですよね? しかも両手に自分の分を確保したまま。片方私にも下さい」
「嫌よ。これだってかろうじて確保したんだから」
「かろうじて?」
「残りはほら」

 そう言って星華が視線を向けた先には、牡丹の丸焼きに群がる連中をなぎ払いながら、高速で肉を口に運ぶ音羽の姿があった。その顔が至福の表情なものだから、絵面的にかなりシュールな事になっている。

「欲しければあなたもあそこに行くのね。無論、命をかけることになるでしょうが」
「……諦めます。ぐす、食べたかったなぁ。さて、しかしこの状況で三番目の審査員、九峪さんは食べることが出来たの……ってあれ?」

 九峪の前には先に上乃が切り分けておいた肉の載った皿がある。しかし、その肉は一口手を付けられただけである。

 九峪の前に立った上乃は、その様子に明らかにショックを受けていた。

「どうして、九峪? おいしく無かったの? 九峪、嫌いな料理だった?」

 九峪は無言でクビを振る。泣きそうな上乃に、申し訳なさそうな九峪。

「なぁに、気にすることはないよ上乃」

「おおっと深川選手も料理が完成したようです。しかし、これはどういう事だ? 皿の上に置かれているのは白い固まりだぁーっ! あれが料理だとでもいうのでしょうか!?」

「深川、そんなものでどうする気?」
「そのちんけなものをさっさと下げな。九峪は知っているからおまえの料理など口にしなかっただけさ。だってそうだろう? これから最高の料理が食えるというのに、そのまえに残飯など口にしたくはない。そんなもので胃の容量を消費するのはもったいないものな」
「……なんですって」

「なんならお前も食べてみればいい。凡人がたどり着けない境地というのを知ることが出来るだろう」

 私はそう言って皿を審査員席の前に置き――この時点で牡丹の丸焼きは既に跡形もなかった――、皿の上の白い物体におもむろに取り出した金槌を振り下ろした。

「おおっ。まるで卵の殻でも破るように、白い壁が割れて行きます、そしてその中には――」
「――鳥? でも塩で包んで焼くなんて。そんな事したら塩見が効き過ぎて食べられたものじゃ」

 外側の塩を全て砕いて取り除き、中から鳥を取り出す。皿にそれをまっぷたつに割ると、中から出てきたのは、何種類かの野菜が含まれたご飯だ。

「これは、なんだかよくわかりませんがおもしろい料理です! 美味しそうな臭いが一気に溢れてここまで漂ってきているが、一体全体味の方はどうなんだーっ!」
 白熱する蘇羽哉の解説。それに誘われるように、衣緒と音羽がご飯を口に持っていく。

「――っ!!」
「ほぁっ!!」

 絶句した衣緒と、訳の分からない奇声を上げた音羽。

「ど、どどどどうなんですか、衣緒さん!」
「……こ、こんな」

 衣緒の頬から涙が零れる。

「泣くほどまずいの? 衣緒?」
 気になるのか星華も問いただす。

「いえ、感極まってしまって」
「あぅあぅ。美味です。非常に、非常識なまでな美味です。犯罪ですこの味は」
 二人とも泣きながら食べるのを止めない。

「……そんな。こんなわけのわかんないもの」
 上乃は色めきだって自分も箸を取ったが、料理を口に運んだ瞬間に停止した。

「上乃。お前はよくやったよ。最高の食材で出来る限りの調理をしたんだろう。だが、相手が悪すぎたな。例えお前が得た食材が百万頭に一匹の幻のイノシシだったとしても、私の腕は数億人に一人の領域だ。例え凡百の食材だけであろうとも、半分腐ったものしかなかったとしても、私が料理でお前に負けることは無い」
「う、うぅ」

「私の勝ちだ」

 崩れ落ちる上乃。私は料理に群がる観衆達をすり抜け、一人その場を後にした。






「少しは手を抜けなかったのかって?」

 夜になって行為の合間。少しの休憩の間に九峪はそんな事を言ってきた。

「料理に嘘は吐きたくない」

 妙なところで素直だと気持ち悪い、なんて九峪は言う。

「ふん。いらない才能さ。料理は嫌いだし、私の料理を受け入れてくれる人間はいない」

 美味しいと食べてくれるのはいいが、人間は慣れてしまう。私の料理に慣れた人間は、舌が肥えすぎてふつうのものでは満足できなくなる。

 それは、この世界では最悪の事だ。何であれ食べられるものは食べなければならない。えり好みの出来ない状況で生きていかなければならないのだ。肥えた舌など不必要の極みである。

「だからか? 審査員が気の毒なんて嘗めた事を言ったのは?」
 九峪の上にのしかかりながら嫌みを言ってやると、九峪は本当のことだろ、と逃げる。

「結局私の料理も一口しか食べなかっただろう。お前」
 それはそれで傷つくんだけどな。しおらしく言うと鼻で笑われた。

「本当に傷つくぞ、この野郎」
 泣き真似をしたところで、九峪の劣情に火がついたらしく、押し倒された。


 ――手など抜けるわけがない。

 こいつを失うかも知れない、その可能性があるというなら、その可能性が目の前にあるなら、それを撃滅することこそ、私の生きる目的なのだから。













追記:
 予定通りに更新。私はやれば出来る子なんです。往々にしてやらないことが多いだけで。

 本編は本筋とは何の関係もない与太話を突発的に入れてしまったわけだけど、まぁそれも気分でと言う話で。もうすこし与太話が続くかも知れないけど勘弁して下さい。


 ではweb拍手のお返事。
 2/4。

1:05 なんだろう、ヘタなの? ヘタなのか? でも工程見る限り結構手際は良さそうなんだよなあ。ただ空鍋は勘弁
 と頂きました。
 上手すぎると言うのが問題。過ぎたるは及ばざるがごとしと言ったところですかねぇ。この後反乱軍内で飯がまずいと文句を言う輩が続出したとか何とか。空鍋はまぁ九峪がネタを知ってれば驚異的な脅しになりますけどねぇ(笑
 コメントありがとうございました。

 もう一件。

8:07 個人的には上乃を応援したい。なんかすごく健気ですね。
8:10 フラグクラッシャー深川はたしかに増長気味かも… 料理勝負その余裕がなくなってくると面白い
 と頂きました。
 上乃が健気。うん、そういえばそうだなぁと言われて気がついた。今回も結局深川の完勝でけちょんけちょんにのされてしまった上乃の運命やいかに! ってところは次回あたり書こうかなぁと思ってます。
 コメントありがとうございました。

 もういっちょ。

9:37 あれ、気付いたら亜衣がため口になってる。何があった…
 と頂きました。
 劇的な何かは特にありません。ただ毎晩やりまくってる怠惰な助っ人に、敬語を使う必要性を感じなくなってしまったんでしょう。形式上部下になったということもあるかもしれません。まぁ、貸し借りの話は今後と言うことで。
 コメントありがとうございました。

 2/5。

16:44 更新乙です。新キャラのボケ蘇羽哉と食いしん坊音羽も良い味出していました。
16:46 がんばる上乃がかわいそうな展開ですね。深川さんも好きですが、ちょっと応援したくなっちゃいました。
16:47 清瑞も本格登場でヒロインが続々増えているのはいいのですが、深川さんが突出して強すぎるかなぁw
16:49 そういえば亜衣と合流したが愛宕はどうなったんだ?彼女がまた純真パワーでかき回してくれるといいのに・・
16:50 ともあれ作者さん次回も期待して待ってます。がんばってください。
 と頂きました。
 サブキャラの掘り下げは今後の課題の一つではありますが、取りあえず音羽は食いしん坊キャラにしてみました。ふつうに姉御キャラでも良かったんですがね。蘇羽哉は適当な実況キャラがいなかったので――只深がいれば只深でも良かったんですけれど――適当に割り当て。今後の出番は神のみぞ知ると言ったところでしょうか。上乃がかわいそうな展開になるのはまぁ、もはや定番になってしまっているので、今回くらい多少の救いは……あるのかなぁ? パワーバランスに関してはまぁ一応ヒロイン深川なので今のままでもいいかなぁとは思ってるんですが。それから愛宕はまだ当分出番ありませんね。まぁ、そのうちひょっこり現れるでしょう。
 コメントありがとうございました。

 2/6。

17:26 火魅子伝の外伝的なものが読めてとても嬉しくも愉しませていただきました、これからも続けていただきたいで
 と頂きました。
 外伝的というかあからさまに別物ばかりでなんなんですが、楽しんで頂ければ幸いでございました。まだ当分は書いていく予定なのでよろしくおつきあい願えればと思います。
 コメントありがとうございました。

 2/7。

8:30 深川さん。乞食鶏てあんた……。容赦無いなぁ相変わらず
 と頂きました。
 九峪に関わることで深川に容赦の二文字はあり得ないみたいです。だから他のヒロインが哀れなんですが、その辺の救済策というか準ハーレム化は考えてもいいのかなぁとか、少し考えているんですがどうなることやら。
 コメントありがとうございました。

 2/9。

0:55 最近、更新がありませんが、生存していますか?
0:57 更新がなくても生命反応が感知できるように、BBSにでも近況か何かほしいです。
0:59 無理せずに自分のペースで良いので頑張って下さい。
1:02 でも、生存報告は出来ればして下さい。閉鎖or放置プレイと勘違いしてしまいます。
1:04 毎日、更新確認はつづけてますので、宜しくお願い致します。
1:06 え~と・・・ んっ! ・・・・・・・・・・・・・ 以上です。
1:07 あはははは・・・・ 何書こう? けっこうモノを書くって 大変ですね。
1:09 えっ! まだあった。 ん~・・・ 宜しくお願いしま~す。
1:10 頑張って下さい。
1:10 ・・・
1:10 ・・
1:10 ・
 と頂きました。
 あー、これはblogの存在に気付いておられない方のようですねぇ。むぅ、まだ結構いるのだろうか? 取りあえずbbsにも時々何か書くことにしましょうかねぇ。
 コメントありがとうございました。

 2/10。

17:22 ぐぅあんぶぅぁあれぇぇぇぇぇえええーーーーいぃ!!!
 と頂きました。
 あ、はい、頑張らせて頂きます。まぁ可能な限りで(笑
 コメントありがとうございました。

 他にも沢山の拍手ありがとうございました。


 では本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2008/02/10 22:13】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(1) | page top↑
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コメント
料理勝負いいですね。
深川は、マルチの天才、宮本武蔵か?

しかし「乞食鶏」とは、中国でもこの時代は、まだ出来ていなかような。

深川、凄い、九峪が絡むと容赦なし。
【2008/02/12 21:28】 URL | アレクサエル #xfGWKbWo[ 編集] | page top↑
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