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深川偽伝17



 硬いものは脆い。
 硬ければ硬いほど、強固であれば強固であるほど、それは脆く砕けやすい。壊れやすい。

 今にして思えば、あの女の意志はおそらくこの世の誰より、何よりも硬かったのだろうと思う。一見して、誰よりも何よりも強く見える程に。そう誤解させるほどに。

 だから男は砕け散るその時まで、その事実に全く気付かずに……。

 女の死は、何ものよりも強靱であった男の意志さえねじ曲げて――。



 深川偽伝
 十七節 克己



 さて、久方ぶりの設定の話ではあるが、九峪は基本的に善人である。
 善人ではあるが、善行においては――そう自分が信じた根拠に基づいて行動する場合、その選択肢として殺人を肯定できる。

 理由はどうあれ、人を殺すことは出来る。状況が整ってさえいれば、そこに迷いが生じることもない。一度下した決断に対しての冷徹さは、むしろ気まぐれなどは入ることがないだけ、私などとは比べものにならない。

 行動を起こすにあたっての根拠も明快。人命を守るため、である。大抵の場合が弱者であるが、九峪の目にどう映ったかが問題なのだろう。

 人を殺す善人などいないとか、そんなものは偽善だとかそう言う観念論は今は脇に置いておこう。重要なのは、九峪がそう言う人間であるということだ。或いは、そう言う化け物である点だ。

 私は九峪という存在が軍組織の中で上手く活用できると、それほど思っているわけではない。九峪は人を殺せるが、条件がそろわない限り、絶対に誰も殺さない人間でもあるからだ。

 ただの戦闘。単純な戦争。

 それが九峪の目にどう映るのかは知らない。
 それでも、好き好んで殺し合いをする連中――少なくともお互いを殺す事に納得してしまっている輩を、弱者と捕らえはしないだろう。

 戦場で九峪が戦うとすれば、逃亡兵を救うためか、巻き込まれた民間人を救助するため。或いは敵の不意打ちを受けた味方を援護する時くらいだろう。

 何れにせよ戦争に能動的に参加する意志は、やはり無いのだと思う。

 だから九峪は今戦おうとしていない。
 直接的に守るべきものが存在しない状況では、九峪は戦いを選ぶことは出来ない。ここで戦闘を回避することが、結果的に誰かの死に繋がるとしても、目の前で起こっていないことは、存在しないも同じ事だから。

「まぁ、分かってはいたことだ」

 愚痴るでもなく呟いて、向かってくる狗根国の兵隊を吹き飛ばす。

 亜衣の目的は当麻の街の兵力を、僅かでもこちらに向けることで、少しでも決戦を有利に運びたかったのだろう。

 もう一人の私は反乱軍の本拠地を潰すつもりで兵力を率いてきたようではあるから、少なくとも半数。狗根国兵で百人程度は集まっているものと思われる。実際奇襲が完全に成功するのであれば、その程度の兵力でこの本拠地は陥落してしまっていたことだろう。

「しかし、一人で百人はなかなか……」

 九峪はやる気がない。危なくなれば私を攫って逃げるくらいはするだろうが、今はのらりくらりと狗根国兵をあしらっていた。戦うでもなく、逃げるでもなく。

 私にやることがあるから、仕方なしに付き合っている。

「そろそろバテてきたんじゃないかい? 足下がふらついてきたよ」

 ニヤニヤと笑いながら、部隊の指揮を執っている年増。正面に出て来たのは九峪に動く気が無いのを見てからだ。九峪を相手取らなくていいなら、あいつは正面から私を倒すことが出来る。

「しかし、反乱軍も容赦ないねぇ。あんたら二人を餌にして自分たちはさっさと逃げ出すなんて」

 年増は、決定的に誤解していることがある。無理もないと言えるかも知れない。反乱軍が、つい今し方逃げ出したのだと思っている。その程度の連中で、その程度の規模でしかないと思いこんでいる。

 もし、当麻の街に向かっているなどと分かっていれば、即座に撤退を選んだことだろう。

「はぁはぁはぁはぁ」
 私たちだけで陽動が可能になっているのも、言ってしまえばその誤解があってこそだ。ただ自軍に損害を増やすだけのこんな無意味な戦い、指揮官ならば避けるのが定石だ。

 年増の私に対する個人的な執着。

 腹は立つが、気持ちは分かる。初見でそれが自分自身であると理解できたように、私とあれは、多分どこかで繋がっている。そんな気がする。

「くそ、鬱陶しい。おい年増。一体あと何匹いるだ!」
「教えるとでも思ってるのかい? まぁ、そんなに多くはないよ」
「貴様さえいなければまとめて吹き飛ばしてやるんだがな」
「……小娘、お前は自分が万能だとでも勘違いしているのかい? 圧倒的な力があるから、それで何ものをも倒しきれると勘違いでもしているのかい? 自惚れるなよ。殺すだけなら、お前ごときただの一兵卒で釣りが来る」

 年増がそう宣言すると同時に、背後から武器も持たぬ兵士が三人、三方向から同時に襲いかかってきた。あくまで小出しに、私の体力を削ることだけを目的の戦術。それが年増の言う一兵卒で倒しうると言う事なら、見込み違いも甚だしい。

「こんな雑魚、幾ら来ようと、何方向から来ようと、同じ事だ!」

 放たれた左道は三者を同時に屠り去る。爆散した兵士。しかし、血肉の他にばらまかれたものがあった。

 それは紙切れ。左道を封じる左道殺しの呪符。

 どこに仕込んでいたのか、覆うように舞い散った呪符を全てかわしきるなど不可能。その呪符の隙間から、年増と背後の弓兵が、弓矢をつがえているのが見えた。

「終わりだ」

 喜色満面で、嘲笑混じりの宣言。
 視界を覆う矢の雨が、降り注いだ。






 勘違いをしていると、年増は言った。
 そう思ってしまうのは、恐らくは自分自身がその手の失敗をしたことがあるからだろうう。
 文字通り、自分のことのように分かるからだろう。

 だがその言葉は、失敗をしたことがない、失敗から学習する前の私に言えばこそ、効果があるものだろう。

 何ものでも倒しきれるなんて勘違い、この私がしたりするものか。自分が強者であるなんて勘違い、しようと思ってできるわけがない。

 私は軽々に死ぬわけにはいかないのだ。
 特に、こんな下らない場所で、こんな下らない相手に、殺されてやるわけにはいかない。

 万に一つも、億に一つも、あってはならないのだから。

 だから、そういう戦術が私を殺すための手段として存在する事など、当然私は知っていた。前回年増に左封札で煮え湯を飲まされた時点で、その瞬間に気付いていた。

 左封札を使った私の攻略法について、その後も徹底的に思考した。全てを網羅できたとは、流石に思わないけれど、それでも相手が年増である限り、思慮の外の策が来るなど、殆ど確実にあり得ない。私の思考を、私が読めない道理はない。

「馬鹿な――」
「馬鹿は、お前だ」

 左封札。術者に貼られることで左道の発動を禁止する呪符。
 確かに、左道が封じられてしまえば私はただの小娘だ。飛んでくる矢を回避する術はない。

 だが、呪符が触れる前に、私自身に左道を打ち込むことで呪符を回避することは、それ事態は不可能ではない。

「げほっ。ああ、しかし何度もやれるもんじゃないな。別の方法を今度考えないと」
 所詮は付け焼き刃ではある。自分にダメージを与えて回避など、愚の愚策。それでも、決定的な機会を年増は逃した。

「さぁ次はどうする? まだ消耗戦を続けるか? 玉砕覚悟で全軍で挑むか?」
「……ふん。仕方ないな」

 年増は、そう言ってこちらに歩いてくる。

「全軍、そっちの男へ注力しろ。是が非でも足止めしろ。こいつは、やはり私が殺す」
「はじめからそうしろ」

 馬鹿にしたように、馬鹿にしきったように言ってやる。

 現状、最も効率のいい策だろう。私の左道を無効化できる年増が、私の相手をする。その間に物量で九峪を倒す。そう簡単に倒される九峪ではないけれど、戦う気がない今ならば分からない。

「右手の具合はどうだい? 今度は左手も、いや、全身余すところ無く嬲ってやろう」

 左道が効かない以上は肉弾戦。右手の骨折は治っていない。
 片手で勝てるような相手じゃない。両手が無事だったところで、肉弾戦では勝ち目がない。

 結局、私一人ではこの年増だけは倒せない。

「自分を殺すなんて、本当は趣味じゃないんだけどねぇ」
「私はさほど気に病まないが」
「勝てるつもりかい? お嬢ちゃん」
「同じ失敗を、そう何度も続けると思うなよ?」

 ただの肉弾戦で、勝利はない。

 だが、殺人という行為に、肉体の強度など、運動神経の優劣など、怪我の状態など、如何ほどの意味があると言うのだろう。

 子供が大人を殺せない道理など無い。弱者が強者を殺せない道理など無い。

 ただ殺すだけでいいなら、手段など無限に存在している。

「ふんっ!」
 左道を年増の足下に炸裂させる。

 年増には効かなくとも、その下の地面を吹き飛ばし、その土砂を浴びせることで攻撃することは出来る。
「ぐっ――」

 それでも怯まず接近しようとした年増は、おそらく一瞬浮遊感を味わっただろう。悲鳴を上げる暇もなく穴に落ちる。土砂を浴びせたと言うことは、そこに穴が出来たという事。

 それほど深い穴ではない。それでも倒れれば体が埋まる程度には、深さがある。

「殺すだけなら幾らでも方法はある。左道が使えなければ私は弱い? その通りだよ。だが、お前に効かないからと言って、完全に封じない限り、圧倒的な力には違いないだろうが」

 力は変換してやればいい。効率が悪かろうと、元があまりに大きいのならば、人一人殺すにはおつりが来る。

「くそ、こんな、こんな真似、がっ――」
 掘った穴は埋めるに限る。大雑把に左道を地面に打ち込んで、土砂で生き埋めにする。

 力加減を調節したつもりはないけれど、上手い具合に頭だけは埋もれずに残った。

「勘違いしてる、なんて言ったけど、それはどっちの話やら。お前も私なら、これくらいのこと分かっただろうに」
 私のくせに、分からなかったのかと、嘲笑するように、自嘲するように言って、頭を踏みつける。

「――貴様、殺してやる、必ず殺して」
「まぁ、お前には聞きたいこともあるし、暫くそこでゆっくりしてるといい。出来れば老けた自分の顔なんて、一秒でも早く埋めてしまいたいんだが」

 実際、あまりいい気分じゃない。自分の顔を見るのは。自分を客観的に見るというのは。

「お前という盾が無くなった狗根国軍など、鎧袖一触にしてやるから」

 取り囲まれている九峪に向けて、援護の一撃。それだけで、狗根国兵の三分の一は吹き飛んでいた。






 狗根国軍を殲滅するのに要した時間は二時間ほど。始めの一撃こそ小気味いいほどの大打撃を与えたが、直ぐに散開し、持久戦に移行したためだ。それがあの年増の考えた戦術だったのだろうが、実際にやっかいな戦術ではあった。始めに三割近く戦力を削っていなければ、私の方が根負けしていたのは確実だったし、殲滅といっても恐らくは半数は逃げ出してしまっていたことだろう。

 それで、これだ。実際に殺したのは百人程か。

 しかしそうなれば、総兵数が二百近くいた計算になる。もっとも、逃げ出した兵士が一体どのくらいいたかなど正確には判断がつかないので、実際は三百人だったかも知れないし、百人しかいなかったのかも知れない。

 どのみち陽動としての任務は全うできただろう。殲滅してしまった以上、陽動と言うよりは各個撃破になってしまったわけではあるが。

 ともかく、疲労困憊で仕事を終えた私が、尋問のために年増のところに戻ると、そこには九峪とくっついている年増がいたりした。生き埋めにしておいたのがいつの間にか掘り起こされ、あまつさえ拘束もせずにいちゃいちゃしてるのだ。

 気を抜くことも赦されなかった二時間の戦闘を終えた私の出迎えが、そんな光景だったわけである。

 怒りが臨界点を超えて思考がホワイトアウトした。

 結果、反乱軍の本拠地が消滅し、二人がまとめて土に埋まったのは言うまでもない。













追記:
 はい更新。来週もなんとか更新して月三更新くらいは死守したいなぁとか思わなくもないです。まぁ、頑張って週二更新くらいまで出来ればいいんだけどねぇ。出来なくはないんだけどそうすると他に何も出来ないんだ……。

 そんなわけで深川偽伝も十七話。あまりだらだらやっても仕方ないので、そろそろいくらか話を動かそうかなぁと言うことで画策してます。主に次回辺りから。


 ではweb拍手のお返事。
 3/18。

15:18 更新来てた!久しぶりだと余計に面白い。たまになら間が空くのも悪くないかもと思ったり。
15:19 …………いや、やっぱり続きは早く読みたいな。来週また読みに来ます
 と頂きました。
 そうかたまになら間があくのも……、って別に私も開けたくて開けてるわけでもないんですけどもね。うん、まぁ頑張ります。
 コメントありがとうございました。

 3/19。二件まとめて。

17:01 その日、あいつは首を吊った。←これが気になって気になってたまりません。後羽江、運が良いのかもっと何か
17:03 仕込まれてるのか気になりますね。
18:26 羽江と深川の低レベルな争いワロス
 と頂きました。
 首を吊ったのが誰かなんて事でミスリードしようと思ってるわけでもないわけですが、まぁ、冒頭の部分はあまり気にしないで下さい。現代編を一話か二話で簡潔にまとめたいなぁとかは考えているんですが、面倒なのでどうなるかは分かりませんです。書くかもしれないし書かないかもしれないし。
 羽江に関しての仕込みは特に考えてませんが、そういうコメを貰うとやりたくなってしまうのが……、いやわかんないですけど。低レベルな争いはまた今後入ってくるかなぁと思いますが、その辺のネタも少し考えないとなぁとか、作者としては悩ましい限りです。
 コメントありがとうございました。


 では本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2008/03/23 19:19】 | 小説 | コメント(0) | page top↑
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