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深川偽伝18


 私が私であることは、おそらく宇宙が誕生した瞬間か或いはそれ以前から既に決定していたことではあるのだろうが、そんな認識の及ばない領域の話は置いといて、今現在の私が決定された瞬間と言うのはあったはずだ。

 自分の人生が大げさではなく変革されてしまった瞬間。或いはそれは瞬間ではなく、もっと緩やかに浸食するような変革であったかも知れないが。

 ともかく、ある時点で現在の私というものが作られた。

 しかし、私自身は明確にその変革点について覚えていない。ある時点とある時点を比較するに、明確にその間で私は変わってしまっているというのに、その理由について、おかしな事に心当たりがない。

 ――矛盾するようだが原因は、分かっているのだ。

 外的要因として、その存在は否応なく認識されてしまっていて、他の可能性など考慮に及ばないほどだ。

 だが、分からない。
 それがなぜそんなものになってしまったのか、私の中で存在が極大にまで膨れあがってしまったのか、思い出せない。理解も出来ない。

 それをとあるものは一目惚れなどと呼んでいたが、それについては全く持って認めるつもりが無い。なぜなら、私が本当にあいつを――――



 深川偽伝
 十八節 幻影



 狗根国の狩人部隊と言えば、その冠に泣く子も黙るとつくほど、残虐で冷酷な集団として有名である。名目上は先の侵略戦争で耶麻台国を滅ぼした折、多数野に下った魔獣を駆除する部隊となっているが、実態は反乱分子を燻りだし、見せしめに処刑する殺戮部隊である。

 九洲の民であればその名を聞いただけで、悪ければ失神しかねないほど悪名が轟いている。深川(年増)はその実行部隊の部隊長であって、綱紀などあってなきがごとしの反乱軍において、捕虜となった場合の処遇など、運が良くてただの処刑でしかない。

 その前に拷問したいという連中はおそらく三桁では効かず、処刑をしないとすればそれは死ぬ以上に辛い目にあわせたいという、慈悲深さなどカケラもない願望からだ。

 だから、頭が痛い。

 九峪は無力化した深川(大)を殺すとなれば反対するだろう。私に似ているとか、私自身だとかそう言う事を別にしても、一度人として関わってしまったのだから。

 捕虜として反乱軍に連れて行けば、待っているのは脱走と逃亡劇と言う茶番だ。
 無論、例えどれだけ譲ろうが深川(中古)の釈放などあり得ない。だから私は聞くことを聞いたらぶち殺すつもりだった。何度も煮え湯を飲まされているわけではあるし、逃がせば今後もこれまで以上に何かやらかしてくれるだろう。

「別に心配してくれなくても裏切りはしないさ。私も失敗しすぎたからねぇ。忌々しいことこの上ないが、お嬢ちゃんのおかげでさ。ノコノコ戻ったところで死ぬしかない。あのジジイに慈悲など無いんだ」
 深川(賞味期限切れ)はそんな事を嘯くが、信用できたものではない。強かな事は我が身のことのように理解できるので、こんな事であっさり裏切るとは思えない。裏切らないことも無いのだろうが、隙あらばまた寝返るだろう。敵にも味方にもしておきたくない。だから、殺したいのだが。

「九峪。お前が殺したくないなら、私はそれで構わないがな。こいつを連れて反乱軍には戻れないぞ。それくらいは分かるな?」
 九峪はよく分かっていないようで首を傾げる。ああ、いっそこいつも殺したい。

「こいつが今までにした事を考えれば、九洲の民なら誰でもこいつを殺したくなる。殺したくて殺したくてたまらない連中ばかりのところに、連れて行っても殺されるだけだ。そしたらお前はコレの為に戦うんだろう? そんな馬鹿馬鹿しい真似をしに戻る意味はない。折角仲間になった反乱軍を敵に回すだけだ」
 九峪はなんとか理解したのか頷くと、それから暫く黙考して、また戯言をほざいた。

 ――だったら、殺されないように説得しよう。

 面倒くさい奴だ。本当に。そんな論理が通用するものか。してたまるものか。

「身内が殺された奴だっているだろう。家を焼かれた奴だって、大勢いる。実際、伊万里や上乃の里を襲ったのはこいつだぞ? 反乱軍の前の拠点を襲って、女子供まで皆殺しにしたのもこいつだ。目の前で起こっていたら、お前は迷わずこいつを殺すだろ。目の前で起こっていなければ、お前の目の届かないところで起こっていれば、それは無かったことになるとでも言うのか? お前にとってそうでも、他の連中にとってもそうなるわけじゃないんだ」
 そんな事くらい理解できるだろうと、言い聞かせる。

 まぁ無駄だと言うのは知りながら。

 九峪にとって問題なのは過去でも未来でもない。あったかどうか確認しようもない過去でも、まだ起こってもいない未来でもない。今現在、この状況こそが問題なのだ。

 今の深川(パチもん)が弱者であるという、救いの手が必要であるという事が問題なんだろう。ここで私が殺そうとすれば、私からこの女を守るために戦うだろう。

 融通が全く利かない。交渉のしようもない。その上で私は九峪の意志を基本否定する事をしない。するつもりもないのだから。

 ――それでも、嫌みくらいは言わせて貰わなければやるせない事もある。

「わかった。危険だし気も進まないが、こいつを連れて行くんだな?」
 九峪は頷く。ようやく分かったか、とでも言いたそうに。

「……話はまとまったかい?」
 してやったりとでも言うように、深川(汚い)は微笑む。

「ああ。だが、五体満足で捕虜になれるとは思うな。連れて行く以上、最低限の処置はさせて貰う」

 九峪の意向には従う。だが、それを実現するためには色々と障害もある。それらを全て音便に納めようと思えば、本人に無理をして貰うしかない。

「まぁ、あっさり殺されていた方が楽だったと、せいぜい泣き喚きながら後悔しろ」

 皮肉げに笑って、私は深川(売れ残り)の目に、指を突き入れた。






 反乱軍本隊に追いついたときには、既に戦いは終結していた。
 伊尾木ヶ原は死体で溢れかえり、今はその処理に反乱軍が動いている。

 勝つことは勝ったようではあった。しかし損害もかなり出たようで、死体の中には反乱軍のものもかなりの数混じっている。

「辛勝と言ったところか」

 ここで壊滅させた戦力の約半分を実質一人で持たされた私は、労う気にもなれずいくらか不機嫌に呟いた。

 戦力分散させての各個撃破と言うのであれば、開戦を私が来るまで待つべきであったのだろうが、実際はただの陽動だろう。亜衣の事だからいくらか戦力を削ることが出来れば、くらいに考えていたかもしれない。

「……あら、深川さん。もう追いついてきたんですか?」

 めざとく私を見つけて衣緒が駆け寄ってくる。戦死者からの武具の回収と火葬。どうやら亜衣からその仕事の指揮を任されているようだ。亜衣本人は一通り見回してみても姿が見えない。死んでいれば反乱軍は瓦解しているだろうから、先に当麻の街に向かったと考えるのが順当だろう。

「清瑞達はついているか?」
「ええ。星華様や姉様達と街の方へ向かいました」
「当麻の街の方にもまだ残存兵力はあるんじゃ無いのか?」
「多少はあるでしょうが、おそらくさっさと逃げ出すでしょう。星華様が呼びかければ街の中で住民も立ち上がるでしょうし、残っていても問題にもなりませんよ」

 耶麻台国への崇拝と憧憬。長らく狗根国に抑圧されてきたが故に、恐らくは国があったときよりも強固になっているんだろう。そんな事を考えながら、もう一度周りを見回す。

 幹部クラスでは衣緒以外は見あたらない。負傷兵とそれを手当てするもの。死体処理の兵。併せて百五十名くらいか。

「そう言えば九峪さんはどうしました?」
「……あいつなら遅れてくる。足手まといがいるんでな」
「足手まとい?」
「後で引き合わせる。まぁ、それまで少し休むとするか」
「はい、ではあちらに」

 衣緒に促され、簡易指揮所――といっても死体がたまたま無かった原っぱに目印の旗が立っているだけだが――に向かう。いくらか死臭は薄らいだが、それでもくつろぐ空間というわけではない。贅沢を言っても仕方ない環境ではあるが。

「どうぞ」
 そう言って水筒を渡される。軽く口を付けてから返すと、じっと衣緒の顔を見つめる。
「何か?」
「いや、あの亜衣や羽江の姉妹にしては、随分人が出来ているなと思って」
「ああいう姉と妹がいるから、挟まれた私はこうなるしかなかったんです」
「なるほど」
「ふふ」

 亜衣にしろ羽江にしろ、純粋に人に気を遣う人間ではない。亜衣は策謀が先に周り、羽江はそもそも他人を気にしない性格のようだし。

「私には姉様や羽江の様な才能がありませんでしたから」
「才能に人間性が害された? 否定は出来ないな」
「ああ、そう言えば羽江の件。お礼を言ってませんでしたね。ありがとうございました」
「私は何もしてないがな」
 実際、動いたのは清瑞の部隊で私は何もしていない。実際の私の仕事と言うのも、その後の陽動が目的ではあったわけだし。

「いえ、深川さんがいてくれたから、姉様は羽江を救出する策を考えたんだと思います。でなければ、羽江一人のために部隊を動かすことはしなかったでしょう」
「かもしれんが」
「ですから、ありがとうございます」
 満面の笑みで、屈託無い笑顔を浮かべて、礼を言う衣緒は思わずどきりとするほど綺麗だった。

「いい女だな、衣緒は」
「そうですか?」
「そうだ」
「でも、深川さんの方が魅力的です」
 不意打ちのようにそんな事を言われて、一瞬思考が止まる。
 衣緒はどういうつもりでそう言ったのかしらないが、特に表情に変化は見られない。ただの一般的な社交辞令。一般的な切り返し、だったのだろう。

「……世辞でも、そう言われることには慣れてないな」
「え?」
 つぶやきは聞こえなかったようで、衣緒は首を傾げた。なんでもないと否定したが、女として面と向かって褒められることが、そう言えばこれませの人生で一度もなかったことを思い出す。

 ほぼ他人で、それほど興味もない女に言われて、気持ちが一瞬浮き立ってしまった。

「深川さん?」
 急に黙りこくった私を不審がる衣緒。
 私はそれを無視して、自分の意外な弱点をどうしたものか問答していた。






 九峪と深川(足手纏い)が合流するまでに、暇だった私は衣緒に戦の推移を聞いていた。死体の数からかなりの乱戦で、戦闘自体が長時間に及んだであろう事は分かったが、実際の流れまではわかるわけもない。あの亜衣が、正面からの潰し合いを敢えて選んだとも思えず、戦力を分散させた割に反乱軍に損壊が大きいような気がしたからだ。

 実際、亜衣は用意周到に待ちかまえていたらしい。この伊尾木ヶ原と言うのは、当麻の街から南西に向かってのびている平原で、反乱軍のアジトから撤退する方向になる。他にも選択肢はあるが、元々亜衣は当麻の街を攻め事を目的として、現在の場所を反乱軍の拠点としている。そちらに動きやすくなっているのは必然と言えば必然である。

 羽江を餌に反乱軍の本拠地を掴んだ時点で、狗根国軍は掃討部隊を伊尾木ヶ原に動かす。

 それを前提として、亜衣は狗根国軍が配置につく前から、伊尾木ヶ原周辺の森に兵を埋伏させ、逆に不意を打つという策に出たわけである。まぁ、仮に不意打ちが失敗したとしても、敵方の何割かが本拠襲撃に割かれるわけだから、戦力分散は出来る。

 亜衣の策は怖いほどによく嵌った。少なくともこれが囲碁や将棋などの盤面での戦いであったならば亜衣は圧勝していただろう。だが、それでも個々の兵の戦力差があまりに圧倒的に違いすぎた。

 狗根国軍は強すぎて、反乱軍は弱すぎた。装備が違い、練度が違い、経験が違う。

 狗根国軍は三倍の兵力相手に不意打ちされ、それで尚戦いは拮抗した。勿論、予測はしていたのだろう。実際は少なくとも四倍以上の兵力が欲しいと亜衣は思っていたのだし、それが間に合わなかったのだから。

 旗色はどちらに傾くでもなく、ただ同じ割合で消耗していく中、戦況を悪化させる事態が発生した。

 僅かに三十名ほどではあったが、反乱軍の本拠を強襲していた部隊の内、私におそれをなして逃げた連中が合流した。

 三十名だが、反乱軍の兵に換算すれば百人近い戦力。拮抗状態を崩すには、あまりに十分な、決定的な戦力投入だった。

「私も正直駄目かなと思いました。ですが、そのときに唐突に現れたんです」
「現れた?」
「ええ。誰なのか分かりませんが、唐突に」

 その誰かが、崩れかかった戦況を根こそぎひっくり返した。狗根国軍の半数を撫で斬りにしていくと、そのまま姿を消したと言う。

「まるで深川さんや九峪さんみたいでしたよ」
 そんな風に語る衣緒だが、そんな都合のいい存在、そうそういるものでもないだろうう。だが、九峪がそれをやったというのはあり得ない。

「心当たりは無いのか?」
「さぁ。ですが、音羽さんが太刀筋からすると耶麻台国の正統派剣術の使い手だから、耶麻台国縁のものであることは間違いないだろうと」
「顔は?」
「遠目でしたし、顔を隠していたので男の人と言うことくらいしか」
「そうか。しかし、耶麻台国縁の人間だというなら、堂々と味方してくれてもいいようなものだがな」

 何か表だって手を貸せない理由があるのだろうか。負けたときの事を考えると、積極的に荷担したくはないという、趙次郎の様な奴なのかも知れない。そう言う立場でいられるなら、私だってそうありたいものだが。

「消極的にしろ味方してくれるなら、そのうち会うこともあるか」
「そうですね。あ、九峪さん……と」

 ようやく追いついたか。既に日は暮れかかっているから、今日はここで一泊して、明日の朝街の方へ向かうとしようか。

「深川さん?」
 説明をほしがる様な目でこちらを見つめる衣緒。主に、九峪の横にいる奴についてだろう。右目を覆うように顔半分を包帯で覆っているあいつ。

「拾いものだ。九峪になついて離れないんでな」
「そう」
 このご時世、珍しくもないと思ったのだろう。自分の家や家族を奪われ、路頭に迷っている"子供"を見る事くらい。

「貴方、お名前は?」
 九峪の服の裾を掴んだ少女は、無表情のままぽつりと呟いた。

「淺海」

 全く、忌々しい。
 これからこいつの事で頭を悩ませることになるのかと思うと、酷く憂鬱になる自分を感じていた。













追記:
 三月もなんとか三回は更新できました。このまま週一更新に戻せればいいんですが……、どうなるかなぁ。

 偽伝の方はいい加減年増だのもう一人の自分だの表現がうざったくなってきたと言うことで、大きい方に改名して頂きました。まぁ名前が変わって年齢的にも逆転した感じですが、何が起こったかは次回をマテと言うことで。読みは淺海であさみです。


 ではweb拍手のお返事。
 3/23。

22:29 爆笑しましたw そら深川(小)も怒るわなw
22:30 でもこれで強力な助っ人が一人追加かな? 九峪どうやったか知らないけどGJ
22:30 作者さんも更新乙でした~
 と頂きました。
 助っ人として役に立つかは疑問ですが、まぁそれなりに活躍してくれるだろうと思います。深川も九峪の相手――性的な意味で――として自分がもう一人くらい欲しかったところでもありますし、ちょうどいいかも、って納得できるわきゃないんですが。
 コメントありがとうございました。

 3/25。26。まとめて。

10:42 九峪何やったあああああああああ!?
20:55 大人深川に吹いたw 掘り起こしてあげた九峪もいい人過ぎだw
 と頂きました。
 前回の終わりの時点では掘り起こして口説いたくらいデスよ。やらせろ的な感じで(爆)
 まぁ今回の話の行間で何があったかは次回説明したいと思います。
 コメントありがとうございました。

 3/30。

4:40 堅いモノは脆いと言いますが、ここの九峪は砕けても謎物体に暗黒進化しそうですね。いや何となくですが。
 と頂きました。
 えーと、脆いのは九峪じゃないです。首吊った人です。ちなみにねじ曲がった強靱な男も九峪じゃないです(ぇ と意味深な事を言っておきましょう。
 コメントありがとうございました。

 もう一件。

13:40 menuのリンクが変になってますよ、直してもらえるとありがたい
 と頂きました。
 ちょっとどこの事なのかよく分かりませんでしたorz 十三階段のTOPの方は特におかしくないしリンクも正常でしたが……? まぁ、リンクページの清十郎さんの元サイトと北野さんのサイトはどうやら閉鎖したようなので行くことはできませんが。もうすこし詳しく教えて頂けると助かります。

 他にも沢山の拍手ありがとうございました。

 それから縦横無尽! を運営しいますTAKO-8さんが、九峪徒然草の絵を描いてくれました。興味がある人はご覧になってみては如何でしょう。

 では本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2008/03/30 20:07】 | 小説 | コメント(1) | page top↑
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コメント
18もいいですね。
しかし、更新が早い!!! 凄い!!! どうしたのです!!!?

淺海なんてネーミングセンスだ・・・・・・。
深川と深川(大人)どちらが考えたんでしょうね?
本当に目を片方潰したのかな?

亜衣の作戦見事!!! こういう陽動?みたいな使い方をされても深川のように
裏を見れる人間なら怒らないでしょうね・・・・・。
 しかし、衣緒の姉妹談義よかった。 
 大人深川を味方にする・・・・・・・・・。 成功したら利益大ですが・・・・・・・。
前から思っていたのですが、よく原作で、九峪や藤那が情報が大事と言っていますが、
清瑞以外にあまり活用していない気が・・・・・・・・・・・・・・。

 耶麻台国への崇拝と憧憬。長らく狗根国に抑圧されてきたが故に、恐らくは国があったときよりも強固になっているんだろう。 賛成です・・・・。
 まあ、絶対、問題もたくさんあったと思いますが・・・・・・。
【2008/04/03 00:05】 URL | アレクサエル #xfGWKbWo[ 編集] | page top↑
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