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深川偽伝20



 俺が思うにあいつは著しく何か勘違いしてやがる。

 俺が聖人君子だとでも?
 俺が善人?

 笑わせる。


 ――俺は、ただの面倒くさがりのくそったれだ。



 深川偽伝
 二十節 雨天



 おかしな世界に流れ着いて今日で果たして何日目か。面倒なので始めから数えて無かったが、一月は軽く経過してると思う。初夏だった季節も大分暑くなってきて、日差しは夏真っ盛り、ではあったのだが本日は土砂降り。野外での訓練に付き合ってることが多い俺だが、今日は暇を持てあまして縁側で庭を眺めている。

「あ、九峪さん。こんなところにいたんですか」
 名前を呼ばれて顔を上げると、普段からよく訓練を見てやってる山人の娘、伊万里がそこに突っ立っていた。

「んー、伊万里も暇か? 暇ならまぁゆっくりしていけや」
「まあ、暇と言えば暇ですけど。上乃が探してましたよ?」
「上乃がねぇ。まぁほっといてもその内嗅ぎ付けてくるだろ」
「それは、多分そうですけど」

 上乃と言うのは伊万里の妹分で、俺に惚れてる女の子だ。容姿スタイルなかなかの上物だ。いつかものにしたいとは思うのだが、世の中そうそう上手く行かない。二人の間には、と言うか俺の身の回りには分厚い障害があるのだ。

「それにしても、凄い雨ですね」
「全くだな。こう雨だと暇でいかん」
「深川さんは?」
「あいつはあいつで忙しいみたいだ。まぁ頭良い奴はやることが多いんだろう」
 余計なことまで気を回しすぎなのだとは思うが、あれは生まれ持った性分だから口を出すだけ無駄だろう。

「……聞いてみても良いですか?」
「なんだ、突然」
「いえ、ふと疑問に思ったもので。実際九峪さんは、深川さんをどう思ってるんです?」
「前に上乃にも聞かれたけどな。あいつは空気みたいなもんだよ。いるのが自然すぎてどうと言われても困る」

「好きなんですか?」
「好きって言われりゃ、まぁ別に嫌いじゃないんだろうが、距離が近すぎてよく分からん」
「それだけ、特別なんですね」
「特別は特別だろうけどよ。上手く言えねーな。あいつとの関係ねぇ。なんなんだろ?」
「聞かれても私は知りませんよ」

「そもそもあいつといつ知り合ったんだっけ。そんな昔じゃないはずなんだが、さっぱり覚えてないな。気付いたらそこにいたし」
「その時から、ずっと今みたいな関係ですか」
「いや、今とは違ったな」
「へぇ。どういう風に?」
「少なくとも、そのときの俺には、好きって言える奴がいたからな」

 伊万里は驚いた様な顔をする。

「まぁ、こっ恥ずかしい昔の思い出だ」
「どんな、人だったんです?」
「なんだ、気になるか?」
「少し」
「そうだな、少し、どことなくだが、伊万里に似てるかもしれないな」

「え?」
「気が強くて、芯が強くて、凛としてて。長い髪が綺麗で」
「や、ちょっと九峪さん。そんな見つめないで下さい」
 顔を赤くしてそっぽを向く伊万里。初々しいのぅ。

「くーたーにー。何伊万里口説いてるのよ」
「お、上乃」
「もう、本当油断も隙もないんだから。深川も心労が嵩むね、こりゃ」
「いーんだよあいつは好きで苦労してんだから」
「ちょっと同情するわ」

 唐突にやってきて、寝転がる九峪の頭を持ち上げ、膝枕するように座る上乃。

「で、九峪の好きだった人の話? おもしろそうね、聞かせてよ」
「別におもしろい事でも無いだろ」
「参考までによ。九峪をどうやったら陥落できるか」
「んー、十年早い小娘」
「と、いいつつ尻を撫でないでよ」
「嫌か?」
「別に、九峪になら何処触られても、嫌じゃないよ」
 ポッと顔を赤らめる上乃。伊万里はそのやりとりを見て呆れ顔だった。

「で、どんな人だったのよ」
「どんなって言われてもな。いろんな意味で最高の女だった」
「いろんな意味って?」
「あらゆる意味で、って言ってもいいかな。他の全てが色あせるくらいに」
「…………」
 頬をふくらませて不満そうな上乃と、何か変なものでも見るような目で俺を見ている伊万里。

 得心がいかないのか、伊万里は疑問を口にした。

「そんなに、そこまで言うほど好きだったのに、今は深川さんと一緒にいるんですか?」
 最高の女を手放した理由。あまり積極的には思い出したくもない過去。かといって、忘れることも出来ない過去。

「ん、まぁ死んじまったもんは仕方ないだろ。流石に俺にもどうにもならんしな」
「……あ、すみません」
 悪いことを聞いたと思ったのか、謝る伊万里。
「気にするな。忘れようと思って忘れられるものでもないし、忘れるつもりもない」
 それでも伊万里は申し訳なさそうだったが、上乃は特にそう言うのは無いようで。

「でも、それじゃ私も深川もあんまりだと思う」
 死んだ女にまで嫉妬を燃やしていた。
「あんまりってなんだよ」
「死んだ女がそんなに好きなら、いっそのこと一生一人でいればいいじゃない。代用品みたいに見られてるのは、すんごい失礼」
「いや、それはないって」

「嘘」
「ないない。誰かと誰かを重ねるような真似しないっつーの。上乃は上乃、深川は深川。あいつはあいつだ」
「本当にそう思ってるの?」
「当然だろ。お前等じゃ代用品にしても物足りないからな」
「…………」

 上乃は無言で俺の眉間に肘を落としてきた。
「おほぅっ!」
 激痛に膝枕から転げ落ちる俺。上乃は死人にむち打つように、追加でケリを見舞って来て、俺は土砂降りで視界が霞むような外へとけり出されてしまった。

「ばっかじゃないの! 死んじゃえ馬鹿九峪!」
 荒々しい足音を残して去っていく上乃。俺は雨に打たれながら、激痛の走る眉間を押さえて、ため息をついた。






 雨が上がって綺麗な夕日が見える頃、変わらず暇な俺は街に出て喧噪の中に身を置いていた。狗根国から解放された事で住民の表情は明るい。長年の苦しみから解放されて、自由を味わっている。ただ息を吸うだけのことでも、今までとはまるで違うというような、そんな表情。

 楽観ではあるだろう。これからも反乱軍が勝ち続けなければ、この表情はあっさり絶望に染まるのだ。だから、負けられないのだろう。負けてはならないと、思えるのだろう。

 他人事の様に思う。言葉の上では理解できるが、それはあまり意味の無いことだ。だから、戦に加わることも無いだろう。そのせいで負けるとしても。そのせいで、こいつらが泣くことになるとしても。

「おや、九峪さんではありませんか」
 街の真ん中で声をかけられ、振り返ると音羽がいた。女で俺より身長が高いから異様に目立つ。俺もこの世界じゃ割と身長は高い方だから、二人並んでいるとかなり目を引くだろう。お互いそれを気にする性格でもないが。

「奇遇だな。音羽は何か用事か?」
「槍を鍛冶屋に出してまして。それを受け取りに」
「ふぅん。鍛冶屋か。ついて行ってもいいか?」
「別に構いませんけど」

 音羽は気さくに応じて歩き始める。

「そう言えば九峪さんの剣も大分傷んでいましたね」
「ああ、そう言えばそうだな。まぁどうせ敵から奪った奴だから」
「どうでしょう。一本きちんとしたものを拵えてみては。これから行く鍛冶屋はこの辺りでは腕利きですから」

「んー、まぁ確かにそれはそうかもな」
「……あまり乗り気じゃありませんか? でも、いざというとき剣が折れたりしてしまっては、それこそ命を落とすことにもなりかねませんよ」
「刃は欠けるもの、刀身は折れるもの。所詮剣など消耗品に過ぎない。だから、剣を選ぶ内は半人前だってのが持論でね」

「愛着とか、湧きません?」
「何? 音羽って自分の槍に名前とか付けてたりするのか?」
「……駄目ですか?」
 大柄で大人っぽい音羽だが、首を傾げたその仕草は、どこか子供っぽい。やばい、ちょっと萌える。

「別に良いと思うけどね。そっちのが一般的なんじゃねーの?」
「ええ。やっぱり慣れた得物を使った方が、戦いやすいですし。どんな武器を持っても強いというのが、それは確かに一番良いんでしょうけど、私はそれほど器用じゃありませんから」
「言うほど不器用にも見えないけどな」

「いえ、私など全然です。得手としている槍ですら、まだ使い慣れたものでないと自在には操れません」
「音羽ならそこそこ使えれば大抵の敵には問題ないと思うけどな」
「そこそこの敵ばかりであれば、それでも良いのでしょうけれど」

 敵はそこそこではない、ということか。それは確かにその通り。狗根国軍は強い。万全で挑みたくなる気持ちも、分からないじゃない。

 鍛冶屋の前にさしかかって音羽は頼んでいた槍を半金と引き替えに受け取る。長身の音羽が操る事を前提にするにしろ、規格外の長槍だ。三メートル近いだろう。こんなもん使ってるから、他の槍がしっくり来ないんだと思うが、うっとりとしながら槍に頬をすり寄せている音羽を見ると何も言えない。

 音羽の普段のしっかりとした姿とのギャップを楽しんでいると、男が一人鍛冶屋の前に現れた。同じように武器を預けていたらしい男は、フードを目深に被ってさらに顔を覆っているので、人相はよく分からなかった。変な格好の奴だなと思ったが、俺からするとこの世界の人間全般に言えることなので、それが本当に辺かどうかも一概に言えない。こういう輩も、実は結構いるのかも知れない。

 男は剣を受け取ると、鞘から僅かに抜き仕上がりを確かめ、無言で礼金を渡す。そのまま立ち去るかと思ったが、こちらを見るとぼそっと一言つぶやき、忌々しげな視線をよこした。

「……?」
 何が言いたいのか、言葉の意味がよく分からなかったが、男は言うだけ言って溜飲を下げたのか、それとも他に用事でもあるのかそこから立ち去った。

「はっ、私ったら。すみません九峪さん、一人でぼーっとしてしまって」
 ようやく正気に戻った音羽がこちらに向き直る。

 俺は何となく視線で男の姿を追っていたが、直ぐに男の姿は人混みに紛れてしまった。






「『贖え』、か?」
「ああ、確かにそう言ってたぜ」
「またどこかで恨まれたか」

 心当たりが無いな、とあまりにも嘘くさい事を平然と呟いた深川は、湯上がりの濡れた髪を丹念に拭いている。一緒に入っていたのか、もう一人のちっこい深川……、じゃなかった淺海も夜風で髪を乾かしている。俺も行けば良かったか、と思ったが残念ながら留主の館の風呂は混浴ではないのだ。あくまで現状はだが。

「聞く限り、その男とやらは伊尾木ヶ原で反乱軍を助けた男と特徴が合致するようだが」
 淺海は知り合いか? なんてどうでも良さそうに聞いてくる。

「特徴って言っても、顔隠してる男で剣を持ってるって事だけだがな」
「そんな怪しい形の輩がそんなに多くいるか」
「いないのか?」
「街を回っていれば見当くらいつくだろう」

 そう言われたが、街と言ってもそれほど大きなものじゃない。人口だってせいぜい千人かそこらだろ。それだけしか知らないのに、全部が分かったような事を言う方がどうかと思うが。

「まぁ同一人物だったからといって、どうという話でも無いだろうが」
 深川はばっさり切り捨てると、あらかた乾いたのか、髪を拭くのを止めて燭台の炎を吹き消した。

 衣擦れの音。ぱさりと衣が落ちる音。
 急に訪れた闇に、視界は真っ暗だが気配だけで大体深川の動きは分かる。

 そっと、手が頬に触れる。風呂上がりの割に、ひんやりとした手のひら。
 それからするりと腕が頭を抱え、顔に柔らかくて、部分的に硬いものが二つ触れる。
 心臓の鼓動が高鳴っているのが分かる。

 俺のものか、深川のものか。

 冷たいと思っていた肌が、一気に熱を持って行く。

「……あー、そういえばな」

 腰を抱き寄せながら、言っていなかった事を思い出す。

「その男って、日魅子の――――だったぞ」

 深川の爪が、後頭部にめり込んだ。

「ぬおっ、痛てえっ! 深川爪、爪! 背中くらいなら良いが、頭皮はやめろっ! はげたらどうする」
「――あいつの、なんだって?」

 殺気か、恐怖か、強ばった声。

「何って、知ってるだろ?」
「そんな馬鹿な話があるのか?」
「あったんだから、あるんだろう」

 深川の腰を抱いて、そのまま押し倒す。これ以上頭皮を破壊されるのは勘弁だ。

「……贖えか。ふん、あの痴れ者め」

 何かに納得したように、したくも無かったかのように毒ついた深川の口を塞ぐ。

 話はやることをやった後に、もう一度することにしよう。

 ――事が終わって、もし覚えているようだったら。













追記:
 一週間間をおいての更新デス。
 今回から九峪のターン。意味があるようであんまりない一節でした。

 web拍手のお返事。
 4/10。

18:52 次回から九峪のターン!?おお、遂に何下に強いのに影が薄かった主人公の内心を知る事ができるんですね。い
18:53 つもエロい事しか考えてないとか、じつは本気で何も考えてないとかだったら大爆笑なんですが楽しみです。
 と頂きました。
 概ねその通りだったり(爆 いや、色々考えていないこともないんですがね。まぁ馬鹿なので仕方がないのです(ぉぃ
 コメントありがとうございました。

 4/11。

19:43 えぐられた目玉も元に戻るそうでちょっとほっとしました。ミニ深川もなかなかカワユス
19:48 そして再興軍も来ましたねぇ。九峪の王国を作ろうとしてる深川にとっては後々邪魔になるでしょうな
19:59 はれむぅのほうは大小深川さんがいますが、上乃たちはどうなったんだろ~
 と頂きました。
 最後の一つが別の人かも知れないけれどまとめてお返事をば。
 目玉が生えてくるなんて一体深川の体はどうなってるんだろう? と書いた本人が言ってみる。左道にしても方術にしても回復系って原作じゃなかったようなー。再興軍はぼちぼち登場と言うことで。そのまえになんかイベントが、というか現状だと合流も出来ないので。
 はれむぅは九峪のターンになったので着々と進行する……かも。
 コメントありがとうございました。

 4/14。

21:45 愛ですね。深川さん健気過ぎる。
 と頂きました。
 健気な深川。それに気付いているのかいないのか、九峪は我が道を行きます。目指せ全員攻略(注:嘘です)
 コメントありがとうございました。

 4/19。

3:22 きっと「奴」は、つるぺた幼女バージョンでも容赦なく貪ってるに違いないと思う今日この頃。
 と頂きました。
 誠実っぽくてさにあらず。奴は多分鬼畜です。
 コメントありがとうございました。

 他にも拍手ありがとうございます。


 アレクサエルさんからコメント。

19話もいいですね。
なるほど、これ程の失態(これは大人深川のせいにしたら酷ですが)では、簡単には狗根国には帰参出来ませんね。
三人ですが、これで九峪派と言うか、九峪組の結成ですかね。
藤那の台頭かな? 大人は嵩虎かな?
原作のように、初代姫御子の亡霊に選ばれるのではないのなら、普通なら主流派?の星華や藤那が選ばれるでしょう。 後、官僚組織が整備されてきて、軍部独裁でなくなれば、金を握っている只深と言う可能性も・・・・・。
伊万里、志野、香蘭はとても可能性が低く、特にハーフである香蘭は更に低い。
ナポレオンみたいに余程手柄を立てれば別でしょうが・・・・・・・・・・・。
 と頂きました。
 敵が強かったから負けました、と言う言い訳は出来ないでしょうし深川も辛いところですねぇ。帰れたら帰るのかと言うのもまた別問題なのかも知れませんが(?)
 再興軍の編成については当分あかされないと思いますが、使者は嵩虎であってます。頭にいるのが誰であれまぁ、それなりに回るのでしょうけども、少なくとも伊万里はこちらの陣営にいるので無いですね。そのうち出番が欲しくて出しゃばってくると思うので、それまで楽しみにしてただければと思います。
 コメントありがとうございました。


 次回更新は多分来週……だと思う。
 では本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2008/04/20 20:48】 | 小説 | コメント(1) | page top↑
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コメント
20話いいですね。
 しかし、九峪もしゃべれたんですね。 今まで、ほとんどしゃべらなかったんで・・・・
(いうあ、深川と話していたか)
 まさか、上乃、伊万里も加えて、九峪組増設(ハーレム)?
 しかし、確かに音羽も可愛い。 そもそも、女性が自分より背の高くても気にしない男には
音羽は最高かも(多分、女性にも好かれるだろうし)。 
 戦国時代は、実戦は、剣でなく槍だったそうですね(槍の またざ)
 確かに再興軍の旗頭、藤那とは限りませんね・・・・。
 また、お願いします。
【2008/04/24 21:51】 URL | アレクサエル #xfGWKbWo[ 編集] | page top↑
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