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出雲盛衰記24
 出雲盛衰記
 二十四章



 街道で大荷物を抱えて少女が倒れている。
 荷物の量は殆ど自分と変わらないような大きさだ。
「おい、起きろ。生きてるか忌瀬」
 頭上から掛けられた声に、少女は僅かに瞳を開いた。

「ん、その声は……」
 かすむ目に、見覚えのある顔が飛び込んでくる。
「九峪……。なんでこんな所に」
「こっちのセリフだ。道ばたで寝るなよ」

「好きで、寝てたわけじゃ。志都呂がいつまで経っても戻ってこなくて……っつ」
 立ち上がろうとして顔をしかめる。足に激痛が走ってそのままうずくまってしまった。

「あ~あ、豆が潰れてそこから皮が剥がれてるな。痛そ」
「う~、どうしよ。そういえば九峪一人? 天目は?」
「あ~、変なもん拾っちまってなぁ」
「変なもん?」
「ま、何でもいいだろ。で、志都呂は何処に行ったんだよ? お前置いて荷物も置いて……」

 九峪はそう言いながら荷物を持ち上げる。
「狗根国の連中を見てくるって言ったっきり帰ってこなくて。仕方なく私だけでも街へ行こうと思ってたんだけど……」
「街って、この先は廃墟だけだぞ」
「そうよ。でもそこに私より年下の子供達がたくさん――……。九峪、もしかして」

 忌瀬も狗根国の話を聞いた時点で気が付いてはいたのだろう。だが、その可能性を考えたくはなくて。
「細かいことは分からんが、生き残りは一人だけだ。その生き残りは天目が見てる。それでもう一人連れ去られたって言うからな。それを助けてくれと頼まれてな」

「できる……の?」
「日暮れまでに追いつければな。幸い今日は朔だしな……」
 九峪はそう言って空を見上げる。

「後から天目が来るからお前がここで待ってろ。まぁ、その間に足の治療でもしてるんだな。これだけ薬草があるんだからまず自分に使えよ」
「あ、そうだね」
 忌瀬はそんなことにも気が回らないほど焦っていたことに気が付く。

「で、志都呂にはもうやられちまったのか?」
「九峪と一緒にしないの! あの人が私にそんな真似するわけないじゃない」
「俺もやらねーよ。じゃ、そう言うことで大人しくしてるんだぜ」

 走り出そうとした九峪に、忌瀬は声を掛ける。
「志都呂さんのこと、お願い」
「ああ、任せろ」
 九峪は軽く請け負って街道を走り始めた。



 宵闇が落ち、狗根国軍は街道沿いの廃村で野営の準備を始めた。
 志都呂は闇に紛れて大胆に近づく。
 死角が増える闇の中は、他のものより聴覚が鋭い志都呂には有利な状況だ。だが、それでもなお志都呂の顔には緊張が張り付いている。

 ――馬鹿か、俺は。

 志都呂は内心毒吐きながらも志野の姿を探す。
 何の目的で志野を連れているかは判然としなかったが、志野がこの場にいる以上街の子供達は既に……

 だからこそ、一人でも救いたいと思った。
 何より志野の指導力は、志都呂から見ても今後の九洲に必要とされる力だと思ったから。ここで志野一人救うことは、一人の少女の命以上の価値がある。志都呂はそう信じていた。

 例えそのために自分の命を引き替えにしたとしても……。



 即席の天幕が作られ、そこに人は二人だけ。
 いや、"人"は一人だ。
 もう一人は人の道をとっくに捨て、魔道を歩む人外の怪物。

「娘。お主は不思議に思わなかったか? 親とはぐれた子供ばかりがあの場所にいたことに……」
 問いかけられた少女、志野は顔中に恐怖を浮かべながら、異形のものに対峙している。

「不思議だった。けれど、あなた達が来たことで全部分かった。あなた達はわざと私たちをあの場所に集まるようにし向けて、そしてそこで様子を探っていたのね。ずっと……」
「カカ。聡明な娘だ」
 不気味な笑いに志野は震え上がる。
 それは心の奥底から湧き上がる、本能的な畏れ。

「私のお父さんとお母さんも……」
 ぎゅっと拳を握りしめる。

 蛇蝎は涙を堪えている志野に、ゆっくりと近づくと外套の下から乾涸らびた腕を差し出す。
「望めば記憶も消してやろう。どのみちお前が生きていく術は一つしかない。ならば少しでも楽に生きたいであろう?」

 志野は決然と蛇蝎の腕を振り払う。
「嫌だ! 絶対に! 私は、忘れない! お父さんやお母さんを殺されたことも! みんなを射殺し、焼き殺したことも!」

 蛇蝎は不気味に笑って腕を引っ込める。
「カッカッカ。ならば儂を恨むがいい。恨みは生きる糧となる。いつか儂を殺せるようにな」

 踵を翻し、天幕を出る蛇蝎。
 魔物の気配が無くなると、志野は声を押し殺して泣いた。




「蛇蝎様、ネズミが紛れ込んでいるようですが……」
 天幕から出た蛇蝎に、部下が耳打ちする。
 他の鎧を着ている部下とは違い、左道士特有のゆったりとした官位に身を包んでいる。蛇蝎は一言始末しろとだけ呟く。

「それと、妙な男が蛇蝎様に会いたいと……」
「妙な、男?」
 はっきりとしない部下の報告。
「え、ええ。身なりは旅人のようなのですが、狗根国将軍の官印を持っていましたので……」
 官印とは官位を証明する印鑑で、公文書にも押されたりする。それを持っていると言うことは、見知らぬ男は狗根国の将軍職、或いはそれに相当する立場にあるものとなる。

「旅人……、将軍の官印……。あ奴か。儂の天幕まで通せ」
 蛇蝎はそう言って自分の天幕へと向かった。

 主人のこだわりなのか蛇蝎の天幕は何故か黒い。
 その前に立った蛇蝎は、護衛をしている兵を下がらせて自分は天幕の中へと進む。

「よう、ごくろーさん」
 そこには九峪が待っていた。

「……勝手に入られては困るな、雅比古」
「別にいいじゃねぇかよ。一応俺も将軍様だぜ?」
 悪戯っぽく笑う九峪。
「フン、それで何の用だ? 来るならば満月にすれば良いものを……」
「冗談じゃねぇ。てめぇにだけは喰われてたまるか、クソ骸骨」
「何の用だ?」

 九峪は蛇蝎の代わり映えしない面容を見つめながら、本題を切り出す。
「娘一人さらっただろ? あれ俺にくれよ」
「……何を言い出すかと思えば。出来ぬな」
「お前があちこちで似たような事をやってるのは知ってる。別に一人くらい構わないだろ」
 蛇蝎の窪んだ眼下の底の瞳と、九峪の双眸が空中で激突する。

「……それはできんな」
 数秒の間をおいてから蛇蝎はため息混じりに呟いた。

「珍しいな。お前にしてみればただの娘子だろ。わざわざこだわるほどのものか?」
「あれはな、ただのと言えるほど下らないものではない。育て方に気を付ければ、儂の片腕にもなろう」
 九峪はその言葉に面食らった表情になる。

「蛇蝎がそこまで評価するのか。こりゃ参ったね。だが俺もどうしても欲しいんだよなぁ」
「貴様如きの慰み者にするには惜しい。どうしてもというなら……」
 蛇蝎の鬼気が増す。
 冷たい風が暗黒の風となって天幕の中に吹きすさぶ。

 九峪は真面目だった表情を途端に崩すと、両手を上げて降参する。
「わかったよ。お前と殺り合っても益はない。ここは俺が引くとしよう」
 そう言って九峪は一瞬で天幕の入り口まで移動する。

「いい女なんだ、やりすぎて壊すなよ。勿体ない……」
「貴様の知ったことではない」
 蛇蝎が鼻で笑うと、九峪は「じゃあ、身体におきをつけて」と、いやみったらしく呟いて出て行った。




 ――あの蛇蝎がこだわりを見せるほどの少女か……。

 天幕を出た九峪。
 他の天幕の方で騒ぎが起きているのを見つめる。のんびりとそちらに足を向けると、明らかな部外者が狗根国兵と斬り結んでいる姿が目に入った。




「何をやっている! 早く討ち取れ! 相手は一人だ、囲め囲め!」
 黒い鎧が部外者を包み込むように展開していく。

「くっ、やはり無茶だったか」
 志都呂は口の中でだけ呟いた。
 今はまだ一般兵だけで、囲まれたとは言えしばらくは持ちこたえられそうだが、なにせ数が数だ。

 ――ここが死に場所か。

 覚悟は決めていたとは言え、間の抜けた自分に笑いたくなる。
 その視界、狗根国兵の人だかりの間から、見覚えのある顔が飛び込んでくる。

 ――九峪! なんでここに!

 唐突な出来事で一瞬動きが止まる。
 その隙を見て背後から狗根国兵が斬りかかるが、志都呂は右手に持っていた剣を振り上げてその攻撃を弾くと、回転しながら鎧の僅かな隙間を狙って左手の剣を突き出す。

 素早く剣を引き抜くと同時に、次の相手の攻撃を止めた。
 多対一の戦闘では動きを止めればそこに一斉に襲いかかられて負ける。

 志都呂は動きながらもう一度九峪を見つめる。

 九峪は志都呂と目が合うと、やれやれといった風に肩を竦めてみせる。

 ――まったく、あいつは本当に。

 志都呂も笑みを浮かべた。

 希望が見えてきたこともあってか、志都呂の動きが良くなる。包囲する百を超える狗根国兵が徐々に押され始める。

「そこまでだ下郎! 食らえ、禍し――」

 左道士が唐突に左道を発動させる。
 しまったと細い目を見開く志都呂。

 九峪は、ゆっくりと口を開いた。

「時は、止まり――――そして俺は加速する――!」

 世界の全てが凍り付いたように動かなくなる。
 九峪はその空間を恐ろしい速度で移動する。
 普段の九峪からは考えられない動き。

 九峪はまず志都呂の元まで行くと志都呂の服を脱がし、同じ背格好の狗根国兵の鎧を剥いで着せ替える。
 そのまま志都呂を囲いの外に放り出し、志都呂の立っていた場所に服を着せ替えた狗根国兵を置いた。

 ――その間、実に三秒!!

「時は――再び動き出す」

 九峪が呟くと同時に志都呂の格好をしている男を、左道士の方へめがけて蹴り飛ばした。

「――餓鬼!!」
 突然志都呂が自分に向かってきた事に狼狽しながらも、左道士はそのまま左道を放つ。志都呂は直撃を受けてバラバラになって死んだ。

「だ、誰だ!」
 唐突に囲いの中に現れた九峪に、狗根国兵の一人が叫ぶ。
「お前等ちっと弛んでるな。賊の一人も満足に始末出来ないのか?」
「な、誰だと聞いている!」
 九峪はため息を吐きながら答える。

「狗根国四天王の一人、幽鬼将軍雅比古って言えばお前等も知ってるだろ?」
 全員電撃が入ったように縮み上がった。

「あ、あの伝説の……」
 どんな伝説があるのか、完全に恐れおののいている兵士達。

 その兵士達を掻き分けるように、蛇蝎が出てくる。

「お主、いつから人前で名を名乗るようになったのだ……」
「勘違いするな蛇蝎。俺が人前で名乗る意味は一つしかない……」

 全員がその言葉に震え上がる。

 九峪はついぞ見せたことの無いような冷酷な声で言った。
「俺が大王から命ぜられた職務は一つ。怠惰に身をやつした狗根国兵の処分。ずっと付けられていながらここまで気が付きもせず、満足に雑魚一匹処分出来ない弱兵共。お前等に狗根国軍を名乗る資格はない」

「カカ、儂の監督不行届かの?」
 愉快に蛇蝎が笑った。
「ふん、お前はただ兵を借りてきただけだろう。とはいえ、現場の責任者であることも事実。責任問題かな?」
 九峪も愉快に応じる。
「では、どう責任を取ったものか」
 まるで楽しむような声色。
「二つに一つ。全ての責任を負ってお前が死ぬか、お前自ら兵に処罰を下すか……だな」
 九峪も声が弾んでいる。

「では、後者を選ぼうか。カッカッカ」
 時が止まったわけでもないのに、凍り付いたように動けなくなる狗根国兵達。九峪は嬉しそうに笑って踵を返す。

「じゃ、任せたぜ。俺はもう行く」
 そう言い残し、姿を消した。












追記:
 あ~、戦闘シーンの辺りが視点がごちゃごちゃして読みにくいな。分かってるなら直せって? 面倒だしパス。漫画とかだとああいう素早い視点の切り替えがやりやすくていいんですけどね。まぁ、小説の方が心理描写が細かくできていいというメリットももちろんあるんですけど。そもそも作者に漫画書く才能が無いからね。書ける人が羨ましいです。

 で、今回なんか長くね? 分けようと思えば半分くらいにしても良かったかな。まぁ書いてしまったものは仕方ないか。志野がどうなったとか、志都呂は一緒に蛇蝎にお仕置きされてるのか、とかはまぁ次回で。想定外の展開にはなりません。

 と、まぁそんなことは置いといて、九峪が狗根国の四天王?! とかなんとか適当な事をまた書いてるし……。その辺のエピソードは後々語らなくてはならないか。例によって考えてないけど。
 後九峪の時を止める時間が長くなってるような感じがしたかも知れませんが――実際三秒で着せ替えは不可能だけど――それは九峪自身が加速したからでして。補足しておけば朔日(新月の日)だけ使えるオマケ能力です。満月に襲われて朔には強くなるって、ますます変態ですな九峪。



 さて、アトガキはこんなもんで……。本日も恒例のweb拍手のご紹介に。って、毎度の如くフライングしているのせいもあってか無いですね。叩いてくれた人に多謝!


 では本日はこの辺りでヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ

【2006/03/23 00:00】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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