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出雲盛衰記25
 出雲盛衰記
 二十五章



 風下から濃厚な血の臭いが流れてくる。
 志都呂は狗根国兵の鎧を脱ぎ捨てて志野の手を引きながら走っていた。

「志都呂さん、大丈夫?」
 志都呂は何カ所か切られて出血していた。
 止血をする時間も惜しんで走っていたのだが、それを志野は心配そうに見つめた。

「気にするな、志野。それより早くここを離れよう。九峪が上手くやってくれているとは思うが、お前がいなくなったのがばれたら、直ぐにでも追っ手が来るだろう」
「うん」

 志都呂はそう言いつつも内心舌打ちしていた。

 ――思ったより出血が多い。どこかで一度治療した方がいいな。

 何より血の跡を残していては、直ぐに追いつかれてしまう。敵には左道士がいるのだ。魔獣を呼ばれたら直ぐだ。

「焦らなくてもいいぜ」
 背後から掛けられた言葉に、志都呂は足を止める。
「九峪……。大丈夫なのか?」
「まあな。それよりこっちだ」
 九峪はそう言って街道をそれて二人を先導し始める。

「しかし、あの状況からよく……」
「俺様は無敵なのだ……ってか。まぁ蛇蝎のクソにだけは散々恨まれるだろうけどなぁ。後で交渉用に何か用意しとかねぇと……」
「志都呂さん……。誰です?」
 志野は警戒しているのか、志都呂の後ろに隠れるようにしながら、鋭い目を九峪に向けている。これまでの生活と今回の一件で、はじめて出会った大人を信用出来なくなっているのだろう。

「九峪。志野の、いや、私たちの恩人だよ」
「……恩人」
「まぁ、そう言うこった。盛大に恩に着てくれ」
 九峪はそう言ってへらっと笑う。

「――はい」
 志野はその言葉に不満そうにしながらも返事を返した。

「ああ、そう言えば……。珠洲っていうガキが一人生きててな。俺に頼んだのはそのガキだから、感謝するならそいつにもするんだな」
「珠洲が!」
 志野は九峪に駆け寄ると、しがみついて目を見開く。
「本当なの! あの子が生きてるの!?」
「あ、ああ。じゃなきゃ俺は駆けつけられなかったよ」
「そう……良かった」

 志野は瞳一杯に涙を溜めて笑った。

「しかし、本当に良かったのか? 九峪」
 志都呂は九峪の素性を知っている。だから、こんな真似をしたことで九峪の立場がどうなるかも分かっている。
「まぁ、元々いつまでもやれるものでも無かったしな。潮時って言えばそうなんだろ。正直もう少し内部でイロイロやって置きたかったんだが」
「すまない……」
「謝るなよ。お前のせいじゃない」
 九峪は気軽にそう言って先を急いだ。



 場所を少し移してから九峪は志都呂の怪我の治療をし、それから一行は三日ほど歩きづめだった。幸い狗根国の追っ手は無かったし――蛇蝎が部下を皆殺しにしたのだから当然だが――、他に何か困るような事態にも陥らなかった。
 僅か三日で志野は九峪にも心を許し、その顔には明るい笑顔が戻っていた。それでもやはり時々悲惨な経験を思い出すのか、塞いだ顔を見せてはいた。
 九峪はそう言う顔をしているたびに、志野に声を掛けた。どんな言葉でも陰惨な出来事は志野の心から決して消えはしないだろう。だが、それでも少しづつ癒していくことは出来る。

「九峪さん……私、これからどうしたらいいんだろう」
「道は教えてやる。でも、志野がそこを歩くのか、それとも他の道を選ぶのか、それは自由だ」
「どんな、道?」
 志野は首を傾げる。
 九峪は意地の悪い笑みを浮かべて口を開く。

「血まみれで、死人ばかりが山をなし、そして最後には自分もくたばっちまう。そんな道」
「いやだよ……そんなの。私もう……誰も失いたくない」
 志野はいやいやと首を振る。
 九峪はそんな志野の頭に手をぽんと置き、続きの言葉を口にする。

「かわりに、誰かが笑う道だぞ? 笑って、泣いて、喜んで、悲しんで、そんな当たり前の感情を誰もが持てるようになる、そんな道。志野にはその力がある。自分は何も得られないかも知れない。でも、誰かを幸せにしてやることは出来る」

「……私が、みんなを?」

 それがどんな道なのか、志野には想像もつかなかった。ただ、死んでしまった子供達の顔が、唐突に浮かんできて、その笑顔が脳裏に溢れたとき、志野は反射的に頷いていた。
「やる。私、その道がいい」

「たくさん死ぬよ? きっと、珠洲もな」
「それは、嫌だけど。その代わりもっと大勢の人が、笑えるんでしょ?」
「ああ、それは確かだな」
「じゃあ、いい。やる。珠洲は分かってくれるし、悲しむのも私だけだもん。その道を、教えて――」

 九峪は頷く。
 まだ十になったばかりで、覚悟という言葉すら知らない志野が、それをきっちりと出来ている事に笑みを浮かべながら。

「この国が今酷い状態にあるのは、全部狗根国のせいだ。狗根国が好き勝手やって、耶麻台国を滅ぼしたのが原因だ。だから狗根国を追い出せばいい。そのためには色々とやらなくちゃならない。仲間を集め、兵を起こし、軍を編成して戦うんだ。出来るか?」
「出来る。あいつ等が相手なら……私は喜んでやる。喜んで殺す!」
 復讐の炎が志野の瞳に揺らめく。

「よし。でも今の志野じゃ誰も集まってこない。大きくなるまでその下準備だ」
「うん」

 志都呂はそんな光景を見ていたが、止めようとはしなかった。九峪のやっていることは幼い子供に対する洗脳であり、他の道を閉ざすことでしかなかったが、それでも志都呂は理解していた。
 志野は普通の子供ではない。

 この状勢で、他の生き方を選んでいいほど、志野は普通ではないのだ。持って生まれた才能故に、選ぶ道を限定される。不憫ではあった。だが、同時に羨ましくもある。
 少なくとも、志都呂にはその道を選べるだけの能力はない。

「残念ながら俺は長く一緒にはいられない。聞くべき事は志都呂が知っている。志都呂に全てを教わるんだ」
「はい、九峪さん」
 幼い志野は、幾ら聡明でもやはり純粋だ。一度信用した相手の言葉は絶対。

 九峪は一瞬だけ志都呂の方を見た。
 視線が交錯する。
 それでお互いの意志は分かった。

 ――俺たちロクな死に方しないだろうな。
 ――それも一興……だろう?

 九峪は笑みを浮かべて志野を抱きしめた。



「遅い! 何をしていた今まで!」
 とある山人の里に着いた九峪は、天目の説教に小一時間付き合わされた。
 元々王族と言うこともあってか、天目はこの年で妙に説教慣れしている。もっとも九峪もされることには慣れているのか、見事に聞き流しているのだが……。

「あの、天目さん。遅くなったのは私の足が遅いからで……」

「あなたは黙ってて! 足が遅いというなら九峪が担いで来れば良かっただけの話よ! どうせ私に会いたくないからってまたさぼってたんでしょ! 」
「いや~、そんなこと無いって天目。俺はお前に会いたくて、まるで矢の如き速度で飛んできたんじゃないか」
「あからさまな嘘吐いてるんじゃない!」
 天目のケリが見事な角度で決まって九峪は吹っ飛ばされる。

「相変わらずだな、お前等は」
 志都呂は呆れたように呟いた。
「志都呂! あなたも信用してるから忌瀬を預けたのに、それを放り出して一人で行動するなんてどういうつもりだ!」

 矛先が見事に変わる。
 志都呂は呻くときょろきょろと忌瀬の姿を探す。

「そう言えば忌瀬は?」
「……ここにいるわよ、志都呂♪」
 声は背後から。
 同時に志都呂の背中に大荷物が叩き付けられた。
 例の薬草が満載になった奴だ。

「うおっ! こら、忌瀬なんて事を……」
 忌瀬は涙のたまった目で志都呂を睨むと、思い切り頬に平手打ちを食らわせて抱きつき、大声を上げて泣き始めてしまった。
「ああ、ごめんよ忌瀬。お願いだから泣かないでおくれ……」
 わたふたと取り乱す志都呂。
 忌瀬が鳴き声を上げながら伏せた顔は笑っていたのはここだけの秘密。

「珠洲!」
 忌瀬と志都呂が感動の再会を果たしている横で、志野もまた同様に再会に涙していた。
「志野……よか、よかったぁ」
 二人の少女は硬く抱き合って、互いに涙する。

 そんな都合四人を横目で見ながら、天目はため息を吐いて九峪を見ていた。こちらはこの程度の別れと再会は日常茶飯事なので涙も何もない。
「……おう、少しは抱きついてもいいんだぜ、天目」
 九峪は茶化すように言う。
「誰が……。私はあなたを識っているもの。この程度のことで消えるはずがないわ」
「かわい気が無いな」
「あなたこそ、私に抱きついてみたら?」
 挑発的に天目が手を広げる。

 九峪は苦笑すると、小柄な天目に飛びかかった。
「わ~ん、寂しかったよ~天目」
 わざとらしくそう言って、無精髭を頬にこすりつける。
「ちょ、痛い、痛いから離れて九峪!」
「そう言うなって、ほ~れじょりじょり」
「離れろって言うのが分からんのか~っ!」

 激高した天目は九峪のことを思い切りぶん殴って離れる。
「ったく、もう少し大人な再会の仕方にして欲しいものだわ」
 とか、ぶつぶつ呟いていたが、九峪には聞こえなかったようだ。


「あ~、しかし、アレだな」
「ん?」
「お前に殴られると安心するわ」
 九峪がそう言いながら、青くなった目元をさする。

「なんでよ……。変態?」
「違うわ。なんつーか、俺等に家は無いだろ? あるとすれば、それは俺にとってお前だけだからな」
「え……」
 天目は思わず赤面する。

 帰るべき家。
 九峪は照れてる天目の背後に回ると、そっと耳元で囁く。

「な~んてな。こんなんで赤くなるなんて、天目もまだまだかわいい女の子だな、ケッケッケ」
 それは或いは照れ隠しだったのだろうが、天目はますます顔を赤くすると同時に、九峪のことを全力でボコリ始めた。













追記:
 と、言うことで志野過去編終了! 全三回ですか。二回でまとめたかったけど、四回くらいに伸びなかっただけよしとしよう。書くところはまだ色々あるけど、きりがないんで終了。断固として終了。
 いや~、しかし九峪、いたいけなおこちゃまに洗脳しちゃアカンよ。この後九峪は何回か志野の元を訪れて、洗脳を強化していき、結果的には復興軍に収まってるわけですが、その割りには復興軍での志野があまりに控えめでしたな。きっと亜衣とか星華に睨まれることを畏れて爪を隠している鷹なのでしょう。そのうち大活躍するかも?! まぁ、相変わらず知ったこっちゃ無いんですがね。
 で、過去編をやった以上、時間を元に戻したら志野編が始まるかというとどうでしょう。更に先送りにする予感もするし。本当に考えてないから、衣緒でグログロ編になるかも? 先のことは分からんです。標的は他にだれかいたかなぁ。


 さて、アトガキはこの辺にしてと。毎度恒例のweb拍手へのお返事へ~。昨日はなんか沢山きてましたね。
 では、まず一件目と二件目。

0:49 幻聴記がすごい楽しみです。頑張ってください。by鬼炎
0:50 はぁと はちとキモイっすよー(失礼)
 と、頂きました。
 幻聴記……。ああ、すっかり忘れてましたね存在を。連載再会したはずなのにぼちぼち二月くらい経っちゃっいそうですね。ぶっちゃけ第三部から先を無かったことにして全部書き直してやろうかと企んでる今日この頃なんですが……。どうなることやら。なんとか頑張ってみたいと思います。
 で、はぁとがキモイと……。まぁ確かに野郎にはぁとと言われてもね……。と言うわけで一部コメントを変えたけど……、別に見るほどのものではないと言っておきましょう。
 コメントありがとうございました。

 では続いてお二人目。

1:48 「時は――再び動き出す」他作品を連想して読者失格かもしれませんが、ここらへんのフレーズに痺れます(w
1:49 でも、志野をどうやって問題無く助け出すんでしょうか。楽しみに続きを待ってますー
 と、頂きました。
 時を止めるのはまんまDI○なわけで、ネタみたいなもんですからむしろ連想してくれないと困ります。……別に困りはしないか。でもまぁ、突っ込みどころ満載の能力ですけどね(笑 志野の救出については読んで貰えば分かるとおり描写はないですね。九峪が蛇蝎とうんちくやってる間に志都呂がこっそりと志野を連れ出して逃げたと思って頂ければ幸いです。
 コメントありがとうございました。

 では続いて、え~と五件まとめて同じ方。

20:11 うふふ
20:11 うふふふふ
20:12 アイカワラズ、オモシロイデスナァ
20:13 コレカラモ
20:13 ヨロシク 旦那
 と、頂きました。
 ……怖っ! 不気味な笑いが……。ストーカーでしょうか。助けてドラ○も~ん ――と、冗談はおいときまして、鵜堂刃衛かよっ! と突っ込んだ作者はもう古い人なのか? うふふ笑いを見ると思い出してしまいます。
 ともかくコメントありがとうございました。

 他にも叩いてくれた人たちの元に幸せが訪れますように(ナムナム

 今日も今日とてフライングで出しているので、今のところこのくらいです。次回更新は来週……できるかなぁ、な感じなので間が空きますが勘弁して下さい。

 では、本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ。
【2006/03/24 00:00】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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