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出雲盛衰記29
 出雲盛衰記
 二十九章



 赤い髪の女は明らかに人間では無かった。
 その血に濡れたような深紅の髪の間から、ひょっこりと細長い耳がはみ出している。

 ――エルフ?

 九峪はその単語を始めに思い浮かべた。
 どうやら異世界に来たことは事実らしいから、亜人種がいてもいいのかも知れない。
 なんて割り切れるほど九峪は夢見がちな子供ではなかった。

 そしてそんな事を考えている暇があると思えるほど、楽観的でもなかった。

 九峪は黙って周囲を見回す。
 いつの間にか黒い鎧の兵隊に囲まれている。
 包囲の輪はジリジリと狭まってきていた。

「逃げ場はないぞ。大人しく掴まれば殺しはしない」
 女はそう言って腰に収めれた鞭に手を置いたまま、油断無く間合いを詰めてくる。

 ――まいったな。ゲームオーバーにしても少しばかり早すぎないか?

 九峪は出来るだけ慎重に天目を地面に下ろす。
 そして両手を上げる。

「なるべく丁重に扱ってくれよ。なにしろ虚弱なもんでね」
 九峪がそう言って嘯くと、いっせいに鎧の兵士達が九峪に群がった。

「いて、痛てぇ! ちょ、お前等手加減しろ! 無抵抗の人間相手に――ぬおぁ!」
 九峪はもみくちゃにされて、両腕をがっちりと拘束される。

「……ああ、痛て」
 鼻血をダラダラと流しながら、天目の方を見やる。
 天目も同じように縛られ、不安そうに九峪に視線を送っていた。

「連行しろ!」
 赤い髪の女が声を張り上げると、九峪達は引きずられるように連れて行かれた。



 狗根国の出雲遠征軍後備軍幕営。
 九峪と天目はそこに連行されると、赤髪の女の天幕に入れられ早速尋問が始まった。
 どこからどう見ても怪しい九峪と天目。特に九峪は見たこともない格好をしており、女はどうやら九峪が重要な人物であると見ているようだった。

「貴様の名前は」
「雅比古。アンタは?」
「これは尋問だ。私の名前など知る必要はない」
「いや、さっき兵士がしゃべってるの聞いたから分かってるんだけどね。魅壌ちゃん」
「……」
 女は無言で縛られて身動きの取れない九峪を蹴り飛ばす。

「質問以外に答える必要はない。今度無駄口叩いたら即刻斬り捨てるぞ」
「へいへい。で、何が聞きたい?」

「貴様は何者だ?」
「生もの」
 九峪の嘗めた返答にもう一度ケリが入る。
「真面目に答えろ」
「……ぐぅ。痛てぇ」
「答えろ!」
 殺気の籠もった一喝に九峪は不承不承答える。

「○×高等学校一年C組、出席番号十二番、今年で十六になる男の子ですが何か?」
「……なんだと?」
 九峪の言葉の意味が分からず首を傾げる魅壌。
「真面目に答えても分からないだろ? つまりアンタの知らない場所からきた知らない人。俺もアンタが何者でここが何処で、なんで捕まってるかもよく分かってないくらいに何も知らないから、自分が今この状況において何者と答えるのが適切であるのかは知らん。どうしても答えろって言うなら、部外者っていうのが一番適切なんじゃないかなと思うけど、それはそっちの解釈するべき事なので尚更俺は知らん」

 魅壌は九峪を計るように見つめる。
 今の言葉の真偽を考えているのかも知れない。
「分かった。確かに見たこともない格好をしているし、普通の人間とも違う雰囲気であることも確かだ。私の理解の及ばぬ場所から来たのだと思うことにしよう」
「ご理解頂けて幸いです」
 九峪は棒読みで礼を言う。

「が、だったらなぜその少女と一緒に逃げていた?」
 魅壌の視線は天目の方へ移る。
「俺は女全般に優しいんでね。目の前に傷ついた女の子がいたら、助けたくもなるんだよ。別にあんたらに襲われてるとか知らんかったしな。助けを請われて幼い手をふりほどくほど人間止めてないし。ただそれだけだよ。つーか、こんなガキ追いかけ回すってどういう了見だよ」
「質問は私がすると言っただろう」
「聞く権利は無いと?」
「冥土の土産になら話してやるが?」
 女はそう言って剣を引き抜く。

 九峪は不機嫌そうに口をへの字に曲げると黙り込んだ。
 魅壌は剣を鞘に収めると、天目の方をじっと見つめる。
 天目はその視線を避けるように俯いた。
「出雲王家の生き残りだな」
「……」
 魅壌の質問に天目は沈黙で答えた。
「ふん。お前等には気の毒なことをした……」

 魅壌はそう言ってため息を吐く。
「同盟を結んで油断させた隙に襲いかかられたのだ、さぞかし狗根国を恨んでいることだろうな」
「……」
 天目は答えない。
 かわりに拳が白くなるほど硬く握りしめられ、身体がかすかに震えている。

「言い訳にしかならんが、今回の攻勢は東山と鋼雷が先走ってやったことだ。狗根国の総意ではない」
 天目は顔を上げると、血が出るほどに歯を食いしばって、魅壌に怨念を叩き付けるように睨んだ。
 涙に濡れながらも血走った目を、魅壌は正視に耐えずに視線を逸らす。

「だが、事がこうなってしまえば、お前を見逃すわけにも行かない。逃せば何時の日かお前は狗根国に牙を剥くだろう。その芽はつみ取らなくてはならない」

「……なら、殺せ。だが、我ら出雲王家の呪い、努々忘れるな。狗根国の傘下に入るもの、尽くに地獄の苦しみを与えてやる」
 天目は幼子とは思えぬ、鬼のような表情で言葉を吐いた。

「……」
 魅壌はただ首を横に振った。
 呪いなど無意味だ、とでも言うように。

 九峪はそんな二人のやりとりを傍観しつつ、何に巻き込まれたのかを漠然と理解した。
 侵略戦争で亡国のお姫様を自分は拾ったのだと。

 ――異世界ものの王道ってやつか。

 そんな事を他人事のように考え、それでもこのまま目の前の少女をみすみす殺させるのも忍びないなと考える。

「魅壌。出雲王家は滅んだのか?」
 九峪の言葉に、魅壌は首を振る。
「王族の何名かは生け捕りにされた。近いうちに大々的に処刑されるだろう」
「ふ~ん。じゃあ天目も一緒に処刑するわけか」
「……だとしたら何だ?」
 九峪は天目の方をちらりと見る。

 俯いて、泣いている。
 九峪はどうしたものかと思いつつ、考えたことを口にした。

「よう知らんが、出雲をすんなり平定するなら、王家皆殺しより効果的な方法がある」
 魅壌は眉根を寄せて九峪を見る。
「なんだ? 試しに聞いてやる。言ってみろ」

「天目に処刑をやらせろ」
「「!!」」

 魅壌も天目も、驚愕に目を見開いて九峪を見ていた。
 九峪は平然と理由を口にする。

「唯一生き残った王族が、親殺しで狗根国に協力的だと知れば、出雲王家再興などと口にする輩は消える。自分たちが今まで頂いてきたものの愚かしさに気づき、新たな狗根国の支配を受け入れ易くなるだろう」
「正気か……お前」
 九峪は肩を竦めてみせる。

「もっともその後であまり締め付けすぎては効果は得られんから、統治するものの裁量次第だが」
 九峪が天目を見ると、天目は嫌々と首を振った。

 それならば一緒に死んだ方がマシだと。

「くっくっく、なかなか面白い事言うな、若造」
 低い声が響き、天幕に大柄な男が入ってくる。
 普通の兵士より装飾が多い事から見ても、どうやら地位が高い人間のようだ。

「東山。人の幕営に勝手に入られては困るな」
 魅壌の人さえ殺せそうなきつい視線を、東山と呼ばれた男は平然と受け止める。
「今回の戦の指揮官は儂だ。何処の幕営に顔を出そうと儂の自由なはずだが?」
「私はお前の指揮下に入った覚えはない」
「ふん、相変わらず硬い女よ。それよりもだ……」

 九峪は背後に立つ東山を見上げた。
 醜悪な面に筋骨隆々な身体。まるで壁のような大きさに、九峪は顔が強ばるのを感じる。

「……何か用でしょうか?」
「貴様……、何者だ? いや、それはどうでもいい。随分と面白い話をしていたな」
「そうだったかな?」
 とぼける九峪を東山は片手で持ち上げる。

「くっくっく、儂も色々と趣向を凝らすつもりではおったが、先ほどのお主の言を聞いて腹が決まったわ」
 東山は九峪の縄を解くと地面に下ろす。
「まだ幼い娘子に殺される親か……。ふっふっふ、考えただけで笑い零れるわ」
 九峪は長いこと縛られて鬱血してしびれた腕を軽く振りながら、愉悦に浸る東山を見上げる。

「戦いは出来ないが、使ってくれるというならいい知恵は今後も貸せると思うが?」
 東山はニヤリと笑う。
「いいだろう。思いついたことがあれば何でも言え。ふふ、あーっはっはっは」

 九峪は大笑いする東山をほっといて、ちらりと天目の方を見る。

 そこには先ほど魅壌に向けたものよりも、より一層怨念の籠もった視線を向けてくる、幼い少女がいた。













追記:
 二十九章終了~。

 はふぅ。

 次で三十章か。良く続いてるよホント。今回は全部状況説明だけで終わらせても良かったかなって思う所だったんですが、書き始めたら話が湧いてきたので書いちゃいました。九峪がド外道な処刑法を進言して東山に取り入るって話なんですが、ホントにまぁ何考えてるのやら。って、分かりますよね? 外道には違いないんですけど、盛衰記の九峪はリアリストなので、自分の命を救える範囲内で出来るだけ多くを護ろうと思ってるんです。アレでも。東山に気に入られるような処刑法を敢えて口にしたのも自分が生き残るためだし、このまま行けば天目だけは助かるわけで……。道徳的にどうこうなんて話は無縁のようですね。
 ついでにというかメインでというか、魅壌が出てきました。魅土とどっちの標記にしようか迷いましたが、小説版のように狗根国側にいるので、魅壌でいいかなと思ってこちらに。まぁ、どっちだって変わらない気もしますが。
 過去編、もう暫く続きそうです。残り五章以内で終わればいいなぁと思ってる今日この頃ですが、どうなることか……。次回は処刑の話しになるかも知れませんが、以下省略してその後の話しに飛ぶかも知れません。倫理上の問題で省いたら、それはそれで納得して頂ければ幸いです。


 と、アトガキはこの辺で。
 では昨日のweb拍手へのお返事コーナー!
 ええと、お一人様から二件の模様です。

21:43 美人の誘惑に思わず乗ってしまった九峪に涙します(笑) でも、それでこそ健全な青少年ですよね?
21:45 でも、よりにもよって金髪って……誰と関係のある人物か全然分かりませんけど、楽しみに続きを待ってます~
 と頂きました。
 九峪のえろっぷりは現代にいたときからのものだった、と言うわけでもないんですが、まぁ十六で綺麗なお姉さんに好きにしていいなんて言われたら、何の話だったか忘れて心が揺れ動くのは当然です。そのくらいにはえろなんです。健全と言えば健全ですね。
 そして謎の女性ですが、最終的にこの人がもう一度出てくることがあるのかは謎ですね。誰であるかは決めていますが、出てくるとすれば九峪がお願いをかなえた時になるので、そこまで書くかなぁ、という疑問も。書けって言うんですか? 話が続けば書きますけど、途中で切った方がまとまりがよければそこまでで終わらせます。ので、結局誰だったのか分からないままおわるカモ。
 それはあんまりですので、正体くらいは無理矢理にでも明かしましょう。
 コメントありがとうございました。

 他にも叩いてくれた方々に、心よりお礼を申し上げたい。ありがとう!

 では本日はこのへんでヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2006/04/04 17:32】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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