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出雲盛衰記34
 出雲盛衰記
 三十四章



 黒い水に、肩まで浸かって浮かべた盆に載っている熱燗を手酌で飲む。
「ふぅ~、んまいね」
 九峪は温泉に浸かっているように、のんきに魔界の黒き泉に浸かっていた。
 頭の上に載せた手ぬぐい。
 緩みきった表情。

 黒き泉の浸食の恐ろしさを知るものならば、誰もが驚愕する光景だった。本人に緊張感は見あたらない。

「カカッ、ここはお主専用の風呂というわけではないのだがな」
 不気味な骸骨が暗闇から現れる。
 九峪は視線を向けもせずに、それでも不満そうな顔をする。
「てめぇの顔を見たら興が冷めるだろう。あっち行けよ蛇蝎」
 ぞんざいに言い放つが、蛇蝎は構わず九峪の方に近づく。

「そう言うわけにはいかんな。これから魔人を召喚せねばならん。なんならお主を餌に呼び出してやっても良いが? さぞかし喜び勇んで大量の魔人が釣れる事じゃろう」
「……ちっ」
 九峪は舌打ちすると盆を手に持って池から出る。

 蛇蝎は両手に一人ずつ、布に包まれた少女を抱えていた。それが今回の贄と言うことだろう。

「もう三月も経つのだ、いい加減仕事をしてはどうだ?」
「仕事が仕事だけに、あんまりやりすぎるわけにもいかんだろ」
「カッカッカ、それも道理」
 二人はすれ違い間際にそれだけ短く会話をして、別れた。



 三ヶ月。
 それだけの時間が経っていた。
 九峪は力を得ると直ぐに四天王の位を授けられ、大王の密命を実行する大王自身の手駒として扱われることになった。大王がそこまで九峪に心を許したのには当然わけがある。

 九峪は玄武宮とそれに連なる左道士府から離れ、中央にある王宮へと入る。王宮から更に奥へ。いわゆる後宮と呼ばれる王族の血に連なるものの他は、大将軍だろうが、宰相だろうが立ち入ることの許されない場所。

 九峪はそこに顔パスで入る。
 向かった先は大王の元ではなく、その正室である女性がいる部屋だった。

 男は入ることの許されないその場所。九峪は部屋の前で見張っている侍女に軽く手を挙げる。
「本日の治療に参りましたよ。開けてくれ」
 侍女は黙って頭を下げると、扉を開いた。
 広い部屋。
 その中に置かれた、大人でも五人は優に寝そべることが出来そうな寝台の上で線の細い女性が、上半身だけを起こした状態で寝ている。

 九峪を見ると、女性はニッコリと微笑んだ。
「また、来たのだな」
「そりゃ、治療には必要ですからね」
 九峪はそう言って寝台の脇に腰掛ける。

 そっと細い腕を布団の中から取りだし脈を取る。
「体調はどうですか? どこか痛いところはありませんか?」
「大分よい。生死の境を彷徨っていたのがまるで嘘のようじゃ」
「そりゃよかった。でも、まだあまり無理はしないで下さいね」
 ニッコリと笑いかけると、女性は照れたように笑った。

 歳の頃は九峪とそれほど大きくは変わらない。
 正室とは言え、血筋はまつろわぬ狗根国王族の血。
 現大王の実の妹。
 血の純血を好んで近親相姦するのは古い時代では珍しいことではない。それが滅びへと突き進んでいるという認識は無いのだから。

 魔界の黒き泉で人外の力を得たはずの九峪だったが、得たものは時を止める力と、魔なるものに至上の美味となってしまった不死なる身体。魔窟とも言える山都の王宮において、始めの満月はまさに狂宴となった。
 蛇蝎を始めとする魔なるものが、九峪を奪い合い、食らい尽くす。

 常時でも食すれば美味には変わりなく、九峪はいつも狙われている。

 九峪にしてみれば迷惑きわまりない話だったが、一口食らえば力を増す奇跡の肉としての効果に、大王が目を付けたのは当然の成り行きだった。
 始めは自らが食しその力を確信すると、病がちで正室に入っているのに楽しむことも出来ない妹の治療に役立てるようにと計らったのだ。

 明日をも知れぬ命だった王女に、九峪は自らの血を飲ませることでその容態を回復させていた。
 満月の晩に与えることが出来れば一度で治るのだろうが、その日は生憎と予約が一杯で九峪は髪の毛一本残されない。


 手首を短刀で切って、器に血を溜める九峪。
 王女はそれをいつも顔をしかめて見ている。

 九峪は適当なところで止めると、その血を自分で口に含み王女に口移す。

 一滴、血が口から零れ、顎から首筋へ、首筋から紗の一重へと伝い、白い生地を赤く染める。
 九峪が口を離せば、王女は名残惜しそうにその唇を見つめていた。

「そなたの唇は、柔らかいな」
「なんなら食べますか?」
「ふふ、それは嫌じゃ」
「懸命です、沫那美王女(あわなみひめ)」
 沫那美。それが彼女の名前。

 九峪はもう一度自分の血を口に含んで、そして沫那美に飲ませる。

 この大王に知れたら誅殺されそうな行為は、沫那美の方から求められてやっている。
 はじめ九峪が看たとき、沫那美は瀕死の状態でとても自ら何かを口に出来るような状態ではなかった。飲ませるために口移しという手段を選んだのだが、その時の感触がどうやら気に入ってしまったらしく――瀕死だったくせにその感触だけは覚えていた――口移しでなくては飲んではくれないようになってしまっていた。
 九峪も別に悪い気はしていない。沫那美は人並み以上に美人だったから。

 暫く"治療"が続けられ、それが終わると途端に沫那美は寂しそうな表情になる。
「のう、雅比古。妾の身体、いつまでに治ると思う?」
「さて、俺も別に御典医というわけではありませんから。それは王女様自身の方が良くお分かりでは?」
「……妾は、怖いのじゃ」
 沫那美はそう言って自らの肩を掻き抱く。
「身体が治ってしまえば、あの鬼畜のような兄に身を明け渡さねばならぬ。嫌なのじゃ。そんな事は」

 縋るような視線。
 九峪は寝台に腰掛けると頭を掻く。

「俺にどうしろと?」
「妾を連れて、逃げてはくれぬか?」
 ちらりと沫那美の方を見やる九峪。
 どうやらマジっぽい。
「……残念だけど、山都の王宮には化け物が一杯いますから。俺なんかただの餌だし。ただでさえ足手まといが二人もくっついてる状態で、逃げる隙がないかと伺ってる状況で、王女様と連れだってなんてどだい無理な話です」
「そうか――」

 沫那美は見た目にも落ち込む。
 そして呟くように言葉を絞り出す。

「あの兄に身体を与えるのも耐え難いが、本当はな、雅比古。身体が治ってお前と会えなくなるのが辛い。妾は、お前の事が……」
「今日の治療はこれまでです。失礼します」
 九峪は沫那美に全て言わせずに立ち上がる。

「……九峪」
 顔を伏せって落ち込む沫那美。
 扉が開く音が聞こえ、そして閉じる音が続く。

「……妾は、お前のことが」
「勿体ないお言葉です」
「!?」
 弾かれたように顔を上げる沫那美。

「――どういう、事じゃ?」
「沫那美王女。俺はあなたの境遇から、あなたの事を救ってやることは出来ない。でも、あなたが望むなら、思い出くらいは与えてあげられます」
「……本当か?」
 顔をほころばせた沫那美に、九峪は黙って頷く。

「侍女にはこれが最後の治療になるから、少しばかり時間がかかると言ってあります」
 九峪はそう言いながら、沫那美の寝台の横に立つ。
 ゆっくりと身体を傾け、横たわる沫那美の頬を撫でた。
「よろしいのですか? 本当に……」
 最後の確認。
 沫那美はとても幸せそうな顔で答える。
「ええ、妾と、一つに……」
 治療とは違う、濃厚な口づけ。
 いつもの血液とは違う、背徳の味がした。














追記:
 あれ? あれあれあれ? 今回で終わりになりそうとか言ってたくせに、新キャラ出して話伸ばしてるアホがいますよ。このアホ~っ! と自分を戒めつつ、そんな感じで三十四章でした。
 沫那美(あわなみ)。名前は古事記に出てくる神様から適当に付けました。なんの神様かは知らないですが、多分海に関係しているんでしょう。深く考えてないです。まぁ九峪に犯られるためだけにいる女性ですから(ぉぃ 今後の話に影響してくる気もしますが、何のための伏線かは敢えて語る必要も無いような。忘れてなければ回収するでしょう(期待薄
 はてさて、新キャラはともかく、謎の少女は遂に出番すら失われて(涙 じ、次回こそは書きます………………きっと……。



 で、そんなことは置いといてと。
 昨日はweb拍手のコメントはございませんでした。


 叩いてくれた人に絶大なる感謝を!


 それでは今日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2006/04/14 20:50】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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