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出雲盛衰記35
 出雲盛衰記
 三十五章



 沫那美(あわなみ)王女懐妊の報が山都に知れ渡ったのはそれから二月後の事だった。
 九峪との一度限りの情事の後、沫那美は大王に身体を明け渡したので実際どちらの子であるかは分からない。
 ただ、沫那美が九峪の子であることを隠そうと、大王の陵辱とも言える寵愛を受けたのだと、九峪だけが知っていた。

 九峪はその報を与えられた居室の中で聞き、あれ以来顔を見ることの無い沫那美の事を思い浮かべたりした。

 ――さぁて、そろそろ潮時かな。

 山都に来てから五ヶ月間、普段のんびりしているようにしか見えない九峪も、別にただ飯を食らっていたわけではない。
 せっせとこの世界の情報を集めては、元の世界に返るための方法を探っていたのだ。

 有力な情報はそれほど多くなかった。
 そもそも異世界に来てしまうと言う時点で、常識の埒外。
 帰る方法も常軌を逸した術しかないだろうと予想される。

 幸いかどうかは分からなかったが、この世界はそもそも天界や魔界と言った、異次元との行き来が現実的に有り得、かつては行き来が可能だったという点だ。

 九峪がやって来た世界はどうやら五天(魔界、魔獣界、人界、仙界、天界の五つの世界)とは全く別の世界のようだが、異次元へ渉る術があるならば、まんざら元の世界に帰ることも不可能ではないかも知れない。
 とは言え、倭国で一番大きな国である狗根国にも、自由に他の世界に行き来する術はなく、可能性と言えば今攻め込んでいる耶麻台国という九洲の国だ。

 狗根国はどうやら魔界や魔獣界とのつながりが深いようだが、耶麻台国は逆に仙界や天界と関わりが深い国であるようだという情報もあった。

 何度か九峪も魔人というものを見たが、九峪を元の世界に連れ帰ってくれることを期待は出来ない存在だった。
 可能性としては、相応の技術力を持っていたという天界に住む天空人。
 なんでも耶麻台国にはその天界に繋がる天界の扉というものも存在するらしい。
 それを見つけ出すことが出来れば或いは……。

 ――まぁ、どのみち可能性は薄そうだけどなぁ。

 それほど期待しているわけではない。
 だが、可能性があるなら帰りたいと思ってしまう。
 元の世界に未練があるわけではなかったけれど、それでも自分がいるべき場所が何処であるかはよく分かっているから。

「九峪! 見て見てぇ!」
 少女が楽しそうに走ってくる。
「深川、走ると転ぶぞ」
「大丈夫だよ。それより見て!」
 深川と呼ばれた少女は、そう言って足下に走り寄ってきた、おかしな犬を抱えて見せた。
 その犬は、首がない。
 代わりに奇妙な文字が書かれた札が蓋でもするように貼ってある。

「こんな事も出来るようになったんだよ!」
 満面の笑顔を九峪に向ける深川。
 九峪は困ったように深川の頭を撫でた。

 深川は九峪が蛇蝎の悪質な選定の時に助けた少女だ。
 更に言うなら、天目と九峪と共に魔界の黒き泉にその身を晒した少女でもある。

 まだ十を過ぎたばかりの少女が、あれほどの惨劇と激痛に晒され、正気でいられることの方がおかしいのかも知れない。
 誰しもが強いわけではないのだ。
 ちなみにその例外とも言うべき天目の方は、部屋の隅で論語を読んでいる。
 九峪も深川も完全に無視だ。

「ねぇ、次は人間でやってみたいんだけど、駄目かなぁ?」
 深川は子犬のものと思われる頬に付いた返り血を拭いながらニッコリと笑って答える。
「駄目だ。人間だけは駄目」
「えぇ~、つまんないの。じゃ、九峪遊んでよ~」
 深川はそう言って九峪の腕を引っ張る。
「俺様は忙しい」
「ぶ~、いっつも女の人口説いてるばっかりで、何も仕事してないくせに」
 深川のもっともな発言に、九峪はわざとらしくため息を吐く。
「人間解体したいなら蛇蝎に頼むんだな。喜んで貸してくれるさ。ただその辺の奴卑なんかを使うんじゃないぞ」
「はぁ~い」
 深川は不満そうに返事をすると、首無し犬を連れだって部屋の外へ行ってしまった。


「蛇蝎に預けたりしていいの?」
 手にしていた書物から顔を上げて、天目が呟く。
「正直どうしたもんか分からん。今の深川は痛みを知らない。他人を認識する術が著しく欠落しているんだ。わかりやすい反応が苦痛や恐怖に歪んでる顔を見ることなんだろうな」
「冷静に分析してるけど、それでいいの?」
「ん?」
「このままじゃ、まともな大人にならないと思う」
 天目はもっともな意見を口にする。
「まぁな。でもどうしたら分かってくれるんだろうねぇ。あれは深川が生きていくためには必要だからああなってるんであって、それが社会的一般性からはずれるからと言って無理矢理矯正しようとするならば、多分殺すしかないんじゃないか?」
「今からなら、まだ直せるかもしれない」
「直せないかもしれないな。やるだけやっても人を殺す人間でしかないかもしれない。わからんよ、そんなことはセラピストに聞いてくれっての」
「せらぴすと?」
「わかんなくてもいい。ようするに俺の手には負えないって事。ただ、蛇蝎なら深川みたいな人材はほしがるだろう。魔界の黒き泉で左道の特に操作系の術に特化したあいつは蛇蝎にとっても有効な駒だろうしな。世の中需要と供給、適材適所だ」
 天目は不満そうに顔をしかめる。

「あなたはもう少し優しい人だと思っていた」
 九峪は苦笑を浮かべる。
「自分の身さえままならない俺が、他人に情けを掛ける暇があるとでも? 生憎俺はお前や深川みたいなガキの面倒見るには少しばかり若すぎるんだよ」
「では、なぜ助けた?」
 射抜くような天目の視線。
 九峪は真面目な顔になるとぽつりと呟く。
「五年後か十年後には美味しく頂けそうだなと……」
「――死ね!」
 顔を赤くして怒鳴った天目に追い立てられるように、九峪は窓から退散した。



 魔界の黒き泉に浸かって以来、深川から痛覚というものが消えた。
 厄介なものだ。
 何かに触れてもそれが脳に伝わらない。
 怪我をしていても痛くないし――魔界の黒き泉の影響で治癒力も常人とはかけ離れているので多少の怪我など問題にもならないが――、そもそも衝撃的な事が連続したショックで過去の記憶が消えてしまった深川には、痛みというものを想像することすら出来なかった。

 ――痛いって、なんだろう。

 良心、良識、道徳、そう言ったものが残らず壊れた深川には、単純な好奇心しかなかった。
 そして、自らが永遠に喪失したそれを、貪欲に研究しようと思った。
 そこにいっぺんたりとも悪意はない。
 罪だとも思っていない。
 否、罪だと思うことが出来ない。

 九峪が諦めるのも無理もない。
 深川に痛みを教えるのは、人間にえら呼吸の感触を教えるようなものなのだから。

「人間が、欲しいか。カッカッカ、良かろう。だが、ただではやれんな」
 蛇蝎を物怖じしない深川。
「でも、わたし何も持ってないよ?」
 蛇蝎は自室に山とある魔道書の中から、操作系の術を記した本を深川に渡す。
「それを全て覚えられたら人間の五人や十人くれてやろう」
「ホント?」
「カッカッカ、覚えられればな」
 深川は本を大事そうに抱えると、喜んで駆けていく。
 魔道書には蛇蝎ですら困難な術も記されている。
 それだけ深川の能力を高く買っていると言うことだろう。
「なかなか面白い娘だのう、雅比古」
 蛇蝎が振り返ると部屋の中にはいつの間にか九峪が入り込んで、つまらなそうに魔道書を読んでいる。
「そう思うなら貰ってくれ」
「カカ、くれるというなら貰うとも」
「助かる」
「で、用はそれだけか?」
「いや。そろそろ王宮にいるのにも飽きた」
 そう言って魔道書を放り投げる。

「出て行くが問題はあるか?」
「カカカ、好きにするがいい。元々お主の本職は餌では無いのだからな」
 大王の信任が厚い九峪は四天王の一人。
 そして、狗根国軍内の裏切り者や怠慢者を、独自に裁く権利を有している。
「お主が元来何を企んでいるのかなど儂の知ったことでは無い。あの出雲の娘子と狗根国に復讐するもいいだろう」
「あ~、そんな事露ほども考えてないぞ。天目は知らんが」
「口先では何とでも言えるわ。じゃが、そう思うておるのは儂一人ではない」
「遺憾だが、その通りだろうな」
「せいぜい気をつけることじゃの。お主の真意がどうあれ、狙われるであろうから」
「ご忠告痛み入るね。まぁ、その内会うこともあるだろうし、敢えて別れの挨拶もしないが」
「先ほどの娘はどうする気だ?」
「アレはお前にくれてやるって言ったろ」
 九峪はそう言って部屋を出る。
 多分、それが九峪が深川に出来る、唯一の事だから。



 自室で魔道書を貪るように三日続けて読み続け、深川は久しぶりに九峪の元を訪れた。
「……あれ?」
 そこには何もない。
 それまで置かれていた九峪の荷物も、家具も、天目が読みあさっていた書物の数々も。
「九峪?」
 自分の声が震えていることに気が付いた。
 胸が苦しい。
 視線はせわしなく右へ左へと動くが、目的のものはやはり何処にも無い。
「……」
 静寂の広がる、広い部屋。
 何もかもが崩れるような感触。
 瞳を、涙が一滴伝った。

「く、九峪……」
 喉の奥から何かがこみ上げてきて、深川は嗚咽を漏らしていた。

 自分が捨てられたという実感。

 その理由が分からない故に感じる理不尽。

 深川は知った。

 今、胸に感じているこの苦しさこそ、痛みというものであると。


 それは、もう取り返しの付かない、絶望的な痛みだった。














追記:
 あ~、疲れた。一回書いた奴をもう一度書くってホント疲れる。まぁ、ドラ○エで散々データが消える苦しみを味わった世代の作者にはなんて事無いけどね(泣
 てなわけで、中途半端だけどようやく過去編が終わりです。え? これで? と思ったそこのあなた。これ以上続けると間の十五年間全部書かなくちゃならなくなるので断固として書きませんよ。
 しかしなんだね。深川に痛みを教えましたという話が書きたかったんだが、単に九峪が最低野郎な感じもしなくもない。不器用な九峪のあれが考えついた唯一の教育法だったわけですが、微妙に行間を端折りすぎじゃないかと言う話も。ちゃんと書けば泣ける話にはなりそうでしたが、所詮これはブログで毎日書くことこそが必要とされていることなのだ! と精一杯自己正当化しておきます。


 では、web拍手お返事コ~ナ~♪
 昨日はお一人様二件です!

21:54 会議18を読んで……涙を拭いて立ち上がりましょう! きっと前よりいいのが書けると信じて!(滂沱の涙
21:55 戦闘シーンばっかり書いてたら飽きる……激しく同意。へたれな主人公が書きたいです。なんか正体ばれそう?
 と頂きました。
 ん~、共感ありがとうございます! もう夕べは枕を濡らしましたよ(嘘 昨日よりいいのが出来たかは甚だ心許ないですが……。
 そして戦闘シーンばっかり書いてると飽きると。ええ、ホント。読んでる方はどうなのか分かりませんが、一定量を超えてただの戦闘シーンが連続だと飽きます。量的には沢山書けたりするのですが、話が進展するわけでもないし、上手く書けるわけでもないし。でも、編年紀裏は戦闘シーンがてんこ盛りだったりします。
 で、へたれ主人公が書きたいと言っているあなたは誰でしょうねぇ。戦闘シーンに反応してる辺りが、回転髪さんなのかなと思ったり。違ったらどうしよう。
 ともかく感想ありがとうございました!

 他にも叩いてくれた人達、本当にありがと~!



 では本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2006/04/18 22:49】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(1) | page top↑
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コメント
おおーやっぱり深川でしたか。深川をヒュー茶ーしてる作家さんてあんまりいないんできたいしとります。では
【2006/04/19 00:58】 URL | aa #-[ 編集] | page top↑
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