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出雲盛衰記36
 出雲盛衰記
 三十六章



 捨てられて十数年。
 片時も忘れたことのない男。
 会いたかった。
 会って伝えたかった。
 私はあなたが必要だと……
 あなたがいれば、何一ついらないのだと。

 何度も会えそうな機会はあったのに、その度にあなたは私の目の前から姿を消す。
 分かってる。
 私は普通の人間じゃない。
 まともな神経をしていれば、私とともにいることなど出来ない。
 だから捨てられたのだと言うことも。

 でも、あの日あなたに捨てられたことで、私は気づいたんだ。
 痛みの、意味を。
 知っている。
 知ることが出来た。
 だから、あなたがそれを止めろと言えば、私は止めることだって出来たのに。

 何度でも言おう。
 私は、あなたさえいてくれるなら、他のあらゆるものがいらない。
 呼吸することすら、やめてみせる。



 目覚めると当麻の街、留主の間。
 この街を任されている志野が、竹簡に埋もれて頭を抱えていた。

「なんで、私は……」
「あら、目が覚めたんですね」
 志野は深川が起きた事に気が付くと、笑みを向ける。
「……そうだ、九峪は」
「九峪さんならもう行きましたけど?」
「何をのんきな事を言っている! あいつは復興軍に仇なすぞ!」
「別に、いいんじゃないですか?」
 志野は平然と答えた。
 深川は志野の首筋にある小さな痣を目聡く見つけ、顔を歪めた。

「あの男は、またそうやって……」
「勘違いされたくはありませんね。九峪さんとはずいぶん前からの知り合いです。あなたもそうだとは初耳ですが」
「同じ事だろう」
「かも、しれませんね。しかし、今は問題ではないでしょう。九峪さんはこの当麻の街で行われていた悪事を暴いてくれたんですから。よくも私の足下であんな汚らわしい研究を」
 深川ははっとする。
 部屋の隅に、志野の部下が控えていた。

 ここは尋問の場。深川は容疑者だ。

「……深川さん。あなた狗根国の方なんですってね。星華さんや亜衣さんは、それを知っているのかしら? 知っていて、復興軍は狗根国の力を借りているの?」
 志野は射抜くように深川を見据える。
 深川は驚いた。今まで深川が見てきた志野という女は、気弱そうでとても指導力などなさそうな俗物だったからだ。
「猫を被っていたのか」
「質問に答えて頂けますか?」

「……その通りだ」
 あっさりと認める深川。志野はそのことを逆に不審に思う。
 深川はそれを察して肩を竦めて見せた。
「別に、あの状況を見られたのであれば、いや、九峪に見つかったのならシラを切る意味もない」
「懸命ですね。では、次の質問です。伊万里さんに尸操蟲というものが植え付けられた件に関してです」
「私だよ。随分前から分かっていたんじゃないか? 忌瀬は私の事を知っていたんだしな」
「潔いですね」
「別に大したことじゃないだろう? 復興軍として頼まれた事をやっていただけだ。上手くは行かなかったがな」
 志野は薄笑いを浮かべる深川に嫌悪感を顕わにしている。

「では、最後の質問です。あなたにこれらの指示を出していたのは、誰ですか」
「誰だと思う? 誰でも一緒じゃないのか? 例えば私が今、復興軍幹部の名前を挙げたとして、現在の状況からすれば、それこそが復興軍の総意であることも事実。黙って見過ごす気がないなら、復興軍を潰すか、もしくは逃げ出すしか道はない。勘違いするな、追いつめられているのはお前の方だ……。知られた以上、黙っては……」

「クス」

 志野は冷笑を浮かべる。
「クスクス。私ははじめ、九峪さんが復興軍に仇なすとあなたに言われて、別にいいんじゃないですか、と答えましたよ? あなたは私が九峪さんに籠絡されて、九峪さんを見逃したから、そんな台詞を吐いたのだと思ったようですが。勘違いなさらないで下さい。私は始めから復興軍を潰すつもりです。宗像神社の巫女達と狗根国との癒着など、当に知れていたこと。……私はもう少し待つつもりでした。けれど、九峪さんが動き出している以上、私も動かなければならないでしょうね」
「はじめから、だと……」
「復興軍創設以前から、私は一座のみんなと各地の情報を収集していました。そして反狗根国勢力として長い間活動してきた宗像神社の関係者達の動向も、それこそ狗根国と同じくらい探っていました。だって、不自然なんですもの。ある一定の所まではいつも追いつめられるけど、それ以上になると、狗根国から手を引いている感触がある。そう、何度やっても無駄だと思わせたいが為にそうしているように、執拗に、同じ事を繰り返す。反乱の敗北。その自作自演」

 深川は目の前の少女をはじめて真面目に見つめた。
 理知的な目。敵に対して、一片の容赦も与えないだろう、支配者の威圧感。

 深川は、それと同じものを持つ者を、何人も知っている。
 誰しも深川を使う立場にあり、その上頭が上がらない人間達。
 逆らうことを、考えさせない者達。

「そう言うわけですから、これから私共は復興軍に敵対するための兵力を集めます。深川さん、あなたは誰の味方ですか? 復興軍の? 狗根国の? それとも……蛇蝎の?」
「蛇蝎を知っているのか?」
 深川は意外そうだった。有名人ではあるが、九洲で志野くらいの年齢で知っている者は少ないだろう。ここ数年は本国にいる。

「……昔、少し」
「……まさか、【蛇蝎の子供達】か」
 深川のその言葉に、志野は不快に顔を歪めた。
「いえ、幸いそうなる前に九峪さんに助けて頂きましたから」
「なるほど、お前が……」
 深川は納得した。
 そのなれそめは深川も蛇蝎から聞かされた覚えがある。
「昔の話です。それで、どうしますか? 返答次第では……」
 明確な殺気。

 深川は考えなかった。
 答えなど、決まり切っていたから。
「嘗めるなよ、小娘。この深川様がお前の手下になるとでも勘違いをしたのか? 蛇蝎の一人娘にして闇の申し子とまで言われたこの深川様に」
 邪悪な笑み。

 愉快だった。
 深川を囲んでいる連中がどれだけ手練れでも、相手にならない自信がある。
 九峪捨てられ、会うためには強く、ただ強くあらねばならなかった。



「……致し方ありませんね」
 志野も、脇に置いてあった双龍剣を手に取る。
 殺気が溢れる。
 二人の間で衝突して、突風となって留主の間に逆巻く。
 ジリジリと、気の充実を待ち、飛びかかる機を伺う。


 勝負は、一瞬だった。





「無理するな、深川」

 直ぐ後ろから、放たれたそれ一言。




 深川は驚いて振り返る。
 そこには、ずっと欲しかったものがある。

 ずっと探していたものがある。


 幾分老けた顔で、
 
 それでも同じように、
 
 深川を救ってくれた時の、
 
 優しい笑顔を浮かべて。



「……く、九峪っ!」
 顔が、一瞬でくしゃくしゃに歪んで、気が付けば抱きついていた。

 長年求めていた、暖かみがそこにはあった。

 本当に求めていた、安住の地が。


 志野はため息を吐いて双龍剣を降ろし、周りで剣を抜いている一座の者達を下がらせた。
 そして困ったように嗚咽を漏らす深川を抱きしめている九峪に笑いかける。

 志野も、知っていた。
 九峪の暖かさ。
 その胸の中の心地よさ。
 だから、少しだけ羨ましい。


「くた、にぃっ!」
 溢れ出した情動は、直ぐにはおさまりそうに無かった。










 ☆おまけ☆



 部屋の隅で、珠洲は九峪に抱きついている深川に殺気の籠もった視線を向けている。
 自分も九峪にああしたいらしい。
 突然地下から床をたたき壊して出てきたと思ったら、深川を前に一芝居するように志野にお願いしたのだ。
 久しぶりに会えたというのにぶしつけで、それでも九峪のお願いを断れるはずもなくて。

 しかも、志野には必要だからと言って小一時間ほど別室でお楽しみだった。
 珠洲も混ざりたかったが、五年早いと断られた。
 志野と三つしか違わないのにだ。

 ――やっぱり、胸かなぁ。

 珠洲は自分の扁平な胸を見下ろしながらため息を吐く。
 そして深川と志野の豊かな胸を、怨嗟の籠もった目で睨み付けるのだ。


 ――腐れ落ちろ!


 あまりに真剣に祈ったために、ついつい声に出て後で志野にこってり絞られたというのは、誰も知らない二人だけのヒミツ。













追記:
 お、お久しぶりです。なかなか次がひねり出せなくて時間かかっちまいました。深川単品だと話が進まないので、ようやく志野と珠洲が出てくることに。まぁ、珠洲はオマケだけでしたけどね。当然の如く深川もあの後九峪と一緒に別室行きだという話があったり無かったり。
 どうでもいいけど無痛症の人って感じないのかな? どうでもいいような、気になるような……。そうだとすると深川のエロ話は書けませんね。書く気がないのでどうでもいいですけど。


 さて、日にちが空いたからってweb拍手が溜まってるかと言えばそうでもないんですね。お便り欲しければ書けって事だとしみじみ実感します。

 では、え~と、20日分からか。お一人様二件ですね。

2:31 盛衰記 次は本編ですか?期待してます。って忘れてましたが深川編なんですよね。
2:32 あっさり死ぬのか食べちゃうのか喰われちゃうのか(笑)
 と、頂きました。
 そうです。深川編だったのです。確かそんな事も言ってましたが、出てこないヒロインの復権の為に深川の話は一番最後だけという脇役具合。他の方々もこれくらい控えてくれれば天目も救われるんでしょうが、話が書けないのでそう言うことはないでしょう。
 残念ながら死にはしなかったみたいです。と言うことで九峪にぱっくり食べられるのが正解! 次回、出番があるのかこうご期待!
 コメントありがとうございました!

 では続いて21日分。お二人様三件ですね。
 まずは連続二件。

1:10 >藤那は疲れたようにため息を吐く。  どう考えても人違いです。本当にありがとうございました。
1:15 >少なくとも火後に関しての予算組については  予算繰り、かな?こっちは自信ないわーっ!
 と、頂きました。
 まず、一件目のは、只深ですよねぇ~。どっから湧いてきたんでしょうか、謎ですね。ちなみに速攻直しに行きましたが、直すまでの間何人の人に恥をさらしたんでしょうね。あわわわ……。
 で、二件目の方は。ん~、これは真面目に答えれば多分予算組であってる、と思う。どっちとも取れるのでどっちでもいいけど。まず、予算組の場合だと、財務大臣である只深が中央から予算の割り振りをしたときにその予算案を見ていた場合だと予算組、という形になると思います。予算繰りの場合は、まぁ、火後の内政をやって財政やりくりをしていたでしょうから、それで中央に提出した書類が修正しろみたいに戻ってきて、それに不審に思っていなかった、とか言う話の流れであれば予算繰り、であってると思いますし。ぶっちゃけその辺の政治体制など作者は知りません! なのでどっちでもいいから直しません。まぁ、その中央集権的な財政状況もあの時代じゃ無理があると思うんですが、どうでもいいか。
 ご指摘ありがとうございました!

 さて二件目!

22:44 痛覚が無かったらと言う展開での人格形成は面白いですね。別れの痛みはやはり九峪だからこそ与えられたのか
 と、頂きました。
 痛覚が無いから痛みに興味を持つ。ん~、まぁ実際は逆に無感動な人間になるんじゃないかなとも思います。想像も実感も出来ないものに対して、本当に人間は興味を持てるかというと、かなり疑問ですし。そう書いたくせに言ってること滅茶苦茶だろうと自分で突っ込みつつ、その辺は多分魔界の黒き泉で壊れたという部分ですね。きっと。
 なんというか、多分痛くないんじゃなくて、痛いという認識を忘却しているだけ。それを取り戻そうという欲求があるからこそ、それが興味として表出しているのではないかと。よく知りませんが、考えると止まらなくなりそうな議題ですね。
 痛みを教えられたのは九峪だからだというのはその通りでしょう。肉体的な痛みではなく、心の痛みとして、というのがキモなワケですが。ああ、ネタ的にもう少しじっくり書けば良かったと思わなくもない。勿体なかったなぁ。
 コメントありがとうございました!

 次は~、23日分! 一件です。

8:22 見本は?
 と、頂きました。
 や~、悩みました。なんだ? 見本って、作者は何処かで何かの見本を晒すという約束なんかしたっけ? と、まぁ頭を抱えたわけです。
 ですがようやく分かりました! 多分topのキリ番取ったときにGがカウンタの数字の隣に表示されるよ、という意味で置いたキリ番の見本に矢印で見本と書いた奴ですね。別にあそこをクリックしたから見本に飛ぶというわけではなく、あれ自体が見本です。クリックすると別の場所に飛ぶけど、別にそれは隠し扉であって、断頭台から行けば隠しでもないという意味もない入り口だったりするわけで……。ここ読んでる人は、あそこが何処かの入り口だって事くらいは多分知っていると思いますが、知らなくても別に損はしません。
 と、言うことですが、この質問を下さった方がこちらを見ているかが心配です。一応web拍手の画面にここのアドレス貼ってますけどねぇ。もし作者の勘違いだったら追撃をお待ちしております。

 以上、ここ数日分のコメントでした。
 他にも叩いてくれた人達アリガト~ッ!


 他にも直接コメントが来ていましたね。ええと、

おおーやっぱり深川でしたか。深川をヒュー茶ーしてる作家さんてあんまりいないんできたいしとります。では
 と、頂きました。
 む、期待……。あんなもんになってしまいました。深川はその内中編で書いてねっぷりたっぷりやりたいと思います。盛衰記はジャブですジャブ。まぁ、幻聴記と編年紀は結構ディープに行きそうなので、ネタを減らさないようにという配慮です。次回も出番があるといいなぁ……(遠い目

 aaさん、コメントありがとうございました!


 では、本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ

【2006/04/24 23:25】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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