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出雲盛衰記37
 出雲盛衰記
 三十七章



 川辺城の上空を、ハングライダーのようなものが旋回している。
 羽に奇妙な文字が書かれたそれは、乗り手の意志に従ってゆっくりと降下して行く。

「きもちぃ~」
 乗り手の少女は風を気持ちよさそうに受けながら、川辺城を見下ろす。
 復興軍が起こって数ヶ月。
 何もかもがトントン拍子に進んでいき、あっという間の反乱劇。
 豊後ももうじき手に入る。そうなれば豊前と本拠筑後に手が伸びる。

 少女は耶麻台国という国を知らない。
 生まれたのは耶牟原城が落城した後。
 豊かで穏和だった九洲というものは、記憶の何処を探っても出てこない。
 思い出すことと言えば、逃げまどいながら各地を転々としたこと。ただ、それだけ。

 だから、実感などと言うものはそれほど無い。
 耶麻台国がどんなところで、それが良い所なのか、悪い所なのかも知らない。
 分かっているのは、もう逃げまどう生活をしなくてもいいという事。
 そう思えば、少女も自然と笑みが浮かぶのだ。


 川辺城の一番高い屋根の上くらいまで高度を下げ、一気に下りようかと思っていた少女の視界に、妙なものが移る。

 この大空を飛ぶものは、少女のからくりの他は、鳥くらいにしか許されていない。
 その場所を、矢のように何かが飛んでくる。
 少女の中で、興味が鎌首を擡げる。
 そう感じた瞬間には、そちらへと方向転換していた。



 鳥などよりもずっと大きいそれ。
 大分離れていても何であるかは分かった。
 ただ、少女はそれを見たことが無かったので、なんと呼ぶべきか分からなかった。
 羽の生えたトカゲ。
 それが出来る精一杯の表現。
 そのトカゲの上に、赤い髪の女が乗っている。

 自分のからくり――飛空挺以外にも人が空を自由に飛び回る、こんなにも単純な手段が会ったのだと、少女は嬉しくなった。
 どうやらあちらも気が付いたようで、向こうの方から近づいてくる。
 やはり飛空挺よりは、生物であるあちらの方がずっと早いようだ。


「驚いたな。誰が作ったんだ、それ」
 女の人は並んで飛びながら目を丸くして聞いてきた。
 唐突な問いだったが、少女は自慢するように答える。
「私だよ。凄いでしょ~」
 にへへ、と笑ってくるりとその場で一回転してみせた。

「まさか……、その歳で」
 懐疑的な女に、少女は不満そうに口を尖らせる。
「本当だよ~。私じゃなくちゃ作れないよ」
「いや、疑ったわけではないんだ。少し驚いてな」
「えへへ。ねぇ、そのトカゲ、なんて言う生き物なの?」
 少女は今度は自分の番と質問をぶつける。

「こいつか? 飛竜と言ってね。もう、このまーくんしかいないんだ。きっと見たことは無いだろうな」
「飛竜、まーくん。へぇ~。お姉さんは?」
「私か? 私は魅土。龍神族の最後の生き残りだ。お嬢さんは?」
「私は羽江! 一応宗像神社の巫女で今は復興軍にいるの」
「! 宗像の?!」
 魅土の表情が、一瞬険しくなった。
 が、怯える羽江の表情を見て苦笑すると首を振った。

「なぁ、羽江。そのからくりも良いが、まーくんに乗ってみたくないか?」
「え! いいの?」
 好奇心旺盛な羽江は、その魅力的な申し出に、一も二もなく頷く。
「ああ。まーくんもいいよな?」
 魅壌がそう言って首を撫でると、まーくんは身体の大きさに似つかわしくない優しい声で一声鳴いた。

「じゃあ、遠慮無く」
 羽江はそう言うやいなやまーくんの上に位置づけると、飛空挺を折りたたんでその背中に降り立った。

 魅土はいきなりの事に驚いたが、直ぐに下りてきた羽江の身体を押さえて、自分の前に座らせてやる。
「さぁて、少し飛ばすぞ」
「うん♪」
 魅土が手綱を引くと、それまで羽江に合わせてゆっくり飛んでいたまーくんが、急に速度を上げた。顔に当たる風の量が急に増え、息苦しささえ感じる中で、羽江はとても楽しそうに笑っていた。



 夕暮れ時まで羽江はまーくんの飛行を楽しんだ。
 そろそろ帰るかと魅土は言ったが、まーくんに興味津々な羽江は嫌だと首を振る。
「だが、みんなが心配するだろう?」
「え~、大丈夫だよ。お姉ちゃん達は復興軍の方で忙しいから、私なんてどこにいるか知らないし」
 少しだけ寂しそうに呟いて俯いた。
「そうか。まぁ、私は構わないが」
「本当?」
「だが、明日にはちゃんと帰るんだぞ」
「うん!」
 羽江は大きく頷くと、まーくんの首を撫でている。


 山の中に降り立ち、野宿の準備を始める魅土。
 里に近いところでは住民を驚かせたり、無用の混乱を招く事があるので、かなり山深いところで野宿することが多い。幾つか知り合いのいる集落もあるが、狗根国に追われる身でもある魅土は、迷惑を掛けるといけないので極力人には近づかないように暮らしていた。

 今日山を下りてきたのもたまたまだ。時々は下界の様子を探りに来なければ、時代に取り残されてしまう。とは言え、聞くことと言えば本当に龍神族が滅んだかどうか気がかりで、仲間が現れていないかを確かめるのが主だった。

 十五年前、狗根国を出奔して戻った里には誰一人いなかった。近くの野生の飛竜の住処も荒らされていて、残っていたのはまーくんだけだった。結局遺体すら確認出来ない魅土には、本当に滅んだと言うことを信じることも出来ない。必ずどこかで生きてる。そう、思ってしまう。

「どうしたの?」
 不意に横から声がかかって、視線を向けると薪を抱えた羽江が、魅土の事を見上げていた。
 魅土はなんでもないと首を振る。
「なんか、寂しそうだったけど?」
「……そんなことは無い。それよりも火を焚いてご飯にしよう。まぁ、大したものも無いが」
「なんか、懐かしいなぁ~」
 羽江はそう言って集めた薪に火をつける。

「昔、って言ってもそんなに前じゃないけど、その頃は良くお姉ちゃん達と野宿したんだ。お腹一杯ご飯食べられない事が多くて、こんな生活嫌だなぁ~ってずっと思ってたけど、夜露に濡れる心配も、空腹に死にそうになることも無くなった今の暮らしがいいなって思えないよ。あの頃はお姉ちゃん達も星華様も私に構ってくれてたから」
「そうか」
「そうそう。でもね、しょうがないんだ。耶麻台国を取り戻すために、お姉ちゃん達頑張ってるもん。沢山の人たちの命を背負わなくちゃならないから、私なんかに構ってられないのは分かってる。でも、やっぱりつまんな~い」
 羽江は盛大にぼやくと、魅土を見つめた。

「魅土はずっと一人なんだよね? 寂しくないの?」
「いや。私にはまーくんがいるからな」
 魅土がそう言うと、まーくんが嬉しそうに喉を鳴らした。
「そっか」
「羽江も、きっと耶麻台国が復興すれば元に戻るさ」
「そうかなぁ……。うん、そうだね」
 ニッコリと微笑む羽江。

 魅土は何処か、その様子を喜べないでいた。
 そこに、追い打ちを掛けるように羽江が思いつきを口にする。

「ねぇ、魅土も復興軍に加わろうよ~! まーくんがいればお姉ちゃん達も助かると思うし、私ももっと魅土とお話したいよ」

 残酷な、言葉だった。
 魅土は視線を逸らすと、ごまかすように空を見上げた。

「どうしたの? 何か変なこと言っちゃった?」
 魅土の態度に、羽江は首を捻る。
「いや、何でもない」
「嘘だよ! なにか、傷つけるような事、言ったんでしょ? ごめんなさい」
「謝らなくていい。別に、羽江には関係ないことだから……」
「……どんなこと?」
 羽江は聞きたがっている。本当に自分のせいで魅土が悲しんでいるのではないと言うことを、確かめたくて。

 魅土は口にするまいと思っていた。
 口にすれば、羽江はまた悲しむだろう。
 そして、そんな事を信じないだろう。
 でも、口から言葉は自然に漏れていた。

「私が龍神族で、最後の一人だというのは教えたな」
「うん。まーくんも一人なんだよね」
「ああ。どうして私だけなのかというとな、狗根国に滅ぼされたんだ。十数年前になる」
「だったら、尚更復興軍に……」
「飛竜は、不老不死の薬になるという俗説がある」
 羽江の言葉を遮るように、魅土は呟いた。
「その俗説を信じた愚か者が、かつて龍神族の里を訪れ、そして飛竜を殺しまくった」
「……そんな、酷いっ!」
「まぁ、分からないじゃない。不老不死に憧れる気持ちも……。でも、そいつ等は私たちが追い払って、飛竜も全滅には至らなかった。でも、ある日……そいつ等はその噂を別の連中に売り払って、龍神族の里も教えて、結果里は滅んだ」

 魅土の瞳に、怒りの残滓が灯る。その瞳は、羽江に向けられた。
「滅ぼしたのは狗根国だ。だから確かに狗根国は憎い。でも、耶麻台国が侵略されることを畏れて、私たちを売った奴らはもっと許せない。同じ九洲に住むものでありながら、奴らは!」
 怒鳴ってから、怯えている羽江に気づいてはっとする。
 魅土はすまないと一言詫びて、羽江の頭を撫でる。
「耶麻台国には復興して欲しいと思っているよ。でもね、私はどうしてもそのことが吹っ切れない。そんな奴らの為に力は貸せない。だから、ごめんね」
 羽江は、首を振る。
「ううん。私だって、そんな事があったら絶対に手を貸さないもの。でも、一体誰なの? 私がとっちめておくよ」
 憤懣やるかたないと言った羽江。

 魅土は笑って首を振る。
「いいんだ。もう。今更、復讐をしたところで誰が生き返るわけでもない。新しく国が出来るなら、そんな過去は忘れた方がいい。どうせもう、当事者で生きているものは殆どいないはずだからな」
「そっか、でも気になるなぁ~」

 魅土は言わない。それが誰であるかなど。
 だが、それは戯れに少女が自分の姉に聞けば分かること。
 正直に答えるかは分からない。
 いや、答えるだろうなという予感もある。

 ――あの、怜悧な女ならば包み隠さず答えることだろう。そして、偽善に満ちた正論を吐くに違いない。

 まだ、幼かった頃の少女の顔が浮かんでくる。
 年齢に似つかわしくない、凍てつくような切れ長な目。
 同時に湧き上がる殺人衝動。


 だが、この妹には罪はない。
 何一つ。何も知らずに、全てが終わった後に生を受けたのだから。

「さぁ、もう寝よう。明日は朝一番で帰るんだぞ」
「はぁ~い。ね、まーくんと一緒に寝ていい?」
「ああ、まーくんも喜ぶよ」
「えへへ、ありがとう」
 無邪気な笑みを浮かべて、少女は笑う。
 
 
 何も知りもせず、ただ幸せそうに……。














追記:
 え~、と言うことで、なにやら更新しまくりで大忙しですな今日この頃です。GW用に裏をまとめて五章くらい吐き出そうかと言う構想が頭を掠めましたが、止めておきます。ストックが減ると怖いから、と何処かのサイトの方も申しておりましたし。まぁ、作者の場合は一時期かなりギリギリまで減らしたんですけどね。と言うか、溜めておくと精神衛生上あまりよろしくないので。でも、まぁ、何があるか分からん世の中ですから、備えは必要ですね。
 と言うわけで、盛衰記の方はがらりと場面が変わりました。まぁ、始めから散文的に展開している気もするのでいつも通りなのかな? 何時か要望に合ったように、若干改名して魅土が現れました。まーくん付きで。加えて妙な設定織り込み済み。まぁ、宗像神社を糾弾するための下地作りですがな。
 で、次回からですが羽江が主人公で(ぇ)話が進みます。きっと。なんかそんな感じのお告げが舞い降りました。よりによって羽江。事もあろうに羽江。書きにくいので性格が割と普通の少女になってますけど、気になる方はすみませんね。だって元の性格じゃ書きようがないし。まぁ、アレです。衣緒でも良かったんですけど、衣緒だと今回の話が成立しないんで、他のルートを考えるのが面倒だったんです。いつも通りですね。はい、アトガキ終了!


 web拍手ですが、一昨日に凄い量が来ております。過去最高……だと思いますね。まぁ、人数的にはそうでもないのですが。

 では、早速一件目!

6:11 編年紀、楽しく読まさせて頂いてます。只深も策士ですね、その真意が気になる処ですが・・・続き待ってます
 と頂きました。
 策士策に溺れる……って感じで最終的には美味しいところをかっさらわれちゃいましたけどね。緻密な策ほど、強引な方法によって打ち砕かれるものです。ええ、もちろん言い訳ですけど。あの辺が作者の思考限界なんですよねぇと、ジジ臭いことを言ってみたり。
 コメントありがとうございました!

 続いて……二件連続!

16:03 キターーーーッ!! なんか編年紀三つ来てるしオリジナルきてるし!
16:03 これは仕事をさぼって読めと言うことだな よし読もう
 と頂きました。
 ……。○iteさん? なんかそんな感じがしますが別人であれば申し訳ない。でも作者のオリジナルのジャンキー(失礼)なんて他に心辺りないしなぁ。いえ、大変光栄かつ、内心狂喜乱舞ですが。でも、仕事はサボらないで下さいねぇ~。
 コメントありがとうございました!

 最大級の五件連続!

18:45 7/2 >水を差すことを嫌がるだろ事 → ~だろぉー事、かな?何か違う気もするけどっ
18:47 あと亡月の告白は23.htmでよかった…24だと危ない。サブタイトルとのアレがコレでソレにしちゃう。
18:48 あーそれからもーすぐ■100■ですねっ。そこまでは長引くかと思ってたけど何か大きい動きあるのかなっ?
18:51 あとあと25最後の筑紫って筑前・後じゃなくて筑紫限定なんですか?
18:54 んで最後にこれはぜんぜんかんけーないけど…天都っつーとグレネーダーを思い出す。うん。以上っ
 と、頂きました。
 ええと、上から順番に答えましょう。一件目の誤字指摘ありがとうございます。ん~、結局上手い表現が見つからなかったので、説明臭い文章に直しておきました。語彙が貧困だーっ!
 二件目。確かに二十四章のサブタイトル愛故に、ですからねぇ。アブナイアブナイ。
 三件目。100で何か、と言うこともありませんが。特にそこは気にして書いてないので。でも、まぁ、第三部から九峪が本格始動しますので、それが大きな動きと言えばそうかなぁ~と。まぁ、本格始動と言っても活躍するかはあの九峪ですから謎が一杯ですけどね。っていうか、九峪が徒然草でまともにやった業績って、伊万里を助けて――といってもそもそも九峪と合わなければ命の危険すらなかったんだけど――彩花紫を連れてきたくらい。天目との渡りは放っておいてもなっただろうし、余計なこと言わなければ亜衣がスランプに陥ることも無かっただろうし……。やはり駄目主人公!
 四件目。筑紫は筑紫城の事を差しているわけで、先の那の津の亡霊との一件で城壁とかがものすごい壊れ方してるわけです。まぁ、魔人とか一杯いましたから。その修復が済みそうにもないと言うことですね。修復が済まなければ、筑前の大きな防衛拠点が無くなりますから、その辺の事を言ってたりします。まぁ、大局的に見れば筑後、筑前が、もっと言えば耶麻臺国自体がそのことで大変になってるわけですが。
 ラスト五件目。グレネーダーがよく分からないのでググって見ましたが、やっぱり知りませんでした。天都という地名があるようですね。なるほど……。
 コメントありがとうございました!

 ふう、一昨日分ラスト二件!

21:00 a-,
21:01 あれですね。やっぱり仕事をサボって読めということですね。早速読みにいってきます
と頂きました。
 あ~っと、○iteさん再び(!?)。あちらの日記を読んだりした結果、ほぼ本人に間違い無いと思いますけども、重ね重ね間違ってたらどうしよう。いつも褒めちぎって頂いてありがとうございます。と言うことでまた明日辺り更新……すみません嘘です。もうあまり出せるものも残ってないのですよ。
 コメントありがとうございました!


 さて、そして昨日の分は三件来てましたが、某サイト様のweb拍手に気軽に書いた事で、真面目に謝られてしまったような事だったので割愛させて頂きます。作者は大概適当な人間ですのであまり見誤らないで下さいねと、盗っ人猛々しく言ってみたり。ごめんなさいはこちらですね。やはり作者には心の繊細さが足りない……。だれか繊細な心を下さい……嘘ですいりません。図太く生きていきます。って何を書いてるんだろうね~。



 それでは本日はここまで。ヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
 
【2006/04/28 00:13】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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