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出雲盛衰記41
 出雲盛衰記
 四十一章



「お母様。当麻の方も準備は万端とのことです」
 当麻の街から戻った小夜は、天目に短く報告を上げる。
「そうか。深川はどうした?」
 天目は事前に協力に応じないようであれば、小夜に暗殺するように命じていた。そしてそうなる可能性はかなり高いとも考えていたのだが……。
「無傷で帰ってきたところを見ると、九峪がいたのか」
 呆れたような声色。
 小夜はその通り、と応じる。

「よく分かるもんだね。ま、確かにあの深川って女、普通じゃなびきそうになかったけど」
「深川は九峪と蛇蝎の命以外は聞かないだろうな。さて、あの骸骨が出張ってきたら、どちらに付くのか。まぁ結果は考えるまでもないか」
「でも、蛇蝎は九洲にはいないようですよ」
 桂が横から進言する。
「伊雅様の方もおおむね準備は整ったそうです。後は報せを待つと」
「お母様こそ、こっちの部隊の抱え込みは終わってるの?」
「とうの昔に。私の旗下三千五百は反旗を翻すのに躊躇はない」
「さすがですね。で、どのタイミングで仕掛けますか?」
「小夜。九峪には伝言を伝えたんだろうな」
「ええ、『結構です』と返事してたけどね」
 天目は苦笑する。奇妙な反応に小夜は眉根を寄せた。

「やはり、九峪はそう動くか……、ふふふふ」
「何かの暗号ですか?」
「暗号か。まぁ、そう言うことにしておこうか」
 意味深に呟いて、笑みを引っ込めると、二人の子供に指示を出す。
「今日中に長湯を陥落させる。同時に部隊を反転させ、川辺に向かう。二人は先行して川辺の状況を報告しろ」
「あ、お母様。もう一つ報告が」
「なんだ?」
「羽江ちゃんが志野のとこにいます。事情を知って混乱しているようでしたが……消しますか?」
「放っておけ。禍根が残るようなら私自身が手を下す」
「分かりました」
「伊雅様達は?」
「川辺が落ちた後ゆっくり来て貰うさ」
「わかりました。では、行こうか小夜」
「あんたが指示出すなよ。私の方が年上なんだからね!」
「はいはい、二分だけね」

 天目は桂と小夜を見送って、傍らで寝息を立てている自分の息子を見つめた。
 分かっているだけで、九峪の子供としては二十七番目。そして一番幼い子供。

「お前達の姉は、今頃……」
 そう言って天目が視線を向けたのは、遙か西方。

 ――九峪。その子だけは、死んで貰わないと……

 それを許容出来る九峪ではないと知っている。
 だからこそ、どんな真似をするのか、天目にはそれが少しだけ楽しみだった。



 征西都督府。
 九洲侵略後、狗根国の政府が統治するための中心として、かつての王都耶牟原城を水に沈めた上に建設した水上宮殿。
 壮麗さはこの時代、倭国では比肩しうるものがない作りではあるが、それは同時に要塞としての無骨さは一つたりとも持ち合わせていないことを意味した。
 都督へと続くのは僅か二本の橋のみで、一般的な堀と言うにも広すぎる湖のど真ん中にあるため、城壁と呼べるものが皆無。確かにその湖の中心というのは城壁としての機能も十分に併せ持ってはいたが、それでも逆に孤立してしまえば退路が無いと言うことにもなる。
 ようするに、橋さえ落とせば。いや、そこまでしなくとも橋の前を固めてしまえば、容易に兵糧責めが出来てしまうのだ。加えて都督内で大規模な部隊を配置することが出来ないという点もある。そもそもが施政のための建造物であって、戦争のためではない。
 復興軍が一月としないうちに攻め込んでくる現状にあって、都督長官はわざわざそんな無謀な場所で迎え撃とうと考えるほど馬鹿ではなかった。直ぐに手勢を筑後城にまわし、都督府という名目そのものを筑紫城へと置き換えた。

「ふぅ。なんとか、間に合ったわね」
 都督長官としてはまだ押さなすぎるとも言える少女は、ため息一つ吐いて最後の竹簡を放り投げた。
 部屋には副官が一人。他には誰もいない。
「ねぇ、哥羽茉莉。本当にこれで良かったのかしら」
「……と、いいますと?」
 浅黒い肌をした、どうみても倭国人ではない副官は自分の上官を見据える。
「かってに都督を移したりして、本国では何か言ってないかしら?」
「王女様。私に言えることは一つだけでございます」
「何かしら?」
「何があっても私は王女様のお味方です」
 言い切った女に、少女は笑い返す。
「ありがとう。そう言ってくれると心強いわ」
「いえ。当然の事です」
「そう言いきれるのもあなただけね」
 忌々しげに漏らした言葉に、哥羽茉莉は否定する出もなく頷く。

「確かに。軍の方は鋼雷に任せてはおりますが、雲母すら下した復興軍の連中に、あのうつけで刃が立つとも思えませんし」
「雲母には悪いことをしたわ。もう少し情報がしっかりと入っていれば、あと二千はつけて送り出せたのに。いえ、それ以上に私自身が……」
「おやめください王女様。ただでさえ御身は危険にさらされているのですから」
「ごめんなさい。でも、煩わしいものだわ。生まれたときから決まり切っていることとはいえ」
 少女は長い黒髪を指で梳くと、自嘲的に微笑む。
「ねぇ、哥羽茉莉。私が九洲の長官の任を引き受けた理由、話したかしら?」
「聞き飽きるほどに聞いた気が致します」
「そう、本当の父が、いるはずなのよ」

 それは少女が最愛の母から幾度と無く聞かされた言葉。
 母は少女が五つの時に死んでしまったが、生まれてから五年間、母は嬉しそうに少女の本当の父親の事を話していた。
「ねぇ、会えるかしら?」
「どうでしょう。何分、噂が確かであればあの左道士官の蛇蝎ですら尻尾を捕まえられない、逃げの達人だそうですから」
「そうね。やはり難しいのかしら」
「ただ、帖佐から聞いたことがあります」
「帖佐から?」
「彼の者は、会おうとしても絶対に会えない。が、あちらが会いたいと思えば必ず現れる。何処にいても、何をしていてもと」
「でも、私の事など知らないでしょうし、例え知っていても……」
「いっそ九洲中に触れでも出しますか?」
 真面目な顔で冗談を言った哥羽茉莉に、少女は一端目を丸くする。そして笑った。

「叶わぬ願いとは知っているわ。それより哥羽茉莉。頼みがあるのだけど」
「なんでしょうか?」
「蛇蝎から借り受けている、例の部隊。動かせる?」
 哥羽茉莉は一瞬視線を険しくしたが、直ぐに頷く。
「ご下命とあれば、いつでも」
「では、復興軍に探りを入れに。いえ、正しくは違うわね。復興軍の内部分裂を後押ししに向かわせて」
「内部分裂?」
「親切な人が教えてくれたわ。今回の九洲都督長官への私の抜擢、暗殺が目的だと」
「……それで?」
「宗像、という一派があるらしいわね。復興軍の中心ともいえる巫女衆のようだけど。随分前から狗根国と繋がっていると教えてくれたわ」
「なれば此度の反乱も……」
「ええ。でもあちらにはあの天目がいる。出雲王家の最後の一人。必ず動くわ」
「分かりました。ちなみに親切な人とは?」
「ふふ、私が権力を握ってくれた方が、何かと都合のいい色男の事よ」
 哥羽茉莉はその一言で了承したようだ。頷くと席を立つ。

「では、しばし失礼を。動かないで下さいね」
「わかっています」
 哥羽茉莉がいなくなり、少女は盛大にため息を吐くと目の前の書簡に視線を落とした。

 ――帖佐。ありがとう。



 通称『蛇蝎の子供達』。正式には『執行者』と呼ばれる。
 狗根国の侵略戦争後の混乱期、大量に溢れた孤児。それらの中から特に才能在るものをあらゆる手段で選定し、蛇蝎が養成したトップエリート達。その任は主だってかつて九峪が行っていたような、狗根国内での裏切り者の削除。
 もっとも蛇蝎自身の手による全く私的な部隊のため、他にある狩人部隊と混同されその存在自体知るものは少ない。
 
 ――あの骸骨。一体なんのつもりでこんな部隊を作ったのか……

 一室で九洲の地図を睨んでいる五名。執行者の中でも更に抜きんでて、他のものを使う立場にある者達だ。
 哥羽茉莉が入ってくると、一斉に視線を向ける。
 まるで感情の無い死んだ魚のような目。哥羽茉莉は都合十個のそんな瞳に射抜かれて顔をしかめる。内心盛大にため息を吐きながら、手短に用件を済ませることにした。

「王女様からのご命令だ。復興軍の内部分裂を煽れとの事だ」
「その必要性はそれほど無いと思われますが?」
 五名の中でも更に中心的立場である少年が答える。
「何故だ?」
「分裂しているのも一瞬でしょう。現在実権を握っている連中は程なく失墜します。勝敗は考えるまでもありません」
「ほう」
「まず、今回の復興軍躍進の背景にある狗根国からの援助ですが、その根幹となる魔界の黒き泉の適応者選定がありますが、実質それらをうまく扱えるのは深川様あっての事です」
「で?」
「残念ながら、深川様は現在分裂した方の復興軍、再興軍と名乗るつもりのようですが、そちらに加担しているとの情報が入っています」
「どこからそんな情報……」
「執行者は何処にでも耳を持っています。容易いことです。それよりもそのせいで復興軍は現在川辺城の守りに使っている適応者を使うことが出来ません」
 哥羽茉莉は首を傾げる。

「何故だ? 魔界の黒き泉で力を得たとは言え、意志は個々人にある」
「いずれ狗根国が討伐しなければならない復興軍に、そんなものをただでくれてやるほど深川様は甘くない。いわばそれ自体が獅子身中の虫って事だよ」
 眠そうな表情の少女がそう言って川辺城を指さす。
「あなただって深川様の得意技くらいは知っているでしょ~?」
 哥羽茉莉は頷く。守りに入っている強力な戦力が全て寝返る。確かに勝敗など考えるまでもない。仮にそれを危惧して使わなかったところで、結局は守りが薄くなると言う点にも変わりがない。

「むしろ王女様にとって問題なのはその後……だと思いますけど」
 男の子なのか女の子なのかよく分からない少女がそう言って、地図の外、本州のある辺りを差す。
「既に反乱を一揉みにできるような軍が集結し始めています。おそらくは再興軍がこちらを攻め落とすと同時に入ってくる算段でしょう」
「攻め落とすと……。その前にではなくか」
「最もぬか喜びさせられるのはその瞬間ですから」
 さも当然と中性的な少女は言う。

「お前等はどうするのだ? いっそのこと王女様の首でも持っていくのか?」
「今、狗根国内に王女様の味方といえるのは僅かに二人だけです。そしてそれで十分だと思いますが?」
「一人は帖佐だとして……、もう一人はまさか」
「我々をなんの目的で貸し出したと? そういう事ですので我々の裏切りを心配する意味はありません」
 少年はそう言って地図から顔を上げる。

「蛇蝎様が消したいと思っている人間は一人です。そして王女様に消えられてはとても困る」
「東山……か」
「ですが、正直に申し上げてどういった策を取ればいいものか……」
「お前等にも策はないと」
「今必至で考えています」
 哥羽茉莉はそう言われてようやく気が付いた。不気味だと思っていた死んだ魚のような目は、単に寝不足で焦点が定まっていないだけだと。

「少し休んだらどうだ? ゆだった頭では……」
「用が済んだのであれば、お引き取り下さい。あまり長居をするとつながりが露見します。先の件に関しましては王女様にいいように対処致しますとお伝え下さい」
「……分かった。くれぐれも」
「心得ています」
 後ろ手に、戸を開けた哥羽茉莉。振り返った瞬間、見知らぬ男が立っていた。

「誰だ? こんな所で何をしている」
「誰だろうね。まぁ誰でもいいだろ。ちょっと会いたい奴がいてな。あんた偉そうだから知ってるだろ? 彩花紫って女の子に会わせてくれ」
 哥羽茉莉は目を見開き、同時に間合いを取ると構えた。

「貴様! 王女様を呼び捨てにするとは! さてはどこぞの痴れ者の送り込んだ刺客か!」
「そういきり立つな、異国の人。俺が彩花紫を呼び捨てにして悪い理由は何処にも無いはずだが?」
「何を言うか! 二度までも……」
 男は笑った。

「親父が会いに来た、そう言えば話は通じるだろ?」
 驚愕に動きが止まる哥羽茉莉。

 その後ろで、蛇蝎の子供達が胡乱気な眼差しを男に向けていた。













追記:
 よんじゅうい~ち。着々とラストに向けて進んでます。なんかはみ出そうだなぁ。
 で、今回長さの割りに新キャラが沢山いましたね。その上殆ど名前無し。でも全部原作キャラです。最後に出てきたのは言うまでも無いとして、三人描写があった気がする蛇蝎の子供達は全員原作キャラ。まぁ、誰が誰とかはどうでもいいや。この後の出番とか分からないし。当てても景品はありません。
 むしろ出さないと思うと言っていた哥羽茉莉が出てきたりしてもう、なんかね……。いいのかこれで? まぁいいか。盛衰記はこんな小説です(爆



 ではweb拍手のお返事をば。
 一昨日の一件。

「~帰すわけいもいきません」→「~にも~」ですね。ニモ。赤い魚を思い出すのはなんでさ。
 と頂きました。
 誤字じゃ~っ!! くそぅ。出来るだけなくそうと努力はしてるのにぃ~(嘘くさ 盛衰記は短いから見直しが簡単だし、誤字修正なんて楽チンだよね~とか思ってたらこの有様。まぁ、序盤の方は結構誤字あるんだけどね。分かってるならなおせって話だけど……。
 え~と、ニモってそう言えば何年か前にそんな映画がありましたね。あの後で、家で飼ってる魚をトイレに流す子供達がいたとか。逆に可愛そうなんですが、純情な子供の心をなじってはいけませんね。まぁ、どっかで汚れるんですよ。そんな子供達もね、はっはっは。
 ご指摘ありがとうございました!

 で、昨日の一件!

2:09 出雲盛衰記面白いです
 と頂きました。
 シンプルな一言。嬉しいです。こういう一言に後押しされているのだなぁとしみじみ感じる今日この頃です。夏までには終わりそうな(?)盛衰記ですが、どうにか初の完結までこぎ着けたいのでこれからもどうぞ宜しくお願いします。
 コメントありがとうございました!

 他にも叩いてくれた方々。作者はもう感謝で前も見えません(極端


 では本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2006/05/11 23:46】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(1) | page top↑
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コメント
誤字脱字をすべてゆるせるくらいおもしろいっす~
今後も応援します!! (・・)ノシ
【2006/05/12 22:53】 URL | aa #-[ 編集] | page top↑
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