スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【--/--/-- --:--】 | スポンサー広告 | page top↑
出雲盛衰記44
 出雲盛衰記
 四十四章



 盆地に開けた平原。
 その真ん中にある焼け落ちた城。
 落城したのはもう随分と前。
 その廃墟に寄り添うようにかつてあった集落も、今では雑草に覆われ、人々はまるでここが忌むべき場所であるかのように近づいていないことを示していた。

「十五年か……」
 九峪はかつて処刑が行われた血塗られた石舞台に立っていた。
 処刑が行われたこの場所は、元々は祭事を執り行ういわば信仰の対象であった。出雲王家そのものよりも歴史は古く、破壊不可能な大きな一枚岩の舞台はそれでも狗根国があちこち壊そうと試みたらしく、傷が目立つ。
 だが、信仰対象から出雲の人々を離すという役割は、あの時の処刑で全て果たしていた。

 王族の子供が、両親を処刑した。
 ここは、忌むべき場所。
 呪われた場所。

 九峪は天目が自決を思いとどまり、石舞台に剣を突き刺した場所に立っていた。
 まるで怨念でも染みついているのか、その剣が突き立てられた溝とその周辺には、十五年経っても色あせない血の跡が残っていた。

 結局、天目の両親や出雲の重臣達が何処に葬られたのか九峪は知らない。
 だから、九峪が生き残るために死んで貰った者達に、一体何処で祈ればいいのか分からなかった。
 だから、九峪はこの石舞台を墓標と見立ててここまで来た。
 
 別に構わないと思っている。どうせ死人は考えないし恨まない。
 死者を弔うというのも、結局は生きている人間が気持ちを整理するためのものでしかないのだから。

「……こんなところでのんびりとしている場合ですか? 今頃復興軍と再興軍の間で戦争が始まっているかも知れませんよ」
「そうだなぁ。まぁ、そうなんだけどよ」
「何がしたいんですか? あなたは」
 閑谷の言葉に、九峪は肩をすくめる。
 そして自嘲的な笑みを浮かべて見せた。

「さて、な。一体俺に何をさせたかったのか。十五年、彷徨ってみたが結局分からずじまいだ」
「なんの話です?」
「……私の子供達を救って、か。一体どれがそうなのか先に明言しておけと言うんだ」
「……?」
 九峪はやれやれと肩をすくめる。
 自嘲的な笑みの意味は、半分はまだ元の世界に帰れることを期待している自分がいるせいだ。

 十五年。
 違う世界で過ごした時間はあまりにも長い。
 今更元の世界に戻ったところで、普通の生活は送れないだろうし、九峪がどんな扱いになっているのかも分からない。
 十五年経てば死人扱いになっているだろう。
 もう、居場所は無い。
 
 逆にこちらには九峪を受け入れてくれる人がいくらでもいる。
 九峪が自分で作ったつながりは、九峪自身にとってもかけがえのないものであり、そして捨て去ることは難しいものでもある。

 ――ここに来たのは、最後の未練を断ち切るため……なのかね。

 自問自答して、閑谷達を見る。
 十代前半の子供達。
 もしかしたら、この三人のうちの誰かがその対象なのかも知れない。
 分からない。
 全然分からない。

 ――だが、もうどうでもいい。誰がなんだろうが知ったことか。

 九峪は大きく息を吸い込むと、草原に向かって思い切り叫んだ。

「絶対に帰ってやらんからなぁーーーっ!」

 九峪の突然の奇行にいぶかしげな子供達。
「脳の具合は大丈夫ですか?」
 真姉胡の冷静なツッコミに、九峪は苦笑で答えた。
「すてきなほど正常だ」
 そう言って微笑む九峪。

 その背後で、唐突に光が溢れた。


 九峪は振り返ると、まぶしさに目を細めながら光の中に、人の影を見る。
 二人、いや三人。
 シルエットだけで、二人は分かった。

 今も九峪の脳に僅かの劣化もなく、鮮明に思い出せる姿。
 出雲王家、最後の王と王妃。
 天目の、両親。

『天目を、今まで守ってくださってありがとう』
『あなたのおかげで、私たちも恨み無く逝けます』

 ――それは、違う。俺の方こそが、あいつに救われていた。いや、今も……

『あなたにとってそうであっても、あの子にとっても同じでしょう』
『だからこそ、ありがとう』

 ――こちらこそ、と言うべきだな。ありがとう。

『ふふ、これからもよろしく頼むぞ』

 王の優しげな声色。

 ――まぁ、出来る限りは。

『浮気もほどほどにね』

 大らかなのかなんなのかそう言って微笑む王妃。

 ――確約はしかねます。

『『異界の者、そなたに感謝する』』

 二人そろって頭を下げると、光源に向かって消えていった。
 微妙に釘を刺されたような気がしないでもない九峪。

 それはさておき、まぶしくてよく見えないが、もう一つ人影がある。

 長身に長髪。逆光で姿がよく見えないなと思っていると、とたん光が消え失せ元の世界に戻った。

「い、今の一体……」
「うぅ、目が眩んじゃったよぅ」
 閑谷達は目を擦りながら真昼の怪異に狼狽している。

 九峪はそれを尻目に、自身も眩む目を細めながらも、光とともに消えなかった人影を、じっと見つめていた。

「……十五年ぶり、ですね。少年」
 腰まで伸びた金色の髪。
 180近い九峪と同じくらいの身長。
 陶磁器のように真っ白な肌。
 弧を描いている真っ赤な唇。

「……」
 九峪は無言で女を見つめる。
 後ろで突然現れた女に警戒を強める子供達など無視して。

「……何か言ってください。怒ってくれてもいいんですよ」
「……」
「あなたの運命をねじ曲げたのは私です。例えあなたが私を殺すと言っても、私はそれを受け入れましょう」
「……」
「どう、しました?」
「……」
 なおも沈黙を続ける九峪。

 女は困ったようにおろおろとし始めた。
「あ、あの、やっぱり怒ってますよね。無理矢理こんなところに放り出して……」
「……」
「で、でも、あの時はあなたにしか頼めなかったというか、次元間の移動は特定個体だけにしかその霊格が備わって無くて……私も選択肢がなかったというか……」
「……」
「……うぅ、な、何か言ってください」
 見る間にしおれて涙目になる女。
 初めに見せた超然とした姿は何処にもなくなっていた。どうやらあれはポーズだったようだ。

 九峪はガシガシと乱暴に頭を掻くと、ちょいちょいと女を手招きする。
 ようやく反応が会ったことに喜んで、笑みを浮かべて近寄ってくる女。
 九峪は至近まで迫った女の額を、手招きしていた手でこづいた。
 思わずのけぞる女。
「な、何するんですか!」
「……色々と聞きたいことはある。あるが、今は一つだけでいい。答えてくれるか?」
「はい。なんでもお答えしましょう」

 九峪は女の腰に手を回すと、ぐいっと身体を引き寄せる。
 息がかかるほどの距離に顔を近づけて、じっと女を見つめる。
「あ、あの、その……、近いんですけど……」
「お前って、ずっと俺のこと見てたのか?」
「え、あ、まぁ、四六時中というわけではないですけど……」
 九峪はふっと何かを悟ったように笑った。

 女はその顔が魅力的だったのかどうなのか、顔を赤らめる。
 九峪はその瞬間、一瞬で女の背後に回り込むと、上体を下げて腰の辺りを両腕で掴む。
「な、なに?」
 背中に顔をくっつけて見ようによっては母親に甘える子供の体勢だが、九峪にそんな思惑は皆無だ。

 九峪は、十五年分の鬱積を込めて叫んだ。

「出てくるのが遅すぎじゃ、このボケェッ!!!!」

 同時に女の視界が回転し、その身体は真っ逆さまに石舞台に突き刺さった。
 見事ジャーマンスープレックスを決めて、ブリッジの体勢から跳ね起きた九峪は、石舞台に半身を突き刺されてぴくぴくと言っている女に指さすとともに、宣言した。

「とりあえずこれだけで貴様に対する怒りは治めといてやる。心の広いオレ様に感謝しろよ。女」

 傲然と言い放った九峪に対して、状況のあまり分かっていない虎桃が一言。

「っていうか、もう死んでるんじゃない?」

 石舞台の上は、なんともいたたまれない空気に支配されていた。













追記:
 五月は最後って言ったじゃないかぁーっ!

 一応叫んでみましたが、書いちゃったもんは仕方ないでしょう。仕方ないので更新しました。
 まぁ、展開に付いては多くを語るまい。エンディングが近い――なんとなく六十章近くまで行きそうで怖いんだけど――はずなので、作者は黙して語らずですよ。どんなエンディングにするかはもう考えたもんね! そこまでが問題だが……。


 ではweb拍手のお返事~。
 一昨日一件です。

10:38 所詮の相手→初戦の~、一般塀→一般兵、かな?休みボケでござるよぅ
 と頂きました。
 あぅっ! ボケてる。ぼけなくていいところでぼけてる。つーか、あれです。ちゃんと見直ししろって話ですね。
 ご指摘ありがとうございました。

 で、昨日分。まずは最初の二件。

13:51 ワーイワーイワーイ!! 盛衰記が更新されたのに両手を上げて万歳してました。いつも楽しみにしてます。
13:51 永閃と永楽って、男女が設定段階では逆だったらしいですよ。だから間違えても問題な(ぁ
 と頂きました。
 ご期待にお応えしようと思ったわけではないですが、再び更新です。楽しめれば何よりですが……。
 永閃と永楽。なるほど。まぁ確かにどっちが男の名前でどっちが女の名前ってはっきりするような名前でもないですからねぇ。ぶっちゃけ中国人がお前は! って感じの名前ですし。永って名字なのかな? どうでもいいか。
 コメントありがとうございました。

 次の二件。

15:48 新説の九峪ha暹氣虎魂
15:49 おっと間違えた。新説の九峪は一文字流ですか、勁も使えるのでその内暹氣虎魂くらいやりそうですよね。(爆
 といただきました。
 まぁ、九峪もアレは愛読書の某男塾を見よう見まねでやってるだけで、九峪が何流というわけではないです。シロクマを素手で倒せるので多分範馬流だと思いますが詳細は知りません。まぁ、王虎寺秘奥義ももしかしたら使えるのかも。ぶっちゃければ作者の気分次第でどんな技でも使うと思います。ギャリック砲とかもネ(マテ
 コメントありがとうございました。

 ラスト四件。

19:14 最近こちらを知っていろいろSS読ませていただきました。新説・火魅子伝と盛衰伝が特にツボでした……エロ
19:14 いし。(何 一つ気になったのですが、新説十二話で九峪の話に出た幼馴染と日魅子は別人なのでしょうか?序
19:14 話での九峪が住んでいたところとか考えると多分違うのでしょうけど。お教えくだされば幸いです。新説が停止
19:14 中なのは残念ですが。その内再開する事を祈って待ってます。それでは長々と失礼しました。
 といだきました。
 新規のお客さんのようですね。はじめまして。
 新説と盛衰記がツボと。ううむ。やはりエロは需要がありますなぁ。いっそのことR指定もののSS連載しようかな。いえ、嘘ですけどね。
 ええと、それで十二話の幼なじみは設定上は日魅子です。でもアレは九峪の作り話だったりするので信じないで下さい。いくら幼いとは言え、人間の規格外である九峪を組み敷けるのはそれこそ日魅子だけです。実際その辺ノリで書いてて設定も何もないので(ぉぃ 困惑させてしまって申し訳ないです。後のエピソードでその嘘を流用しようとしていたんですが、すっかり忘れてました。っていうか、最近書いてないわけですしね。
 新説の方は、盛衰記が終わったら続きをblogで書こうかなと思ったりしています。と言っても、blogそのものは変えますので見つからないようにコソコソやる予定ですが。つーか、立ち上げるだけは既に立ち上げてたりするんですけどね。まぁ、まだ何もないけど。
 と言うわけで、楽しみにして頂ければ、なんて言うと裏切りそうな予感もあるし……。先のことは分かりませんです。
 コメントありがとうございました。

 他にも沢山の拍手ありがとうございます。

 今週中にもう一回更新するかも~。では本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ

【2006/05/31 00:22】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
<<出雲盛衰記45 | ホーム | 出雲盛衰記43>>
コメント
コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する

トラックバック
トラックバックURL
http://sophist00.blog48.fc2.com/tb.php/81-3a948d1c
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
| ホーム |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。