スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【--/--/-- --:--】 | スポンサー広告 | page top↑
出雲盛衰記47
 出雲盛衰記
 四十七章



 城壁の上から天目と紅玉、香蘭親子の戦いを見ていた衣緒は、その人知を越えた動きにすっかり意気消沈していた。
 ――あんな人が他にいるというなら、それは私が防がなくてはならないというのに……

 衣緒にはまるで自信がなかった。精神論でどうにかできるレベルの違いではない。多少の足止めくらいなら可能かも知れないが、それでも勝つという単語はまるで浮かんでこないのだった。
 しかも、いざ戦闘になれば人数はあちらの方が多い。仮に天目一人でも城内への侵入を許せば、星華や神の遣いを守りきれるとは思えなかった。

 ――お姉様はどうするつもりなのかしら。

 思い起こすのは自信満々で勝ちを疑わない姉の顔。どんな秘策があるのかは聞いていないが、それでも姉ならばなにか途方もない策を考えていることだろうと思う。ただ、なぜそれを何も話してくれないのかが、どうも気がかりだったのだが。

「それに、羽江も……」
 羽江の身柄が復興軍の方にあると言うことは乱破からの報告で分かっていた。特に捕らわれているというわけではないようだが、それでも実質人質を取られているようなもの。あからさまにそのことを示されれば、少なくとも衣緒自身の動きは止まるだろう。姉や、他の宗像関係者については何とも言えなかったが。

「衣緒様、そろそろお休みになられては……」
 部下の一人が進言する。
 昼間の騒動から大分時間も経っている。とっくの昔に日は暮れて、城外では再興軍がかがり火を焚いているのが見える。夜襲も一応は警戒しなければならないが、衣緒が直接指揮をしなければならないというわけでもない。どのみち四六時中張り付いていることなど出来ないのだから、休めるときには休んでおくのが無難と言えた。

「そうさせてもらうわ。くれぐれも警戒を怠ることがないように」
「は」
 頭を下げる部下。
 衣緒は城壁づたいにではなく、城壁を下りて街を通って城まで向かうことにした。街の中の様子を多少見て回りたいと思ったからだ。

 とは言え、暗くなってしまえば大抵の家では既に眠りについている。光熱費の無駄でしかない時間帯に起きている人は少ないのだ。さらに戦時中と言うこともあって、住民はやはり勝手に出歩いたりはしないようだ。不審な人物がいないか、復興軍の兵が哨戒している事もある。

 衣緒は静かな街の中を、ゆっくりと歩く。不気味なほどの静けさは、あまり気持ちのいいものではなかった。
 ふと、先の方へ目をやると、月明かりの下で倒れている男がいた。格好からすると旅人のようだが、外部からの出入りが出来ない今、旅人が城内にいること自体怪しさ満点だ。衣緒は肩に担いでいた巨大な鎚を構えると、ジリジリと男に近づく。
「……大丈夫ですか?」

 警戒を怠らないまま、足で突っつく。男はピクリともしない。一応生きているのか呼吸音は聞こえてくるが、意識は無いようだった。
「さて、どうしましょうか」
 衣緒は、傍らに膝を突くと、俯せになっていた男の身体をひっくり返す。

 三十がらみの無精髭を生やした男。何処か怪我をしたのか、服は血に濡れていた。
「もし、しっかり」
 衣緒が揺するが、男は目を覚まさない。
「困りましたね」
 哨戒してくる兵がやってくるのを待つか、それとも呼びに行こうか迷う。この男が敵だったのならば、ここで目を離すのは危険だ。どのみち怪しい男ではあるし、死なれたからと言って衣緒が困るわけでもない。暫く考えて、ここで様子を見ることに決めた。

「すー、すー」
 脳天気に寝息を立てている男。
 衣緒はどことなく愛嬌を感じさせるその寝顔に、笑みを零す。
 ――今がどんな状況か、分かってるのかしら。

 なんとなく、さらさらと髪に触れてみて、自分は一体何をしているんだろうと首を傾げる。見ず知らずの年上の男に、寝ているのをいいことに勝手に触っている。なんだか酷く自分が変なことをしている気がして、慌てて男から離れ――ようとした。

「!」
 髪に触れていた腕が不意に掴まれる。驚いて引っ込めると、その手はあっさり振り解けた。
「む、ここは……」
 男は警戒する衣緒に構わずゆっくりと身体を起こす。
 自分の血にまみれた格好を見てため息を吐いた。服もあちこち破れている。

「あ、あなた……。なんでこんな所に」
 衣緒に問いただされ、男は眠気を追い払うように首を振る。
「なんでって、まぁ、何でだろうな? 強いて言えば復興軍の幹部に会いたかった気がするが……」
「! やはり暗殺者ですか!」
「はぁ?」
 いきり立つ衣緒に心底心外だといいたそうな九峪。

「なんでそうなるかなぁ。大体暗殺する意味あるのか? ほっといても再興軍が勝つだろ」
「ぐ、そんなことやってみなければ……」
「いや、やるまでもないと思うがね。まぁ、俺はどちらかといえば平和の使者だよ。丸腰だし、その物騒なもん下ろしてくれないか?」
「使者? 交渉の余地があるとでも?」

 九峪はまじまじと見つめてくる衣緒に向けて苦笑してみせる。
「なぁ、衣緒。目的が同じなのに、手段が違うからって争うのは、どうかと思わないか?」
 名前を言われて当惑する衣緒。
「なぜ、私の名前を」
「羽江に人となりは聞いてる」
「羽江に……。ではやはりあなたは再興軍の……」

「どちらかといえばな。だが、ここにいるのも独断だ。とは言え話を聞いてくれるなら羽江を返すことは確約しよう」
「ここであなたを殺したら?」
「別に構わんよ。それならそれで。だが、少しでもこの戦いに疑問を抱いているなら、俺の話も聞いて欲しいもんだな」
 逡巡する衣緒。それはそのままこの戦いに、衣緒自信が迷っているせいでもある。

 客観的に見れば正義は再興軍にあり、宗像神社がどうこうというよりは、耶麻台国の復興こそが目標だった衣緒にしてみれば、この戦争自体不毛だと感じていた。出来うるならば止めたい。それは切実に感じている。そして、それが殆ど不可能だと言うことも分かっている。

 幾ら香蘭、紅玉が異常な強さを持っていようとも、たった二人の強者だけで戦争を勝つことなど出来ない。優秀な人材も軒並み再興軍にとられてしまった今、亜衣の知謀だけが唯一の頼み。でも、衣緒は姉が追いつめられた状況でとんでもないことをしでかしてしまいそうな、そんな予感があった。

 実際、亜衣には前科がある。十五年前の耶麻台国滅亡の時も、これまでの反乱軍としての生活でも、亜衣は生き残るために手段を選ばない。かつて竜神族を狗根国に売り渡したような真似を、今また再び起こさないとは、衣緒にも言い切れるものではなかった。

 再興軍がそれを危惧し、大義名分と振りかざして復興軍を攻めるのはやはり道理。だが、逆に追いつめたことで亜衣は手段を選ばなくなる。それが、衣緒にとって一番の危惧だった。

 だから、男の申し出に心が揺らぐ。
 根拠は何も無い。ただ、目の前に現れた男に縋りたかったのかも知れない。
 姉を止め、妹を救い出してくれるという甘言。
 罠である可能性は高いが、それでも衣緒の迷う心では、男を討ち果たすことが出来なかった。

「わかりました。ですが、あなたが暗殺を目論んでいないとも限りません。拘束させて貰いますが構いませんか?」
「ああ、当然の処置だな……って」
 男はそう言って首を傾げる。衣緒は軽甲に悪趣味なほど巨大な鎚を持っている身なりで、どうも人を拘束するような縄などを持ち合わせているようには見えない。

 衣緒もそれに気づいて、仕方がないかと一つ息を付くと、男に先を歩かせて自分は怪しい動きが無いか見張る事にした。物腰から素人ではないとわかったが、さりとてそれほどの手練れというわけでもなさそうだと、衣緒が判断したためだ。不審な動きがあれば自分一人で止められるだけの自信があったのだろう。

 衣緒はふと、前を無警戒に歩いている男に聞いておかなければならないことがあることに気づいた。
「あの……」
「九峪だ」
 男はまるで衣緒の心を読んだかのように、すらりと自分の名を口にする。
「……」
「ん? 名前じゃなかったか?」
「え、あ、はい。そうですけど、なんで分かったんですか?」
 気味が悪いとでも言いたげな衣緒。

「別に。そう言えばまだ名乗っていなかったなと思っただけだよ。まぁ、強いて言えば経験則かな」
「はぁ。それで、九峪さんは姉様に会ってどうするつもりなんです? 平和の使者とはいいますが、この戦争はなんの犠牲も無しに終わらないような気がします」
「そうだな。一人も犠牲が出ないような状況なら、そもそも戦争にならない」
「では……」
「亜衣の首を条件に停戦。それも一つの道だろうな。まぁ、それをよしとする人間かは知らないが」

「亜衣姉様は、絶対に降伏だけはしないと思います」
「妹の衣緒が言うなら、それはそうなんだろう。だから、まぁ、色々と難儀なんだが……」
 ふと、九峪は足を止める。
 不審に思って、警戒を強める衣緒。その背後で、土を踏む音が響いた。

 同時に振り返る、九峪と衣緒。
 そこに立っていたのは、赤い魏服に身を包んだ、妙齢の女性。

「紅玉さん。なぜ、こんな所に……」
 衣緒の言葉を、紅玉は無視して九峪だけを凝視していた。

 一歩、近づく。
 その顔は、当惑に彩られている。

「よぅ。紅玉」
 九峪の気安い挨拶。
 紅玉は両手を口元に運ぶと、わなわなと震えている。

 そして、ぽつりと呟いた。

「なんで……生きて…………」

 狼狽する紅玉に、九峪はニヤリと笑みを向けた。













追記:
 今週も二回更新。本サイト休んでるくせにこっちはやってるっていうのもどうなんだろうね。まぁ、向こうも来週は更新します。次が何時になるか知らんけど。

 で、九峪が相変わらず神出鬼没に登場。始めは復興軍vs再興軍なんて面倒で書く気がなかったんだけど、そう言えば復興軍籠絡大作戦という偉大な(?)計画があったのを思い出したので方針変更。ここから九峪の百人切り(女限定)が始まるかも。というか、紅玉過去編を書かなくてはならない流れな気がするんだが、それだとまた話が延びるんじゃ……(タスケテー
 まぁいいんです。過去編でお茶を濁して現実問題をさくっと終わらせるのが盛衰記クオリティです。現在は過去の積み重ねで出来ているのですから、過去を現在の言い訳にできれば、現在などただの結果です。数学で言うと過去が計算過程で現在は答えのみなのです。とか、訳の分からんことを言ってみました。やりようの問題で、現在の積み重ねを未来(エンディング)につなげるでも別に同じだろ~、と思わなくもないけど。

 さて、無駄話はこのくらいにして、web拍手のお返事を。
 6日の分、一件です。

22:43 やった、発見!
 と頂きました。
 おそらくこのblogの場所でしょうね。おめでとうございます。

 続いて7日分、一件です。

12:49 バトルや!バトルやー! ここの香蘭は格好いいですね
 と頂きました。
 香蘭が格好いい。そうですね。そもそもあの天然娘は戦闘時は激強でまじめでかっこいいものなのだと思います。普段の抜けてる印象がどうも先行してますが、戦闘描写だけ書けば、火魅子に一番近いと錯覚できるかもしれません。
 コメントありがとうございました。

 他にも叩いてくれた方に感謝を!

 では今日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2006/06/09 19:10】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(1) | page top↑
<<出雲盛衰記48 | ホーム | 出雲盛衰記46>>
コメント
ひょっとして紅玉が、昔、九峪を殺しかけたとか?
おもしろいです!!!!!!!!!
【2006/06/11 08:56】 URL | アレクサエル #-[ 編集] | page top↑
コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する

トラックバック
トラックバックURL
http://sophist00.blog48.fc2.com/tb.php/84-e5b856ea
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
| ホーム |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。