スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【--/--/-- --:--】 | スポンサー広告 | page top↑
出雲盛衰記49
 出雲盛衰記
 四十九章



 確かに殺したはずの男が、今目の前に立っている。
 紅玉は武術の達人。
 盗賊として、武人として、人をあやめたことは幾度もある。
 その紅玉が確実に殺したと、そう判断したにもかかわらず、こうして目の前に立っている。

「殺る気満々だな」
 うっすらと笑みさえ浮かべて立っている男は隙だらけ。今すぐにでも殺すことは出来る。
 それは間違いない。
 だが、一度殺したはずなのに今こうして生きている以上、また同じ事をしても殺しきれるとは思えない。

「……あなたは、何者ですか? 王族と言っていたのは本当ですか?」

 紅玉の問い。
 九峪はまさか、と肩を竦めてみせる。

「生憎そんな上品な血筋じゃない。アンタにやった神器だって耶麻台国滅亡のどさくさで手に入れたものだしな。だからまぁ、別にアンタを咎める立場には無いし、形はどうあれ耶麻台国復興に力を貸してくれた人間を、昔の生業が卑しいからと言って咎めるのもどうかとは思ってる。役に立ってくれた以上、それには報いるべきだと俺は思う」
「……何を企んでいるのです?」

 九峪はニヤリと笑みを向ける。そして、次の瞬間姿を消した。
 驚愕を浮かべる紅玉。
 文字通り消えた九峪を探し、視線が周囲を巡る。
 姿は直ぐに捉えられた。それほど移動したわけではない。通り沿いの民家の壁に寄りかかっている。

「今……何を」
「何が? 疲れたから壁に寄りかかろうと思っただけだ。それより紅玉。提案がある。再興軍の連中は別にお前等親子に対して今のところ積極的に敵対する理由はない。寝返ってくれるなら諸手をあげて歓迎してくれるだろう。要であるお前等が抜ければ、復興軍など烏合の衆以下だ。そもそもこの内乱自体、宗像神社に対する糾弾だ。強力な後ろ盾であることは確かだが、幾ら大きな船だとは言っても、底に大穴が空いている船にいつまでも乗っているのはあまりいいとは思えないな」
「フフ……、何を言うかと思えば」
 紅玉は九峪の提案に微笑を浮かべる。先ほどの九峪の異様な動きに対しての狼狽を悟られないように、殊更ゆったりと。

「沈み行く船と言うならば、それは復興軍に限ったことではないでしょう。九峪さん、と仰いましたね。私は別に九洲の為に尽力する立場ですら無いのですよ? ええ、王家のものというのも、当然嘘なのですから」
「……あー、なるほど。お前が本当にこだわっていたのは亜衣の持つ狗根国へのツテか。なるほどねぇ。確かにこのままどちらも沈むというなら、最後に浮かんでいるのは狗根国と言うことになる。ならばそちらへ流れるのは必然というわけか」
「その通り。だからもし私を寝返らせたいというなら、それを上回る利を示していただかないと」

 そう言って微笑んでいる紅玉に、九峪は半ば同情の籠もった眼差しを向ける。

「――わかった。何が欲しい? 狗根国での地位なら四天王以上の座を俺が斡旋してやるし、再興軍に加わってそのまま耶麻台国が復興したらお前の娘を火魅子にしてやってもいい。まぁ、そこら中に貸しはたくさんあるから問題ないはずだが……。どうする?」
「え――?」

 予想外の返答に紅玉の目が点になる。

「一応俺は元狗根国四天王の一人。今回の戦で雲母が四天王の座から落ちたから、その穴に推挙すれば紅玉の実力ならすんなり収まるだろう。狗根国側で良ければ直ぐにでも移れるぞ。ふん。亜衣の裏切りを背景とした弱いつながりなどではなく、俺の方が安全確実だ。あちらの大王にも顔が利くからな」
 平然と言い放つ九峪。

「そんな、あからさまな嘘を……」
「別に信じて下さいとまで言うつもりはない。判断は任せる。だが、亜衣と繋がってるのはおそらく東山。奴自身既に先は無いからな。復興軍に付いたままならば、確実に損しかしない。また盗賊に逆戻りだ。それでいいなら俺は止めはしないさ」
「……」
 紅玉は思考を巡らせる。
 しかし、九峪の言葉の真偽を確かめる術がない。

 悩み、惑い、暫く静寂だけが二人の間に流れ、そして紅玉は構えた。

「お断り、って事か?」
「――いえ。半ば以上信じてはいます。ですが、貴方の言葉の中で、この場で確かめられることがあるとすれば、それは四天王としての実力があるかどうかのみ。私を納得させられるだけのものであったら、信じましょう」
 尺度が腕っ節かよ、と九峪は毒つきつつ壁から背を離した。

「一度殺したのに生きてる時点で信じて貰いたいもんだけどねぇ」
「こちらとしても最大限の譲歩です。それとも、すべて口から出任せだとでも?」
 射殺すような紅玉の視線。
 九峪はそれを笑みで受け止め、人差し指を立てた腕を突き出す。

「一つ……、賭をしよう。アンタはただの四天王より強い。四天王だからと言ってアンタを倒せるかと言えばそれは半々と言ったところ。どのみち俺が本物であれ命がけだ」
「それで?」
「俺は戦いがあまり好きじゃないし、真面目に戦って欲しければそれなりの俺自身に対する褒美が無くてはやる気が出ない。だから、俺があんたを倒したら、そのまま押し倒すがそれで構わないか?」
「――」
 紅玉は、構えは解かないまま目を丸くする。

「ダメかな?」
 小首を傾げる九峪に、紅玉は蠱惑的な笑みを返した。

「その時はどうぞお好きに。本物ならば世話になることになりますから、多少のお返しはしないといけませんからね。それに一度殺してしまった貸しもあるでしょうから」
「契約成立……だな」
「フ……」
 紅玉の笑みが深まった、その瞬間――

 九峪と紅玉の間の距離はおよそ七メートルほど。
 一息で詰めるには遠く、さりとて背中を向けるには近すぎる距離。
 紅玉は、その距離を一足飛びで零となす。

「はぁっ!」
 裂帛とともに放たれた拳は、まだ構えすら取れていない九峪の胸に神速で突き出される。
 紅玉にとって必殺の間合い。
 紅玉の脳裏には自らの拳が九峪の胸板を貫いている光景が既に見えていた。


 だが――

「時は止まる」

 静かな声。だが、紅玉がそれを聞くことはない。
 九峪は急停止した紅玉の横に回り込むと、一息で紅玉の来ていた魏服を破り捨てる。
 白く熟れた紅玉の肌を見て一言。

「むぅ。侮りがたし」
 何をどう侮っていたのか不明だが、時が切れる直前九峪は紅玉のこめかみの辺りに向かって思い切り掌底を叩き込む。

 衝突の寸前、時が動き出し、紅玉は目の前から九峪が消えたという事を認識する前に、九峪の反則気味なカウンターを食らってその場で一回転した。

「――う、うぅ」
 虚ろな視線を空に向ける紅玉。
 自分がどういう状況になったのか何も分からなかった。
 次第に意識がはっきりしてくると、どうやら倒されたという事だけを実感する。

「負け――、たの?」
 実感の湧かない言葉。
「勝てたと思ったか?」
 直ぐ横で放たれた九峪の言葉が、揺れた頭には随分と遠くに聞こえる。
「一体、どんな術かしら……。あの間合いから、どうやって」
「教えて欲しいか?」
「是非」
 紅玉は答えながら上半身を起こした。



 焦点の定まらない視界で見つめれば、必殺どころか男は無傷。
 そして、今なお隙だらけの立ち姿。

 ――この人は私では、到底到達出来ない高みにいる。

 理解の範疇の外。或いは理そのものの外に立つ男。

「じゃあ、俺の言葉を認めるってことでいいのか?」
「……さて、どうでしょう」
 紅玉はふらふらと立ち上がると、九峪にしなだれかかる。

「――おい」
「……どのみちこんな事で貴方に信など持ちようはない。でも、女に心より信じ込ませたくば――」
「皆まで言われずとも」

 言葉はそこまで。
 
 二人は濃厚な口づけを交わすと、夜の闇へと消えていった。













追記:
 四十九章終了。紅玉の説得に思ったより手間取っちゃいました。で、香蘭は出番無しか。まぁ、おこちゃまには用が無いと言うことで。しかし今回も最後の方は強引な展開でしたねぇ。上手くまとめる事が出来なくて残念無念。
 さて、まぁ、vs復興軍は前座が終了していよいよ次回から本丸です。残る問題児は亜衣と星華。九峪は見事籠絡せしめるのか! それとも適当に終わらせるのか! 作者もさっぱり分かりません。


 アトガキはここまでにして、web拍手のお返事。

 昨日の分。まず始めの二件。

11:17 ホゥォ~ア~~タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタッ!
11:19 ホゥァッ!ホォァッチャァァァァァァァ!!!    北斗百烈拍!! お前はもう(49話を)書いている。
 といただきました。
 はっ! 本当に書いてる! と言いたいところですが、このコメント読んでから三十時間後くらいに書き始めました。ネットワーク経由だとさすがの北斗の奥義も効果が薄いですね。次回で記念すべきかどうか分かりませんが、五十章。誰か今の三倍早く書けるような必殺技を編み出して欲しいですね。それなら毎日更新出来るのに。まぁ、赤く塗って角でも付ければ……って関係ない話ですね。
 コメントありがとうございました。

 上と同じ人な気もする三件目。

11:49 200000hitおめでとうございます~byE
 といただきました。
 ありがとうございます! ありがとうございます! ありがとうございます! な、なんと二十万hit。こんな拙いサイトでも見てくれる人はいる以上、これからも頑張ります。作者に出来る事などこれからも駄文を吐き出す事くらいではありますが、おつきあい頂ければこれ以上ない幸せです。
 で……、Eさんとは二十万hitのキリリクを狙っていたEさんだろうか。だとしたら何か言えば書くカモね。書かないかもわからんですが。言うのはただでっせ、旦那(何者?
 コメントありがとうございました。


 では、本日はこのへんでヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ
【2006/06/15 23:06】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
<<出雲盛衰記50 | ホーム | アトガキ 編年紀【裏】十二~十四章>>
コメント
コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する

トラックバック
トラックバックURL
http://sophist00.blog48.fc2.com/tb.php/87-2544ac1f
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
| ホーム |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。