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出雲盛衰記50
 出雲盛衰記
 五十章



 朝目覚めるといつも同じ部屋で寝起きしている母上の姿がない。
 昨夜見回りに行くと言って以来戻ってきていないようだが、別段いつもの事だと気にもせずに布団から出た。

 復興軍から再興軍が分裂してから、母上は有能な幹部の一人として他の幹部に混じって会議をしていることが多かった。私は火魅子候補として崇められてはいるが、しかしどうにも考えることは苦手でその手の話し合いにはあまり顔を出さない。母上はそれではダメだと言うが、本音を言えば国などと言う煩わしいものになど関わらず、元の盗賊家業を続けていた方がずっと気楽で楽しかった。

 何せ、二人そろえば天下無敵だ。相手が五十や百なら相手にならない。田舎を転々と巡って盗賊家業を続けていれば、これから先もずっと苦労なんかする必要も無かったのに。

 それが不満と言えば不満。

 もちろん、小さくとも一国の王となって贅を懲らした生活を送る事への、あこがれがないわけじゃない。でも、それについて回る煩わしいことを考えれば、私には向いていないのだと思う。

 とんとんとん

 軽やかな足音。
 それで母上が来るのだと言うことは分かった。足音だけで上機嫌であることが知れる。昨夜は何かあったのだろうか。再興軍が奇襲でも仕掛けてきて、散々に打ち破ったとか。
 いや、それならば私も起きるはず……。

「香蘭、起きていますか」
「はい、母上」
 戸を開いて顔を出した母上は、やはりこの上なく上機嫌だ。まるで若返ったかのように肌もつやつやしている。

「母上、昨夜は何処に行っていたか」
 質問に母上はとろけそうな笑みを返す。その意味が分からず首を傾げる。
「母上?」
「ねぇ、香蘭……」
 常の厳しさなど微塵も感じさせない、柔らかい声色。
 気味が悪い。
 母上は私の質問には答えず、逆に私に問う。

「弟か、妹が欲しくない?」
 私はその言葉を反芻し、意味を推測し、そして理解と同時に思考を停止させていた。



 紅玉と一緒に宮城に入り、そこから九峪は衣緒に連れられて評定の間へと案内される。
 衣緒はあの後二人が戻ってくるかと暫く城門で待っていたのだが、結局姿は見えなかった。朝まで何処で何をしていたのか気になってそれとなく聞いてみる。
「あの、昨夜はどちらに?」

 衣緒としては九峪が紅玉と結託して内部工作を行おうとしている可能性も危惧していた。だから、その口調は少しばかりとげとげしい。

「……ん? 聞きたいか?」
「ええ、貴方はやはり部外者ですし、どこにいたのか聞いておかなくては」
 職務に忠実な衣緒。九峪は軽く頷くと衣緒の耳元でそっと囁く。

 途端、衣緒は顔を真っ赤にして立ち止まった。

「え、あの、じゃあ、紅玉さんとは……」
「抜き挿しする仲」
「……」
 露骨とも言える表現に衣緒は俯いてしまう。

「はは、純情だなぁ衣緒は」
「~~~っ! からかわないで下さい」
 九峪は楽しげに笑いながら先へと歩く。

「あ、ちょっと場所分かるんですか?」
「評定の間だろ? 場所が変わってなけりゃこっちでいいはずだが」
「……なんで知ってるんです?」
「なんでだろうねぇ。前に入ったことがあるからじゃないか?」
「また、そうやってとぼけて……」
「はっきりと言ったら衣緒が恥ずかしくて死んじゃうだろう? それとももっと詳しく聞きたいのか? やらしいなぁ、衣緒は」
「そっちの話じゃありません! ふざけてると本気で殴りますよ!」
「そりゃ勘弁だな。衣緒に殴られたら頭蓋が陥没してしまう」

 九峪は衣緒をからかいながらも足を止めない。
 そのまま笑い声と怒声を引き連れて評定の間の前まで来ると、さすがに衣緒も息を落ち着けて九峪に先を促す。
 九峪も幾分顔を引き締めると重々しい扉を開いた。



 評定の間にいたのは僅かに三名だけ。
 星華、亜衣、そして……
「柚子妃? なんでお前がここに」
 意外な人物との再会に、九峪は目を丸くする。
「……」
 柚子妃は答えない。ただ、九峪の出現ににやりと笑みを浮かべている。

「おや、柚子妃様とお知り合いでしたか」
 レオタードのようなものをきた眼鏡の女、亜衣はそう言って双眸を細める。
「あんたが、亜衣か。初めまして」
「初めまして。柚子妃様は知っているようですから、こちらの方の紹介を」
 亜衣が、そう言って隣に座る星華を紹介しようとすると、星華はそれを制して恭しく立ち上がる。

「初めまして。私は火魅子候補筆頭である星華です」
「ふぅん。どんなもんかと思いきや……」
 九峪の気のない返事。
 その態度は、あからさまに星華の自尊心を傷つけた。

「貴方! 私が火魅子候補であると名乗っているのになんという態度!」
「星華様、落ち着いて下さい」
 亜衣の冷めた声に、星華はギロリと睨め返す。
「これが落ち着いていられますか! こんな屈辱ははじめてよ。亜衣、こんな奴の話なんて聞く必要はないわ! 今すぐ首を切って送り返しなさい!」
 激昂する星華の発言に、亜衣はため息を一つ。

「殺すのは話が終わってからでいいでしょう。徹底抗戦の構えを見せていた再興軍が送り込んできた男が何を土産に和平などと言っているのか興味があります。気分が優れないのであれば、席を外してください」
「亜衣! あなた誰に向かって……」
「黙って下さいというのが聞こえませんか?」
 亜衣が視線を返した瞬間、星華は息をのんで黙り込んだ。そして、腰が抜けたように座り込む。

 星華が大人しくなったのを見届けた亜衣は、再び九峪へと視線を戻す。
「さて、それでは暇な身でもありませんし、早速本題に……」
「ああ、まて。その前に聞いておきたい。柚子妃が様ってなんなんだよ」
「なんだもなにも、柚子妃様は火魅子候補であらせられますから、柚子妃様とお呼びするのが普通でしょう」
「――っ! 柚子妃が火魅子候補!?」
 まじまじと柚子妃を見つめる九峪。柚子妃は幼い顔にその態度に対する不満をありありと浮かべている。

「ええ、それが何か?」
 亜衣は平然と答える。そう、柚子妃が王家の血筋ですらないことが、一体どうかしたのかとでも言うように。

「ははは、随分とまぁ、なりふり構わないって言うか」

 ――狗根国の関係者って知ってて……ってワケじゃないんだろうが。

「九峪殿、本題を……」
 氷のような冷たい瞳。万人が射すくめられそうなその瞳を、九峪は楽しげに見返す。
「――……」
 亜衣はそれに少しだけ、本当に僅かだけ驚いたような表情を見せた。そして瞬時に九峪が油断ならない相手だと把握し、元の氷の視線に戻す。

「まぁ、そうだなぁ。別に回りくどく言うことでもない。とっとと再興軍に降伏しろ。勝ち目の戦いをやって無駄な犠牲を出すこともあるまい。お前等の本懐が真実耶麻台国復興であるならば、今は再興軍に加わることこそが唯一の道だ」
「ようは降伏勧告、と言うことですか?」
「してくれるなら、譲歩はしよう。火魅子候補が全員真っ赤な偽者である情報は伏せさせるし、かつて耶麻台国の滅亡に宗像神社が一枚噛んでいた話も払拭させてやる。そもそもこの戦いが狗根国の情報操作に寄るものだという顛末で、自体は収拾させられる。戦いが始まる前、今この時ならばな」

「……失礼ですが、九峪殿は復興軍には加わっておられなかったはず。再興軍で一体どのような地位におられるのか? 仮にその提案を受けるにしても、貴方の立場が分からなければ、どのような言葉も説得力を持たない。響きだけがいい空言に命運をかけるわけにはいきません」
「道理だな。だが、それを言うと幾分がっかりするかもしれんな。俺は天目の伴侶であり、王弟伊雅並びに志野、伊万里、藤那と言った主だった連中の命の恩人だ。再興軍のものですらないが、恩は腐るほど売っている」

「――なるほど。これで得心がいった」
 亜衣は小さくため息を吐く。
 星華も衣緒も、九峪の言葉に戸惑っているだけだったが――なにせ信用のしようもない――、亜衣だけはそれがおそらくは真実であると認めていた。
 なぜならば……

「天目、志野の連携と手際の良さ。加えて伊雅様とまでまるで計ったかのように手を組む動き。どうしても私にはその間に立っていた人物が分からなかった。だが、それがあなたか」
「亜衣?」
 星華は亜衣が何を言っているのか分からなかった。

「分かりませんか? この男こそが、復興軍を討ち滅ぼすために、再興軍を裏で操っていたと言っているのです」
「――こんな冴えない男が?」
 歯に衣着せずに漏らす星華。

「ふむ、俺の存在そのものは伝わってなかったか。どこからか漏れているかなと思ってはいたんだが、存外上手く立ち回れていたらしい。が、少しだけ訂正させて貰おう。別に俺は復興軍を滅ぼそうなどと思って動いていたわけではないし、再興軍自体にはなんら関わっていない。あれは天目が自分の為にやっていることだ」
「……そう言うことにしておきましょうか。しかし、九峪殿。貴方が真実再興軍と関わりがないというならば、なぜここに参られた? 私たちが滅びるのが必定と思っているのならば、それで構わないのではないのかな?」

「確かに、どうでもいい。お前等が死のうが知ったことか。正直乗り気じゃない。俺が唯一絶対的に肩入れしているのは天目一個人に対してだけで、だからこそ復興軍の連中がどうくたばろうがどうでもいい。だが、そうなると全ての元凶たる天魔鏡まで失われる。そうなると困る奴がいるんだよ」
「天魔鏡?」
 意外な発言。確かに精霊が宿るほど神性の高い神器ではあるが、壊れてしまったからと言って困るようなものでもないはずだ。少なくとも宗像神社という古い体制を打倒しようとしている再興軍にはない方がいいくらいだ。

「説明は面倒だが、偽者候補ばかりを選定するっつークソ鏡も、一つだけ世のため人のために役立つらしいからな」
「ちょっと……」
 亜衣の視線に黙らされてからは大人しかった星華も、今の九峪の言葉は聞き捨てならなかったらしい。

「訂正して下さいますか? キョウ様に頼んで戦のために偽者候補ばかり擁立しましたが、私は、私だけは本当なんですから!」
「誰が? 昔偉大だったという噂の姫御子の血も、百代以上に続く継承で人間の血に薄められすぎて、今じゃ一般人との区別などほとんど無い。星華よう。そもそもお前が考えている火魅子候補なんて特別な人間自体、もうこの時代には一人も残ってないぞ」
「なんであんたがそんなことを言えるのよ! 亜衣、何とか言ってやって!」

「……」
「亜衣!」
 今度こそ容赦しかねるといった風の星華。九峪は困ったようにため息を付いた後、懐から勾玉を一つ取り出した。

「確かに俺は真偽は知らないな。聞いた話だ。だが、本人の口から聞かされれば、納得出来るだろう」

 そう言って、勾玉を宙に放り投げた。


 放物線を描いて、評定の間中央に落ちる勾玉――


 板敷きの床にぶつかり、刎ねた瞬間目を覆うほどの発光。


 ごっ


 何かがぶつかったような鈍い衝撃音。

 光が止む。
 
 部屋の中央には涙目で頭を抑えた、金髪の美女が蹲っていた。













追記:
 ごめんなさい。寝ぼけて書いていたので前に考えたステキな設定を忘れていました。火魅子候補最後の一人は音羽じゃなくて柚子妃です柚子妃。全く何やってるんでしょうね。このまま音羽で押し通しても良かったけど、話の都合上柚子妃の方がまとまると思うので柚子妃に修正しました。内容は殆ど変わってません。音羽が柚子妃になっただけです。では音羽の出番はというと………………(オレシラネ

 こほん。そんなわけで修正しました。上書きしても良かったんですが、後で混乱されると困るので両方残しておきますが、今回出した方が本物です。
【2006/06/18 17:43】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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