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出雲盛衰記52
 出雲盛衰記
 五十二章



 天魔鏡の置いてある神の遣いの間。
 そこでは外の状況など知らされず、ただ小心者の神の遣いが女の身体に溺れていた。
 否、彼も薄々ではあるが、城内にはびこる不穏な空気を感じ取っている。だからこそ、それから目を背けるために人の熱を求めるのだ。

「失礼します」
 聞きたくもない怜悧な声に、神の遣いは不機嫌そうな顔になる。神の遣いはこの復興軍の要とも言える軍師、亜衣が嫌いだった。
 一方では神の遣いを立てるような態度を取りながら、実際には何一つ期待せず、見下してすらいる。だが、それを見返してやろうという気概も浮かばない。切れ長の双眸に見つめられただけで、母親に叱られる子供のように射すくめられてしまうのが常だった。

「……なんだ、亜衣」
「お取り込み中申し訳ありません。天魔鏡をお貸し頂きたい」
 形だけ下げられた頭に、神の遣いは苛立った。持っていきたければ勝手にすればいい。どうせ自分に決定権など無いのだから。

「勝手にしろ」
 神の遣いはだから思った通りの事を口にした。
 同時に天魔鏡の鏡面が仄かに輝き、天魔鏡の精であるキョウが姿を見せた。

「……どうしたのさ、亜衣」
 キョウはどこか元気が無い。おそらくは既に分かっているのだろう。

「詳しい話は後で。では、失礼します」
 そう言って恭しく天魔鏡を手に取ると、退室していった。
 それを見送ってから、神の遣いは大仰にため息を吐く。

「――様。どうなされました?」
「ああ、いや、別に」
 まとわりついてくる女の身体を抱き寄せる。胸に顔を沈め、その柔らかい感触に脳の奥が痺れ、ざわついていた心が静まっていく。
 女はその頭を愛らしく撫でていた。



 亜衣と衣緒が評定の間に戻ると、何故か星華と姫御子しかいなかった。
 星華は部屋を出て行く前と変わらず沈んでおり、姫御子は鼻歌を歌いながら床机の上になにがしかの陣を造っている。
 それは緻密な式で描かれた陣が幾層にも重なった、複雑な層状の立体陣だ。

 方術師である亜衣はその陣を見て肌が泡立つのを感じた。態度の端々にどうにも隠せない間抜けさが漂う姫御子だったが、その陣を構成出来るだけで当人がただ者ではないことを再確認させられる。
「姫御子様。天魔鏡をお持ちしました」
「ありがとう、こっちに持ってきて」

 振り向きもせずに答える姫御子。亜衣はおそるおそる近づいて姫御子に天魔鏡を差し出す。
「よし、と」
 陣を完成させて嬉しそうに微笑むと、すぐさま亜衣から天魔鏡をひったくる。
 そしてまじまじとそれを見つめる。
「ん~。キョウちゃんは? 入ってないわね」
「キョウ様でしたらそちらに……」

 亜衣の視線を追いかければ、衣緒の陰に隠れて様子をうかがっているキョウの姿が……

 姫御子は笑顔で手招きする。キョウもいくら耶麻台国内で神器として偉い立場にあるとはいえ、姫御子はそもそも造物主。逆らえるわけもなく近づく。
「あ、あの~」
「久しぶりだね。キョウちゃん。ちゃんと生き残っててくれて嬉しいよ」
「うん。オイラもまた姫御子に敢えて、う、嬉しいよ」
 何故かどもるキョウ。

「そう? 嬉しいこと言ってくれるわね」
 笑顔のまま姫御子の腕が素早くキョウを捕らえる。
「でも、キョウちゃんもう少しなんとかならなかったかしら? 貴方には色々と知識を与えてるんだから、耶麻台国滅亡なんてするはずは無かったんだけどなぁ? ねぇ、どこか壊れた?」
「え、あの、それは……」
「まぁ、いいや。今から天魔鏡を解放するから、さっさと本体に戻って」
「う、うん」
 哀愁の籠もった背中を向けながら、鏡へと戻るキョウ。

 姫御子は準備万端と言うことで鏡を先ほど形成した陣の中に放り込む。

「さてと、私の可愛い子供はどこかなぁ~」
 まるで歯車のようになっている陣をくるくると回すと、全体が発光して天井に映像が浮かび上がる。

「おお、これは……」
 感嘆の声を上げる亜衣。姫御子の陣は、キョウが本来持つ火魅子の血を持つものの波長を探し出す機能を、数千倍に拡張したものだ。場所はおろか健康状態から実際の映像まで確認出来る。
「ん~と、この子か。取り敢えず一人目」
 雑然とした兵士の中で、せわしなく指揮を執っている女の姿が映っている。

「嘘……」
 星華が絶望的な声で呟いた。

「藤那様……?」
 衣緒も驚いている。

「あら、知り合い? まぁ、そう言うこともあるでしょうね。私の血を濃く継いでいるなら、耶麻台国の為に頑張るはずだし、復興軍か再興軍に加わっていないはずはないもの」
「……」
 沈黙する星華。その胸中には、どす黒い感情が渦巻いている。
 姫御子はそんな事には気づかずに、次の火魅子候補の走査を行う。

 切り替わって映し出されたのは、山人の格好をした伊万里。
 また切り替わり、今度は天目の横に立つ志野。

 キョウがはったりで言ったはずの火魅子候補。その実、彼女達は本物で……。

「もう、終わりかな? 三人か。まぁ、十分でしょう」
 姫御子は満足げに頷き、走査を止めようと手を伸ばした瞬間、また別の映像が映し出された。

 浅黒い肌の女のそばに立つ、雪のような肌をした少女。
 先ほどまでとは違い、明らかにこの場にいる人間ではない。

「誰でしょう……。なんというか、お姫様みたいだけど」
 困ってしまう姫御子。
「おそらくですが、都督にいる彩花紫王女ではないでしょうか。面識はありませんので推測でしかありませんが」
「都督って、狗根国のと言うことか。まぁ、確かにあちらにも私の血族がいておかしくはないけど」

「…………よ」
 考え込む姫御子の向かい側で、星華が何事か呟く。

「ん? どうかしました?」
「……で……じゃないのよ」
 俯いたまま、その身体からありったけの怨念を放出して……

「なんで私だけ火魅子候補じゃないのよ!!」

 叫んだ。


 その顔はまるで般若の面のよう。
 同じ火魅子候補として立てられ、自分だけが本物だと持ち上げられていた。
 それが本当であると露ほども疑わず、王族であり、火魅子になるべき人間であるという自尊心で、自分自信を作り上げてきた。
 それが、全て逆だった。

 偽者だったはずの者達が全て本物で、本物だったはずの自分一人、のけ者にされた。

 踊らされていた。
 生まれてからずっと。
 利用され、そして現実だと思ってきたものが全て幻想だったと突き付けられた絶望と憎悪。

 その場にいた亜衣と衣緒が怯むほど、星華は怒り狂っていた。

 火魅子候補に選ばれた藤那と伊万里と志野に。
 十数年間自分を騙し続けてきた、亜衣と衣緒に。
 そして、偽りと知りながら火魅子候補に立てていた、天魔鏡に……


「あああああああああああああああああああっ!!」

  喉から血が出そうな叫びを上げ、ありったけの力をつぎ込んで、全てを焼き払うべく、言霊を紡いだ。

 自分は何も間違っていない。

 私は火魅子候補だ。

 そうでない現実など、消えてしまえ――と。


「星華様!」
 反射的に、だろう。衣緒が危険と悟って星華に飛びかかっていた。
 このまま方術を使わせれば、この部屋にいるものどころか、周辺ごと吹き飛ばされそうな巨大な力。

 止めなければ、死ぬ。

 自分も、姉も、そして星華本人も。

 そこに打算はない。十数年共に育ってきたもう一人の姉のような存在に対する、純粋な想い。

 火魅子候補でないと知っても、無くなることのない大切なつながり。

 衣緒はそれを知っている。知っているから、命を投げ出してまで、止めに入った。

 どのみち星華の詠唱は早すぎる。このままでは、止める前に全て終わる。

 衣緒が、次の瞬間の事を思って目を硬く瞑った、その瞬間。

「仲良きことはすばらしきかな」
 呆れるほど脳天気な言葉。
 同時に放たれた不可視の何か。

「あ――……」

 星華は意識を失い、その場に崩れ落ちた。

「星華様!」
 駆け寄る衣緒。

 必至で星華を揺する衣緒を見つめながら、姫御子は星華に向けていた手を下ろした。

「姫御子様。ありがとうございます」
 亜衣が恭しく頭を下げた。

「いえいえ、巻き込まれたら大変ですもの。それより九峪君はどこに行ったのかしら」
「さぁ。必要なら探させますが」
「あ、分からないならいいわ。自分で探すから。多分、その方が早いし」
 姫御子はそう言って、用済みの天魔鏡を亜衣に投げ返す。

 亜衣はそれを無造作に取ってもう一度頭を下げた。



 そんな一触即発の事態があった中、九峪は川辺城の厨(くりや)でご飯を食べていた。
「いやぁ、朝飯喰ってなかったからさ」
 一方ご飯を用意した柚子妃はあきれかえっている。

「ふぅ。別に構わないですけど。変なところで会いますね。九峪様」
 柚子妃は命の恩人を変な目で見つめる。
「驚いたのはこっちだ。近くに天目がいるんだから、俺がいるのは別に不自然じゃないだろう。お前こそ帖佐はどうしたんだよ」
「帖佐様の指示で潜入任務です。復興軍に狗根国が支援している裏を取るためにですけど」
「ほう。さすが帖佐。そつがないね。と言うことは、これはやはり誰かの独断と言うことか」

「ご想像の通りだと思いますよ。まぁ、調べるところはあらかた調べましたから、後は最後の仕上げを待つばかりです」
「助かるよ。いざとなったら蛇蝎にまた頼まなきゃならないかと思ってたからな」
「あのじじいにですか? 物好きな事ですね」
「ふん。使える奴だというのも確かなんだよ。見返りが大概法外なのがアレだが」
 柚子妃はまた小さくため息を吐くと、九峪が食べ終わったのを見て食器を下げる。

「で、これからどうするんです? 姫御子なんて隠し球を連れてきて、積極的に再興軍にでも加わるつもりですか?」
「まさか。どのみちここでの戦も九割方終わってるんだ。後は――」
 九峪は途中で言葉を切ると、勝手口の方に向き直る。

 そこには長い黒髪の女が、胸元をはだけたような格好で立っていた。

 その女の姿を見て、九峪の顔がかつて無いほどに強ばる。

「あれ、貴方は確か神の遣いの愛妾の……」
「……愛妾? あいつが? んな馬鹿な」

 九峪は素早く周囲を見回し、逃げ場を探す。
 女はそんな九峪を楽しげに見つめ、囁くように九峪の台詞の続きを口にする。

「後は――、狗根国の増援をどうにかするだけ、であろう? 手伝おうか?」

 九峪は掠れる声で返答した。



「遠慮しておこう、蛇蝎」













追記:
 ぎゃー! 蛇蝎が、蛇蝎が、女になっとるーーーっ!
 って、やった本人が叫ぶな! いつもじじいじじいと言われていますが、あそこまで枯れてると実際性別なんて判断しようが無いと思うんだけどなぁ、と言う思いつきから女になりました。まぁ、漫画版だとあからさまに男でその上日魅子の父親ですけどね(汗 まぁ、いいんです。
 それにしても連日更新して暇なのか作者は? 暇なのかも知れませんね。ええ、暇はいいことです。なら本サイトの方も更新しろって話なんですが、盛衰記を終わらせるまでしないかも。なんとも言えないなぁ、そこは。


 アトガキ終了で、web拍手のお返事。
 一件目。

11:17 五十章読んだ時の違和感つっかえがようやくわかった
 といただきました。
 ええと、これは柚子妃の事ですね。音羽だと今回の話とかと全く繋がらない上、多分台詞も無かったでしょうから、柚子妃で良かったんだなぁとしみじみ思います。全然別の事だったらごめんなさい。
 コメントありがとうございました。

 二件目三件目。

18:33 DL版の名前が抜けてる話は断頭台のオリジナルの話のことです。ややこしくてすみません。とりあえず三界行
18:34 は全部読みました。面白いです。これからこーるどぶるー読んでみます。
 といただきました。
 え~と、なんか作者勘違いしてたようですね。こちらこそごめんなさい。名前が抜けてる原因は、多分WORDの交換性の無さにあるんだとおもいます。始めの名前が抜けるのは、それがルビふってあるからで、バージョンが違ったりすると消えちゃうのでしょう。対策は次のweb拍手で来ていましたのでそれを参照にして頂ければ。ま、断頭台の方にも書いときましたが。
 で、三界行。ルビふったのが全滅しているとすると、難しい漢字ばかりなので絶望感がヒシヒシと……。ノリで読んでくれればいいんですが、普通に読めない名前の人ばっかりでごめんなさい。でも難しい漢字使うのはそれはそれで楽しいものなのですけど……自重します。
 OLSシリーズはまぁ、かる~く読んでくれると嬉しいです。色々と不完全な部分が多いですし。
 コメントありがとうございました。

 四件目五件目六件目。

20:42 本人じゃないですが、オリジナルのDL版のwordファイルはofficeを持ってない場合、
20:43 WORDPADで開くとキャラクターや地名など一部の漢字が表示されませんです。
20:44 でもWord Viewer 2003を落とせば読めました~。
といただきました。
 対策ありがとうございます。と言うことですので、word2003が入っていない人は上述の奴を落として下さい。しかし、wordの交換性の無さには辟易ですねぇ。今度テキスト文書に全部代えようかなぁ、と思案中です。
 コメントありがとうございました。

 七件目八件目九件目。

21:39 いつも火魅子伝のSSばかり見てましたが今回、オリジナルの方を読んでみました。と言ってもOLSシリーズ
21:40 と千人殺し、檻の中ですけど。どれも主人公ひねくれてて良かったです。て言うか今、気づいたんですけど
21:41 本質・実力はともかく主人公キャラが表面的には戯言シリーズのいーちゃんっぽいの多いですねw
 といただきました。
 オリジナルを読まれたようで、ありがとうございます。主人公がひねくれているのは作者の性格がひねくれているからなのでしょうか。いえ、そんなことはない。大自然の中(ド田舎)でまっすぐ純粋に育ったのが作者という人間です。……ごめんなさい嘘です。何処で育ってもひねくれる奴はひねくれるんです。
 そしてツッコミありがとうございます。西尾氏の作品は好き嫌いを別にして書き手としてかな~り影響を受けてますし、読んでいた時期と書いていた時期がもろに重なってますから、ひっぱられちゃってるんですよねぇ。まぁ、他人の作風真似ると書きやすいというのもあるし。自分の特色出したいなぁとも思うんですが、なかなか難しいですね。
 コメントありがとうございました。

 他にも叩いてくれた皆様に絶大なる感謝を!
 それと、匿名でコメントくれた方がおりまして、晒していいものか迷ったのでお返事だけ。貴方のコメントでテンションが上がって一気に書き上げることができました。ありがとうございます。


 では本日はこの辺でヾ( ̄◇ ̄)ノ)) バイバイ


【2006/06/20 17:42】 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(1) | page top↑
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コメント
GOODです!!!
星華、可哀想ですが、今まで行った事を考えれば、文句言えませんね。
これでは、九峪も、香蘭を火魅子にできませんね・・・・・多分。
柚子妃の潜入捜査。 
帖佐は誰の命令(願い)で、柚子妃に潜入捜査をさせているのか?
あるいは、自分の判断?
蛇蝎が美女、最高です。 蛇蝎の思惑は? あるいは、暇つぶし(笑)?

コメントの場所は、ここでいいのでしょうか?
【2006/06/20 22:25】 URL | アレクサエル #-[ 編集] | page top↑
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